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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
81/97

078

 世界樹の攻略は大きく分けて三手に分かれる事になった。


 一つがメギアを狙う私とブランママ、ギルマス、ハイネさん、ブラウ、シャルル。


 一つが世界樹内の地上掃討役にレオンと護衛三人衆、ユベアラちゃんに加えて五百体の竜気ゴーレム達に守らせる。地下攻略を狙う蒼羽、シルバ、ルネちゃん、シージ、ディーネ、フラン、イルシャちゃん、コニーちゃん。こちらは激戦が予想されるが、フランは既に闘気制御レベル8に達する上に、蒼羽という最強の護衛、錬金術まで扱い出したイルシャちゃんが居る。


 最後に、大森林外縁部の防衛線にアル、悪魔執事と悪魔侍女、そして竜船を操る老魔導士長やノールさんを始めとした最高位魔導士達が魔物達を出迎える。彼らに加えて、西部メルトラと北部魔導議会と東部首長連邦の最高戦力が私のゴーレム兵装を携えて森の外の戦列に加わっている。


 レオンとアルはどうあっても死なせられない。この国は世界の柱になろうとしている。本番は全てが終わった後なのだから、必死で生き残りなさいと二人をぶん殴って説得した。


 勿論、私も死ぬつもりは毛頭ない。ただ、一人だけ想いが異なる人が居た。


「よぉ、ユリア」


「あら、老けたわねギルマス」


 前より皺が増えた。幾ら闘気で若さを保っていると言っても、流石に限界だろう。もう寿命も近い筈だ。仙気使いや膨大な魔力を持つ魔導師とは違う。それらに比べて闘気使いは、それほど寿命は延びない。90歳を超えているのだから当然か。


「お前、アルが即位したら暇だろ。俺が死んだ後でギルドマスターをやってくれ。詳細はこれに書いてある」


 受け取ったのは遺書だった。


「そんなに戦いの中で死にたいわけ?」


「当たり前だ」


 それだけ言うとギルマスは竜船の座席に戻っていった。調子が狂う。いつものように笑ってくれなかった。そして軽い言葉だ。なのに、この遺書は随分と重く感じる。


 願いだけ受け取っておこう。ギルマスをやるかどうかは分からないけど。腕輪のアイテムボックスに受け取った物を入れ、私は竜船の操縦席の後ろに立ち構えて言い放った。


「出航!!!」


 次々と四艘の竜船が浮かび上がり、空を進む。再び目指そう。空を押さえつけるような枝葉を拡げる世界樹の元へ。



 ◇◇



 魔神メギアの反撃は予想されたものだ。なので目の前から飛んでくる大量の熱線砲は想定の内であり、進行方向の大森林が跡形もなくなっているのは予想の範疇である。


「い、一応、あの森は大事な資源なんだが・・・」


 レオンがそう言う。


「世界の破滅を防ぐ代価よ」


 私がそう返す。シージが居れば再生できるし。森の生物には申し訳ないが犠牲になって貰ったけど。


 前方に見えるすべてに対してディストーショナルレインを放った結果がコレだ。以前と違って威力が可笑しい事になっている。


 真龍とかも居たけれど問題無い。全て回収済みだ。後でじっくり養子を増やすとしよう!!


「主、目標が見えてきました」


 屹立する世界の壁。大いなる大樹、世界樹。その正体は魔神メギアの城。キリシアは中心を世界塔と名付けた。SFの軌道エレベータそのものであり、世界樹内部から見た異様は神の塔だ。


「第二段階に移行する!各員は配置につけ!」


 ブラウの報告を聞いたレオンが魔導通信機へ向けて指令を出す。私はハッチから外部に出て戦いの準備を始めた。気圧調整の排気音を聞きながら右手の腕輪を摩る。


「初お披露目かしらね?」


 腕輪型アイテムボックスから出したのは一つ。巨大な魔導合金の球体だ。その球体に対して「囁きの声」を使い宙に浮かせる。


 私が触れると鈍く光る球体は形を変えて、私を飲み込んでいく。球体の中の空間に入り、空色の輝きが全身を覆う。ドラグスーツが足元に拡がり、球体の金属と接続されていった。


「ガイアモード機動」


 キーワードを言うと金属の球体は球体である事を止め、その姿は空色の輝きと共に人型の巨大なドラゴンへと姿を変えた。巨大竜人は背中の羽根を拡げると空中を滑るように移動し、ブラウが操る竜船の前へと陣取る。世界樹は既にわずか数十キロ先にまで近付いている。


「ああ・・・無機生命体だからか・・・魂を感じる。霊気制御でいけるかな」


 返事は無いけれど、魔導金属生命体の霊気は感じる。これだ。これが生命波動だ。これを感じられるようになるまで随分と掛かった。そしてこれを扱う術が――――。


「波動術」


 霊気とは即ち魂の力。波動とは魂の力と生命力の流動。波動術とは他者との共鳴術。他者と力を合わせる事が出来る、他者との繋がりが力となるスキル。


 そしてこの霊気波動は空間魔法との親和性が高い。更に空間魔法は竜気とも親和性が高い。霊気と竜気の「つなぎ」に最適な力と言える。


 気力は闘気へと昇華し、闘気は魔力と合わさり仙気となる。仙気は神癒魔法の魔力と融合し竜気となり、竜気は霊気と繋がる事で霊気波動となる。


 こうして作り上げた力が、私が身に纏う魔導金属を触媒として最大化される。


「牙をし、地をみ、空を断つ。世の清明を照らし身を焦がす」


 空色の光が紫色に変わり全身を覆う。


「我が名はユリアネージュ=バエス=エステラード」


 紫色の輝きが魔導金属の巨竜人を覆い、右手に集約していく。


「聖名の元に大いなるキリシアの裁きを与え、我が力と成せ」


 魔刻紋が巨大な竜人の体表に現れ、突き出した右手の先の魔法陣へ集約していく。そうして発動したのは、且つて世界樹を叩き切った剣を超えたナニカだ。


 紫色の光が炎のように揺らめき、僅かに湾曲して伸びる。現れたのは刀。竜船すら一刀両断出来るほどの大きさとなって天に伸びた。


 刀の形こそしているが間違いなく魔法だ。詠唱と魔刻紋と魔法陣で補助してなんとか発動したが、莫大なMPを消耗している。四千万あった魔力が半分以下ってどういう事ですかね。


 天歩の要領で巨体が空を走り、刀だけで数キロはある間合いに世界樹が入る前に、地面から大量の闇の帯と金属の棘が黒く燃えながら襲い掛かって来た。


 闇の帯は紅い稲妻を纏い、金属の棘は触手のようにうねりながら赤熱して私を捕えようとしてくる。


「遅い」


 自分の体と同等か、それ以上の精度と速度で刀を振るい、周囲の帯と棘が消滅していく。再生するかと思ったが、それまでだったらしい。どうやら魔法の構成すら破壊してしまったようだ。霊剣術の効果か?


