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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
66/97

065

 公国との交渉は拗れる結果になった。何故かと言うと、権力を捨てられないからだ。それならばと私たちが付きつけたのは、大森林から襲ってくる脅威に関しては、今後も情報提供だけにさせてもらう事、旧魔導国との国交は閉ざさせてもらう事だ。


 今後の海路を使った国交も評議国とは始めさせてもらうけれど、公国は無視する。北の魔導議会とは竜船とマジックバッグを使った交易を始めていく。だから公国は好きにしてくれ。しかし、デーモン達を駆逐した貸しは返してもらう。金銭ではなく物納で払ってくれというと、彼らは慌てた。


 だって金額にして1兆だよ。この世界の経済規模は一つの国で凡そ数千億が限界だ。そんな桁違いの物納なんてしたら、食料を除いた物納でも経済がストップしてしまう。無職大量生産時代の始まりだ。いや、働きはするけどお金は出ない時代になるのか。なんて恐ろしい事だろうか。


 あまりにも大きすぎるデメリットに彼らは戸惑い、「嫌なら戦争ですか?」の言葉には「考えさせてくれ」という言葉を返してきた。


「ではお時間を頂く代わりに二人ほど使用人を頂戴したいのですが、宜しいですか?」


 スッと出した魔法紙には二人の名前だけが書かれていた。それを領主が見ると、何故この二人?と首を傾げている。魔法紙には二人が此処で使っている表向きの名前が書かれていた。


「ふふふ。特に問題ないようですね?では二人はコチラで頂戴いたします。既に本人たちの同意は得ていますからね」


「特に問題はありませんな・・・」


 勝手に人の家の家人を連れて行く誘拐魔と思われているのだろう。面白くはない筈だ。でも、その二人って領主が挿げ変わる前から居たんですよね。別に現領主が集めた訳じゃないので何となく見当違いな感じが否めないのだろう。


 そのまま会議は次回に持ち越し、3か月後に再開する事とした。


 ◇◇


 カッポカッポと馬の蹄の音を聞きながら3人は馬車で談笑する。今、この馬車は公国の街中を進みつつ、商店街に向かっていた。車内には私たち夫婦と悪魔メイドが一人。悪魔執事は御者を買って出た。


「へぇ、じゃあ随分と長い事あの屋敷に居たのね」


「もう二百年にはなります。我らは肉の体を得るまで魔界におりましたが、ある程度の力を得ると漠然と過ごす日々に耐えられなくなったのです。悪魔が罹る麻疹のようなものですね」


「退屈を嫌い、魔界を出てどうしたのだ」


 レオンは今も未だ警戒心が解けないでいる。まぁ、それで良いかもしれない。


「悪魔が肉の体を得る場合、転生法を使います。それまで溜め込んだ力を代償に人の子に生まれ変わり、大人になると年月と共に元の姿へと戻っていきます。最後には人の一生を終え、悪魔の体と変身体を得るのです。御覧ください」


 そう言うと、彼女の右手首から先が部分的に悪魔の手に変わっていく。


「始めの頃はこのような部分変化も出来ません。変身も中途半端な姿が多く、およそ百年は森で過ごします。そのまま魔界から出てきたデーモンも居ますが、彼らは糧を得るために大森林に現れるだけですね」


「遺跡に現れるのは?」


「あれらは遺跡の魔力に引かれて安易に現れたレッサーデーモンです。戦わず、鍛えずとも糧を得られる。だから弱い。いえ、弱いからこそ、遺跡の魔力に惹かれるのでしょうね」


