040
結局、私はそのまま王城に住むようになった。
妊娠しているなら、長旅をさせるわけにはいかない。
自動車に乗っても魔獣に襲われて怪我をしたらどうする。
たった数日が命取り・・・等々、陛下たちや周囲の貴族達からも止められた。
レオンに話を聞くと、私の事を深く知らない人は、「あぁ! お美しい未来の王妃様!」という扱いらしい。しかも仙人で大商人で国を富ませる鍵となる人物。もう何処にも行かないで! という状態になっている。
「仕事に支障が出るのですが・・・」
「王都で仕事をすればヨイデハナイカ」
出たよ国王様の「ヨイデハナイカ」発言。こっちの事情をぶん投げる完全無敵の言葉。
「では工場を移設したいのと、南の開発に関わらせていただける権利を下さい。海は資源の宝庫ですので・・・」
王城の生活は何不自由ないと言っても過言ではないけど、私個人は何処にも行けない。流石にこれはキツイ。心が死ぬ。私の冒険者魂が死ぬ。
「良いだろう。それではユリアブラン商会に南の開発に関わってもらうとしよう」
そう言って王様は3人の大臣を付けてくれた。
財務大臣、法務大臣、軍務大臣。国の全てと言ってもいい気がするのですが・・・。
つまり、アレですね。国政を私の商会で動かせと言っているに等しい状況です。談合か癒着か何かかな・・・?
これには王都だけで完結できるはずもなく、お母さんに北へ帰ってもらい、竜船を2機とも使用して、盛大に開発計画を行う事にした。
まずは道路整地ゴーレムを大量に輸送してもらい、王都から南までの道を整備してもらう。
次にそれぞれの村や町を鉄柵で覆い、安全を確保。
更に王都付近にゴーレム工場を建てて自動車産業を興し、王都で暇をしている人間を大量に雇用。基本はゴーレムが作業し、同じことを人間にもやってもらい、給料を支払う。
これだけでスラムなどで打ちひしがれている人に職を持たせて、即興で作った寮に住まわせることが出来る。王都の外周に作ったその工場は、日に日にその幅を広げてもう一枚の外壁を作る事になった。
元々あったスラム地区はほぼ解散され、区画整理にて新たな商業特区になりつつある。そこに残りのスラム住人を雇って、追加の雇用促進を図る。彼らには自動車販売員と、販売所周辺の食事や服飾を提供する仕事に従事してもらう。王都の神殿騎士達に治安維持部隊を設立してもらい、これで再度のスラム化と闇市化を防ぐ。
南部の町でも輸送業を起こして人を雇い、元々馬屋を営んでいた人たちの大半を商会に招き入れる。海から取れる海産物は商業ギルドで買い取ってもらい、私の商会が運ぶ。王都へ運ばれた魚は私の造った「自動車という名のマジックボックス」で運ばれていくので、冷凍ゴーレムが氷漬けにすれば長時間で大量の輸送が可能になる。尚、冷凍状態を維持する為のマジックバッグの改造は済んでいる。水の元素魔法を利用した魔法陣を書き加えれば問題無かった。ちょっと時間かかったけどね。
この結果、北部の領地にも海の幸が運ばれるようになったので、定期的に竜船で顔を見せるお母さんたちは喜んでいた。冒険者家業は暇を見てやっているらしいけれど、それを聞くとお腹の大きくなった私はヤキモキするだけなので、毎度のようにブランパイに顔を埋める。くぐもった声で「冒険に行きたい」と叫ぶ度にブランママは苦笑いである。
時々用事が無くてもお母さんが私に会いに来てくれるのが嬉しい。当時、自分が苦労しただけに心配で仕方がないようだ。アルトは妊婦の扱いなんて解らなかったからねー、と言いながら苦労話をしてくれた。
そんな風に妊婦とは思えない、目まぐるしい日常を過ごしながら数か月も過ぎていくと、私のお腹も動きに支障が出るくらい大きくなり、城内を歩き回る事が出来なくなった。反対に3大臣配下の文官が、引っ切り無しに与えられた書斎に出入りするようになる。
そんな王城での生活が続いたある日、南から大きな獲物が捕らえられたと連絡が入る。
「クラーケン? なにそれ、私も行きたい!」
「ダメです。まだこちらが書き上がっていません」
「くっ、ゴーレム、いきなさい! 私の代わりに見てくるのよ!」
ウォォゥンと声を響かせながら、球体のゴーレムを窓からぶん投げる。空中で浮かんだそれはフワリと移動を始め、事件現場へと急行した。
「何ですか今の?」
「ゴーレム君です」
「はぁ・・・」
窓の外を凝視している文官に書類を渡して、次の文官を呼ぶ。夕方までには終わらせて訓練だな。頑張ろう。
◇◇
数か月の成果はエステラード王国の南部を大きく変貌させた。
