054
ザクっと、氷を割る音が響く。足の裏に取り付けたスパイクが良い具合に氷山を上りやすくしてくれている。普通の人間は氷山なんて上らないけどね。
ここは西の果て、世界樹の根と言われる山脈の頂上であり尾根でもある場所だ。西部開発前に陛下からの命令で尾根沿いに壁を作ってこいと言われたのだが、ゴーレムたちの頑張りもあって完成を迎える事が出来た。
「だからって、こんな高いところに作らなくても良いじゃない・・・」
我ながらアホな事をしたと思う。私以外に誰が辿り着けるのか全く以て謎である。要塞はもっと国内側に建てたというのに、これではこっちのほうが要塞ではないか。
尾根沿いに張った防衛線、もとい長城は北の世界樹の幹から続いて南の海岸線まで続いている。城の幅は10メートル程度で、自動車も行き来できる程度だが、足元が凍っているので走らせる予定はない。
山の尾根より30メートルほど高く、その支柱は山を貫いて世界樹の根まで到達している。あり得ない事だが、恐らく根が動いたとしても、支柱の先が根に張り付いて一部は崩れないと思う。
レンガなんて使っていないので、全て土魔法をゴーレム越しに使い、様々な合金で作り出した。守備兵となるゴーレムも居るが、殆ど索敵用なので戦闘力は余り無い。見つけたって長城の防衛力で何とかなるし、そもそもこんな、標高一万メートル越えの所に人間が来るんじゃない。迷惑だ。
「まぁ、こんなもんでしょ」
一人で呟いて長城の中に入ると暖房が効いていて、風魔法で覆っていても寒かった外気が完全に遮られる事で暖かい。あとは見張り兵用の通信設備と、西央騎士団に直結した受け側のゲートを置いて仕事完了っと。
ゲートはまだまだ軍内でしか使用されない事になった。私が個人で利用する分には良いが、自己責任で使うので特に問題はない。軍用と私用はそもそも性能や利用方法が違うからね。
軍用は魔石に大量の魔力を込めたものを。私の個人用は十万単位の魔力を直接込める。つまり私と一部のブラウ達しか使えない。オマケに魔力波長が異なる数人で込めると作動しないようになっているので、防犯にも有効だ。ついでに腕輪に仕舞って持ち運ぶ前提なので、私以外に使えるかと言うと、大分難しい。
カチャカチャと貰った指示書の通りに通信用魔導具の調整を終える。これは昔からある通信用の魔導具で、遠距離と会話が可能なのだが、距離が離れるほど必要魔力が多くなる。補助用の魔石回路を追加して提供したので、これも軍用に決まった。ユリアブランがどんどん軍御用達の商会になっていく・・・。
「あ、あ~、こちらユリア。応答求む、どうぞ」
「・・・・・こちら西央騎士団通信所、開通を確認できました。ユリアネージュ様、ご協力ありがとうございます」
少し届くまで時間が掛かるのか。距離があり過ぎると数秒掛かるところは電波みたいでなんだか王国の広さを感じさせる。実際広いからね。王国だけで日本列島の数十倍広い。
「開通確認了解です。渡した魔石をゲートに嵌めてください」
「了解です」
通信機の音が聞こえる場所から、遠くで「おい! はじめろ!」と声が響いているのが聞こえる。通信をいったん切ると余計に魔力を食うから繋げっぱなしなのか。
暫く待っていると、隣の部屋にある大部屋からブォンとゲートが開通した音が聞こえた。
「起動を確認しました。そちらから何か送ってください。物でも人でも良いです」
「了解です」
数秒後、直ぐに隊長らしき人が来ると、ゲートを置いた部屋から私の居る通信所に駆けこんできた。
「これは素晴らしいです。一瞬で山脈に来てしまうなど・・・これは・・・」
窓の外を見た隊長さんは感動したのか固まってしまった。だろうね。私も外の景色を見てやっちまったなぁ! と思ったくらいだからね。
「天から見下ろすような景色ですな・・・」
通信所の小さい窓から見えるのは緑の大地。遥か雲の上から見下ろすその場所は、今日の天候のせいか、澄んだ空気のお陰で地平線まで見えている。高すぎる場所なのに横一直線の地平線は、これだけ高い場所でも地上の丸さを感じさせない。この惑星って、どれだけ大きいんだ?
