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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
41/97

039

 王都に出発する前日、とうとう魔術師ギルドからお声が掛かった。どうやら自動車の件で興味が出たらしく、アレコレ言ってきているが知らぬ存ぜぬで通した。


「お得意の洗脳でもしてみますか、と」


 この街に入った時点で闇魔法を掛けられた人間は魔法を解除される。闇魔法の結界って便利だわ~。薬でラリった人も、騎士団の門番が私の虫眼鏡ゴーレムを使って状態異常:洗脳かどうかを確認しているので、唯一の手段は「薬でラリった人を壁を上らせて街に入れる」しかない。


 巨大な外壁を超えられるのならば可能だろうが、現実的ではないし、外壁の上はゴーレムが常時見張っている。騎士団にも外壁上に人を割かないよう言ってあるし、その分を治安維持に回してもらった。


「魔術師ギルドの支部建設依頼? 断る」


「ですよねー」


 モンドさんが商会の事務室で書類を書き綴り、断らせた。例の隣領の領主様もお怒りのようで、例の町の魔術師ギルドは潰されたらしい。原因不明の風爆弾が天から降ってきて、建物が物理的に潰れたとか。けが人は皆無らしいけど、夜の内に起こった怪事件は町の噂になったとか。怖いねぇ。


 他にも北部の魔術師ギルドは壊滅的な打撃を受け続けており、経済的、物理的に潰されつつある。何故か人的被害は皆無だが、いずれも天から風爆弾が降ってきては建物だけが破壊されるとか。


 立て直そうにも、北部での家庭教師の仕事や魔法陣などの依頼は全て北央騎士団が奪ってしまったので、ユリア町の学校には北部の貴族子弟が集まりつつある。だって他に魔法を学ぶ場所がないし。


「なかなか容赦がないですね?」


「当然。誰に喧嘩を売ったのかを思い知ってもらうわ」


「こわ・・・」


 仕事を失った魔術師たちは西部に逃れているらしい。元々北部はあまり発達していなかったのだが、破壊された村々を起点に、北部の各領主は私に復興支援の仕事を振ってくるようになった。大森林沿いの村は粗方復興が済んでおり、巨大な金属柵が外周を囲んでいる。


 領主も領民も喜び、ユリア町を中心に北部は発展を進めている。今や「北の都市連合」などと呼ばれているらしい。王子様が王都との仲を取り持ってくれていなかったら、今頃は反逆者扱いされていたかもしれないと思うと・・・ゾッとする。


「魔術師たちは西の魔法都市に逃げ込んでいるようです。あっちでも大量に魔術師が増えた事で仕事にあぶれた者が悪さをしたりと、色々と問題になっているようですね」


「まぁねぇ・・・元々使いようのない、ダラダラと魔術師をやってる連中ばかりが魔術師ギルドに入っていたらしいから、当然の結果じゃないかな」


 報告書を読むと実際の数字がその酷さを物語る。2千人近い魔術師ギルド職員が西の魔法都市に逃げ込み、盗賊団となったり、暗殺などの仕事を始めたらしい。特に酷いのが洗脳被害だ。


 都市の住民を洗脳し、これまで平和に暮らしていた者同士を殺し合わせ、空き家を自分たちで奪う。そんな事が裏で起きており、都市には盗賊団の一味が闊歩していたりするらしい。見た目は普通の魔術師、中身は魔法盗賊団、その実態はただの野盗と。酷い話だ。


 魔法都市にある魔術師ギルド本部が彼らを解雇した事も大きい。辞めさせられた彼らがギルドを襲い、更に罰則で解雇したギルド員が逆恨みで野盗となって、ギルドの評判は地に落ちていると書いてある。まさしく負のスパイラル。


「碌に稼げないなら強制解雇か。魔術師ギルドも厳しいのかな」


「長年の経営難がありますから、当然の対処だと思いますよ。会長は一人でも大きな利益を作り出せますが、彼らが大勢いても同じことが出来ないですからね。何より、魔術師は一人で行動する事にプライドを持っている事が多い」


