081
ビフレストの世界に住む人々は亜精族と呼ばれている。見た目は現実世界の人間と変わらないが、時々何もない場所に向かって顔を向け、見えもしない何者かと会話をしている。
亜精霊と人間の合いの子として産まれた亜精族は、亜精霊と意思疎通が可能でその力を借りる事が出来る。この力はプレイヤーである天使のスキルと同一であり、上位の亜精霊ともなれば一帯を焼き払うような力も発揮できるらしい。
まるで、あの悪魔のような力だ。いずれプレイヤーも使えるようになるだろう。教えてくれたNPCの神官は優しげな眼でそう言っていた。
その神官は先の戦争で出兵して死んでしまった。ビフレストではNPCが死ねばリポップなどしない。関連クエストは停止し、受注も出来ず、対応中のクエストは破棄される。そういうメッセージが表示されるらしい。
北の街に戻った私は、復興クエストを遂行しながら情報を集めていた。
「はは、じゃあ、何。戦争中に聖女に攫われて、悪魔だらけの南の街に置き去りにされたわけ」
小柄だが力持ちなノーム種の亜精族NPCは、そう言いながら私でも持つのに苦労するような柱を持ち上げた。
「いえ。目が覚めたら悪魔の死体と、笑顔の聖女が居まして」
そのまま悪魔の親玉を倒した事は誰にも明かしていない。あの戦闘でレベルアップした事も明かしていない。
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アネラ(28歳)
性別:女性
種族:天使
職業:魔術師
レベル:17
体力:34
魔力:51
物攻:7
魔攻:25
物防:3
魔防:4
信頼:7
性向:26
SP:13
状態:普通
スキル:剣術LV2、格闘術LV1、水魔法LV2、光魔法LV2、闇魔法LV2、気力制御LV1、魔力制御LV2、気配察知LV2、フリキア言語LV2
称号:ー
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気力制御という武術師が覚えるスキルを取得できるようになっていたので早々に取得する事にした。どうも物理的な攻防にボーナスが乗るらしい。数字に表れないので効果のほどは解らなかった。
「じゃあ、聖女が悪魔を倒したってのは本当・・・恐ろしい奴もいたもんですなぁ」
よっせ、と掛け声を一つ上げてNPCのノームは柱を運んでいった。立派な大黒柱に見えるのだが、小学生くらいの背丈でよく運べるものだ。まぁ、ゲームだし、その辺はご都合主義で考えよう。
北の街から兵が一気に消えた事で戦力が不足し、国王が亡くなった事で指揮系統が混乱し、魔物の襲撃を防げなかった。この辺りでは珍しく、レベル20帯のハングリーグリズリーという大きな熊が街に侵入して破壊したらしい。街中には血の跡と家屋の破壊痕が残っている。
私達は壊された家屋を修理し、NPC達は亡くなった人たちの埋葬を行っている。これでも南の国よりマシだ。
私が見てきた事を報告する為、あの大河を泳いで北の国に戻って来たが、既に聖女の口によって悪魔が討ち果たされた事が知れ渡っていた。
「おーい、アネラ。今日はこの辺で良いよ」
「はーい」
単純な運搬作業クエストを終えると、私は北の街のギルドに足を運んだ。通りは復興作業で誰も彼もが暗い顔をしている。笑顔で笑うプレイヤーの存在に違和感を感じるくらいだ。
◇◇
ギルドで報酬を受け取ろうと列に並び、受付嬢に報告をする。
【クエストのオーバークリアでSPを獲得しました。SP+1】
これは? と一瞬困惑したが、事前に掲示板で調べた事だと思い出した。依頼以上の成果を上げてクリアすると、クエストの報酬金額を受け取った際にSPも追加で貰える。
「どうも」
「明日もよろしくお願いしますね」
普段の無表情と違う営業スマイルを受け取りながらギルドに隣接した宿泊施設に足を運んだ。ここもギルド証を持っていれば無料で泊まれるし、南の街と同様にパッと見は独房だ。
特に文句は無い。ゲーム中で寝ている私は硬いベッドだろうと痛みは感じないし、部屋の中にある排便用の壺の悪臭も気にならないのだから。
明日は外で狩りに行こう。そう思いながら、硬い木製ベッドに横たわりログアウトした。
◇◇
ビフレストの世界は現実と異なり太陽が二つある。似たような白色の太陽と、ビフレスト独自の青い太陽だ。こっちは朝焼けと夕暮れが紫色になるだけで、あれがゲーム世界での「茜色の空」に該当するんだろう。
空の色が異なるだけで、景色はあんまり変わらない。世界の秘境画像で見たような牧歌的な景色が続き、ポツンと街が一つある。それが北の国だ。既に滅んだ南の国も同様だった。
呆気ない。亜精族とプレイヤーで賑わっていた街が、一日と経たず滅んでしまった。サブクエストで南の街の復興に向かったプレイヤーも居るが、それほど美味しいクエストじゃない。
ゲーム的にも私は興味が無かったので、食肉確保のクエストを受けて森に入っている。戦っている方が楽しい。
ウサギ、オオカミ、モグラ、コウモリ、時々クマ。ハングリーグリズリーは後退しながらライトショットを連発したら呆気なく倒せた。見掛け倒しだ。引き撃ちで粋がってる場合じゃないかもしれないが、こうしたアクション要素で楽しんでいた方が自分に合っている。
指輪に獲物を吸い込ませ、森を東に進んだ。このまま進むと遺跡があるらしい。そこのアンデッドが魔術師的には美味しいと聞いた。光魔法がプリセットされている職業だからだろう。これなら北の国からゲームを始めてくれたほうが楽だったかもしれない。
効率的にいかない部分に内心文句を言いながらも、私は今の状況を楽しんでいた。パーティを組もうかと思ったが止めた。
ソロの方が楽しそうだからだ。単純な理由。
そして指輪の事でアレコレ聞かれたくない。面倒な理由。
まったく。聖女に感謝しつつも、面倒な事をしてくれたと運営に愚痴りたい。あんなNPCが居るなら、別の手法で指輪のバージョンアップをしてくれるクエストがあるのかもしれない。
私は周囲のプレイヤーからの嫉妬を恐れて掲示板に書き込まなかった。これまでも情報を拾うだけだったし、書き込み方が分からないくらいに使用頻度も少ない。
まぁ、いいか。
カムフラージュに背中のリュックは膨らませているが、中身は衝撃吸収用の羽毛なので軽い。苦労して水鳥から千切った甲斐がある。
酷い? ゲームなのだから問題無い。千切ったら水鳥が消えて大量の羽毛をドロップするし。経験値にもなるだろう。レベルは上がって無いけど。