馬車ではなく自動車が走り、アルトパパの品種改良してきた作物から、いくつかを利用して追加栽培させて収穫を増やす。村や町の農地を増やし、また柵で囲う。仕事が増えれば人も増える。人が増えれば食料が要る為、領主たちには更なる開発を行わせる。
こちらが指示し、領主たちはそれに従う。私が考え、陛下が許可を出す。いつしか、北と南を繋ぐ道は大規模経済区域となり、中間の山間部にある街も栄えた。
南の何もなかった海辺はゴーレムが入り江を作った事で安全なリゾート地となり、大勢の観光客が集まるようになった。漁猟はゴーレム船で漁獲量が増え、以前よりも比較的安全に海の幸を得られるようになり、整備した養殖場からは次々に実験の成功報告が上がってくる。
月を跨ぐ毎に生活が豊かになっていく。これは王都の人間も市場の変化から敏感に感じ取り、食生活は物価の低下による生活の安定化。就職率の上昇などで、王都の外壁周辺にあったスラム消え、小さな村々は餓死者を減らした。
「問題は、ゴーレムをメンテナンスできる人間が、私以外に居ない事ですよね・・・この上昇した生活レベルは、私が居なくなってしまったら、遠い未来に消えてしまう。その時、当たり前になった生活が悪くなったと思われても仕方がないでしょう」
会議室でう~むと悩みつつ発表すると、陛下たちの「現状の問題点を挙げよ」という質問に返した。
「それはいささか先を見据え過ぎではないか?」
いや、そうでもない。何しろ私は・・・。
「わたしは子供を産んで育てたら、暇を見つけて世界樹に挑戦しますよ?」
「それはならん! そなたの代わりなど・・・あ」
「そうなりますよね・・・代わりが居ないんですよ。なので適正ある人間を探していただきたいのですが、これってやり方を間違えると、とんだ大問題になってしまいます」
才能発掘。言葉としては良さそうに聞こえるが、やるのは人間だ。人によっては攫ってきたり、連れてこられた人間が苦しむだろう。生まれたばかりの子供を奪われた母親はどうする? 奪う側、見つけた側の人間性によって、成長を待つか、無理やり連れて行こうとするかなど、本人の主観と状況でどんな色にも染まる。
それにこういった事は貴族が主体で行われる事が多い。私のように農奴の娘だった場合は親が悲惨な目にあう可能性もある。子供を渡さなかったから殺した、しかし報告では褒美として平民にした後、安定した生活を送らせるために別の場所に送った・・・などと言う事が続発しては、私の目的と反する。
「というような予測が建てられますので、ある程度の教育を行った後で、能力の鑑定と選定者の育成という形にしたほうが良いかと思います。全ての民を網羅できませんが、余計な不幸を避けるためには妥協も必要です」
「なるほど・・・現状の学院では不足か?」
「貴族しか通えない学院で調べても・・・魔術師ギルドの差別教育で染まった生徒など、悪事に加担して、大きな力に振り回されるのが目に見えています」
「辛辣な意見だが、納得できるな。現状、そなたが一人いれば王国は滅ぼせよう?」
「目的にそぐわない上に面倒な事この上ありませんので、やりたくもないですが・・・」
何で苦労して作って来た物を壊さなきゃならないのか。破滅願望はかけらもないですよ。
「うむ・・・ゴーレムとはそれ程の力があると思っている。だからこそ、その力で生活を支えている現状は歪だとも思っている」
「そうですね。これらは本来、人が自分の力で行う事です。順次工場の作業員を雇っているのはその目論見があるからです」
「なるほど・・・いずれは、ゴーレムは殆ど撤収させるという事か?」
広い会議室には数十人が座っているというのに、長い長方形の机には長辺の中央付近に相対するように座る、私と陛下が喋っているだけだ。
「現実的な問題として解決できなかった場合のみ、一部を残留させます。それまでに代替品を造れれば差し替えます。例えば船とかですね」
「私も見に行ったが、あれは軍事力にもなるな。竜船ほどではないが、クラーケン程度なら善戦出来よう?」
「魔導師級が5人も船に乗れば勝てるかと・・・」
「やはりか。うむ・・・有史以来、この世界には別の大陸があるかどうか判明しておらん。それに歴史上で数少ないとはいえ、国家間の戦争は現実に起きておる。あれらの船を参考にして、研究させるのも必要だろう」
あぁ、そういう事にも使えるか。ちょっと視野が狭かったな。
「外の大陸があるかどうか、だけならば調べられますがどうしましょう?」
「可能か?」
「数年掛かりますが」
「任せる」
よっし。また面白い冒険が出来るぜよ!