「なんそれ?」


「魔法は一子相伝。教わりたいなら金を寄こせ・・・そう言った考えの者がプライドばかり高いと、協調性が無くなっていくんです」


 モンドさんが記入を終えた資料を執務机でトントンと纏めながら言う。


「要は面倒なタイプが多いって訳だ?」


「会長は剣士なせいか、そう言った事が全くないですけどね」


「あー・・・たまにハイネさんも隠しとけ!って言うけど、それとは別?」


「話には聞いてますが・・・リアのアレは、会長を心配しての言葉ですよ。彼女もプライドが高いですが、あれは貴族的な物だと思います」


 そういえばハイネさんは元フィブリール侯爵家の人間だったな。ていうかモンドさん、リアって呼んでるんだ。もう一年以上仕事して貰ってるけど初めて知ったわ。今度ハイネさんを揶揄おう。


 出発前の資料を読み切り、確認事項が済むとモンドさんに渡した。


「じゃあ明日から行ってくるから、留守番宜しくね」


「ええ、リアと子供たちをお願いします」


「任せて~、それじゃ行ってきます」


「行ってらっしゃい、会長」


 バタンとドアを閉めると、領主様にご挨拶をしてから我が家に帰る。どうやら、マインズオール家も招待されているらしい。ご近所さんに見られるのは照れるわ。


 そうして準備を終えて王都に出発すると、二日遅れでお父さんたちが街を出た。家はブラウに任せているので、せっかくだしモンドさんには我が家に泊まってもらった。落ち着かない・・・とか言ってたけど、留守番役なので慣れてください。


 シャルルが寂しがっていたけど、竜機人の創造者とは離れていても念で意思疎通が出来るので、それを教えたら大人しく見送ってくれた。その代わりに頻繁に念を送ってくるようになって、毎日頭の中が騒がしい。あの子、元気過ぎやでぇ。


 そして数日が過ぎ、自動車の列が王都の北門に停車する。



 ◇◇



 北央騎士団の騎兵に守られた黒塗りの自動車の列は、周囲の注目を浴びながら門を潜っていく。要らないと言ったんだけれど、どうしても! という事でフィビレリアからは彼らが護衛をしていた。馬の速度に合わせていたので、若干遅れたのは彼らのせいとか言わないぞ! 善意で護衛してくれているので思ってても言わないのが大人。


「王都も車が増えてるのね・・・」


 自分で作っといてなんだけど、こんなに利用者がいるとは思わなった。交通事故とか大丈夫だろうか? あ、交差点の中央で整理員が旗を振っている。早く信号機を作ってあげよう・・・。


「あの交通整理の男、遊んでないか?」


「レオン、あれは楽しんで仕事をしているっていうのよ。一種のパフォーマーね」


「そういうものか・・・? 不真面目に見えないか?」


「ああいう遊び心で皆が癒される物なのよ」


 ピッ、ピーッ、ピッ、とポーズを決めながら旗を振るサーコートの男性はきっと騎士なのだろう。随分とはっちゃけているものである。私はアリだと思うけど、レオンハルト殿下には評価されなかった。


「ほら、こっちの騎士は淡々としているぞ」


「こっちは見物人が居ないじゃない」


 別の交差点を通ると女性騎士が旗を振っていた。キリッとした表情で笛を吹いている。結構美人さんだ。


「・・・そういう物ではないと思うが」


「楽しんだもの勝ちよ」


 現に同乗している聖騎士三人は女性騎士に目移りしている。若いのう。


「ノールさんは、あの女性騎士さんみたいなタイプは嫌いなの?」


「・・・いえ、私は婚約者が居りますので」


 初耳っすわ! え? どういうこと? どういうこと?


