表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
51/97

050

たぶんここが、前回BAN食らったところのお話。

明確にどこが悪いって運営から指定されないから予想です。

 半年が過ぎる頃には私も年を重ねて16歳となった。その半年のほぼ毎晩をレオンに抱かれていたのだけれど、一向に私のお腹は次の子を宿さない。ただ、それはある日の確認でそれらしき原因を思いついてしまった。


 ---------------------------------------------------

 ユリアネージュ(16歳:不変)

 種族:仙人

 レベル:288

 HP:419980

 MP:843109

 状態:通常


 スキル:剣術LV10、槌術LV7、盾術LV8、縮地LV5、格闘術LV10、仙体術LV4、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV10、空間魔法LV3、刻印魔法LV10、封印魔法LV5、付与魔法LV10、錬金術LV6、回復魔法LV9、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV8、並列制御LV10、闘気制御LV10、気配察知LV10、高速反応LV10、魔気合一LV1、HP自動回復LV6、MP高速回復LV10、真実の瞳、フリキア言語LV9


 称号:仙人、ワールドルーラー、竜機人の創造者

 ---------------------------------------------------


 仙人・・・。種族が変わってしまっている。


 それを見てから、神学校に着くなり、図書室で人類種に関する本を借りて、授業中でもそれを読み耽った。知りたい事があったから。


「・・・・・」


「ユーリさん、先生が・・・」


「・・・」


「ユーリさん」


 ゆさゆさと読み耽る私をゆすったアルの手でハッとした時には、先生が隣に立っていた。

 私の持っていた本を先生が手に取り、ペラペラと捲る。


「勉強熱心なのは構いませんが、せめて授業中は授業内容に集中しなさい」


「はい、すみませんでした」


「よろしい」


 あ、返してくれるんだ。有難うございます。

 はぁ、と内心で溜息をついて、ノートをとる作業に戻った。この錬金術はもう知ってるんだよなぁ・・・。隣でニヤニヤ笑うアルの脇を突いて「ぅっ・・・」と言わせてあげた。こっちは本気で悩んでいるというのに、この子は。


 お昼時の学食でも本を片手に済ませていると、アルエットが苦笑いだ。


「またその本読んで、何か気になる事でもあったんですか?」


「ん・・・人類種同士で交配が可能な範囲について少し・・・」


「ん~・・・この国は殆どが素人すびとですから、エルフとかドワーフとか、まして獣人と子作りするには難しいんじゃないんです? 好きな人がそういう系の種族とかですか?」


 彼女には子供が居る事は話していないし、王太子妃である事も言っていない。ここでは平民の子ユーリだから。


「ん~? そういうんじゃないよ。知ってる人が少しね。エルフと子作りしたいって言うから、この国に居ないのに出来る訳ないじゃんって言ってあげたの。諦めて無いようだったから、私も学術的に興味が出て、ね」


「そうですか・・・その本が異種族交配の内容なんですか?」


「うん。基本的にハーフエルフとか、ハーフドワーフとかは産まれるけど、獣人は同種族としか作れないかもしれない、って書いてあるね」


 喋りつつページを捲るが、仙人について記述した個所はまだ見つからない。


「なんか曖昧ですね」


「獣人は多種族と交配しようとする気が起きないらしいよ」


 一つ一つ、どこかにヒントが隠されているかもしれないので、一応全てに目を通すようにしているのだが、一般的な情報しか今のところ出てきていないな。


「えっと・・・、勃たない、ってことですか?」


「恥ずかしいのなら、顔を赤らめて、真昼間からそんな発言を周囲に人がいる場でしなくても良いと思うの」


 チラチラと視線をアルエットに向ける男子が数名。彼女、丸顔で可愛いからね。オマケに今の発言でそっち系の女性だと思われた可能性あり。


「べ、別にそういうのが好きって訳じゃないです!」


「好きなら好きで良いじゃない。それを彼氏とすれば良いでしょ。成人してるんだから堂々と隠れてしなさい。だから人前で勃起とか言わないの」


 ペラリとページを捲りながら堂々と勃起発言すると、13歳前後の男の子たちが私にも視線を向けてくる。その目には欲情した獣のような暑苦しさがあった。


「な、内緒で付き合ってるから言ったらダメです・・・それにユーリさんだって言って・・・・・・・・」


 ペラリとページを捲る。


「私は結婚してるから、頑張って子作りしてるわよ。今更勃起発言したところで、男と交わってるって結果は変わらないじゃない。女神さまも産めよ増やせよって言ってるものね」


