表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
53/97

052

 神学校での生活が二年目になった時、私達はAクラスへと昇格した。アルエットは昇格の御褒美として、私にある事をお願いしていた。


「おはようアルエット。いつもの髪飾りじゃないけど、どうしたの?」


「おはようユーリ。えへへ~、昨日の休みに彼氏に買ってもらっちゃった」


 お互いに呼び捨てで呼び合い、もっとなれなれしく会話する事、だそうだ。アルエットはこれまで私と一緒に訓練をして授業に出て、それでも色々と筋が良かったので、魔力制御や水魔法などを教えるに至っている。回復魔法などLV4をマークしている。


 棒術スキルと盾術に加え、気力制御まで覚えられたのは天才の域である。ほとんどは気力か魔力のどちらかだけなのだが・・・例のブラン式強制気力覚醒法で叩き起こした結果、保健室と教室を行ったり来たりしながら覚える事が出来た。


「チッ・・・」


 教室の遠くでどこぞの貴族子弟が舌打ちをしている。彼の仲間は軒並みBランクに降格してしまい、Aランクの教室内には12人程しかいない。他は脱落か降格したそうだ。


「よし、全員来ているな。二年度からは10人減って2人増えて12名でやっていく。引き続きよろしく頼む。ああ、それからユーリ、アルエット。今年も遠慮なくやってくれ、お前たちが暴れてくれるお陰で、全体の成績が上がっているのも事実だからな」


「はーい」


「了解しました」


 どうやら例年以上に生徒たちは鍛えられているらしい。


「それに二年生からは王都周辺の魔物と実践訓練を行う。冒険者の護衛が付いているとはいえ、数年に一度は即死する者も居る。正しい知識で注意を払って魔物を倒せるようになってくれ。全ては女神キリシアの御心のままに」


 御心のままに、と生徒が返すと朝のホームルームが終わった。二年目以降は上位魔法等の習得や課外実習(狩)などもある為、より実践的になっていく。ただ、実際に上位魔法を覚えられるかどうかは本人の資質的なところが大きいので、在学中に習得できる者は少ないらしい。


 錬金術なども同様で、段々と難易度が上がってきている。器具を使って魔力を込めるとはいえ、魔力制御力を上げていかないと道具アリでも錬成不可能なアイテムも多い。私は結界で全て足りるので、普段は器具を使わないから逆に難易度が高い。何あの使い難い道具。


 商学に至っては簿記が理解できない者も現れ、いよいよ実力差が明確になってきている。商売の才能以前の問題なので、この辺は孤児院を経営できれば問題無い以上、商売のイロハを教えたりはしないらしい。簿記を知らない人に複雑な商取引の中で使う専門用語を並べて話しても意味は薄いからね。


 課外実習の折、先生に聞いてみた。


「実際のところ、3年生まで残ってる人ってどれくらい居るんですか?」


「ん? ああ~・・・入学当初から3割ってところだな。その中で秀でた者が卒業ってなると1割を切る。教え方が悪いっていう奴も居るが・・・才能が全てを言う実力社会だからな。神官も、魔法使いや冒険者と同じで、頭だけいい奴は裏方仕事しか回されない。例え卒業できても、魔物と戦えなきゃ役立たず扱いされるのさ」


 ふ~む・・・ゴーレムはやっぱり必要かなぁ。こんな所にもスラムの温床があるわけだし。早期のゴーレムアーマー開発は必要だと思うわ。あれなら気力が無くても腕力で負けないし、パワードスーツみたいに自力で戦ってる感がある。オークチーフ程度なら楽勝だからなぁ。


「国として落第者を拾う何かがあると言われたら、勝ち上がっていった人たちはどう思われるでしょうか。落第者もそれなりに戦える。だから一緒に戦えって言われたとして、彼らは仲間と見做してくれるでしょうか・・・?」


「何を言ってるのか分からんが、難しいんじゃないか。Aクラスの卒業生ってのは大抵がプライド高いし、回復魔法使いは大体そうだ。弱い奴から高い金で治そうとする奴になりたがる。上級国民を自称して自分の価値を決めてる奴の方が多いだろうよ」