 後方から竜船の援護射撃が来る、側面から次々と同じものが湧き出てきているのだろう。それらを後方に置き去りにして無視し、さらに一歩踏み込む。


 一気に世界樹に近付き、四度切り裂いた。


 ズルリと壁がズレて菱形の巨大な切れ込みが現れる。余りに巨大すぎて落下速度が遅く見えるが、一辺が十キロメートル以上ある菱形の木材だ。数キロ先から見える動きとしては恐ろしく速いのではないだろうか。


 ゆっくりと大森林跡地に落着した壁が倒れ込み、粉塵が巻き上がって周囲の地面がブレて見える。作戦通りにブラウとシャルルの船だけ内部に侵入し、シージとディーネの船は老魔導師長とノールさんが操縦して世界樹の外で魔物討伐を行ってもらう。


 レオンはブラウの船の中だが、アルはシージの船の中だ。レオンは内部の魔物掃除担当を行い、退路を確保してもらう。


 薄暗い世界樹の内部で火龍召喚の元素魔法を使用した。光魔法を融合発動した合成魔法なので、灯代わりにもなる掃除役だ。


「・・・あれ?」


 紫色の火龍が燃えて暴れてるんですが。あれは大丈夫だろうか? しかも怪しく眩い光だ。紫の不気味な光を纏いながら、例の寄生魔物達を襲撃しているが、問題無いだろう。追加で数十匹作っておいた。


「レオン、後お願いね」


 魔導通信で声を掛けると、温かい声が返って来た。


「ああ、気をつけてな」


 巨大竜人の内部にブランママたちを乗せて中心点へ向かった。今もエレベータが動いていると良いのだけれど。



 ◇◇



「ユリア・・・・・・・フランたちは地下への侵入経路を探せ! 我らは地上へ降りて掃除だ! 遅れるなよ!」


「「「はっ!」」」


 コイツらも私が幼いころから護衛をしているのだから長いな。今では聖騎士として教会に所属しているが、立派な幹部になったというのに、わざわざ私に助力するために駆けつけてきてくれた。有難い。


「陛下、ノールが外に残ったのは残念ですね」


「あいつの方が大変じゃないか? まさか竜船の操船をすることになるとは思っておるまい」


「ははは!ノールならやりきってみせるでしょう。ノールですよ?」


「そうだな。ノールだからな。何も問題無い!」


 そうだろう、親友。



 ◇◇



 レオン兄、いや、陛下の地上部隊が展開し、次々と魔物が襲ってくる。世界樹の中特有の化け物だという話だが、想像以上に難敵だ。ユリア姉はよくこんな物を相手に生き残れたものだ。


「シル叔父! さっさと倒せ!」


 姪のフランが背中を見せながら叫ぶ。


「やかましい! フランは突出するな! 戦列が崩れて穴が出来るだろうが!」


「その穴もイルシャが防ぐ! コニーが見逃さない! 私も死なない! だから何も問題無い!!」


 この姪はどうしてこうなったのか、ユリア姉以上に猪突猛進じゃないか。いや、母さんに似たのか? という事は母さんは昔、こんな感じだったのか? 戦闘狂で誰かれ構わず喧嘩を売っていたという噂は真実味を増した。


「きぇあぁぁぁ!」


「消えろ!ブラックウィップ!!」


「イルシャ、左! フランの後ろは絶対に敵を侵入させないで!」


 フランたちが延々と大森林で狩りを続けていたという話は事実だったらしい。実家から持ち出したというドラゴンソード、ドラゴンスタッフ、ドラゴンボウを三人が完璧に扱い、次々と化け物を倒していく。


 この三人、確実に俺より強いよな?


 一体どれだけ長期間連続で森に潜っていたんだろうか。例の腕輪をコニーが身に着けている辺り、ハイネ姉さんや母さんの薫陶を受けつつ、装備を倉庫から引っ張り出したのだろう。


 ユリア姉の地下倉庫には飛んでもない装備品が転がっている宝物庫になっているので、迂闊に触る事は出来ないのだが、あの手の危険物はゴロゴロしている。熱線砲を発射する携行銃とかは真面目に実戦配備してくれないかと悩んだほどだ。


 アルは嫁の扱いに苦労しそうだ。イルシャ嬢を見てそう思った。


 見た目はとんでもない美人なんだけどな。まだ子供なのに。


 王太后様の実家の家系ってのは、ああいう女しか居ないのだろうか? 背筋が寒くなる美貌って本当にあるんだなぁ。


 ノール子爵の娘さんも可愛いんだが、あれじゃ嫁の貰い手が心配だな。いや、相手が誰だろうと器用にこなすかもしれない。普段から暴れ馬の姪を操っているからな。ノール子爵に似たのか。


とどめえええええ!」


 極めつけは我が姪のフラン王女。あの子は結婚の事とか考えずに生きて行きそうだ。強さのみを求める人生も良いけど、出来ればユリア姉に孫を見せてやって欲しいとも思う。子供好きだからな。


 おっと戦況が落ち着いたか。指示を出さないとな。


「小隊毎に纏まって移動する! このまま―――フランを終え! 周囲の捜索もしながらだ! コニーちゃん、済まんが手伝ってくれ!」


 姪のフランが遠くに発見した化け物に吶喊していった。


「うぉおおおおおおおおおおおおお!」


 すんげえ闘気だけど、あれ、何時まで持つんだ? とにかく追いかけよう、フランに死なれるとユリア姉が泣く!



 ◇◇



 結論から言うとエレベータは起動しなかった。魔導機の構成も確認したけれど、そもそも魔力が通らないようだ。


「どうするよ?」


 ギルマスが問う。


「下に行く」


「は?」


「下に箱が止まってるからね。ちょっと行ってくるよ」


 空間魔法で扉の先に入り、そのまま直下に落ちていった。エレベータは守り人たちも使用しているらしい。でも、以前に来た時に地下へ通じる地面は閉じていた。あの後で解放されたのだろう。誰がやったのか知らないけど。


 数百メートルくらい落ち続けると、真実の天瞳が暗闇の中に箱を見つけた。風魔法と天歩と土魔法の重力操作でフワリと足を付けると、一言囁く。


「起きろ」


 足元の箱が起動し、箱の隙間から明かりが見える。電源、じゃなくて魔力が通ったようだ。続いてもう一言囁いた。


「一階まで上がれ」


 グンッと箱が上昇し、数十秒もするとエレベータの所まで辿り着いた。箱の上からブランママたちの前に転移すると、フランたちが合流していた。塔の周辺はレオン達が制圧済みのようだ。


 ハイネさんがルネちゃんを叱咤している。フランはブランママに抱き着いていた。和やかだな。


「ただいま。守り人は地下よ。シルバ、先に行きなさい」


「あ、うん。そっちは?」


 上を見上げたけれど、変化は見られない。流石に高すぎて真実の天瞳でも確認できないか。変わりない事を確認してシルバに向き直った。


「後から行くわ」


 何故か弟が一歩、後退あとずさった。霊気のせいか?


