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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
45/97

043

 王城の大会議室は国内でも重要人物しか利用しない。国王陛下を始め、侯爵や伯爵といった各大臣、そしてそれら直下の任官達。彼らの内一人でも居なくなると、領主が死ぬよりも大きな影響が国内に拡がる。


 貴人たちが集まって議題に燃え上がっているのはゴディスのせいなのだが、当の本人は今日も幽閉された部屋で護衛付きのスヤスヤタイムだ。羨ましいものである。本日は国王陛下より事実を彼らのみへ限定して説明している。私はそれを陛下に頼んで持ち込んでもらったゴーレムで覗き見中。


「さて、このように公国が我が国で内乱が起こるよう企て、それを実行したのは紛れもない事実だ。結果的に魔術師ギルドと西央騎士団は利用された訳だが、そもそもの動機は公国がユリアの技術を恐れた事に他ならない。だからと言って、ユリアの仕事を奪う事は国家事業を差し止めることにほかならず、我が国が公国の脅しに屈する事も無い」


「責任の所在は如何なさるおつもりですかな」


 陛下の説明に対して質問をしたのは、かつてレオンに娘を宛がおうとした侯爵か。あれ?でも、この人って軍務大臣じゃなかったっけ? 何人も似たようなのが居るので、誰が誰だが分からん。


「責任は魔術師ギルドにある。西央騎士団は利用された側に過ぎず、その想いは停滞した西部の発展にあろう。例え私腹を肥やす目的であろうと、国内の発展を願っていたのは事実だ。そして、公国が我が国を恐れたのはゴーレム技術であって、ユリア個人ではない。仮に同様の技術をそなたの娘が持ったとして、余はそなたの娘を責めたりはせぬぞ」


「ぐっ・・・ではユリア様にお咎めは無しという事ですかな?」


「くどい。そなたは家族を馬車にひき殺されれば、御者ではなく馬車を作るものの罪を咎めるのか? 違うであろう」


「・・・出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございません」


「構わぬ。人が人である以上、身の危険を感じた際に、誰かのせいにしたがるのは当然の感情だ。それを制御し、正しき判断が皆も出来るよう願う」


 陛下の言葉にここまで噛みつく人は今までいなかった。思わず無礼討ちにでもなるのかと思ったけれど、想像以上に国王陛下は心が広いな。まぁ、この程度で家臣を殺していたら、こんな平和な国にはなっていないだろうけれど。あのレオンの父親だもの、人格者なのも当たり前か。


「次に公国の対応だが、ゴディス=ヴラディナージの首と共に正式に抗議するものとする。但し、それはレオンの即位式典までお預けだ。連中の目の前で認めさせるその時までゴディスは殺さぬ」


「しかし、それでは第二第三のゴディスが、王国内に現れるのではありませんか」


 先程の騎士団を預かる軍務大臣が解った上で質問してきた。彼も何となく対策は理解した上で、この場に疑問を呈したのだろう。周囲に理解させるために。それでも結構噛みついてくるな。陛下の敵対派閥なんだろうか?


「既に世界樹の根に沿って、ユリアがゴーレムの監視網を構築しておる。合わせて山脈の尾根に沿って長城を構築する予定だ」


「・・・警戒されませぬか? 物理的にもそうですが、国家間の緊張を煽る事にもなりかねません」


 まぁ、そうなんだけどさ。これ以上、緊張すると戦争状態になりかねないのも解っているよ。だとしてもやらないといけないんだよ。


「ゴディスの証言により、公国にはデーモンの使役方法が確立され、戦力としても相当なものと判明しておる。それらは山脈越えをものともせず、一夜で山を越えてくるぞ? これだけ緊張状態にある今、防衛を優先せねば我が国は守れぬ」


 続いて悪魔一体の基本戦力を、私が教えた通りに文官が説明していくと場が騒然となった。当然である。ゴディスが使役していたデーモンは、公国の最高レベルだとしても、最低で十体は揃えられる筈だ。人間が努力すればその程度は可能な事を私は知っている。