藪を木刀で打ち払いつつ森を進むと、開けた場所に湖が広がっていた。その中心に島があり、遺跡が鎮座していた。目的の場所だ。
既に湖の周辺で数人が狩りをしている。湖に棲むカエル、ヘビ、タコが相手のようだ。タコって淡水で大丈夫なのか? ゲームだし良いか。
試しにライトショットで数匹狩ってみたが、特に問題無かった。どれも肉が美味しいらしい。自分用に確保しておこうかな。
遠くに見えるプレイヤーの視線が幾つか気になったが、そのまま遺跡に入った。内部はボンヤリと明るく、足元を照らす映画館の非常灯のようなモノもユラユラと廊下を照らしてくれる。
湖の上に視えていたのは一部だけで、入って直ぐ下り階段を降りると随分長い廊下が現れた。
カチャカチャカチャ、と聞こえてくるのはスケルトンだろうか。ありきたりでありながらゲーム的で何やら期待してしまう。イイ経験値になってくれればいいのだが。
徘徊していると思しき三体のスケルトンは、下り階段から現れた私を見つけると走って近付いて来た。
「―――ライトショット。―――ライトショット。―――ライトショット」
ボシュン、と衝突音が聞こえるとそれぞれ一撃で倒せた。光属性が弱点だとしても余りに脆い。木刀の出番はないかもしれない。
からからと崩れた骨が光の塵となって消えると、錆びた剣が二本落ちていた。拾って握りしめ、型を試してみる。
重い。重すぎる。私には無理だな。金属製ならば精々がフェンシング用の刺突剣が限界だろうか。もしくはレイピアのような横薙ぎでも切れるような細剣かな。
気力制御を上げれば扱えるようになるだろうか? アイテム鑑定スキルは持っていないから、扱いに必要な下限ステータスが解らない。どうやらスキルも関係してくるらしいが、アイテム鑑定スキル持ち以外は手に持って使えるかどうかを感じてみるしかない。
ダンジョン産のアイテムなんかだと呪われている場合があるらしいけれど。
指輪に錆びた剣を入れて、足元の煌めきに気付いた。これが魔石ってやつだろうか? 赤いビー玉みたいなものが転がっている。
親指の先より小さい。一応、回収しておこう。そのまま奥まで進んでみたが、遺跡の奥には何もなかった。ただの失われた帝国の食糧保存庫だったようだ。干からびたスケルトンしか居なかった。残念。
◇◇
日が暮れる前に森を引き返して街に戻った。まだ復興は終わっていないが、大黒屋は平常運転だった。不思議な安心感がある。
「どうも」
「アネラさん。いらっしゃい」
「これ、買い取れます?」
クエスト対象アイテム以外をリュックから取り出すふりをして並べていく。魔石、皮、牙、熊の手などだ。
「いいね! 装備を熊シリーズにするかい?」
「お願いします」
いつものように肉串を食べながら待つと、目の前でピカピカと皮製装備品が出来上がっていく。見てるだけで面白い。自分でやろうとは思わないけど。
「これは・・・随分と重くなりますね」
「熊の皮だからね。ナックルガードに爪も付けておいたから、殴っても戦えるよ」
「一応、魔術師なんですが」
「木刀さしてる魔術師なんてアネラさんだけだよ」
「そうですかね?」
大鎌を振り回す魔術師とかアニメでいるじゃないか、と思ったが時期尚早だろう。そういう装備品が登場するまで我慢我慢。
「そういや、聖女って見ました? 最近、話題にも上がらないんですが」
「魔導書かい? 教会に行けば買えるらしいよ」
魔導書よりも彼女の動向が気になる。
「あ、いえ。まだお金も足りませんし」
「うちも取り扱いたいんだけど、競争が激しくてね。魔術師にレベル五までの魔導書が行き渡らない内は手を出さない方が良さそうなんですよね~」
「あ~・・・PKとか?」
大黒屋が頷く。値段的にも、身の安全の為にも、今の状況だと魔導書を持っているだけで厄介ごとに巻き込まれかねないか。
「あったらしい」
「嫌ですね。悪魔化が怖くないんでしょうか」
「そうそう変わらないと聞いたよ。少なくとも数人だけじゃ変化しないって噂ですからね。NPC殺しだと確実らしいけれど、悪魔化の条件について詳しくは判明していないらしいですね」
そうだろうか。あの時、両手剣でNPC兵士を惨殺していたプレイヤーは既に数十人を殺していたようだけど。個人の性向値にも依るのかもしれない。って、私が気にしても仕方ないか。暗殺者プレイをしたい訳じゃない。
「そうですか・・・あ、そのテントって貰えますか」
「まいどあり~」
折りたたみ型で現実にもありそうな、木組みの組み立て一人用テントを購入して「そういえばレベルが上がってないな」と思いながらギルドに納品してきた。SPは増えなかった。多めに集めてきたつもりだったのに。
◇◇
翌日、私は再び遺跡に入った。
テントを買ったのには理由がある。このビフレスト世界ではソロ野営なんて自殺行為だ。でも、あそこには安全地帯があった。
「ここだ。これも帝国の技術ってやつなのかな」
地面に刻まれた魔法文字が羅列し、私が魔法陣の中に入ると魔力が供給されるためか光り出す。そしてこの魔法陣の光の中には魔物が入ってこれない。
「どうして遺跡の中にこんなものがあるかは分からないけどね」
スケルトンたちが追ってきてもこの中に入って数秒待てば魔法陣は発動する。緊急避難所としても活用できる。ただ、ログアウトも出来てしまうので、寝ている所をプレイヤーに襲われたら終わりだと思っていた。
「そうですねぇ。私達が居るだけで発動するなら、帝国人も使わなきゃならない事態に陥っていたとかじゃないですかね!? あぁ、この魔法陣は僕に見つけられるために此処にあったのだっ!」
そう言って一人で興奮しているのは、自称遺跡ハンターの技巧師プレイヤーだ。彼がログアウトしている姿を見てテントを購入する決断をした。
どうも、この中であれば敵対行為は出来ないらしい。不思議な光で体が包まれて、ログアウト中に寝ているプレイヤーを守ってしまうからだ。これならPK対策にも安心だ。
ふふふ。
そして、ここで延々と骨を狩る事も出来るだろう。幸いなことに遺跡ハンター君の目論見が成功すれば、最奥から更に進む道が開くかもしれないと興奮していた。しばらく最奥付近で狩りを行い、ここで休むと言ったサイクルを続けてみよう。
ゲームでよくあるパターンなのだ。特定の魔物を何匹倒せば道が開く、そういったギミックはゲーム制作者側も設定しやすい。連続戦闘イベントのお作法みたいなものだ。
さぁさぁ、じっくり楽しもうじゃないか。街中の陰謀策謀クエストなんて私は知った事じゃない。こっちの方が面白い!!!