「そ、そっか。よし。行くぞ!乗り込め!」


「おー!!!」


 フランが元気だ。レベル二百を超えているのは伊達ではない。アルの婚約者であるイルシャちゃんも同じくらいなんだけれど、アルはレベルで完敗しているな。終わったら鍛えよう。


 シルバは何か引き攣った笑顔で地下に降りて行った。何なんだ? そんなに威圧感を出していただろうか。暫くするとエレベータの箱が上がって来た。ブランママたちを振り返る。


「行こう」


「おっしゃ!」


「おおし!」


 師弟コンビが気合を入れて箱に乗り込んでいく。ハイネさんがボタンを押すとエレベータはゆっくりと上昇を始めた。


 再度の挑戦。そして最後の挑戦。


「ふぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・」


 地上に降りてからというもの、全身から紫色のオーラが迸っている。この状態になると魔神メギアの神気を感じなくなる。対抗手段としては正解なのだろうか? それとも、麻痺しているだけなのか。


「今度は逃げない。倒して見せる」


 ガラス張りで透けて見える上空を見ながら呟いた。静かに上昇する箱の中でやけに大きく私の声が響く。


 暫く上っているとブラウとシャルルが私の両手を握って来た。少しだけ震えている。


「主の傍なら怖くない」


「うん!怖くない!」


 二人とも上を見上げている。皆も、上を見上げていた。


 逃げ落ちた時とは逆に、少しずつ周囲の樹木が薄くなっていく。次第に木々の切れ目が出来るようになり、青空が覗き始めた。片一方は青く、反対方向は紅い。


 そのグラデーションを切り裂くように木々の切れ目が拡がり、やがて外の光が強くなってくる。箱の中を霊気で満たすとブランママたちの呻き声が聞こえなくなった。放射線まで防ぐのか。霊気とは一体なんだろう。


 視線が少しずつ下に動き、そして目の前に捉える。ガラスの向こう。魔神メギアは紅い太陽を見上げていた。横顔は変わらず私に似ており、足元には逃げる際に放った土魔さんが今も蠢いている。


 ガラス戸が開くと魔神メギアがこちらを向いた。


「やぁ」



 ◇◇


 あたしの横にはアル兄様の師匠である蒼羽さんと、叔父のシルバが立つ。従者であり親友であり仲間であるコニーとイルシャは後ろで緊張しているみたいだ。私達を囲むようにシージとディーネが武装の確認をしている。例のゴーレムは大きすぎて取り出せないらしい。ドラグスーツと両手のゴーレムハンドで竜気を迸らせている。


 ルネお姉ちゃんはハイネ先生の娘でシル叔父の奥さんだ。凄い魔法使いでもあるし、尊敬できるお姉ちゃんでもある。


 シージは何時も甘えさせてくれる竜機人の一人。でもディーネには厳しい。


 ディーネはいっつも悪さばかりするけれど、私と一緒に街に抜けだしたり、外に旅立つきっかけをくれた人だ。彼女も母様が生み出した竜機人の一人。


 エレベータという乗り物の箱が動くと、飛び降りた時よりも弱い浮遊感を感じた。数分だけ待つと甲高い音が鳴り、目の前のガラス扉が開く。家のガラスとよく似ている。


「参ろう」


 蒼羽が先陣を切った。その横にコニーが飛び出し、白い通路を照らす白い光の中を突き進む。走っているのにコニーは罠を見逃さない。それは古代遺跡の中でも同じだったし、地中族の拠点に潜った時も同じだった。あの虫の頭をした人たち、強かったな。


 コニーが右手を挙げて全員を止めると、腕輪から魔導具を取り出して素早く解除していく。いつもながら凄い。見た瞬間に何処をどうすれば破壊、解除できるのかを見極めてしまう。罠解除レベル10とか聞いた事がある。


 罠に関するスキルは複数ある。罠感知、罠解除、罠設置、罠製作。どれもコニーは必死になって覚えたし、移動中は走りながら罠を弄って作り出しているのも知っている。


 コニーが作った罠は全てが魔道具なので、イルシャと一緒に造った罠も多い。闇属性の罠が多いのはそのせいだ。


 不意に蒼羽とコニーが同時に飛び退いた。私達から十メートル程先行しているのでぶつかる事は無い。


「聞いてた奴!エルフのアリエス!あと赤い羽根の!」


 私とシル叔父がアリエスに、蒼羽が赤い羽根に突進した。事前に決めた通りだ。先制してコニーの矢がアリエスに向かい、ルネ姉の熱線砲が後追いする。イルシャの闇の帯が最も早く赤羽に纏わりついていた。相変わらず異常な発動速度だ。


「シャァァァ!!」


 シル叔父が気合を入れつつアリエスに切りかかる。私が挟み込むように剣を構えて回り込む。だが赤い稲光を纏った闇の帯が周囲に拡がる。私達の闘気剣がそれらを切り裂くが、バチバチうるさい闇帯の方が数で勝るらしい。


 三者の間を縫うように赤い閃光と闘気を纏った矢が何本も飛んでくる。アリエスは必死の形相でそれらを躱し、闇帯を犠牲に打ち払う。当然打ち払えば闇帯は消える。その分だけ私とシル叔父が優位に立てる。


「イ、イヒヒ!」


 気色悪い声を出しながら必死な形相で笑うアリエス。とても正気とは思えない。


「オラァ!!」


 シル叔父煩い。でも、有効打にはなったらしい、アリエスの視線がシル叔父に向いた瞬間、私の闘気剣が背を切り裂いた。シル叔父の闘気剣を闇帯で防いだのを最後に、アリエスの闇帯は極端に少なくなったようだ。


 膝をついたアリエスは私の方を睨もうとしつつ闇帯を出そうと魔力を練り始めている。だがもう遅い。


 アリエスの横顔にゆっくりと、コニーの矢が入っていくのが見えた。戦闘中は動体視力も認識力も闘気によって倍以上に上がる。そのせいか、アリエスの最期がハッキリと目に入った。


