051
ここかな?(BAN
秋が来る前に神学校の試験がやってくる。数か月に一度の試験と異なり、これは進級時の査定試験だ。クラスを上げられるか下げられるかはこれで決まる。逃れる術はない。
「というわけでどうだったの、アルエットさん」
「教えてもらった通りに実技は出来ましたし、学科も夏休みを潰してでも覚えて来ました。彼氏にも協力してもらいましたから、きっと上がれると思います」
目標を高く、という事で私は持てる知識と技術を総動員してアルエットを鍛えた。学科試験は本人の努力次第なので、私からは知識の提供のみだ。これでAクラスに上がれたならば、彼女の実力は与えられたものではなく、自力で勝ち得たものと言う事の証明になる。
「もう虐められる事もなくなるね」
「それは、まだ分かりません。実力を示せば何も言えなくなるというのは、一理あります。本当は、ユーリさんのように振舞えれば良いのでしょうけれど・・・」
彼女がDクラスやCクラスで虐められている凡その原因は私だ。私の友人関係であるせいでアルエットは虐められている。だけれど、虐められるのが嫌なら私から離れれば良いだけだし、彼らは私を恐れてアルエットにしか手を出していない。つまり、アルエット次第でどうにでもなる話なのだ。
「態々辛い方を選ばなくても良いのに」
「そうしたら! そうしたら、ユーリさんと友達でいられなくなっちゃう」
思わず小さいアルエットの頭を撫でてしまった。良い子だ。本当に真っすぐでいい子だ。努力も怠らないし、心が強い。こういう人は男女関わらず素晴らしい人になる。
「ユーリさん?」
「私もアルエットさんと友達で良かったと思うよ」
自覚なく笑顔で語り掛けると、アルエットが瞳を潤ませながら「ありがとうございます」と笑ってくれた。なんの、それはこっちのセリフだ。寂しい学校生活にならないでいられるのは彼女のお陰だもの。
「私もありがとう、アルエットさん」
「うふふ」
う~んアルエットは南部の平民生まれだと聞いたけど、敬語にウフフ笑いを見ると、本当は貴族なんじゃないかと思ってしまうな。ステータスに苗字が無いから、本当に平民なんだろうけれど、育った環境が貴族に近いのかもしれない。
「そういえば、相談があったんだけどさ」
「なんです?」
「お見合いの補佐というか、見極めを頼まれてさ、如何したら良いのか良く分からなくて困ってるの。相手の何を見極めれば良いんだろう・・・」
二人で歩いていると、急にアルエットが立ち止まった。
「どしたの」
「ユーリさん、貴族に関わりがあるんですか?」
アルエットは少し嫌そうな、困った顔をしていた。
「あるにはあるけど、私自身が貴族じゃないよ」
王族だけど。
「なら安心です。彼氏がそういうのを嫌がるので・・・」
「あれ? でも貴族の彼氏だって聞いたけど」
だったよね?
「三男ですから、貴族と思わないでくれって、最初に言われました。家も出奔するつもりだから、私が卒業する前に就職して苗字も捨てるって」
「へぇ・・・私が世話になってる商会に掛け合ってみようか? 真面な人を探してるんだけど、アルエットさんの選んだ男なら良さそうだし」
色々と面接すると、称号欄に詐欺とか殺人とか暗殺とか色々なのが来るんだよ。もう嫌になりそうだから、モンドさんポジの人の採用は諦めた。
「でも、いくつか考えてるって言ってましたから、そこがダメだったらお伝えしてみます」
「そう? その時は言ってね」
「はい。で、そのお見合いの見極め? なんですが、相手の方って貴族で、ユーリさん側の人も貴族なんですか?」
「うん。こちら側の人に相応しい性格で、顔も悪くなくて、家格は無視していいし平民でも良いから、イイ男を見つけて欲しいって依頼主から要望があったのよ」
範囲が広すぎじゃねって、一瞬唖然としたわ。それもう、私が心当たりある前提での依頼じゃないかなって思ったもん。
「性格重視で顔は二の次ですか・・・う~ん・・・」
「なにニヤニヤして」
「彼氏がまさしくそういう人なので、その場に連れていったらどうなっちゃうのかなぁって思いまして、複雑な心境になりました」
「ほう・・・詳しく」
「だ、だめです! 取られちゃうかもしれないじゃないですか! 良いんですか!? 泣きますよ私! 泣いちゃいますからね!」
「取らないから、良いから、詳しく」
「うぅ・・・わかりました」
強引に迫るとアルエットが折れた。今の私が男だったら危ない絵面だな。両肩を掴んで顔が近い状態って殆どアウトですよね。
