056
17歳。そう、本来なら17歳の筈なのだが、ステータスは不変の16歳である。ゆりあさんじゅうななさいである。
出産と共に昼はティナに預け、夜は私が一緒という逆パターンで過ごしている。
何故なら昼は神学校に通っているから。
「きゃ~! かわいい~!」
「はい、アルもご挨拶」
「はじめまちて、あるせうすです」
「あぁ~、はじめまして、あるえっとです」
あんたまで子供喋りにならなくて良いんだよ。
「普通に喋りなさいよ」
「だってユーリの子供でしょ、可愛いし、王子様だし、アル繋がりだよ。オマケに義理の姉妹だよユーリ! やったね!」
そう、彼女の義兄さんがアナ姫と結婚したので、家族関係的には繋がりが出来たのである。
彼氏の兄の嫁の義理の姉という、近いのか遠いのか良く分からない姉妹である。
「遠い姉妹だ・・・」
「そんなことないよ。近いよ。こんなに近いよ」
アルを抱いた私にアルが顔を寄せてきた。自分でも何を言ってるのか判らなくなってきた。なんだこれ。
「顔が近い」
「ん~」
「ん~? 彼女がレズ疑惑って伝えるよ?」
だめ!と言って離れていく義理の妹。騒がしい奴になったものだ。まあ14歳だし年齢相応かな。中二だよ中二! 例の病が発祥する年齢だよ!
「ところで神学校に赤ん坊って連れてきて良いの?」
「今更連れてきた本人がそれ聞くの?」
一応託児所みたいなところがあるし良いかなと。
「なんなら本洗礼も受けさせたい」
「ダメでしょ」
「ダメかぁ」
「いくら王太子妃で聖女で息子が王子でも怒られるよ」
そうかぁ、と教室で大人しくしていると、先生が入ってきた。今日からまた復活しましたと声を掛けると先生が教壇に上る前に固まった。フリーズしたな。
「おはようございます先生。娘が生まれたので息子と一緒に通学しに来ました」
「こ、あ、ユリアネージュ様・・・」
「いや、ユーリでお願いします」
「しかしだな? いや、ですよ?」
「ユーリでお願いしますね?」
「あっハイ」
勝った。久々に勝利した気がする。それにしてもAクラス増えて無いか? 前は12人だったのに秋の進級テストで増えたよなぁ。ゴーレム越しで見てたけど、私目的で上がってきた人が多い。
「あ、あのユーリ様」
「はい、なんでしょう」
この子は確か、一年度で一緒だったDクラスの男の子か?
「えっと、ですね」
「お前、何してんだよ! 失礼だろうが!」
グイっと引っ張られた彼は元々Aクラスの男の子に引っ張られていった。何だ一体。
アルエットがちょいちょいと肩を指で叩く。
「男の子はみんな憧れの王太子妃様にお近づきになりたくて仕方ないんだってさ」
「憧れと言われてもね・・・知ってる? 王太子レオンの結婚パレードで隣に乗っていた子は、頭の中が真っ白であの時のことをよく覚えてないのよ」
「なにそれっ」
「憧れの存在なんてそんなものよ」
「ぷっあははっ」
おかしいでしょうと私が言うと、アルエットと二人で笑ってしまった。そんな私達を遠目に見ている彼らからは私がどう映ったのだろうか。まぁ、あんまり人気とかは気にしてないけどね。王族のイメージがあるから、あんまりな事は出来ないけど。
それから授業を受けつつ、離乳食を卒業したアルにご飯を食べさせつつ、その日一日を過ごした。帰ったら娘に構ってあげないと。
「じゃあ、今はお城で乳母の人が娘ちゃんにオッパイあげてるの?」
「夜は私があげてるよ。夜泣きが凄いんだ。寝ながら授乳させてるもの」
「事故とか気を付けないと危ないよ?」
「うん・・・子供の顔が胸に埋まってるときは焦った」
「・・・酷い事故ね」
自分の胸元に目を落として呟くアルエットさん。14歳だからまだまだこれから・・・いや私は14歳で大きかったな。頑張れアルエット。君は小さくはないぞ。普通だ。
「アルエットも育って来たじゃないの」
「育ちはしたけど、そこまで立派じゃないよ。少なくとも埋まらないと思う」
「そんな熱視線を胸に送られても・・・吸いたいの?」
「ちがうっ」
持たざる者の苦悩を理解しない女めっ、と食堂のパンに齧り付くアルエットさんは少し狂暴でした。
「アルのお嫁さんはどんな人かな・・・」
「おむねのおおきいひとっ」
ブッとアルエットがスープを吐きそうになった。
「素直で宜しい」
イイ子イイ子しちゃうと、えへへ~とアルが笑ってくれた。あぁ~、可愛いんじゃ~。マジ天使。うちの子天使!
