表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
64/97

063

 司令部に設置した通信魔導具に連絡が入ったらしい。公国、評議国と連絡を取っていたエルフ通信士が振り返って報告してきた。


「評議国も魔の森からの魔物を駆逐出来たようです!総数3万の大軍だと連絡がありました」


 少ない。やはり他三か所は魔神にとって二の次、三の次、だったらしい。王国で5万、公国では2万程度しか現れなかった。王国はゴーレムとブランママたちが撃破。公国では使役した召喚獣部隊が主立って戦果を挙げたらしい。


「評議国の被害は?」


 ダンエルが通信士に聞いたが、通信士は気まずそうに答えた。


「大森林沿いから攻め込まれた魔物は街を襲い続け、大都市が7つ蹂躙されたと・・・」


「なんという事か・・・」


 その後も継続して連絡が続いた。評議国は獣人を主として様々な種族が住んでいる。魔法陣などの技術レベルは高いわけじゃないが、個人レベルの武力が高い。しかし、大森林深部の魔物には歯が立たなかったらしい。11ある大都市は4つを残して壊滅。港沿いの街を残してほぼ全ての小規模都市は滅んだ。


「これは提案ですが・・・」


 予めレオンに伝えてあったことを彼から説明して貰った。


 いい加減、この大陸で連合を組むべきだという点。これまでは海も空も人を行き来する手段が無かったが、私がゴーレムと竜船でそれを可能にした。しかも海路に至っては私が手を回す事無く魔導船の建造が進んでいる。クラーケンにも負けない船だそうだ。心強いね。


 それらを駆使して国交を結び、大森林と世界樹の脅威から助け合うべきだとレオンは訴える。当然、これまで碌な国交も無かった国々だ。様々な問題もあるだろう。公国は実質王国の属国だし、魔導国は今回の件で名実ともに王国に組み込まれる事が決まっている。


 評議国は・・・、少し難しいだろう。手助けしてやるから属国になれなんて言ったら戦争になるだろうからね。復興支援をするから国交を結ぼう。これくらいで丁度良い関係だ。だが、エステラード一味に加われない事で発展が遅れる事は確かだ。評議国がそれに気づくまでは仲のいいお友達でいたい。


 幸いな事に王国の首脳部は魔導国と公国の属国化に積極的だ。これでどちらの国にも大きな貸しが出来ているし、そもそも公国は国が傾いている状態だ。王国の助力無くして先行き不透明で魔物に滅亡されかねない程に疲弊している。


 魔導国は今回の氾濫が終わっても国力の低下は殆ど無い。王太子妃殺害未遂の国王が居るだけだ。こっちの方が貸しが大きい気がする。


「我が国も変わらねばなりませんな。長老たちは隠居させ、新しい風を取り込む事にしましょう。クーデターだの何だのは言わせません。これは新たな戦いへ向けての協調に他ならないものですからな」


 ダンエルも理解はしてくれた。他のエルフがどうなるかは分からない。


「そうですね・・・世界樹には未だ魔神が居るでしょう。それを理解しない人には受け入れられないかもしれませんが、コーラーファルト卿に説得いただくしかないでしょう」


「うむ」


 レオンが言うように世界樹には元凶がまだ存在する。それさえ排除できれば良いんだけれど・・・いや、待て今なら倒せるのか? ディストーションは魔力的に分解する魔法だけれど、倒すことが出来ても復活されてしまっていた。しかし竜輝光を発する一撃ならどうだろうか。塵になった後、魔力ごと私が吸収できるのでないか?


