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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
60/97

059

 魔導国というのはエルフやドラゴノイド等の、魔力がとても高い人種が興した国らしい。公国や王国のように人族至上主義ではなく、住民の種族も様々だが、やはり魔力が高いと偉いという考えがあるらしく、必然的にエルフやドラゴノイドが大切にされる。


 というのを「公国の情報で聞いたなぁ」と思い出しながら、トボトボと林の中を歩いていた。とっくに大森林での狩りを終え、脱出してしまったので気が緩みまくりである。出てきても精々がデミドレイク程度なので、特に手古摺るわけでも無し。むしろ寂しさを紛らわす相手に丁度いいくらいである。


 幸いな事に食に困ってはいないので、腕輪の機能で毎日のように様々な食材を楽しめている。朝昼晩と大森林で調理台を出すのは私くらいなものか。レオンとブランには腕輪を渡していたので、私と同じ境遇でも大森林ライフを楽しめているだろう。ギルマスは生肉でも食っとけ。


「この周辺って何にも無いんだな・・・村とかも無いのね。魔導国って開拓とかしないのかな?」


 周辺に浮かべているトンボゴーレムは指示中継用の浮遊ゴーレム。つまり「いつもの」である。歩きながら大森林全体と道行く先を見るために、空からチラチラ見ているのだが、特に面白いものが見つからない。古代遺跡は多少あるけど、別にアンデッド相手に戦いたくないので入りたくもない。アイツら臭いし。尚、アンデッドは地上では長い事存在できない。陽光でくたばるからね。


「・・・んぁ? 何か走ってる? 馬車、というより獣車? 追われてんね」


 多少の眠気にぽぁっとした気分のところ、上空のゴーレムが何かを見つけた。


 デミドレイクの群れにドドドドドと煙を上げながら追われている。デミドレイクはB級ドレイクより弱い、ドレイクっぽい下級竜種だ。ブレスも吐けないし火に弱い。竜種を名乗るなと言いたくなる位に弱い。しかし、陸生種と飛空種が生息していて、その二種が協力して狩りをするという珍しい魔物でもある。羽生えてるか足が太いかの違いしかないせいか、交配も可能とか聞いた。最後のは、どうでもいいな。


 空と地上から包囲されまいと逃げ回っているが、この辺には村もないし、ひたすら北に向かって大森林から離れつつ草原を走らせている感じか。周囲を数体の鳥獣が走っているが、アレは護衛の人間が乗っているので獣車のお仲間だろう。


「一応、助けた方が良いのかな」


 知識の中にもある、お決まりのテンプレートイベントってやつか。


 行く当てもないし、と心の内で呟くと、仙気で全身を覆って駆け出した。林の中の腐葉土を踏み抜き、真っすぐ駆けていくと平原地帯に出る。別に林を迂回するのが面倒だっただけで、平原地帯の魔物に見つかりやすくなるのが嫌だったわけではない。


 獣車に近付くにつれて、叫び声が時折響いているのが聞こえてくる。これはキリシア言語だろうか。幸いな事に公国も同じ言語だったので、魔導国も同じという事か。これで東の評議国も含めて同じ言語だという証明が取れたな。東は壁際貿易で会話をしたことがあるので、穴越しに獣人なども見た事がある。嫌な顔されたけど。


 それはともかく駆除しますかね。


「あのー! 助太刀しますかー?」


「うぉっ!? 何だお前は?」


 並走しながら鳥獣に乗った護衛に話しかける。必死だったのか驚かれてしまった。というよりも、騎乗してる獣と同じ速度で走る私に驚いたのか。


「旅の仙人です。助太刀は要りますか? 要りませんか? 要らないなら先に行かせてもらいますがー」


「仙人だと? いる! たのむ! 我らではデミドレイクの群れを倒せん!」


「はーい」


 了解、了解、と手をヒラヒラすると、青い火球を複数作り出して空に放った。火球は空を飛ぶデミスカイドレイクを追い回して、ドレイクたちが回避しようと姿勢を崩す。だが、多角的に動く火球を躱し切れず、順にドレイクたちは頭部を蒸発させて地面に墜落していった。


「同時詠唱で超位魔法を操るなど・・・馬鹿な・・・」


 何かブツブツ言っている鳥騎士を放置して、地を駆けて追ってくる羽根の短いランドドレイクたちの前に向けて飛び上がる。着地と同時に仙気を纏った右足が地面に陥没すると、土砂が津波のようになってドレイクたちを飲み込んでいった。


 血塗れになって辛うじて土から脱出できたドレイクの元に飛び込み、即興で作ったアイアンソードでスパスパと首を落とす。数が多いので、こういう時は土魔さんにお任せしたいのだが、元素魔法を使えないので仕方ない。


 残った数匹も首を落とすと、獣車の一行が立ち止まったのか、砂埃が消えていた。鳥騎士達が獣車を囲んで守りを固めている。私は首回りが1メートル近い太さのあるデミランドドレイクの頭を担いで、会話をした鳥騎士に近付いた。


「終わったよ、怪我は無い?」


「あぁ・・・礼を言う。お陰で助かったよ。ホイスも体力の限界だったからな」


「ホイス? ああ、その鳥の事?」


「うむ・・・そなたは、仙人だと言ったな? 伝説上の存在だが、今の戦いぶりを見れば疑いようも無いな。ホイスを知らないという事は、この辺りの者では無いのか?」


 ホイス可愛いな。キュゥィ~と鳴きそう。


 ドレイクの頭を放り投げて鳥の頭を撫でようと近づくと、息の荒い鳥が頭を下げて座りこんだ。おぉ、可愛い。ナデナデ。羽根もフカフカで気持ちいい~。首に抱き着いてやろう。ふわふわだ~。