「なるほどねぇ・・・」


 事実二人は強い。一度転生してレベル1になったとはいえ、森で鍛えて来た二人は既にレベル200を超えている。十分にデーモンロードの格を得ている。


「その私たちが最大限に警戒する主は、少しどころでは無いくらいに強いですね」


「あはは」


 笑ってごまかしたが、彼女はすまし顔だ。


「我らはデーモンロードですが、流石に主の魔力は厳しい。余りに強すぎる魔力は害にしかなりません。吸収しようとしても、強すぎる魔力が体を蝕んで行くのです」


「それ、早く言ってよ・・・」


「申し訳ございません・・・」


 スッと魔力制御を抑えると、肩ひじ張っていた彼女が全身の力を抜いて体を背もたれに倒した。同様に御者席から安堵の気配を感じる。


「ゴメンね、気付かなくて」


「いえ、私もメイドの矜持がありますので、耐えられる分は耐え、主の気分を害しかねない様に主義主張はせず、と心得ているのです。エンバーも同様でしょう」


 エンバーとは御者席に座っている悪魔執事の名だ。因みに彼女はコールという名を使っている。どちらも悪魔としての本名では無く、互いに名付け合った人間用の名前だという。名付け合ったとあるように、二人は「人間としては祖父と孫娘」の間柄であり、森で出会った時からの付き合いだそうな。


 にしても、燃えさしと石炭か。どちらも人としての生涯を終えた事から、自分の事を燃えカスのように思っているのだろうな。でも、コールにエンバーが近付けば新たな火が付くかもしれない。そう考えての名なら新たな人生に暖かさと光を求めたのかもしれない。二人の想いの内でのみ真実が判る事だろう。


 ◇◇


 そのまま商店街で観光と買い物をして数日過ごした。他国の王太子夫妻が訪れるとあって、領主館には連日のように公国の貴族が来ていたが、私達が来た目的を話すとみんな目を逸らして離れて行ってしまう。


 まぁ、そうだろうね。実際に大森林からの脅威は自国の力だけで防げた。それでも前線は半壊し、十万単位の人間が死んでいるらしい。たった二万の魔物に、五倍以上の損害を出しての勝利。


 はたしてそれは勝利と言えるのか判らない。それでも町は無事だし、戦いには勝った。しかし残した爪痕は余りにも大きかった。冒険者の激減、各領都の戦力もほぼ失った。それこそ今の子供たちが十五年後に戦力となるのを待たなければいけない程の、凄まじい弱体化だ。


 それだけじゃない、この国は先の戦争で相応の戦力も失っている。場所によっては街一つが消えたりもした。それらの復興も終わっていない。終戦間際にエステラードの報復を恐れての共闘行為。しかし、それも権力欲しさに勝ち馬に乗った貴族が動いたに過ぎない。民衆にとっては頭が挿げ変わっただけの事で、暮らしぶりは何も変わらない。むしろ、正しく政権が移譲されなかった事で悪化の一途を辿っている。


 公国は選択を迫られていた。


「孤児が多いな」


「東に行けば行くほど多いでしょうね」


 レオンが呟きつつ見ている窓の外、そこには5人の孤児と思われる子供たちが、学校にも行かずに細い路地裏でたむろしている姿だった。新入りらしき綺麗な服を着た子供、ボロボロになってサイズの合っていない七分袖のような物を着ている子供。纏め役なのか、彼らが集まる場所に数人の子供を連れてやってきた子供が現れると、たむろしていた子供たちが彼について行った。


「ああやって裏社会の大人になっていくわけだな」


「子供の頃、見た事なかったの?」


「あったさ。でもノールに近付くなって脅されたな」


「さすが賢者ノール」


 レオンが苦笑いすると馬車の進みで路地裏は視えなくなった。


 従者ノールは現在、奥さんの子爵家を継ぎ、レベル200越えの魔賢師として名を馳せている。こうしている今、ノールは私の造った竜船や軍用船の模倣を試している最中で、既に形となって航海に出ている船もある。私の求める代替品を作った事で賢者と言われているらしい。


「色々とユリアの真似事をして試しているらしい。子爵領で村にアダマンタイトの柵を造ったり、農産物の改良をしたり、ユリアから貰った魔法陣を自動車に書き込んで走らせてみたり・・・今度、南央騎士団の臨時講師になるそうだ」