 実際、闇騎士と戦った時に出来た事だ。その前は魔王ソロモンも同じことをやっていた。試してみる価値はあるのかもしれない。それに魔神と世界樹をなんとかすれば、世界樹の根の問題も解決できるかもしれない。このままキリシアの侵食システムを放置すると、悪用されたままになるだろうからね。


「どうした?ユリア」


 レオンが考え込む私の顔を覗き込んできた。心配させたかな。


「あ、うん。魔神を倒せるかもしれないと思って、ちょっとね。考えてた」


「それは確実な方法なのか?」


「微妙、かも」


「まだ糸口をつかんだ感じか」


「うん」


 私とレオンの会話の最中に一瞬、ダンエルが期待するような目で見てきたけれど、魔神が生きてようが死んでようが魔導国の属国化は止めませんよ? この国、色々と酷いからね。放っておくと多数の人間が不幸になりそうだ。さっさとエステラードに取り込んで幸福度を上げていきましょう。


 ◇◇


 私は手元のコードをプラプラさせ、ダンエルに宛がわれた部屋の机で肘をついていた。どう考えてもキリシアの計画は利用されている気がする。魔神に抗うために世界樹を改造し、それを守る為にキリシアの仲間たちは世界樹を改造魔物に守らせた。


 だが、その改造魔物に使われているコードで魔人の手先を用意されている。故郷に現れたレッドオーガ。魔導国に現れた闇騎士。レッドオーガも私が居なかったら過去の魔導国のような事態に王国も襲われていたのかもしれない。その場合、ソロモンの立ち位置は老神官だろうか。


「もう終わった事だ、か」


 魔王ソロモン、いや聖者の最後の言葉が少し気にかかる。彼は最後辺りで纏った血肉と共に暗黒の魔力から解放されたように見えた。いや、あれは解放というより掌握したのだろうな。それにより精神は解放され、正気を取り戻していたように見えた。


 私と最後まで戦ったのは、もうどうにもならない事だと割り切った上での行動か。そして恨むべき過去も、終わった事として飲み込んでいたのか。


 魂は摩耗して彼も限界だったのかもしれない。ギリギリ間に合ったということだろうか。私はそのまま机に突っ伏して浅い眠りに落ちた。少しだけ、疲れた。


 ◇◇


 その後、ダンエルの協力の元で魔導国の長老議会を調べたところ、聖者ソロモンへの悪行が判明した。


 ソロモンは元々、魔導国内で戦う冒険者のエルフだった。


 数人の仲間と共に大森林で戦い、名声と金を得て力を着けていった。やがてソロモンは大森林内部の古代遺跡でキリシアの遺跡を発見し、仙気を操る方法を解読した。王国では仙気を操る存在が一部で知られているが、魔導国では魔力優勢主義だったらしく、気力や闘気は下に見られていた事が発見の遅れにつながったのだろう。闘気を操るドラグ族が細かい事を考えない主義なのも理由かもしれない。


 かくして仙人となったソロモンは聖者となる。増えていく冒険者仲間と共に南方に街をつくり、エルフの長い寿命の中で街を幾つも作り上げていった。そうして南部にはソロモン一派とでも言うべき派閥が出来上がっていった。


 ソロモン一派に属する、冒険者上がりの貴族が国で権力を高めていくと、それまでの貴族達は面白くない。権謀術数の末、ソロモンが作り上げていった街は古い貴族達に取って代わられ、かつての仲間たちは牢獄へと送られてしまう。そう、私が地下で見たあの牢獄だ。


 仲間を取り戻そうとソロモンは正面から戦うが、古い貴族達の中で味方してくれていた者は裏切り、聖者を持ち上げていた民衆も裏切り、やがてソロモンは一人になった。最後の日に密かに囚われ、彼は地下深くの拷問部屋へと縛り付けられる。


 魔導国が秘める拷問部屋だ。ただの物理的な拷問なんかじゃなく、魔術的な闇魔法を使った最悪の拷問器具だった。飢えと渇きで死ぬことは無く、精神も保ったまま徐々に闇魔法で肉体が朽ちていく最悪の魔術だ。


 ソロモンは連れ去られていく時に仲間が生きていると騙されていたのだろう。牢獄の中で息絶える彼らを見て、誓いを破られた事を知った。その憎悪は計り知れないだろう。そこを闇騎士に付け込まれた。


「ふぅ・・・」


 ダンエルから貰った報告書を読んで一息ついた。ソロモンについて分かっている事を話したところ、長老議会の秘匿された書庫に埃を被った公文書の中から発見された情報だ。聖者を殺したというのに、こんな情報を残しておくとは迂闊なのか能天気なのか。いや、長老同士の裏切りに備えて、裏切られた時には聖者殺しの証拠に使うつもりだったのかもしれない。裏切った者をスケープゴートにするつもりだったか。


