077
暇な執務机の上には二枚の紙が置かれていた。
一枚は現教皇から「邪教徒狩り」のお誘い。
一枚は王都ネージュ学園から「講師依頼」のお誘い。
どっちを取るかは明白ですよね。
学園に決まってんだろ!!! せっかく目を覚ましたのに邪教徒狩りに行って堪るか! アルに行かせろ! アルセウスとアルエットでデュアルコンビだ! 仙人一歩手前のアルと、神癒魔法一歩手前のアルが居ればアルでオッケーアル! ってなるだろ!
訳分かんなくなってきたから学園に行こう。さぁ、授業参観の時間ですよ~。ふふふ~ん。
◇◇
コールとシルバを連れて学園に行ってきます!と威勢よくレオンに言ったら、今生の別れみたいにギューッと抱きしめられた。―――過保護に拍車が掛かっている。
「レオン兄って前からあんな感じだったっけ?」
「最近、辛い事があったから過保護なのよ。見守ってあげてね」
「お、おう」
「単に、主が起き上がって数日したら、半日動き続けて騎士隊をボコボコにした、と聞いたショックで寝れなかっただけみたいですよ」
コール! バラさないの! その騎士隊の指導員が傷つくでしょ!
「レベル上げに連れてった方が速いのかな・・・」
「どっちも必要でしょ」
「だよなぁ~」
雑談をしつつ王家の魔導自動車が街中を進む。前後に護衛のエアバイクが付いているので、街歩きの国民は何事かと振り返る姿が繰り返し目に付いた。
王都はバウムクーヘンのように円が重なる多層構造で造られており、中心の王城だけが異常に大きい。これは初代陛下の趣向なので、現代っ子の私達に責は無い、と思う。多分。
というのも、私やお父様がそこかしこに手を入れて改造に改造を重ねてしまったので、少なくとも十年前の王城とは似ても似つかない。初めて見た時に見えた尖塔とか、もう目立たなくなったもんね。
ともかく、外周に行く毎に街が大きくなっているので、第何層という呼び方をしている。正確には第何層何区の何街という呼び方なのだが、明確に城壁と城門で層分けされているので、見た目の印象でそう呼ばれている。分かりやすいからね。
私が妃殿下と呼ばれるようになる前には第三層まで存在していたが、今では聖女の魔法による工事が進み過ぎて、第七層まで開発が終わっている。しかし第七層はモンドさんの手柄だから、全部が全部で私の功績って訳じゃない。
車で向かっている学園は第七層の学園特区に存在するのだが、層が三区画に分けられており、北東部に貴族学園の「貴校」、北西部に平民学園の「平校」、そして第七層の南部一帯には何故かコロシアムがある。
モンドさんはコロシアムの事を「催行場」と言い張って止まなかったが、私からすれば立派な武闘場であり、殺し合いオンステージである。しかもよく見れば国宝級の秘宝であるギルドの無限復活結界装置が埋め込まれている。
その装置は緑婆が居ないと移設できない筈なのだが、何故かコロシアムに移設されていた。リリーヴェールの奴、なんだかんだ言って協力するつもりなのか? 私が眠っている間に何もしてこなかったし、案外放置していても問題無いのかもしれない。
窓から街を眺めていると貴校の正門がある七層南東部の幹線道路に入った。この辺りは貴校の敷地外壁に沿って、各商会の御洒落店舗が続いている。街の南東門から直線の大通りが全てこの調子なので、モンドさんは誘致に頑張ったみたいだ。
この辺りはユリアブラン商会としてノータッチだったのだけれど、ウチが関わらない事が紹介ギルドとして借りが大きすぎるという話になり、無理矢理利権に嚙ませられたらしい。
背後に世界最大の巨大商会が黙って突っ立っていられると、冷や汗が出て怖いのだそうな。反社の無言圧迫と一緒にされてる気がして納得がいかない。
「王妃様、そろそろ到着いたします」
「ええ」
御者、というか専属の運転手がそう伝えて来た。運転席と後部座席は小窓で繋がっているだけなので、反対車線から見ても私たちの姿は見えない。
それにしても王妃様、か。実感なんてない。私は私なのだし、王妃としての仕事はするけれど、王妃らしくあれと言われたら難しい。心はマイナス六歳で十九歳のティーンだからね。
年齢ギリギリどころかアウトだって? やかましいわ。
貴校の正門にはユリアブランで雇った衛兵が二人並んでいる。車用の二車線出口でチェックを行い、静々と学園内に入っていった。魔力で動くモーターを使っているので駆動音はほぼ無音だ。
高級車には更に風魔法で消音しているので、「ギュウウウン」という前進音と、「ピーピー」という後進音を発するように機能を追加した。EV車が無音で近づくと怖いのと同じ対策ね。
これが中々好評で、現在も馬と併用している人からすれば、馬と人が気が付ける事が大事なのだそうな。事故が減ってくれれば何でも良い。
ただ、馬が好きな鳥の鳴き声とかで走るように改造するのは止めて欲しい。街中を単独走行している際に車から鳥の鳴き声が聞こえてくると何事かと思う。
あと、クラクションを馬の鳴き声にするのも止めて欲しい。近くの馬が発情するらしい。それで馬がトランクに前足を乗せてしまい、廃車になったんです!どうしてくれるんですか!とクレームを寄こされても、その。困る。
車が止まり、運転手が後部座席のドアを開けると、曇りガラスで見ていた世界から美しい意匠を凝らした美術館のような貴校の玄関が目に入った。
「立派な学校ねぇ」
「モンド様の負けず嫌いが発揮されたそうです。工匠達にあり得ない大金を渡して、卒業生が心から誇りたくなるような玄関口を作って欲しいと。そうすれば自作できなかった主に自慢できるからだとかほざいていました」
悪い方向に力が発揮されてないなら何でも良い。ところで、コールはモンドさんが嫌いなのだろうか? できれば仲良くしてもらいたい。
シルバとエアバイクに乗っていた部下が私たちの前後を歩き、校長室に向かうと、そこには見覚えのある顔が現れた。
「ユベアラちゃんじゃない!」
部屋の中には秘書っぽい素人の女性が一礼していたが、とりあえずスルーだ。
「先生!! 良かった。目が覚めたと聞いていたのですが、中々お見舞いに行けなくて済みません」
学園の講師としてそれなりの数のエルフやドラグ族を雇ったそうなのだが、まさかユベアラちゃんが貴校の学園長だとは思わなかった。いや、年齢的に最も適役か?