「お任せください」
まぁ、その前にこの大陸についての調査が先ですけどね。
カリカリと周囲の貴族達が議事録などの書類を纏める音を聞きつつ、「他に問題が有る者は居るか?」と声が響く。
その中で一人、手を挙げた。例の老魔導士。魔術師団の長だ。
「魔術師ギルドが南で暗躍しております。ゴーレムの横流しや、物品の横領が相次いでおり、西側に流れているようです」
あぁ、あれか。ゴーレムは別にいい。持ち去られた分は全て魔力を開放し、砂に変えているから。ただ、食料などの物品は止めて欲しいと思っていたところだ。
流石に西央騎士団の管轄だから黙っていたけれど、魔導師長も魔術師ギルドと敵対している身だから、この件を明言しておきたかったのかな。
「割合は?」
「収穫量のおよそ2割です」
国王の問いに別の担当官が声を上げた。めっちゃ多いな。これまでの収穫量が現在の4割程度だから、既存の5割を奪い取っている形になる。どこの大盗賊団だよ。
「西央騎士団は何をしている? 情報は掴んでいるのか」
「はっ・・・今知ったばかりの事で、これから情報を・・・」
西央騎士団の文官の責任者らしき人は脂汗をかいて答えている。責任問題だもんね。明日には居ないかもしれない。
「ユリアは何か知っているか?」
「基本的には西央騎士団の管轄と思い、様子見をしておりました。ゴーレムは指定距離を離れると砂となるようにしていますので、持ち去られた分は全て遠隔で消失しています。犯人は所在を把握していますが、その方に情報をお渡ししても問題がありませんか? 少し・・・・・・・」
アレなんだよね、この人。私が途中で言葉を濁すと、老魔導士が察したのか立ち上がった。さすが、仕事が速い。
「お待ちを。この男、闇魔法の気配を強く感じます。魔術師ギルドは洗脳の闇魔法を使い暗躍する事が多いのです。取り調べが必要かと」
「ほう・・・」
ギシリと陛下が座る椅子が鳴った。闘気が全身を覆っている。西央騎士団の文官に放たれた殺気が周囲に漏れているので止めて頂きたい。陛下の隣に座ったレオンが、陛下の腕を触れて頷いた。抑えてくれたか。
「連れていけ」
「ひぃっ」
陛下の冷たい目で命令され、出入り口の騎士と老魔導士の指示で数名の魔導師が追随していった。
暫く陛下が考えを巡らせるように息を吸い、目を閉じ、天を仰ぎ、もう一度目を閉じる。
考えがまとまったのか、レオンを見た。
「西央騎士団と魔術師ギルドを引っ張ってこい」
「はっ」
立ち上がったレオンは真剣な眼差しで私を見て、護衛の聖騎士と共に部屋を出る。レベル180越えの男たちに攻め込まれる西央騎士団と魔術師ギルドが可哀そう・・・。
レオンたちに与えたドラゴンの重鎧は、各装備の共鳴効果で強力な魔法耐性を誇り、並のミスリル合金やアダマンタイトの武器では傷つかない。
当然ながら闇魔法など意味をなさない。負けるとしたら仙気魔法の使い手か、ギルマス並みの闘気使いかな・・・。レオンには最終奥義の「腕輪に相手を閉じ込める」があるから、負けは無いと思う。
あとで私のゴーレムと土魔さんを同行させよう。ゴーレムで視界を得つつ、土魔で援護すれば問題ないっしょ。
ああ、ついでに・・・。
「レオン!」
大声で部屋を出た直後の旦那を呼び止める。閉まりかけた扉が開いて、レオンが顔を覗かせる。手でちょいちょいと呼ぶと苦笑いで近づいて来た。
「左手出して」
「こうか?」
結婚指輪は神銀。つまりオレイカルコスだ。これは自然発生したオレイカルコス=生体金属なので、指輪として生きている金属という事になる。
彼の指輪を触れ、フリーザ様並みのMPを込める。永久不変なオレイカルコスは生命体、つまり付与魔法をかけられる。
合計53万のMPを込めた様々な付与魔法が指輪で輝く。