「どんな人です? 幼馴染とかそういう? 同僚さんですか?」


「殿下・・・奥方が興奮して困ります・・・」


「いつものだ。問題ない」


「年上? 年下?」


 従者ノールとレオンの会話をスルーしてマシンガンをぶっ放し続ける。


「年下の同僚です。王城勤務で、王女殿下のお傍で護衛をしております」


「じゃあこれから会えるのよね! 遠距離恋愛を超えて愛しい人との再会っ! はぁ~、これはお邪魔できないわね~、でもその瞬間を眺めてみたい気もするわね~。きっと無意識で手なんて繋いじゃったりして、誰も見ていない所で抱き合ったりして、そのまま“また今夜”なんて言っちゃうわけでしょ!? ノールさんも隅に置けませんねぇ!」


「殿下・・・」


「・・・」


「それから王女殿下がお休みになった後、皆が寝静まった時にノールさんは彼女の部屋に現れて離れ離れだった時間を埋めるように語らい合い、肌を温め合う感じよね!」


「殿下ぁ・・・」


「今日は早めに上がっても構わんぞ」


 催促したわけではありません! とノールさんが断言しているけれど、ここは私というキューピッドを信じなさい! 頼りなさい! 祈りなさい! さぁ遠距離恋愛を成就させに行くのですよ!!!


「ユリア。そもそも相手の女性騎士は子爵家の者で、平民上がりのノールとは身分が違うのだ」


「えっ? アリなんですか、そういうの?」


「ノールは俺の従者であり騎士だからな。俺の側近というだけで、木っ端貴族より身分が大分上だ。それ相応の仕事をさせているからな。相手の家から是非にと言ってきた話なのだよ」


「・・・立場と顔が良いから?」


「本心は知らん」


 ノールさんを見ると相変わらずの無口無表情で、内心がうかがい知れない。


「惚れられたのでは?」


 ノールさんに質問しても目を閉じるだけで回答は得られなかった。

 そんな事をしている内に車は王城へと着き、エントランスで巨大な玄関口が開いた。


「前に見た時も思いましたけど・・・巨人でも潜れそうですね・・・」


「ククッ、確かにそうだな。あれなら片手で開けそうだ」


 大森林の巨人は15メートルくらい。この扉は18メートルくらい。ほら丁度いい。

 ズゴゴゴゴと鋼鉄と木で出来た扉が開き、カツカツと足音を響かせながら、大理石の床を進む。廊下というより何かのギャラリーみたいだ。壁の絵画が美しい。


 そして天井も高い。吹き抜けになっているせいで、見上げると渡り廊下を歩く人や、壁面から見える二階から上の廊下の天井が見える。全部で・・・8階くらいあるわ。王都の外から見える訳だわ。全高100メートルくらいあるんじゃないかしら。


「ユリア」


「あ、はい」


 見上げたまま立ち止まっていた私の手を引いて、レオンが隣を歩く。レオンの手をにぎにぎしながら気を落ち着かせようとするも、荘厳な雰囲気で落ち着かない。響く音も別世界に居るようで緊張する。


 王妃になったらここに住むの? ここって人が住んでいい場所なの? 実感がわかないなぁ・・・。レオンも知らない部屋とか多そうだけどな。


「ねぇレオン」


「ん?」


「小さい頃、お城の中で迷子になったりしなかった?」


「プッハハ! あったぞ、メイドに見つかるまで迷子になって、おやつを食べ損ねたな」


「だよねぇ、これは迷うよねぇ」


「数百年間増築を繰り返している。最初に在った計画よりも、実際に出来上がった城は小さかったそうだ」


「えぇ? 計画した人は何を作りたかったんだろう?・・・家じゃないよね」


「そうだな。城とは、家族以外にも様々な人間が国を動かすために用意する場所だ。言ってみれば、国王の仕事場だ。父上や母上が生活する場所など、城の一区画に過ぎんよ」


 はぇ~・・・ときょろきょろしながらレオンの説明を聞いていると、そのまま玉座まで案内された。懐かしの対面である。


 玉座には国王陛下、となりには王妃様と姫殿下が一段小さな椅子に座っている。姫殿下が小さく手を振っているので、少し瞼を上げて目で反応してあげた。


「遠いところから来てくれて助かる。久しいなユリアネージュ」


「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。様々なお心遣いを頂きまして大変に感謝しております。婚姻の件のみならず、方々にお手を煩わせてしまい恐縮です」


