057
実家の裏庭で作戦会議を始めると、ハイネさんがやってきた。
「あ、ハイネさん世界樹イクヨ」
「断る」
はぁ? とブランママと私が首を傾げた。
「せめて、せめて子供が大きくなるまで死にたくないの。お願いだから育てさせて?」
「ちょっと見に行くだけだから、ね? ちょっとだけ」
「嫌よ! そのまま最後までするつもりでしょ! ブランみたいに!」
ごめんちょっと意味が解らない。
「これこれハイネ? そういうのは良くないよ」
ブランママが年上のハイネさんを呼び捨てにして真顔で制止している。怖い。私の知らない所で何かあったのだろうか。
「あ・・・ごめんなさい」
あ、これ踏み込んだらイカン奴だ。何となく過去のアレを連想するけど止めとこう。プライバシーの侵害ですから! 違反を犯したハイネさんだから解る事だ。
「・・・で、何でこの面子で集まってるの」
私、ブランママ、レオン、アナ姫夫妻、アルエット夫妻、子供達、そしてハイネさん。アルエットは何の問題も無く結婚しました。
「世界樹の内部を見てみたいねツアーの参加者?」
「やめなさいよ! ドラゴンの密集地でしょうが!」
アルエット夫妻がひぃと悲鳴を上げた。そういや言って無かったね。
「夢と冒険の為なら例え火の中水の中・・・」
「ドラゴンだって言ってるでしょ!」
「でもドラゴンだって自我の残ってる子も居るかもしれないじゃない?」
それはそれで危なそうだなと自分で言って思った、けどこの際、冒険者の好奇心を煽って力押しで話を推し進めよう。
「それにさ、見たいじゃん? 天辺」
「そりゃ見たいけどさ、あんたは一番感じてるでしょう? 上から吹き下ろす凄い力」
神妙な顔でハイネさんは言った。体感したハイネさんだから危険度合いが判る言葉だ。大森林の根本に居ても伝わる魔力の爆風とでも呼ぶべきだろうか。あの場所には、言葉で表し切れない圧力が掛かっている。その場に居るだけで疲弊していくので、ハイネさんとブランママが慣れない内は帰りの竜船の中でグッタリしていることが多かった。
「うん・・・聖女の文献が正しければ、あれは世界樹の神気だね。人間に耐えられない力の一つと言われてる」
「だから断るの。私はまだ死にたくないの。子供が大事なの。孫もみたいの。モンドを置いて死ねないの・・・」
ハイネさんは一つ一つが大事だとゆっくり私に語り掛けて来る。それでも・・・。
「それでも見たい。私は冒険者だからね」
「なら勝手になさい。私は行かないわ」
それだけ言うと、ハイネさんは隣の自宅に戻っていった。
「みんなも、無理して来ない方が良いよ。世界一危険な場所って言われてるから」
「あたしは当然行くよ。冒険者が冒険しなくてどうする。それに、娘が行くって言ってるんだ、母親としてついて行くよ」
流石ブランママ。頼りになります!
「私も同じだ。王子である以前に冒険者だからな。そもそもエステラード王家は冒険者が興したものなんだ、血が騒ぐというものだ」
レオンも同行、というより冒険者の興した家だったんだ。そう言えば聞き覚えがある気がするし、なんか納得できるかもしれない。陛下もそんな感じだし。
「わたくしも行きたいけれど・・・今回は止めて置くわ。お腹の子が居るし、足手まといになるもの」
「アナ・・・」
アナスタシア夫妻は棄権と。まぁ当然です。私が行かせません。
「私達も流石に無理かな・・・あはは・・・」
「そ、そうだな」
アルエット夫妻も棄権。当たり前です。死んじゃうよ。
「なら最後は俺だな!!!」
「は?」
デカい声で名乗りを上げたのは筋肉クソ禿爺だった。
「何でここに居んのさ?」
私が聞くと光る頭を撫でながらニヤニヤとハゲ爺は笑う。
「おめえんとこの竜船ってやつの定期便にしがみ付いて来たんだ。ユリアが城を離れて実家に行くって言うからな。何かあると思ったんだ。来てみりゃ大当たりだぜ!!!」