「気にしないで、私からすれば数日眠ってた感覚だもの。むしろ心配させた私が謝らないといけないくらいよ」
ユベアラちゃんは学園長と兼任して、元々の仕事である文化大使も就任しているらしい。ダンエルが文化大使の責任者らしいので、祖父と孫娘で仕事をしている事になる。魔導議会南部にある実家は父親が帰ってきて治めているとか。
文化大使は西部メルトラ、東部首長連邦からも大使が来ており、それぞれの文明融合、文化融合を図る為の大切な仕事だ。六年前にお父様に必要性を解くのに苦労したが、現在起きている文化摩擦は想定以上に抑えられていると聞いた。本当かどうか知らないけれど、人権デモのような大きな騒動が起きていないので事実なのだろう。
「弟は家を出ました」
父親に追い出されたらしい。苦笑いされた。
「そう・・・」
冒険者になったらしい。特に言う事は無い。
「先生に依頼したいのは魔法の講師です。魔法の使えなかった私を、御爺様が手放しで喜ぶほどに鍛えて頂いたのですから、実力は疑いませんし疑えません」
横にいる秘書っぽい素人の女性が目を見開いて驚いている。三属性持ちで高位レベル、おまけに召喚魔法まで生えているので、エルフの中ですら高位魔導師と言えるだろう。素人からすれば驚異的な実力者で天才と言っていい。
その学園長が魔法を使えなかったと知らなかったのだろう。いや、あり得ないと思ったのかもしれない。
「と、いう事は?」
「はい。ご想像通り、魔法を扱えない子達を見て頂きたいのです」
扱えないと一言で言うが、原因が複数考えられる話だからこそ簡単に解決するとは思わないで欲しい。そう言うとユベアラちゃんは納得してくれた。
エルフ姉弟の場合、年齢によるイメージ力の大きさが魔法行使に役立っただけで、十歳にも満たない子供の想像力で同じ手段が有効かというと、必ずしもそうではない。
自閉症などで想像力が肥大化した子ならば、確実に魔法スキルを開発できるだろうけれど、万能ではないのだ。余り期待されても、結果が悲惨だった時のガッカリ具合に何とも言えなくなる。
ユベアラちゃんに案内してもらった教室には十二人の小奇麗な子供たちが勉強机に座っていた。まぁ、随分と意匠を凝らした黒檀の机ですこと! 奥様御覧なさいな! こちら、黒光りしてらっしゃるわ!
などと脳内で子芝居をしてしまうくらい見事だ。
「ユリアネージュ王妃様です。皆さん、ご挨拶を」
ダラッとしていた子供たちがガタガタッ!と椅子を鳴らしながら起立し、男の子は右手を開いて甲を見せながら左胸に付けて一礼した。女の子は震えながらカーテシーを見せて礼を尽くす。
うーん、この。
表情には出さないけれど、取り繕われてる感が凄いね。王城に来る貴族達は殆どが慌てずに礼をしてくるので、彼らは立派だったんだなぁとしみじみ感じた。
「ユリアネージュです。今日からあなた達の魔法の先生になります。それじゃ、ユベアラちゃんはもう戻っていいわよ」
「はい。それでは子供達を宜しくお願いします。皆さんも私のお師匠様に無礼の無きようにお願いしますね」
子供達にユベアラちゃんが見せた笑顔は目が笑ってなかった。そんな怖い顔も出来るようになったのね。というか初めてユベアラちゃんに師匠呼ばわりされた気がする。心の中ではずっと、そのように呼ばれていたようだ。
ユベアラちゃんと秘書さんが教室を去ると、トンボゴーレムを通して秘書さんの不安の声が聞こえる。大丈夫ですよ。痛い目に合わせたりはしません。ちょっと嘔吐するくらいです。
教壇に立ち、アルトパパみたいな巨体のシルバが出入り口に立つ。エアバイクに乗って来たシルバの部下も教室後方の隅に陣取っている。捕虜の包囲かな?
「さて、学園長から聞いた話では、暫くの間は魔導学の授業だけになるという事ですが、それでよろしいですね?」
一応、相手は貴族の子供なので、お母様みたいな喋り方で通すことにした。礼儀がー、作法がー、とか揚げ足取られても面倒だし。
全員が起立したままで頷く。まだ六歳から八歳の子供だろうに、そんなに緊張していたら疲れて倒れちゃうよ?