 矢が頭に入り込み切ると、衝撃でアリエスの頭が斜めに倒れ、流し切れなかった衝撃のせいで首が千切れていく。そのままアリエスの首は胴体から離れ、通路の進行方向に向かって飛んで行った。


 首のない死体を見たシル叔父は腰から抜き放ったナイフを突き立てて地面に縫い付ける。動くかもしれない。そう考えたのだろう。死体はビクリと反応し、もう動く事は無かった。


 蒼羽の方を見ると、あっちも終わってた。赤羽は四肢がぐちゃぐちゃに折れ曲がって、体中に穴が開いていた。仙人同士の戦いでは魔法は意味が無いって聞いた事がある。その結果だろう。


 傷跡を見ただけで凄まじい事が分かった。


「終わった?」


「然様」


 蒼羽は悔し気に赤羽を見下ろしていた。誰も、二人の関係については知らない。蒼羽が語ろうとしないし、聞いてもはぐらかされるのだという。母様も知らないと言うのだから、きっと首長連邦の人たちも知らないのだろう。


「全員怪我は無いな?」


「はい」


 シル叔父の問いにコニーが答える。


「行こう」


 今度はシル叔父とコニーが先頭を往く。蒼羽は心なしか元気が無い。


 ・・・大事な人だったのかもしれない。



 ◇◇



「もう駄目ね」


 モニターを見ながら呟くと、隣に立つ蟲人の執事服を着た仲間が頷く。


 彼は四人の守り人の一人。土の力を操る蟲人で、袖の無い執事服を何時も着ている。永い時を生きる過程で、彼は声を失ってしまった。今では精々呻き声を出す位だ。


 私達は長く行き過ぎて、それぞれ何かを失っている。


 私、リリーヴェールは年齢と愛しい人を。

 彼、蟲人のドラルは声と一族を。

 今、死んでしまったアリエスは希望と気力を。

 後、狂気に走ったガルバルシアは肉体と知恵を。


 私は方向性を失い生き続けるだけの人形になり、ドラルは失った一族の代わりに亜虫族と地中族を見守り続け、アリエスは狂気のまま暴走し続け、ガルバルシアは記憶と知識を覚えられなくなり魔導具に保存し続けた。


 それぞれが妄執に囚われて生き続けた。或いはそれが希望だったのならば、メギアを救えたかもしれない。メギアによく似たユリアが彼女を殺すだろう。そうなれば私達も生きる意味を失う。最初の願いも目的も失う。


 その願いも、メギアの頭の中から失われて久しい。


 私達はキリシア神の目的を知り、その手伝いをしたかった。でももう遅い。みんな目的を見失ってしまった。手段を失ってしまった。心を失ってしまった。手足を失ってしまった。


 涙も枯れた。


 嗚呼、ユリアの子が来る。私を殺しておくれ。終わらせておくれ。


 もう疲れた。



 ◇◇



「やぁ」


 魔神メギアが少し疲れたような、かすれた声で声をかけて来る。表情も疲弊しているのか暗い。それでも口元は薄く笑っている


「うん、また来たよ。今は安定しているのかな」


 以前の様な壊れた人形のような話し方はしていない。メギアがサリナスティアの様な存在ならば、魔神も誰かに造られたのかな。


「そうだね。ずっとこの子が傍にいてくれるから、退屈しないんだ。凄く楽しい」


 足元の土魔さんは今も魔神メギアの足を土に埋めるように取り込み、定期的に魔神の上半身に向けて棘を伸ばしている。魔神はそれを手で払うのが楽しいらしく、薄笑いしながら手で撫でつけるように棘を払っている。


 まるで猫じゃらしで遊ぶ猫だ。


「邪魔だったかな」


「ううん、遊び相手が増えるのはもっと嬉しい」


 霊気に守られたブランママたちが腰を落とす。霊気が闘気と融合し、ブランママたちの体から霊気があふれ出ているようにも見える。


 ブラウとシャルルはもっと顕著だ。竜気の代わりに霊気が全身を激しく流動している。二人を見てメギアが目を見開いた。


「あれ? 変だね。龍がいる。しかも変な龍だ。うふふ。せっかく作ったのに、全く役に立たないんだから。困るよね、うふふふ」


「作った・・・龍を作った?」


「そう、作ったよ。いっぱい作った。でも、どの子も言う事を聞いてくれなくて、もう作るのは止めちゃった」


 話をしながらステータスを確認してみたが、前回と大差ない。というか全く変わっていないのか? レベルが多少増えた気がするくらいだ。


「龍を作って何をさせるつもりだったの」


「いっぱい餌を取ってきてもらおうと思ったのに。それに遊び相手も探したかったから。でも、君が来たから、あれからずっと見てた」


 此処から見てたのか。覗き魔め。


「でもやっぱり、私が遊びたかったから。あの子達に頑張ってもらったんだ」


「守り人の事を言ってるの?」


「守り人?」


 違うのか? いや、あの四人の事を知らないとでもいう反応だ。


「ヒトのこと? いっぱいいる内の幾つかだよ。全然少ないけど、頑張ってもらったから、楽しいものも見れたし、美味しいものも届いた」


 魔神メギアが両手を上げて紅い太陽を見上げた。まるで歌劇の主役のようだ。言っている事は不明点が多いが、言葉の繋がりが依然と違って整っている。精神的に不安定じゃなくなった?


「それにほら、また美味しいのが来た」


 天瞳で確認するとレベルが一つ上がっていた。外縁部の戦いの結果か、それとも地下の・・・。


「止めなさい。人の庭で遊ばれると迷惑なのよ」


「なんで? 楽しいのに・・・じゃあ、さ」


 足元の土魔さんが不意に消滅した。そして足場の透明なパネルが魔神メギアのはるか後方まで広がっていった。パネルが遥か遠くで垂直に伸び、そして天井を形成していく。


「君が遊んで、餌になってよ」


 周囲が赤く照らされていく。魔神は両手を上げたまま、楽しげに笑顔を作る。心の底から楽しそうに、私と同じ顔で笑う。


 赤の王と聖書に書かれた太陽が降りて来る。天体を、太陽を操るのか。


 ブランママもブラウでさえも声が出せないようだ。さっきから作り続けているトンボゴーレムが霊気の外に出る度に消滅していく。そうか、まずはフィールドか。


「ブラウ、シャルル、お母さん、ハイネさん、ギルマス。私の体に触れて」


 無言で私の腕や肩を触れる仲間たち。


 霊気制御は他社の霊魂と波動術で共鳴する事でその本領を発揮する。何度もブラウとブランママで試しているから間違いない。


 そしてそれは人数が増えれば増えるほど、力の規模が大きく強くなっていく。触れた人の魂の力が大きければ大きい程、強ければ強い程、身にまとう霊力は莫大なものになっていく。


