困窮していた村
私は隣に泊まっていた宿泊者の話を聞いて得た情報を元に例の村に到着した。
前来た時よりも確かに雰囲気が暗く感じる。村人にもどこか表情に生気が見られない。
こんな所で果たして商売なんかできるのだろうか?
私は周りから見たら泥棒のイメージを与えるであろう大風呂敷を抱えウロウロとしていた。
すると村の入口に近い若い男性がこちらを見て近づいて来た。
「あ、あなたは誰ですか?」
「あ、私は怪しい者ではありません。私はセールスマン……じゃなかった。この村で薬草と聖水が足りないと聞いてやってきました。ぜひこちらの村の協力をしたいのです。」
そう男性に伝えると彼はこちらの方を注意深く見つめて来たがその大風呂敷を見てひとまず理解したのか少しだけ心を開いてくれた。
「そうですか……確かにこの村では薬草と聖水が足りません。分かってはいるとは思われますがこの村は戦争に巻き込まれて以来、いつ暴徒に襲われるか分からない状況にいます。薬草があればもしケガ人が出た時に非常に重宝しますし、教会の儀式に必要な聖水があれば信者を増やして一同で神に祈る事もできます。」
その青年は安心したような笑みを浮かべた。
「そういう事ならこちらからもお願いしたいくらいです。ぜひこの村を助けてください。お願いします!!」
「そうですね、まずこの村の長老にお会いください。詳しい話はそこで致しましょう。」
……しめた!と私は内面、満面の笑みを浮かべて高値で吹っ掛けて感謝された後でこの村でしばらくお世話になろうと思ったのだった。
私と青年は村のそこそこ立派に見える小屋のような場所へと向かった。私は商売人のオーラを放出させる。
「長老!喜ばしいニュースです!やはり神はおられたのです。」
すると長老と思われし人物がこちらを振り向き青年に対して静かに話しかける。
「なんだね……ジェロニモ、騒々しい。何か良い事でもあったのかな。」
「はい!この人はなんと薬草と聖水を大量に持っていてそれでわざわざ遠い街からやってきて、なんとこの村に寄付してくれるそうなのです!」
「旅の方……そうなのですか?確かにこの村には薬草と聖水が足りず、満足に神にも祈れずケガをした村人の治療もできないという燦燦たる有り様。もしそれらを寄付してくれるようなら大変助かります。」
「何もお礼はできないのですが、それでも本当にそれらを頂く事ができるのでしょうか?」
……私はそこでひとまず思考が停止した。あれ?この展開はおかしいぞ。普通の感覚なら薬草と聖水が足りないなら買取であって寄付される事ではない。この村はそんなに貧乏なのか?
「し、失礼ですがこの村に金品の蓄えは無いのですか?」
するとその長老は寂しそうに言った。
「は、はい。申し訳ないのですがこの村には金品のようなものはもう……お分かりだとは思いますが昨今近くの領内で戦争が始まってしまい、上納と称して折角作った米や資源になるようなものは全て持っていかれました……。そう、もう神に祈るしか私達に希望はないのです……。」
「そ、そうですか……。」
街に戻ろうかと思った……のだがこの人たちの哀れな姿を見てしまっては見捨てて帰るつもりがどうしても無くなってしまった。
どうしようか……もう少し慎重に話をするべきだった。初めから商談する気負いでなければこうして良心につけ込まれる、私は商人には向いていないのだろうか……。
……だがこの薬草と聖水を全部渡してしまえば私は明日から生活ができなくなる。なんとも困った事になった。
「か、代わりに……何かお返しできるものは全くありませんか?」
長老は私の目をじっと見つめた後、静かに話してくれた。
「この村の教会で村人全員の総力を挙げて洗礼式を行いあなたを神の子供と認めて祝福をするくらいしか……それが私達の真心を込めた財産なのです。……どうか引き受けて貰えませんでしょうか?」
……
アアアアー--!!