「よろしい。では校庭に出ましょう。服装はそのままで構いませんよ」
何人かが机の上に置かれた魔法教書を手に取り、私とシルバの後を全員がついて来た。
貴校は平校と異なり、巨大な円を描くように校舎が作られている。その中央には結界が張られた円形の校庭が広がっており、サッカー場のような球戯場スペース、陸上競技用と思しきレーン、フェンシング用に見える縦長の競技スペース、魔法用の的が並ぶ。
様々な設備があるのに狭く感じない程に広い。私が設計した通りに造ったのだろうけれど、これ・・・幾ら掛ったんだろう? 最高位の土魔法使い、人間国宝レベルの工匠が複数人と弟子たちが数百人、数千人規模の土方が必要だ。
ま、ともかく。子供たちに向き直ろう。
準備運動や式典などを行う何もない広場の一角に子供達を集めて座らせる。足元がタータンちっくなのは砂を固めた柔らかい素材だ。魔物素材だろうか。また高そうなものを使ったなぁ。
「まず、皆さんには魔法その物に触れてもらいます。触媒干渉や魔法陣に触るのではなく、魔法その物に触ってもらいましょう」
「き、危険です!」
同じようにあぶねーから止めろ! と表情で訴えて来る子供を無視して、彼らの足元に大量のウォータースライムを生み出した。
魔物!魔物!と逃げ出す子や、その場で固まる子、手に取って遊ぶ子など反応は様々だ。やはり子供は子供だ。こういった素直な反応を見せてくれるほうが、こちらとしても楽しい。
暫くして散り散りになった子を手招きして集めると、彼らは自分から地を這うスライムを小さな手に乗せるようになった。
触感は水。しかし濡れず、冷たくも熱くも無い。
「魔法の水で作り出した疑似妖精。私はそう呼んでいます。熱くもなく、冷たくもなく、濡れず、しかし水の塊であること。私が魔法で生み出した疑似妖精は、私がそのように想像したから、そのような効果が生み出されたのです」
肩に乗せたり頭に乗るスライムに埋め尽くされた子も、私を見て頷いている。魔法に触れるといった意味が分かっただろうか?
「し、失礼ながら!」
整った顔の貴族の男の子が跪いて訴え出る。うん、そういうの要らないよ。でも拒否するとお母様に怒られるので止めとこう。
「お妃様は呪文も魔法陣もお使いになられておりませんが、どのように魔法を発動されているのですか!?」
拙いながらもハキハキと喋る子だなあと感心しながら質問の答えを考えた。
「そうですね。例えば魔法陣。その疑似精霊を生み出した魔法陣はこうなります」
空中に垂直に広がる円形の魔法陣が私と彼らの間に拡がった。直径三メートル近いそれは、火魔法で描いたもので煌々と輝いている。
「呪文は長いですよ? 此処に描かれた魔法文字を全て読み上げないといけませんからね。全て読み上げるのに数分は掛かります。必要な発動句だけでも十秒は掛かるでしょう。実践的ではありませんね?」
そこまで言うとパリッとした服を着て質問してきた男の子が頷いた。
「ですので、私は頭の中に魔法陣を描き、それを魔法制御で認識し、無詠唱で発動しています。目の前に現れている魔法陣を完全に記憶しているからこそ、出来るものです」
実際はイメージだけで発動しているので、これは多分、私とアルセウスだけの能力だと思う。何かに補助されて発動している。実感としてあるのだから間違いないだろう。
対してルネちゃんのように莫大な量の魔法陣を脳内に叩き込み、同時併用するような天才の所業を脳みそだけで行ったりは出来ない。アレって多分ハイネさんも同じことをやってるよね。何で私の周りには天才が多いんだろうか。フランは確実に剣の天才だし。
補助能力抜きだと私は凡才だな。もっと頑張らねば。
「こ、これを覚える・・・!?」
「ふふ。流石にいきなりは無理でしょうから」
疑似精霊用の魔法陣を消して、代わりに直径十センチ程度の空白だらけの魔法陣を幾つか作り出した。
「これから始めて見ましょうね」
私が微笑むと質問してきた男の子の顔が真っ赤になった。用意した魔法陣は地水火風光闇の六属性分。これを拡大表示するように一メートルサイズにして彼らの周囲に配置した。
いずれも攻撃力の無い魔法ばかりで、一センチメートル程度の水球を生み出したり、淡い光を発したり、火花を一瞬だけ散らす線香花火だったり、柔らかい土のボールを数秒だけ生み出すといった、練習用以外に用途が無いようなモノだ。
「まずはそれぞれの色が示す属性の魔法陣をジッと見て記憶なさい。それらを覚えたら、魔法陣の中に或る呪文を一文字ずつ読みなさい。発動しなくとも魔力を感じられる筈です」
そう。それだけで魔力制御の鍛錬になる。言霊とでもいうべきだろうか。言葉が持つ魔力が作用し、自分の中の魔力が反応する。それだけで全身の魔力が流れ始め、意識しなくとも自然魔力を取り込み、無意識に混合魔力を作り出せる。
そうして慣れていくところから始めないと、この子たちは一生魔法を扱えない。魔法を使えない貴族の扱いは最底辺だ。貴族は騎士の後ろに立って魔法を使いながら指揮をする事を前提としているからな。
男の子だと特にそうだろう。女の子は必須ではないが、自分が所属する家から下に視られる。そのまま嫁に出たら最悪の扱いになるだろう。貴族の格に直接かかわってくるからこそ、貴族は必死で魔法を覚えようとする。
どれだけ顔が良かろうと、どれだけの知識を蓄えていようと、どれだけ切れ者だろうと、どれだけ気力を扱えようと、魔法が扱えない貴族など役立たずの糞でしかない。それが貴族の共通認識だ。平民はそんな事情をドウデモイイと思ってるけどね。
お?