「え!? ユーリさんって結婚してたんですか!?」


 声がデカい。食堂の生徒たちも先生も全員こっちをみた。どうでも良いから私はページを捲った。


「カッコいい旦那様が居るわよ」


「えぇ~・・・人生の大先輩だったなんて・・・」


 ページ当たりの文字数が少ないので、割とサクサク読み進められるのだが、本自体が分厚いのであと2割くらい残っている。アルエットが脱力しているのをチラリと見てページを捲った。


「今の彼氏と結婚しないの?」


「卒業したらしようかなと・・・」


 ページを捲るがやはり仙人のせの字も出て来ない。


「早い方が良いよ。神官になるのだって妊娠してても出来るんだし」


「に、妊娠なんて、私はまだ・・・」


 あ・・・あった。これかな。


「してないなら、自分の意思は伝えた方が良いわよ。子作りは婚約してからにしましょうって」


「そこは結婚してからにしましょう、じゃないんですか?」


 人類種では伝説的な存在として、例外的に仙人や魔女、魔人や亜人といった存在が・・・ほうほう。


「結婚する気のない婚約なんて意味ないでしょう。アルエットは相手を選ばないで婚約するつもりなの?」


「そんな事ないよ! 好きだし、愛してるけど、そういう事は二人でちゃんと将来の事とか話し合って」


 但し魔王や異神といった存在と同義に語られており、これまでの数千年で神の如き存在が

 子を成したという記録は無い、かぁ・・・・うっそだろコレ。魔王や異神と同義?


「ならちゃんと話し合う事から始めないと、勃起とかで興奮してる場合じゃないよ」


「こ、興奮してにゃいし!」


 魔王が魔人だとすると、異神は何だ。亜人か? それなら魔女も魔王で、仙人は何だ。


「呂律が廻ってにゃいですにゃ、図星ですにゃ」


「ちがうの、そうじゃないの!」


 仙人は・・・あの白い気や、ブラウの仙気と混じり易い事を考えると竜王に近いのか?


「そろそろ周りの男の子が収まりつかなくなるから、静かにしたほうが良いよ。股間を抑えて苦しそうだし」


「あ、ぅ・・・」


 周囲を見渡したアルエットは居た堪れなくなって走り去っていってしまった。自分のトレイは自分で返してきなさいよ。揶揄ったの私だけどさ。


 アルエットのお残しご飯を黙々と食べていると、本の最後にはこうあった。


 この本はいずれ訪れるであろう異種族との交流に備え、後世に残す。この本が文明の崩壊と共に消え去る運命に在ろうとも、私という人間がこの世界で案じた未来を支えるために役立ててくれることを願う。―――第42代木犀族長、ココラズア=ブアラグア。


「著者が獣人・・・」


 そうか。著者もまた私と同じ事を臨んだ一人だったのかもしれない。木犀という種族がどういう者なのかは知らないが、情報提供に感謝しよう。案じた未来が何かは知らないけれど、私の未来の支えにはなるかもしれないから。



 ◇◇



 進級前の神学校は少し長めの休みになり、夏休みは仕事にならないとばかりに、他の商会勤務の大人たちも家族で南部のリゾートに出かけたり、王都内で家族サービスに精を出す者が多い。


「さぁ、準備して出かけるわよ!」


「わかった。でもまずは風呂に入らせてくれ」


 ベッタベタの体を起こしたレオンと風呂に行くと、腕まくりをしたメイドたちに洗われる。他人に全身を撫でまわされるので最初は恥じらいもあったのだが、今になっては黙って横になっているだけで、洗体、マッサージ、肌の手入れまでレオンの目の前でやってくれる。お互いに見られているので、レオンの体も反応が正直である。