 それに、あのデーモンは大森林中層以降の奥に居るレベルだ。王城の聖堂騎士団でも勝てるかどうか怪しいレベルなので、正直言って攻め込まれたら非常にまずい。エステラード王国は滅ぶ可能性がある。


「そもそも、潜入者ゴディスの力はどの程度なのですか? それだけの力を持つデーモンを使役する者とは、英雄級の力を持っていても不思議では無いのではありませんか?」


 恐怖に顔を染める軍務大臣は、伝えられた危険性を正しく認識していると言える。彼の声が震えているのが何よりの証拠だ。尤も、他の者に恐怖が伝染するのでもう少しだけ耐えて欲しいところである。


「王城の鑑定士でも鑑定できぬほどのレベルだ。余も鑑定石を使って試したが、あれは格上の鑑定が出来ぬもの故な、代わりにユリアに鑑定してもらった」


「・・・ユリア様は、その者よりもレベルが上なのですか?」


「仮とはいえ特A級冒険者だぞ? 一切の淀みも無く鑑定してくれたわ」


「それをお伺いしても?」


 いやー、ちょっと恥ずかしいからやめてー。


「うむ。ユリアのレベルが258。ゴディスのレベルが166だ」


「にひゃ・・・」


 やーめーてー。お父様! おやめください! 義娘の個人情報を晒さないで!


「レオンもレベル180超えだと聞いたな。ゴディスを捕らえられたのも納得できるという物よ」


 自慢げに言う陛下だけど、勝手に誰かのレベルを教えるのは良くないと思うの!


「な、なるほど・・・それだけの強さ・・・納得できますな」


「うむ。だからな軍務卿よ。兵の練度を上げよ。ユリアが言うには、ゴディスの召喚したデーモンは北の大森林における、中層以降のデーモンと同等だそうだ。目標レベルは150を想定して訓練に励め」


「・・・・・承知いたしました。急ぎ、四方守護役に申し伝えます」


「うむ。励めよ。国防の危機故な」


「はっ!!」


 結局、西の山脈沿いに北から南へと幾つかの砦を建設し、兵站構築の為に西部開発を行うべきだという意見が出たが、全ては西央騎士団と魔術師ギルドのお仕置きが終わってからという事になった。


 それ・・・結局私がやるんですよね。お仕置きも建設も。北の大森林の護衛とかは関係ないよね? それ騎士団の練兵だし、私は行かないからね?


 ・・・・・アルセウスが1歳になるまでに終わらせよう。そして私は息子を連れて冒険に行く。絶対そうすると、ベッドの上で誓った。


 ◇◇


 西部の胃袋と言われる領都ジャブールを出発した私たちは、さらに西へと向かう。王都ほどではないが、温暖な気候なだけあって、広い草原や湿地帯や森が続く。西部と東部は北部に比べて湿度が高く、農産物が育ちやすい。


 冬も過ごしやすく、摂氏15度程度までしか下がらないので、餓死者や凍死者も出ないという。その為人口も多く、働き手が多い反面、道行くものを襲う盗賊も多い。農地は多いけど工場のような働き口が少ないせいだろう。この国は南に行くほどそう言った条件が揃っている。


「だからといって、こうして見た事も無い自動車に襲い掛からなくても良いと思うがな・・・・・いや、それだけ切羽詰まった生活をしているのか?」


 レオンが切り殺した盗賊たちを見て、そう独り言ちる。


「以前の南部の方が酷い状況でしたよ。盗賊なのか傭兵なのか冒険者なのか判らない連中が数多くいましたから」


 従者ノールが死体の首を切り落とす。うぇぇ・・・なにやってるの?