「で!? できましたわ!」
発動第一号の女の子を全員が見た、そして自分もと我先に練習に戻る。焦った顔だ。私は大きく拍手をひとつ。
「集中なさい」
発動に成功した女の子を呼び、彼女に触れて体内魔力を制御する。
「あなたは次の段階に進みなさい」
彼女の右手を掴み、灯の魔法を強制的に発動させる。うん、スキルが生えている通り、この子は光魔法以外に才能が発露しにくいようだ。このまま光魔法だけを鍛えさせよう。
魔法の才能はそれぞれで異なるが、全ての属性スキルを覚える事は誰もが可能だ。しかし、人生を投げ打つレベルで超長期間の鍛錬が必要だし、人生賭けて覚えてレベル一止まりという場合が殆どである。
私のようにポンポン覚える方が異常なんだよ。
これは武術スキルも同様で、剣が好きだけど必死で覚えた剣術スキルは生涯通してレベル二で止まったままという逸話も聞いた事がある。
武術の場合は脳の仕組みと肉体の都合もあるのではないかと思う。ブラウ達のように肉体を変容させることが、ある程度可能ならまだしも生まれ持った手足は成長が止まったらそれ以上伸びないし、肩幅は小さくならない。
スキルは便利だ。しかし、それに頼った生き方をすると、場合によっては不幸になる。だから私はスキルを鍛えると同時に、それ以外も鍛えた。剣術スキルLV10のシルバが、同じスキルレベルの私に適わないのはそう言った部分が大きい。
そして魔法も同じ。想像力を鍛えないと威力は弱く、発動速度も遅い。オマケに対抗魔法で簡単に構成式を解され、消し去られてしまう。
子供達を観察しながら私はそんな事を考えていた。
◇◇
夕方、シリウスを抱っこしながらエミーシャと学園の話で盛り上がった。パリッとした格好の男の子はエミーシャの婚約者らしい。アルーイン侯爵家の長男だそうだが、成人までに魔法を使えないと婚約解消という話しがあった。
「ありがとう、おかあさま!」
「ふふ、どういたしまして」
一つ年上の男の子に恋する娘は、自分からレオンに婚約者候補として訴えたらしい。ああ、アルの時もやった五歳の時のパーティか。エミーに男の子たちが群がってレオンがイライラしていたらしい。お父様が大笑いしながら教えてくれた。
「とりあえず三人だけ、魔法を発動できるようになりました。あの調子なら今年中に全員が他のクラスに編入できるでしょう」
お母様が目を瞬いて驚いてくれた。まぁ、普通は諦めるレベルだよね。才能の無い魔法使いを育てる徒労は考えたくも無いだろう。だから誰もが見捨てる。捨て石を磨いたら宝石になったと同じ事を、望外の奇跡のように思われたようだ。
それと、密かにエミーシャの次の婚約者を探していたらしい。色々な柵をアレコレクリアしなければならないので、五大侯爵嫡男の代わりを探さなくて楽になったと感謝された。その婿探し、大変そうだ。
ていうか、私もその仕事を将来やらないといけないのか!!!
うわぁ~・・・やだー。
王太后様となったお母様は、孫の婚約者を探すのが礼儀だという。代々の王太后はそうやって家族の世話を焼いていたそうだ。
「そのほうが問題がありませんからね」
上からの絶対権力で指名したほうが、下の者もやり易い。実はあの子と前から付き合っていて結婚後も愛人関係でした、何て事にならないように入念な調査が必要らしいけどね。その辺はメイドネットワークで結構簡単に集まるらしい。
「私もそれなりに把握しております」
「それは重々知ってる」
コールさんは毎日エンバーさんと連絡を取り合っているので、メイドネットワークどころか侍従たちの情報すら把握している。レオンより私について詳しいかもしれないレベルだ。良し、40年後くらいになったらコールに任せよう。私がそれを通達すれば良い。フッフフ。
「何にしても、良かったわね。エミーシャ」
「うん!」
嗚呼、私の娘。可愛いわ。マジ天使。ロリ大天使を名乗っていい。そりゃ学園の廊下に張られたポスターのモデルになるわ。学校中にエミーシャの姿が張られているって本人はどういう気持ちなんだろう?
「なんか楽しい」
薄笑いを浮かべた顔で断言された。その顔、何か悪いこと考えてるだろう!?聖女として祭り上げられた私とは大違いだな。やっぱり、私よりお母様に似てる気がする。
さて・・・と。
「じゃ、寝る前に少しお手手繋ごうか」
「「!?」」
どうも黒い笑いをしてしまったらしく、ドン引きして固まる子供たちの手を握った。全力で強制魔法制御鍛錬をやった。少し嫌われたので後悔はしている。反省はしていない。
◇◇
汗をかいてレオンとベッドに横たわり、余韻に浸っていると夫が横抱きに包んで来る。
「まだ、戦おうとしているのか?」
おでこが当たりそうな距離で問いかけて来る。
「うん。習い性みたいなものかな。戦ってないと世の中を泳げないみたい」
「そうか・・・ブラウがユリアに守り人の所在を明かすかどうか悩んでいた。相談に乗ってやってくれ」
そうか。あの時に逃げたという相手かな。ブラウは至近距離で顔を見ている筈。そして守り人はヒトだ。人里で生活もしている可能性が高い。その中で見つけ出したのだろう。
考えてみればブラウにとっては因縁の相手か。
「逃がした魚かな?」
「そう聞いている」
およそピロートークらしくない言葉を交わして口づけをした。レオンの良い匂いに包まれながら目を閉じる。
きっと私はいつか、この人の腕の中に居られなくなる。そんな予感がする。それまでこうしていよう。なるべく沢山、この人の腕の中で眠るようにしよう。
意識を落として目を覚まし、また一日が始まる。その横には愛する人がいる。きっと百年も経てば隣にブラウ達が居るだろう。アルも居るだろうか。サリナスティアも居るだろう。もしかしたらリリーヴェールも居るかもしれない。
長い長い日々が続いていくのだろうと考えていると、私のこれまでの戦いなど、まだまだ始まりに過ぎないのだろうと気を引き締め直した。
◇◇
ブラウ達、竜機人はユリアブラン商会の専属パイロットとして所属している。その扱いはモンドさんに並び立つほどで、実は事務作業も結構やっている。私が寝ている間は、以前に私の仕事を手伝っていたブラウ、シージ、シャルルが幹部扱いになっていた。
ディーネさんはアレです。えーっと・・・・・マスコット的なアレです。そういう事にしておいてください、お願いします。
「主、守り人の名はアリエス=ボーンノート。エルフです」
「エルフか・・・まぁ、守り人の時点で種族なんて在って無い様な物ね。寿命が無いようだし」
「はい、主。今は東部首長連邦と北部魔導議会の境界線、北東部の世界樹の根の内部に拠点を構えています」
「内部?」
「はい、主。私達四人は私が地中を、シージが地上の森林を、シャルルが空を、ディーネが水中を、それぞれ主からお借りしているゴーレムを利用して、六年間も調査を続けていました」
凄いな。モグラ型、ハヤブサ型、ウルフ型、ウミヘビ型のゴーレムを量産して対応したのかな。いや、この子たちの指示に従う量産ゴーレムは居ない。という事は預けておいた一万体だけでこの大陸を調べつくしたのか!?