「すまん、その、ホイスは初めてなのか?」


「え? あぁ、ごめんごめん。初めて見るから可愛くて、つい。こんなに大人しいなら飼いやすいでしょう?」


「いや・・・ホイスは獰猛な鳥で有名でな。軍羽として使えば怯む事が無いのだが、飼育が難しく、ここまで初対面の者に従順になる事は無いのだが・・・」


「そうなの? 凄く可愛い大人しい子じゃない? ねぇ?」


 うりうりと頭の天辺と顎の下と胸をさすってあげると「キュ、キュゥィィィ」と声を上げた。予想通りの泣き声ぇ! こいつは満点だぜぇ! 一匹譲ってもらおう!


「ねぇ、助けたお礼に一匹頂戴。もしくは野生のホイスが居るところを教えて」


「それくらいなら構わんが、いや、しかし、良いのか?」


「無茶苦茶可愛い」


 はぅ、と撫でまわしていると、獣車から紫色の長髪ダンディが降りてきた。耳が長いところを見るとエルフのようだ。


「そなたが助けてくれたそうだな。礼を言うぞ。私は「キュア!キュェ!キュィィィィ!」な、なんだ?」


 ダンディが近付くと会話をした鳥騎士のホイス鳥が急に立ち上がり、激しく鳴きだした。


「こらっ! 落ち着け!」


 鳥騎士が落ち着かせると、コフコフと小さく息を荒げている。どうしたのだろうか?


「申し訳ありません閣下。どうやら彼女に懐いてしまったようでして、嫉妬したのかもしれません」


「はっは・・・ホイスは主と認めた者を守ろうと従順になるというからな。して、そちらの方は・・・良ければローブを外して下さらんか」


 おお、そういえば私は頭をフードで覆っていた。これは失礼。外して周囲を見ると、なんとも嫌な目線が飛んできた。なにさ?


「素人か?」


「前は素人だったんですけどね。仙人になってしまったので、素人かどうかと言われると、見た目はそうだとしか言えないですね」


 仙人だと・・・仙人・・・ううむ・・・と眉根を寄せてブツブツ言いだしたダンディエルフ。これからはダンエルと呼ぼうかな。


「ああ、いや、これは失礼した。命の恩人にする態度ではあるまいな。私の名はエリュシオーヌ=ド=フラウセス=エラント=コーラーファルトだ。魔導国で伯爵をしておる」


「私はユリア。大森林からの帰り道なんだけれど、少し道に迷ってしまって。良かったら近くの街か村を教えて欲しいんだけれど」


 身分を明かしたダンエルに対する私の話し方が気に入らないのか、周囲の護衛が睨んできた。


「ほう。大森林に一人でか・・・我々も大森林の調査を終えて帰る所だ。良ければ獣車に乗っていくと良い。これから街まで戻る所だからな」


 ダンディが指さす方向は北。やっぱこの辺に村は無いのね。


「有難く便乗させていただきます」


 腰を落として礼をすると驚かれた。おっとイケナイ。これは貴族式の挨拶でした。礼儀作法が身になってるね! 今は要らなかったんだけど。


 50センチほど高い位置にある足場をギミックで降ろしてもらって、三段の階段を上った先にはダンディ以外の同乗者が居た。ドレスアーマーを着た美しいエルフの女性と、弟らしき少し彼女より背の低い男の子。


「お邪魔しますね」


「は、はい」


 緊張した表情の女性が弟の肩を抱いているので、私はダンディの隣に座った。ゆるりと獣車が走り出すと、風景が足早に流れ出す。


「お孫さんですか?」


「うむ。孫娘と、後継ぎだよ。南方にある魔の森を我が伯爵家が見張っているものでな、我が家の伝統行事に付き添いたいと言われて連れてきてみれば・・・帰り道でデミドレイクの群れに追いすがられて、お主に救われた」


 えー・・・大森林の、いや魔の森って言ったか。魔の森の浅いところならゴブリンとかしかいないけどさ、護衛戦力少なすぎじゃね? と言いたい。それにしても随分と乗り心地が良いな。振動が殆ど無い。


「普段からこれ程護衛が少ないのですか?」


「いや・・・魔の森で少し犠牲が出てな・・・それで予定を早めて戻る事にしたのだが、それが裏目に出たというところだ」


 女性と少年が俯いている。ははぁ・・・多分この二人を守る為に犠牲になったとかその辺りか。責任を感じて傷心中かな。あ、この獣車、殆ど魔力で衝撃吸収してる。車軸付近のショックアブソーバーが風と土の魔法で覆われてるわ。


「なら普段の三倍は連れてくるべきでしたね。普段はコーラーファルト閣下お一人で来られていたのかもしれませんが、守るべき人数が増えれば、それらも勘案しなければならないでしょうし・・・」


