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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
59/97

058

 世界樹に来て二回も気を失うとはね。相当、世界樹に嫌われてるのかな。そんな事を考えながら目を覚ますと、今度は全員が揃った状態で歩いていた。私はブランママの背中だけど。


「お母さん、ありがと」


「ユリア、目が覚めたかい」


「ん。もう大丈夫。降ろして」


 地に足を着けるとその足はまだ光ったままだった。もう私に寄ってくる魔物は居ないらしい。


「魔物、居ないね?」


「ああ、残り物がたまに飛び掛かってくるくらいだ。ユリア、本当に大丈夫か?」


 レオンが私の目を交互に見て状態を読み取ろうとしている。体の状態と、心の状態を。


「うん。ありがとう、もう大丈夫だよ」


 んっと、軽くキスをして立ち上がると、全員のステータスを確認しておく。寄生は無いな。よし。今歩いてたのは、あそこに向かう為か。


「あの中心、意外と遠いね」


「ああ、大きさに誤魔化されそうになるが、ここから数十キロはある」


 レオンが双眼鏡でエレベーターを見ている。アレは距離測定にも使える魔導具で、光魔法の届く距離を魔法の発動に必要な魔力量で計算している。短距離なら弱い魔力で、長距離なら膨大な魔力で、といった具合だ。調整が難しい魔道具なので単価は豪邸が買えるくらいだけど。


「風獣で行こうか」


「全員乗れるのか?」


 ふわりと自力で浮かぶと、レオンが驚いた。


「私は自分で飛べるから」


「そう、だったな。元素魔法か」


「そう、それ」


 三人を風獣に乗せて、私は風獣の顎に掴まって引っ張ってもらう。重力操作で重さを無くせば乗る場所がある限り、何人でも乗せられるからね。竜船無しだと自力では数人の重力操作が限界だな。やっぱり、あの系統は竜魔法が本家本元なんだろうか?派生で微かに土の元素魔法で使えるってだけなんだろうな。


 十分ほど全力で走ってもらうと、幹の足元まで到着した。大きすぎてこれも壁にしか見えないな。それでも、世界樹全体からすれば細い中心の幹にしか過ぎないのだろうけれど。そういえば外から見えた部分は幹じゃなくて枝の集合体だったのかな。


「どこかに入り口がある筈。まずは外周を回ってそれを探そう」


「了解だ。あるとすれば地上か?」


「多分そうだと思う」


 これがエレベータだとすれば、だけどね。


 上空から地上の魔物に向けて空爆を続けつつ出入り口を探す。マギアゾルス達は空中を飛ぶようなスキルは持っていないらしい、楽が出来て助かる。ぐるっと一周するまで風獣の足で30分ほどかかった。かなり早く移動して貰ったつもりだったんだけどな。直径がかなり大きい。


「これかな。入口って言うか穴だね。奥に続いてる」


「罠は?」


 レオンが呟くと、ブランが返す。


「今のところ無いね。まぁ、あたしも罠感知は上げ切ってないから全部は見つけられないが・・・」


 物理的な罠は見分けがつくけど、魔法的な罠は難しいなら魔気合一で探せるだろうか。


「ん・・・・・・あるね、真っすぐ進むと召喚魔法陣と捕縛用の陣がある」


「よくわかるな!」


 ハゲうるさい。魔物が寄ってくるわ。魔法陣に離れた地面から干渉して両方の陣を解除すると、空中に魔力となって霧散していった。これで良し。


 あとは周辺の・・・あれか? 乗り物のように見えた箱は、どうやら乗り場そのものでカーゴは上にあるようだ。窪んだ地面には、恐らくそこに収まるであろうスペースが用意されている。


「多分エレベーターで正解だと思うけど・・・案内板がボロボロ過ぎで何処に行くのか判らないし、動く様にも見えないね」


「そのエレベーターってのはつまるところ何なんだい? イマイチ理解できなかったんだよね」


 う~ん、ブランママに解り易く説明するには・・・。


「そうだねぇ、箱を吊り上げたり降ろしたりして、真っすぐ上下に素早く移動する乗り物、かなぁ。箱が止まったところに乗り降りする横穴があるの」


「あー・・・それって危なくないか?」


「だよね、私もそう思う。でも危なくないように作ったのが、恐らくコレなんだよね」


 撫でるように壁のボタンらしきものを押すと、私の魔力を吸収して光った。動くんかい。


「離れてて」


 入り口と思しき壁の模様の上に、右端から左端に動く光点が見える。数字らしきものが見えるけれど、それがフリキア言語と違うのか良く分からない。パターンに沿って何かを表示しているというのは何となく解る。一応、十進法なのだろうか? 似たような文字が繰り返し表示されていく。