◇◇
ズゴォンッ、と重い音が廊下に拡がると、排気音と共にレンガの壁が左右に割れた。元々、隠し扉として活用していたのだろう。レンガ壁の一枚裏には真っ白な金属の壁がスライドして動いている。
「おほぉぉぉぉ! これだよぉ! ようこそ新たなる世界! 私の目が全てを見届けてあげるからぬぇ!」
ネットリと気色悪い叫び声を上げながら研究熱心なプレイヤーは奥に走っていった。
「おーい、迂闊に進「プシュン!」あ・・・」
未だ開き続けている扉の向こうは暗い。しかしキャラクターが倒れた時に発する白い燐光が通路を照らした。最後まで役に立ってくれた彼に心の内でお礼を言っておこう。
ああいうタイプは諦めない。ゲームの裏設定とかをゲームから離れている時間でも調べて楽しむタイプだ。きっと脳内で自己解説しながら遊んでいるのだろう。アレはアレで幸せそうだ。
私は設定よりもバトルに面白みを見出す人間なので、こういった罠を潜り抜けて魔物をバッタバッタと薙ぎ倒すほうが楽しい。一度はストーリーを見るけどね。見るけど、フーンと鼻ホジしながら流して終わる。
そのくせ感化されやすいので感動するシーンではしっかり泣いたりする面倒くさい奴だ。自分で言っているのだから世話ないな。
途中で拾った骨を投げると、動体感知なのか細くて赤い閃光が壁から壁へ横切る。レーザーとかではなく、曳光弾のようなものだろうか。モヤモヤした煙が残っているので、これは魔力の残滓だろう。このモヤモヤは魔力制御スキルを取っていないと視界に現れない奴だ。
もう一度骨を投げると同じ場所から同じ軌跡を辿って閃光が走ったので、匍匐前進で進んだ。背中に走った熱気が恐ろしい。普通さ、最初の街の近くでこんな罠を仕掛けないだろ? 運営は頭がおかしいのかもしれない。
「よっ、と」
立ち上がって少し歩くと、ガシャガシャと聞きなれた音より重い音が近付いて来る。長剣を右手に、左手をフリーに、頭からつま先まで鎧を。そんな姿の骨野郎が現れた。
「鎧着てるじゃん・・・」
やだ、しかもちょっと大きい。
「―――ライトショット!」
効いた。敵の体力ゲージは減ったけど、相手の魔力ゲージも少し減ったのは何かの防御スキルを使っているからだろうか?
近付かれる前に倒すのは厳しいかもしれない。木刀では倒せない。中身が骨なら投げれば砕けるか? 押し倒してみるかと構えて迎え撃ったが、横薙ぎに払われた剣で木刀が一瞬で切断されて切っ先が飛んで行った。良い剣もってんね!
二つになった木刀を無視して下半身にタックルすると、私の体に伝わったイメージは大木。これはヤバイ。
ゴッと背中に肘撃ちを食らい、体を横回転させて地面を転がった。息が詰まる。食らった瞬間に履き出た息を吸えない。こういう時は引かない。
転がりながら運よく近くに落ちていた木刀の切っ先を空いた手で拾い、五歩ほど離れた位置からチェンジアップボールのように優しく投げた。
カンッ
馬鹿め! それを剣で打ち払うとはな! 残った木刀の柄を顔の辺りに投げつけると、人間だった頃の癖なのか判らないが剣を持っていない手で顔面を庇った。
剣を持った右腕に飛びつく。相手の右肩に私の右足を乗せ、剣を掴んでいる手首を左脇に固めるように掴んだ。そのまま全身を右方向へ横回転させるように捻ると、体重移動で鎧骨がフラ付いて顔面から地面へと倒れ伏した。
私の右ひざが悲鳴を上げてダメージを負う。しかし、そのまま剣を握った鎧骨の肘を背筋を使って思いっきり伸ばした。
バキョッ!!
と、気持ちのいい音が響き渡り相手の剣が地面に転がる。あとはこのまま組み敷いたままで決めるだけだ。
「―――ライトショット」
魔石があるであろう頭部に後ろから手を当て、発動させる。兜が破裂して頭部が吹っ飛んだ。
【レベルが上がりました】
よし。
当てるべきところに当てればクリティカルも狙えるのかもしれない。7割近く残っていた鎧骨の体力が一発で砕け散った。
「はぁ・・・はっはっはっは・・・あ~、楽しい」
現実ではもう出来ない動き。現実ではもう不可能な感触。現実では見られない相手。どれもが最高だ。
私は今、ヴァーチャルの中で生を実感している。現実では実現できない殺し合いを演じている。且つてこんなにリアルなゲームがあっただろうか?
両親に感謝しないといけない。事故ってから初めて幸せだと感じた瞬間だった。余りの嬉しさに遺跡の奥地で大の字に寝転がって、そのまま余韻に浸ってしまった。
◇◇
火魔法・・・SP3消費。
風魔法・・・SP3消費。
地魔法・・・SP3消費。
罠感知・・・SP7消費。
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アネラ(28歳)
性別:女性
種族:天使
職業:魔術師
レベル:19
体力:38
魔力:57
物攻:7
魔攻:27
物防:3
魔防:4
信頼:8
性向:27
SP:2
状態:普通
スキル:剣術LV2、格闘術LV2、火魔法LV1、風魔法LV1、地魔法LV1、水魔法LV2、光魔法LV3、闇魔法LV2、気力制御LV1、魔力制御LV2、罠感知LV1、気配察知LV2、フリキア言語LV2
称号:ー
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SPを消費してスキルを取得した。光魔法と格闘術は道中で鎧骨を数匹倒したら上がっていたのかもしれない。もうちょっと頻繁にステータスを確認したほうが良いだろうか。
水と闇も使っているのだが、中々上がらない。なんなら水魔法が最も頻度が高いのに。職業適性で上がり易さがあるのかもしれない。
「で、休憩ポイントは無いと・・・」
どうするか。引くか、進むか。それが問題だ。もう深夜だ。世の中の社会人は殆どが就寝している時間だ。隠し部屋を探せば休憩ポイントは有るかもしれない。
だがマップスキルを持っていない私では、それらしいところは見当もつかないし、あの研究オタクのようにビフレスト世界の遺跡に詳しいわけでもない。このままテントで休むと、どこからともなく湧いた鎧骨に寝たまま殺されて北の街に死に戻り(デスルーラ)だ。
「それはちょっとな・・・デスペナルティで経験値減少やアイテムを落とすのは痛い」
デスペナ覚悟で少しだけログアウトするか? 考えながら壁に背を当てると、お約束のように回転した。横じゃなくて縦だけどな!!!