「はぁ~、アルは天使だね」
「ゲホッ・・・ユーリに言われると自分の事じゃないのに照れる。違うのに照れるっ。くぅ・・・」
「アルは天使だね!」
「やぁめぇてぇ~」
わ~いアルエットが真っ赤っか~。や~い、真っ赤っか~。まん丸で真っ赤っか~。
「アルはかわいいね!」
「あぁ~~~!」
や~い、リンゴアルエット! リンゴアルエット!
そんな事を言っているとアルセウスも両手で顔を覆って「あぁ~」と遊び出した。この親子の連係プレーに耐えられなくなったのか、両手で顔を覆って頭をブンブン振り出した。あ、鼻血出てる。
「アルエット、鼻血出てる」
「ユーリのせいぃ~! アル君のせいぃ~!」
すまんアルエット。鼻血拭いてあげるよ。
「ほら。アルも拭いてあげなさい」
「はぃ、ど~ぞ!」
「あじがどぅ~」
酷い絵面だ。彼氏さんには見せられないな。でも今度会ったら教えてあげよう、ププッ。
「ところで話は変わるけど、アルエットはまだ子供作らないの?」
小声で聞くとアルエットが固まった。
「ふぇっ」
「えっ?」
返事になってない返事に思わず疑問の声を上げてしまった。
「あっ・・・まだ・・・」
あぁ・・・まだ、慣れてないのね。
「・・・・・・・コツ、教えようか?」
「今度お願いします先輩」
「任せたまえ」
コソコソと小声で話していると、神学校の女子連中が集まってきた。
「聖女様! あの! 握手してください!」
「私もお願いします! パレードで見た時からファンなんです!」
「はぁん、素敵! 銀色の御髪が輝いてますぅ!」
最後のは何? 身の危険を感じるぞ。
「あぁ、うん、はい、ありがとう、はい、握手、はい、ありがとう」
流れ作業で握手をすると、彼女たちは奇声を上げながら去っていった。なに・・・何が起きているの。
「彼女たちは聖女クラブの子達だね」
「なにその不穏な響きのクラブ」
「神学校の三年生で作られたファンクラブらしいわ。男性より女性の方が多いって噂よ。私も初めて見たけど熱狂的ね?」
「ちょっとだけ身の危険を感じたわ」
「噂の聖女様を怖がらせるなんて、大したものじゃない」
「全くだわ、気を付けよう・・・」
「あはは」
後日、ファンクラブは王都全域に広がっていた。時間を見て冒険者ギルドに行った際に、各ギルド内に増殖していると言われて、何て事をしてくれたんだ・・・! と軽い眩暈と共に戦慄したものである。
◇◇
娘のフラノールは0歳である。だって生まれて5か月だもの。早いものでハイハイらしきものをベッドの上で行えるようになっていた。寝ながら授乳もお手の物である。
「はい、今夜も一緒に寝ましょうね~。パパは何時になったら帰ってくるんでしょうね~」
寝室なので隠すことなく胸を出し、フラノールの口に乳首を差し出すと、遠慮なくンクンクと飲みだす。オッパイモイモイはこの子も得意だな。妹たちがブランにしてる姿は見た事ないけどな・・・。レオンの血だろうか。
そのレオンだが、戦地に向かって既に一年が経とうとしている。定期的に声は聴いているが、あちらの状況よりもこちらの幸福ぶりを聞きたいらしく、頻繁に子供達や私の日常を話している。
ゴーレムも送っていないので、暇を見て上空の索敵用ゴーレムで様子を見ているくらいだろうか。あちらは私を見れないから、随分と寂しい想いをしていないだろうか。死ぬことは無いだろうけれど、心が病んでいないか心配だ。通信で話す度に癒しを求めているのが伝わってくる。
「ママ、パパはどこにいってるの?」
「パパはお仕事で戦いに行ってるの」
アルセウス。この子は恐らく・・・もう自意識が芽生えているだろう。3歳となった事で
急激に言葉が安定し、ハキハキと喋るようになった。私の時もそうだが子供にしては早すぎる。
「パパはエステラード王国の王太子だからね。この国に宣戦布告をした公国に話を付けに行ったの。もう無駄な戦いをしないように、叱りつけに行ったのよ」
「パパは大丈夫なの?」
「パパはとっても強いから大丈夫よ」
「戦争に行ったのなら死んじゃうかもしれないのよ?」
のよ? ・・・・ん?