「この国の反対側が公国の大地です。遠くに見えるのは大きな街だと思いますよ。今は天気が良いですが、風が少しでも強いと雲に隠れて見えなくなります」
「それが解るだけでも、十分に戦略的な価値があります」
そう、此処は戦略上の重要拠点なのだ。だからこそ、私は当初反対していた。無駄に公国を刺激するだけだと。ただ、残念な事にゴディスを捕縛して以降も定期的に、公国の闇魔導師と名乗る者が現れ、そして捕えられた。今はゴディスと同じように四肢を欠如して意識を奪われたまま幽閉されている。
陛下は状況的に宣戦布告もやむなしな状態だと判断し、裏側で公国に抗議を行った。捕らえた者の状態は教えていないが、全ての者の名を伝えた上で抗議したのだ。
だが、公国はその事実を否定した。彼らは自国内で今も健在だと。更には公国への重大な冒涜行為だと批判した為、陛下は長城の建設指示に踏み切ったという訳だ。
「守っていて攻めて来るなら良し。黙っているなら尚、良し。国の安全を守れるなら、非難されようとも壁を作ったほうが良い、でしたね」
「ええ。国中に公国の非道を広め、東部に居た魔術師ギルドも解体されたそうですね」
隊長のいう通り、既に魔術師ギルドは消滅した。今あるのは国営で名の変わった研究機関に過ぎない。潰したのは私だ。自分の足で出向いて、直接叩き潰した。
「やった本人としては、彼らに改心して欲しいところだけれど、悪行の罪科が重すぎるからね。解体という名の処刑でしたよ」
黒い鎧騎士ユーリは流石に名が売れたので、もう使っていない。王命の元に正式に私が出向いたので、ゴーレムを使う必要が無かったともいう。
「ユリア様は宜しかったのですか」
少し心配そうに転移ゲート用ゴーレムを調整する作業を行う私を見てきた。
「イメージを守る為なら最初から王家に関わろうとしていませんよ。レオンと結婚した理由の殆どは彼を愛しているからだけれど、小さな理由の一つとして、私が立ち回りやすくする為でしたからね。特に黒ローブを狩る事に忌避感もありませんし、後悔もありません」
通信機器とゲートの調整を終えて、余計な物品を腕輪に仕舞うと隊長さんが頭を下げていた。
「・・・出過ぎたことを言ってしまい、申し訳ございません」
「良いのよ。ただ、私を心配する前に、もう少し騎士は練度を上げた方が良いわね。公国の兵はもっと強いわよ」
そう言ってゲートを通り抜けた。彼らも弱いわけではないが戦争が出来るほど強いわけでもない。戦士として見た時、やはり彼らは弱い。危機が目前に迫るかもしれない時に、悠長な事を言っていると、隊長さん、あなたも死ぬぞ。
◇◇
神学校に通って二年目の春。あと半年で三年目になろうかという時に、公国から宣戦布告の知らせが走った。どうやら捕らえた者達は殆どが貴重な戦力だったらしい。だったら、一人一人別個で標高一万メートル超えなんてさせるなよと言いたい。
「どうなるのかなぁ・・・人と人の戦争なんて、エステラード王国が建国されてから一度も無いんでしょう? 魔物との戦争と違って、相手は人間だよ? なんで殺し合わないといけないの・・・」
アルエットが言う通り、公国は大分おかしい。あと戦争が無かったのは正しいけれど、小さな紛争は王国の歴史上で頻発している。
「公国はそもそも素人だけで構成されてるわけじゃないし、弱者を下に見る傾向が強い。オマケに悪魔契約の方法が確立されていて、持ち出す戦力は魔物だって話だよ。実際に戦うのはそういう奴らだろうね」
「悪魔と契約なんて・・・そんなのキリシア様がお許しになる筈がないわ」
魔法はキリシア神が与えたものと言われている。契約魔法で悪魔と繋がりを持てるなんて話は、敬虔なキリシア教徒には信じられないだろう。
「実際にレオン様が戦ったって話、知らない?」
「西部の争乱でしょう? 魔術師ギルドが洗脳して、悪魔を召喚したって言う」
一般的にはそうなってる。
「実際には契約もしていたらしいわ。だから、出来る出来ないの話なら、人間は悪魔と契約できる」
「そんな・・・」
どうやって戦えば良いのか解らないと嘆く彼女には光明が必要だ。
「聖女様の伝説では、神癒魔法で倒したのでしょう?」
「そうだけど、そんなの誰も使えないじゃない」
そんなのって。伝説通りならかなり強い魔法なんだけどな。
「アルエット聞いて」
「なに、ユーリ?」
「私ね、治癒魔法がLV10になったの」
「・・・・・・は?」
世間一般的には存在しない治癒魔法LV10。この半年で到達しました! あの回復精霊と同様に、治癒精霊を出しっぱなしにしたら、一気に3か月ちょっとで到達しました!
「おまけに神癒魔法も使えるようになったの」
「えええええええええええええええ!?」
教室に響くアルエットの悲鳴を余所にステータスを見てみよう。私の努力の成果をな!