「って、あああああああああああああ!!!?」
しかも落とし穴とか下手すると即死―――。
◇◇
「熊装備、お願いします」
「まいどあり~」
北の街のギルド宿屋にリポップした私は、暫し呆然とした後、クエストの清算を行い大黒屋に来ていた。死に戻り(デスルーラ)ですが何か。熊装備も殆ど失ったよ。
肉串を頼んで頬張る。どんどん回復していく空腹ポイントを眺めていた。
悔しさはある。でも、キレ散らかすほどかというとソコまでじゃない。私が技巧師を連れて行かなかったのが悪いのだし、罠感知を覚えても何で気付かなかったんだという不満に爆発するつもりもない。
壁が回転した瞬間に反応したからね。スキルが未熟なだけだ。
くっそ。
「出来ましたよっと。おや、ご機嫌斜めのようで」
「いえ、色々と反省点が多かったので、それを考えていただけです。防具有難う御座います」
「うん。そろそろパーティを組んでも良いんじゃないかい?」
「ソロの方が性分に合ってるので」
「無理にとは言わないがね」
大黒屋が言うとおり、役割分担の為にパーティを組んでも良い。でもそれだと何か負けた気がする。
ゲームバランス的に問題無いのであれば、ソロでも良いじゃないか。実際、魔物には勝てているんだし。死因が罠だっただけだ。その罠も感知レベルを上げれば良い。うん。ソロで問題無い。
気分転換に熊狩りでもしよう。そう思って東門から街を出ようとしたときに、ふと声を掛けられた。小さい男の子プレイヤーだ。美少年だな。
「やぁ、済まんが、東の森に行くなら同行させてもらえんかな。ワシは始めたばっかりでの、レベルは五もあるぞ! 役に立つと思うが、どうかね」
何だこの爺口調のショタは。そう言うロールプレイか?
「良いですけど、行くならパーティを組まないといけないし、ギルドで専用のクエストを受けた方が良いですよ」
「それも問題無い! 受けられるものは全て受けてある!」
ドヤ顔でいう事ではない。受注した数が多ければ多い程、報告までにかかる時間が増える為、ギルド側としては良い顔をしないし、貰える報酬低下やオーバークリア報酬の獲得率が下がる。しかもパーティに一人でもそう言うキャラが居れば全員が影響を受けるという地雷扱いされている。
「という訳で、東の森以外のクエストは先に消化してはどうですか」
「分かった! では行こうかの!」
話聞け、爺。
「それ、私も手伝わないとダメ?」
「む? いかんのか?」
「まぁ、良いけど。暇だし。気分転換に出ようとしてただけですからね。ああ、あと私は魔術師のアネラと言います」
暗い気分を払えれば何でもいい。
「よっし! ワシは武術師のライエルという! で、パーティとはどうすれば良いんじゃ?」
其処からですか。
◇◇
ライエルはMMO事情に疎いというか、ゲームそのものに疎い感じだった。用語の説明をしながらウサギとプアウルフを狩り進めた。
「PKちゅうのは、要は人殺しが好きな奴らか!」
「え、ええ。そうですね」
現実にあてはめればそうなる。強盗殺人犯だからね。
「けったいな奴らじゃのう。良し! 見つけ次第ワシがぶん殴ってやるわい!
これでも天田・・・格闘家じゃからの!」
「リアル格闘家ですか」
「りある格闘家じゃな!」
はっはっは、と少年は言葉通りに飛び掛かる魔物を殴り飛ばした。これが近接
格闘系職業の力か。一撃じゃん。しかも延々と戦える。
羨ましい。
この人を遺跡に連れて行けば戦闘が楽になるか? いやレベルが足らない。
「いま何レベルになりました?」
「うん? ちょっと待っとれ。あー・・・ステータス! 七レベルじゃ!」
はえーよ。私が魔物を引き寄せて集めてるにしても早いよ。
「じゃあ、街に戻ってクエストの清算をしたら森に行きましょうか。まだ時間ありますか?」
「問題ないわい! どうせ暇じゃし!」
少しだけ不貞腐れたように少年は言う。実は本当に暇な御老人なのかと思った。凄まじい技量と言い、自然な喋り方と言い、それっぽい部分はある。見た目通りにわがままな子供にしか見えないけど。
◇◇
街に戻ってクエストを清算しつつ大黒屋で昼飯を摘まむ。この通りにも売店が増えたな。復興が進んで行くに連れてプレイヤーが手伝う事も少なくなり、彼らの中から技巧師が店を並べ始めている。
大黒屋の所でモグモグしながら、遺跡の次に行く場所を夢想していた。
「そういえば、ここから北側って誰も行かないんですよね。どうしてですか? 掲示板にも何も上がってないですし・・・」
「草原の向こうに湖があるらしいですよ。全員死に戻ったらしいですが」
並べた商品の追加をしながら大黒屋がポツリと言う。
「レベル帯が上過ぎるとかですか」
「というより、罠地帯だそうです。ゴーレムが現れたとも聞きましたね」
「罠にゴーレムですか・・・」
ゴーレムは未登場だ。一般的なゲームに出てくる魔物としては割とポピュラーで且つ大抵が強力。魔法が効かなかったり、頭の文字を削れば簡単に倒せたりとバリエーション豊かでもある。
罠があるとしたら・・・罠を誰が仕掛けているのか、という点が気になる。人か? 魔物か? 古典ダンジョン系ゲームで足元に罠を仕掛けまくる魔物が居たけれど、同様の魔物がビフレストにも出てくるのだろうか。だとしたら厄介だ。
「罠感知スキルで回避できないんですかね」
「どうもレベル五以下のスキルじゃ見つけられなかったらしいよ」
「完全に上位の狩場ってことですね。手も足も出ないか」
楽しそうな狩場ではある。しかし対策の取りようが無い狩場では面白くない。そういうのはタダのデスゾーンだ。狩れる事を前提として挑まないと狩りの計画を立てようが無い。
「あ。ルービックキューブって作れます?」
「え? ああ、作れない事も無いと思うけど、構造から調べないといけないから、スキルで作るんじゃなくてリアル技術で作らないとダメだね。時間が掛かるよ?」
「経験値稼ぎにもなるかもしれないし、お願いしていいですか。片手で収まるくらいの大きさが良いです」
「面白そうだ。受けましょう」
もしかしたら罠系統スキルの練習になるかもしれないし。モグモグしながら色々考えていると見た目詐欺の御老人が戻って来た。
「終わったぞ! ワシにも五本くれ!」
「まいどあり~」
両手に一本ずつ持つ少年と、それを見る私。この二人は周囲から見てどんな感じなのだろう? 色々と危険な匂いがする気がしたので一歩離れた。
「んあ? なんじゃ?」
「いや、何でもないです」
残りの一本を私が食べている間に、ライエルはなんと四本を食べきっていた。欠食児童か。
「それで、次は森じゃろ!」
「そうですね」
串を大黒屋の横にある筒に入れると、アルフが意外そうに私を見てきた。
「パーティを組まれたので?」
「ええ。暇なので気分転換に」
「なるほど」
「それでは」
多くを語ることなく大黒屋から離れ、東の門から出た。湖ならこっちにもあるし、暫くは遺跡攻略だな。
◇◇
レベルが低いから辛いかと思ったけど、全くそんな事は無かった。余計な心配だったらしい。
「ほーっ! むっ、はっ!」
私の目の前で熊が翻弄されている。ショタ爺は剛腕を躱しつつ攻撃を加えているが、一撃の威力が少ないために殆どダメージになっていない。
しかし、ダメージが入らない事が重要なのだそうだ。スキルの鍛錬に丁度いいため、ヒト型に近い二足歩行な熊のほうが格闘術の鍛錬に丁度いいと言う。
その為、私は熊以外の魔物を次々と乱獲している。弊害は殆ど進んでいない事か。遺跡に辿り着かずに街に帰る事になりそうだ。
「むっ、ぬっ、はっ!」
ショタ爺の掛け声を聞きながらパーティーステータスを弄る。どうやらレベル、HP、MP、状態異常などを一覧で確認できるらしい。本人の頭の上にもHPとMPが横棒でゲージ表示されているが、こうして数字で確認できるのは重要かもしれない。
他人の詳細ステータスは確認できないが、強化状態(buff)や弱化状態(debuff)を確認するのは重要な事だ。これらは本人の動きだけじゃ分からない。知らない間に毒や病気になっているかもしれないし、本人が気づいていない部分で弱化魔法を掛けられているかもしれない。
今の私じゃ、弱化魔法を解除できないけれど、ビフレストも往年のゲームよろしく解除魔法くらいあるだろうと思う。今後に期待だな。
ズダーン!