「よく頑張ったわね」
思わずブラウの頭を撫でた。続いて近付いて来たシャルルを撫で、シージをギューッとして、ディーネの額にキスをした。ディーネは額を抑えながら顔が真っ赤だった。
ブラウの報告を聞くと、世界樹の根を覆う土を全て剥ぎ取り、根の隙間まで全て調べつくし、根に覆われた空洞を暴いたそうだ。同様の場所を全て暴き出して、現在、エルフの守り人は北部魔導議会の草原を逃亡中らしい。
「歩いて移動中?」
「はい。今、私のウルフゴーレムが追いかけている所です。もう、数週間は逃げられて・見つけ出してを繰り返してます」
空からシャルル、陸はシージ、川に逃げればディーネ。しかし地上を移動している事には変わりないので、足元には常にブラウのゴーレムが付きまとっているそうだ。
「ん。良し。行こうか」
「「「「はいっ!!」」」」
メンバーは私、シルバ、竜機人四姉妹だ。
「母様、今回こそはついて行かせてもらいますよ」
アルと蒼羽が現れた。
「あ、あら? 東部の混乱は?」
「前に帰ってきた時には既に片付いています。後は文官と武官が居れば対応できますから」
そう言うアルは背が伸びて十一歳らしからぬ肩幅をしている。相当、蒼羽に鍛えられているらしい。そういえば紅蓮羽は?
「奴はエルフの守り人と共に或る」
やはり守り人と繋がっていたか。
「という事は、貴方にとっても因縁の相手ね」
「然り」
蒼羽が仙気を纏って右手を握りしめる。ゴキリと関節が鳴り、掲げた右手に仙気が集まっていく。
「彼の者の罪業が、その身を滅ぼす」
「それ、後で教えてよ」
右手を指さして蒼羽に言うと、アルに呆れた眼を向けられてしまった。ほわぁい?
「貴台に? 不要であろう」
蒼羽に目を逸らされてしまった。いや、不貞腐れてしまったらしい。このお爺ちゃんは可愛い所もあるようだ。
◇◇
「真人とな?」
「うん。聞いた事は?」
蒼羽が首を振って否定した。旧評議国の歴史の生き字引みたいな蒼羽でも知らないか。
私のステータスを確認すると、六年前の事件が原因で種族が真人に変わっていた。たしか、私が眠りにつく前には変わっていた筈だ。
今だってそう。
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ユリアネージュ(推定25歳:肉体不変)
種族:真人
レベル:531(18%)
HP:1690019
MP:41203777
状態:普通
スキル:
【武術】
剣術LV10、霊剣術LV2、天歩LV3、格闘術LV10、仙体術LV10、竜体術LV1
【魔法術】
火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV10、空間魔法LV8、刻印魔法LV10、封印魔法LV10、付与魔法LV10、錬金術LV10、波動術LV3、回復魔法LV10、治癒魔法LV10、神癒魔法LV9
【補助技能】
気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV10、竜気制御LV9、霊気制御LV1、並列制御LV10、闘気制御LV10、気配察知LV10、高速反応LV10、魔気合一LV10、万象融然LV3、HP高速回復LV10、MP高速回復LV10、気道回復LV4、真実の天瞳、囁きの声、フリキア言語LV9
称号:真人、聖女、ワールドルーラー、竜機人の創造者、神技の体現者、神樹の守り人、真龍人の抱擁
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一つ一つのスキルを訓練所で確かめたが、六年前と変わらず霊剣術と波動術は使えず、気道回復は何が回復しているのか良く解らなかった。
囁きの声は簡単に言うと対象を操る事が出来る。たとえそれが無機物の石ころだろうと意のままに操ることが出来る。
最初はサイコキネシス的なモノかと思ったが、人を対象にした際に、他人をゴーレムのように操れるスキルだと判明した。同時にその恐ろしさも理解した。
同じような闇魔法が存在するが、これは対抗魔法も存在しないし、そもそも魔法ではないので解析不能だ。真実の瞳も真実の天瞳に変化しているし、ステータスを確認できる範囲も拡がった。
その真実の天瞳を以てしても、囁きの声のスキルは解明不能だった。天瞳は一般的なスキルや称号であれば解析が可能だ。これまでは説明文だけで意味不明だったから助かる。
例えばブランママの剣姫。これは称号による補正がある事が分かった。近接戦闘に関すること全てに行動補正が掛かる。技の覚えやすさ、力、体力、判断力
、速度、HPの高さなども全て剣姫称号の補正が掛かっている。ブランママの天才っぷりは称号のお陰かと思ったけれど、商才も発揮しているので、恐らく切れ者な部分は素だろう。
アルトパパの土の匠という称号も似たようなモノだ。出来上がる作物が大きく身が詰まったものになりやすい。実際、アルトパパの育てたモノだけ美味しすぎる事が多い。アルトブランドが出来ているくらいだ。
真人の称号は霊気を操る際に補正が掛かるらしい。蒼羽の仙人称号も同様に仙気を操りやすくなる。
聖女は神癒魔法を扱いやすくなるし、ワールドルーラーはあらゆる行動に補正が掛かる。世界樹に挑戦したあたりから異常な速度でレベルが上がっていたのもコレのお陰だろうか?
神樹の守り人は北部で大樹が生えるような魔法を使ったせいだろうか。竜気と神癒魔法の合成魔法を使う際に補正が掛かるようだ。
神技の体現者は何だったか・・・。こっちが大樹が生えるような魔法を使った時だったかな? それともディストーショナルレインを初めて使ったときか? もう覚えてないな。効果は制御系スキルの補正だ。
そして真龍人の抱擁。これは真龍化した際に、真龍人となっても元に戻れるようになるらしい。真龍に愛される人に称号が付くらしい。愛される・・・。親子愛だと思いたい。
「?」
チラッと横に座るシージを見ると右腕を抱えるようにして抱き着かれた。ディーネは小さいので膝の上に乗り、ウトウトしている。
あと推定二十五歳って何よ。永遠の十六歳の間違いでは?