「・・・首を持っていけば、警備隊の仕事が片付くのか?」


「ええ、お察しの通り、彼らは指名手配犯です。行方の分からなくなった冒険者、顔の割れた犯罪者、傭兵が討伐に行ったまま盗賊に寝返った者、様々ですね」


 盗賊ってそんなに儲かるのかね? これだけ悪行を重ねていたら、広大なエステラード王国と言えど、生きていけなくなりそうだけれど・・・。


 私が筆談でそうノールに質問すると、首を傾げられた。


「ユーリ様はご存じないのですか? この辺りは魔女の作り出した迷宮が豊富なんですよ。だから盗賊たちが冒険者の振りをして生き易いんです」


「ほう。古代遺跡ではなく、魔女の作り出した迷宮という物があるのか?」


 レオンと同意見だわ。迷宮って遺跡しか作り出せないのでは? 首をレオンの腕輪型マジックバッグに仕舞うと、ノールが額を拭いながら答えた。暑さのせいで汗が滴る。


「いえ、正確には魔女の作り出した迷路だそうです。迷宮のように地下深く掘り進められたものと違い、且つて生きていた魔女の家の周囲には、迷宮のように魔物が湧き続けるのだそうですよ。階層構造ではないので長くはないですが、広大で、進入したグループが迷路の中で互いに遭遇しないので、日銭を稼ぐには打ってつけなんだそうです」


「おまけに犯罪者が隠れて生活しやすいということか」


 そういう事ですね、と生み出した水で聖騎士達の手を洗うと、首なし死体が一か所に集められて燃やされていく。全て済むと再び自動車が走り出した。


「その魔女とは、大魔女リリーヴェールの事か?」


「申し訳ありません。そうらしい・・・としか知りません。何せ冒険者ギルドにもその手の記録が無いそうですから。数千年前に生きていた大魔女が作った迷路なのか、現在別の魔女が居るのかも定かではありません」


 なるほど。大魔女リリーヴェールは、二つ前に出発した魔法都市リンディゴスを作ったという伝説の魔法使いだ。数千年前に生きていたと言われているのに、数百年の歴史しかないエステラード王国に名を残すその人物は、不老不死だったとか、実はハイエルフだったとか、今も生きているとか、様々な噂がある。


「謎の人物が作ったかもしれない、謎の迷路か。それを今になって隠れ蓑にする盗賊がいるとはけしからんな」


「生きていくために利用しているだけでしょう。なるようになった結果だと、私は思いますが」


 レオンはノールの現実的な回答を聞いて眉を顰めた。


「ノールは大魔法使いの遺産を大事にしようとは思わんのか?」


「あの迷路は・・・私が思うに防犯装置のようなものでしょう。現に迷路の最後にあると考えられている、魔女の家には辿り着いた者が居ませんし」


 未踏破なのに魔女の家だと判るのは矛盾してないか? それとも迷路の入り口に表札でもあるのだろうか。


「迷路には至る所に魔女が使う魔法陣が使われているんですよ。古代遺跡の迷宮と大きく違うのはそこです。研究者たちがそれを見て、大魔女の遺産だと考えるようになった・・・と言われています」


 つまり良く分からないけど、予想では魔女の迷路だという事か。


「迷路の奥にはボンヤリと屋敷が立っているらしいですから、それを見て魔女の家だと言い始めたのでしょう。私なら、そんな恐ろし気なところには行きたくありませんね」


「冒険心をくすぐるな」


「殿下、反応しないでください」


「何故だ! 散々、北の大森林を探索してきたノールは冒険者の魂が揺さぶられないのか」


「ユリア様みたいなことを仰られないでください。もう少し御身を大切にして頂けると助かります」


 迷惑そうに従者ノールがそう言うと、レオンが睨みつけ始めた。レオンって時々王子様らしくない事を言うよね。私と付き合い始める前からだそうだから、別に私に似てきたわけじゃないと思う。なので今のノールの発言には断固、異議を申し立てたい。


 ガッタンゴットンとサスペンションでも吸収しきれない衝撃にレオンたちが尻を痛めつつ、森の中の道を自動車が進んで行く。やがて見えてきたのは、大きな湖に浮かぶ美しい街だった。


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