 自動車に関する法律とか、魔術師ギルドの件とか、色々と助かってます。


「なんの、そなたはこの国の為に動いているだけであろう。フリューゲルにそなたのような者を嫁に迎え入れて喜ばしい事だ。家族として歓迎しよう」


「有難うございます。不束者ですが、これからも、どうぞよろしくお願いいたします」


 周囲の家臣の人たちから拍手で迎えられ、その後は王妃様に姫殿下にとご挨拶をして、今日はそのままお二人とお茶をしていた。途中でレオンが疲れているんだから休ませろと乗り込んできてお開きとなったけど。


「こっちだ。今日から俺の部屋で一緒に寝よう」


「うん・・・お母様は姫殿下そっくりでしたね。お顔もそうなんだけど、性格が一緒でお互いに話が加速していって面白かったわ」


「一つ事に熱中するのはあの二人の悪い癖だな。話が止まらなくなる。それに」


 部屋の扉を開けて中に入るとメイドさんが数名待機。うん、二人きりにはなれないらしい。知ってた。


「母上もユリアを気に入ってくれたようだ。例の法案を通すときに随分と走り回ってくれていたらしいよ。法務大臣の奥様方と連日会ってみたり、色々と父上が有利に動けるように調整してくれたり・・・」


「私がそれをやると、自分で何でも解決しに行っちゃいそうだな・・・」


「ソレでも良いさ。夫婦の形なんて、夫婦の数だけあるだろう? 現にブラン殿とアルト殿がそうだ」


「フフッ、そうだった」


 一家の大黒柱はアルトパパだけど、主はブランママだよなぁ。と我が家の実情を思い出す。あの二人も絶妙な関係というか何というか・・・何気なく夫婦やってるけど、さり気ない行動の中で愛し合ってるなぁというのが良く見えるんだよね。子供が見てて「うぇぇ」ってならない愛し合い方って感じ。ちょっと憧れる。


 着替えをしてメイドさんの案内でお風呂に行くと、姫殿下が浴場に居た。う~ん、ナイスバディ。小ぶりなお胸でスタイリッシュ。守ってあげたくなる女性ってこういう感じよね。


 メイドさん達に全身を隅々まで洗われ、顔を真っ赤にしながら湯舟に浸かっていると、姫殿下が深刻そうな顔で話しかけてきた。


「ユリアは後悔してない?」


「婚姻のことですか? してませんよ」


 なんで?


「だって、王族なのよ? あなたみたいに真っ直ぐな人が来たら、苦しんでしまうかもしれないのよ・・・?」


 ああ、そういう。ん~でもどうかな。色々と無理を腕力と魔力で押し通してきた自覚があるから、何とかなるかもって気はしてるんだよなぁ。これまで集めてきた情報で、大体の内情は知れてるし、問題があるかというと・・・。


「特に問題ないかなぁ・・・と思ってます」


「貴族の力って目に見えない物なのよ?」


 そこまで脳筋じゃありませんってばよ。


「ブランお母さんなら心配だったけど、これまでも暗躍する貴族やギルドと戦ってきましたので、特に不安はないですよ。強いて言うなら、諸外国がどう反応するかが判らない点でしょうかね・・・」


「西の公国と、東の評議国?」


「隣国はそうですね。北の魔導国はどんな国なのかもわかりませんし、今後私が作っていくものを世に出したとき、どういう反応を見せるのかが解りませんからねぇ。世界はどういう評価を下すのか・・・神ならぬ身には心配するだけ無駄かもしれませんね」


 ウフフと彼女に笑いかけると、私の93センチに顔面からダイブされた。おぉっふ。股に足を入れないでくれたまえよ!? ちょっと、ちょっと! ガチで貞操の危機を感じる! めっちゃおっぱいにグリグリヘッドされてる!


 ガバッと顔を上げたアナスタシア殿下は真っ赤な顔で宣言した。


「わたくし! ユリアの仕事を手伝いますわ! みんなが幸せになる国をですわね! わたしくしがユリアを守りますわ! だから、んもう、放しませんわあああああ!」


「ストォォォォップ! 落ち着けえええええ!」


 落ち着いてグリグリヘッドを止めなさい! そこに吸い付いて良いのはレオンと私の子供だけだ! やめなさああああい!


