074
四人の仙人の内、二人は鳥人族だ。そして仙人にも分類がある。
仙人になり切れない仙気使い。これは老神官を指す。スキルとして仙気制御を手に入れはしたが、種族として仙人になった訳でもないし、空間魔法を得た訳でもない。ただ、仙気を扱うお陰で常人より多少長生きする。
仙人になりかけの仙気使い。これは襲撃してきた紅蓮羽の鳥人族が恐らく当てはまる。あの鳥人は仙気制御もマスタークラスだが、空間魔法を手にしている訳ではない。高レベルの仙気制御のお陰で異常な威力の元素魔法を扱える。実体験通りだ。
仙人に到達した仙気使い。これは寿命が無くなる。文字通り種族が仙人に到達した者を指す。人の領域を超えた戦い方をするようになる。条件は聖人の称号、空間魔法の取得、仙気制御のマスターと考えられる。
そして仙人を超えた竜気使い。これはドラゴンと同列の強さを持つものを指す。魔王や真龍と言ったレベルの戦いをするようになる。人外なんて生易しいものじゃなく、小競り合いで国を滅ぼすレベルになる。実際、北部魔導議会の首都地下深くは、土魔法で補修しないといけないくらいに巨大な空洞が出来てしまった。条件は竜に関わる何らかの称号、高レベルの神癒魔法、高レベルの空間魔法、高レベルの魔気合一あたりだろうか。
今の私はもう一つ先にまで届きそうな気がする。蒼羽を視界に収めながら自分の右掌を翳してステータスを見た。
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ユリアネージュ(19歳:不変)
種族:仙人
レベル:531
HP:1690019
MP:41203777
状態:通常
スキル:剣術LV10、霊剣術LV1、天歩LV2、格闘術LV10、仙体術LV8、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV10、空間魔法LV8、刻印魔法LV10、封印魔法LV10、付与魔法LV10、錬金術LV10、波動術LV1、回復魔法LV10、治癒魔法LV10、神癒魔法LV9、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV10、竜気制御LV5、並列制御LV10、闘気制御LV10、気配察知LV10、高速反応LV10、魔気合一LV10、万象融然LV2、HP高速回復LV8、MP高速回復LV10、真実の瞳、フリキア言語LV9
称号:仙人、聖女、ワールドルーラー、竜機人の創造者、神技の体現者、神樹の守り人
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此処一年、二年で少しは成長できた。霊剣術とか波動術とか使い方すら分からないけれど、スキルだけは生えた。万象悠然というのは魔気合一の上位スキルだったから特にいう事は無い。
さて、目の前に立つ鳥人族は、最低でも種族が仙人に到達した仙気使いだ。レベルこそ私の方が上だが、称号が見えない。完成した仙人だと互いの称号は見えないのかもしれない。若しくはレベルが近すぎると抵抗されるのだろう。
この蒼羽と戦えば何か新しい道が見えてくるだろうか?
「貴台は争いを求めるか」
「必要とはしていない」
貴台ときたか。随分古い呼び方をする。鳥人は右手を挙げて親指で後方を指す。
「あの男を倒した意味は何だ」
「誇りを示したに過ぎない」
獣人にとってのプライドは戦いの中にしかない。力を示すことがあらゆる意味において序列を決め、相手と自分の価値を決める。あらゆる場面においてだ。殺し合いも、政治も、男女関係においても全てが力で成り立つ。この辺は事前調査済みだ。
「素人が我らの誇りを騙るか」
「人間であることには変わりない」
蒼羽の表情は最初から厳しい。ずっと私を睨みつけているが、その顔は人間そのもの。素人と違って目が離れてはいるが、その眉間の皺は先程より深くなり始めた。
「是非もなし」
「・・・」
鳥人族が腰を僅かに落とすと同時に、私は首回りのホックをすべて外した。スルリとドレスが地に落ちて中に着込んだドラグスーツが露わになる。一瞬、周囲がざわッとしたのは何を期待してたんですかね?