 四桁から三桁へ。三桁から二桁へ。そして一桁になると、真っ暗闇な上空から何かが降りて来た。


 落下の危険性を考えて離れていたが、問題なく降りてきたようだ。壁の模様が開くとガリガリガリと音を立ててガラスっぽい大扉が開いた。搬入口のようにも見えるが、巨人サイズの一般エレベーターのようにも見える。


「乗ろう」


 全員無言で神妙そうに頷く。だけど全員ニヤけているのは冒険者故か。恐怖より好奇心が勝っているようだ。


 内部に入って壁を見ると、やはり階層表示のボタンが見える。最上階っと。カチッと押すと扉が音を立てて閉まった。同時に重力操作で全員の体重を軽減する。途中落下は勘弁してくれよ。


「これが、1だとすると、2がこれで、3,4,5,6,7,8,9・・・やっぱり10進法か。一階層をどれくらいの高さで作ってるのか知らないけれど、3000階層まであるみたいだよ。一階100メートルの建築物だと考えたら、空を超えると思う」


 エレベータの壁は強化ガラスで出来ているのか、少し曇っているが透明だった。上昇する速度は少しずつ早くなっており、あっという間に階下に散りばめておいた巨大光球が小さく見えてしまった。


「空を超える?」


 空気の無い、宇宙空間と言おうとして止めた。今は言っても意味が無いと思ったから。結局風の結界で何とかなるしな。それに、景色が暗いままだから。既に半分以上の階層を上っているのに、未だに世界樹の中を上っているだけだ。外の景色が見えてから説明しても遅くない。


「空気が薄い・・・風の結界」


 同時に酸素を作る。水と火と風。これで電気分解が可能だ。窒素も作っておこう。


 扉の上の光点はまだ動いたままだ、延々と上り続けて30分以上経っている。体もフワフワするし、大気圏を超えて無いか?


 そのとき、ふと外の景色が変わった。


「なに? 木の幹がこんなに近い?」


「これは頂上付近ってことか?」


 私とレオンがガラス窓に張り付いて確かめるように眺める。


「おうおう、いよいよお出ましって事か!」


「ユーリ警戒して!」


 神気が濃い。すぐそこに大本がある。大本になる何かを感じる。

 ガラスの向こう側の幹が素早く下に流れていくのを暫く眺めていると、一気に視界が開けた。マズい。放射能!!!


「くっ」


 光魔法で防御幕を張る。体は・・・まだ全員問題ない、けど少しダメージを受けてる。これは何だ?紫外線とガンマ線?ただの放射能じゃないのか?分からないな・・・。


「何だ今のは? 熱を、痛みを感じた」


「ってええな。なんだありゃ、光魔法か」


「つぅ・・・」


 皆は軽傷で済んだようだ。私もHP回復スキルで瞬時に治った。その程度のダメージだったが、結界が無いと継続ダメージを食らいそうだ。そう考えていると直ぐに頂上に到達したのか、扉が開いて目の前にはガラスのような床が広がっていた。


 馬鹿じゃないのか。宇宙空間に壁も天井も作らず、床だけの場所。そこには周囲の床を何かの植物が放射状に覆い、中心地点だけがどこかの噴水公園になっていた。こんな所で水? しかも地上並みの重力がある。


「全員私から離れないで。離れれば太陽の光で焼かれて死ぬわ」


 多分、太陽だけが原因じゃないけど。


「あ、あぁ・・・」


 中心にいるのは一人の髪の長い人間・・・じゃない。何だあれ。木犀族の文献にあった古代種? それって人間なのか? いや、そもそも魔力を感じない。なんだ、あれ。


 何度かステータス閲覧を試みようと真実の瞳を試すが、軽い頭痛がするだけで弾かれてしまう。しかし数十回も試すと、体が慣れてきたのか漸く見る事が出来た。


 その、恐ろしげなステータスを。


 ---------------------------------------------------

 00000000(p歳)