「じゃあこの3人で行きます。明日の朝向かいますので、準備をお願いします。では解散で」
おおおおおおおおおい!と咆哮のような声を上げたギルマスに横から魔法が飛んできた。
「うわっち!! なんだおい! ハイネか!」
「うっさいんだよ爺! 子供が怖がるだろうが!」
「わりぃわりぃ、でもよぉ、世界樹だぜ! 行かなきゃ損だろ! 冒険者としてよ!」
ここまで話しておいて何だけど、ハイネさんにだって冒険者としての矜持はある。
あるからこそ、私やギルマスの「冒険者だから」という理由に内心で歯噛みしている。
行きたい、けど行けないのだ。
「・・・・・・」
「ねえ、ハイネさん。世界樹には私たちが行くから、竜船を守っててもらう事って出来ないかな?」
「え?」
あの世界樹。幹を巨大ハンマーで叩くと僅かに音が跳ね返ってくるんだよね。内部が空洞になってるらしい。
「恐らく、世界樹に入ったら暫く出て来られないと思うの。だから、竜船を、ブラウを守ってあげて欲しいの。それにこの街から誰もいなくなったら、守る人が居なくなっちゃうからさ」
「・・・・・・・・・ズルいわよ、そんなの」
卑怯なやり方だと思う。でも見せてあげたいんだ。世界樹に入る所を。同じ冒険者として。
「お願いしていい?」
「いいわ、それくらいなら、子守しながらでも出来るから」
いや、流石に世界樹近辺に子守しながら行かせないけど。
「うん、お願いします。先生」
「こんな時だけ生徒にならないで頂戴。それに家庭教師はもう終わったのよ」
「時々自分で出すくせに」
「うるさいわね」
胸でぐすぐす泣いている娘をあやしながら、ハイネさんは了承してくれた。これで後顧の憂いも無い。目指すべきところに向かえる。
「で、俺は!?」
「・・・来たいならくればいいでしょ」
「そんな、もうちょっとなんかあっだろぅ!? 気合い入れていこうぜ! とかさぁ?」
「ハイ解散」
喚くハゲを置いて我々は家に入ったのである。明日の決戦に向けて最後の準備をすべく、入念な用意が必要だから!
「ぜってぇついていくからな!」
ハゲはそう言って竜船に向かっていった。多分そこで寝るつもりだろう。風呂くらい入れと言いたい。
◇◇
雲海を飛ぶブラウの竜船が、ふたつの太陽に照らされながら進む。
あの太陽も良く解んないんだよね。星が太陽の周りを公転しているなら、地平線に沈んで見える筈なのに、この世界の太陽は霧に霞むように闇に溶けて消えていく。そして朝になるとジワリジワリと闇の中に太陽が浮かび上がる。意味分かんないよなぁ。
材料もなしに判らない事を考えるのは止めとくか。今は探索行の目的に集中しよう。
雲海の下は北の大森林、目の前に見えるのは霞むほど巨大な巨壁のような大樹。その天上から流れてくる気は間違いなく神気だろう。つまり其処に異神に近い何かがいる。
竜船ではこれ以上の高度を出せない。重力操作でこれ以上離れると星の大気なのか判らないが、急激に制御不能となるからだ。そのまま墜落していくか、もしくは制御不能のまま天に向かって登っていくだけか・・・いずれにせよ命取りなのは変わらないだろう。
「見えてきたわね」
「主、本当に行くのですか」
私を見ながらブラウが珍しく確認してきた。流石に心配か。
「行くわ。私の求めている答えがあそこに在るかもしれないから」
「・・・なら、精一杯お手伝いさせていただきます」
視線を進行方向に戻してブラウが宣言してくれた。
「有難う、ブラウ」
船は真っ直ぐ向かう。徐々に世界樹の壁をハッキリとさせて、これから挑む者達の恐怖心と好奇心を煽る。そりゃあそうだろう、なんせ、これだけ晴れてるのに上が霞んで見えないのだから。
「そろそろ準備するわ」
「了解しました。主、ご無事で」