肉体不変って事はもう妊娠できないのか? 何を指してるのか良く解らないな。もっと子供は欲しい。これは本能的な感じがする。欲とかじゃなくて、子供を産み育てていないと気が済まないと本能が叫んでいる感じだ。うん、自分でも何言ってるか分からないんだ。ただ、そんな感じがするってだけ。
「主、そろそろ目標の上空に到着します」
ステータス画面を消して操縦席に眼を向ける。
「行こうか」
ブラウとシャルルはこのまま上空で待機。シージとディーネは竜機人専用ゴーレムで各自の専用機に乗って同行。蒼羽は私の補助。シルバは無線機を使って全体の指揮だ。アルは超長距離砲を使って上空から狙撃。
「な・・・何ですかコレ?」
両手で抱えないと持ち上げる事も出来ない重量物を渡す。
「対魔神兵装ね」
見た目はロングレンジライフルなのだが、常に竜気を纏う超エネルギーを込めた実弾銃である。四十ミリ弾にオレカル&オリハル合金。砲身にも同じ合金を使い、熱エネルギーを砲身内に溜め続けて推進力とし、着弾時に球が変形しようとも再生と再成型を続ける悪魔の様な兵器だ。尚、やろうと思えば毎分二万発を連射できる。
決して水平方向に発射してはいけない。多分、そのまま地平線にある全てを貫通して、宇宙まで行くからね。街中で水平発射したら何人死ぬか想像もつかないレベルです。
「合図で撃ちなさい。無反動だけど、魔力はごっそり持っていかれるから・・・・・そうね、今のアルなら三発までが限界ね」
「僕、MP一万超えてるんですが!?」
「それだけ燃費が悪いのよ~」
そう言って私達は飛び降りた。目標は地上を走る守り人のアリエス。
◇◇
風が全身を打つ。しかしその風も竜気を纏っていればそよ風以下になるのだけれど、私はその風を感じたいが為に竜気を薄く延ばしてみた。
空を飛び降りるのは何度目だろう?
世界樹の天井から飛び降りて、竜船から飛び降りて、城から飛び降りて、塔から飛び降りて・・・ん?
ないない。最初の二回だけじゃないか、どうした、私。
眼下には北部の平原地帯と、すぐ目の前にゴーレムが二体、そしてすぐ横には蒼羽が見える。私の着ているドラグスーツが角を生やし、羽根を生やすと、一気に落下速度が緩やかになった。
視えた。ウルフ型ゴーレムとハヤブサ型ゴーレムに追われる守り人が走っている。常人の速さではない。時速百八十キロメートルくらいは出ているんじゃないか? 土煙を上げながら真っすぐ森へと向かっている。
大森林に入られる前に止めよう。
地下に潜っているモグラ型ゴーレムを操作して守り人の周囲だけ陥没させ、その周囲を巨大な壁で囲う。そして息子にヘッドセットを通じて指示を出す。
「アル。足を止めた瞬間を狙いなさい」
既に狙いを絞っていたらしい息子は、私達が降りた直後に発射体制に入っていたらしい。専用の銃座で狙いをつけて集中している。
「はい」
小さい返事を聞くと同時に上空から一本の赤い光が落ちた。
着弾地点では土煙も何もない。天瞳で望遠しつつ確認していると、森人の左足が無くなっている。弾丸は地面を貫いて地下深くまで進んだようだ。着弾点が溶解している。
守り人が転げまわりながら痛がっているが、そこをウルフ型ゴーレムが組み付いて襲う。このまま終わりかと疑問に思ったが、守り人から黒い閃光が上空に放たれた。赤い火花を伴うそれは、何かに似ている。
「暗黒魔法の使用を確認。全員、竜気を全力解放」
蒼羽も最近になって竜気を覚えたらしい。「人間死ぬ気になれば成せるものだ」と苦笑いしていた。何をしていたのかは知らない。
ブラウの船に何本かの黒い閃光が着弾したようだが、特に影響は無いらしい。シルバから冷静な報告が入った。
「主、先攻いきます」
「いっきまーす!」
シージとディーネが巨大な竜気を纏い、竜機人ゴーレムが姿を変えていく。シージは右腕を槌のように変え、ディーネは左腕を槍のように変える。ディーネのアレは元々頭から生えていたものではなかったか。
思うや否や、守り人に直滑降した二人は黒い閃光を弾きながら接近していく。ディーネが左腕を守り人に突き刺し、そのまま大地に縫い付けた状態でシージが槍の石突をぶん殴った。
打点を中心に凹んだ大地に罅が広がり、その罅が崩壊し続けて一気に周囲一帯を飲み込む大穴へを変えた。遣り過ぎでは・・・。
モグラ型ゴーレムが数体消し飛び、残ったモグラだけで周囲の地面を固め直した。
「次は頂く」
答える暇もなく蒼羽が守り人に向かい直滑降していく。激突寸前で槍と槌を手放した二人が離れ、莫大な仙気が解き放たれた。
「―――――――!!!」
白い閃光が発する直前に何か聞こえた気がしたが、周囲に拡がる衝撃波が全部掻き消したらしい。爆風が砂埃を吹き飛ばした後にあったのは、空中を飛ぶ蒼羽と、足だけ地面から生やした守り人だった。
守り人の近くに着陸すると三人が私を出迎えた。
「私の出番は?」
私の問いに三人が答える。
「無い」
「主!やりました!」
「ウィー!」
念のためドラグスーツを解除せずに守り人を引っ張り出すと、顔面がベコベコに変形しているが生きてはいるらしい。気を失って瀕死状態なので、そっと頭部を掴んで闇魔法を使った。
出番・・・これだけですか。
◇◇
瀕死のまま転がる守り人から必要な情報は揃った。緑婆ともう一人の守り人は世界樹に居るらしい。あの大樹・・・いや、塔の地下には彼らの基地が存在する。
違うな。
彼らの基地ではなく、塔を築いた連中の拠点だったと言った方が良いだろう。彼らは其処を間借りしているだけの使い走りに過ぎない。使っている筈のメギアが天辺に居るのは何ともお山の大将だけれど、実際に大将なので守り人とメギアを仕留めれば人類の未来は明るい。
守り人はどうやら他の大陸からくる魔神を恐れているらしい。彼らにとってこの大陸に居る魔神は神聖なる存在で、他の大陸からやってくる魔神から守ってくれていると考えている。
実際にそうだったのかもしれないし、今後もそうなのかもしれない。ならば私たちがすべき事は根幹から正す。それだけだ。それが最善と信じよう。守り人の頭から手を放して立ち上がった。
「魔神を滅ぼす」