「そうだな。本当に、そうだ。今回は私の失態だった。孫たちの責任には出来ぬよ」


 ダンエルがそう言うと女性が甲高い声で否定してきた。ソファもフカフカでこのまま寝れそうだなぁ。風獣を出してフカフカしながら寝たい。


「お爺様は何も悪くありません! 私たちが勝手に歩き回らなければ、兵たちも無理をする事はありませんでした。恨まれるべきは、責められるべきは、私たちなのです」


「ごめんなさい・・・」


 少年も続いて謝罪を述べるがダンエルは特に同調しなかった。カーテンもサラサラで綺麗だな。レースを編む技術が高い。手触りも・・・青麟蜘蛛か。素晴らしい。


「いや、目的は調査だったが、お前たちを鍛えようと目論んでいた私にも責任がある。せめて魔法が覚えられればな・・・」


「「・・・・・」」


 ん? エルフは魔力が高くて魔法技術が素晴らしいのでは? と思って彼らを見たが、確かにMPは多い。だが魔法スキルが生えていないし、魔力制御もLV1止まりだ。子供の見た目で50歳を超えて、これはどういう事だろうか。二人に比べてダンエルは魔力制御LV10、魔法スキルも複数持ちと超優秀である。ちなみにダンエルは800歳を超えている。


「あの~、お二人は魔力制御が出来るのですよね? 見れば解りますが」


「はい」


 力なく答えた女性の声がか細い。


「魔法の詠唱式でも発動できないのですか?」


 気まずいというより悔しそうな女性と子供に代わって、ダンエルが溜息を付きつつ教えてくれた。


「詠唱しても発動した事が無いのだ。魔力が高い事も解っているし、魔力制御もLV1だが習得している。それでも発動しない。何か条件があるのかとレベルを上げてみようかと思ったのだがな。このざまだ」


「なるほど」


 それは、まぁ・・・。それならアレが使えるだろうか。


「魔法陣で発動も出来ないのですか?」


「陣では魔力を送るだけで、魔導具を使っているのと大して変わらん。魔力を調節する技術は必要だが、式を自分で作り出している訳では無いからな」


 いやいや、そうじゃなくて。そう思って私が首を振ると、ダンエルが不思議な顔をした。


「ですから、魔法陣を頭で描いて発動できないのですか? こういう風に」


 普段の無詠唱と異なり、上に向けた手のひらに魔法陣が描かれる。これは空中の自然魔力を陣にして発動する魔法の使い方だ。主に大規模魔法の発動にハイネさんが良く使う。


「これは・・・魔力で描いているのか?」


 ダンエルが手で触れようとするが、指先が触れたとたんに掻き消えてしまった。おい。


「指先で書くのも魔力で書くのも、どっちも頭で思い浮かべますよね? それなら、地面に書くのも空中に書くのも、魔力を余分に消費するのを無視すれば、発動自体は可能なんですよ。まぁ、こっちは魔方式の計算能力の代わりに陣を描く想像力が要りますけどね」


 ちょいちょいと描いて光球を出す魔法陣を描くと、部屋の中に光の玉が現れた。

 土の魔法で金属錬成を行い、同様の魔法陣を描いた銀板を二人に渡す。


「膝の上に置いて、魔法陣を見ながら自分の掌の上で描いてみなさい」


「でも・・・」


 唇をかみしめた女性と強く噛みしめる少年が銀板を握りしめる。曲げるなよ。


「大丈夫。やってごらんなさい」


 優しく語り掛けると、二人が自分の膝の上に銀板を置いた。


「両手を前に出して、掌の下に魔法陣が来るイメージを取りなさい。その魔法陣を掌に象って。魔力制御で少しずつ、思い描くの。少しずつ、少しずつ・・・」


 僅かに魔力のモヤモヤが両手の上に集まり、二人の額に玉のような汗が出来上がる。


「集まった魔力を、引き延ばして線に変えなさい。円と刻印。それらを掌に乗せていく」


 楕円になったり、歪な丸になったりと不定形な状態を繰り返し、1時間ほど経過しただろうか。二人の掌には綺麗な円と内部に刻印された魔法陣が描かれていた。


「そこに追加で魔力を込めてみなさい」


 ふわりと二人の魔力が手に集まると、魔法陣の上には光の玉が現れた。


「出来たじゃない。光魔法のライトボールよ。これで夜の明かりには困らないわね?」


 直ぐに消えてしまったが、現実に二人が自分の力で魔法を操った。独力で魔法を発動したのだ。それが実感として現れたのか、二人は両手を差し出したまま泣き出してしまった。


「あ、あぁ、あぅぅぅぅ」


「ぅぅぁぁぁ」


 まぁ、酷い泣き顔なのだが、これまでの悔しさが滲み出た結果だろう。好きなだけ泣かせた。


「おめでとう。これで詠唱してもライトボールが使えるんじゃないかしら?」


 だって二人とも光魔法LV1が生えてるからね。


「はい! やってみます!」


 結果、問題なく発動した。これにはダンエルもニッコリだ。ニッコリどころか涙で頬を濡らしていた。「すまない」などと言ってハンカチで顔を隠していたが、こういう時は抱きしめてあげるモノだよ。


 ◇◇


 街に着いたのは良いが、私はここで失礼しますと言ったら城に連れていかれた。そうだよね伯爵閣下で魔の森に一番近い調査役で、おそらく魔物の氾濫から守る防衛線だもんね。そりゃ大きな街の防衛隊も持ってる城持ちだよね。


 入り口で水晶のようなオーブを持たされたけど、白く光るだけで特に何も言われなかった。あれなんだろうと思ったのだが、素人や獣人の犯罪者が多いので、調べているらしい。種族ごとの波長を読み取る魔導具で、素人は青く、獣人は赤っぽく光るという。エルフは黄色く、ドラゴノイドは黒いらしい。じゃあ仙人は白か。