うん、と頷くと、シートベルトを外して上部ハッチから内気圧を変えないように外に出る。二重扉なのは良いけど、ちょっと時間かかるのよね。
ガキンと扉を開けると、暴風が私を襲う。風の結界で守っていても、これだけの風圧を感じるのは、どれだけの速さで移動しているのだろうか。全く、ブラウの凄さは地味に解り辛い。
視界が雲海と空と世界樹の表皮で覆われると、間もなく竜船がその身を止めて空中待機した。念話でブラウから指示が来る。始めよう。
「フルメタルアーマー・聖女モード!」
ブラウの鎧をベースに金属を精製し、上部ハッチの所を下半身になるように接合する。サイズはかなり大きく、体育館程の室内を持つ竜船と同じ太さの私が生えている。
ブラウに合図を送ると中からレオン、ブランママ、ギルマスが上がってきた。ゴーレム内に格納すると全員が視界確保用の透明金属窓に張り付いた。レオンは感嘆の溜息を漏らしている。
「直ぐ始めるわ、ハッチを閉じて」
ギッギッとレオンが扉を閉めると、透明なオレイカルコスで覆った部分から3人が外を見て、ゴーレムの変化を確認している。私はそれを無視して残りの下半身を作りつつ、竜船から離れる。
そのまま竜船は後退を始め、ブラウから「御武運を」と送られてきた。「任せて」と返すと、ブラウがはにかんで笑った気がした。
「ふぅぅぅぅぅ・・・・・・・・」
鍛えに鍛えた17年間。それはこの時の為だ。答えを聞きに行こう。
仙力高速流動、魔気合一:元素、神癒、空間それぞれの魔力、HP高速回復、これらを使えば、今の私でも出来る筈・・・!
「世の清明を照らし、業の罪科を照らす」
詠唱式の開始と共に掲げたゴーレムの右手に、金属精錬した巨大剣が現れ高速の白い仙力を纏いながら天に延びる。形が出来上がると剣身に緑の燐光を纏い始めた。
「終わりなき者共に終焉と安らぎを与え、天へと導け」
食われる・・・! HPもMPもかつてない勢いで減っていく!!
「我が名は・・・ユリアネージュ=バエス=エステラード」
緑色の輝きが金属でできた巨体を覆い、剣の周囲に集約していく。
「聖名の元に大いなるキリシアの裁きを与え、我が剣となせ」
巨大な緑色の光剣と化したそれが天に上った。
「ディストーショナルエッジ」
振り下ろすその一刀が真っすぐに世界樹の腹を抉る。切り下ろした刃が突き刺さり、緑の燐光が世界樹内部を切り拓いて見せた。途中まで刺さって止まると、剣を回転させるように柄を握って手首を返す。
剣が柄を軸に回転し、音も無く大穴を開けると、その向こう側が暗く緑色に照らされた。
「っ!・・・・くぁ・・・」
限・・・界・・・っ。
巨体を水魔法で移動させつつ魔法を解除すると、抉った木の幹に巨人の足を掛けた。
ズンっと重さを感じ、内部を見ると暗闇を背後の光が照らし、巨大な空洞、そして中心の幹のようななにかを視界に入れる。
外皮の内側の淵に、足場、が、ある・・・持た・・・・・ない・・・・・・。
自分のステータスを一瞬目に入れ何かの文字だけ見ると、全員を足場へ降ろした直後に気を失った。
◇◇
うん・・・?
随分と暗い。でも明かりは確保されているようだ。ここはどこだ。
確か世界樹に穴を開けて、そのまま内部に突入した後で、気を失って。
「あ、穴は?」
私が開けた穴は何処にも無い。明かりを・・・? 明かりというより私が光ってる。腕が体がぼんやりと光っていた。
「穴は塞がったよ」
この声はブランママ?
「お母さん?」
「あいよ」
振り返ると、そこには片腕の無いブランママが居た。一瞬、血の気が引く思いがしたが心を落ち着けるように努める。
「・・・レオンとギルマスは?」
リジェネレートに必要なMPは・・・ある。無詠唱で使うと、ブランの腕が緑色の光に包まれて生え始めた。
「中々くすぐったいね・・・二人なら下に脱出口が無いか探しに行ったよ。この辺は掃除し終わったからね」
掃除。魔物か?