話を聞いてみると、彼氏さんの兄妹もそういう性格らしい。落ち着いていて冷静だけれどとても暖かい家族で、平民のアルエットもすんなり受け入れられたらしい。ただ、アルエットを貴族の流れに巻き込みたくない彼氏が、家族に相談して出奔する事になったとか。
「自己犠牲半端ないなぁ。無茶苦茶いい人だね。だから彼氏さんの御兄弟を教えて」
「巻き込む気ですかぁ」
「アルエットさんと彼氏さんは巻き込まないから、連絡先を教えて」
「はぁ・・・私の紹介ですって言って下さいね? 何かあった時に私がちゃんと説明しますから」
「大丈夫だって、そこまで迷惑は掛からないと思うから」
「掛ける前提なんですか」
「ちなみに、その御兄弟は婚約者が居たりするの? 何歳? 巨乳好き?」
「何ですか最後の」
そうして嫌々書いてもらった連絡先と諸々の情報を受け取り、陛下に渡した。さて、どんなのが出てくるだろうか。無理矢理お見合いに出させることの内容に、独り身である事は聞き出したが、貴族家で22で独身男って普通なのだろうか? 諸事情で嫁が取れませんでしたとかなら仕方ないのかもしれないけれど、その事情が性格的な問題とか種無しとかだったら怖いから、事前に確認したほうが良いかもしれないな。
はぁ・・・アナ姫にスイーツ奢ってもらおう。死ぬほど奢ってもらおう。
◇◇
アルエットの彼氏の実家の御兄弟(22)が王城にやって来たのは翌月だった。貴族然とした装飾の自動車が到着し、出てきたのは線の細い宮廷貴族。代々が宮廷貴族らしいけれど、人の好さと家格の低さで目立った活躍の無い、所謂縁の下の力持ちとして歴代王家に仕えてきたらしい。
本人を一人で通し、護衛付きの部屋に入ると、そこには座したアナ姫と護衛に扮した女性騎士の私が後ろに控えていた。
「我がホスパーナ男爵家は代々王家を支えるべく、このようにして仕事に邁進してまいりましたが、殿下と婚約できる程の家格はありません。恐れながらご再考頂ければ幸いに御座います」
ふむ。此処までは合格。男爵家という下位貴族なら、上位貴族の事を慮って座を譲ろうとするだろう。ただ、それだけの気遣いを持って、相手を傷つけずに別の家を進めるだろうと思ったけれど、そこまでやれば余計な思惑が顔を出すので、不合格だった。
「私は貴方の家と結びを付けるのではなく、あなたと結ばれるかどうかをお話ししたいのです。今は家の事を忘れて、一人の女として見て頂けませんか」
よく言えました。滑り出しは問題ありませんよアナ姫。決めた通りに話してもらえれば構いません。強制じゃないけどね。
「それとも、他に思う女性がいらっしゃるのでしょうか」
「いえ、私の家は仕事で忙しく、特にそういった出会いもありませんので、宮廷勤めの男爵家とお見合いしたいという手合いも居ないのです。大抵は子爵家以上の領地持ちに目が行く方ばかりですから・・・」
少し自虐が入ったな。目を引く方法としては良いが、男としては少しマイナス。
「それならば、一度私達で試せばよいではありませんか。王女と次期男爵家当主。誰から何を言われようとも想い合える事を、私達で試してみませんか」
「それは・・・しかしなぜ私なのですか? 弟の想い人からの勧めだと言われましたが、何故平民の彼女が王女殿下のお見合い話を持ってくるのか、皆目見当が付かず当惑する次第です」
「何もありませんよ。単純に私の夫を探したい。家も、力も、金も、貴族の矜持も考えずに、ただ愛せる男性を探したい。イケない事でしょうか」
アナ姫が言うと急に卑猥に聞こえるから不思議だ。ああ、被害者特有の偏向意識かな。
「それこそ、私のようなつまらない男を選ぶ理由が分かりません。私は弟のように夢を持っている訳でも、誰かを守りたいわけでもありません。ただ、家族があり続けられるように努力しようと願っているだけの、小さい男に過ぎません。何故、私をお選びになられたのですか」
「あなたを選んだ理由は、その正しさです。誰に聞いても真っすぐな心を求めてあなたを選びました。それと、お顔も少しだけ、選んだ基準に入っておりますが・・・」
まぁね。レオンに少し似てるからね。つまりそういうことかっ! このブラコン義妹め。
「あ、ありがとうございます」
「うふふ」
もう少しお話ししていきませんか? とアナ姫が手を取り、彼の隣に座った。あっ、ロックオンされた。ブランママほどじゃないけど巨乳美女のアナ姫が接近したら、大抵の男は固まるし興奮する。良い匂いするしな!