 ◇◇


 メイドさんに連行されていったアナスタシア殿下を眺めつつ、昨夜はレオンのもとに戻りゆっくりと休んだ。彼女の名誉のために内緒にしておいたが、見ていたメイドからいずれ漏れるだろう。


 妊娠して以降、夜の営みは程々にしている。叩きつける闘技のような感じから、フォークダンスになった程度だけど、お腹は仙気で守っているからきっと大丈夫。万一のことがあったら私は泣く。ガチで泣く。


 陛下たちには妊娠している事は告げてある。来月に式を挙げるので、お腹も膨らんではいないはずだ。ただ、この状態・・・ステータス上では明確に違いが出る。


 ---------------------------------------------------

 ユリアネージュ(14歳)

 種族:素人

 レベル:249

 HP:319056

 MP:530067

 状態:妊娠(男)


 スキル:剣術LV10、縮地LV3、格闘術LV10、仙体術LV2、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV10、空間魔法LV1、刻印魔法LV10、封印魔法LV2、付与魔法LV10、錬金術LV4、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV6、並列制御LV10、闘気制御LV10、気配察知LV10、高速反応LV8、HP自動回復LV4、MP高速回復LV8、真実の瞳、フリキア言語LV8


 称号:仙人、ワールドルーラー、竜機人の創造者

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 もう性別解ってるぅ。いきなり世継ぎかぁ・・・。鍛えてやらないとなぁ・・・。


 それはともかくとして、空間魔法が上がらない。何をやっても上がらない。封印魔法は上がるのに、空間魔法が上がらない。何回やっても何回やっても、空間魔法があがらーないーよ。


 何これ腐ってんの?


 空間魔法腐ってんの?


 数十万のMPを朝晩2回も枯らすほどに鍛えているのに! 数か月は繰り返しているのに! まったく成長しないんですが! もしかしてあれですか? 切っ掛けが無いと上がらないタイプですか? 次は封印魔法か錬金術がカンストしたら上げてやるよ~、とか神様から揶揄われてるんですかね!?


 ハァ・・・ハァ・・・。


 ダメだ。空間魔法が腐ってるからと言って、私自身が腐ってはいけない。


 そう決意しつつ、王城の鍛錬場で早朝訓練を繰り返す。MP高速回復様は流石やでぇ。秒間2000以上回復するとか、常人なら一瞬で昏睡してるなコレ。私が立ってるだけで周囲の魔力が薄くなっていくもん。軽く兵器だよ私。ユリアネージュ行きます!


 パチパチパチと後ろからの拍手に振り返ると、鍛錬場の入り口に青いローブを身に纏った老魔導士が立っていた。


「見事じゃ。今のは元素魔法ですかな?」


 この人確か・・・魔導士認定試験の時のお偉いさんっぽい魔導師?


「えぇ、まぁ・・・」


「ふむ・・・元素魔法は使い手が少ない分、判明していない事が多い。良ければ幾つかご教示いただけませんかな?」


「朝食の後でなら構いませんよ。もしかしたら予定を入れられているかもしれませんが」


「では、明日また同じ時間に来るとしましょう。魔導を究明せしめんとする者として、あなたの魔法は大変に興味深い」


 そう言うと、老魔導士は去っていった。使い手が少ない、ねぇ・・・貴方も元素魔法LV3があるでしょうに。更衣室のシャワールームで汗を流し、風と水の魔法で髪と体を乾かす。レオンの所に戻ると、そのまま陛下たちと朝食を頂いた。


「毎朝訓練をしてるのかしら?」


 王妃様がサラダにフォークを刺しながら質問してくる。


「はい。今日は一人でしたから、魔法の訓練だけでしたが、毎朝お母さんと一緒に予定打ち(約束稽古)をしています」


 ほぉ、と国王陛下は予定打ちで通じたようだ。アレめっちゃ難しいんだよね。だから鍛錬になるんだけどさ。


「魔法なら師団長がいるけれど・・・今は式の準備が先ね」


「そうですね」


 あの老魔導士、やっぱり師団長か。レベル120と城内ではトップクラスだけれど、大森林だと死ぬかもしれない。とか考えてる時点で冒険者脳になり過ぎかな私は。


 午前は礼儀作法の習い事。午後は王妃様と姫殿下のお二人と共に式の準備。時々レオンも混ざって打ち合わせ。日によっては各地を治める侯爵様の顔合わせ等々・・・お父さんたちが王都に到着しても、そんな毎日が続いていた。