身体強化、魔法耐性強化、物理耐性強化、精神耐性強化、魔力強化、魔力吸収、HP回復力強化、MP回復力強化、認識力強化、自動魔法盾、仙力付与。
「これは・・・!」
「この指輪から魔力が失われない限り、効果は続く。各種強化魔法付与に加えて、一時的だけど仙力も使える。だけど多用しないで。体が持たないから」
真剣な目で訴えると、彼は深く頷いた。
「分かった、ありがとうユリア」
「ん、いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
う~ん、首脳陣の前でイチャイチャしてしまった。まぁ良いか。多分、あの指輪自体に魔力が宿っているから、効果が永続するかも・・・しないかも・・・う~ん。
「ユリアは付与魔法も使えるのか?」
「色々と使えます」
陛下の問いに微笑みかけて答えると、ニヒルな笑顔を作られてしまった。後で変な話を持って来られても困りますよ。
◇◇
視覚と聴覚をゴーレムと共有し、手元では文官の持ってきた書類に目を通す。書斎の立ち入りを禁止されてから、揺り椅子で書類を眺める時間が増えた。
すっかりお腹の大きくなった私は、王妃様に叱られて城内でも日当たりの良い部屋へ軟禁されてしまった。必要最低限な報告だけしてもらい、後は部屋で編み物や読書をする日々になっている。
「有難うございます。このまま進めてください。開発も落ち着いて、あとは新しい生活様式が地域に浸透していくだけ・・・暫くは、変化に耐えられない問題がゆっくりと芽吹いてくるでしょう。皆さんはそれに目を光らせて、対応できるように備えておいてください」
「はっ」
文官たちが去っていくと同時に部屋のメイドたちが紅茶のお替りを持ってくる。礼を言って目を閉じると、旅先のゴーレムがレオンの現状を教えてくれた。
城内の部屋にいる音と、ゴーレムの音が入り混じる。ん~、流石にやり辛い。目を開けてメイドたちを見た。
「暫く休みます」
そう言って寝室に移動し、ベッドに横たわる。お腹の子が生まれるまであと2か月と言ったところか・・・何事もなく生まれてくれよベイビー。
そう考えながら、深い眠りに入るようにゴーレムとの感覚共有を深める。さて、そろそろ到着するだろうか。
◇◇
視界の先に移るのはレオンたちが乗る自動車の車内。そして進む先は西部守護役の西央騎士団が治める街ブランブルが近付いてきていた。
「殿下、そろそろ到着いたします」
「ああ、警戒しろよ」
「はっ」
運転するのは部下の一人で、10人が座れる座席にはレオンと従者ノール、聖騎士の三人と、文官が3名に黒い鎧を着た騎士が一名乗っている。
「そろそろ着くぞ。大丈夫か?」
レオンが黒い鎧に語り掛けると、俯いていた首が持ち上がる。フルフェイスの黒い兜で覆われており、素顔を見る事は出来ない。だってこれゴーレムだし。
静かに頷くと、レオンが安心したように笑いかける。
「まもなく検問です。ご準備を」
運転手がそう促すと、従者ノールが頷いた。
「わかった。書類を」
「はっ」
偵察で確認できた事前情報通りに準備を行い、必要書類は持たせている。他の領都と違い、今になって西方守護役の街に入り辛くなっている。盗賊なんてやってると、後ろ暗くなるのは解る気がするけれど、ちょっとあからさま過ぎじゃないですかね。
「王太子殿下に敬礼! お手数ですが身分証のご提示をお願いいたします。手配中の重罪人が周辺に潜伏しているとの話があり、現在、検問を強化中です」
「良いだろう」
「ご無礼を謝罪いたします」
「構わん、早く済ませろ」
「はっ」
一人一人の顔と身分証を検められ、街に入る目的などを確認していく。私もゴーレムの兜を脱いだけど、そっくりな人形顔と光魔法で誤魔化して幻惑を見せているだけなので、触られると眼球がカチカチなのがバレてヤバイ。表面は金属だし鼻の孔も閉じてるからね。
「ご協力感謝いたします」
「ご苦労」