 足し算なんて簡単な増え方じゃない、掛け算でもない、乗算で倍々に増えていく。制御力を上げるためにドラグスーツを纏う。この服は微細なゴーレムの集合体でもある。ゴーレムの制御領域を借りて尚、フィールドを覆いつくすほどの霊力は出せない。


「楽しいね。心が躍るんだね。嬉しくなるね」


 魔神メギアが泣きそうな、嬉しそうな顔でそう言う。


「そのままで」


 小声で仲間たちに伝えると、腕輪から魔導金属の小型球体を取り出す。それを取り落とすと、私の足元に拡がった。


「また遊べるの? それ、楽しいよね。それじゃ、行くね? 楽しもうね!」


 音も無く魔人の体がブレると、天瞳がその姿をハッキリと捉える。だから使えるスキルもある。この為の進化だったのかとも思えるほどだ。


「苦」


 短く、そして素早く囁く。だが、その一言で私の精神力が一気に削られた。眩暈がしつつも目を逸らすことはしない。逸らせば終わりだ。


「ふぁぎっあっぅ」


 魔神は途中から失速して姿を現し、私の目の前で苦しみ始めた。それと同時に足元の魔導金属が私の霊気を纏いながら周囲を覆いつくしていく。


 追加で巨大球体を取り出すと、その球体にも囁いた。


「メギアを包め」


 霊気を纏った巨大球体はドロリとメギアを包み込んでいき、あっという間に取り込んでしまった。もう一息。


 魂が割れるような、感じた事の無い痛みを覚えながら霊気を制御した。


 巨大球体が上下に拡がり、そして内部から囚われた魔神メギアが現れた。顔は覆いつくされ、胴体が露出している。手足は魔導球体の流体金属によって囚われている。今もまだ苦しみから抜け出せないらしい。私も苦しい。


 もう少しだ。


「世の清明を照らし、業の罪科を照らす」


 碌に魔法制御も出来ないくらいに苦しい。詠唱が必要だ。両手を握るブラウとシャルルの手が暖かい。


「終焉の劫火を断ち切り、魂を断ち切り、力を断ち切る」


 早く終われ。気を失いそうだ。ブランママたちまで力尽きてしまう。


「我が名はユリアネージュ=バエス=エステラード」


 こんなにも私の力は足りないのか。いや、出来る。出来ると信じろ。正念場だぞユリアネージュ!


「大いなるキリシアの聖名の元に光在れ。―――ディストーショナルフィールド」


 紫と緑の帯が二重螺旋のようにメギアの足元から立ち上り、メギアの体を削り取っていく。


「―――――っ!!!――――っ!」


 流体金属で覆われた頭部から何かを訴える音が響く。ビリビリと空気が震え、私の額から流れ落ちた汗が空気中で蒸発していく。どうやら魔神メギアが抵抗する余波で色々と危険な空間になっているらしい。


 次第に周囲の魔導金属に罅が入り始め、魔神メギアの抵抗が強くなっていく。乾いた物が割れるように周囲の魔導金属に穴が開き始め、それを塞ごうと流体金属が蠢くが再生が間に合ってない。


「全員、攻撃、して」


 辛うじて発声できた事で周囲の仲間たちが霊気を纏ったまま遠距離攻撃を繰り出す。ブランママが聖剣術による斬撃を飛ばし、ギルマスは気拳を飛ばし、ハイネさんは紫色の熱線砲を発射していた。


 ブラウとシャルルは竜魔法で前方の視界を真紫に染め上げている。相変わらずエグイな竜魔法。


 最初にギルマスが遠距離攻撃を追随するように飛び出し、ブランママが追う。ブラウとシャルルも両手に装備したゴーレムハンドを構えて吶喊していく。


「――――っ!!」


「っ!!」


 光が、周囲に漂う力がみんなの声を掻き消す。


 ギルマスが殴りつけると、メギアの体に罅が入り、殴った腕が消失した。続いて残った片腕を叩きつけ消失し、最後に右足を蹴り入れるとメギアの片腕と脇腹を破壊した代わりに、ギルマスの足も消失した。


 ブランママがドラゴンソードで切りつける。切りつけたメギアの左胸と左腕に亀裂が入り、剣は消失した。ブランママが剣を失ったのに気づいたのは切り払ってメギアの後ろに抜けた後だった。


 ブラウがメギアの左腕を破壊し、ゴーレムアームごと腕を失った。


 シャルルがメギアの左胸を破壊し、やはり腕を失った。


 時間が永遠かと思う程引き延ばされ、仲間たちの攻撃が酷くゆっくりと視えた。メギアはそれらを食らいながらも二重らせんで体を失い、魔導金属で包んだ部分も粉々に砕けて消えていった。


 メギアの体が全て消えていく、その瞬間だった。ゆっくりだった世界がさらに遅くなり、目の前に真っ白な拳大の球体が現れる。球体を掴もうと手を伸ばすと、私の腕だけが素早く動き、白い光は私の手の中で小さくなって消えてしまった。


 ―――タノシ。


 何かの声が一瞬聞こえて、直ぐに消えた。遅くなった世界はその瞬間に元の速さに戻り、周囲は再び魔導金属で覆われていく。巨大球体の方は対象を見失って混乱している。


 魔神メギアは消えた。さっきのアレは何だったのだろう? 周囲を見渡しても私たち以外に何もいない。


 紅い視界は薄暗くなっていた。


「・・・・・復活しないみたいね」


 ハイネさんが呟く。そのようだ。前回のように延々と復活する事はなくなったらしい。


「終わった、のかぁ? ぐっ」


 ギルマスは満身創痍だが戦いは終わったようだ。神癒魔法を使う余裕は残っていない。


「何でユーリに似ていたんだ・・・?」


「さ、ぁ・・・何でだろう、ね?」


 まだ息苦しいせいで、ブランママの疑問に私は上手く答えられない。


「主?」


「あるじー?」


 ブラウとシャルルが私の両腕を掴んで離さない。感じた事の無い痛みは消えたが、無理に霊気を制御したせいか頭痛が酷い。あと全身が怠いし息苦しい。オマケに魔神が死んだのに足元の魔導金属がボロボロと崩れていく。ああ、作るの苦労したのに。