因みに隣の部屋は客室なのでベッドは完備である。使うかどうかは彼次第だ。
「姫殿下。お下がりしても?」
「ええ。ありがとう」
「ごゆっくりどうぞ」
これが合格の合図。あとは土魔さんをソファの下に隠して護衛させれば私は退散だ。私の顔はマスクで上半分が隠れているし、体を聖騎士の鎧で覆っているので、体形でバレる心配も恐らくない。
ガチャリと部屋を出ると、30分ほど話し合った二人は笑顔で語らうようになり、そのまま隣の部屋へ突入。ほうほう、速くね? 抱き合って小さく何度もキスをするアナ姫に対して、経験が少ないのか恐る恐るといった感じでキスを受け入れる彼。
抱き合ったまま耳元で指示を受けた彼が、アナ姫の背中に手を回し、ドレスを脱がすと、下半身しか下着がない事に焦っている。彼の手を掴み、胸を触らせ、啄む様なキスを繰り返すアナ姫は、熱中したかのように唇を離さなくなった。
抱きしめた両手を彼の腰に回し、彼の手を自分の下着に宛がい脱がせる。
先に全裸になった彼女が彼の手を引いてベッドへと連れて行くと、そのまま男の本能を呼び覚まされたのか、彼女を求め始めた。レオンのような激しさは無いが、柔らかく何度もアナ姫を抱く彼は、それでも優しい人なのか時折アナ姫を気遣って声を掛けていた。
「痛く・・・ありませんか?」
「大丈夫です」
「苦しくありませんか?」
「心配しないでください。私もあなたの体で心地よくさせてください」
う~ん。ベッドの下の土魔さんのせいで全部聞こえてくる。アナ姫は初めてだと聞いていたから、破瓜の痛みで苦しいかもしれないと思ったけど、出血が一切ない。つまりアレだな。道具で自主練してたって事だな。後で揶揄おう。
それから2時間ほど大人のスポーツを楽しんだ二人は、隣の部屋に戻って別れのキスをしていた。別れ際に現れた私を見てビクッとしないで欲しい。
「お話しは出来ましたか?」
「え、ええ」
「それは重畳。車の用意をさせましたので、案内をさせましょう」
「ありがとうございます」
彼を見送ったアナ姫はお肌が艶やかだった。もう、誰が見ても一戦やったなと解る程に艶やかだった。
「・・・ひと汗流してから帰しても良かったんじゃないですか?」
「えっと・・・気づきませんでしたゴメンナサイ・・・」
「舞い上がってたんですね。分かります」
「あぁぁぁぁぁぁ~・・・・・」
「惚れたという事で間違いありませんね?」
「・・・・・・・・・はぃ」
「一応言っておきますが」
「なんでしょう?」
「仕事の邪魔はしないようにしてくださいね? 王城勤務ですからね?」
「あっ・・・はい」
「何で今ニヤリとしたんですか」
「してません」
「仕事の邪魔は、し・な・い・よ・う・に、してくださいね?」
「わかってますぅ」
色ボケ姫にジョブチェンジしたか。絶対やらかすんだろうなぁ。
「再度言っておきますが、愛に狂ってしまって、凡ミスをやらかしたら、この計画は失敗という事になりますからね」
「わかってますぅ!」
ならヨシ。言質を頂きました。