「・・・まだ、シ足りないの?」


「何度見ても魅力的で反応するんだ。体は正直なものでな」


 メイドさんへ「退出」と手で合図をして、洗体用のベッドを軋ませる。


 スッキリしたレオンを連れて陛下たちと朝食を済ますと、今日は王家揃って南部の御用リゾート地へ出発だ。一般客が近付けない区域にあるので、魔法で狙撃される事も無いし、結界内で守られた海を自由に泳げる。


「自分で作ったので、個人的には自家用プールに遊びに行く感覚ですね」


 腕輪から空間魔法を込めたゴーレム? と言って良いのか判らないけれど、直立した輪っかを取り出す。


「王族の保養地をそんな風に言ってしまう時点で、ユリアの感覚も既に王族だ」


「そうなんでしょうか?」


 ははは・・・と半笑いを陛下に返しながら、目の前の輪っかの前に台を置き足場とする。


「それで、コレは何だ?」


「見てのお楽しみ、触ってのお楽しみです」


「ふむ・・・」


 輪っかの横に立ち、真っ赤な楕円の魔石に触れて魔力を流し込む。MP量的には60万くらいだろうか。ほぼ私の全力である。


 込めた魔石の魔力が輪っかの内部を迸り、輪の内側に向かって魔力が平たく広がっていく。広がった魔力は虹色になって、まるでシャボン玉の表面のようだ。


 シャボンゲートと名付けたこの装置は、簡易的な転送装置。遠隔地にある同じゲートと繋げて一瞬で移動できるという物だ。


「準備が終わりました。これから、この・・・」


 ゲートの中に手を入れると、私の手が消える。当然ながら反対側には突き抜けていないので、真横から見ると切断しているように見えるだろう。


「ユッ!? ・・・・・ユリアその腕は」


「大丈夫だよ、ほら」


 焦ったレオンが、戻した腕をヒラヒラしている私を見て安堵した。


「それでこれは、何なのだ?」


「人間用転送装置です。物体転送は既に実現できていたのですが、安全性が確認できるまで一年程、時間を要しました。商会で一部の人間が多用していますので、安心してご利用ください。みんな元気に過ごしていますよ」


 体がバラバラになったり不調をきたしたりとかしないように、動物実験は何度も繰り返したからね、ククク。


「その黒い笑みが無ければ安心したんだがな・・・まぁいい、使ってみよう」


 お父様、大丈夫ですか? と不安がる姫殿下を振り切り、私と一緒にゲートをくぐった陛下が戻ってきたら全員が信用してくれた。


「・・・・・・俄かには信じがたい事だが・・・向こう側に海辺が見えた」


 南部海岸である。


「ユリアさん、これは決められたところにしか行けないモノなのかしら?」


「はい、お母様。一対一で繋がるドアのような物とお考え下さい」


 じゃないと安全性も保てないし、好きなところに転移しようとしたら数百倍の魔力が必要になるからね。それじゃブラウも無理だよ。


 無言のまま次々とゲートに飲まれる姿は後の者ほど恐怖感をあおるらしく、最後の姫殿下はガタガタと震えていた。


「ア、アナ様。大丈夫ですから。一緒に行きましょう。ね?」


「あ、あ、あ、あの、わ、分かり、ましたわ」


 だからと言って私の胸に顔面を埋めないで欲しい。顔を胸に埋めたままゲートを潜る。いくら仲良くなってアナ呼びするようになったからとて、流石にこれは恥ずかしい。


 潜った先でお母様に笑われてしまった。


「あらあら・・・ふふふ。ごめんなさいねユリアさん。この子、良く分からないものや、自分で理解できないものを極端に怖がるの」


「はぁ・・・大丈夫ですよ」


 そういえばアナ姫がやけに博識なのはそういう性格だからなのだろうか。単に勤勉なのかと思ったが、行動原理が未知への恐怖なら、この怯え方は納得できる。この後、滅茶苦茶説明させられたけど。


 日が暮れて夕飯を食べる頃には、ようやく彼女の質問攻めから解放された。魔力制御の詳細まで教える羽目になるとは思わなかったぜ・・・。仙気を使う魔法だから余計に説明が難しかった。