 種族:l@nw

 レベル:420118

 HP:q

 MP:f

 状態:@神化


 スキル:魔神

 称号:魔神

 ---------------------------------------------------


 見た目は銀髪碧眼で私によく似ている。

 背丈も外見年齢も、私によく似ている。

 白いフード付きのローブを纏っていて、神気と思しき淡い光で輝いている。

 体も、服も、全てが暗い黄金色に薄く輝いている。


「こんにちは」


「やア」


 言葉が通じる。声も私にそっくり。思わず一歩を踏み出した。


「私はユリアネージュ。あなたは誰?」


「私はmajin。マジン。魔人。魔神。マシン。なに。此処へ?」


 何だコイツ。心が人間とかけ離れているのか?


「あなたと話をしに来た。この世界について教えて」


「ハナシ。この世界。ここは監視所。キミは侵入者」


 いきなりかよ。まだ聞きたい事があるぞ。


「邪魔してゴメン。知りたい事があってきた。何で監視してるの」


「謝罪、シャザイ。受け入れる。監視、キリシア、命令だから」


 チョット・・・マジか。キリシアってもしかして、古代人か? だとしたら、この大陸を覆うように上空を神気が流れているのはキリシアの目的の一つなのだろうか。


「ここから大陸に結界を張ってるの?」


「ケッカイ。防壁。漏れないように。壊されないように。守ってる」


 外敵が居るような言い方だな。


「大陸の外には敵が居るの?」


「イル」


 うわぁ・・・。視界の端に映る遥か彼方の別大陸には茶色しか見えないが・・・どうやら何かが居るらしい。神気の結界で守らなきゃならない脅威が。そういえば、あの緑婆も外敵が居るような事を言っていたな。


「敵って何?」


「国、敵の国、壊す国、ここが最後、もう何もない」


 え。


 思わず周囲を見た。地平線の向こう。遥か先まで続くこの星の海の向こうに、別の大陸が見える。その大陸は夜なのに、明かりが一つもない。大都市と言えるものが無い。


 また違う別大陸が遥か彼方に見える。だが、ここからは高すぎて何があるのかが分からない。


「もしかして、全部滅んだの」


「もう何もない。国も、命も、何もかも」


 おい、嘘だろ。


「・・・何で私を呼んだの?」


 ずっと疑問だった。何故私がこの世界に生まれ変わったのか。どうして私の息子もこの世界に生まれ変わったのか。まるで記憶だけ消されて、いや処理されて送り込まれたように感じたんだ。それが出来るのは、目の前に居るような超越者だけだと思った。


「わから、ない」


「あなたが呼んだの? キリシアが呼んだの?」


 コイツは機械のようなモノだとしたら、私を呼び出す装置か? それとも外敵から守る為の結界装置なのか? だから私に外見が似ているのか? 一体何なんだ。


「ワタシ、私、わたしが、呼んだ、私を呼んだ」


 目の前のそっくりさんが頭を抱えて蹲りだした。なんだ?


「どうして・・・」


 何のために死にかけた世界に呼んだのだろう。外敵とは何だろう。


「強い、つよいから、ツヨイ、強力な個体を取り込ムたメダ」


 その結果がそのレベルか。見る見るうちに魔神の全身から、見覚えのある白い紐を生やして私に向かって伸ばす。つまり私は餌。キリシアは敵なのか? いやそれよりまずはコイツを片付ける!


「ディストーション!」


 詠唱したまま魔力を蓄えておいたとっておきをぶっ放すと、私そっくりの魔神は数多の紐ごと上半身が消滅していた。そのまま駆け出し、仙力を全身に激しく流す、流し続ける。


 ドゴゴゴゴゴゴッ!と連続して拳が魔神の下半身に突き刺さり、次々とその肉体が消えていく。全て消え去った頃には、魔神の気配も消え去っていた。


「みんな大丈・・・」


 あれ、そういえば何で途中から誰も気配がしなくなったんだ?