「仙人? ・・・実在したのか」


 とか衛兵の壮年エルフ(五百歳)に言われた。一応、過去にオーブを試した仙人が居たらしく、聖者なども同様の反応を示すと言われた。それって聖者が仙人だっただけじゃないっすかね。


 10メートルほどの高い防壁に囲まれた大きな街に入ると、普通に街歩きをしているのはエルフ、ドラゴノイドが殆どで、獣人や素人は荷運びなどの作業人だけだった。


 窓から見た商店にはエルフとドラゴノイドだけ。そして獣人と素人は首輪付きが多い。纏め役だけが真面な服を着ているという事は、彼らは奴隷かもしれないな。


 あの光景を見て私が奴隷解放! 奴隷許すまじ! とは思わない。刑罰法としてエステラード王国にも奴隷は居るからね。何を綺麗事を・・・なんて話になってしまうし、個人的にも憤慨したりはしない。この国の正しいやり方で奴隷が管理されているのかも知れないのだし、本人が望んで仕事を得るために奴隷になっている可能性もある。別に鞭で叩かれている訳じゃないし、放置だ放置。


 建物も3階建てが最高で、殆どが平屋だ。それでも丘の上に作られた街なのか、城を頂上として段々に作られた町並みは、統一された白い壁も相まって美しい。夕暮れ時に入城し、城から見下ろした景色は薄っすらと魔法の町明かりが灯っていた。


「改めて礼を言わせてくれ。ありがとうユリア殿。命を助けてもらったばかりか、孫たちの未来を切り拓いてくれた。本当にありがとう」


「ただの気紛れですので、お気になさらないでください。旅人の遊び心ですよ」


 あはは、と笑って返すと、食堂に集まった給仕のメイドや執事等の使用人が皆一様に涙を流していた。なんでよ!


「そなたは実に謙虚なのだな。何か礼をしたいところだが・・・たしか、街へ帰る所と言っていたが、予定を聞いても構わないかね? もし良ければ謝礼金と護衛を着けて送らせてもらうとしよう」


「いえ・・・実は南の王国から来たものでして・・・大森林を世界樹の周辺に沿ってぐるっと回ってたら、こちらにきてしまったので、公国に抜ける道を教えて頂ければ結構ですよ」


 なんと!!とダンエルが吼えた。


「南の王国とは大陸の反対側ではないか! 大森林とは魔の森の事であろう? どうやって抜けてきたというのだ?」


「普通に歩いて狩りをしながらですが」


 出てきた料理をモグモグしながら回答すると、後ろの執事さん達も仰天していた。エルフ料理って野菜が多いな。穀物と野菜に少しの肉。とっても女性好みなのですが、体を動かし過ぎる私には大分物足りない。


「では、伝説の魔物なども倒しているのか?」


「はぁ。ドラゴンとか、デーモンとか、巨人ですか?」


「ギガントを倒せるのか!? ドラゴンも!?」


 デーモンはスルーと。


「倒せますが、デーモンは皆さん普通に倒されているのですか?」


「いや・・・封印は出来るからデーモンは我々でも対処が可能というだけだ。そうか、伝説級を倒す人材か・・・途方も無いな・・・」


 ブツブツと思考に耽るダンエルを放置して食事のお替りを申し出た。量だ! 量が足りんぞ! あと肉をくれ!


 ダンエルに孫二人が語り掛けても帰ってこない為、執事が肩を叩いたら帰ってきた。おかえり、ダンエル。こっちは食べきったよ。


「ごちそうさまでした」


「うむ・・・そなた、相談なのだが・・・二人に魔法を教えてもらえないだろうか? 公国に出国するとなると、それなりの手続きが必要なのだ。我が家の家庭教師として申請すれば、出国許可も下りよう。そなたは出国の権利を。我々は孫の鍛錬を。それぞれ得るモノがあるだろう?」


 う~~~ん・・・元素魔法を封じられている以上、無理は出来ないし。王太子妃の私が暴れたら、関りの無い国とはいえ国家間の印象が悪くなるし。かといって、ここで正体を明かしても良い方向にはならなさそうだし。公国との終戦直後という事も考えて、あまり迂闊な事は出来ない。どの国もピリピリしてるだろうからね。


「わかりました。暫く御厄介になりますが、最悪の場合、公国でも評議国でもどちらも構いません。どちらか、もしくは両方に出国申請を出して、安全に魔導国から出られるなら家庭教師の件は受けさせてもらいますよ。期限付きですが」


「そうか。期限はどれくらいが限度だ?」


「一年ですかね・・・流石に何年も放っておくと、残してきた子供たちに恨まれそうですから。あと家族に叱られそうです」


 陛下とか、ママンとかね。


「しかし、そなたは仙人なのだろう? 仙人は千年を生きると言われているが、家族も同様なのかね?」


「仙人になったのは去年なので、家族はみな存命です。生まれた子供も直ぐに戻るつもりで置いてきてしまいましたからね・・・家族が育ててくれるので問題は無いのですが、大きくなるまでは、やはり心配ですね」