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ユリアネージュ(16歳:不変)
種族:仙人
レベル:301
HP:471102
MP:1120834
状態:妊娠(女)
スキル:剣術LV10、縮地LV6、格闘術LV10、仙体術LV5、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV10、空間魔法LV3、刻印魔法LV10、封印魔法LV6、付与魔法LV10、錬金術LV7、回復魔法LV10、治癒魔法LV10、神癒魔法LV1、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV9、並列制御LV10、闘気制御LV10、気配察知LV10、高速反応LV10、魔気合一LV2、HP高速回復LV2、MP高速回復LV10、真実の瞳、フリキア言語LV9
称号:仙人、聖女、ワールドルーラー、竜機人の創造者
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もうLV10が多すぎて見辛い事この上ない。
治癒魔法は育て終わってLV10に。神癒魔法が生えてLV1と聖女称号に。仙体術の訓練で体力を高速で失う技を多用していたらHP高速回復に変化。それから魔気合一が一つ上がった事で、ブラウの鎧が更に進化した。空間魔法は据え置き。あとMPが大台突破おめでとう。
「あ、あと私、妊娠したから。三年度は一緒には通えないわ」
「えええええええええええええ!? あ、えと、おめでとう!」
「ありがとう~」
これが一番うれしかった。レオンも休ませてあげられる。いや、出来てからも同じペースで求められてますが・・・。つまり、レオンは出来ていても同じくらい愛してくれると。これを考えた時は流石に身悶えた。
「だからね、アルエット。進級試験を受けたら、頑張って卒業まで進んでいて。試験だけは私もこっそり受けるようにするから」
「え? でも、妊娠してたら出歩けないし、実技試験なんてダメだよ!」
そう言って心配してくれるだけで嬉しいけれど、そろそろ教えておこう。
「私はねゴーレムで此処に来れるから、私の意思で動かして、私の代わりに授業も受けられるの。だから、寂しくなったら、そのゴーレムに教えて。迎えを送ってあげるから」
「ゴーレム・・・ユーリは魔法使い様だったんだね。何となく解ってたけど。凄い魔法使い様だったんだね」
「えへへ・・・」
魔法使い様って呼び方が田舎の子供っぽくて可愛いし、なんだか気恥しい。
「そんな訳ですので、聞き耳を立てている皆さん。私はこの辺で失礼します。先生も後で来る私の使者から色々と話を聞いておいてください。多分学長から呼び出しがあると思いますが、悪い話じゃないと思いますよ」
私の使者=王城の使者。
「おいおい、そりゃどういう・・・」
グッと魔力を空中に込めると、その場に大量の金属を生み出して人形を成型する。服を着た今の私に似せて、オレイカルコスとオリハルコンの合金が表面を変化させていく。
「はい、じゃあ、後はこれを私だと思ってください。さて・・・」
これをやらないとゴーレムが遠隔で動かせないのよね。頭部に手を置いて、と。
「ユリアネージュ=バエス=エステラードが命ずる。我が依り代となりて細部に渡りて命に従え」
当然のように騒然となる教室内と、こくりと頷く私そっくりの人形。目も口も動くけれど、喋れないし御飯も食べられない。表面に光魔法で幻惑効果を着けて・・・。良し。自分の髪色も戻して完了だ。
「あ、あ、あ、あ、あの髪、あの髪色、ユーリが、ユリア王太子妃様に」
「アルエット」
「ひゃい!?」
「ありがとうアルエット。貴女のお陰で私の学校生活は毎日楽しかった。だから、最後まで友達でいさせてね?」
「あ・・・・・・うん。ユーリ。」
「それでよし!」
結構身長が伸びてきたアルエットの頭を撫でると、ウフフと彼女が笑った。うん。彼女は強い、もう大丈夫。見届けたのを心で確認し、バッと先生たちに振り返る。
「それでは皆様、ごきげんよう」
精一杯の王妃然とした笑顔を作り、教室を出た。ゆっくりとゴーレムが着席し、その「青い」髪色を揺らした。ユーリはそこが居場所。これからユリアは頑張らないといけないからね。だからアルエットも頑張ってね。
去り際に「妊娠って、王子か王女が産まれるって事だよな?」と先生が呟いていた。その質問に答えた人は居なかった。
神学校を出て迎えの自動車に乗ると、そのまま王城に向かう。最早一刻の猶予もない。戦争の準備を行わなければ。
そう思いながら子爵家当主となったノール君が資料を差し出してきた。
「レオン殿下からです」
「なにかしら?」
「個人的なものだそうです」
なんだろ。大き目の書類入れ用の紙袋を開けると、中から画用紙が現れた。
「あら・・・ふふっ」
どうやら息子との合作らしいその絵は、中庭の花畑で私が魔法妖精たちと訓練をしている姿だった。端のベンチには旦那と息子が座っている。反対側には剣を振っているブランママが居た。
「これは・・・陛下かしらね」
「王冠が巨大ですね」
「ふふっ、そうね」
噴水のようにぐい~んと広がる黄色いものを被った人の隣には、青いドレスを着た王妃様と白いドレスのアナ姫が居た。多分これは、主要人物だけ息子で、それ以外をレオンが追記したのだろう。意外とレオンは絵が上手い。魔法妖精も上手くかけている。
「来年はここに、もう一人足さないとね」
「次はどちらで?」
男か、女か、という意味で言うと・・・。
「女の子が良いなぁ」
「なら私の娘を世話係に付けないといけませんね」
「そうねっ。レオンと私の子だから、すぐに何処かへ行ってしまうわ」
「気配察知を最優先で覚えさせましょう」
あははと珍しくノール君と笑っていると、彼も従者から大臣候補に上がったせいか、少し貫禄が出てきたなと謎の感慨が湧いてきた。
「さて、幸せな話も結構ですが、悪いお話もしなければなりません」
「もう動いたの?」