蒼羽は獣人としての義務か、それとも只の誇りか、はたまた豹男の仇か。若しくはここに来るまでに倒した同族の報復か知らないが、彼はやる気のようだ。全身を仙気が覆い、次第にそれが流動し始める。羽根に纏わりついた仙気が、より大きな羽根に錯覚させてくる。そのせいか体全体が大きく見えて仕方がない。
結界を張っても無駄だな。
私も竜気を纏うと、先ほどと違い濃度を上げていく。ドラグスーツが共鳴して形を変え、指先は鋭く、腰から頭部に掛けて布地が伸びて覆っていった。急激に失われていくHPとMPが増減を繰り返し、数秒で周囲の地面が砂に変わっていく。環境破壊兵器の出来上がりだ。
「災いの子よ。去ね」
鳥族が言い終わると同時に、足元から青い土の悪魔が襲い掛かってくる。うん、他人のは初めて見たな。私の茶色い土魔さんではなく、色違い土魔さんか。風使いかと思いきや、真逆の属性を完全に操るらしい。
地面ごと盛大に上空に叩き上げられると、蒼羽も上空に飛び上がって追ってくる。想像以上に蒼羽の飛行速度が速い。背中からドラグスーツ製の蝙蝠羽を生やすと、同時に頭部から角が生えていく。顔はスーツに覆われて口の無い人型ドラゴンに成りかけているだろう。
羽ばたいて急上昇し、空間魔法で二つの出入り口を作る。片方は入り、片方は飛び出して急降下する用途だ。上空に向かっていた視界が一気に地面へと向き直り、視界に蒼羽を捉える。
蒼羽は空中格闘戦をお望みなのか得物を手にしていない。同レベル以上の仙人に魔法戦は無駄撃ちにしかならない。仙気が高い魔法防御力を持つ事を良く知っているらしい。或いは羽根が斬撃に使えるのかもしれないが、条件は同じになったんだ。このまま相手をしよう。
上向きに仙気を纏った貫き手を放ってくる蒼羽に対して、右手で竜気を纏った爪撃を返す。爪撃を躱し、クロスカウンターで私の顔に突きを放ってきた。だが、私の顔に届く前に軌道を変えた私の爪撃が爪ではなく腕で相手の右肩を叩く。
金属音が空中に響き渡り、落下する蒼羽が羽を広げ、急制動を掛け空中停止した。同時に羽がショットガンのように私に飛んでくる。ファンタジー世界らしい攻撃だが、牽制のつもりか。
竜気をさらに強くして背中の蝙蝠羽から爆発的なエネルギーを放出すると、曇り空が一気に晴れ渡り、周囲が明るくなる。現在位置は上空五百メートルも無い。地上に向けての放射物は危険だな。
再び急降下した私に蒼羽ショットガンが幾つも飛んでくるが、纏った竜気で弾かれていく。いや、私目掛けて撃ったんじゃない。周囲一帯を覆うために放った!?
「カァ!!」
カラスかお前は、と思いつつ野太い声で蒼羽が放った気合は、散らばった羽根に仙気として伝わり白く輝く。空間結界。しかも相当強力な。
次々と散らばった羽根同士が白い光で繋がっていくと、魔法陣の形を整えていく。綺麗な球状となったソレは、私を包んで次第に小さくなり始めていた。
「ふぅ・・・」
どうも私を封印したいらしい。力比べの勝ち負けではなく、本気で私を災害か何かと思われているらしい。コレジャナイ感が強い。
私は獣人族の本拠地である評議国に戦いをしに来た。それが政治的に最も有利に立てる手段であり、目的を達成する近道であり、メギアに打ち勝つ土台を作る最良の機会だと思っていた。しかしなんだ?
