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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
76/97

073

 評議国へ向かい飛び立つ竜船。それを地上から見送るお父様やフランたちを見下ろしつつ私達は大空へと出発した。


 ブラウの竜船は成長を続けている。半分は内部改装や追加兵装などで大きく重くなったのだけれど、魔力と竜気を基に元の体へと近づいているらしい。最終形態が山脈とか、もはや船と言って良いのか分かんねぇな、これ。


 サイズがサイズなので寝室なども追加されており、有事には複数の客室が臨時ゴーレム工場に変わったりする。戦いながら内装を変更できるのが竜船最大の強みかもしれない。その内、外装も変化しながら戦いそうだな。空陸水に加えて宇宙も行けるので、環境ごとに変えるのもアリだなぁ。


 そんな事を妄想しながら、座席から立ち窓際の空を眺めていた。


 乗組員はブラウとシャルル、そして私とレオン。主戦力はこの辺だろう。チームレオンの内、聖騎士の三人とノールさんは空中だと戦えないし、レオンも辛うじてエアバイクで剣を振り回す位だ。


 宮廷魔導士や神殿騎士、近衛の数名に加えて交渉役の大臣代行の文官達。そして従者が沢山。総勢300名がブラウの竜船に乗り込んでいる。


 貨物を兼ねた定期船を就航しているので、大人数は珍しくない。私達王族がその中に紛れているという事が珍しいだけだ。アルも何だか楽しそうだし。


 アルの周囲には交渉役の文官が付いている。先ほどからレオンと一緒に客室の中で最終打ち合わせ中だ。私とブラウとシャルルは外敵の警戒。守り人が襲ってくる可能性を考えて、ブラウとシャルルが使う切り札のゴーレムも搬入している。


 結局、残りの守り人は見つからなかった。北部魔導議会と西部メルトラの伝承なども調べてもらったのだが、リリーヴェールのような伝説も残っていない。手がかりと言えるものは何も見つかっていないのだ。


 リリーヴェールは明確にメギアに味方していると明言はしていない。ただ、初代陛下の造った王都を守ろうとはしているみたいだ。だが、人類は滅亡しても構わないとも思っているのだろう。彼女にとって人類とは魔物と同義。私達が魔物を狩るのと同じ感覚でいるのかもしれない。


「・・・何も現れないわね」


「主、鳥人族の位置は変化ありません」


「そうね」


 仙人と言われている二人の鳥人族は、探索用ゴーレムのトンボ君で位置を把握している。流石に高高度までは単身で上がれないらしく、天透で捉える機会は無かった。実際は自力で魔神メギアの所まで飛んで行けるのかもしれないけれど。


 それくらい、種族の違いというのは大きい。そして獣人の個が持つ力の大きさでもある。エルフや素人が魔法や技術に頼るように、獣人は自分の力に頼って生きる。生まれてから死ぬまで、個の力で何とでもなってしまう場合が多いのだ。


 コールが知っている限りだと、生まれた獣人は野に放つ場合も多いらしい。子育ては森林や草原の魔物が行い、大きくなったら同じ種族の所に帰ってくるのだとか。帰巣本能やべえな。


 そう言う話を聞くと、人間も魔物も同じだという緑婆の言葉にも頷ける。同時に私達素人が如何に弱い存在なのかという事も理解できる。ただ、あまりにも違い過ぎないだろうか? 同じ大陸に生まれた命としては、違いが大きすぎるような気がする。


 まるで数億年前に進化の途上で分かたれた種族のように感じる。茎進化で土地ごと別れたまま全く異なる進化体系を辿ったのだろうか。だとしたら同じ土地に住んでいたコールはどうなんだ?