 巨大魔導金属だけ腕輪に収納すると、ブラウの竜機人ゴーレムを取り出す。


「ちょと、これに乗って、休んで、おく」


 限界だ。立っていられない。


 ブランママとブラウに担いでもらって足からゴーレムに乗り込む。力なく乗り込むと両足、尻、腹、両肩、おでことゴーレムに体重を預けて背中の搭乗口が閉じる。


 目の前の液晶画面にメッセージやステータスが表示され、ゴーレム自体の魔力を使いオートモードで動き出した。レオンが乗ってぶっ倒れた事を反省して追加した機能だ。戦えないけどね。あとは勝手に手足を動かしたりしてくれるから楽だ。


『あそこの噴水で端末を調べてみよう。メギアを倒した事で、何か変化があるかもしれない』


「そうね」


 ハイネさんが主導で調べてみたが、情報としては何も変わりなかった。そう言えば書き写した金属板はまだアルに見せていないな。この文字は私しか判別できないので、このパーティメンバだけだと私以外は意味不明だろう。


『・・・結界の停止とあるわね』


「結界って、前に言っていた大陸を覆う結界の事か?」


 ハイネさんが男言葉で問うてくる。子供たちが物心ついてからは止めたんじゃなかったのか。質問には「だと思う」としか返せない。


 そういえば、あの声は東に向かえと言っていたな。アレが誰なのか知らないけれど、お節介な事だ。こうなるのを見越していたとしか思えない。


「どうするのよ?」


 ハイネさんが更に問うてくる。何でも知ってる訳じゃないんだけどな。


『う~ん・・・』


 細かい作業を行うためのサブアームを伸ばし、キーボードをカタカタと動かす。


 後ろではブランママがギルマスの手当てをしている。闘気で止血しているけれど、私の魔力が足りない今、快癒の水しか回復手段が無いので、暫く我慢して欲しい。


 調査中。ハイネさんが画面を覗き込んで頭を捻る。


 調査中。ハイネさんが変遷する画面を見て溜息を吐く。


 調査中。ハイネさん諦める。


 ・・・・・・・・・・そう言えば、この塔が建造された当時には神様は居たのだろうか? 居たとしたら、この情報の端々に出てくる「神」とやらは誰なのだろう。結構な頻度で出てくるあたり、意味ありげなんだよな。


『ねぇ、ハイネさん。全ての情報ページに神って言葉が出て来るんだけど何か意味あるのかな』


 サブワームで画面を指さすけれど、ハイネさんは画面を見ても首を傾げるだけだ。


「暗号とかじゃない? 貴族家の秘密の帳簿とかなら普通にやるわよ」


『あー・・・・』


 益々アルに見せておけばよかったと思った。


 あの翻訳スキルは魔物の言葉まで理解できるし、古代遺跡の文字はスラスラ読めるし、蒼羽曰く謎解きが謎解きではなくなったらしいからね。


『神様に祈ってみたら?』


「御心のままにってやつ?」


 ハイネさんその顔は何だね? 老神官も信心深いとは言わないけど、少しはキリシアを信じても良いと思うよ?


『そうそう、聖女が試してしんぜよう!』


「偉そうに・・・」


 偉いからね! 王妃だからね!


『全ては女神キリシアの御心のままに』


 思ったけどゴツイ竜機人ゴーレムでダラッとしながらいう事じゃないよね。声だけそれっぽくしても意味が無いと思―――。


 ゴゥン!!ピピーッ、ピッ!


 は?


『マジで?』


「・・・・・」


 ハイネさんが胡乱な目で私を見ている。そんな目で見ないでもらえます!? 私が一番、この事態を疑ってるよ!


「ま、確かめてみればわかるんじゃないかい?」


 ブランママの言うとおりだ。


 表示された画面の内容には以下のように書かれていた。


『管理者権限の放棄を確認しました。

 新たに管理者を設定します。

 音声認識機能にて対象者を確認しました。

 対象者を

 ユリアネージュ=バエス=エステラード

 に設定しました。

 基本設定を変更しますか? Y/N 』


 おい。


 勝手に責任を擦り付けるのは良くないと思います。


 どうすんだよコレ・・・。


『えーと・・・取り敢えず、変更なしでお願いします』


 喋れば認識してくれるんだよね?『基本設定を維持しました』と表示された。


「ユーリ?」


 独り言を言い出した私を心配したブランママが声をかけて来た。


『あ、うん。なんかね、この塔の設定が変更されて、私の物になっちゃった。だから、今からどうなってるのか調べてみるね』


「は?」


 ハイネさんがアホみたいな声を出して首を傾げている。今は放っておこう。


『えーと、基本設定の表示』


『基本設定を表示します。


 結界設定:OFF

 防衛設定:ON

 基幹設定:ON

 転送設定:ON

 変動進化:OFF


 以上が基本設定です。

 詳細設定を確認する場合は項目を選択してください。

 ↑ ↓ ENTER 』


 変動進化って何・・・?

 あと転送ってどこに?


 一つ一つ選択して内容を調べてみると、出るわ出るわ世界の謎。そして殆どが理解不能な事が判明した。パーティメンバーに簡単に説明して見た。


 結界設定:大陸を侵食植物から守る為の結界を張るか否か。


 防衛設定:世界樹内部に居た化け物の事。


 基幹設定:天蓋の維持設定? 良く解らん。


 転送設定:他の塔に転送できるらしい。ここを合わせて12の塔がある。


 変動進化:環境に合わせて進化するらしい。何が?


 一通り確認すると、画面が勝手に切り替わり。一瞬だけ古代文字で「ありがとう」と表示された。


『ふー・・・・・』


 ゴーレム越しに私の溜息が聞こえたのか、全員が反応した。


「おう!どうなったんでぇ!?」


「ユーリ?」


「ちょっと大丈夫なの?このままここに居ていいわけ?」


「主?」


「あるじー?」


 礼は受け取っておくよキリシア。


 それより、私も現状が心配だわ。取り敢えず全部、紙にコピーして持って行こう。そして偉い人に判断を任せよう。あ、偉い人って私か。くそっ。未だに王権代理持ってるのは何でだよ! レオンは頭下げて来るし!


 些細な変化があるといけないので取り敢えず全頁をコピーして、と。結界設定も念のためにONにして、ついでに噴水の傍に転移ゲートを・・・お?


 振り返って周囲を見渡すと世界樹の幹が消えて無くなっていた。


『ねぇ、世界樹の根っこは?』


「え?」


「なんかあったかぁ?」


「そう言えば最初の時と比べて何か足りないね」


「「?」」


 ブラウとシャルルは良く解って無かった。


『世界樹、もしかして消えた?』


「そうなんじゃないか?」


 ハイネさん、シレっと言ってるけどヤバいよ。


『化け物が地上に漏れ出したかもしれない・・・』


「あっ!!!」


「あ、じゃないよ! 急いで防衛設定をOFFにしないと!」


「そんなのがあるのか!? 急げユリア! 全く何でそんなのがあるんだ!」


 私が管理者だけど私のせいじゃないし! 事故があった時の責任者みたいな事を考えながら急いで詳細設定をポチポチしていく。


『えーっと、これ、と、これ、と・・・これは必要だし、これ、と』


「早くしろユリア! 地上の外縁部隊はそんなに強くないぞ!!」


『し、静かにして!』


「良いから急げ!」


 急げ急げ! これじゃ私が文明破壊の黒幕みたいじゃないか! あんなのが地上に溢れたら絶滅必至だっての!!!