 私と一緒に来たのに、どうして誰も・・・。


 振り返った先には誰もいない。エレベーターがあるだけだ。


 倒した魔神の方を向くとやはり誰もいない。


 辺りには噴水の水音すら響いていない。


「なにこれ・・・どうなってるの」


 透明な足場から世界を見下ろすと大きな噴水から伸びた幹が、足場の端に向かって広がり地上までその根を下ろしている。どうやらこれが世界樹の正体のようだ。これを枯らしたら、あの配線入りの魔物が世界に蔓延るのかしら? 私の故郷を襲ったように白い紐に覆われた魔物が襲撃してくるのかしら?


 そもそもあれは何? どうして世界樹の内側にだけあんなのが居るの? 魔神は魔物を操って何がしたい? 知らなければ。此処で情報を得なければ。


 他に何かないか探すと、噴水の壁面に何かを見つけた。四角いガラス面と四角い・・・キーボード?


 カタリとキーを打つと、画面が反応した。「ようこそ」と表示されている。

 適当にキーを打つと「ようこそ」画面から何かのリスト表示へと切り替わった。


「アォーヴの玉水・・・? この噴水の事か」


 古代文字をどうして読めるのかもわからないが、色々と項目を見ていくと、解っていく事がある。


 この世界は私達が世界樹と呼んでいるものに寄生された星らしい。


 星の命を吸って、あらゆる生命エネルギーを手に入れて、世界樹に還元する事で、新たな世界樹の種が産まれるらしい。世界樹の種はやがて次の星を目指し、同じように繰り返すという。この塔はそれを防ぐために世界樹内部をくり抜いて作った妨害装置、とある。


「なんなの、これは・・・」


 あの魔物たちは誰かが用意したもの? 星に寄生する世界樹に寄生している人口魔物という事? 種は、種子は魔神? だから私を・・・養分にするために呼び出した? じゃあ定期的に文明が滅んでいたのは、アレが地上で暴れていたから? キリシアはこの妨害装置を作った?


 資料の中に度々出てくる、キリシア=リネア=ミューリォルという名がある。これは女神キリシアじゃないのか?


「世界樹は種子を生み出す。種子は何度でも蘇る。種子はメギアとなり何度でも生まれる。」


 何となく表示された文字を読み上げた。メギア=魔神で良さそうだ。だって・・・。


「あの、向こうに見えるのって、世界樹だよね・・・」


 別の大陸にもあるから。


 何だよ。何なんだよこの世界は。この大陸以外には何も無いって言うのは、大陸が壊死してるって事か。世界樹に、種子に、メギアに大陸ごと養分を奪われたのか。だからキリシアはこの大陸だけでも救おうとしたんだ。だからこんな、軌道エレベータみたいな妨害装置があるんだ。


「たぶん、そういうこと、だよね」


 キリシア達の努力の甲斐なく、種子は残っていた。そして私は栄養源として種子に呼ばれた。だから私も、アルも、この世界に転生したのか? だからユニークスキルみたいなものがあって、成長しやすい体なのか? 餌にする為に?


 解らない事だらけで頭が混乱してくる。


「こんなの、間違ってる」


 落ち着け。今私が考える事は何だ? 取り乱して悪態をつく事か? 感情に任せて批判する事か? そうじゃないだろう。


 足場の淵に立つと、世界を見下ろせる。地球と違って丸くない。平らなんだよな。いや、むしろ魚眼レンズみたいになっている気がしないでもない。まぁ、それはともかく・・・。


「ふぅぅぅ・・・・」


 考えを纏めよう。


 私たちの大陸には神気を使った結界が張られている。この大陸に結界を張ってるのは、キリシアの造った妨害装置の力だろう。世界樹をエネルギー源として、装置を稼働させている訳だ。


 神気は種子じゃなくてあの噴水から感じる。そしてあの噴水の神気は、この大陸の世界樹から取り出されている。つまり噴水が妨害装置の中心核だ。世界樹の種子であるさっきのニセモノは、取り出された噴水の神気を吸収して奪い返していたのか。あの異常な高レベルはそれが原因か?