周囲の木々を揺らしながら熊が前のめりに倒れた。倒したらしい。微量だが少しずつ削れていたのは見ていたので、時間は掛かったがレベル七の武術師がレベル二十相当の魔物を一人で倒したのだ。凄いと思う。
「うむ!!! レベルアップじゃ!」
ショタ爺はレベル九に上がった。こうして彼は熊を狩り、私はそれ以外を瞬殺しながら森歩きをして本日は終了となった。
ギルドで清算をしているとショタ爺が見上げてくる。
「明日も良いかの?」
「・・・明日は遺跡に向かおうと思っていたのですが」
「なら連れてけ!」
「はぁ、相手は骨ですよ」
「ワシは一向に構わん!」
どこの中国拳法家だと思いながら了承した。随分と真っ直ぐな笑顔で見上げて来るので、悪い人じゃないのだろう。そう思いたい。
◇◇
いつもの牢屋、じゃない宿の天井が目に入る。むくりと起き上がると小さな窓から朝日が差し込んでいた。
分厚い木の扉を開けて廊下に出ると、何やら騒がしい。あっちはギルドのメインホールの方か。受付嬢がまた厄介なプレイヤーと揉めているのかもしれない。
欠伸を小さくしながら髪を整えつつ廊下を歩くと、直ぐにメインホールに辿り着いたお陰で雑音の渦中がどこにあるのかを知ることが出来た。
聖女だ。
ブルリと背筋が震えて、彼女の薄笑いを思い出す。あの時、優しくも酷薄な笑顔で私に語り掛けていた聖女らしからぬ聖女が、困惑した表情の受付嬢と話をしていた。
周囲の様子もおかしい。聖女は一人ではなく、騎士のような甲冑を着た何者かを十人近く侍らせている。宝石が幾つか散りばめられたローブを着た人間も数人居るようだ。
前回は見なかった姿が周囲を警戒しながら聖女を囲んでいる。聖女の護衛だろうか。いや、あの人は護衛なんて要るのか?
クエストの掲示板前に移動して内容を確認するふりをしながら、ショタ爺を待ちつつ様子を窺った。何か・・・聖女が受付嬢に要望を出しつつも、受け入れにくい内容に困っている感じだろうか。
受付嬢が誰かを呼びにカウンターを離れて行く。
聖女がそれを見届けると周囲を観察し始めた。まずっ。一瞬だが目が合った。急いで顔を逸らすと、斜め後方からコツコツと美しき恐怖の根源が近付いて来る。
声をかけて欲しいが恐ろしい。この感覚は初めて覚えるモノで誰かに説明しようとしても理解させられないだろう。恐ろしいけれど求めてしまう。あの聖女は触れ得ならざる者のような存在感を私に与えて来る。
「こんにちは、アネラさん」
ゆっくりと振り返り、そのご尊顔を視界に入れた。
「ど、どうも」
相変わらず震えるほど美しい。そして怖い。笑顔が怖く感じる人なんて現実でも会った事が無い。動物の笑顔というのは威嚇行動と言われているが、この人の笑顔はそれとも違う。闇色の笑顔だ。
「今日は、どうしてギルドにいらしたんですか?」
「ん~、王様が居なくなっちゃったじゃない? だから、纏め役として機能している誰かに会いたいのよね。アネラさんは丁度良い人とか知らない?」
王が不在の今、残った王家の幹部が辛うじて国の体裁を保っているに過ぎない。彼らも王の指示で動いていただけで、これからの事なんて何も考えていないかもしれない。
誰か一人くらいは新たな王になろうと画策している人がいるだろうけれど、それはきっとプレイヤーも同じだ。ルール無用と言っていいビフレストの中で建国する事が出来るかと言われれば、ご自由にどうぞと運営に言われるだろうと皆が考えている。
掲示板に新たに建てられた「建国スレ」が100スレッドを超えているのが良い証拠だ。興味はあるだろう。しかし、私は纏め役として動いている人間などプレイヤーにもNPCでも知らない。
「生憎とそういう事には疎いものでして」
「あら、そう?」
なら別の誰かに聞いてみるわ、と言い残して聖女は周囲のプレイヤーやNPCを捕まえに行った。
全身から力が抜けるのを感じた。だって、聖女の後ろに居る青ローブの老人の目が怖くて。何あの人、威圧感が半端じゃないんですけど。
戻って来た受付嬢と、お偉いさんっぽい人が聖女一行を別室に案内するまで彼らから目を離せなかった。初めて熊に遭遇した時よりも、悪魔と相対した時よりも、ずっとずっと恐ろしかった。
気配察知スキルのレベルが低いお陰で、ちょっと怖いくらいの感覚だったのかもしれない。これがもっと正確に彼らの力を推し量る力が私にあったとしたら、私はどうなっていたのだろうか。
想像も出来ない何かに圧し潰されていたかもしれない。
クエストを受注してカウンターから離れると、丁度ショタ爺がメインホールに入ってきたところだった。
「どうしたんじゃ、その顔は。やつれとるぞ!」
「・・・ちょっとね、疲れる事があったんですよ」
要領を得ないと言った顔のショタ爺に追加のクエストを受けさせてギルドを出た。こんな所、さっさと離れるに限る。
◇◇
熊と戯れるショタ爺を眺めながら森を進む。ずんずんと森を笑顔で進む十歳児の周囲を飛び回る不審者の女。街中なら一発でアウトだな。
ウルフを魔法で吹っ飛ばしてドロップを回収すると、目の前には遺跡を囲む湖が光を反射して煌めいていた。いい天気だ。私の心もこれくらい晴れていたらいいのに。
「あれが遺跡かの?」
「ええ。浅瀬から中心の島に渡りましょう」
「うむ!」
バシャバシャと浅瀬を進むとショタ爺が不意に飛び上がった。いや、足元の水蛇が絡まって打ち上げられた。
「ライトショット」
水面を飛沫と蛇の残骸が飛び散り、その上にショタ爺が落着して小波が広がる。尻から落ちて私を見ているショタ爺は何か不満げだ。助けたんですが何か。
「何じゃ今のは」
「水蛇が居たみたいですね。初めて見ました」
「むぅ」
ショタ爺は振り返りながらバシャッと不満げに片足を蹴ると進行方向に水が舞う。
「あっ」
その飛沫が対面から来た数人のプレイヤーに掛かった。数秒のにらみ合いの後に、ショタ爺と彼らが口論になった。
「だからスマヌを言っておるじゃろうが! 水が被ったくらいで賠償だのなんだのと器の小さい奴らじゃの!」
「「「んだと、このチビが!」」」