「ええ。監視から都市に向かって移動する大部隊を確認したそうです。あの距離から解る程ですから。相当の数ですね」
ほう・・・。どれどれ。
「少し待ってね・・・うん。噂通り。悪魔、巨人種、ドレイク部隊・・・使役する者を除けば殆どが魔物の軍団ね。規模はざっと20万。後方は・・・まだまだ居るわねぇ」
「相変わらず色々とオカシイデスネ。監視役が雲が晴れた隙に手に入れた情報が、一瞬にしてゴミのようになってしまう」
「その監視役のお陰で気付きがあったんじゃない。教えてくれなったらこんな長距離なんて、週一でしか見ないわ。怠いし、疲れるから」
「お陰で助かります。本当に」
カリカリと情報を書きながら軽口に付き合うノールは、それをコピー用の魔法紙で移し始めた。
「このまま会議場かしら」
「ええ、この新しい情報で話し合ってもらいましょう。流石に軍務は私の埒外ですから」
「私って開発担当じゃなかったかしら」
箱型のコピー魔導具から一枚ずつ記載されたメモ書きが吐き出されていく。ノールさんの持っている魔導具の蓋に積み重なっていくのを見ながら不満を漏らした。
「王権代行とでもお考え下さい。実際それで黒ローブも潰したではありませんか」
「・・・」
権利が重い。なんだよ王権代行って。
不満に思いながら王城につき、そのまま大きな会議場に入ると、普段よりはるかに多い人数が立ち見していた。殆どが騎士団だな。珍しく王城守護役の聖堂騎士隊長が全員居る。
冒険者ギルドからもギルマスとブランママ、ハイネさん他A級が数名来ていた。
「来たかユリア」
「勢揃いね」
レオンとあいさつ代わりの会話をすると陛下が会議開始を宣言した。
「さて、ノールよ。その持っている資料をテーブルに座っている連中から優先して配ってくれ。どうせユリアからの情報が追加されておろう?」
「はい、陛下。配りながらご説明します。まず、公国の大都市ゾデアに集まっている戦力が、悪魔、巨人種、ドレイクで構成され、操っている人間以外は全て魔物。数はユリア様の透視で視た結果、凡そ20万との事です」
驚きの声が多数上がるが、私としては100万単位で来ると思っていたので、若干期待外れである。陛下が手を上げ、声が鎮まる。
「続けろ」
「はっ、後続が散見されたことから、ユリア様の見立てでは100万を超えるのではないかという推察。これは私も同意できます。公国の国土の広さ、周辺都市の立地、魔物の確保手段を考えると、恐らく供給は止まりません」
「確保手段と都市の立地の関係性はなんだ?」
陛下が資料を配布し終わったノールに聴く。
「これもユリア様の偵察の結果得られた情報ですが、公国が魔物を確保しているのは古代遺跡です。つまり、無限に生み出される遺跡の魔物を契約・使役して、それを戦力として使用するつもりなのではないかという事です」
「遺跡の数と想定される補給速度は?」
潰すなら大本ですよね。
「遺跡の数は一都市当たり10、補給速度は測定不能です。一日当たり百や二百を超えるのではないかと考えます。これは冒険者側の遺跡の調査結果とも符合します」
「おう! 古代遺跡の生成速度から考えて、一時間で一体だとすらぁ、一都市当たりに毎時10体だ! それが休みなく続く! おまけに生まれる個体が大森林の深層級だとすると、全部が化け物だ。ユリアのゴーレムが相手でも囲まないと倒せねえレベルだな」
ノールの話を遮ってギルマスが続けた。こういう時に声がデカいのは良いね。聞こえやすいし元気が出る。続いて同じ特A級のブランママが発言した。
「それにあたしが前線に立っても、そのクラスの相手が20万だと一瞬で相手するのは100体前後になります。そんなのと継続して戦える時間は精々30分です。横のハゲも同じレベルだと思ってもらいたいです」
同じくそれくらいが限界だと他のA級冒険者たちも口をそろえて言う。ハイネさんは文句なく特Aクラスに近いので、彼女は別格だ。他のAクラスは私から見ればちょっと心許ない。
「・・・・・ユリアならどうだ」
陛下がこちらを見て聞いて来た。
「・・・・・そうですね。仮に一切の手加減を無しに撃退するとすれば、一千万体の悪魔や巨人にドレイクが居ても、私一人で公国を滅ぼせますが・・・それは後々を考えて止めた方が良いかと」
「そうだな。次はユリアが、この国が恐怖の象徴となろう。そうなれば東の評議国も、北の魔導国も黙ってはいまい」
世界大戦になりますよ。撃退ですか、殲滅ですか。それによって終戦後の状況が大きく変わります。まぁ、公国を併呑するのなら力を見せつけるのもアリなんですが。
「守るだけなら何が必要だ」
お父様の問いに私が答える。
「陛下。相手は悪魔の軍勢です。守るだけでは少なくとも西部が消えるとお考え下さい。手加減をすれば隙を突かれます。なので、手早く使役者諸共軍勢を滅ぼす手段が必要です」
悪魔というのは簡単に言うと滅茶苦茶魔法が上手い飛行する魔物だ。当たり前のように元素魔法を扱うし、それに見合うだけの魔力も持ち、高い体力も併せ持つ。大森林深層で体力バカの巨人や、異常な魔力で押しつぶすダースドレイクやドラゴン種と戦えるだけの力を持っているのだ。
「聖者の如き力が必要という事か」
聖者も聖女も広域殲滅魔法を持っている。あの伝説が書かれた文献の通りに。
「あ、最近ですが神癒魔法を覚えました。それと新しく作り出した魔法に、そちらのハイネさんの魔法陣の奥義を組み合わせたら、多分一掃できますが、如何でしょうか」
「一瞬で倒しつくし、外聞を無くすという事か?」
戦場に出たモノが全滅すれば、戦況を伝える者が居なくなる。それはつまり、私の戦力が公国側に漏れないのと同義だ。ただし大きな問題がある。
「恐らく都市ごと消えます」
「それは魔法なのか? もはや神の御業ではないか」
「建物は残るかと思いますが、生命体だけがキレイに消える魔法ですので、神の御業かと言われると、ちょっと違いますね。人の知識の成せる業です」
神癒魔法暴露辺りから騒然としていたが、ハイネさんが同じくらい顔を引き攣らせていた。この状況じゃ仕方ないじゃない。協力してよ先生!