レオンが労いつつも安堵の表情は作らない。サラリと検問を突破して街中に入ると、そのまま城を目指した。
「・・・しかし、バレない物だな?」
「不思議ですね」
レオンがジロジロと私を見て感心し、従者ノールが書類を確認しながら相槌を打つ。大して興味は無いらしい。
「ノールは魔賢師級なのに魔法の不可思議には興味が無いのだな」
「魔法は個人に依って、出来る事と出来ない事がハッキリしていますから。ユリア様の域になると、どれだけレベルを上げても到達できないと解るんですよ」
実際そうだ。このゴーレムは土魔法、元素魔法、錬金術、付与魔法、刻印魔法が使えないと作れないし操れない。
「才能の違いというやつか」
「どうしようもないです」
パタンと書類の入ったカバンを仕舞い、膝の上に置いたノールは王国内でも最高レベルの魔法使いだ。仙人級の一つ下の階級である魔賢師級ではあるが、私と同じことは出来ない。気力制御の出来る魔法使いなど稀にしかいないし、全系統の魔法スキルを持っている人は片手で数える位しか国内に居ないという。
戦士の才能を併せ持つ熟達した魔法使いなど、早々世に出て来ない。
「私も腕を磨いては居るのだが、魔法の方が苦手なのは変わらんな」
「それでも魔導師級ではないですか。十分に英雄の域にあると思いますよ」
「同じパーティにドラゴンを叩き伏せる親子がいるのだがな」
「・・・お二方は比べるだけ無駄という物です」
ブランママと私の事だけれど、ブランママはギルマスお爺ちゃん級の化け物になりつつあるので、成熟していないドラゴンなど最早相手ではない。今度会ったら銀髪の黄金闘士と呼んであげよう。多分、怒られるけど。
城に到着したワゴンタイプの10人乗り自動車は、街中でも城内でも目を引いていた。西部には普及していない自動車の、それも大型の自動車は、彼らにとって未知の存在である。
城には謁見の間と呼べるような所は無く、案内された部屋には大きな円卓があっただけだ。その奥手側に線の細い、白髪のご老人がサーコートを着て座っていた。
立ち上がった老人は一礼し、鷲のような目でレオンにねぎらいの言葉を投げかける。
「この度のレオンハルト王太子殿下の御訪問は喜びの念に堪えません。狭苦しいところですが、一先ず御着席になってお寛ぎください」
う~ん、平静を装っているようだけれど、身を纏う気は少し乱れたな。訓練が足らんな!
レオンと従者、そして文官たちが座り、私と聖騎士たちが背後に立つ。もちろん、護衛の為だ。
「大分お急ぎのようでしたが、如何様な御用件でこちらまでお越しになられたのでしょうか」
「大した用事では無い。ゴーダゴールの視察に向かう途中だ。かの地には少し気になる部分があるのでは無いかと、私の妻に諭されてな」
「ゴーダゴールにですか? 世界樹の根が動くような話は聞いておりませんが」
ゴーダゴールというのはこの国の最西部の街だ。西へ真っすぐ進むと見えてくる山脈で、北部大森林から続いている山脈は「世界樹の根」と言われている。見た目は山脈なのだが、山を削ると掘削できない金属?の壁に当たってしまう。これが巨大樹の根なのではないか、と言われている訳だ。
当然ながら、そんなものが動けば周辺は大災害に見舞われるし、多分この大陸は地割れ等の天災に見舞われて色々と終わる。根が動くわけないだろとギルマスに言われたけど、化け物みたいな人間に言われても信憑性が増すだけである。
「実はな、根を掘削できるかもしれないから試してきてくれと言われているのだ。未知の金属と言われ、途方もない硬度を誇る大量の金属鉱床。採掘できるのであれば、是非とも利用したいだろう」
「それは・・・素晴らしいお話ですな。殿下の鎧もドラゴンの骨で作られているとお聞きしておりますが、それ以上の武具素材や建材になりうる可能性も・・・」