ガッカリじゃないか。
評議国最強と言われている鳥人族が、私を災害扱いして封印? 獣人のプライドは何処へ行った。力を信仰していると言っても良い思想はどうした。
次第に狭まっていく結界に両手を広げて収縮を押し留める。それを見て、蒼羽の眼が大きく見開いた。そんなに驚く事かと首を傾げたが、どうにもお気に召さなかったらしい。苦い顔で睨まれてしまった。
「ガッカリだよ。良い戦友になれると思ったんだけれど」
ビリビリと空気が振動を続ける。
「貴台・・・!」
蒼羽の仙気が爆発的に大きくなっていくが、結界は小さくならない。当たり前だ。蒼羽の空間魔法レベル、気の性質、どちらも私の方が上だ。ステータスは嘘をつかない。
支える両掌で空間結界を掴むように、ゆっくりと指を閉じていく。竜の爪がテーブルクロスを上から掴むように空間結界がひび割れ、歪んでいく。金属を無理矢理捻じ曲げるような奇怪な音を立てながら掌を閉じ終えると、蒼羽の空間結界は砕けて周囲に衝撃波をばら撒いた。
青空がさらに大きく広がると、肩で息をする蒼羽の高さまでゆっくりと降下していく。正対する位置まで来ると、苦し紛れの翼撃を撃ち込んできた。それらを防ぐと、やがて仙気も尽きかけてきたのか、身にまとう光が小さくなっている。
小さくなった光が少しずつ蒼羽の右手に集まり、手首から先が停滞して見えるほどに流動して輝く。仙体術の技か。精度はかなりのモノだ。
最後の力とばかりに放たれた右手の「撃ち」は、私が左手の竜気を高速で放出し続ける事で受け流した。ギルマスの技だ。私の左手に掴まれた蒼羽の右手首を見て、目の前の仙人は驚愕を隠せないでいる。
「もっと鍛える事だね」
「・・・ッ」
素早く、しかしゆっくりと見えるリバーブローが蒼羽の鳩尾に突き刺さる。種族が違っても胃の位置は変わるまい。だが、蒼羽はしぶとく羽根を拡げて羽搏き、真っすぐ地上へと降りていく。
空中に血反吐を撒き散らしながら蒼羽が落ちていく。
地上に短距離転移をすると同時に蒼羽が膝をついた姿勢で仙気を纏い始めた。まだやるか? と疑問に思ったけれど、仙気の流れが普通じゃない。
「回気功?」
「・・・良く修むる。一族の秘伝ぞ」
あたなのステータス欄に書いてあっただけです。知ってたわけじゃないです。
「似たものを視た事がある」
「然様か」
誤魔化せた。だが、回気功の効果は凄まじい。HPとMPが体調を心配する程の速度で回復していく。高速回復の数倍はあるぞ。
「ああ、過剰流動と源流は同じなのね・・・」
蒼羽の周囲の地面は砂地になっていた。魔法を使いながら一気に魔力を集める過剰流動は、集めた力の殆どを魔法行使に使う。
回気功は自身の回復に最適化されているだけで、自然破壊っぷりは五十歩百歩ということか。
「貴方も災害みたいなものじゃない」
「貴台のそれは意味合いが異なるものだ」
国家紛争か足元の砂漠化の違いって事か?
「別に侵略者を自称してるつもりは無いんだけど」
「人心は背を見て断る」
「国民は親の背を見るように、王の背を見ると?」
「然もあらん」
回復が終わったらしい。ついでに説教タイムも終わったらしい。その両手には白銀色の輝きが集まり始めている。
「罪業が貴台を裁く」
「やってみなさい」
随分と悪者呼ばわりされたものだ。
地に足は付けない。空間魔法と天歩を融合し、微かに空中を足場にして右足を前に出し、半身に構えた。
蒼羽は前歯の構え。両掌を私に突き出す姿勢だ。ただ、鳥人だけあって背中の翼撃にも気を配らないといけない。しかも地面からは土魔の気配が濃い。両手が一番厄介かな?