 そして、四方騎士団の当主が来た時に良くあるのがこのイベント。手合わせをお願いしますという話である。


「ま、参った・・・」


「有難うございました」


 王城の鍛錬場にて2、3日に一度発生するこの手合わせ会は、早朝か夕方の訓練時を狙ってやってくる連中のせいだ。まぁ、お母さんが子供たちの面倒を見ないといけないので、闘気予定打ちの訓練を出来ない時は助かる。


 全て寸止めで予定打ちの相手なら構わないと伝えてやっているので、これで大抵の騎士様は降参してくれる。魔法師団は北央騎士団と同じ方法を実践している筈なので、腕試しに魔法変形多重起動数の勝負とかをやっている。大体、二十くらいで力尽きる人が多いので呻きながら気絶していく。


 MPは尽きても魔法を使えるけど、精神を削るのでやり過ぎると昏睡状態になる。魔力酔いの逆バージョンみたいなもので、命を削るからおすすめできないんだけどね・・・。


「私も挑戦していいかな」


 でた、青ローブの老魔導士。


「どうぞ」


 やり方は簡単。作った魔法を変形させ、より多く生み出したほうの勝ち。それでも決まらなかったら、変形させた魔法同士で戦わせて、魔法が消えなかったほうの勝ち。


「はじめっ!」


 50程度の水人形を作り出した相手に対し、60程度の土人形を作り出す。

 追加で50程度の土人形を作り出した相手に対して、60程度の火トカゲを作り出す。

 さらに追加で50程度の火トカゲを作り出した相手に対して、60程度の羽根人形を作り出す。

 もっと追加で50程度の羽根人形を作り出した相手に対して、60程度の水人形を作り出す。


 その繰り返しを100,200,300と総数を増やして500程度で相手が止めた。


「参った。降参じゃ」


「ありがとうございました」


 私は訓練があるので、そのまま4属性を増やしつつ、人形の内部に空間魔法で空洞を作っていく。表面は属性を纏っているが、内部は空間魔法で出来た人形に上書きしているのだ。これを1000、2000、3000と増やして一万体近くになったところで、空中に整列していく。自分を中心に赤、青、緑、黄と広葉樹の葉のように隊列を取らせると、そのまま10分維持。


 パンッと両手を合わせると、全てを同時に消した。


「ふぅー、終わりッ」


 ギャラリーに一礼してシャワー室に入り、魔法で即時乾燥させて、パッと出ていく。後方の呻き声を聴きながらレオンの部屋に戻ると、着替えをして夕食だ。


 当然ながら人も集まってきているので、ほぼ毎日が着席した晩餐会だ。男性陣には魔法が凄いだの剣技が凄いだのと言われながら、自動車はどうやって作ったとか、北の大森林はどうだとかの話が進んで行く。


 女性陣からはレオンが耳を塞ぎたくなるようなエグいコイバナを聞かされ、ユリア町の様子などを伝えたりした。私の商会で作った装飾品などを販売したりしているので、箔燐蜘蛛の白銀の糸を使ったドレスとか、青麟蜘蛛の柔らかい下着などで盛り上がる。これ、男性陣は何目的で聞けばいいんだ?


 数日に一度しかお父さんたちと会えないので、同じ王城内で生活していても貴重な時間だ。中庭や鍛錬場で過ごしたり、研究棟でお父さんの知識を披露したり、お母さんが騎士をなぎ倒したりと様々だ。


 サリーとシルバもそれなりに鍛えているので、騎士にならないかと声が掛かっている。


「わたしは冒険者になるから、騎士にはなりません!」


 サリーは冒険者になりたいらしいので、強くなっても騎士にはならないらしい。


「ぼくはお姉ちゃんを守る騎士になる!」


 シルバは私を守る騎士になるそうだ。それで良いのか弟よ。私は嬉しいよ。


「じゃあお姉ちゃんより強くならないとね」


 私がそう言うと、軽く涙目になった。なんでよ!?