 闇騎士については解らなかった。ただ、ソロモン誘拐を画策する際に何者かが長老の一人に提案したという記述は合った。公国からきた騎士とある。まさか公国から山越えした騎士でも居たのか・・・? 騎士でも仙気を纏う事実はある。老神官がそれだ。仙気を纏っていれば単独で山越えは可能だ。


 公国から魔導国に来るには海を渡ってくるしかない。この二国を隔てる山は六千メートル級の断崖絶壁だからだ。仙気があろうと、クライミングで登れるような高さじゃない。いや、風獣なら可能だけれど、そういう記述も無い。


 再びコードを見て真実の眼で分析してみた。やはり古代文明の産物としか表記されない。顕微鏡みたいに能力が成長しないだろうか? 無理か。


「ん?顕微鏡?」


 仕組みに関する知識ならある。必要な素材も自前で作れる。流石に電子顕微鏡は無理だけど、複式顕微鏡は問題無いだろう。


 という訳で三分で試作。


 テレテッテテテテ、テレテッテテテテ、テレテテトテテトッテット。

 テレテッテトテッテ、トッテッテッテテテテテ。トッテトテッテ・・・いや、これも何の知識なんだよ。不意に頭の中に流れるリズムは一体・・・。前世の私は何にハマってたんだろう?


 まぁいいや、作業工程はと。


 物を照らす光が必要だから、超小型の光源魔法陣を刻印した台。その上に二つのレンズで拡大したものをさらに拡大するレンズが二つ。電子顕微鏡だとこの拡大した映像をさらに拡大して撮影する作りなんだろうか? まぁ、複式顕微鏡が出来たら考えてみよう。


 プレパラートは不要にするか。重力操作で下の台の中央に浮くようにして固定する機構と、それを照射する光魔法を組み込んだ超小型照明器具を着けて、ああ、それより観察対象を空間魔法で収納したものをレンズで観察するようにすれば良いのか。これで小型化が出来る。収納空間の中で重力操作して、照明も一纏めにしつつ、レンズも超大型の物を内蔵する。そしてそのレンズの一部だけ空間から出しておいて、飛び出したレンズに観察用のレンズを接続すれば良しと。


「うん。出来た。手のひらサイズの物質収納式顕微鏡」


 試しに自分の血を一滴収納して観察してみた。


「おぉ・・・ミトコンドリア。というか凄い倍率。取り敢えずマイクロ顕微鏡としては使えそうだな。分子の観察もしたいんだけどな。無理か」


 こうして色々観察していると世界が変わっても肉体の構成要素は変わらないんだなって思うわ。細胞が知っている形で少しホッとした。どうして前世の私はこんな事を知っていたんだろ。広く浅い知識って感じだけど、広すぎだろう。


「ん? 何だこの、透明な細胞は」


 血が赤いのは酸素を運ぶ赤血球の色だ。しかし、その間に挟まるように色の無い細胞が幾つも動いている。一滴の血液の中に赤血球と同じかそれ以上の数だ。細胞壁が少し光っているような気もする。


「気力か魔力に関する細胞かな?」


 どれどれと収納された血液に向かって自分の気を当ててみる。少しだけ透明度が上がった気がする。次に魔力を当ててみる。若干、動きが活発になった気がする。


「む、じゃあ仙気はどうだ」


 全身を白くさせると透明な細胞が淡く輝き出して赤血球や周囲の細胞を激しく動かし始めた。そんな動いたら過労死しちゃう。


「おぉ・・・HPがやたら減るのはこれが原因か? なら竜気はどうだろ」


 神癒魔法の魔力を込めると、薄い空色の竜輝光を発し始めた。


「これは世紀の発見ってやつじゃないの?」


 一人でブツブツと呟きながら手元に持ち上げた収納顕微鏡に集中する女。しかし観察に夢中になり始めた私はレオンが傍に居る事に気付かなかった。


「こ、これは! 異能細胞とでも呼ぶものだわ! それに治癒魔法で他の細胞に代替できるとか凄すぎる! もしかしてこれ一つあればクローンも作れるんじゃ!? いやいや、流石に倫理的にマズい気がするわね。いやでも、そうだ! ブラウ達にも協力してもらおう! オレイカルコスも同じ性質をもっているとしたら、もしかしたら融合も可能かもしれない・・・! これはヤバすぎる!」