 うわぁ・・・。


「上級も下級も、どこにもそんな人は居ないんですけどね・・・。負ければ殺される、食うか食われるかの世界で、小さな上下関係を作って自分を保ってるんでしょうか? それよりも見るべき脅威が幾らでも転がっているというのに、その人たちは何のために時間を無駄にしてるんでしょうね」


「お前・・・言うなぁ。ちっと耳が痛かったよ。俺も人に諭されるまで、上級国民様を気取ってたからな。たかが上位回復魔法如きを使えるくらいで、命の価値や人生の価値が上がると勘違いしてんじゃねえって、冒険者ギルドのギルマスに言われたよ。それなら俺が此処で最強だから俺が最上級国民の法衣侯爵で、特A級冒険者のお偉いさまだな!ってよ」


 はははっと笑った先生は「つまらないプライドなんて意味が無いし、それを捨てれば大勢救えるって気付くまでだいぶかかった大馬鹿者だ」と自虐していた。私はその先生を見て少し笑顔になった。


「本当の愚か者は自分でそれに気付けません。本当の賢者は自分が愚かである事を誰よりも理解しています。だからこそ、誰にも自分が優れている事を言わないそうです」


「そりゃ面白いな。誰の話だそりゃ?」


「さぁ・・・誰かに聞いた話なので、少なくとも私じゃないですね。私はワガママで自分勝手で愚かな人間ですので、だからこそ努力を止めたら絶対後悔するって自分に言い聞かせてるだけの人間ですよ」


 そう言うと横を歩いていた先生が私をじっくり見下ろして呟いた。


「・・・・・・・お前みたいなのが一番伸びると思うけどなぁ」


 その後、数匹のゴブリンとオークを倒して、神学校に帰った。アルエットは10レベルも上がっていたせいで、少し過労状態になっていた。私もなった事がある。一気に50レベルも上がったせいで気絶したけど。



 ◇◇



 アナ姫の婚約者候補が決まって直ぐ後、彼女の恋愛相談が来るようになった。


「ねぇ、ユリアさん。わたくし、今度御忍びでデートをしてこようと思うの。王都で恋人同士が行くところってどういうところかしら?」


「ねぇ、ユリアさん。わたくし、彼にプレゼントを贈ろうと思うの。優しい男性に似合うプレゼントって何でしょうね。何か参考になるような事を教えて下さらない?」


「ねぇ、ユリアさん。わたくし、彼のお父様にご挨拶しておいた方が良いと思うの。王女である事は知ってるから、その上でどんな挨拶をしたほうが良いかしら?」


「ねぇ、ユリアさん。わたくし―――」


 うるせえ! 自分で決めろ! と言いたいが、計画成就の為に協力は止む無しなので、二人の為にもいくつかの助言はしている。


「デートは城の尖塔の上。プレゼントは恋人からの贈り物と判らないような、普段使いの落ち着いた色合いの仕事着。ご挨拶は誠実であれば十分ですよ。間違っても初対面で愛し合ったなどと暴露しないでください」


「わかったわ!」


 素直である。このお姫様、いつか騙されるのではなかろうか。


「初対面でシたのか・・・」


「一目惚れという事と、状況が状況だったから、アナ様が誘ってたわね」


 態々レオンの寝室に乗り込んで相談しに来るくらいなので、入れ込みようは相当だろうなぁ。あれがロイヤルファミリーの平均的な考え方だとは思われたくないから、あの後、忠告だけしておいた。お前の女は変わってるが、お前に惚れてるのは本心だから、黙って受け入れろと。


 殺害予告と思われかねない内容を通知しておいたので、恐らくこのままゴールまで進んでくれるだろう。彼もアナ姫に惚れてるようだし、特に問題はあるまい。


 アルエットの彼氏もそれとなく見合いが上手く行った事を知ったらしく、同様に王家から忠告が入ったらしい。戦々恐々とした顔でアルエットに伝えたらしいので、彼女は心配そうに私に情報を求めてきた。


 あなたの義理の兄になる予定の人が、ロイヤルファミリーになりそうだから、静かに見守ってあげなさいとだけ伝えておいた。これ、私が別の意味で疑われてないだろうか。大丈夫か私?