 獣人の住む地域には素人も住んでいる。ドワーフも居るし蟲人も居るという。エルフも少数だが住んでいるし、この大陸の中で一番の「種族のるつぼ」と言っていい。まるで蟲毒の様に別種の生物がまとめられている印象を受ける。


 ・・・何故だか分からないが、私が殺した東の守り人を想起した。アイツの実験場だったとは思えないが、全くないなんて事は無さそうだ。


「何にせよ、十分に警戒するに越したことはないわね」


「うん!」


 運転席と補助席に座るブラウとシャルルが頷く。私がそうであるように、二人も何かを感じているのかもしれない。エルフの首都で地下に潜った時の様な予感がする。



 ◇◇



 エステラード王国首都バンドラールから評議国の暫定首都までは凡そ4千キロは離れている。竜船の巡航速度が平均時速六百キロ。凡そ7時間で到着予定だ。


「そろそろ世界樹の根に差し掛かるわ。私が守り人なら狙い処ね」


 操縦席の二人が俄かに闘気を放ち始める。


 竜船と言えど地面に叩きつけられれば相応のダメージはある。特に世界樹の根はその辺の金属より頑強で、現在のところ私しか破壊出来ない。竜船を墜落させる事さえできれば、私達を皆殺しにできる可能性がある。


 こちらもそれを想定して高度三万メートルを維持している。根の高さは地域によって違うが、ここ王国と評議国間の根も二万メートルと標高が偉い事になっている。因みに最も高い根は王国と西部メルトラ間だ。部分的に高度四万メートルに達する。前回私が長城を築いた時は、一部がメルトラ側に侵入して作った。気分は宇宙基地建造だったよ。


 根に差し掛かる前にブラウが機内アナウンスを流す。


<<これより世界樹の根の上空に侵入します。騎士各位は戦闘態勢で配置について下さい。レオン様、機内に敵が侵入した場合に備えて戦闘準備をお願いします>>


 レオン達が後方の客室から会議を中断して飛び出て来た。アルと文官各位も一緒だ。私もドラグスーツを着て待機している。


「ユリア。どうなっている」


 竜船の周囲は地上が見える程度に雲が漂っている。


「レオン、今のところ問題ないわ。出発前に言った通りよ。狙うならココだわ」


 既に竜船の周囲には飛行ゴーレムが編隊飛行しつつ、盾役として周囲を囲んでいる。私ならどうする? 真正面からは仕掛けない。これだけのサイズの物体が飛んでいるのだから、体当たりでどうにかなるモノじゃない。


 正攻法なら直上から質量兵器で押しつぶすか。或いは地上から鎖でも巻き付けるか? この魔法世界でならば至って現実的な策だ。もしくは―――。


 操縦席から見える景色が唐突に明るくなり、周囲の雲が近い部分から次々と蒸発して消えていく。


「上からくる! 耐熱防壁!!!」


「アイアイ!」


 ブラウが叫ぶように答えると莫大な竜気が竜船を包む。光が強まると共に竜船が振動を始め、時間経過と共に震えが強くなっていく。窓の外は真っ赤だ。熱波を感じないのはブラウのお陰か。あとは竜船の性能が高いお陰だな。


「きゃああああああ!!」


「なんだ!なんなんだ!」


「ふせ、伏せろ!落ちるぞ!掴まれ!」


 落ちない。高度計は僅かに数字を小さくしているが、竜船の上昇速度の方が勝っているのか次第に数字を回復させていく。


 周囲のゴーレムは既に溶けて蒸発している。あれでもオリハルコンとミスリルの超合金なんだけどな。熱量だけなら数万度を超えている。地上を見ると山肌を溶かして、山の土に隠された世界樹の根が丸見えになっている。流石、熱線砲でもダメージを負わないだけはある。


 高高度観測ゴーレム「天透」から攻撃者を探すと、竜船の真上を並行するように飛行する何者かが居た。真っ赤な羽根、ヒト型、白い闘気。鳥人族の仙人だ。


「鳥人族の仙人から攻撃されてるわね。どういう事かしら」


「なに!?」


「母様、本当ですか!? なぜ仙人が?」


 レオンとアルが操縦席の背もたれに掴まりながら、横に居る私に聞いてくる。私も同感だわ。どうして鳥人族が奇襲を仕掛けてくる?