『それで! 現地の様子は・・・』


 天透と接続し、そこから中継してトンボゴーレム達に接続して、周囲の様子を・・・・・・・・・・・・・・・。


「どうなんだ?大丈夫なのかオイ!」


 うるせぇギルマス! ぶっとばすぞ! 片足で立つな! 器用過ぎるだろ!


『よし、大丈夫。設定変更して暫くしたら塔の周囲に固まり始めた。レオンとシルバに連絡しておくから相手する事も無くなると思うよ』


「よぉしっ!」


 竜機人ゴーレムの通信機能を天透やトンボゴーレムと中継して、魔導通信機やヘッドセットにつなげてこちらの状況を伝えた。大げさに喜びながら勝利を祝福されたわ。ま、それだけ心配されたって事だ。自分自身の無事を喜ぼう。


「・・・で、何で世界樹が消えてしまったんだい?」


 ギルマスとハイネさんが喜ぶ中、ブランママが透明な地面越しに地上を眺めながら呟いた。


『メギアが核だった、としか考えられないかな』


「そうか・・・じゃあ、東の方に世界樹が生えてきた事と関係あるのかい?」


『は?』


 うわ、嫌な予感する。東でしょ。


 ブランママが指さす方向。遥か東の方向にボンヤリと白くぼやけた大樹が見えた。大陸の地面は見えないのに真昼の月のように、ボンヤリと広葉樹っぽい白影が見えた。以前に見たような枯れ木じゃない。明らかに葉が生い茂った樹だ。


『はー・・・』


「あ、主!?」


「あるじ、大丈夫?」


 疲れた。マジ疲れた。後にしようよ。寝る。怖いから、寝る。



 ◇◇



 地上に戻ると守り人が二人、正座させられていた。二人の前にフランが仁王立ちして大剣を地面に突き刺して睨みつけている。あの剣、竜素材の剣だよね。見覚えあるなぁ。持ち出した? あ、杖と弓も? 良いけどさ。


 地上に降りてくる間に怠さが消えたのでゴーレムからは既に降りている。自分の足で進むと、塔の周辺には外壁に背を張り付けるようにバケモンたちが整列していた。整然とし過ぎて逆に気持ち悪い。


 ギルマスは脚だけ生やせた。両腕は神癒魔法でも再生出来なかった。たぶん・・・無理矢理に再生させると寿命で死ぬ。細胞分裂の限界点が近いんだろう。神癒魔法を発動すると無意識にギルマスの体が抵抗していた。


 私はフラ付く足で正座した二人に近付いた。ドラゴンロッドの支えが有難い。


「リリーヴェール」


「・・・」


 緑婆の横に正座しているのは、見覚えのない丸刈りの蟲マッチョだ。袖の無い黒の執事服を着ている。両腕は甲殻が外側に張り付き、内側が素人の様な筋肉が見えた。土の元素魔法で攻撃してきた相手であろうか。ステータスを見るとそのようだった。


「アリエスは?」


「死んだわ」


 本当に?


「隠すと為にならないよ?」


「本当よ。そこの女が切り殺したもの。彼が使役していた鳥人族も魔王化する前に死んだわ」


 フランを見るとサムズアップされた。私の真似をしているらしい。取り敢えず頭を撫でておいた。


「・・・魔神様は滅びたのかしら」


「力を借りているんじゃなかったの?」


 そのつながりで分かりそうなものだけれど。


「分からないのよ。勝手に与えられた能力だもの」


「なるほど・・・魂ごと消滅したわ。最後は楽しそうだったよ」


「ふっ・・・そう」


 蟲マッチョの方は魔神の最後を聞いて声を出さずにホロホロと泣き出してしまった。魔神との間に何があったのかは知らない。


 二人は大人しく連行されていった。


 フランに話を聞くと、エルフの守り人アリエスは自滅を厭わずに暴れて手が付けられなかったので、危険を顧みずに叩き切ったらしい。コニーちゃんが心配してマジ切れして説教していた。フラン、竜船の床は痛いだろうに。


 蟲マッチョは終止リリーヴェールを守るように戦っていたらしい。両手に土の魔法で金属のガントレットを作り出し続ける為、卓越した格闘術で鉄壁の防御だったそうな。


 リリーヴェールは私が来ると思っていたらしく、無抵抗だったと聞いた。緑婆は私に殺されたかったと発言していたらしい。


 ・・・・・そんなこと言うなよ。


 蟲マッチョと緑婆は次第に力を失うかもしれないと言っていた。最後の時は例の屋敷で過ごしたいと、審問をした後で私が二人を迷路屋敷に送っておいた。


 監視用に私そっくりのゴーレムを百体置いて行ったのだが、緑婆には引き攣った顔で「ありがとう」と言われてしまった。よせよ、照れるぜ!!



 ◇◇



「結局、守り人からは何も得られなかったか」


 レオンが城の大会議室で呟く。


「貴重な資料をたくさんもらったじゃない。魔法学院創設者が提供してくれたのよ? 歴史的遺物ヨ」


 その西部魔法学院は殆ど研究所になってしまいましたが。先の西部動乱からまだ立ち直ってない街が多すぎる。


「そうは言うがな・・・」


 オマケに王城の初期設計書まで貰っちゃったからね。どう見ても核シェルターだし、初代陛下の日記も英語表記だしで、間違いなく転生者です。ありがとうございます。


 アルに渡しておいた。塔で手に入った資料も一緒なので全て翻訳してくれるだろう。


「翻訳するまでも無いと思いますが」


 初代陛下の日記とか殆ど愚痴だからね。逆に翻訳しない方がマシと言える。


「それで・・・東の大陸と言ったな。どうなのだ?」


 御父様が若干ワクワクしながら聞いて来る。この人ついてくる気か? 先王陛下が未開の地に足を運ぶとか、心配されると思いますよ。


「今までは南方面に探索を続けていましたので、何とも言えません。塔の頂上から見た予想距離は世界樹らしき陰の大きさと、影の濃さを考えると・・・数万キロは離れていると思います」


 あと、それだけ離れてるのに大樹の白影が視えてしまうくらい惑星が巨大だと考えられるところが驚きだわ。地球の何倍の大きさなんだろう?