「パパは魔物の大軍が来ても一人で生き残れるくらい強いから死なないわ。パパより強いお婆ちゃんも一緒だし、お婆ちゃんのお師匠様も一緒だから、ちゃんと帰ってこれるよ」
「でも、間違えて怪我しちゃったら、感染症とかで死んじゃうかもしれないし・・・」
うん。確定だな。自意識芽生えてるわ。ただ、私はそれを指摘する事はしない。私も転生者だという事をこの子に教えるつもりも今は未だ無い。仮にこの子から自白してきたとしても、伝えるつもりは今のところ無い。以前に二人きりで告白した時は、まだこの子の自意識が無い事が分かっていたから伝えた・・・潜在的な部分では目覚めていたかもしれないけれど。
私はユリアネージュというこの子の母親であって、それ以上でも以下でもないから。
「感染症にかかっても魔法で治せるから大丈夫よ。ほら」
治癒魔法のインフェキュアを使って見せた。
「ね?」
「魔法・・・」
驚いてる驚いてる。既に君も使えるけどね。
「凄いでしょう? ママはこの時代に一人しかいない、凄い魔法使いなんだよ」
「魔法使い、なの? ママって、すごい人なの? 王太子妃で、凄い魔法使いで・・・」
「聖女って呼ばれてるのよ?」
「聖女なの!? すごい!」
おお、このワードに凄い喰いついたな。何かあるのかな。
「聖女になりたいの?」
「なりたい!」
うん。前世は女性で確定だな。
「でもアルセウスは男の子だよ。なるなら聖者かな? でもママは剣士だから、お婆ちゃんみたいな有名冒険者になりたいって思ってたんだよ」
「聖女なのに、剣士なの?」
小さい声でジョブ被り? とか言わない。剣士で聖女で仙人で商人で錬金術師で王太子妃だよ! 被りまくりだよ!
「アルもなりたいものになれば良いのよ。でも、何でもして良いって訳じゃないの」
「・・・王子だから?」
解ってらっしゃる。
「王子でも、農民でも、騎士でも、神官でも、みんな責任があって生きてるの。誰かを守ったり、決まりを守ったり、やらなければならない事はみんな同じくらいあるの。王子だからなんてのは理由じゃないよ。あえて理由付けしたいなら・・・生きていかなきゃいけないから。これが理由ね」
「生きていかなきゃいけないから・・・」
そうだ。私は農奴の娘として、冒険者の娘として、生きていくために努力した。人生とはどんなものなのかを知識として知っていたから。経験はなくとも、その恐ろしさは知っていたから。だから努力を怠らなかった。
「生きていくって楽しくて怖い事なの。だからね、アルもいっぱい努力しようね」
「うん・・・いっぱい努力するよ。そしてママみたいになる!」
「そうね。ママみたいになれたら、冒険に連れて行ってあげるわ。ママは特A級冒険者だからね」
「凄い! ママって何でも出来る人なんだね。わたしも強くなれる?」
わたしって言っちゃったよ。
「こらこら、アルは男の子なんだから、僕も、でしょ? アルも強くなれるから、僕も強くなれる! っていっぱい願いながら努力しなさい」
「あ、うん! 僕も頑張る! いっぱい努力する!」
えへへ、と私の胸に飛び込んできたアルは昔の私のように、ユリパイを枕にして眠った。途中で妹のフランにその場を奪われてたけど。起きなかったから良いか。
◇◇
公国の首都が陥落したと連絡が入ったのはアルが覚醒してから直ぐの事だった。ゴーレムを使って上空から見下ろすと、街のあちこちから煙が上がっている。
町の住民が首都の中心部にある城に駆け込んでいるのを見ると、どうやら今回の戦争で公国は魔物を使役していた事を民に黙って行っていたらしい。見慣れない格好の騎士混じりな人々が城に突入していた。エステラードの騎士も一緒という事は、民を味方につけたようだ。
公国は解体され、反乱軍側に位置する公国の貴族達はエステラード王国に借りを作る事になった。国の悪事を正し、それを暴いてひっくり返してくれたのだから。