「ごめんなさいユリアさん。どうしても知りたくて」


「良いんですよアナ様。良いんですが、お風呂で全裸で抱き着くのは止めてもらえます? このままだと洗えないので」


 しかも鼻息が荒い。うん、最近確信したけど、この人、レズビアンだ。どうも結婚の噂が無いと思ったら。男と性交するのを極端に怖がっているらしい。それも未知の恐怖故なのだろうか。


「んんん! そうですわね、失礼しました」


 顔赤いな。私は無表情だけど。


 メイドさん等の使用人は、この御用地の管理に商会が雇った人が数人と、王家から回してもらった人員が多数いるけれど、王城のように大量のメイドさんに洗体される事は無い。依って自分で洗える。


「私が洗いますわ」


「いえ、たまには自分で洗います」


 自分で洗える! 洗わせろ!


「いえいえ、ならば背中は流させてもらいますわ」


「こうやって布を伸ばして背中も洗えますので」


 ごしごしとね。


「それでは綺麗になったか分かりませんわ。わたくしが見届けてあげます」


「いえ感覚で判りますから」


 体を見届けるってパワーワードは初めて聞いたな。


「せめて前はわたくし」


「アナ様!」


 何で前を見届ける! そして足の間に足を入れるな!


「そんなに拒まれると悲しいですわ・・・」


「そんな困った顔で可愛く見せようとしてもダメです。洗えないので離れてください」


 そのまま顔面を胸に押し付けたアナ姫は泡だらけになった。


「もうそのまま動かないでください。洗っちゃいます」


「むぃ!」


 オッパイの中で叫ばないでくださいますかね。

 むいむいと柔らかい布で全身を洗い、ついでにアナ姫の全身も洗う。時々恍惚とした表情でヨダレを垂らしていたけれど見なかった事にした。


「はぁ、はぁ・・・」


「さぁ、湯船に入りますよ」


「はぃ・・・ユリアさま・・・」


 さま?


 ふぅ~~~っと一息つくと、無駄に広い真っ白なお風呂に、お母様も入ってきた。良かった、あなたの娘さんをお願いします。お湯の中で悪戯してくるんです。


「あらユリアさん。その子も一緒だったの? 部屋に居ないと思ったら隠れて忍び込んだわね。イケない子ね」


「う、ご、ごめんなさい、お母様」


 一気に泣きそうになったアナ姫。でもその手は私の体を弄るのを止めない。白いお湯だから見えないと思って好き勝手してません? 無表情でジッとして居ると、体を洗おうとシャワーの前に移動したお母様に気付いた。


「お母様、お背中をお流ししますよ」


「あら、有難うユリアさん」


 ザバリと起き上がると、アナ姫が蛸のようにしがみ付いていた。タコ姫。動きの邪魔だから離れなさい。


 無言でその手を剥がして湯舟を出ると、アナ姫もついてくる。私は座ったお母様の後ろに座り、アナ姫が私の後ろに膝立ちになる。なんで?


「この石鹸は変わってるわね?」


「これは牛乳石鹸という物で、お肌に優しく、洗った後に肌を牛乳の成分がコーティングしてくれるものです。石鹸に魔力が込められていますので、極端に魔力が低い人には注意が必要です。ですが、肌を健康に保ちますので、見た目も少し若返りますよ」


 柔らかい網に入った石鹸袋を手に取り動かすと、数回で手が泡塗れになる。その泡でお母様の背中を優しく洗っていく。


「何だか包まれるような洗い心地で、匂いも柔らかくて・・・眠気を誘われてしまうわね」


 お母様のうなじからお尻に掛けて泡で包むと、私の背中はアナ姫で包まれた。ついでにアナ姫の両手が私の両胸に及んだ。


「このスポンジのようなタオルも良いわね。柔らかいのに洗った実感があって、お肌がスベスベになるわ」


「最近開発したばかりですので、今はこの別荘にしかありません。何度か管理人に試してもらったのですが、好評でしたのでお出しして見ました」


 商会長としては売り出しどころである! 王妃様の宣伝力は国内最強。お母さまの巨大主婦ネットを介して広がる噂・情報は所謂SNSの月間人気ワード一位に相当する上に、王家が認めたという箔が付く。これ以上の営業は無いでしょ。