「流石にそれだけ離れていると、竜船で空を飛んでも数日は掛かります。ちょっと行ってくるような距離じゃないですよ」


 私がお父様に釘をさすと「むぅ」と唸りながら黙った。やっぱり行く気じゃないか!


「調査をして、せめて地形や文明の有無を判断してから向かってください。それくらいは事前にやりますから」


「あたしは行く!」


 フランが、いの一番に声を上げた。


「それは良いけれど、アルも連れて行くわよ」


「えー!? 兄さまは弱いからダメよ!」


 娘よ・・・隣でお兄ちゃんが泣いているぞ。あとお兄ちゃんは規格外に強い方だぞ。フランが強すぎるだけだからね。


「そういうことを自分を基準にして言わないの。アルも十分強いわよ」


「あたしに負ける癖に!」


 ああ、なるほど。大好きなお兄ちゃんが自分より弱いのが許せない訳だ。幼い頃は目標にしていた時期もあったからね。


 ニッコリとフランに笑みを返し。レオンに向き直った。


「という訳でアルを連れて、国家があった場合に備えて使者の役割をやってこようと思います。良いかしら?」


「んー、まぁユリアが一緒なら滅多な事は無いと思うが、本来の理由はアルを鍛える為だろう?」


「その通り」


「うぇ!? あ、いえ。本気ですか母様?」


 ちょっと素が出たな。


「いい機会だから、十台のうちに仕上げちゃおうと思ったのよね。十八歳から本気で仕上げるから、それまでにある程度まで鍛えちゃいましょうね」


「あたしも手伝う!」


「有難うフラン。コニーちゃんを無理させないようにね」


「大丈夫!コニーならどこまでもついてこれるわ!」


 それは大丈夫とは言わないのだよ、フラン。見なさい、貴方の後ろで涙を流すコニーちゃんを。


 視線を向けてもフランは気付いてくれなかったので諦めた。


「直ぐに出発する訳ではあるまい?」


「お父様の御心配には及びませんよ。一年くらいはフランを鍛え直しますから。アルを鍛えるのはその後です」


「なんで? あたしはお兄ちゃんより強いよ!」


「フランはお勉強を頑張りましょうね。社会勉強をね」


 力強く、且つ柔らかく頭を撫でると、フランは大人しく頷いた。ちょっと震えてたのは気のせいだと思いたい。



 ◇◇



 クアッドランの湖を望む地にリリーヴェールの迷路屋敷はある。あの時と同じようにリリーヴェールはテラスに置かれた白いテーブルを囲み、湖を眺めて鏡を見ていた。


「・・・来たのなら声くらいかけなさいよ」


「隣いい?」


「どうぞ」


 緑髪の美女の横に座り、袖の無い蟲マッチョ執事がお茶を淹れようとする。首長連邦にも虫人は居るけれど、顔のパーツが部分的に蟲になっているだけで、彼のように蟲そのものの頭をしている人は居ない。蒼羽からは族滅した種族だと聞いた。


「雰囲気だけで良いわよ」


「そうね」


「んぅ・・・」


 暫く湖を眺めていると、リリーヴェールが質問は不要とばかりに話を始めた。


「あの子、幸せだったのかしら」


「少なくとも楽しそうだったわ」


 マッチョ執事に無言で茶葉の入った箱を渡すと、箱を開けた彼は香りを確かめて笑顔になり、奥の水場でお湯を沸かし始めた。


「・・・はじめは真面だったのよ。みんな。あの子も、彼も」


 最後の一言だけ、視線をマッチョ執事の背中に向けたリリーヴェールは、寂しげに笑った。


「私だけが子供と大人を繰り返し、刺激を受け続けながら生きていた。だからかしらね。停滞する事の呪いを回避できた」


「停滞の呪い?」


「みたいなもの、ね」


 どういう事だろうか。


「人は長く生きられるようには作られていない。永く生きる者は精神構造にそれなりの特性を持っているわ。細かい事を気にしない所とかね」


 チラッと私を見るのは止めてもらいたい。


「あの子は孤独に耐えられなかった。あの狩人も、あの研究者も。執事も言葉を失ってしまった」


 もう何年も会話をしていない、とリリーヴェールは続ける。


「研究者は獣人を作り出すほどに生物研究にのめり込み、狂った。最後には自分の体を解体して、薬液付けになったわね。あなたが外に連れ出して死なせてしまったようだけれど・・・まぁ、自業自得ね」


 やはり獣人はアイツの副産物の系譜か。


「狩人は多くの国を乱した。北の聖者も、西の聖者も、彼のせいで闇に落とされてしまった。東でも何かやったかしら? 南は私の領域だったから手を出させなかったけれど」


「南の地下にあった研究所は?」


「あんなのは大陸中にあるわ。うんざりして邪魔する気にもならなかったわよ。私に迷惑を掛けないのであれば、わざわざ出向いたりしないもの」


「なるほど」


 カチャリと音がしたほうを向くと、銀のプレートに乗せたメルトラ産の紅茶を持ってマッチョ執事が近付いて来る。リリーヴェールの紅茶をそれと交換すると、彼女は鼻先で香りを楽しんだ。


「懐かしい香り・・・メルトラの紅茶ね」


「ええ。気に入ってるから、お土産に持ってきたわ」


「ありがとう。彼も喜んでいるわ」


 横を見るとマッチョ執事が浅く一礼して水場に戻っていった。少しだけ笑顔が見えた。


「あなた達は何のために・・・」


「そうね。何のためだったのかしらね。もう、永すぎて忘れてしまったわ」


「そう」


 きっと忘れてなどいない。ただ失っただけなんだろう。魔神メギア。私によく似た彼女はリリーたちにとってとても大切な人だったのではないだろうか。いや、まさか・・・。


「世界樹を彼女に取り憑かせたの?」


「・・・」


 爽やかな香りの紅茶をリリーは苦い顔で飲み干した。まだ熱いだろうに。涙を隠す為だろうか。


「まだ、熱かったわね・・・はぁ・・・」


 震えた声で言いつつ、口元をハンカチで拭くふりをして涙をぬぐう彼女を見て、何をしようとして、何を失敗したのかを悟った。


「全ての世界樹を滅ぼしたら、この世界はどうなるのかしらね」


「さぁ? やってみたらいいじゃない。それから判断するのも遅くは無いもの。失敗を恐れていたら何も出来ないわよ」


 どうやら世界は「直ちに危機的状況」では無いらしい。


「御助言、感謝します。大魔女様」


「ふんっ」


 礼だけ言うと、私は席を立ち、元居た位置まで歩いてゴーレムとの接続を断った。


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