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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
40/97

038

 婚約者のレオンが我が家に来て数か月。王都から妹殿下がいらっしゃいました。いや、辺境のド田舎に来るなよ。お兄さんは毎日元気に過ごしていますよ。ちょっと有り余ってるくらい元気です。


「私も竜船とやらに乗せなさい」


 リビングで紅茶をたしなみつつ満面の笑顔での発言である。オカシイデスネ? 竜船については秘匿するようにレオンにも伝えてあったのですが、どうして伝わっているんでしょうか?


 そう考えていると従者ノールがレオンの座る席の後ろから、私に耳打ちした。


「申し訳ありません・・・どうやら姫殿下の間者が入り込んでいたようでして・・・レオン殿下の手紙と合わせて推察されたようです」


 そうよね、商会の敷地は認識疎外の魔法を掛けているから、外部からは見えないようにしてあるし、中に入れば結界で気付けるようにしてある。それを掻い潜ったっていう事なのかな? 出来るのかそんな事。


「・・・アナスタシア様は何処で竜船の事を?」


「あら、随分と真っ直ぐな方なのね。もう少し色々と聞かれてから、その質問を出されると思ったのだけれど」


「この街は私の闇魔法結界の内ですから、害意や悪意があれば気付けます。それに反応しないという事は、外に情報を流している者が居るという事です。さしずめ、毎月出入りしている商業組合員でしょうか。茶髪青目中肉中背、右足を引きずって歩く男がそうでしょうか・・・彼の御兄弟が王都に居ますが、面識があるのではないでしょうか。あぁ、今日もギルドに居ますね」


 姫殿下は微笑みのまま顔が固まった。紅茶のカップを持つ手が止まっている。王都に住む彼の兄弟と面識があるようだな。定期的に王城に出入りさせているみたいだし間違いないだろう。ゴーレムストーキングは遠方になればなるほど疲れるけれど出来ない事は無い。空から見張るだけだからね。


 しばらく沈黙が流れた後、相好を崩して姫殿下が溜息を付いた。


「参りましたわ。白状いたします。ご推察の通り、商業組合員から情報を流させていますわ。彼らは私の子飼いの者ですので、本来は商業ギルド内の情報を流させているのですけれどね・・・それもご存じなのでしょう?」


「まぁ、同様の商業組合員の偽物が大勢居ますから。何となくは存じております

 」


 考える事は皆、大体同じって事ね。大物貴族連中の子飼いがこの街には沢山棲みついていますからねぇ・・・。動きだけ追ってるから、危険な匂いがしない限り追い詰めたりしないけど、何かあったら追跡して居場所を捉えられるようにはしている。


 元素魔法万歳である。


「それはそうと・・・乗せて頂けます?」


 あなたのお兄さんに毎日乗られていますとは言えないので、真面目に回答しておこう。


「命の保証は出来ませんよ? ドラゴンとも戦えるように作ってはいますが、絶対に墜落しないとは言えません」


「お兄様は今も無事に生きていらっしゃいます」


 そういう理屈じゃないんですがねぇ・・・。姫殿下のレベルも低いし、そうそう連れて行けるような場所じゃない。ん・・・? あぁ、大森林じゃなければいいのか。


「行先は大森林以外です。それが条件になります」


「嫌。大森林の世界樹を見てみたいわ」


「そうですか・・・では、それ相応の装備を身に着けて頂きましょうか。同行するならば自分で身を守れるようにして頂く必要がありますし」


「それなら良いわ。いつ行けるのかしら。今日?」


 早朝に来て、今日?とか流石のお姫様だぜ! こっちの都合とか完全無視だ! チラリとブランママを見ると、なぜかニコニコしている。超楽しそう。こっちの意図を把握されているようだ。


 横に座るレオンを見ると、「え? マジで? 連れて行くの?」という顔をしていた。この件の責任の一端はあなたにもあるのですよ! 妹教育しっかりしてください!


「では今から行きましょうか。護衛の方々もご一緒にどうぞ」


 満面の笑みでそう伝えると、騎士3名を伴って商会の敷地に移動してもらう。レオンたちにも装備を整えてもらい、倉庫から竜船を引っ張り出すとアナスタシア殿下の目はキラッキラに輝いていた。こういうの好きなだけじゃね? 同好の士だから分かるけど、もう少し身分とかを考えて行動してもらいたい。


「大きいですわ・・・先頭に大きなガラス窓がありますわね。あっ! 翼が動きましたわ! あれで羽ばたくのですわね? そうなのでしょう?」


 うるせぇ! 黙って見てやがれ!