「使わない場合の戦法は各個撃破か。壁はどれくらい持ちそうだ?」
「壁は足場にしかなりませんし、あんな極寒地帯で戦ったら全員凍死します。戦う場合には建物内部からの砲撃のみとお考え下さい。更に言うと20万、いや100万が相手では砲門の数が足りません。航空支援は必須ですね」
「竜船か。アレはどれくらい戦えるのだ?」
「あれは船と操縦者が一体となって動く、機械のドラゴンです。数を相手にしていてはいずれ魔力切れになって墜落しますよ。まぁ・・・半日持てばいい方でしょうか。若い子は一時間で落ちますね」
むぅ・・・と黙ってしまう陛下。流石にウォラスの名人で指揮の達人でも、悪魔の航空部隊が相手では力不足か。
「ユリア、ゲートで公国側にゴーレムを送る事は可能なのか?」
「レオンの考えは解るけれど、流石に急すぎて戦闘用ゴーレムの数が足らないわね。あとこの場合は全て使い捨てになるから、無駄死に、いえ無駄遣いよ」
そうか・・・とレオンも黙る。
「という訳で、用意した作戦内容・・・聞く?」
そう言いながらハイネさんの方に眼を向ける。そんな嫌そうな顔しないで。
◇◇
遥か彼方の大都市ゾデアの上空に悪魔とドレイクが舞う。その下にはロープで吊り上げられた巨人族がぶら下がり、如何にも狙ってくださいと言わんばかりだ。
航空戦の基本は後ろを、上空を奪った方が勝ちという定跡があるのだが、魔物を相手にした場合も同様だ。真上から襲われる事を想定した生物というのは意外と少ない。海底に張り付く生物くらいじゃなかろうか。
上空を飛び回る者を相手取る時に必要なのは、攻撃の迅速性、高い命中精度、そして一撃の重さである。
「それでどうして私が前衛に出る必要があるのかしら?」
「ハイネさんの魔法陣がカギですから」
「ユリア一人で十分って言ってなかった?」
「それだと私が味方に魔王扱いされるので却下です」
はぁ・・・と静かに無表情で嘆息するハイネさんを横目に、横陣を組んだ兵士たちの持つゴーレム兵器へ魔力を送る。
「それでその偽装工作という訳ね」
「人聞きが悪いですね。努力の結晶と言って下さい」
これから攻撃役を担うのは長城の中に並ぶ兵士達。魔法陣は既にハイネさんに用意してもらったので、それを空中に拡散させた数百万の索敵監視中継用ゴーレムに組み込んである。
「では魔力を送ります」
「はっ」
横に居る将軍閣下が拝礼し、私の後を辞した。そんな伝令みたいなことさせてすみません。私が前線で魔力供給係をすると言ったばかりに、やる気にさせてすみません。おいアレ将軍じゃね? なんで連絡係やってるんだ? とか兵たちに噂させてしまいすみません。
「魔力供給開始」
ギュンっと莫大な魔力を長城内に居並ぶ数万の兵士の手持ちゴーレムに送る。あくまで平均的に僅かずつ、だが総量は数十万MPだ。ここからジリジリとMPが減り続けていく。
「魔法陣展開」
ハイネさんが魔法陣のコントロールを行う。こちらも桁違いの魔力を制御して、数万の下位魔法陣へ紐づけた大本の魔法陣を操作する。ハイネさんにやってもらうのは、云わば魔力制御盤の役割だ。精密なコントロールを得意とする、超広範囲火魔法使いの実力を見せて頂きたい。
「くぅ・・・・・」
「ハイネさん大丈夫? いけそう?」
「問題・・・無いわね・・・」
眼を閉じて集中するハイネさんは話す余裕もない感じだ。ギリギリで制御している感じだろうか。同時並行で数万の魔法を制御するのはハイネさんでも不可能。ならば制御用の魔法陣を上位に作り出し、そこから複数の下位命令を送り出す仕事をしてもらえばどうか。
そうした案で生まれたのが、この―――。
「スカーレットカノン、掃射!!!」
「掃射!!」
将軍が復唱して兵たちに伝えると、ハイネさんが伝える魔力制御がゴーレムに届き、私の魔力をエネルギーとして一斉に「空に」向かって発射される。
一瞬で赤い熱線が上空に拡がり、「上空で乱反射」して直ぐに眼下へと降り注いで縦横無尽に駆け巡る。一帯が赤に染まる様子は空に赤いカーテンが掛かったかのようだ。カーテンが一秒にも満たない時間で消えると、敵対勢力の様子を私達に見せた。
見た目の美しさと共に、その効果も絶大だった。空を駆ける数十万の悪魔とドレイクは翼を失い、その身を失い、飛行能力を失って落下していく。後には焼け焦げた黒い何かが緑の草原を黒く染めていた。しかしまだ獲物は空中に残っている。
「第二射用意!」
高速魔力回復で戻った魔力を再び込める。ハイネさんはいけるか? 眼を向けると多少汗を流しながら足元の大型魔法陣に集中していた。