 はぁ、と一息つくと、女性が瞳を潤ませて胸の前で両手を合わせていた。


「私も弟も母を知らずに育ったので、心中をお察しいたします。父は仕事でほとんど会えませんし、家族は近くに居たほうが良いですよ・・・」


「そうですね。ただ・・・」


 そのお陰でキリシア神の狙いや、世界樹の危険性が判った。その点はプラスだっただろう。まぁ、私に何かあった場合を考えると、その事をアルに託せる手段を残さなければならない。それは追々考えるとしよう。


「どうかなされたかな?」


「いえ、何でもありません」


 その後も、魔導国の事や、この街の事などを聞いて夜が更けるまで話をした。彼らも彼らでエステラードの話には興味深げだったからね。


 幸いだったのは、お風呂が綺麗だったこと。薬仙湯という、魔法泉を沸かしたお湯につかる事で、魔力の回復や怪我の回復に加えて、美容や健康に効く効果があるという。長く生きるエルフの、趣味が高じたものだと言っていた。


 客室のフカフカベッドに横になると、久々にゆっくり寝られる快感にあっという間に意識を手放してしまった。


「ふぁ~・・・お風呂良い匂いだったぁ・・・・・・スヤァ・・・」


 ただやっぱり、ご飯は物足りない。


 ◇◇


 家庭教師と言っても、一般常識的なモノは魔導国ならではという部分があるので、複数人の家庭教師の中で魔法に関する先生という立ち位置になった。


「まずは各系統の魔法を、銀板の魔法陣から習得してもらいます。一つ覚えれば同じ系統の魔法は次々と詠唱式で発動出来ましたからね。一日一つの系統で五日間、頑張ってみましょう!」


「「はいっ!」」


 今更だが、二人の名前は女性(89歳)がユベアラ、少年(51歳)がオルディスだ。どっちも生きた年数的には大先輩なのだが、エルフ的には未成年らしい。成長がかなり遅いんだとか。しょうがないね。


 百年で成人だとか。ユベアラちゃんが高校生。オルディス君が小学生高学年ってところだろうか。


 彼らエルフにとっても私の存在は異質らしく、仙人は伝説の中に語られる程度しか現れなかったらしい。数千年の歴史があるにも関わらず、やはり国家としての記録は数百年なのだとか。千年生きると言われるエルフだが、900年前の災害で一度国が滅び、魔導国として再建されたらしい。


 災害は都市を滅ぼし、土地を消し去り、生物は植物を含めて居なくなるという。国家としての歴史を刻む者が居なくなるため、辛うじて他国から流れる情報を基にして国家を再建していくという事を、もう何千年も繰り返しているのだとか。


 そういった事を数十人レベルで生き残ったエルフが語り継ぎ、魔導国を何度も再建しているらしい。二人が魔法陣から魔法を習得してから、そういった話を聞かせてもらった。それが大体一週間ほど続く。


「じゃあ、ダンエル・・・じゃない、コーラーファルト閣下が産まれる100年前に魔導国が出来たって事?」


「はい、凡そ千年周期で発生していますので、あと100年以内には再び魔導国は滅ぼされるだろうと言われています。恐らく、魔の森から現れる魔物の大軍勢で消え去ると・・・」


「だから、ここに街を作って魔の森を監視しているという訳ね」


「そうですね。孫の私たちが碌に魔法を使えないので、王都では鼻つまみ者でしたが、これでお爺様のお力になれます!」


 うむ。志は買うが、まだまだ力不足だと思うぞ。


「まずは魔力制御レベルを上げましょうね」


「はいっ」


 ただ、全ての魔法系統を覚えられたかと言うとそうでもなかった。光、水、風、この三つだけだ。エルフで火系統を覚えるモノは少ないらしく、闇系統はもっと少ない。土か風のどちらかは覚えやすいらしいが、二人とも同じ系統だったので、混合魔法などで姉弟の協力タッグ戦は組めなさそうだった。


 毎日教えていても、目の前で魔力制御を繰り返すだけなので、朝夕だけ付き添って、昼間は殆ど外出している。街の散策で色々と見て回るのだが、私の銀髪青目が珍しいのか、結構顔が売れてしまった。


「おお、ユリアちゃん。いつもの買っていくかい」


「二つください」


「あいよ」


 毎日、買い食いしているのは肉だ。エルフ向けじゃなくてドラゴノイドによるドラゴノイド向けの肉串屋だ。分厚くて長いし肉汁たっぷりスパイシー。これが無いと訓練に身が入らないんですよね。


「いただきます~」


 ミシリギシリゴシュゴシュと恐ろし気な音を立てて噛み千切ると、屋台のおっちゃんが顔を引き攣らせた。


「毎度のことだが、スゲエな。俺たちドラグ族でもひと噛みはキツイッてのによ」


 ドラグ族ってのはドラゴノイドの魔導国呼びだ。普通はそっちで呼称するらしい。


「もむもむ。鍛え方が違うんですよ。咬筋力ならドラゴンにも負けませんね」


 前にふざけてドラゴンの鱗を仙力全開で噛み千切ったら、歯型に鱗が砕けたからね。いやー、あれは笑った。ブランママと一緒に大笑いしたわ。


「仙人ってのは何処か、ぶっ壊れてんじゃねえのか・・・」


「ごちそうさまでした。はい鉄串」


「おう」


 因みにこの肉は食用蛇だ。肉質は硬くて味が濃厚である。なので安くて美味い。大穴で飼育して一年間生き残ったのを食べるらしい。蟲毒みたいな畜産方法してんな、おい。


 こうして出歩くようになってから、街の中を散歩しているのだが・・・何と冒険者ギルドがあった。驚くべき事に、システムとしては他国にも伝わっているらしい。だが、エステラードのギルドはエステラードで完結している為、魔導通信機などで接続されておらず、ここから連絡を取る事は難しい。