指先に竜気を強く籠めると、空色から銀色へと変わっていく。この力はブラウとシージ曰く「良く解らん」らしい。竜気に空間魔法の属性を込めただけなのだけれど、見た事は無いそうだ。
余剰の竜気で体を覆っていくと、私の周囲が海面のように揺らぎながら薄暗くなっていく。マリンブルーというより昼間の空で星が見えない原理に近い。足の動きを見せたくない一心で編み出したのだけれど、ブランママには嫌がられた。
何故ならば―――。
「カッ!!」
蒼羽の突きが襲い掛かり、竜気を削りながら右手を狙ってくる。端から破壊していく算段だったようだけれど、揺らぐ竜気で蒼羽の手が止まる。ブランママが嫌ったのはこれだ。
闘気鎧のように硬く、しかも流動して位置を自在に操る。アースドラゴン化した時点で解ってたことだけれど、質量のある気を纏えるようになったのは新しい防具のお陰だろう。
「ィッ!」
だが、その竜気の鎧も白銀の指先を完全に防ぐことは出来なかったらしい。構えた右手で払うと、薄く竜気を張った部分に激痛が起こった。
同時に後方に飛び退いた蒼羽が私を観察している。それもそうだろう。私の右手は骨折音を繰り返しながら元の形を失っている。複雑骨折どころじゃない重傷だ。痛みに対する訓練をしていると言っても、痛くない訳じゃない。泣き叫ぶ事はしないが、汗が噴き出て止まらない。
「・・・掠っただけの怪我じゃないという事は、内部破壊? もしくは蓄積した何かが発現した。そういう技という事かしら」
右手を挙げて蒼羽に見せると、相手は無表情でこちらを観察し続けている。視点も動かない。体表に変化も無い。身を纏う仙気にも揺らぎは確認できない。
「違うわね」
神癒魔法で回復しようとしても効果が無い。蒼羽の仙気で弾かれている。
「再現」
そう口にすると、相手の仙気が若干揺れた。体表にも変化が見える。
「そう・・・という事は、過去に負った怪我の再現かしら」
「良く耐えるものよ」
「鍛錬で、どうとでも」
触れなければ良いという物でもないのだろう。相手の気を伝って発動させることも可能だろうし、魔力を伝わせて発動する事も可能だろう。厄介極まりない予想が次から次へと頭に浮かぶ。
対処法は体に思い出させない事か? それなら、闇魔法を試すか。
「カッ!」
蒼羽は一瞬で踏み込んで翼撃を織り交ぜて突きを放ってきた。今度は右腕の肘から肩に掛けて怪我の再現が起きた。闇魔法で自分の怪我に関する記憶を封じてもダメか。私の記憶とは関係ないらしい。
肩口から竜の腕を生やしてみた。蒼羽が苦々しい顔で睨んでくる。
「妖鬼かと疑うものよな」
「ただの人妻よ?」
失礼な。
使い物にならない右腕の竜気を消し、左手で切り落とす。後ろから旦那と息子の悲鳴が聞こえたが気にしない。神癒魔法で再生させると、生えた右腕に再びドラグスーツと竜気が覆った。
「益々、妖か」
「魔神と戦おうというのだから、基本でしょ」
「世迷い事を」
やはり知らないか。紅蓮羽は怪しい気配がしたんだけどな。ま、いい。後で聞こう。そう思うと同時にドラグスーツが大きな変化を始めた。
ザワザワと全身の繊維が伸び始め、尾が生えて手足と胴体が太くなっていく。上空の散ったはずの雲が集まり始め、空が狭くなっていくような感覚を覚えた。私を中心として世界が狭まっていくような、そんな力の収束を感じる。
若干、視点が高くなる頃には変異が終わり、蒼羽を見下ろす形となる。その蒼羽は焦るように、変化を続ける私に向かって突きを放つ。しかし蒼羽が攻撃しているのはドラグスーツであって、私の体ではない。
蒼羽の手を増加した腕で掴み取り、一気に握りつぶす。何か叫んでいるがこの状態だと音が拾えないんだよね。要改善事項です。
両手を握りつぶしたまま蒼羽を掴みあげ、鳩尾に捻り上げるような巨拳を放つと蒼羽は口から血を吐いて気を失った。
気絶した蒼羽を肩に抱えつつ、頭部と手足のドラグスーツを解除していく。ミニドラゴンスーツからピッチリしたスーツに姿を変えていくと、私のボディラインが露わになっていく。少しだけ恥ずかしい。
彼らから見て私はどう映っているだろう?
ボディペイントをした変態?
竜人に姿を変える化け物?
蒼羽が言った通り、災害そのものだろうか?