 空洞の中の魔物はキリシアの仲間たちが用意した防犯装置というところか。私達のような門外漢が現れても撃退し、妨害装置を守り続けてくれる。そうしていつの日か、キリシアが改変した世界樹の根が文字通り世界を覆いつくして、他の世界樹を駆逐する。記録を見る限りでは、そんな世界を夢見ていたようだ。しかし、魔物の全身に巣食っていた白い紐を見る限り、妨害装置の守り手はメギアの手に落ちている。


 キリシアの計画は、既に失敗している?


 世界に仇名す世界樹の一つを利用し、他の世界樹を食わせ、残った手元の世界樹を始末する。それがキリシアの描いた計画なのだろう。しかしメギアも大人しくしている訳じゃなかった。守り手に寄生し、下界の魔物に寄生し、自分の餌を集めようと躍起になっている。


「わ、たし、ワタシ、私は、生まれる。何度、でも」


 声のする方へ振り返ると、噴水から生えた木の幹からメギアのヒトの形をした植物が生えていた。そのヒト形の足が幹からプツリと離れると、私に手を伸ばしてくる。


「なん・・・」


 メギアは何度でも生まれる。こういう事か。


「ディストーション!」


 ディストーションで消し去ろうとしても、耐性が付いたのか、耐え方を学んだのか、緑の燐光が散らされて効果が出ない。


「ワタシ、私が、私を食らう」


「土魔さんっ!」


 空中の至る所から魔金属が溢れだしてメギアを捕らえる。ギリギリと金属で埋め尽くされたメギアはその動きを止めて、脱出しようと神気を周囲にばら撒いていた。


「ワダ・・・ジィィィィ」


 自分のステータスを見ても変化がない。先ほどコイツを倒したはずなのにレベルが上がらない。コイツを消耗させているようにも見えない。噴水から永久に神気を吸い続けているのか?


 噴水を破壊すれば復活は止まるかもしれないが、妨害装置は停止してしまうかもしれない。噴水から生える幹を睨む。そうなると、メギアは結局成長してこの大陸を蝕むだろう。そして配線入りの魔物たちも大陸中に解き放たれる可能性が高い。


 なら先に下の魔物たちを駆逐するか? いや現実的じゃない。数が多すぎる。レオン達と一緒に・・・レオン達は何処に行ったのだろう。ついさっきまでは横に居たのに。


 気配察知を最大まで範囲を広げてみても、三人の反応は感じ取れない。此処に居ないのなら、下に落ちてしまったのだろうか・・・。


「・・・・・」


 メギアは動けないままだ。更に大量の金属精錬を行い、その周囲を覆っていく。ゴーレムを複数配置して監視もしておこう。ここまで私の視界共有のリンクが繋げられるかどうか分からないけれど、何も無いよりマシだ。


 ギシリとも動かなくなった金属の塊を放置して、再び噴水のコンソールを操作する。持ち帰られる情報を全て持ち帰る。金属板を作り出し、印刷代わりに次々とコピーして彫り込み、腕輪に収納していく。


 全てのページを移し終える頃には、太陽が薄く消えかかっていた。この世界の太陽は中空で消えていくだけだから。


 二つ目の太陽が一つ目を追うように消え始めている。そして太陽は月光に変わっていく。やはり暗くて見えなかった大陸も、茶色の大地が続くだけだ。何もない。植物と思しきものは一切見えない。あるのは巨大な大木だけだ。しかもそれは枯れ木のように朽ちてしまっている。種子は既に巣立った後という事か・・・。


 呼び出した金属がメギアの体を覆い、その隙間から私を捕らえようとコードのような白い紐が追い縋る。どんどん数を増やして動きを速めていく。


「さよなら、メギア」


 再び消し去りに来るその時まで。そこで眠っていなさい。


 足早に逃げて、フワリと足場の端から飛び降りると、ゆっくりと私の体が落ちていった。重力の弱いこの場所では、直ぐに落ち始めないようだ。


 背中から大地へ向けて落ちていると、透明な足場が遠く離れていく。脇には巨大な幹が徐々に太くなり、地に近付くにつれてその様子が加速していく。幹は折り重なって地上のあるような壁に姿を変えていく。


 それらを視界に収めつつ、ゆらりと体の向きを地面に向けると、風の結界が炎を纏い始めた。まさか、魔法世界で個人大気圏突入を体験するとは思わなかった。


 摩擦熱で消滅してしまわないように、風の結界に魔力を送り続けると、やがて大地の緑が近付いてきた。北の大森林・・・?