オマケに公国は国として今後も存続を許された事が大きい。エステラードの属国になることなく、今後も一つの国としての自治を認められている。これらの事は体外的な事は勿論だが、エステラードとして管理しきれないという問題が大きい。それほどに世界樹の根の壁は厚いのだ。
「・・・・・聞こえるか。こちらは前線指揮大将フリューゲル=レオンハルド=バエス=エステラードだ。至急報告を入れたい。陛下に取り次いでくれ、至急―――」
レオンからの報告でこれらの事が伝わり、国の意向と今後の流れも決まった。各国はこの戦争に関して静観。悪は公国に在り、それを正したに過ぎないという事を示した。
戦争のお陰というか、後遺症とでもいうのだろうか・・・公国との国交が頻繁に繰り返されるようになり、その中で私の聖女伝説が広まってしまった。
例のゾアデ緑の光シャワー事件である。
アレを現地住民が記憶しており、細身の鎧騎士姿を見たという者が現れた事と、レオンたちの誰かがそれを認めてしまったせいで、エステラードには魔物の群れを滅ぼせる聖女が居るという話が公国に広まってしまった。
エステラード王国としては最良の戦後処理を終えられたが、私個人としては中々に面倒くさい事となってしまったのである。
「という訳で陛下。今後は聖女に関しての問い合わせを国を通して行っていただけると幸いです。魔物が多いから狩ってくれとか言われても、逐一対応する事は難しいですから」
「うむ・・・そうだな。すまんなユリア。迷惑をかける」
「いえ、洩らしたのは確実にあの筋肉ハゲですので、これからギルドに行って殺してきます。ちょっとアルとフランをお預けして構いませんか」
「あ、ああ。気を付けてな・・・(怖っ)」
若干陛下が引いていたのが気がかりだけど、お母様とアナ姫に子供達を託して、風獣に乗って窓から飛び立った。野郎ぶっ殺してやる。
王城から城下町までは数キロ離れているけれど、風獣なら数分も掛からない。そして眼下には訓練場の砂地。
飛び降り、そして全力強化で白くなり着地する。全く速度を落とさずに着地したので、訓練場の地面が派手に抉れてしまった。同時に衝撃音が王都ギルド周辺に響いた。
白い光を纏ったまま訓練場に続いているギルド西側のドアを開くと、こっちを見た冒険者がバタバタと倒れだした。
「ひっ!?」
受付のお姉さんもガタガタと震えている。ちょっとオシッコの匂いが・・・すみませんね。すぐ終わりますので。
「ギルドマスターは何処ですか」
「あ、あああ、あの、奥に・・・」
そこまで言って彼女は気絶した。お礼に水魔法で股間を綺麗にしてあげよう。風魔法で乾燥もプレゼントだ。
シンと静まり返った冒険者ギルドの中に、私の足音が響く。真っすぐ奥に行くとギルドマスターの部屋だ。タダの小さな書斎だけど、普段は何かあった時の為に飛び出せるように一階の書斎に居るだけだと本人が言っていた。そして魔気合一もそこに居ると言っている。
ドアノブに手をかけてゆっくり回すと、扉をぶち破って黄金の腕が飛び込んできた。
拳を人差し指から薬指に掛けて三本の指先でやさしく止めると、拳の持ち主と目が合う。
「こんにちは、表出ろクソ爺」
有無を言わさず空間魔法で収納すると、黄金闘士が手元の空間に閉じ込められた。
タンッと飛び上がって部屋の窓から直接訓練場に入り、結界魔法陣を起動する。これくらいの結界なら私一人で起動できる。足元のクリスタルに片足を乗せて魔力を流すと急激に結界が構築された。
結界の中にハゲを投げ入れると私も中に入った。
「言いたい事は何かある?」
「ねえな!」
「じゃあ死ね!」
全力全開手加減なしで仙気を纏うと、魔気合一の効果で神癒魔法と元素魔法が組み合わさる。ブラウの軽鎧に反応してそれらが合わさると、緑の燐光と空色の輝きを放つ白銀色の鎧に変わった。