変身を解除すると膝をついて蒼羽を横たわらせる。HPは神癒魔法で戻したが、気絶したままだ。じきに目を覚ますだろう。それより、やるべき事をやっておこうか。
私は目を覚ました豹男に向かって言い放つ。
「誇りは示した。話し合いといきましょうか」
未だ竜気を纏う私がニヤリと笑うと、豹男が半歩後退った。周囲の家臣には腰を抜かされてしまった。悪気はないんだけどな。蒼羽に倣うとしたら、是非もなしと言ったところでしょうかね。
◇◇
レオンとアルとノールさんに小言を言われつつ、会議を準備する間を応接室で座って待つ。豹男とその家臣たちは随分と素直になり、私達を囲んでいた兵隊たちは蜘蛛の子を散らすようにして去っていった。
蒼羽は目を覚まさないので救護室で横になったままだ。トンボゴーレムで様子を見ているが、精神的に消耗しているのだろう。HPは全開だが、MPが枯渇状態に近い。空間魔法で頑張り過ぎたのかもしれない。
「聞いているんですか、母様!」
アルが可愛い声で叫んでいる。
「もう、聞いてるわよ。そんなに怒らなくても良いじゃない。どう話を進めても、相手が獣人である以上、殴り合いに発展するのは当然でしょう? だから先に終わらせて時間短縮したのよ」
「順序ってものがあります! いきなり国家元首を叩き潰してどうするんですか!」
「いずれ属国にするか併呑するなら、上下関係は先に決めておいた方が良いわよ?」
「そうかもしれませんが、挨拶も無しにさぁ戦いましょうというのは無礼に過ぎます! 品格を問われますよ!」
文官達とノールさんは頷いているけれど、レオンは苦笑いだ。聖騎士三人は良い笑顔でレオンの後ろに立っている。聖騎士組はしてやったりと言った感じか。獣人に舐められたくなかったのかもしれない。
「次からはちゃんと事前に相談するから、今回は許して?」
「はぁ・・・今回だけですよ」
「ありがと!」
長椅子のソファで横に座るアルを抱きしめて、おでこにキスをすると息子は赤い顔になった。でも表情は深刻な呆れ顔だ。私は満足感以外の何も無いけど!
アルが折れたところで応接室のドアがノックされた。準備が整ったらしい。
◇◇
会議は躍る事も無く、淡々と進んだ。西部大森林から溢れる魔物は私達が協力して掃討する事。その条件として評議国を併呑する事となった。
魔神メギアに関しては彼らの中に情報が無いらしい。途中から苦い顔をした蒼羽が参加したが、彼も知らなかった。というか、私達が世界樹に辿り着き、その内部に入り、更には頂上まで登った事すら知られていなかった。
これはお父様が外部に漏らしていない事が大きいのだが、王国の暗部のお陰だろう。書簡貿易の中に該当する情報は含まれなかったらしい。
「合意を頂いたと同時に、竜船からゴーレムを西部に向かわせています。200体50組で、一都市ずつ開放していく事としましょう」
私がそう言うと、取り決め通りにアルが話を進める。アルは私の息子で、東部首長連邦と名を変えた旧評議国において、王国からの使者として行動する事を了承してもらっている。
「これから開放予定の都市を順番に書いた一覧がこちらです。復興部隊を編成の上、追従してください。補充拡大要員の要求リストはこちらです。多ければ多い程、復興が早まります。こちらの連れて来た魔導師の指導を受けさせてください」
こちらの文官の一人が円卓に座る豹男に資料を提示すると、豹男は暫くそれを眺めて横の家臣に渡す。彼が調整役だろう。
「・・・了解した。出せる数は限界がある。難民の生活もあるのでな」
豹男は渋い声だった。掛け声しか聞いてなかったから外見も相まって野獣にしか思えなかったところだわ。
「それについてもこちらで手を入れさせてもらいます。世話役のゴーレムを沿岸都市各地に配置するので、公共施設に配備しましょう。というより、既に向かっています」
私がフォローを入れるのは此処までだ。あとはアルが上手に人を動かし、ゴーレムを動かし、復興の流れを淀みなく動かせば早期に故郷へ戻れる者が多くなるだろう。
「母様、有難う御座います」
「使うのあなたよ。指揮官らしく上手く使いなさい」
「はい」
アルが気持ちのいい返事をした少し後、蒼羽が私を睨む。なんだ?