「魔物? 明かり着けても良い?」
「魔物・・・なのかな。レオンが明かりを付けると一斉に襲ってきた」
光に反応。それだけじゃ生物かゴーレムかも判断できない。付けるか。光魔法で周囲を照らすと、生物とも機械とも言える何かが転がっていた。
「これは・・・配線、の入った肉? 血も、肉も、神経だけが無い。骨も普通だ」
ならば脳は? 指先に風魔法のメスを作って切開して覗いてみると、配線が複雑に繋がっていた。どういう事だこれは。古代文明の防衛システムだとでも・・・。
上を見上げても何もない。遠すぎて暗すぎて何も見えない。あるのは中心部付近の巨大な幹。
「ちょっと全力で光魔法付けるよ。戦闘態勢」
「あいよ」
ゴォッと風が吹くかの如く数千MPを使い巨大な光源を複数打ち上げ、下方にも投げ込んだ。光が遥か彼方まで広がる。近寄ってくる魔物と、輪郭がハッキリする中心の幹―――いや・・・・・。
「エレベーター!?」
「なんだいそりゃ?」
思わず前世の知識でその名前を叫んでしまった。パッと見は巨大な塔だが、ガラスの向こうに見えるのはエレベーターに使われるロープ状の何かと柱、そして階下の大きな箱。明らかに乗り物だ。大きすぎて距離感が可笑しいくらいに巨大な箱と柱だ。
「まずは敵を片付けよう!」
「はいはいっと」
周囲に球体ゴーレムを作り出し適当に分散して敵に向かわせる。直後の爆発。続けて同様のゴーレムを大量に作り出し、一斉に投射。特に問題なく破壊できるようだ。仙気魔法なら問題無いのか、それとも普通の魔法は?
試しに熱線砲を撃ってみたが大して効果が無かった。
「お母さん乗って!」
「ん!」
風獣を作り出し、下方に投げたゴーレムから二人の反応を見つけた。焦るな、しかし急げ。自分にそう言い聞かせつつ、一気に空洞を飛び降りて宙を駆ける。サイズ感が狂って見た目より遠く感じる。
「あそこ!」
「いたねぇ!クソ爺が死に損なったみたいだ!」
「それだとレオンが死ぬでしょ!」
「わるい!そうだそうだ!」
数秒後に着地して二人の周囲に蠢く魔物を片付けると、ギルマスは足を失いつつも闘気鎧で無理矢理動かしていた。レオンは・・・。
「レオン!」
「ユ・・・リア・・・」
腹が食い破られて抉れてる。右脇腹を中心に腰とあばらを貫いて肺まで無くなってる。闘気で止血していたのか、患部が丸見えになっているのに出血量が異常に少ない。神癒魔法で助けられる!
「お母さん護衛お願い!」
私の口から悲鳴のような声が聞こえる。
「任せなっ!」
周囲の轟音と爆風を地面の振動で感じつつ神癒魔法に集中すると、レオンの体を緑の光が覆って失った臓器などを補完していく。魔力が肉体そのものになっていく。まるで人間は魔力で出来ているかのように。
数分ほどで治療が終わると、レオンが起き上がれるまでに回復した。
「すまない、ありがとうユリア」
「うん、もう大丈夫、大丈夫っ・・・大丈夫」
半分混乱しながら魔法を使ったので心配していた。不発したらどうしようかと、不安でたまらなかった。それでも成功した。自分に感謝だ。スキルに感謝だ。
「ユリア、嬉しいが今は抱き着くよりもやる事がある」
「うん、ごめんね。そうだね、戦おう」
「ああ」
私はギルマスの方へ、レオンはブランの方へそれぞれ向かい、全員を守りつつゴーレムで支援を行う。襲ってきているのは見た目こそ似たものばかりだが、そのサイズがそれぞれの個体で大きく異なる。
最大でシャルルの元の体と同じくらいだろうか。つまり成体の火竜と同等にまで大きくなるらしい。小さいのでも私より一回り大きい位だ。どいつもこいつも魔法を使わず、近接攻撃しか使ってこないが、闘気を纏いながら高速で動き、凄まじい腕力で殴りかかってくる。おまけに竜種顔負けの噛みつきでレオンの体をドラゴンメイルごと食いちぎる力を持っている。
だが、そんなものは今の私には関係ない。自爆型のゴーレムを周囲に散布して奴らの体に纏わりつかせ、仙気を纏わせた元素魔法で爆発させれば敵にならない。爆轟が全てを薙ぎ払うまであまり時間は掛からなかった。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
ブランママが珍しく息を乱している。少し闘気鎧を使い過ぎたのかもしれない。
ギルマスの足を直しながら様子を見ていると、レオンが中心の幹を見て眉根を寄せた。
「あれが、移動手段だと言うのか」
「うん。形状から推測できる役割で、最初はそう思っただけだから、もう少し観察したいけど・・・」
ギルマスの足は生えたな。よし、後はブランママの様子がおかしい。もう数十秒も経っているのに、息が整えられないなんて、そんな姿は見た事が無い。ステータスは・・・状態:寄生だと?