「なん、そっ、おぶっ!?」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
有無を言わさず胴体を拳で破壊して「万発だ!!」いくと、数秒で筋肉ハゲクソ爺が出入り口付近に転送された。
「次、適当な事したら殺す」
「す、すまん」
やっぱりお前じゃねーか! もう一度やろうかと思ったけど、黙って風獣で飛び去った。
尚、あの受付のお姉さんは私を見るたびに漏らすようになった。本当にごめんなさい。
◇◇
戦争からレオンが帰ってきてからというもの、折角だから休養の為に実家に帰る事にした。暫くの間は城も事後処理でばたばたするし、どうにも落ち着かない。だからアナ姫や神学校を卒業したアルエットと一緒に北部の実家に帰る事にしたのだ。竜船で。
「わああああ・・・・・なんですかこれ、どうなってるんですか、空飛んでますよ・・・・・・」
アルエットを始めとして初めて乗る数人は感動と恐怖で混乱していた。アルは異世界人らしく普通だったけど、心なしか楽しそうだった。フランは純粋に楽しそうだった。
「ブラウ、遊覧飛行で帰るから、もっとゆっくり飛んで」
「了解しました」
操縦席にはブラウとノール君が居た。ノール君はアレコレ教えてもらっているらしい。どうやら魔石で同様の小型船が作れないか模索中だとか。一人乗り用ならいけるかな。
操縦席から離れると、客席に家族が集まっていた。
「はい、フラン~、今度はこっちだよ~」
「きゃぅー」
ブランがサリーから娘を奪っていた。
「アル~、こっちおいで~」
「は~い」
サリーは開いた手でアルを大きな胸に埋めている。おお流石13歳、もう大人だな。アルの後頭部が埋まっている。
「ママとどっちがおっきい?」
「ママの方が大きいです」
何を聞いてるのこの妹は・・・。
「アルは巨乳好きだからサリーには靡かないわよ」
「お姉ちゃんの妹だからあと少しで同じになりますー」
「もうすぐ結婚するのに何言ってるのよ」
「いや~ははは・・・」
サリーは同じ学校に通っていた貴族に見初められて、そこの跡取りと結婚するらしい。3年前くらいから付き合っていたというので、成人の儀を済ますと同時に婚約していた。
「お相手って、伯爵家の嫡男だっけ?」
「うん・・・後で知ったんだけどね・・・」
5年前には私は知ってたけどね。
「貴族って言ってた時点で調べなさいよ」
「だって、だって、お姉ちゃんたちは実は知ってたって言うし、じゃあ問題ないかなって思うじゃない。それが実は跡取りで高位貴族って聞いてないよぉ」
高位貴族に嫁入りという事は、柵やルールに縛られる中で生きていくという事だ。まぁ、私が色々と教えておいたので、我が家のルールがそのまま使えるだろう。淑女としてのルールは教えてないけど。
「礼儀作法の勉強、頑張りなさい?」
「はい、今、頑張ってます」
がんばってるよぉ~、と言いながらアルの頭に顔を埋めて抱きしめ始めた。壊れたか妹よ。
「・・・」
「もうちょっと付き合ってあげてねアル」
「うん」
有難うアル君~、と言いながら顔面をアルの脳天にグリグリしている。子供の頭って良い匂いするんだよね。わかるよ。でもその子は私のだから、後で返せよ。
「シルバは良いひと居ないの? 再来年には成人でしょ」
「俺はそんな・・・騎士になってから考えるよ」
「あー、行き遅れる奴だ」
「そんなことないって」
11歳となった長男は体も大きくなり、サリーと身長が並び始めている。父親みたいにがっしりした体になっていくんだろうなぁ。
「私のお勧めは神殿騎士か北央騎士団かなぁ。西部はヒョロイし、東部は汚いし、南部はチャラいもの。神殿騎士になるなら本洗礼は受けておきなさいよ」
「ああ、ちゃんと受けて、街の神官様から回復魔法を教わってるところだよ」
なん、だと・・・!