 ◇◇



 数か月も過ぎた頃に婚約発表があり、アナ姫の恋人は職場を異動して、私の商会が主導している西部開発チームに加わった。つまり私の部下である。


「よろしくお願いしますね」


「よろしくお願いします。ユリアネージュ様にお仕えできる事は光栄の極みに御座います。共に西部開発に尽力いたしましょう」


「硬くならなくて良いわ。やる事やって、西部の人たちも北部や南部と同様に暮らしやすい場所に変えていきましょう。じっくりとね」


「はっ」


 これはアナ姫の願いを叶えるための手段でもある。常に私と行動したいというので、それならアナ姫にも仕事を手伝わせましょうとなった。


「これは会計上、このようになります」


「こうかしら?」


「いえ、それだとこちらが差し引きマイナスになります」


「あら? どうしてこうなるのかしら?」


「それはですね・・・」


 まぁ、商業的な経験がないので一から教えないといけないんですけどね! 別に会計監査をしろという訳でもないが、金の流れを読み解けるくらいには成ってほしいので、一通りのことは覚えてもらう。王国も金の流れがあってこそ成り立ってる部分が多いから、王族としても商人としても必要でしょ。


「というわけで商業ギルドがここです」


「中々、おもむきがあるところね・・・」


 ボロい。遠めに見れば立派なレンガ積みの建物なのだが、近づくと所々レンガが欠けているし、碌に掃除もされていないので汚い。オマケに中に入っても同様なので、机の周りは片付いているが、壁の棚は書類を入れっぱなしで掃除をしていないようだ。


「建て替えるぐらいなら儲けを出せという主義らしいので、王都のギルドも築数百年以上だそうですよ」


「掃除くらいはしても良いんじゃないかしら」


「片付けると仕事が捗らないというタイプが多いんでしょうね」


「仕事以前の問題のように思うわ」


「同感です」


 グチグチと嫌味のような事を大声で言いながら受付に向かうと、受付のオッサンに睨まれた。


「こんにちは、こちらの方の新規登録ついでに商会長にお話があって参りました」


「・・・これは、A級商会員のユリアネージュ様でしたか。大変失礼いたしました。手続きの書類を拝見させていただきます」


 おお、見事に眉間の皺が消えた。掌くるくるだな。商会員によくいるタイプだ。


「ユリアさん、商会長とはどなたの事でしょう?」


「商業ギルドはギルマスじゃなくて、ギルドで決められた大店の商会長が持ち回りでやっているのです。ですからギルマスと呼んでも代替わりが激しいので、個人を指す意味合いにならないし、彼らのプライドを擽らないんですよ」


「擽らないとどうなるんです?」


「嫌な顔をされます」


「それだけ?」


「重要な事です。商売をする以上、お客様が笑顔であり続けられるよう努力する。その理念でここは動いていますので、その頂点に居る人の顔を笑顔に出来ないようでは資格無しだそうですよ」


 私としては「だからなんだ」と言いたいが、この連中の矜持のような物なので、それに逆らってまで付き合うつもりは無い。刺々しくなると面倒な連中だし。そもそも、そこが判らないと商売人として終わってる。