が、混沌とした場面というのは意識を持っていかれやすい。お互い相手への罵声に集中していた事も悪かったのだろう、不意に相手の先頭に立つ男の頭に一本の矢が刺さる。私から見て左側だ。
「このやるふぉっ」
右側頭部から左目に抜け出た矢は眼球を吹き飛ばしつつ彼を水面へと転ばせた。ショタ爺と彼らが矢が飛んできた方向に眼を向けると、私も気配察知を拡げた。
私から見て右側にも気配を感じて眼を向けつつバックステップすると同時に、口論相手の集団の一人の後頭部に矢が刺さった。それを飛び下がりつつ見て、私はショタ爺に叫んだ。
「このまま遺跡に走れ!!」
ニヤリと笑ったショタ爺が前に向き直りつつ全力で駆けだすと同時に、口論相手の最期の一人も後ろを振り向いて駆けだす。だが、その彼に向かって左側から矢が飛んでくる。最初に射った敵の二発目だ。
その矢は外れたが走る私達に向けて続いて矢が飛んでくる。バシャバシャと浅瀬を走るが、足が取られて最速には程遠い。
多少はレベルの上がった気配察知で殺気のようなモノを感じ取り、前方に飛び込み前転をして飛んでくる矢を回避する。だが狙いは私ではなく、口論相手だったらしい。前を走る男の右側頭部から矢が刺さっていた。
狙いは彼らか?
私達が岸にたどり着くと続いて矢が飛んでくる。だが、陸上を走る私達を捉える事は出来なかったらしい。そこまでレベルの高いPKではない事を喜ぶべきか。
遺跡に飛び込むように駆け込むと、入り口付近にいたプレイヤーたちに驚かれた。ショタ爺は言われるまでもなく遺跡内部の壁に背を寄せて入り口付近を窺った。私も同じようにして木刀で矢を弾く用意をする。
「・・・来ませんね」
「じゃのぉ」
ガツガツと両手のナックルガードをぶつけてヤル気を示すショタ爺は何故か笑っている。やけに楽しげだ。
「どうするんじゃ?」
「今から出て行っても不利でしょう? 奥に進みましょう」
「じゃな」
誰だかわからないが迷惑な事だ。でもそれを楽しめる私たちは、このゲームに向いているようだ。
◇◇
入り口付近に居た他のプレイヤーに適当な説明をして奥に進んだ。ショタ爺は罠の動体感知ビームに感動していたが、感動のツボが私とは違うらしい。うつ伏せになりながら、私はアレを躱すのが面倒で仕方ないと愚痴をこぼした。
何よりもスケルトンを殴り倒すのが楽しそうだった。お陰で私は後方支援役に専念できるが、ちょっとだけ物足りない。
「鎧と組み技で戦ったじゃと?」
「そうですよ」
「あれは木刀で倒せんじゃろ」
先程ショタ爺が倒した鎧骨の話になったので、私が最初に倒した奴の事を説明したら呆れられた。
「苦労して倒して、立派な剣が手に入ったのに重すぎて持てませんでしたよ」
「ぶはは! そりゃ残念じゃの!」
ショタ爺は物攻二、物防一、魔防一の割合でステータスを割り振っているらしい。足りない攻撃力は技術でカバーしているので、大抵は連打戦になる事が多い。ヒッティングファイターと言えばいいのか、柔術のような技は殆ど使っているのを見た事が無い。
「力が無いから接近戦は関節技が限界でしょうね」
「ならば木刀よりも防御系のナイフが良いんじゃないかの?」
あれか、ソードブレイカーみたいなやつか。あと十手とかもアリだな。
「戻ったら考えてみます」
「そうじゃの」
話しつつもショタ爺は踊るようにスケルトンを殴り倒す。途中報告でレベル十三に上がったと喜んでいた。余裕そうに見えるが、連続で湧き続ける部屋に籠もって既に三時間は経過している。
部屋で縦横無尽にショタ爺が暴れ、私が支援しつつドロップを回収する。どっちも慌ただしく動き回るので、これはこれで楽しい。
黒い煙が立ち上り、また次の鎧骨が湧いたかと思っていたら見慣れない奴が現れた。頭に黒い冠を被ったローブ姿のスケルトンだ。
「なんか変なのが出た! 魔法系かもしれない! 動き回って!」
「うむ!」
掲示板情報によると、魔物の使う魔法は軽い追尾性能を持っているらしい。予想通りに動き廻るショタ爺に多少のカーブを描いた黒い玉が迫る。
咄嗟にしゃがんだり進行方向を変えつつ、ショタ爺は魔法を躱し続けている。その隙に私がライトショットで冠骨を攻撃すると、五発くらいで倒せた。
「はー・・・アレでは近づけんの?」
「ですね」
オマケに魔法防御力が高い。LV三の光魔法で五発も必要だった。
「アネラ、お主、杖は持たんのか」
思わず顔をそむけた。
「今まで必要なかったし」
「アレは必要じゃと思うぞ?」
五発ですからね。
「それにPKと戦う事を考えれば、あれ以上の威力は必要じゃろ」
「言われてみればソレもありましたね」
杖か。仕込み杖って大黒屋で作れるんだろうか? 帰ったら聞いてみよう。
その後、遺跡内部の休憩魔法陣にテントを張って私たちはログアウトした。ショタ爺と一緒だがお互いにログアウト中は行動不能なので問題無い。中身が男とは言え、悪戯されたら怒る。
◇◇
ひと眠りしてログインすると、遺跡の休憩ポイントの周りに色々とデカい鱗美人が居た。そしてエルフ!彼女もデカい!何処とは言わない。更に巨漢の鱗美丈夫。彼もデカい!繰り返すが何処とは言わない。
他にも数人の取り巻きが居たが、集団の頭は鱗美人らしき人だった。ハスキーな声で周囲に指示を出しながら遺跡の調査をしている。
「お? 起きたかい。声も聞こえないし、触っても石みたいだったからどうしようかと思ったよ」
「えっと、私は狩りに来てるだけですが、あなた方は?」
「あたしらもギルドの依頼で狩りに来たついでさ。見た事の無い遺跡なんだ、調べりゃお宝が出てくるかもしれないだろ?」
男勝りに笑う鱗美人は狩りに来たと言うが、スケルトン相手では直ぐに飽きてしまったらしい。もっと強い相手を探しつつ奥に行く手段を探っているとか。
よく見ると例の設定大好きプレイヤーが参加していた。相変わらずネットリとした喋り方で興奮した声が聞こえてきている。
「面白い相手が見つかれば、いう事ないんだけどねぇ」
ペロリと唇を舐めた瞬間、口の中に見えたのは鋭い犬歯だった。チラリと視えた歯並びはヒトのそれと近い鱗美人だが、竜に近い種族のようだ。犬歯だけが鋼のような鈍い色をしていた。アレで噛みつかれたら骨ごと砕かれそうだ。