 因みに次男モルトと三男アドは、まだ何のことか分からないけど取り敢えず騎士になるらしい。お兄ちゃんには負けないと言っていた。なんのこっちゃ。


 久しぶりに妹弟たちの世話をしながら、姫殿下に遊んでもらい。王妃様がハイネさんの娘を抱えて笑っていた。うぉぉぉ・・・慈母!! なんなのあの聖母感! やべぇ!


 因みにハイネさんは魔導師団の臨時講師をしているらしい。


「暇だし、子供たちの相手してくれるし、小遣い稼ぎになるから」


 だそうだ。元侯爵令嬢とは思えない図太さだ。子供の預け先が王妃様という点が特に。


 ハイネさんのレベルは150を超えているので、普通の魔法使いでは太刀打ちできない。数少ない元素魔法使いになったので、私が使える火炎牢獄を魔法陣と合わせて火の結界を造ったりと、色々と自分の適性に合わせた使い方をしている。


 火系統の元素魔法しか使えないのは原因不明だ。


「あんたのは理解不能なのよね」


「二週間も掛けて説明したのにアンマリです」


 パーティの戦力強化になるかなと思ったんですけどね。火魔法しか強化されなかったよ。4系統の最上位までは使えたのに!


 お母さんも魔法が使えないせいなのか、魔力制御はLV6で頭打ちとなってしまった。なので仙気は望み薄だと本人が言っていた。


「いやいや、胸から気力と腹から魔力と意味分かんないよ。同時に使えるユーリみたいなのはあんまり居ないんだろう? 右を見ながら左を見ろって言われてるみたいで、頭が痛くなるんだよ」


「あぁ・・・魔法を並列発動するのと同じに考えてたから、魔法使いじゃないとそもそも出来ないのかぁ・・・」


「じゃあ、ダメじゃん」


「そだね」


 そもそも錬魔は魔法を使える前提の話だった。魔力制御を行い錬魔して元素魔法を扱うプロセスを理解していたから、並列制御スキルを持っていた私は仙気を作り出せたのか。

 ハイネさんも並列制御スキルを持っているけど、闘気制御を持っていないので難しいだろう。


 世界に4人しか仙気を使えないって事と、その難しさが、今になって解ったわ。


 黄金巨人ことギルマス爺もお母さんが居る時は鍛錬場に来ていた。大量の騎士が束になって挑んでいたけど、ここは王都の鍛錬場と違って蘇生? 出来る魔導具が無いので止めて頂きたい。


「良いじゃねえか! 気の抜けた騎士たちに、名誉侯爵として気合入れに来たんだよ! あ? 法衣侯爵だったか? どっちでもいいだろそんなもん!」


 よくねえよ! 死人が出る前に帰れ! 毎回、最後は水魔法で包んで数キロ先にある同じ王都内のギルド鍛錬場にぶん投げる。アレは死なないから平気だろう。


 こんな感じで結婚式までの日々を過ごすと、あっという間に一か月が経ち、結婚式当日となった。



 ◇◇



 真っ白な袖に腕を通し、フリルの付いた袖口の感触を楽しむ。少し空いた胸元にはレオンが贈ってくれた青い宝石が輝いている。背中をお母さんとメイドさん達に締めてもらい、歩きにくくないか部屋の中を移動して確認する。


 腰回りにアタッチメント式の長い長い裾を着けてもらい、後ろ側に流すと、メイドさんが持ち上げてお母さんに渡される。


 今日はお母さんも青いドレスを着て、グラマラスな肢体をこれでもかと見せつけている。全身の傷跡も薄くなったおかげで、持ち前の白い肌が際立ち、その手首には私の贈った白銀のマジックバングルが光る。