「そう・・・人と向き合う上で相手を喜ばせる事を大切にしてらっしゃるのね。人の幸せを考える上でも大切な事だと思うわ」


「ええ。心と心で向き合って仕事をする、この国の血の流れのような方々ですよ」


 そこまで言うと、ホッホッホと笑いながら恰幅の良い白髪のお爺さんが現れた。


「そうなると御社の物流は血液を運ぶ心臓と血管のような物でしょう? お久しぶりですなユリアネージュ殿」


「お久しぶりです商会長。以前あった時は黒髪だったと思いますが、ギルド運営に苦労されているのですか?」


「なぁに、単に年ですな。あの時、マインズオールまで足を延ばした時から10年近く経っているのですから、私もすっかり爺呼ばわりですよ」


 この人は私がゴーレムで大森林の青麟蜘蛛を狩り始めた時に現れた商人だ。王都ギルドの代表として訪問してきたが、私がそれを蹴ったのでとんぼ返りした過去がある。


 私がレオンと結婚して、南部開発を始めた頃に運送業の業務提携をし始めたお陰で商業ギルドのギルマスになったらしい。槍玉ってやつだな。前に誘いを蹴ったから、南部開発で手を差し伸べたら、周囲の商会長から「じゃあお前がギルマスやれ」と生贄にされた訳か。生贄として捧げられた彼は、私が奪ったシェアに関わる商人たちに恨まれる事となったのだが、当事者たちは全てユリアブランが吸収して事なきを得た。


 まぁ、私の手を取ったのはこの人の意思なのでそこに関しては何も言うまい。


 今でも商業ギルドその物に素材を7割卸しているので、過去数十年と比べてギルドの利益は鰻登りの最高潮だ。得た利益を各地の発展に投資して、そこから更に巨大な利益を得ているらしい。ここ数年で就業率が上がり、各都市のスラムが縮小されているのは商業ギルドのお陰だと、人々のイメージアップにも繋がっており金銭だけの利益では無いようだ。


「実のある商会長なんですから、見た目が追い付いて来たと思えば相応しいかと思いますよ。色々と感謝されているようですし」


「いや、はは、あなたにこそその資格があると思うのですがね・・・これほどこそばゆい思いをしたのは久方ぶりですな」


 ホッホッホと笑いながらアナ姫に気付いたようだ。


「して・・・どうしてアナスタシア様がこちらに?」


「新規登録をお願いします」


 私の言葉の意味を、商会長が一瞬考えた。


「西部ですかな?」


「私と一緒に仕事をされたいと仰いますので」


「なるほど、なるほど、それはまた恐ろしく強いカードを得ましたな」


「切り札を出すつもりはありませんけどね?」


「あなたの場合、捨て札で十分な成果が出るでしょうからな」


 ホッホッホとアナ姫に挨拶をした後、彼は去っていった。これで良し。ついでの用件は彼ら商会員に「西部開発の重要性」を認識してもらうためだし、アナ姫は後ろで立ってるだけで効果十分だ。


 商業ギルドから退散し、自動車で買い食いしながら城に戻った。


「結局、どんな御用でしたの?」


「ただの顔見世です。西部開発はアナ様が主導して仕事をしますよ、という宣伝を含みますが・・・」


「ユリアさんが主導するのではなくて?」


 クレープを齧りながら首を傾げる天然さんは可愛いが、クリームが頬につきますよ。


「王女殿下が西部の開発事業に携わる。そこには王家の強い意志がある。そのように思わせておいて、実際はこれまで通り私が行動する。すると、西部の人たちは私が動いたとしても、アナスタシア殿下が、王家が、自分たちを目にかけて下さると考えるんですよ」


「わたくし達はどこでも目にかけていますよ?」


「民はそう思いません。逆にアナ様の名前を出さない場合、ああ北部のユリアブラン商会がやってきた。と、脅威に感じます。あの商会には敵わない。いずれ自分たちの商会は消えて、あの商会に取り込まれるだろう、とね」


「それは、反抗的になるという事かしら?」


「そうです」


 最悪の場合、内乱につながる可能性もある。あれだけ独立意識の高い連中が居たのだから、西の商会連中もそうではないと誰が言えるだろうか。村社会的な考え方が西部には蔓延っているお陰で、こういった意識操作が必要になってくる。


「なので、若干の一手間を加えないと、皆の幸せから遠くなってしまうんですよ」


「・・・ユリアさんはやはり素晴らしい方ですわね。わたくしは一人で舞い上がって、そこまでの考えには及べませんでしたわ。自らの浅慮を恥じるばかりです」


「これも勉強です。西部に住む人々の気持ちになれば、商人ならば当たり前に考える事ですからね」


「商人とは凄い生き物なのですね」


 でしょう、と返すとアナ姫と一緒になって暫く笑っていた。

 これでレズッ娘じゃなければなぁ・・・と思っていたのは内緒だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