「・・・まだいけるわ」
「うん」
大丈夫そうだ。
将軍に眼を向ける。
「掃射」
「掃射ぁ!!!」
野太い声が後に続くと、将軍の大声が通信機を伝わって館内放送として響く。続くのは赤い閃光が数万。天に上り、再び地上に降り注ぐ灼熱の光だ。
スカーレットキャノンは凝縮された熱線砲を放つ元素魔法兵器である。ハイネさんの知識を用いて最高効率まで凝縮された火属性の魔力は、通常の熱線砲よりも遥かに少ない魔力量で同威力を発揮できる恐ろしい兵器になった。
よろめくハイネさんを支え、魔法陣から離れさせる。居るだけで疲弊する10メートル規模の魔法陣は、普通の人間なら一瞬で気絶する程の負荷を与える。
「片付いたよハイネさん」
「そう・・・もう一発は無理よ・・・」
「うん。ありがとう」
椅子に座らせて冷たい濡れタオルを顔に乗せておいた。「あ~」とかオッサン臭い反応をしたのは内緒にしておこう。頑張ったからね。
魔法陣の描かれた部屋を出て将軍の元に向かうと、俄かに兵士たちが騒然としていた。そりゃそうか。自分の手にしている兵器の恐ろしさに打ち震えている者が多いのも当然だ。
「将軍、索敵はどうですか」
自分でゴーレム越しに見ろって? 馬鹿言っちゃいけない、人の仕事を奪わない事も人間関係の構築では大切な事なのですよ。
「はっ、視界に映る限りでは残敵は居ない模様です」
そうでないと困る。スカーレットカノンは照準補正機能付きだけれど、実際の照準を合わせていたのはハイネさんだ。自動追尾の熱線砲のようなものなのだから、今の掃射で綺麗になってくれないと、今度は私が出張らないといけない。魔王呼ばわりは御免ですよ。
「・・・・・監視網にも残敵は居ませんね。ゾアデに集まり続ける敵はそのまま様子を見ておいてください。出て来るならば同じように破壊します」
「破壊、ですか。承知いたしました。動きがあり次第ご連絡いたします」
「任せます」
春の終わりに訪れた公国の宣戦布告から数日後、初戦は完全勝利で飾った。城に戻った私とハイネさんから報告すると、既に通信兵から連絡があったようで陛下たちも大喜びだった。
完全に終戦ムードが漂っていたが、むしろ本番はこれからだろう。大本を潰さない限り、公国の攻撃は止まらない。古代遺跡を潰す。
大会議室に集まった面々は、現場に出ている者も居て数名減っている。将軍もその一人だが、彼は指揮側の人間なのに、どうして監視兵にジョブチェンジしているのだろう。西央騎士団の将軍としてアリなのか? まぁいいか。
「第二段階へ移行する」
陛下が作戦要綱通りに宣言した。第二段階、つまり公国内への侵入と魔物の発生源である古代遺跡の破壊だ。
「ギルマス。実験はどうだったの?」
前回の会議から時間が経ち、その間私は拡散熱線砲を作り、ギルマスたちにはある実験をお願いしていた。
「問題ねえな! 人員は限られるが、強力な闘気剣なら遺跡の最深部にあるコアを破壊出来たぜ!」
コアは古代遺跡を稼働させるために古代人が作り出した大型動力炉だ。例えるなら発電システムだな。それを破壊すれば古代遺跡の全機能は停止する。
「うん、なら行こう」
公国に赴く戦力と、この地に残る防衛線力を二部する。向かうのはレオン、聖騎士三名、ギルマス、ブランママ、A級冒険者枠から魔導師を2名だ。
「私もついて行くから」
「ユリアはダメだ。防衛線を維持できなくなるだろう」
レオンが厳しい目で咎めて来る。
「ユリアじゃなくてユーリが行くわ」
ガシャリと壁際の黒い鎧が動く。出番だぜ相棒。
「それなら問題ない。王城から離れないでくれよ」
「精々、西の長城に出張するだけだから安心してて」
ははっ、とレオンの笑いを合図に各々が立ち上がる。
「作戦開始だ」
陛下の言葉で大会議室から全ての人員が去っていった。さぁ、突撃だ。待っていろよ公国。必ず玉座に殴り込みをかけてあげよう。
◇◇
神学校では戦争状態に入った事で徴兵の可能性を考えて待機されることになった。もちろん、私こと青髪ゴーレムも同様である。横の席ではいつもの通りアルエットが座り、先生の説明に耳を傾けていた。
「既に戦端は開かれ、我が国が押しているという話を聞いた。具体的にどうなのかは知らないが、公国軍は手も足も出ていないらしい」
先生の話に喜ぶ者、勇み立つ者、表情無く聞き入るものと別れる。アルエットは無表情で先生を見つめていた。
「ユリアネージュ様が前線で立たれているという話もあるが・・・」
チラリと全員が私を見る。こくりと頷くと、先生がありがとうございますと一言返してくれた。