「理由は兎も角として、このままだとどうなる?」


 私の旦那は冷静だな。


「ブラウの体力が何処まで持つかね。高位の仙人みたいだし、仙人の回復力と竜機人の回復力、どちらが先に尽きるかの勝負になるわよ?」


「主、私ならあと数日は耐えられます」


 流石、無限再生スキル持ち。竜気を使うと凄まじい勢いでHPが削られていくのだけれど、さっき消費した2000近い体力が一瞬で回復してるわ。


「同じ攻撃が続くのならばね? それにほら、来たわよ」


「!?」


 ブラウが何かに驚いて上を見上げた。あの鳥人、突撃するつもりだ。火の元素魔法が得意なのか、全身に先ほどよりも高温の炎を纏いながら急降下してきた。


 竜船のお尻から幾つかのゴーレムが飛び出し、竜船上部に集合するとエルフ首都でも採用されていた防壁魔法を展開した。


 だが、無駄だったらしい。足元が浮くほどの衝撃を上部から受けた竜船は、竜骨と竜肉で補強している天井部を凹ませた。振り返って様子を見れば、客席の天井がベッコリと下がっていた。貫通しなくて良かったわ。


 天透から様子を見ると鳥人は天井部に張り付いたままだ。超高熱で溶かす気か?


 だが、そこはブラウという数千年を生きたアースドラゴンで作った機体。熱には特に強い。シャルルの竜船ほどじゃないけど。


 目の前で機体制御に集中しているこの子の竜船は、元がファイアドラゴンだった為か、熱量を吸収する。小さいけれどシャルルの竜船にしておけばよかったとか思わない。多分、シャルルの竜船なら今の一撃で貫通していた。アースドラゴンの体はそれだけ頑丈なんだよね。


「土魔さん!!」


 天透を経由して視ている場所に、元素魔法で土の悪魔を召喚する。だが、あまりに高い熱量のせいで触れようとした瞬間に金属製の触手が次々と溶かされてしまう。


「チッ、邪魔ね!!」


 水精霊と火龍を召喚し、水の弾丸を炎で包みつつ土魔さんの金属ボールで包み込み、一気にサイズを圧縮させる。


「ブラウ!冷凍砲用意!! シャルル!バースト!!」


 レオンが私を見て、次に操縦席の二人を見た。説明してる時間が惜しい。


「アイアイ!」


「はぁい!!」


 次の瞬間に天上で大爆発が起き、天透から見た眼下の空に巨大な雲が生み出された。同時に爆発空域を脱出するように竜船が急加速して飛び出す。


 圧縮されて爆発力が限界まで達した水蒸気爆発は、鳥人を吹き飛ばす程度の威力は生み出せたらしい。最悪な事に進行方向に鳥人が吹き飛んだのだけど。いや、自力で吹っ飛ぶ方向をコントロールしたか? 空での戦いはあっちの方が得意らしい。


「冷凍砲、発射!!」


「アイアイ!発射!!」


 周囲の騒ぎが耳遠く感じる程に集中していたらしい。衝撃で転び、怪我をした人を聖騎士達が治療しつつ、操縦席付近の声に耳を傾けている。機内の状況は彼らに任せよう。


「着弾!主、効果不明です!」


 前方に吹っ飛んだ鳥人に命中したと同時に、大量の水蒸気が発生して良く見えない。この量だと冷凍砲は全て溶かされたか?


「シャルル!残り時間は!?」


「あと四・・・、三分くらいしか持たないよ~!」


 急加速を行う際、後方に熱線砲を利用した爆発エネルギーを利用している。火の元素魔法を使うのでブラウよりシャルルの方が適役なのだが、そのシャルルでも長時間の使用は魔力量が持たない。


「ブラウ!衝角生成!!」


「アイアイ!アースクレイドルホーン!アクティブ!!」


 同時に土魔さんと水精霊を呼び出して、操縦席の外部真上に生成した衝角に纏わせる。耐熱性と強靭性を上げて、ドリルのように高速回転させた。


「ぶちかませ!!!」


「叩きつけます!!」


「ヤァ!!」


 目標の鳥人を指さしながら二人に命ずると、更に竜船が加速して衝角も回転数を上げた。ブラウが土魔さんに力を貸しているらしい。私と違って濃紺の青い竜気を纏わせて激しく流動している。


 これを食らったら流石に死ぬか?