「貴台は錬金術師か?」
ああ、ゴーレムを大量生産して、そのどれもが高性能な事を疑問に思ったか。
「仙人、竜気使い、錬金術師、聖女、魔導具師、魔王殺し、他にもあったかしらね?」
「・・・」
蒼羽が俯いて考え込んでいるのは大体わかる。彼は私と同じ事が出来たかもしれない人だ。仙人であり、聖者であり、完璧と言っていい程の土魔法使いだ。でなければ、あれ程の速度と正確さで土魔さんは操れない。
足りなかったのは錬金術。
仮に蒼羽が転生者だとしても、錬金術が無ければ私と同じことは出来ない。私と同様に魔法陣を扱うための刻印魔法を会得しているが、格闘戦が出来るほどのゴーレムは作れないらしい。ハイネさんと宮廷魔導士長が名付けた魔刻紋も見せたが、蒼羽には理解できなかった。
私が五歳の時に造ったゴーレムならドレイク程度は戦えるかもしれない。7歳くらいの時に造った狩猟セットのゴーレムならAランクをチームで相対できるかもしれない。しかし今回私が送り出した200体は、錬金術で私の竜気を纏えるように調整したゴーレムだ。専用の竜気共鳴用のパーツを錬金術で錬成しないといけない。
手段はあったが、発想できなかった。もしも彼が魔刻紋を作り出せれば、もしくは錬金術でゴーレム兵装を作りだせれていれば、Bランク程度の魔物までならゴーレムで掃討できたかもしれない。そう考えると、東部首長地域の惨状はマシになっていたかもしれない。少なくとも弱い魔物はゴーレムに当たらせ、蒼羽と紅蓮羽はドラゴンなどの強敵に集中できたはずだ。
「私が特異な存在なのは自覚しているけれど、貴殿と私を比較しても意味がない。あなた達は書簡で再三伝えた援助を蹴った。ただ、その結果に過ぎない。受け入れて自らを鍛え直す事ね。少なくとも貴殿と互角に戦える素人を私以外に三人知っている」
ギルマスの奥義とでもいう技の数々は、少しずつ私とブランママとレオンに伝えられている。私が蒼羽と戦った時に使った技もそれだ。ただの闘気使いが仙気使いに肉薄する絶技。あれ一つ覚えるだけで一年以上かかっているのだ。こと戦闘だけを考えれば、ギルマス以上に参考になる相手は居ない。最近はブランママの天才っぷりが光ってるけどね。私が一つ覚える間に三つ覚えるのは、やっぱり天才としか思えない。
「それは善哉。後輩から修むる事も多分に或る」
「・・・ところで、あなた幾つ? 随分と古い言葉を使うようだけど」
「・・・・・・・・・」
本人も忘れるほどに御高齢らしい。腕組みして天を仰いだまま帰ってこなくなった。しかし、蒼羽の喋り方を聞くと白蛇を思い出すな。
且つて私に短命の予言をした白蛇。あれ以降、何度か話しかける機会があったのだけれども、白蛇は私の問いかけに答える事は無くなった。私を見て何かを見通すような仕草を見せた後、黙って沼に潜ってしまうのだ。実家に帰るたびに顔を出しているんだけど、私の魂は既に問題無いって事で良いんだろうか。
◇◇
東部首長連邦の復興が始まり、沿岸地域には私やノールさんが作った船が入港するようになった。船が南部エステラード港を出発して一週間も掛かるが、マジックバッグを除けば最も多くの物資を運べる手段だ。こっちは主に人材派遣が目的で、食料や建設資源などは竜船とマジックバッグを使って運んでいる。
二週間もしない内に難民居住区は人が捌けて皆それぞれの仕事に在りつくことが出来ている。ゴーレムが前線の魔物を倒し、切り拓いて農地を直し、獣人たちが壊れた家々を修復していく。人員輸送によって爆発的に増えた人口も、元の都市が次々と解放されていくに従って、手が足りないと悲鳴を上げる。
そうして素人の人口が以前の数倍になると、新たな問題も出てくる。これまで身近に居なかった獣人との関係性に困惑し、南部エステラードから来た職人達や作業員が騒動を起こし、それに反応した獣人たちが騒動を起こすという連鎖反応が続いた。
アルはそれを相互理解のヒントとして捉えているようだ。喧嘩や騒動が起きるのは当たり前なのだから、本音をぶつけ合うままにしておくらしい。後追いになるが、新たな法や納得できる暫定手段を幾つも作り出し、時間経過と共に暫定手段を撤廃。その上で本番と言える新たなルールを制定していくようだ。
私より遥かに国政が上手いな。ママはもう引退していいですかね?