「でも、難しいだけで連絡は可能なんですよね?」


「いえ、ですから、国家間の連絡は国の許可が要りますし、隣国の公国と評議国にしか出来ないんですよ。王国に向けて連絡何て、魔導国としても出来ませんからね?」


「むぅ~・・・」


 冒険者ギルドの支部長という方に伯爵の紹介状を見せて会わせてもらったのだが、KONOZAMAである。そう都合よくは行きませんか。


「じゃあ、一応登録だけお願いします」


「はい、では簡単な試験を行いますので、訓練場にお願いします」


 支部長と軽く模擬戦をして、ランクCとなった。ベテランと同等らしいけど、B以上は国の認可が必要なので、これで勘弁してくださいという事だ。別に最下級のランクGで良いと言ったのに。


 尚、支部長はドラグ族なので体格は私の5割増し、腕の太さは私の腰と同じだった。それを倒したのだから、受付のエルフお嬢様は最初に顔を合わせた時とは掌返しになっていらした。


「こ、こちらがCランクのギルドカードになります」


「ありがとう。ルールとかは支部長から聞いたから説明は省いて良いよ」


「お、お疲れさまでした!」


 まだ冒険者として何にもやってないんですけどね。という事で適当に掲示板の依頼を見繕う。デミドレイクの討伐、レッサーデーモンの封印、キュクロプスの討伐隊参加、シルバーウルフの捕獲、ファジーアイの素材納品、護衛依頼各種、薬草関係、人探し、物探し、相談相手? なんだこりゃ。家の手伝いなんてものもある。上は危険極まりないものから、下は引っ越しの手伝いなんて何でも屋的なモノまである。


「いろんなのがあるなぁ・・・」


「よう、あんたぁ、良かったらキュクロプスに参加しないか」


 振り返るとドラゴ族の女性が居た。背が高いので少し陰になっている。何で女性だと判るのかと言うと、ドラゴ族というのは後ろに流れるように角が生えている点と、手足や背中に鱗が生えている事と尾がある事を除けば、人間と大差ないからだ。あとデカい。男女関わらず体がデカい。そして女は胸が全員デカいし、男は股間が大きい。


「お誘いはありがたいけれど、伯爵様に家庭教師をお願いされてるから、長い間は離れられないんだよね。一日で帰ってこられれば良いんだけど」


「一日は流石に無理だぜ? 魔の森に行って帰ってくるだけで二十日は掛かるだろ」


 女性だけど話し方はアニキだな。アネキと呼ぼう。


「移動で二十日、探索で五日と考えたら一か月弱でしょう? ちょと許可が下りないよ。悪いけど他を当たって」


「しゃーねーな。また誘うよ」


「ごめんね」


「いーって」


 気にしてないというふりをしながらアネキは去っていった。支部長との戦闘試験を見ていた一人だろう。他の依頼は・・・これは近場かな。地下水脈の水龍ね。面白そうだ。


 ビッと剥がして受付に持っていくと、先ほどの受付嬢が空いていた。ビクッとされたけど気にしない。


「あの、ちょっといい? これって近場かな?」


「えぇっと・・・はい、街の外にある湖の事ですね。地下水脈に繋がっていますので、そこに居る水龍が湖に出てきて、漁をする船を襲うそうです。こちらの依頼はランクAですが・・・?」


「これってランクCでも受けられるよね? 依頼受領するから、対応中にしておいて」


 エステラードと違って受注にランク制限がない。良い事だ。


「しかし危険ですよ!」


「じゃあいってきまーす」


 あの!と続く言葉を無くした声を背に受けて、午前中の早い時間だというのに人通りの多い中央市場を湖側の港に歩いて行った。


 外でアネキに遭遇したけれど、ちょっと湖に散歩に行ってくると言うと、「へっ、気を付けなよ」と応援されてしまった。察しの良いひとは好きよ。


 大通りを西へ真っすぐ進むと港がある。湖を囲うように作られたこの街は、この湖のお陰で栄えていると言っても良い。水も豊富だし、海に繋がっているせいか漁も安定して続けられる。岸では養殖業も盛んで、海苔のような物や、海産物に近い生物が育てられている。淡水なのに海苔が出来ているように見えるので、私からすれば不思議な事この上ない。


 一番長い桟橋を歩いていくと、先の方に大きな船が止まっていた。


「こんにちは~~~!!」


「あ~?! なんだお嬢ちゃん!」


 船の甲板にいるドラグ族に声を掛けているので10メートルほど上の人に向けて大声で会話してしまう。周囲のドラグ水夫も注目するので丁度いい。


「水龍について教えて欲しいんですけど~!」


「あ~! ギルドのお使いか何かか!?」


「そうです! どの辺に出て来るか調べたいんですけど!」


 面倒なのでそうしとこう。


「大体真ん中らへんに海に繋がってる穴があるって話だ! そこから入って来たんだろうぜ!」


「ありがと!!」


「おう!」


 んじゃ行くか。桟橋の先から飛び降りて、水夫たちが「おい!」と声を荒げているのを背に水魔法で周囲を覆う。形を整えて蛇のようにすると、水の中に潜らせた。


「海に繋がっている水中洞窟か・・・ここって随分と内陸じゃなかったか?」


 自分の周りだけ風魔法で空気を作ると、巨大な蛇の頭部に小さな丸い宝石があるように見えているかもしれない。若干緑の燐光が輝いているので、そのように見える筈だ。


「ちと暗いな」


 蛇の周りに光魔法で明るさを加えると、光の玉が奥底まで湖を潜っていく。湖底に着いた光が点々と光る。それらを増やして行くと、凡その湖の大きさが把握できた。


「大体直径3キロってところかな? そうすると水龍は500メートルくらいかしらね・・・? ブラウより大きかったらどうしようかと思ったけど、一応真竜の一種だと思うから竜核もあるのかな」