 一瞬でマッハ3を超える速度に達したせいか、機内から悲鳴が上がる。みんな、ゴメン。今後の為に重力制御用の魔導具を改良するように、改造案を用意しておこう。


 事後は床掃除が大変かな、と一瞬思いながら急加速に対応できない鳥人に超高速回転衝角がヒットした。ただ、直前に見えたアレは・・・火龍結界か? しかも仙気が混じっていた様だった。


 上昇しながら加速したせいか、硬度は四万メートルに戻っている。天透から見た鳥人は消耗しているのか、地上にゆっくりと降下していった。



 ◇◇



 神癒魔法で怪我人を治療すると、速度を落としながら外装をゴーレムで修理した。お陰で二時間の遅れだ。鳥人族の仙人め。


 襲ってきた相手は真実の瞳でステータスを見る暇が無かった。というよりも、遠すぎるのと移動が速すぎたせいで、視界に捉えても見られなかっただけだ。アレと地上戦は少し厄介だな。可能ならば結界で捕えて、その中で勝負できれば良いんだけれど。


「結局、アレは何だったのだ?」


 レオンの疑問も御尤もだ。私も良く解らん。


「誰か恨まれてるとしたら、私かしらね?」


「だとしても何の恨みなのか・・・」


「守り人?」


「・・・分からんな」


 今のところ、アイツ以外で東の評議国に関わる者で私が倒した相手は居ない。戦った相手も東の守り人だけだ。アラクネの仇とか言われても、魔物が身内だった可能性は考え付かないぞ。そもそも、あのアラクネは守り人の防衛装置だった筈だ。私にとってのブラウ達の様な関係性じゃなかった。


「もう一人の鳥人族が襲ってこない理由も分からないわね」


「母様、評議国も一枚岩ではないという事なのでは?」


「かもしれないわね」


 アルの言うとおり、二人の鳥人族の仙人が仲違いをしている可能性もあり得る。だとしたら襲ってきた理由と襲ってこない理由は、可能性が幾つか考えられる。


「襲ってきた鳥人はメギアの使途、守り人の関係者だった可能性。襲ってこない鳥人はメギアに関係していない可能性。もしくは単に政治的な理由で襲ってこないだけか」


 レオンの想像通りならば、何故単体で襲ってきたのかという話になる。確かに、規格外に強い相手だった。アレならドラゴンとだって正面から戦える、かもしれない。


「思ってたよりも魔法偏重な相手だったわね」


「そうだな。アレならシャルルが相手なら手が出ないのではないか?」


「うん。終止、火魔法だけだったし」


「十分恐ろしかったのですが・・・」


 アルにとってはそうか。元素魔法を相手に戦える、私とレオンにとっては戦いやすい相手にしか見えない。闘気制御レベル10を基準に考えると、魔法使い殺しに過ぎる。竜気はその上を行く性能を発揮し、突貫された天井部は凹んだだけで熱ダメージは皆無だ。単純に突進によるダメージで背骨が曲がっただけと言える。


 人間なら重傷だな。


「あのレベルになると、闘気制御は最高レベル必須ね」


「ぼ、僕は手が出せそうにないです」


 悔しそうにしている姿が可愛かったので、取り敢えず息子の頭を撫でておいた。



 ◇◇



 予定より三時間遅れで評議国東海岸の暫定首都アマツキに到着すると、事前に書簡でやり取りしていた通りの平地へ着陸した。周囲には出迎えの兵士が大量に並んでいる。まるで包囲網だ。


「賑やかなお出迎えね」


「まだ余裕がある証拠だな」


 レオンの言葉にアルが頷く。兵数は凡そ一千。全員が弓を持ち、腰の矢筒に手を添えている。誰も彼も弓術スキルと格闘術持ちだ。意外と剣術スキル持ちが少ないが、揃って闘気制御持ちなところで兵士の最低基準が闘気使いなのかと予想させられる。そう考えると物理戦闘比重の高い騎士のようなモノかと思い、一人一人のステータスを確認した。


「王太子殿下、警戒されているようですが」


「まるで包囲陣形ですね」


 大臣代行の文官とノールさんが小声で言う。文官は緊張しているがノールさんは余裕の表情だ。むしろレオンと一緒にワクワクしているのは何故ですかね?