 ところでタコ姫。そろそろ揉まないで欲しい。お母さまの牛乳石鹸泡に私のミルクが飛ぶから止めて欲しい。まだ現役で母乳が出るんですよ。


 べしッとアナ姫の手を叩くと、「なにかしら?」とお母様が振り返った。


「何でもありません。可愛い子がオイタをしたので諫めただけです」


「あらそう。目に余るようなら矯正しますから言って頂戴ね」


 ひぅ、と小さく私の耳元で悲鳴を上げたアナ姫は背中に張り付いて小さくなった。この人は本当にお嫁に行けるのだろうか・・・。


 お風呂上りに牛乳を飲んで、内も外もミルク肌になって一休みである。


「みて、ユリアさん。お肌がプルプルだわ。久しぶりの感覚で楽しいわね」


「喜んでいただいて、頑張った甲斐がありました。牛乳が取れる牛の品種から用意しましたからね」


 大変だった。休みの日に息子をレオンに預けて旅立ち、その日の内に帰ってきて商会に牛を預けて牧畜化し、催乳して牛乳をとれるようにする。大変な苦労です。


「あら? 一般的な牧畜の牛じゃないのかしら?」


「魔物の牛のミルクです。ホワイティアオックスと言いまして、肌に毛が生えていない上に、プルプルのツヤツヤ肌な牛を使いました。最初はミルクを出さなかったので困りましたが・・・全身マッサージをして、繁殖させ始めたら出すようになりましたね」


「あら、そうなの。何だか大変そうだったのね。有難うユリアさん」


「どういたしまして」


 ウフフアハハと風呂上がりの牛乳を楽しんだ。アナ姫は私のタオルに顔を埋めている。やめろ。スーハーするな。



 ◇◇



 背筋に寒いものを感じながら魔法で体を乾かすと、リビングで元騎士の女管理人と陛下がチェスのようなものを打っていた。


 のようなもの、と言ったのは明確に違いがあるからであって、決してチェスではない。なぜならマス目が凄まじく多いし、そのマスは立体的になっていて、まるで要塞のようだからだ。


「・・・陛下、お強いのですね?」


「まぁな。これでも有事の際には何度も指揮した身だ。経験が違うわ」


 なるほど。実戦を踏まえた経験からくるコマの動きか。


 この要塞のような立体チェスもどきは、ウォラスという名称で国民的に知られている。主に貴族の競技者が多く、商家生まれの者もほぼ全員が経験者だ。


 盤と駒一つ一つに魔法が込められた魔導具であるため、それなりの値段がするのだが、駒ごとの能力を発揮すると、盤面のマスにある魔法である程度のランダム性を以て相手の駒を倒せるかどうかが決まるという物。


 なので、指定した場所に行けば必ず相手の駒を取れるという物ではなく、戦略性を持って部隊指揮のように考えて動かさないと簡単に負ける。弱い駒のみで多数を倒す事も可能なので、凄まじい頭脳戦が可能だ。


「私はやった事が無いですね・・・こうして観戦した事は何度かありますが」


 決着がついた。管理人の女性は元騎士なのだが、手も足も出なかったようだ。


「ほう。では私が教授してやろう。代わりなさい」


「はっ」


 管理人さんの騎士時代の癖が抜けないようだ。思わず苦笑いしてしまう。


「それでは胸をお借りいたします」


「うむ」


 管理人さんに並べてもらった駒を見ると、前列が左翼、中央、右翼と三つに分かれた部隊編成に、魔術師のように二つ先までを狙える駒が中列横陣と言う形だ。後方には王とその護衛部隊に両脇を弓部隊が固めている。