 目当ては竜核だ。ブラウとの念話が届かない以上、中継できるものならして欲しいし、人化出来るならば手伝いをお願いしたい。ブラウみたいに大人な竜機人になるか分からないけれどね。


「中央の穴はあれか。行ってみましょうね~」


 これぞ冒険だぜぇ。ニヒヒと怪しい薄笑いをしながら入っていくと、ライトボールをばら撒いていく。意外と深くまで潜り、途中から横に逸れていく。魔導国でも南部の方にあるというのに、こんな所から海に繋がっているのかな・・・?


 方位を北に向かって暫く進むと大きな空洞に繋がった。空気があり、海水と思しき水が流れ込んでいた。そして・・・・・・世界樹の根が空洞の壁を覆っていた。また会いましたね。


 よく見ると海水は根が岩壁を割った場所から漏れており、その部分が水圧で押し広げられて湖の淡水と混じっている。元々あった行き止まりの洞窟に穴を開けられたのだろう。幅20メートル程の広さまで広げられたその穴は、水龍と思しき何かが通るには十分かもしれない。


「あの奥に行ってみましょうかね」


 流れ込む海水に向かって入ると、その中は狭い道。そこを100メートルもしない場所に入っていくと、水の巨大プールが広がっていた。やけに広く、ライトボールを配置しても底も奥行きも見えない。


「海底? じゃないね。ここは・・・・・・・!! 水龍の巣か!」


 気配察知で感じる気配。しかも1匹だけじゃない。数匹でもない。100匹以上は居る。そのサイズは最大でブラウ級。最も小さい個体で私の予想した500メートル級。


「ちょっと舐めてたわ水龍」


 水蛇の体を土魔法との混合で作り変えて、材質をオリハルコンベースに変更。全身を流体金属で出来た刃の鱗で覆い、仙気と神癒魔法を込めると白く輝きだした。


「これは本気で行かないとねっ!!!」


 ゴォゥ!!!と直径100メートル級、全長5000メートル級になった長大な金属蛇が水龍たちに襲い掛かる。


「湖に出て人間を食い殺した奴は誰だ!フルメタルモード!オリハルコンドラゴンゴーレム!!!」


 一番巨大な奴に襲い掛かり、頭部のエラを含めて風魔法で覆う。巨大な頭部を巨大なシャボン玉が囲んで内部を真空にしていくと、暴れ出す巨大水龍にオリハルドラゴンの体で絡みついた。


 キユゥゥアァァァァルルルゥァァァァァ!!!


 魔力を使って水中に念話のような音質の鳴き声が響くと、巨大な水龍がウォータカッターのような水圧砲でオリハルドラゴンの体を切断しようと暴れ狂った。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴと遠くに見える壁が水圧で破壊され、岩が上から落ちて来る。膨大な魔力が濁流となって周囲の水龍が巻き込まれると、彼らは次々と意識を失って気絶していった。どうも巨大水龍の使った魔法は周囲から魔力を吸い上げるらしい。


「あんたはっ、同族をっ、なんだとっ!思ってんだぁぁぁぁ!」


 オリハルドラゴンの頭部に巨大な剣を作り出す。ユニコーンの角のように鋭い輝く角に神癒魔法を纏わせると、流れに乗って運ばれてきた仲間の水龍が剣に当たって真っ二つになった。剣に触れた部分が消滅した姿を見て巨大水龍の抵抗が激しくなる。


「仲間を盾にしてんじゃぁねぇぇぇぇ!」


 キィィィァァァァァァ!!


 悲鳴のような魔力音をあげながら水龍の頭部が胴体から切り離された。ゴバンッと音でもしそうな切れ味で、気持ちがいいほどだ。


 竜核は・・・あった。オリハルドラゴンの鱗を変形させて大量の触腕にすると、その体を素早く解体して竜核のある場所を開く。それを取り出し、手元に寄せると腕輪に収納だ。肉は食えるのだろうか? 地上種のドラゴン肉は毒性が強すぎてダメだったけれど・・・食えるのか。特A級肉だ。貰っておこう。


 水中でスパスパと解体してブロックで収納していくと、倒すより解体の方が時間が掛かってしまった。物欲の権化とか言わない。


「後は他の水龍だけど・・・」


 目が覚めたのか、他の水龍は私の周囲を取り囲むだけで大人しくしていた。コイツらって私の言葉が解るのかな? まぁ良いや伝えてみよう。


「上の湖に来たら、同じように食べちゃうから。来ないように気を付けなさい」


 意味は通じたらしい。だって一斉に逃げ出したもの。魔気合一で反応を探ると、どうやら海に通じている方へ逃げていったようだ。出入り口の洞窟を閉じておこう。


 海底の洞窟工事を終えて世界樹の根がある場所に来ると、同じようにこの空間も土で埋めておいた。こんなもの、見つからない方が良い。多分だけどこの根はキリシアの造った「世界樹を殺す根」だ。延々と別大陸を目指しているのだろう。