「我々の出番は公国軍が王都まで迫ってきた時だろう。一般兵では到底太刀打ちできない戦力と聞いているので、此処まで攻め込まれたら籠城しかない。そう聞いている。その時が来ても生き残れるよう、日々の研鑽に励むように。以上だ、全ては女神キリシアの御心のままに」
「御心のままに」
ホームルームがいつもの挨拶で終わると、アルエットが俯いた。項垂れた頭をゴーレムの手で撫でてあげると、冷たい金属の体に抱き着いてきたので、そのまま暫く頭を撫でてあげた。
「ユーリ、死なないでね」
背中をポンポンと叩くと、顔を起こした彼女の瞳からは涙が零れていた。筆談で火文字を作ると、えへへとアルエットが笑顔になる。
「うん、もう大丈夫。ありがと」
ぐすっと鼻をすする彼女は授業の準備をしている。さて、私も暫くこっちはお休みだな。レオンたちの方に集中しなければ。
青髪ゴーレムの方の意識をスリープモードに移行してゴーレムに体を返すと、視界が白銀へと切り替わった。
◇◇
長城を超えた先に在るのは眼下の草原。だが、そこに降りるまでは5千メートル近くは雪と氷に覆われた白い世界を進まなくてはならない。垂直落下で降りても良いが、この巨体の重量でそれをやると、氷のクレバスに体が埋もれてしまう。
体は寒くないが視界が寒い。そんな事を考えながら白い鎧騎士が凍った地面を歩いていた。
長城を建てたからと言って、下山途中の道から魔物が居なくなった訳でもない。白銀に紛れた白い鎧騎士も魔物に襲われる。食べるところなんて無いんだけどなぁと思いながら剣を振ると、アイスドレイクの首が飛んでいった。体だけ腕輪に収納して先を進む。
ゴーレムの体だからと言って魔物が寄ってこない訳ではない。音も立てるし魔力も纏っている。魔物からすれば匂いのしない人間と大して変わらない。魔物は魔力で獲物を探すと言うし、事実そうなのだと思う。
雪山の悪魔と言われる氷の結晶体が襲ってくる。ただの水魔力が集まった魔物なのだが、氷の化身のように扱われているようだ。核となる歪な魔石を引き千切って先を急ぐ。
強風で煽られ地吹雪が巻き起こると、雪中を蠢く何かが顔を出した。アイスワームか。飛び出してきた頭が私に飛び掛かり、その体を切り落とす。青い飛沫が周囲の雪を染めて濡らす。不凍液のような血だな。面白そうだと収納して雪道をさらに降りた。
白よりも茶色が目立ってきた頃、鎧を白色から黒色に戻した。魔法って便利。
雪が消えて暫く経った後で洞窟に入る。予め目星をつけておいた場所なので、中になにも居ないのは確認済みだ。腕輪からゲートを置いて床にしっかり固定し、ゲートに莫大な魔力を込めれば七色の円が縦に輝いた。
まずレオンが先頭に現れ、護衛の聖騎士三人組、ギルマスとブランママに冒険者組のA級魔導師二人。合計9人で公国を荒らして回る。
「揃ったな。有難うユーリ。お陰で凍るような思いをせずに済んだ」
「へぇ。レオン様がユーリ呼びするのは初めて聞いたね」
ブランが揶揄うと「そうだったかな」とレオンが苦笑いだ。家族の団欒も良いが敵地だぞ、とレオンを叩いて洞窟の外を指さす。
「ああ、すまない。行こう」
「うっし!」
ギルマス、隠密行動。暫く声出すの禁止、と筆談で顔の前に出しておいた。
「なんでぇ・・・」
おい。
キッと面を向けて白いオーラを出すと、肩を竦めて爺が黙った。初顔合わせである二人の魔導師はそのやりとりに顔を引き攣らせているが、ブランママは楽しげだ。
そのまま大都市ゾアデの周辺をぐるりと回り、古代遺跡をコッソリ破壊していく。再度の攻撃が長城に向けて行われようとした場合には、再び私が出向いて部隊指揮。ハイネさんに頑張ってもらわないといけない。彼女の溜息が聞こえてくるようだ。
ゾアデ周辺の古代遺跡は12個。ノールは10と言っていたが、魔物の動きを追うと他の街付近のゾアデ寄りにある遺跡からも現れていた。それはもうアリの行軍のように、決まった道を歩いている。
その道を魔物を殺しながら逆方向に進んで行くと、古代遺跡に着いた。
「見張りが居るな。遺跡内部で常駐しているのか」
「どっちみち倒すしかない。行くよ」
レオンの肩を叩いたブランが先陣を切って突撃していく、身を隠していた森から一気に接近し、内部に突入。入り口付近に居る兵の首が飛ぶと同時に、奥の方から短い悲鳴が多数聞こえてきた。
続いてギルマスとレオン達が突入すると、私が入る頃には既に見張り兵が全滅していた。
「さて・・・」
内部地図など在れば良いが、とレオン達が簡単にテントの中や見張り兵の荷物を物色していると、視界がブレる。なんだ?