「この、弓部隊は三つ先まで届くのでしたね」


 一マスが百メートルって感じか。だとしたらこの広い盤面は一辺が5キロの正方形な戦場だ。凸凹した地形変化もある。


「そうだ。地形によって変わるがな」


 高低差による弓の射程変化もあるらしい。リアルすぎる。


「遮蔽物もありますね。魔法が届かない」


「前列の盾も機能する。ただ正面から魔法を打っても意味が無いぞ」


 駒も指定したポイントに一瞬で到達する訳じゃない。ジリジリと駒に掛けられた魔法で自律移動するのだ。その数も将校に兵を幾つ付けるのかとか色々と考えないといけない。兵数や時間すらも上手く使わないと戦えない。


「なら囮を・・・」


「それでは・・・」


 随分頑張ったと思うけど、熟練の将軍には勝てなかったよ。駒の差配が素晴らしく上手い。物量、タイミング、駒の届く時間、相手の駒を利用した地形。全てが芸術的だった。


「美術品を見た気分です」


 悔しいけどそう思います。


「それは誉め言葉と受け取っておこうか」


 くっくっくと笑いながら駒を並べる陛下は楽しそうだった。ちなみにレオンも陛下に負けた。私はそのレオンにも負けた。きぃ~!


「陛下と勝負した時より早く負けた」


「父上は手加減を含めて上手いのだ。私はそこまで流れを自在には操れん。その結果だよ」



 ◇◇



 ぼふりと寝室の枕にヘッドダイビングすると、背中にレオンの熱を感じた。準備をしていつものように愛し合う。レオンとの行為の最中、ドアの方に視線を動かす。見えてますよ、貴女の後ろから。


 この別荘は私が作った別荘だ。どこで何があろうとゴーレムの視界共有で監視できる。つまりアナ姫がこちらに来ても気付けるし、気配の消し方が下手な彼女なら、気配察知で直ぐに誰なのか判る。


 集中している私は兎も角、私に夢中なレオンは気付いていないようだ。壁一枚向こうにて愛し合う彼が知ることなく、実の兄と義理の姉の愛し合う姿を覗きながら彼女はドアの向こうで果てていた。



 ◇◇



 数日間で計画していた南部リゾート海岸保養は水着の着用試験や、入り江のみとはいえ釣り船を試してみたり、潜水用の魔導具を使った海底散歩など、海と言ったらこれ! という内容を網羅した。レオンと管理人さんには海の上をジェットで飛び上がる遊びや、船で引っ張って海上の空を飛ぶ遊びなどに挑戦して貰っている。


「これは楽しいぞユリア! 自分で動けるのがまたいい!」


 眼がキラッキラしたレオンは少年に返ったように楽しんでいた。


「素晴らしいです。騎士として新しい境地が開けそうですね」


 いえ、あなたは管理人であって騎士ではありません。こっちも騎士時代に精神が返っていた。


 そんな日中と、ウォラスで遊ぶ夜を繰り返し、最終日の夜に打ち明けた。彼女の事を。今回の保養計画は王城の目が届かないという事もあり、比較的安全に暴露できる環境であるため、この日を選んだつもりだ。


「さて皆さま、といっても王家揃って6人ですが・・・お集まりいただいたのは、私から相談事があるからです」


「ふむ。相談事とな」


 陛下とお母様は知ってそうだけど何気ない感じで聞いている。知らぬは本人ばかりか。


「はい。実は私事ですが、とある方に想いを寄せられておりまして、どうしようかという相談です」


「なにっ」


 ガタッと立ち上がったレオン。落ち着け、身内だ。


「安心してレオン。相手は貴方が誰より知る人よ」


「むっ・・・? まさかノール!」


「ちがう」


「ん・・・むぅ・・・?」


 あの人はタイプじゃないです。あと瘤付きですから。最近結婚したじゃないですか。


「お相手の方とはお風呂に一緒に入るのですが・・・とても、その・・・アグレッシブな方でして、指を入れられたり、胸に顔を埋められたり、お尻を舐めまわされたりと、レオンにしか許していない事を散々されておりまして・・・正直困っております」