「お母さんゴメン意識を落とさせてもらうよ」
「えっ」
闇魔法で精神に作用させて昏倒させると、倒れそうな体を支えた。
「ユリア? 何をしている」
「寄生されてる。今から調べて、内部の魔物を取り出す」
「なんだと!? ブランは大丈夫なのか!?」
レオンは冷静に聞いているがギルマスが急に怒り出した。
「落ち着いてギルマス。ちょっとそこ開けて。集中したいから暫く二人で護衛をお願い」
「お、おう」
土魔法で台を作り、ゴーレム化する。手足を固定して、スタンド型ライトのようなものを複数作る。さて・・・。
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ブランネージュ(32歳)
種族:素人
レベル:225
HP:57109
MP:12065
状態:寄生
スキル:剣術LV10、闘気剣術LV10、聖剣術LV7、格闘術LV10、弓術LV1、投擲術LV10、運搬術LV5、瞬歩LV10、縮地LV10、天歩LV3、気配察知LV10、高速反応LV8、罠感知LV3、魔力制御LV6、気力制御LV10、闘気制御LV10、フリキア言語LV6
称号:剣姫、特A級冒険者、聖剣士、ドラゴンスレイヤー
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マシアギゾルスってのは何だ。周囲の魔物の死体を探ると・・・居たな。あの腕がムカデみたいなものか。寄生されているのは血管内部か、腸内か。しかしブランママも強くなったな。聖剣術とか天歩とか知らないぞこんなの。
「うぅ・・・」
HPが減っていく・・・。どうすれば良い。回復魔法も治癒魔法も体内の異物を排除する魔法があるけれど、体内の魔物を排除する魔法は・・・神癒魔法なら何とかできるか?
まず探知。魔気合一でブランの魔力と気力を、私の魔力と気力にシンクロさせる。体内を建築物のように考えて場所を特定する。
見つけた。次に固定。複数個所に巣くう超小型の魔物を捕縛。これは水魔法で体液を操作して摑まえる。
ここからが本番。聖女の魔法をそのまま使うのではなく、特定部位にのみ向けて照射する。レーザー手術のように、小さく、細く、細かく処理していく。
「おい、こんなんで大丈夫なのか!」
ギロリとギルマスを睨むとハゲが後退った。
小さく、小さく、小さく・・・私はほとんど動かないかのように見えるだろう。それでも私の視界では捉えている。感じ取れている。死滅していく魔物の様子が見えている。
そのまま一時間ほどその場で手術を行うと、全身汗だくになった私が手術台の拘束を解いて、床に座り込んだ。疲れた・・・こんなに長時間に渡って神癒魔法を使ったのは初めてだ・・・。キツイ。体の発光が収まらない。
「う・・・これは・・・?」
「ブラン!」
解けた拘束具が体に乗っている状況を疑問に思いつつブランママが目覚めた。
「爺? どうした」
「ユリアがお前の体の中の魔物を排除するって、随分なげえこと固まってたからよ。何かやってたんだろうけど・・・何がどうなってやがる!?」
「・・・ユリアは?」
ギルマスが下を指さすと、ブランママが私の顔を覗きに来た。
「ユリア・・・? あんた大丈夫なのかい?」
「こっちの、セリフ・・・だよ。もう、大丈夫?」
息が荒い。喋るのもつらい。
「ああ、ありがとう。体の自由が奪われていく感じがして、倒れる寸前だったんだ。助かった」
「それなら、よかった。わたしは、すこし、やすむ、よ」
ブランママを寝かせていた台を背もたれにしつつ、地面に腰を下ろしながら辛うじて言葉を絞り出した。もう魔力が尽きそうだ。こんなに大量にMPがあるというのに・・・ん? また、状態:亜神化か。
「ユリア?」
遠くで見張りをしていたレオンが駆け寄ってくるのが見える。視界が斜めになっていく。ああ、また、心配させてしまうな。ごめんなさい、あなた。