「攻撃されても兵に手は出しちゃだめよ?」


 私が釘をさすとレオンが残念そうな顔になった。私の旦那、師匠のギルマスに感化されてきてないかね?


「来る途中に思いっきり戦ったのだが・・・」


「アレは別枠よ。そもそも鳥人が下の人たちにとって死んだことになってる理由も分からないのに、こっちから下手は打てないでしょ」


 うーむ、と唸るレオンを余所にノールさんが首を傾げて疑問を口にした。


「責任問題で政権交代があったとしても、あれだけの力を持つ鳥人族が表に出てこない理由が分かりませんね」


「それも彼らから聞いてみましょう」


 アルが言うとおり、下で槍を構えてる連中に聞いてみるとしよう。そのアルを見てノールさんが感心したような顔をしている。普通の子供にしては落ち着いてる、いや落ち着き過ぎだよね。


 西部メルトラから帰ってきてから、アルは肝が据わったようだ。精神的に動揺する事が少なくなったし、冷静な考えが出来るようになってきている。すっかり政治家に染まってしまったらしい。


 母親としては少し寂しい所もあるけれど、頼もしくはある。自我を取り戻した私を見て両親も同じ気持ちになったのだろうか? それを想うとこれは転生者の呪いの様なものかと、少しだけ面白くなって笑ってしまった。


「母様?」


「何でもないわ。少しだけアルを頼もしく思っただけよ」


「ぼくは・・・まだまだです」


 はにかんで笑う息子を愛でつつ竜船が降下していく。どうやら、いきなり攻撃される事は無いようだった。


 竜船は基本的に胴体着陸だが、元々手足が生えている構造なので外から見るとまんまドラゴンだ。警戒されて当然だろう。


 羽根はアースドラゴン時代のを殆どそのまま使っているし、前足は頑張れば槍で武装できる。後ろ足は二足歩行できるように立ち上がる事が出来るけれど、それをやると操縦席以外の乗客が転がる。出来るけど実行する訳にはいかないよね。


 本当ならば客席を縮小して人型の巨大兵器になるように変形機構を仕込みたいのだけれど、それをやると現時点でのブラウでは魔力量が足りない。10分稼働するのに今の20倍の魔力量が必要になるだろう。今のままなら数秒でブラウが気絶しちゃう。


 ヒト型兵器って見栄えが良いけれど、必要性が薄いんですよねぇ・・・。球形で良いじゃんってなる場合が多すぎる。今の形状だって大分、浪漫志向だし。


 四つ足で着陸すると羽根が折りたたまれ、軍用輸送機よろしく後部ハッチが開く。私達はそこから降りる。レオンを先頭にして進みたいところだけれど、ここは私が先頭で進む。国家間の遣り取りの前に、戦いの匂いがプンプンするんですよね。そんなに武威を示したいか? 獣人らしいっちゃらしいわね。


 立ち止まってぐるりと見渡すと、一番強そうな豹顔の良い生地を使った男を見つけた。アレが現首領か。ニヤリと笑って竜気を放ちつつ近付く。一歩進むごとに周囲の兵が離れていく。護衛目的で集まった訳じゃないらしい。


 背中の開いたドレスを着た私を見て、首領らしき豹男が眉根を潜めている。


「余計な言葉は不要」


 私が口にすると、豹男がローブというかマントというか、良い生地の何かをビリビリと破りながら上半身裸になった。全身から闘気が溢れだし、立ち上る闘気が一気に体表に押し留められて膨れ上がる。闘気鎧を発動したが、黄金色ではない。