「何がヤバいんだ?」


 唐突に話しかけられた私は声を失って振り返った。多分、その時の私は笑顔が張り付いた不気味な顔をしていたかもしれない。


「お、おぉ・・・何かあったのか? それ、何だ?」


「えっと・・・うん。変なテンションになって舞い上がってただけ。大丈夫。でも恥ずかしい所を見せちゃったわね。気を付けるわ」


 で、何が出来たんだ?と期待する目でレオンが聞いて来るので手の中の魔導具を見せた。そういえば国家間の取り決めで何か進展あったのかな。もう何回も国王代理で会議しているみたいだけど。


「これを覗けば良いのか?」


「うん」


 流石にお父様をお呼びする訳にも行かず、こちらの要望を伝えた上で魔導国内での意見を取りまとめてもらう事にした。今は纏めてもらった案に対して折衝している所だという。そのレオンが今は私の血を見て愕然としている。


「これは・・・なんだ?」


「私の血液」


「はっ!?」


 おお、予想通りの反応で楽しいわ。


「赤いのは当然として、赤い丸の間に透明な丸があるでしょ。それが魔力とか気力を使う時に使う部分ね」


「ほぉ・・・なんというか不思議な見た目だな」


「みんな同じだと思うよ?」


「そうなのか?」


 試しにレオンのも観察してみた。同じだったので詳細は割愛である。


「それで、長老議会は了承したの?」


「長老議会は無くなった」


「ほぇ?」


 どういう事?無くなった?亡くなった?え、殺っちゃった?


「そんな血みどろの交渉になるとは・・・」


「いや、そうじゃなくて組織がなくなっただけだ。誰も死んでないし怪我もしてない」


「あぁ、そういう事ね。だとしたら国の代表はどうなるの? 魔導国ってエルフ王を擁立するのが長老議会で、それが無くなったとしたらエルフ王の立場なんて無くなるのも同じじゃないの?」


 要は長老議会という組織の一員が国王なのだ。国王は名前こそ王だが、あくまで民を導くための役割を負った長老の一人でしかない。その長老たちは何処へ行くのだろう。


「それが、コーラーファルト卿を始めとした軍部と民衆が蜂起したらしくてな。密かに長老議会の面々を捕らえて、軟禁しているという。王国との戦争を懸念しての事だろう。それと元国王はあのままだろう? 彼は卿の協力者として新しい組織を立ち上げるそうだ」


「新しい組織?」


特に私は・・・何も指示してないぞ。


「王国の一部となるのだから、魔導国という名を変えて北部魔導議会という組織として国王陛下直下に組み込んでもらいたいそうだよ。魔導国がエステラード王国の一部となる条件はそれだそうだ」


 レオンの言った組織には軍部は含まれないそうだ。その代わり、エルフ達の研究機関とドラグ族の文化保存に関する機関が内包されている為、その二つについては国王の命令以外で触れてほしくないらしい。


 まぁ、当然か。彼らには彼らの生き方がある。変えて欲しいとも思わないし、それで苦しめるつもりは陛下には無い筈だ。


「ま、苦しめる人が減るなら何でも良いよ」


「可能な限り変えていくしか無いだろうな。それも長老たちが居なくなったことで変わっていくだろう。元国王が今後は主導していく。彼はユリアの思想に染まってるからな」


「黒幕かと言われると否定できないわね・・・」


 長老議会から見たら悪の親玉だろうな。ブラウ達に「イーッ」とかやらせてみようか。いや、やるのはブラウ達幹部じゃなくて雑兵か? 何だこの知識・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