 それでもきっと、他の世界樹が作り出したメギアは殺せない。他大陸のメギアから守る為に神気結界を張っているのだろうけれど、それもいつまで続くのやら。全く面倒な事を知ってしまった。


 土木工事を行いながら呆れていると、収納腕輪のついていない方の腕時計ゴーレムは午後三時を示していた。おっと、夕方の訓練に送れちゃう。


 ドボボボボボと土魔法で大量の土を生み出して適当に空間を埋めていくと、僅かに海とのつながりが出来るように道を残して、その場を去った。ギルドへの報告は明日でいいや。カテキョが先ですよ。


 日が傾いてきた頃にボバァァァァァンと水面からオリハルドラゴンが飛び出して、元居た桟橋に頭部を寄せる。キリキリキリキリと剣状の鱗が解体されて魔力へ還元されていくと、浮いた頭部から私が現れた。


「ほっ」


 スタッと桟橋に着地成功。帰ろ。


「ちょぉッと待った! 何だ今のは!?」


「え? ゴーレム」


 シレっと答えて、じゃあねと言うと、ドラゴ族の水夫たちは固まってしまった。


 ◇◇


 桟橋をトコトコと歩いていくと、ガヤガヤと騒がしい大通りの群衆を早歩きでスイスイ抜けていく。途中でおやつのクッキーを買って城に戻ると、いつもの通りに二人へ魔法制御訓練を課す。


「はいじゃあ、二つ同時に発動して見ましょう。両手にポン」


「ぽ、ポン」


 掛け声は同じじゃなくても良いよ。ユベアラはセンスが良いのか直ぐに出来た。


「う~・・・出来ない」


 オルディスはまだ魔力制御に慣れていないせいか、難しいっぽい。エルフにとっての51歳は素人の10歳と大して変わらないらしいからね・・・。本当かな。少年とはいえ見た目はそれなりに成長してるんだけど。


「オルディスはまず一つで訓練しなさい」


「はい」


 癖なのか、う~、と呻きながら光球を動かしたり大きくしたり小さくしたりと試していた。本人は真剣なんだけど、遊んでいるようにしか見えない。それらを横目に見ながら私は私で訓練をしている。


 空間魔法で収納空間を作り、作った精霊人形、火トカゲ、風の羽根人形、光の玉、土のゴーレム、水精霊、闇の鳥などを次々と入れていく、場所が無いので収納の中に数十万数百万という数を作って意のままに遊ばせると、もう一つの収納空間を作り、今度は収納空間の内部でゲートを作って彼らを移動させる。


 これだけで一千万近いMPが持っていかれるのだが、使う端から数万単位で回復していくので、途中で止めないと周囲の魔力を吸いつくしてしまう。


 同時に自身を仙気で覆い、高速で流動させると恐ろしい勢いでHPが削られていく、こっちはHP高速回復の訓練と仙気の訓練用だ。合わせて微弱な神癒魔法を混ぜ込むと、私の周囲の魔力が回復していく。魔力すら癒す神癒魔法。永久機関かな?


「いつみても美しいですね・・・」


 ユベアラのいう通り、私の周囲は緑の燐光で蛍が舞っているように見える。使った先からMPを吸収し、神癒魔法で回復していく。驚異の自家発電! なんか誤解を招きそうだな。言うのはやめとこ。


「ふぅぅぅぅぅ・・・」


 呼吸法の訓練も併せて行うので、ブランママから教わった呼吸法は朝夕二回は全種類使うようにしている。殆どが戦闘時に行う魔力を使わない身体能力向上用だ。これが地味に効くので仙力を扱う時は必ず併用する。地味な効力が相乗効果で効果アップするのが不思議。


「ふむ。彼女を見ていると、人類種の神秘を見せつけられているようだ。我々の可能性の先に居るのが彼女なのだろうな」


 ダンエルが帰って来たのか、哲学的な事を言っている。そういうのはあまり興味がないので勝手に目指してください。


「僕もなれるかな・・・」


「時間はいくらでもある。お前も努力を続ければよい」


「うん」


 私になりたいのならオルディス君は気力制御からだなぁ。ちと厳しいかもしれないけど。


 1時間ほどこの状態を続けて、大体終わる頃には訓練場の一角が砂場になる。神癒魔法の弊害だろう。魔力を与えて土の力を使い果たしてしまうとこが、この魔法の問題点かもしれないな。そういうところは世界樹に似てるけどね。多分、同質の力だから、聖女キリシアも対策を考え付いたんだろうな。それが回復魔法系のリミッターなんだろう。


 訓練が終わってユベアラと一緒に風呂に入ると、途中でオルディスも一緒に入る。エルフって基本的に混浴なんですって。そんな風習なのに、オルディスは私の胸をガン見してくるのはマナー違反じゃないんですかね。見返すと大体見て無い振りをして視線を逸らすところとか、本当に子供っぽい。


 ユベアラもそうだけど、エルフで巨乳はあんまり居ない。殆どが真っ平らだ。多分種族的に大きい乳は長生きする上で邪魔なのだろうな。私は年取らなくなったから関係ないかもしれないけどね。


 そんなオッパイ理論を考えながら今日も今日として、フカフカ布団にダイブした。あ、竜核・・・明日作ろう。


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