「待てユリア! 何のつもりだ!?」


 レオンが後ろから叫ぶが、既に豹族の首領らしき男の周りには人が居ない。それを確かめて私と豹族の周りを空間結界で囲った。ギルドの結界よりは劣るが、即席なら私の無詠唱空間魔法で十分だ。


「周りの影響を考えて手加減されても困る。死に物狂いで掛かって来なさい」


「グフゥ・・・フッ」


 今のところ豹男は言葉を喋ってないが、一応フリキア言語スキル所持者である。こっちから出す面子は伝えてあるし、獣人の流儀は個人先行調査で熟知している。


「ジャッ!!」


 飛び掛かって来た豹男は鋭い爪撃で私を引き裂こうとするが、大きな手の小指を握ってゆっくり後方の結界壁へ投げつけた。衝撃で結界に波紋が広がるが、豹男には怪我一つない。


 尚、私は黒いナイトドレス姿なので走れないし飛び蹴りなんて以ての外だ。スリットが入っていないので、小走りが限界。下半身行動不能デバフのままで相対している事に不満なのか、豹男は鬼のような形相で距離を詰めて来た。接近して乱打戦が狙いだろうか。


 三メートル五十センチはあろうかという巨体の豹男は、私の周りを廻るようにして打ち、突き、蹴る。しかし豹男は気付いているだろうか? 一撃を受け止めるたびに手足の指が折れ曲がっている事を。何だか残念だ。ガッカリだよ。自分で分かるくらいに無表情になってきた。


「グッ・・・ガァ!!」


 想いの他、豹男は痛がりだったらしい。私が子供の頃は日常茶飯事だったぞ。私のママは娘相手だろうと上手に骨折させて来るぞ。綺麗に折るものだから、完治した後の方が丈夫になったくらいだ。


 情操教育としては最悪の部類だが、武の一面として考えれば芸術的な教育方法かもしれない。アルにはやらないけど。


 手首、肘、肋骨、胸骨と破壊して顎の関節を外す。隙だらけなんだ、この豹族。上半身を破壊されて、次第に表情を変えない私を見ながら後退る始末。


「貴方、それでも武の象徴か?」


 獣人は力を最も重んじる。故に其処を突かれるとプライドに触る。それを知っているからか、周囲の獣人たちも鬼のような貌をして結界の外から睨んできた。暫定とはいえ、自分たちの最強を嗤われては癪に障るか。


「ォオンガァァ!!!」


 激高した豹男は残った足で前蹴りを放つが、重心を落として真正面から受け止めると、つま先が真下に向くように足を回転させた。面白い様に全身が回転して豹男がうつ伏せに倒れる。


 脚を力ずくで固定しながら歩いて近付き、逆エビ固め風味に関節を決めると豹男が叫び声を上げ始めた。容赦なく重心を落とすとブチブチと嫌な音が響く。数秒の出来事だったけれど、止めになったらしい。ぐったりした豹男からゆっくり離れ、パンパンと手を払って周囲を見渡す。


 何か、みんな引いてない?


 結界を解くと両手を広げて大声で叫ぶ。


「さぁ! 他に強者は居ないか! 獣人の流儀で相手をしてあげよう!」


 数秒待つが誰も声をあげない。取り敢えず豹男に神癒魔法をかけておくか。緑色の光に包まれて豹男の体がゴキゴキ言い始める。ちょっとキモイ。骨折した部位と、断裂した筋が蠢きながら接着しているのだろう。魔法って不思議だね。


 呻き声を上げていた豹男は暫くすると静かになった。状態:気絶になったらしい。元居た場所の、豹男の家臣らしき者達に向かって顎をしゃくると彼らが豹男を引き摺って行く。


 そのまま待って居ると天透の視界に何かが映った。襲撃してきた鳥人族、に良く似た別人だな。竜船に襲ってきたのは紅蓮羽根だったが、この鳥人族は目の覚めるような蒼羽だ。


 目の前に柔らかく降りてくると、周囲を囲む兵士達や豹男の家臣たちが動揺し始める。死んだ者が蘇ってきたとでもいう表情ばかりだ。目の前の蒼羽は無表情な私を睨みつけていた。


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