「色々と御活躍みたいね。良かったじゃない」


「本人は領地に集中させてほしいと苦情を申し立てていたよ」


「私みたいに依頼として受ける事は出来ないわね」


「ま、子爵閣下だからな」


 悪戯っ子みたいな顔で笑うレオンは嬉しそうだった。幼馴染が平民から子爵となり活躍を続けている。そんなサクセスストーリーを身近に感じて楽しいのだろう。誰よりも応援していた筈だから。


 領主館に馬車が戻るとレオンの護衛兵である聖騎士の三人が並ぶ。彼らも貴族なのだが、次男三男で実家に戻る事は無い。強さだけなら王国最強クラスなんだけどね。彼らはそれぞれ平民の女性と結婚した。王都の下町に、大きな家を構えているらしい。大店の商人しか家を建てられないような場所らしいので、一般的に見たら豪邸だろう。敷地は広く三階建ての御屋敷住まい。


 奥さん達は二、三代前に貴族の血が入っているらしい。これも偶然だったらしく、奥さん達も結婚してから知って驚いていたという。肩身の狭い想いをしていると思いきや、そこは下町育ちらしく三人の奥さん方を中心に下町で料理店を営んでいると聞いた。少しだけお高い、下町の奥様御用達の店なんだとか。出資者は護衛三人だな。間違いない。


「ブラウ殿がお待ちです」


「わかった。行こうか」


 先程まで貴族達との顔合わせを行っていたところだ。百人規模で集まっていたので後援会のようになっていた。旦那が有名人になって見守る妻の気持ちを味わえたわ。この場合はファーストレディと言えば良いのか?


 あとは竜船で帰るだけ。本当に久しぶりに家に帰れる。メギアとの戦いから何ヶ月ぶりだろうか?


「主、出発しますよ」


「うん、任せる」


 私の後ろで二人の悪魔が固まっている。そうだよねぇ。ドラゴンが人の形を取って運転手してるもんねぇ。二人の肩を叩いて席を指す。


「さぁ、座って。出発するよ」


「「はい」」


 視線は二人ともブラウに釘付けだ。カチャカチャと腰ベルトを着けて、広い竜船の席に座った。いつの間にかキャビンアテンダント用のゾーンが運転席と客席の間に出来ていた。これ、誰が作ったんだ?


「ねぇ、ブラウ」


「主、どうしました」


「この設備って良く作れたね。誰が作ったの? 凄いじゃない」


「主、ハイネリア殿とアルセウス様が作られました」


「マジか」


「マジです」


 試しに遠方にいる息子たちの様子をゴーレム越しに見てみた。


 ---------------------------------------------------

 アルセウス=バエス=エステラード(3歳)

 種族:素人

 レベル:1

 HP:691

 MP:777

 状態:通常


 スキル:火魔法LV3、水魔法LV3、風魔法LV3,土魔法LV3、光魔法LV3、闇魔法LV3、気力制御LV6、魔力制御LV7、並列制御LV5、気配察知LV2、翻訳、フリキア言語LV3


 称号:超えし者

 ---------------------------------------------------


 ---------------------------------------------------

 フラノール=バエス=エステラード(1歳)

 種族:素人

 レベル:1

 HP:11

 MP:1

 状態:通常


 スキル:気力制御LV1

 称号:ー

 ---------------------------------------------------


 この子達、天才ではっ!?


 あ、いや、ちょっと待てフランの誕生日祝えなかったああああああああ!? うわああああああああああああああ!


 座席で頭を抱えているとレオンが慌てて私の肩を掴み問いただしてきた。


「あ、うん。フランがね。フランがね」


「なに!?フランがどうした?」


「一歳の誕生日お祝い出来なかったの!すっごく楽しみにしてたのに!」


 何やら悪魔二人とレオンに生暖かい笑顔を向けられた。そしてブラウにはこんな事を機内放送で言われた。


<<主、フラン様の誕生日はみんなで盛大にお祝いしましたので御安心ください>>


「ブラウのばかぁ!」


<<!?>>


 そうじゃないんだよ!私がこの手で祝いたかったんだよ!アルの時は毎年お祝い出来たのに!私のバカ!もう遠出しない!