蒼羽が頷く。彼もレオンから全て聞いているし、一時期は一緒に行動していたらしい。アルが元素魔法と闘気を扱うようになってからレオンが即位したため、今はアルを鍛えながら諸国漫遊の修行道中という事だ。
【それは許さない】
瀕死の守り人が空間の裂け目に捕らわれると、姿を消した。裂け目から見えたのは緑婆だ。
「待ちなさい!!」
【待ってあげる。私達の住処で】
緑婆がそれだけ言うと空間の裂け目の向こう側に、リリーヴェールの顔がチラリと視えた。且つて見た屋敷の絵と同じ、優しさを感じる大人の微笑みだった。
空間の裂け目が消え、緑婆の声も聞こえなくなった。逃げられたらしい。ただ、行き先が解っているのに空間魔法で辿り着けない。
「チッ、世界樹か・・・」
天から降り注ぐメギアの神気が邪魔して、塔の地下に或る空間魔法の座標が定まらない。あちらからは空間を繋げられるけれど、外部からは完全に遮断しているようだ。
「今のは?」
蒼羽が私に問いただす。
「大魔女リリーヴェール。南方の守り人で、味方なのか敵なのか良く解んない奴。若返りと老化を繰り返す魔女。空間魔法が得意。エステラード建国の母。それくらいしか分からないわよ」
「ふむ・・・」
伸びをしつつドラグスーツを解除した。待ってるというのなら待ってればいい。罠と分かっていても掛かってあげよう。そして纏めて食い破って力の差を教えてあげよう。
その為にも、戦力を一点に集めようか。
「船に戻るわ。そこで分かった事を共有する」
「了解した」
「「はいっ」」
転移魔法で全員纏めて竜船に戻ると、蒼羽が目を見開いていた。
「思し驚く・・・」
「だから古いっての」
蒼羽が首を振って黙っているのを放置して操縦席の後ろを会議スペースに改造した。
「この船は何でもありだな」
「小さい頃から乗ってるじゃない」
「けどなー」
シルバが何か言っているが気にしない。
アリエスの記憶から読み取った情報を共有した。一番驚かれたのは、やはり世界樹の地下に拠点があるというところだろうか。
「その、あー。ユリア姉の言う、塔を作った連中ってのは?」
「恐らくキリシア=ミューリオル達ね。古代文明の神々と言ったところかしら。サリナスティアを残した人々と言っても良いわね」
「・・・人なのか、神なのか、良く解らないですね。母様はサリナの身内がキリシア神であり、サリナも似たような存在であるという事を仰ってるんですよね?」
たぶん、違う。
「サリナは神々とは根本的に違うと思う。肉体性能も私たちと違って強化され過ぎているし、そもそもスキルやステータスに左右されていないように感じる。依然話した通り、本来迎えるべき未来の世界の人類として用意されたんじゃないかと思うわ」
「本来迎えるべき世界?」
蒼羽が首を傾げてオウム返しをした。
「ステータスの無い世界」
その世界で私たちはきっと生きて行けない。この体も、力も、全てが魔力を軸として存在している。気力の根源も恐らくは魔力か霊気と言った別の力が左右している可能性がある。
ステータスが失われた場合、それらも失われてしまったら?
私達の体は崩れてしまうかもしれない。生きて行けないのではなく、生物として形を保てない可能性を私は提示した。
「そんな・・・」
シルバが青い顔をして震える。アルも何となく理解できたのだろう。この辺はファンタジー経験値が差を生むかもしれないが。蒼羽やブラウ達は受け入れがたいと言った感じだ。
「守り人の狙いが全ての開放からの防衛だとしたら、私達の行動は全ての破滅に繋がっている可能性がある。ま、だからといって定期的に滅ぼされるつもりはないけどね」
「・・・」
アルは何かを考え込んでしまったようだ。私の意志に同意も反対もする姿勢を見せていない。この場で最も重要なのは私の意志ではなく、アルの意志だ。
私が何を言おうとも、将来的にこの国の王となるアルには方向性を示してもらわないと私と戦う可能性がある。足並みをそろえないといけない。
「アルは、どうしたい?」
「母様・・・そうですね・・・・・」
王都への飛行音を耳に感じながら沈黙の時間が過ぎる。シルバも云わずとも理解しているらしい。私がアルに合わせようとしているのを。
アルが守り人を追わないと言えば、私は滅びを防ぐために何年でもメギアと戦うだろう。国を守り戦い続ける事になると思う。その中で答えを探していけばいい。
だが、私がアルの意志に反して守り人を殺し、メギアを滅ぼした場合。外部からやって来た魔神の被害に感化されて、外の魔神と手を組もうとするかもしれない。
有り得ない話ではない。守り人の真似事をできる人間なら数人いる。彼らが結界を張り直し、アルは私を倒し、外の魔神を追い出してしまえば良い。
そういう道もある。考えると悲しいけどね。王という物は、国家とは、そういうものだ。
「主、そろそろ王都に到着します」
数時間も話し込んでいたらしい。いつの間にか到着してしまった。
「わかったわ。アル、答えは御爺様や御父様と相談しなさい。あなただけが抱える問題でもないのだから」
「はい・・・」
◇◇
「倒すべきだ」
「私も同意見だ。考えるまでも無い」
王城の大会議室には多少の入れ替わりがあるが、いつもの高位貴族達が席に着いていた。中心では私とアルが隣合って座り説明している。対面する席にはレオンとお父様が隣合って座っている。お誕生日席にはお母様とアナ姫が座し、静かに話を聞いていた。
その傍にはブランママとサリナスティアも居る。サリナにとってはこの話の中心人物になる。いや、原因と言っても良い。
「そう、ですか。ならばお聞きします。神々が目指す世界とは何か。それを知ってからでも遅くはないと思いますが、お父様方はどう思いますか」
「当人から聞くしかあるまい」
そう言ってレオンがサリナスティアに目線を向ける。当の本人は何か?と言わんばかりに首を傾げている。
話が進まないので私がサリナに質問した。
「サリナ、キリシアは世界に何を仕込んだか知ってる?」
ざわりと周囲が私を見る。だが、私は彼女の言葉に耳を傾け続ける。とても重要な事だ。研究者であり、あの塔を作り出した責任者と思しき彼女は、この星に一体何をした?