「・・・? どうしたのユーリ」
ブランママが近寄ってくるが音量が所々小さい。視界もぼやけてハッキリしなくなってきた。遺跡の妨害か? 出た方が良いな。
走って入り口まで戻ると、状態が回復した。そうだ、状態を確認しなくては。自分の手を見て真実の瞳を発動させると、状態:通常になっている。
「ユーリ?」
ブランママが近付いてくるが、私も入り口に戻って遺跡内部に入るとステータスが変わった。なるほど、遺跡そのものか。状態:混沌になった。怖いな。
ブランに筆談で伝えておこう。
「・・・わかった。遺跡にはあたしたちで向かう。ユーリは次の段階の準備をしておいた方が良いんじゃないか」
こくりと頷くとレオン達も近寄って来たので事情をブランから説明してもらった。レオンは心配そうな顔をしているが、黒い鎧騎士が壊れても本体は問題ないから大丈夫。
「それなら良いが、危なそうならゴーレムの操作を切るんだ。いいね」
頷くとレオンが肩をカンカンと掌で叩いた。手甲もフルメタルにしたから仕方ないな。今回は遺跡攻略仕様装備だし。
そのまま私だけ別行動をとる事になった。レオンたちはそのまま各地の遺跡を破壊、沈黙させてからゾアデに向かう。私はゾアデ内部に侵入し、そのまま魔物を使役する者を殺害してまわる。ついでに王都制圧の下準備だ。意外と私の方が面倒じゃないかコレ。一人でスニーキングミッションをすることになるとは・・・寂しいな。
◇◇
体を調節して大型の鎧姿からローブを纏った旅人の様相へと姿を変える。これだけでも大分魔力を食うのだが、暗殺ムーブをするなら重鎧の姿では動きにくい。音が出にくい様に足裏や掌もオリハルコンの流体金属に変更した。
殺した見張り兵の身分証を使って、外装を彼らの装備で固めると、難なくゾアデの内部に入れる。戦争中だというのにそれで良いのか? 街中で外装を取り、夜になるまで街の中心部付近で身を隠しつつ、全域の状態を気配察知、高速反応、魔気合一をフル活用して把握していく。
居たな。それも数百人の使役者が居る。騎士団詰め所のような所に多数。城内に数人。街の各所に数十人。魔物は交代で使役者を切り替え、その使役者に代わる代わる仕えているようだ。その大軍が街の周辺を見回っていたり、待機させられていたりしている。
外からも見たが、スキルで察知するとまるで魔物の海だな。これらがゾアデを襲ったらどうなるのかと思うと、少し恐ろしい話だ。まぁ、そんなことやらせないけど。
微動だにせず建物の陰で把握に努めていると、次第に日は落ちて夜闇が訪れた。
ではまず、詰所から回りますか。外周の魔物を使役している者は最後だ。音も無く建物の屋根に飛び上がり、詰所の壁を土魔法で開けると再び閉じる。ついでに出入り口も内側から土魔法で壁に変える。外見は扉のままなので驚くかもしれない。
次々と土魔法で建物内部の構造を変え、風の結界で音漏れを防ぐ。さぁ掃除を始めましょ。
◇◇
30分ほどが経過し土魔法で外に出ると、そのまま城へ向かった。恐らく領主の城であろう、要塞のような城は案外見張りが少ない。次々と顔の周りを風の結界で覆われ、声を出しても周囲に届けられずに孤立したものから首が落ちていく。
外の見張りはこの辺で良いかな。
城全体の出入り口を外から固めていくと、進入口も脱出口も無くなった。緊急脱出用の地下通路? そっちは最優先で利用停止済みだ。
壁に土魔法で穴を開けて侵入して閉じる。段々慣れてきたな。内部に入り込むと起きているものを風魔法で始末して、次々と腕輪行きにしていく。使役者もそうで無い者も全員だ
。領主一家らしきもの達は男以外は生かしたまま全て腕輪行き。
使役者は・・・これで全部か。此処までで日没から2時間経っていない。次は町全体を風の結界で覆って、街中の使役者を始末だ。
気配察知で確認できた者を一人、また一人と殺し収納し殺す。そしてまた収納する。数十人を掃除し終える頃には外部の魔物たちが暴れ出していた。もちろん声は街中に届いていない。
外壁に立ち、足元の結界外部に居る魔物を見やる。アダマンタイト結界は硬いぞ。風の結界も纏わせているから、元素魔法でも破れない。それに―――。
やられる前にこっちがやる。
一呼吸ついて集中し、それが済むと小声で詠唱を始めた。流石にこれを無詠唱は無理。
「世の清明を照らし、業の罪科を照らす。終わりなき者共に終焉と安らぎを与え、天へと導け。我が名はユリアネージュ=バエス=エステラード。聖名の元に大いなるキリシアの裁きを与えよ。―――ディストーショナルレイン」
神の名を詠唱式に組み込んだ魔法だ。改良式聖女魔法を遠慮なく食らえ。
発動と共に緑色の光が天を裂き、魔力の波が地を震せた。一瞬で私のMPが大量に食われ、緑色の光が街の外周部へと降り注ぐ。魔物を飲み込み、その肉体を消し去っていく。これは天の恵み。命を暴走させる魔法。自壊して塵となっていく魔物たちは、緑の光が消える頃には欠片も残っていなかった。
っはぁ~! きっつい! なんだこの魔力消費量は! 百万のMPが一瞬で消えた。これ、素のままの聖女魔法ならどうなってたんだろう? 倒しきれずに一部だけ残ってたんだろうか。
多分そうなるだろうな。あれは詠唱式だけ読み解くと、指向性を持たせて一方向にしか使えないタイプだったから、今回みたいに指定した複数個所に光を降らせるために改良したんだし。
はぁ。隠れよう。隠れて休もう。あれだけ明るい光なら私の姿を見た人が居るかもしれない。さっさと隠れよう。何か体が光ってるし。