一旦、エステラードに帰った私だが、一緒について来た東部首長連邦の人が居る。蒼羽だ。彼はギルマスに用があるらしい。本当はアルを鍛えて欲しかったのだが、闘気すら覚えていない子供など鍛える気が起きないらしい。仕方ないので私がゴーレムを遠隔操作して寝る前に訓練している。尚、息子はあんまり寂しくない模様。息子よ・・・!
王城での生活に戻ったのは良いが、気になる事が増えた。紅蓮羽だ。
蒼羽曰く、アイツは何者かの甘言に惑わされているらしい。犯人は東の守り人だろうか。蒼羽は黒幕を誰なのかを知らなかったし、私が乗り込んだ東の守り人の拠点も知らなかった。アレが魔王になるとは思えないが、監視網で警戒しておくに越した事は無いだろう。
「そういえばハイネさん達はアルについて行かなくて良かったの?」
王城の庭園でお茶会をしている相手は、お母様、アナ姫、ブランママ、ハイネさんだ。ハイネさんは私が東部に旅立っている間にドラゴンを単独討伐し、特A級冒険者になった。つまり名誉侯爵になったわけで、問題無く王族居住区に足を踏み入れる事が出来ている。
「もう教える事なんてないわよ。知識だけは教えたから、後はスキルを得て鍛えるだけでしょうね。因みにアンタより頭は良いわよ」
「それは知ってる。私の方がスキルの覚えは良かったけどね!」
「息子に張り合ってどうすんのよ」
私は多分、何かのブーストが掛かっていると思う。スキルをポンポン覚え過ぎだし、成長速度も異常だし、スキルを使う場合にも特殊な効果が上乗せされてると思う。魔刻紋が良い例だ。
「アル君のスキルを覚える速さも相当だと思いますよ?」
アナ姫が自分の息子と比較して語る。そりゃ、私が無理矢理覚えさせたから。私が思わず視線を外すと、ブランママがニヤリと笑う。それを見てハイネさんが感付いたらしい。私を睨んできた。
「アンタ、生まれたばかりの子に気力制御を強制したわけ!?」
「ちょ、ちょっとだけよ」
「死ぬかもしれないとか考えないのか!!」
お母様が天を仰ぐ。逆にブランママが笑いをこらえて腹を抑えた。二人のお婆ちゃんたちは孫の教育模様に真逆の感想を持ったらしい。
「出来ればHP高速回復も・・・」
「殺す気か!!」
一般的に自動回復系のスキルは何度も死ぬ思いをしないと得られない。私の場合は特殊事例なので参考にはなりません。
「良くアンタの下で、あんないい子が育ったと思うわよ。息子に感謝したほうが良いわよ? アンタのやってる事って、ブランより酷いからね?」
「自覚はある!!」
ゆっくりとハイネさんの指が私のほっぺを摘まんだ。
「な、ら、虐待みたいな事は! や、め、な、さ、い!」
リズムを取ってほっぺを引っ張りまわされると、最後に思いっきり引っ張られて離された。酷い・・・片方だけ赤くなって、悪戯を怒られた子供みたいになってるじゃないか!