「詳しい事はわかんない。でも、私が眠る前にママは再生した世界を私の代わりに見てっていう約束をしたよ」
再生した世界?
ママ、ね。
「ママの意味を教えて。あなたはキリシアによってつくられたのかしら?」
「さぁ?」
分からないらしい。自覚する前に、もしくはママに聞く前に眠らされたのだろうか。
周りがサリナスティアに何やかんや言っているが、沈静魔法と消音魔法でそれぞれ黙らせた。
「質問を変えるわ。眠る前、キリシア以外に誰かいたかしら?」
「う~~~~ん・・・いた、かも? あっ、お姉ちゃん? う~ん・・・いたっぽい?」
聞き返されてしまったわ。
「じゃあ、そうね。あなたが最初に目を覚ました時、そこは透明な水の中じゃなかったかしら?」
「あ! うん! ずっと水の中だったよ! でも苦しくないの! 凄いでしょ!」
サリナ自信が凄いのか、そうしてもらったキリシアが凄いのか知らないが、それを聞いたアルが私の方に全力で振り返った。察したらしい。
彼女はホムンクルスかそれに類する生命体なのだろう。
「それは凄いわね。でもお兄ちゃんか、弟は居なかったのかな?」
「いないよ?」
・・・交配による子孫を残す構想じゃなかったのか? そもそも、キリシアが居た時代は復興?再生?を果たさなきゃいけない程に、世界が破滅的な状況だったのか?
「お外の世界について何かキリシアが話していたかしら。物語でも良いよ。不思議な生き物の話とか、食べ物の話でも良い」
周囲は私とサリナの会話を傾注している。
「ん~? お話じゃないけど、眠ってると色んな夢を見たの。楽しくって、面白くって、色んな人とお喋りして、色んなところを冒険したんだよ」
それでね、それでね、とサリナが話した内容はまるでオープンワールドのアクションロールプレイングゲームで、様々な人とパーティを組んで戦ったり食べたり遊んだりした話だった。
「まるでネットゲームだ・・・」
隣にいるアルがボソッと小声で呟いた。そう、その通り。まるで接続先に不特定多数の誰かが居るかのような環境で、VRゲームを遊んでいるような感想だ。サリナはそれを遊んでいたかのような話をしている。
それが事実だとして、それだけ進んだ文明だったのだろう。そして何より、科学文明が確実に存在していたという事になる。少なくとも魔法で同様のシステムを用意できる話を私は知らない。
同時に当時は別の人間が多数生存していた事になる。
キリシア=ミューリオル。彼女が居た時代は一体どうなっていたんだ?
「ありがとう、サリナ。面白い話を聞けて良かったわ。また今度聞かせてくれる?」
「うん!」
快活に私に笑顔を見せて返事をしてくれた。もう、私を「龍怖い」と怖がっていた子供は居なくなったようだ。
「彼女の話を纏めると―――」
消音の魔法を解除して説明するとこうなる。
一つ、科学文明が存在していた事。
一つ、その文明が滅んだ後から魔法が存在し始めた可能性。
一つ、キリシアは世界再生のために魔法の力を作り出した可能性。
一つ、キリシアは元の世界を再生した後で魔法世界をどうするか不明。
聖書の内容も勘案して考えている。
「つまり、結局のところは分からないという事か」
「そうね」
これは言わなかったが、最悪の場合、魔力を喪失したと同時にこの星が消滅する可能性だ。これは余りにも救いが無さすぎるし、キリシアが何をしたかったのか益々解らなくなる。
惑星レベルで魔力なんてものを広めて、法則性を作り、私達現行人類を生み出した。恐らくは魔物もそうだろう。
キリシアとは何だ? 何者なのか考えれば考えるほど恐ろしくなってくる。
座席のひじ掛けを強く握りしめると、金属製のそれがひん曲がってしまった。見事な意匠だというのに申し訳ない事をした。ただ、その手に被せるようにアルが手を乗せて来た。
「倒しましょう。元の世界が何であれ、僕たちは今を守らないといけません」
「そうね。放っておけるほど私は心が広くないわ」
クスリとアルが笑うとレオンが頷いた。よし。
「作戦を立てるぞ!」
『はっ!!!』
こうして世界樹侵攻作戦を検討すべく、将校たちが頭を悩ませ始めた。
標的は守り人、そして魔神メギア。
最終決戦だ。
そして私にとってはリベンジとなる。
必ず倒す。そしてキリシアの狙いを暴く。
外の魔神も、この世界の謎も、全てはそれからだ。