「ズルい! あの人、私には成人して本洗礼を受けてからじゃ、とか言ってたのに! 帰ったらお礼と文句を言ってやるわ」
「お礼と文句?」
そう、老神官には感謝もしている。うっかり13歳くらいで仙人化していたら、子供のまま姿が変わらない所だった。今は本洗礼と回復魔法を習うタイミングが遅くて良かったと思っている。
「お礼はちょっとね、内緒。文句は騙した事よ」
まったくもう、と怒ってみると、9歳のモルトと8歳のアドが寄ってきた。
「お姉ちゃん、西の公国に行ってきたんでしょ?」
「どんなところだった? 寒くなかった?」
レオンが向こうでやっと解放されたと笑っている。散々質問攻めにあったらしい。
「そうねぇ・・・凍らない蛇が居たわね! 首を切り落としても血が凍らないの」
「へぇ~! どんな見た目? おっきい?」
「血が凍らないなら寒くても大丈夫?」
両手で輪っかを作った。
「これくらい太くて、ここから操縦席まで長いわ」
「でっけー! そんなの倒したの!? やっぱお姉ちゃんスゲエ・・・」
「すっごいねぇ・・・」
あー、二人は純真だなぁ。まだまだ可愛いぞ、お前ら!
抱きしめて胸に頭を埋めてやると、二人が慌てて離れていった。おっと起立したか。なら聞いてやらないとな!
「ねぇねぇ、モルトとアドは彼女出来た? 好きな子は出来た? キスとか出来た?」
「い、いなぃょっ」
「ぁ、ちょとぉねぇちゃん・・・そっち行ってて」
くっくっく・・・前かがみになっとるぅー。
あっはっはっはっは、とブラン顔負けの笑いを飛ばしてやると、二人がレオンの所に帰っていった。ふっふっふ。
「あー、まだまだ可愛いねあの二人は。シルバはもう大人って感じだからねー」
「随分鍛えたからな。サリア姉にはもう勝てるぞ」
「ほう、今度相手してあげよう。それに、まぁ、サリーは鍛錬より恋愛に頑張ってたみたいだし、お姉ちゃんとしては嬉しいかな」
「えへへ・・・ありがとう、お姉ちゃん」
「うん。でも私みたいにしたら駄目だよ。色んな人に迷惑掛かっちゃうからね」
「それはしない。だってお姉ちゃんは何かやっても功績の方が大きすぎて、小さいミスとか気にならない人なんだもん。参考にならないよ」
小さいミス・・・・・そうだね、うん、そうだな。ごめんねギルドの受付お姉さん。私のせいで受付できなくなったんだよね。ごめんね。
「どうしたのユーリ、また何かやったの?」
ブランママが俯いた私を心配して顔を覗き込んできた。
「この間、ハゲをとっちめに行ったときに、受付のお姉さんに心的外傷を与えてしまって、申し訳ないことをしたなぁと・・・謝りに行ったら逃げちゃうし、受付から外されちゃうしで、辞める事になったらモンドさんに助けてもらおうと思ってる」
「ははは、やらかしたねぇ」
ユリアネージュ:もしかして トラウマ
「でも聖女ね・・・あの爺が言わなくても、いずれは漏れてたんじゃないかい?」
「どうだろう。ゾアデではゴーレムを使ってたし、見た目ではバレないつもりだったんだけれど、流石に状況証拠でバレたかと言えば・・・数年後にはバレてたかもね。それでも時間は稼げたから、この子たちが大きくなるまではって思ったんだけどね?」
その前にあのクソ禿がバラしたからね。ちくそう。
「やれやれ・・・実際、聖女になって何か変わったかい?」
「ファンクラブが出来た。魔法が増えた。ギルマスが死んだ。それくらいかな・・・」
指折り数えたけど、実質的な被害は無い。私がイライラしたくらいだ。
「最後のはどうでも良いとして、魔法が増えたってのは神癒魔法ってやつかい?」
「あー・・・私って複数の魔法を複合して使うんだけど、その選択肢が増えたと言った方が良いのかな。ブラウの鎧に仙気と元素魔法と神癒魔法を合わせると、拳に生命体を破壊する力を乗せられるんだ。これって多分、世界樹にも効くよね」
最後の言葉を聞いたブランがにっこりと笑った。嬉しそう~。
「・・・だからこっちに来たのかい?」
「当然。挑戦しないと損でしょ」
「へぇ~・・・なるほど。どんな所か楽しみだね」
「うん! すっごいのが出てくるんだろうなぁ」
横で聞いているサリーとシルバが「冒険者ってのはこれだから・・・」と溜息を付いていた。