「いだい~」
「自業自得よ」
ほっぺを摩りながら紅茶を飲む。うん、美味い。メルトラ産の紅茶は最高だな。それはともかくとして、どうしてハイネさんが王都に居るのかと言うと、魔導士認定試験があるからだ。試験官として参加するらしい。
「何で急に試験官なんてやりだしたの?」
「うちの娘が受けるから同行しただけよ。そしたら陛下と魔導士長から是非にって。ま、アルバイトみたいなものね」
「うわぁ・・・ルネちゃん可哀そう」
ハイネさんの長女トルネーズ(10)は幼年学校も二年前に卒業して、既に私が理事をしている学園で魔導士コースを進めているらしい。
「あんなので緊張するような子じゃないわよ」
「いや、母親が試験官だから可哀そうだって言ったんだけど」
「なんで?」
「あ、うん。気付いてないならイイや」
「?」
ハイネさんは気が強くて芯のある女性だけれど、ちょっとだけ他人の心情を読むのが苦手である。それは見事に娘も被害を受けているようだ。ルネちゃんは母親の扱いで苦労していそうだな。
「下の子たちは良いの?」
「まだまだ未熟だもの。というよりルネ以外は魔法の才能があんまり無いみたいね。気力を扱わせた方が上手だったわ」
「ハイネさんって私のコト言えなくないかな?」
「なにがよ?」
そういうとこだよ!! 見なよ! ブランママも呆れ顔だよ!
「無茶させてないなら良いよ」
「あたしが監督してるから心配ないよ」
「お母さんが見てくれてるなら、まぁ。・・・・うん?」
私の時、結構無茶してなかったか? もう微かな記憶になって覚えてないな。
「まぁ、いいや。仕事も落ち着いたし見に行ってみるよ」
「なんなのよー・・・」
教育ママはスルーしよう。魔導士認定試験にはイルシャちゃんも出るみたいだし見に行かねば。
「穴掘りはもう終わったのかい?」
ブランママ、確かに穴掘りだけど言い方・・・。
「穿孔路は軌道も配置してテスト走行中。まだ無人で走ってるだけで、ヒトは載せて無いけれど、家畜を載せて身体に異常が出て無いかチェックしてるところだよ」
「異常が出かねないモノなのですか?」
「お母様が心配なさるような危険物ではありません。実際には載ってる間には何も感じないですからね。ただ、魔導具を使い過ぎていて魔力酔いを心配しているんですよね」
あら、と左手を頬に当てて心配そうにするお母様が眩しい。今まで色んな貴族を見てきたけれど、お母様より品の良いご婦人って居ないな。
品の良さは兎も角として、魔導列車の魔力酔いは結構深刻かもしれない。
軌道を包むように真空の空間を作り出し、空気抵抗を無くした地下穿孔路を走らせることで飛行するかのような速度を出しているんだけれど、室内重力操作などの超技術が使われているから、その分だけ魔力消費量も多いんだよね。
そうすると使ってる魔力が室内にも充満する。すると室内の魔力濃度が上がり、魔力量一桁の人が乗ると、ほぼ確実に魔力酔いを起こして気絶する。実際に検証したわけじゃないけれど、魔力をほぼ持っていない家畜が同じ症例を起こしているので、少なくとも幼子は載せられないだろう。
「ねぇ、ハイネさん」
「ん?」
「魔法の発動に使われた魔力は拡散して空気中に拡がるでしょう? その残滓とも言える魔力を集める魔法陣て書ける?」
「何言ってんの?」
「え?」
アホの子を見るような目でハイネさんが私を見る。
「アンタのゴーレムに使われてる技術が正にソレじゃない。魔刻紋で書かれてるから意味不明だけど。ただ、魔法陣じゃ無理ね。理論上で可能とされていたけれど、今尚持って魔法陣で実現した人は居ない。あんたが何気なくやってるのは前人未到の技術だって事を自覚なさい、まったく」
呆れたように紅茶を飲むハイネさんを見て、私はその事実を初めて知って戦慄していた。そんな効果が私のゴーレムにあったのかよ!!!!
「初めて知った」
「・・・」
ハイネさんみたいな美人にジト目を向けられると、なんだかクルものがありますなぁ!!
忙しくなってきましたので次回以降は週一投稿になります。ラストまでのプロットは有りますので未完で終わる事は無い筈です。引き続きお楽しみください。