 そんな感じで私は不貞腐れながら王国に帰った。



 ◇◇



 メンドクサイ親を演じつつ王城に帰ってくると、王妃様と姫殿下に泣いて出迎えられた。陛下も表情は明るかったが、ホッとした雰囲気を出していたので私が思っているより遥かに心配させてしまっていたのだろう。


「それで、彼らの事は聞いていないが?」


 王城内の王族居住区にあるリビングでアルとフランが遊んでいる。安全マットっぽいフカフカな地面でゴロゴロしている。そんな場面で悪魔二人がアルの傍付きとして欲しい旨を伝えつつ一家の前に現れた。


「あ、大丈夫です。一応、枷は掛けさせてもらいましたから。見せて」


 私は魔法契約書を。エンバーとコールは胸を開いて見せた。思わず陛下と王妃様が構えたのは元冒険者の性質かな。


「エンバーと申します」


「コールと申します」


 二人が優雅に礼をする姿は何処か慇懃で、美しくもある。それはそうだろう、纏っている黒い魔力は隠せない。エンバーが代表で言葉を発する。


「我らは主であるユリアネージュ様と契約し、アルセウス様のお傍に居るようにとの命令を受けております。アルセウス様はこの城にお住いの御様子。我らがこの城に滞在する事はお許しいただけますかな?」


「どういう事だ?」


「そうですねぇ・・・ちょっとアッチでお話しできますか? エンバーたちはアルとフランのお世話をお願いね」


 チラッとアルを見て陛下だけ付いてきてもらった。彼らがデーモンロードである事、人間に転生した暇人である事。人間の魔力の残滓を食らって生きて居る事。既に公国の領主館で200年程過ごしていた事など、彼らの人間性?に問題ない事もレオンと一緒に説明した。


「むぅ・・・いやなに、前代未聞でな。魔物だぞ?」


「アレは心ある存在だと思いますが。それにブラウ達も魔物ですよ。もっと極端な事を言うと、私も人間とは言い難い。違いますか?」


「そうは思わぬ。ブラウ達はユリアが育てたような物だろう。そもそもお主は人間だ。元が悪魔である転生体とは言え、いや、そもそも転生ということ自体が有り得る話なのか?そんな魔法は聞いた事が無い」


「お父様、私も知らない魔法など幾らでもありますよ。旅先で暗黒魔法なんてものまで発見したくらいですからね」


「なんだそれは・・・? とにかく枷というものが良く分からん。どういうモノなのだ?」


「彼らと交わした契約条件はただ一つ。人の幸せになる行動を取る事。破ればどのような状況に置いても、胸の竜印が魂ごと滅ぼす。そういう怖い契約です」


 実際には特定空間に隔離して、空間ごと消滅させるという魔法が発動する。対抗手段がないわけでは無いけれど、私より高位の空間魔法使いが竜気を使いつつ魔法効果を反発させないと回避不能だ。


「・・・少し考えさせてくれ」


「分かりました。でも見てください。もうアルは馴染んでいるみたいですよ。あの子も二人の魔力を感じられる筈なのに、です」


 チラリと扉の向こうにあるリビングを見ると、アルがメイドと遊んではしゃいでいる姿が見える。あの子、絶対巨乳好きだわ。


「だがなぁ・・・はぁ、少し待て。執事頭や侍女頭と話す」


「お任せします」


 こうして悪魔執事と悪魔侍女がアルの傍付きになった。フランのほうは乳母であるティナにお任せである。ティナも再び子供を産んで、アルに続いてフランにも母乳をあげる事になったと喜んでいる。私も彼女に任せられるなら任せたい。新しい人が現れると乳母同士で争うって話も聞くからね。悪魔より怖いねぇ・・・。


あれ、みじかっ

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