程なくして例のプレイヤーが発掘した道を彼らが進み、私達も付いていった。まぁ、相変わらず鎧骨がウロついて居ただけだったけど。
お決まりのように設定好きな例のプレイヤーが罠で即死すると、鱗美人たちが騒然とした。
「落ち着いて下さい。前回も死に戻っただけですので大丈夫です。彼は生きてますよ」
「どういうことだ!?」
NPCにデスルーラを説明するのにはどうすれば良いのか。少し悩んだ後で適当な言い訳をしておいた。
「あれは死を偽装しているのです。本人は街に転送されます」
「そんな事が出来るのか! とんでもないな」
意味合いは間違っていない。取り敢えず、同じ事はプレイヤーしか出来ないと言っておいた。皆、物欲しそうにしていたので。
「ぷれいやーってのはなんだ? 何かの魔法か?」
鱗美人が首をひねるとぼさぼさの髪がバサリと揺れる。髪の隙間から小さな角が見えた。やっぱり竜系統の種族なのだろうか。実装が楽しみだ。
「そう言う種族だと思ってください」
「種族特性か。なるほどな・・・」
実際、NPCに天使は居ないし、NPCが死んだらリポップしない事は確認済みだ。お陰で南の国にあった街にはNPCが居なくなったと掲示板で騒がれている。
例のプレイヤーが居なくなったので鱗美人達と共に帰路についた。あれ以上奥に行けば、新しい魔物が現れるかもしれない。そうしたら、また楽しくなる。
◇◇
帰りは鱗美人達の部隊と行動していたせいか、PKに襲われなかった。襲われなかっただけで襲う側になっただけなのだが。
「敵襲! 殺気をたんまり込めたお客さんだ! 森の肥料にしてやんな!!」
森の中に鱗美人の声が響く。が、私の気配察知には何も拾っていない。周囲の目線は左右に分かれている。また挟み撃ちらしい。
巨乳エルフが杖を構えて石づきを地面に突き刺すと、霧の触腕のようなモノが森の中に拡がっていった。周りのエルフ達も弓を構えて木々の枝に飛び乗っていく。素早い。
私とショタ爺は敵の位置すら把握する暇もないまま、遠方からの悲鳴を聞いて戦闘が終わってしまった。何が何やらだ。
「・・・どうなりました?」
「解らないか? まぁ、鍛えなよ。そのうち解るようになる」
「はぁ・・・」
強いとは思っていたが、ここまで圧倒的だと笑えて来る。敵勢力は光の塵になって消えたと話しているので、PKの連中で間違いないだろう。これだけ強いNPCは想定していなかっただろうな。圧倒的過ぎる。
その後も街に着くまで熊が瞬殺されたり、狼の頭を握りつぶしたりと、彼らの暴虐を眺めて過ごした。
「差があり過ぎて意味が分からんのぅ」
「ですね」
ショタ爺も苦笑いである。私はと言うと、隔絶した実力を持つ連中に囲まれて気が気じゃなかった。あの聖女の凶行を見た時ほどじゃないが、心胆寒からしめる人たちなのは違いないだろう。
あの怖い笑顔より比較的マシかもしれないけどね・・・。
◇◇
街に戻ると例の設定好きなプレイヤーが出迎えてくれた。もう一度連れて行けと煩かったが、本日は此処までだと断られている。何が彼をあそこまで突き動かすんだろう。私には理解できない。一つだけ共感できるのは、早く遺跡の奥に進みたいという点だけだ。
「どうも」
「いや~凄い連中と戻って来たね」
「何だか護衛されてしまいました。PKが全滅してましたよ」
「ああ、掲示板で見たよ。中々盛り上がってた」
大黒屋の言うとおり、PK連中の書き込みで掲示板が荒れていた。NPC強すぎだろと言う事で文句ばかりだ。
「それとコレを」
「なんだい?」
あれから数体の冠骨を倒したのだが、その内の一体が杖を落とした。これを大黒屋に加工してもらおうかと思う。
「仕込み杖ですか?」
「そうです。出来ますか?」
「金属は・・・ああ、それで錆びた剣や、真面な剣も一緒に?」
「そうです。ついでにソードブレイカーもオーダーしていいですか」
暫く大黒屋が杖を見ながら思案していると、座った姿勢から私を見上げた。
「出来るね。ただ、レベル四相当の武器だから費用が高いよ?」
「手持ちのアイテムで清算できませんか」
リュックから取り出すふりをしつつ、指輪からガシャガシャと私の取り分を出すと、大黒屋が慌てたようにそれらを拾いつつ数える。伊達に鎧骨を倒しまくっていない。剣、小手、鎧、兜、具足などがゴロゴロある。
「・・・良いね。ついでに鎧も更新しといたらどうだい? 弱いけど魔力の篭もった素材が多いから、これを使えば魔法使い用の鎧を作れるよ」
「足が出ると流石に無理ですよ」
「大丈夫。むしろ作らせてもらわないと、こっちが多く払い過ぎるから協力して欲しいくらいだ。赤字じゃ明日の営業に差し障るからね」
買い取り費用が嵩み過ぎて、製作料金を上乗せしないと大黒屋の赤字になるか。
「それじゃあ、お願いします」
「ワシもじゃ!」
「まいどあり!」
前に聞いた通り、これらの加工で大黒屋も得がある。大量の素材を加工する事で技巧師として経験値を得られるのだ。経験を積めばスキルレベルが上がり、更に上位の装備を作れるようになる。同じ素材でも作り手の違いが装備に反映される点はリアルと同じだ。
多少時間が掛かると言う事なのでギルドで清算をする。鱗美人が受付で担当者相手に叫んでいたが、スルーして早々に退散した。
そういえば鱗美女も聖女の関係者なのだろうか? 彼女はプレイヤーに対して理解があった。だとすれば、鱗美人は関係ないのかもしれない。関りがあるならば情報共有ぐらいされるだろう。
大黒屋の所に向かう為にギルドを出ると、目つきの鋭い連中に囲まれた。
「お前、あいつ等の弟子か?」
「・・・」
「答えろ」
状況から見てPK連中だろうか? 弓持ちが多い。ていうか普通に街の中に入ってくるじゃん。
弓が五人、ナイフが三人。ただ、私とショタ爺の前に姿を現しているのは三人だけだ。殆どが建物の陰に隠れて私達を狙っている。逆撃されたのが納得いかないようだ。
目の前には声をかけて来た弓持ちの男、私達の左右にナイフ持ちの男女。
ここで弟子ではないと言えばどうなるだろう。鱗美人達だけを狙うか? 逆に私達を狙う事に躊躇しなくなるかもしれない。
さて、今後プレイしていくに当たって、どっちが楽しいだろう?