 私も着けているが、今は光魔法で見えなくしている。内側のドレスが透過して見えている状態だ。鏡を見ると薄く化粧をした自分が見える。お母さんとお揃いだ。


「んふふ、綺麗だね」


「ユーリもね」


 私はお母さんによく似ている。顔も・・・性格もかな。自覚は無いけど、ハイネさん曰く戦闘狂だそうだ。その細腕に何が詰まってるんだと言われた時は、ちょっと意味不明な怒りが湧いた。


 部屋のドアが開くと白いタキシード姿のレオンが現れた。肩幅があるから似合わないなぁ。背が高いからまだ少し見上げてしまう。う~んあと10センチ欲しい。さすがに190の女はダメかな? レオンが嫌がりそうだな、止めとこう。牛乳禁止だ。


「綺麗だ・・・心臓が止まりそうなほどに綺麗だ」


「えへへ・・・ありがとう」


 ここから先は会話の内容を良く覚えていない。


 両親と青い絨毯の上を歩き、白髪の老シスターが待つ祭壇にてレオンと共に神の前で夫婦になる事を誓った。巨大な大聖堂には数百人の参列者が居たけど、緊張し過ぎてレオンしか見てなかった。


 何処で用意したのか、神銀と呼ばれる指輪を使って結婚指輪を作り、それが二人の前に差し出され、お互いの指に嵌める。なんか間違えそうだった気がするけど、震えていたのか私の手をレオンが握って誘導してくれた。


 そして二人はキスをして抱き合い、デコレーションされた自動車に乗って、一時間かけて王都を一周してきた。もう、なんにも、おぼえてない。


 ◇◇


 パーティも何が何やらで、式の前に一度挨拶に来てくれた人や、初めて見る方を相手に終始笑顔を向けるだけで、全てレオンに任せていた気がする。


 煌びやかな世界が過ぎ去り、真っ白な記憶が鮮明になってくる頃、サリーに貰った手紙を自室で拡げていた。家族から手紙をもらうなんて事が初めてだったので、素直に嬉しい。


 渡された時に家族へ素直な気持ちで感謝の言葉を述べたら、両親と妹を泣かせてしまった。シルバは何か使命感に溢れた顔をしていたな・・・妙な使命感とかを持たせてしまったのだろうか。


 一緒になってアナスタシア殿下が泣いていたのは何故だろう。あの人も色々と苦労してるのかもしれない。


 カサリと手紙を畳み、腕輪に収納するとお風呂上がりのレオンが部屋に戻ってくる。


「・・・喜んでもらえたかな」


 そんな事を聞いてくる。


「うん。家族ともお祝い出来たし、国中の人から祝ってもらえたし、アナスタシア様に泣かれちゃったし」


「ハハハ、アナが泣き出したのは驚いたね。・・・私が無茶をやると、必ずアナが出てきたからね。ユリアの言葉に共感したのかもしれない。ほら、あの、両親と一緒に妹や弟たちを育ててきたってところがさ、アナが私に言ってくる事があるんだよ。兄様は私が育てたって」


「じゃあ、姫殿下にとってのレオンは、私にとってのサリーだ。元気に大きくなってくれてありがとう何て言ったら、泣いちゃうわ・・・思わず代弁しちゃったのね」


 そう言って俯くと、まだ大きくなっていないお腹を撫でる。


「次はこの子を育てないとね。強い子になるように、元気いっぱいに育ってもらわないと・・・」


「私と君の子だ。間違いないさ」


「うん」


「それで・・・どうする? 新婚初夜というやつだが」


「もう随分前から濃厚に愛してもらってますが?」


 それはもうどっぷりと、ねっとりと、淫らになるまで愛されましたが?


「まぁ、そうなんだが・・・寝るか」


「・・・少しだけならイイかな」


 あぁ、意外と照れるなコレは。まるで初めて愛し合った時のような。初心な感じがする。


「おいで」


「はい・・・あなた」


 クリティカルヒットしたっぽい。真っ赤になったレオンの手を取り、ゆるゆるとベッドに潜り込んだ。私は自分が思っている以上に、ズルい女かもしれない。


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