 一瞬だけ、魔力の壁のようなものを通過したのか、鳥肌が全身を覆った。が、異常は無い。ステータスにも変化はない・・・何だったんだ今の。そう言えばいつの間にか、亜神化が解けているな。体の発光も収まっている。


 地平線を見たが、若干の違いを感じた。エステラード王国じゃない。どこだここは。どうも急いで逃げ出した際に、降りる方向をミスったらしい。碌に確認もしないで大気圏突入するとか馬鹿か私は。くそぅ、面倒な事になる気がしてきた。


(ブラウ、シャルル、シージ、聞こえる?)


 反応は無い。眷属との念話も限界距離があるのだろうか。眼下の緑と霞のような薄っすらとした霧が見える頃には、地平線の彼方が徐々に見えなくなってきた。


 取り敢えず風獣で移動をしないと。そう思ったが反応が無い。何で? いや、元素魔法そのものの反応が無い? 気付けば周囲の風の結界も薄れて消えている。慌てて風魔法を使うと、私の体を覆って滞空し始めた。


「空間・・・使えるわね。上位魔法は使えるのに、一部系統の魔法が使えないのはどうしてだろう。神癒魔法も使えるけど、治癒魔法が使えない・・・?」


 魔力を集めて頭の中で式を思い起こし発動しようとしても起動しない。魔法その物が発動しないようだ。何かに阻害されていると思った方が良いかもしれない。


「何とも面倒なところに落ちちゃったわね」


 ゆっくりと落下していくと、巨大な鳥のような魔物が近付いて来る。丁度いい餌だと思われてるっぽい。真っすぐ嘴を開けて突っ込んできたので、口の中に巨大な岩を入れてやった。


「グギャルルャァァァ!?」


「よっと」


 頭に乗って闇魔法っと。すまんな、私の足になってくれ。


 手早く洗脳して周囲を確認すると、森の少し開けたところの真ん中に着陸させる。同時に地中から襲ってきた巨大ワームが大口を開けて数本襲ってきたので焼いておいた。


「むぅ・・・くっさ、酷い匂いだね」


 ペッと嘴から岩を外させてあげると、大鷲のような鳥がこんがりワームを啄み始めた。美味いかい? 私は遠慮させてもらうけど、たんとお食べ。


(ブラウ、シャルル、シージ、今あなたの脳内に直接話しかけています・・・聞こえますか・・・聞いて・・・感じて・・・考えて・・・理解した?・・・)


 再びブラウ達に念話を送ったが、やはり届くことは無い。何か変なメッセージも送ってしまったが、まぁいいだろう。腕を伸ばして、太陽の位置からこの世界流の位置測定を試す。どう考えても王国の都市に近い位置に当てはまらない。


「はぁ・・・太陽と世界樹の位置的に、北の魔導国かな? 良く分からないところに来ちゃったな」


 魔導国は情報が殆ど無い。私達が戦争した公国とも、あまり国交が無かったらしく敵味方どちらかというと敵視していたようだ。それでも世界樹の根があるせいで公国との戦争には至っていなかったらしい。


 それよりも元素魔法を封じられているのは、魔導国特有の何かだろうか。落ちてきた時に感じた境界線のような魔力に理由がありそうだ。結界の中に入った感じがする。


 この大鷲で移動するのも目立ちすぎるし、大森林を長時間飛んでいくのも危険だ。私はドラゴンに襲われても平気だけど、この鳥は無理だろう。墜落してそこから大森林を南に地上移動して・・・・・・・・どれくらい日数が係るんだろうか。


「はぁ~~~~、普通の道を歩いて帰ろう。そうしよう」


 面倒な事になったと思いながら、あの3人の無事を祈った。聖女だしきっと祈りは届いてくれる・・・筈だ。女神が古代人って時点で届くか不安だけど。


 今のところ心配し過ぎて胃が痛いが、実力的には3人とも落下ダメージで即死するような事は無い。最大レベルの闘気鎧というのはそういうものだ。


 私は頭上に魔力中継用の魔導具を作り続けて浮かべながら一番近い道、つまり北に向かって歩き出した。


 考えてみれば一人旅は初めてだ。少しだけ、寂しいな。


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