ショタ爺に眼を向けて問いかけた。
「どっちが楽しいと思います?」
「ワシは一向に構わんぞ」
ニヤリと十歳児が嗤う。じゃあ、それで。
「弟子じゃないよ。いつでも襲っておいで」
「・・・後悔するなよ」
無表情に答えた弓持ちの男は左右の仲間に目配せをすると去っていった。監視は続いているのか、少し離れた所からナイフ持ちが一人尾行してくる。
「どうします?」
ショタ爺に聞きつつ後ろを指さす。
「このまま向かったら迷惑じゃろ」
「ですね」
二人で街中を駆け抜けて、尾行を振り切るように細い路地に進む。ショタ爺が先頭だ。ライトショットを発動可能状態で待機しつつ、尾行者の死角に入ると同時に木刀を抜く。
足元の石を複数握りしめて、曲がり角で身を隠しつつ進行方向に一定のタイミングで地面へ投げつける。
ジャッ、ジャッ、ジャッと石が砂利を散らしながら跳ねて行った。相手は気配察知持ちだろう。だが、気配察知は三十秒程度の間隔でしか動きを気取れない。あとは音や臭いで周囲を探るのがお決まりの行動パターンになる。
であれば、足音に似せた投石は十分に相手を釣る手段として使える可能性が高い。偶然私達が足を止めた直後に気配察知が発動したのなら運が悪かったと思おう。
曲がり角の死角に潜むショタ爺と、少し離れた場所に私が遠距離で潜む。
ザザザと砂を蹴る音が近付き、ナイフ持ちが曲がり角に入った。
「なぁっ!?」
相手はド素人だったらしい。ショタ爺の足払いを真面に食らって、地面とキスをした。ナイフを持った腕にライトショットを食らわせると、魔攻偏重の私の一撃が彼の右腕を爆散させた。威力ヤバい。
「ぎゃがっ」
痛みが激しく苦しんでいる所を見ると、感覚百パーセントでプレイしているのだろうか。木刀の柄で首の後ろを殴りつけると動かなくなった。気絶判定で行動不能になったらしい。
指輪から縄を出し、両足を縛り付けてそれを後ろ手に結んで余った縄を首に括り付ける。首が締まって苦しそうだったので緩めた。殺すと性向が一気に下がるからね。気を付けねば。
「どこで覚えたんじゃ」
「・・・元自衛官なので」
訓練中に事故ったけど。
「なるほどのぅ」
何がなるほどなのだろうか。普通の自衛官はこんな技術を覚えない。趣味のキャンプで扱いに慣れてるくらいだ。テントに結ぶときとか、解けないように縛らないといけないからね。
爆散した腕は止血して衛兵の所に連れて行った。性向値が少しだけ上がったようだ。だが、これが原因でPK連中から完全に目を付けられ始めたのは言うまでもない。
◇◇
船長が船に戻ると護衛の魔導師長達も帰還してきた。街にはアネキチームが探索のメインを張っている。鳥人族の仙人も空から探索を続けているし、船長の探索用ゴーレムも順調に散布されている。
こちらに到着して数日が過ぎた時点で、船長が大暴れするとは思わなかったけれど。楽しそうな顔を見ると引き留めにくい。
「やはり世界樹の防壁は破れそうにないですね」
「そうね。魔神メギアのお仲間を倒さないとダメかもしれないわね」
私と船長の言葉にそれぞれの代表が唸る。竜船の支援があればすぐ終わるかもしれないのだけれど、大陸の中心部に延びる世界樹らしきモノは空から近づくことを許さない。
「一定高度まで達すると攻撃される。それは変わらぬ」
「構わないわよ。急ぐ理由も無いし」
鳥人族の仙人である蒼羽さんも、世界樹を目視確認しただけで進展は無い。まぁ、厳密には世界樹じゃなかったらしいのだけれど。
「要は種子をバラ撒かれなければ良い訳だし」
カチャリと船長が紅茶を飲む。船長だけは船内に設置した転移門で王国と行き来出来る。私を含めて他の人は膨大な魔力を充填出来ないので、そんな神様みたいな真似は出来ない。
「進入路は如何ですか?」
「それらしいものはまだ見つからないねぇ。本当に帝国の遺跡と繋がってるのかい?」
アネキさんの疑問の声に応答するように、またカチャリとティーカップが鳴る。
「ユベアラちゃんも言ってたじゃない。この辺りの地下の反応から、その可能性が高いって。探せばきっと見つかるわよ」
「ぷれいやー?とか言う連中に頼るのは問題無いんだろ?」
ドラグ族のアネキさんが喋ると周囲の護衛騎士が殺気を放つのは何とかならないのだろうか。一々、気が散る。
「何か面白い事でもあった?」
「死んだぷれいやー?が街に戻ったら復活してたぜ」
「ああ、やっぱり。彼らって街が無くなったら、死んだときに何処に復活するのかしらね」
「言われて見りゃ不思議だな。まぁ、蘇生すること自体不思議だけどな」
「聖女の遺物でしょうか?」
魔導士長が口を挟む。彼にとっては気になる情報だろう。聖女魔法、いや神癒魔法ならば蘇生も可能なのだから。
「いや、違うぜ爺さん。種族特性らしい」
「なんと?」
クスクスと二人の遣り取りをみて船長が笑う。
「ある意味では種族特性かしらね。ふふふ・・・」
またカチャリとティーカップが鳴る。
「ここは彼らの遊技場なのよ。死んでも蘇る遊技場。だから南部王国も遊び感覚で滅ぼせる。北部王国もいつまで持つのかしらね」
「船長、それは一体・・・」
私が質問すると船長は笑みを深めた。
「ふふ。面白い場所ね、ユベアラちゃん」
「はぁ・・・」
船長は私を見て微笑むだけだった。結局、ぷれいやー?については慎重に関わるようにと魔導士長が宣言しただけで、何故復活するかについては良く解らないままだった。