「そう。国家の更なる発展に繋がるかもしれない。その為の調査と周辺都市の視察を兼ねていてな。採掘するとなれば、街の現状を把握しておかねばならん。この西部全体が大きく沸き上がるだろうからな」
「素晴らしい。王国の中でも最初に開拓が終わり、発展の余地のない停滞した西部ですが、実現できたならば素晴らしい未来が待ち受けているでしょうな」
彼が話す通り、西部は東部と比べて隣国と繋がっていない。東部は評議国が存在し、獣人や素人にエルフ、ドワーフ等々、様々な人種の坩堝になっているらしい。互いの国家で人の行き来が出来ない為、国境線での壁越し情報貿易が行われている事から、貴族が集まり、彼らの落とす金で潤う地域でもある。
対して西部は巨大山脈に阻まれて、西の公国との情報のやり取りすら不可能だ。存在だけが知られており、定期的な鳥文でのやり取りが続いているだけらしい。過去には山越えをして使者が来た事があったらしいが、一万メートル越えの標高に凶悪な魔物の生息する山越えは、命がけにも程があるので王が即位した時に互いの手紙を送るに留めているとか。
挿絵付きの本に少しだけ紹介されている程度でしか、この国の人間は知らない。
そんな西部を守る西央騎士団は、北部のように危険と隣り合わせの魔物素材も無く、東部のように情報貿易や農業で金の巡りが良いわけでもなく、南部のように海に恵まれ王都が近いわけでもない。
オマケにこの先にある魔法学園等に魔術師特有の研究者が集まる地域なので、住んでいる者の気質も旧態依然を良しとする者が多い。閉鎖的で考え方も凝り固まり、文化の発展性も、技術の発展性も無い。
そんな暗い地域を守らされる西央騎士団は、噂によると落ちこぼれ騎士の溜まり場と言われているらしい。事実、この白髪の騎士もヒョロイしステータスレベルが低い。
「そうだな。採掘が可能であれば西央騎士団に警護してもらう事もあるだろう。今のうちに採掘場から王都までのルートを警護する、専門の部隊を立ててもらえると助かる」
「お望みのままに、殿下」
満面の笑みで座ったまま礼をする老騎士。まぁ・・・そんな予定は無いですけれどね。
根の採掘が出来る可能性など皆無である。実際に大森林の最奥で巨大樹その物に切りつけてみたけれど、アレには傷一つ付かなかった。ブラウの鱗より硬いとか意味分からん。
◇◇
そのまま、城に一泊する事になった私たちは、城内でさり気なく監視されているけれども必要な情報は一通り集める事が出来た。
盗賊を派遣している証拠、魔術師ギルド長との契約書、そのギルド長との南部開発で手に入った素材の受け渡し約束と、ゴーレムの受け渡し約束。他にも西央騎士団が魔術師ギルドと癒着している証拠品が大量に発掘。素晴らしい成果だ!
もうこれで帰って良いんじゃねと思ったけれど、目的は魔術師ギルドを潰して西央騎士団を行動不能にさせる事なので、とりあえず西部の端まで行って、大きなところは片付ける必要がある。
「この街の魔術師ギルドの封鎖は終わったのか」
黒い鎧騎士の右手を挙げて親指を上に向ける。
「証拠集めと言い、さり気ない魔法での封鎖と言い・・・有難う。助かるよ」
上げた右手を左右にプラプラと振るとカシャカシャと音が鳴った。レオンが微笑んで肩を叩くと肩の鎧とレオンの皮手袋がぶつかる音がした。感触が無いので叩かれても視界と音で判断するしかない。
証拠は小型ゴーレムを大量にばら撒いて集め、ギルドは街ごと闇魔法の反結界で覆ったのでお得意の洗脳は出来なくなった。尚、西央騎士団長は最初から洗脳されていない。
「明日は魔法都市へ向かう。順次対応していきたい。頼むぞ」
こくりと頷き、レオンの寝る寝室で座り込む。寝る前に火魔法の形状変形を使った筆談で喋ったけれど、大型の自動車は舗装されていない道だと尻が痛いらしい。ワゴンじゃなくてジープのほうが良かったかな。