 サーっと血の気の引くアナ姫。そうやで、お前やで。


「なんだそれは!? 誰だっ!」


「レオン。貴方のよく知ってる人よ」


「良いから言え! 一緒に風呂に入る男だと!? どういう経緯でそうなるんだ!」


「女よ」


「おと・・・は?」


「レディよ」


「おん・・・・な?」


 無表情でアナ姫に顔ごと視線の向けると、視線だけ下を向いてゴクリと固唾を飲んでいた。何でちょっと興奮してるんですかね・・・。


「アナ様に大変に気に入られてしまったみたいで・・・気に入られ過ぎてね。この間も、あなたとの情事を部屋の明かりを付けっぱなしにしていたら、ドアの外で覗かれてしまったわ。まぁ気付いていたけれど」


「あっ・・・あれ、気付いて・・・」


 アタフタし始めるアナ姫を見て、レオンが口を閉じられないでいた。


「アナ様は男性恐怖症と聞いていましたけれど・・・レオンのは見ても興奮されるのですね? 見やすいようにドアに近いところでシたつもりでしたが、大分ご気分が宜しかったようで、お見せした甲斐がありました」


「いやーっ!」


 顔面を両手で覆った彼女はテーブルの下で両足をジタバタしていた。可愛いけど、この状況だとニヤニヤできないな。


「ドアの前が多少濡れておりましたので、メイドが滑って転ばないように拭いておきましたよ。ご安心くださいね」


「いやぁぁぁぁぁっ!」


 ブンブンと頭を振って、金髪が空中を踊る。


「あの液体って結構、時間が経っても消えないんですよねぇ・・・」


「やぁぁぁめてぇぇぇ」


 此処にはメイドも管理人も居ないので私達だけ。存分に聞かせてあげよう。


「4回くらい・・・でしたっけ」


「もう、おねがい・・・ごめんなさい、ごめんなさい!」


 両手を覆ったままテーブルに頭を落とし、前かがみになって叫んだので、テーブルの表面が少し曇っていた。


「いえ、別に謝ってほしいわけではありません。ただ、そんなに私が好きでは、そんなに女性が好きすぎては、今後の婚姻などにも支障が出るのではないかなと思いまして・・・その話をする前に、こうしてアナ様に素直になって頂きたかっただけです」


「・・・うぅ」


 痛ましいものを見るような目でご両親が見ております。息子や、お爺ちゃんとお婆ちゃんは、おばちゃんが心配で仕方ないんだ。だからせめて、起きて話を聞いてあげなさい。ダメ? 眠い? そう。


「アナスタシア」


 ビクッと陛下の声に反応した彼女は、覆っていた両手で乱れた髪を整えて姿勢を正した。顔は怯えているけれど。


「お前が婚姻を拒む理由はユリアが言った通りか?」


「いえ・・・その・・・知らない男性に、抱かれるのが怖いというのは、本心です」


「ならば会って話をするのは問題あるまい。それすら断る、他の理由があろう」


「・・・ユリアさんが羨ましいんです。ユリアさんを尊敬しています。ユリアさんが好きです。ユリアさんのように強くなりたいんです。ユリアさんのように世界を見たいんです。ユリアさんを愛したいんです。ユリアさんと生きていきたいです」


 今、何回私の名前が出たのか解らなかったです。重い想いをぶつけられた私は心なしか胃が重く痛い。


「ではユリアが認めた男なら婚姻は可能か?」


「っ・・・・・・・はい」


 ちょ、まっ。ええええええええ!?


「良いだろう。ユリアの認めた男と婚姻し子を成せば、ユリアと共に行動する事を許す。約束をたがえれば、お前はユリアの近くには寄らせん。娘と言えども誓ってもらう」


「はいっ」


 ど、どういう、あれ、あ? え? なにこれ?


「ユリアもそれでよいな?」


 えーっと、ユリアと行動を共にってところ?


「あー・・・・・えっと、例え出産してもアナ様と子作りはしませんし出来ませんよ? 今回のは家族だから使った手であって、毎回レオンの裸を妹に見せるのはちょっと抵抗あるのですが・・・」


「分かっておる」


 私にその気は無い。それだけは伝えておきたい。我は正常であると!


「で、でも時々は」


「アナスタシア!」


 アナ姫の戯言に陛下が一喝した。


「ぁひゃぃ! しません! 約束も守ります!」


「それなら良いですよ」


 という訳で、帰ったら私と一緒にお見合いである。何でこうなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