 はしゃぐお姫様(18)を横目で見ながら発着場まで移動させると、竜船が重力操作魔力を切って着地した。護衛騎士3名の感嘆の声を後ろで聞きつつ、ブラウとシャルルを紹介すると、しきりに私の顔と彼らを見比べる。


「えっ、姉妹? でも角が生えて!? えっ? どういう事ですの?」


「彼らは竜機人と言いまして、ドラゴンの生まれ変わりです。ちなみにこの船はブラウの本体です」


「主、本体という言い方は少し違います。今はこちらの体に核が出来上がっていますから、あちらは残滓のこりもののような物です」


 それ初耳なんですけど?


「そうなの? じゃあ竜核には魔力が残ってるだけなんだ?」


「そう言う理解で問題ないです」


「ないですー!」


 シャルルがブラウの喋り方を遊ぶように真似している。最近ハマっているらしい。


「じゃあ、シャルルでも操縦できるの?」


「残滓とはいえ、元は自分であった物ですから、他の竜核を操作するには難しいです。私は出来ますが・・・シャルルでは墜落するでしょう」


「まぁ、墜落した所で壊れたりはしないけど、今日は止めて置きましょうか」


「では主、私が操縦します」


 そう言ってシャルルを抱えて竜船に乗り込んだ彼女の背中を追った姫殿下。子供のように走り出した彼女の後を護衛たちが追いすがっていた。


 後ろからレオンたちが現れて準備完了っと。


「行きましょうか」


「ああ・・・しかし、すまんな。アナはこの手の話になると止まらなくてな」


「私も共感出来ますし、お兄さんそっくりですから問題ないですよ」


「えっ、私もあんな感じになるのか?」


 横で従者ノールが白い眼をしてレオンを見上げている。ああ、振り回されるあなたは、その目をする権利がありますね。心中お察しいたします。


 広々とした竜船に全員が乗り込む前に、不足していた座席を窓際に作り、旅客機のようにスペースを埋める。シートベルトを着用してくださいっと。ちょっとした体育館並みに広いからね。転がったら大怪我するよ!


「一瞬で金属が椅子になりましたわ・・・」


 恐る恐ると言った感じで合金椅子に手を触れている姫殿下を心配し、護衛の三騎士が手を伸ばしかけたが、姫殿下が楽しそうに背もたれを触れているのを見て固まった。


 それを見たレオンの聖騎士たちは何やらニヤニヤしている。彼らは元々同僚のようで、昔から両殿下のお守りをしてきたらしい。戸惑う仲間が面白いようだ。


 拡声機を取って、後方に座る護衛さん達も聞こえるようにしてと。あ、スカーフも着用しよう。軽鎧を着ているけど、襟のような部分があるので、そう見えなくもない筈だ。


「さて皆さま、只今より当機は離陸いたします。着席の上、お手元のベルトをお締めください。予想以上に揺れが大きくなりますので、お立ちにならないようにご注意ください」


 アテンションプリーズ。アテンションプリーズ。


 ガチンガチンと硬質な音を響かせながら、安全ベルト、いや拘束具が腰回りに現れ、姫殿下が軽く悲鳴を上げる。殿下!? 殿下! と護衛が騒ぎつつ離陸開始だ。


「防護服、装着そうっちゃく!」


 私が魔力を迸らせると姫殿下が金属のウネウネに纏わりつかれ・・・2メートル超えの大女になった。まるで某ギルマスのような黄金の全身鎧に覆われ、顔の部分には縦の溝が入った鉄板で覆われている。くぐもった甲高い悲鳴が聞こえ、ブラウとハイネさんがレオンと一緒に笑っていた。


「ユリア殿ぉ!? これは一体なんだ! 姫殿下に何をしたのだ!」


 慌てて叫び出す三騎士。上昇する竜船。響き渡る王女様の悲鳴。広がる笑い。これぞスペクタクル。


「安定飛行までもう少しかかりますので、座席で大人しくお待ちくださ~い」


「ハッハッハッハッハ!」


 私がアナウンスをすると、たまらずレオンが大笑いを始め、王女アナスタシアがレオンの方を向いて怒りだした。怒りの黄金戦士である。しかしながら拘束具で固定されているので、届かぬ怒りの拳は虚しく空を切った。


 30分ほどして大森林の中層付近まで進むと、拘束具が外された姫殿下がウロウロとし始めた。どうやら怒りは収まったようである。


「見て下さいまし! 地平線の彼方まで真っ白! ずっと向こうまで空と地上が雲で覆われてますわ!」


 黄金鎧が大興奮である。しかし地上の白いのは霧である。


「あっ! 今何かが霧を突き破って出てきましたわ・・・大きい蛇でしょうか? これだけ離れているのに姿が見えるなんて、どれくらい大きいのかしら!?」


 多分、全長500メートル超えのアビスワームじゃないですかね。


「渡り鳥がずっと上を・・・何か、尾羽のような・・・赤いのが見えますわ」


 そりゃヒクイドリですなぁ。体長10メートルの化け物が数十羽で襲ってくる空の悪魔ですぜ。


 と、まぁ、そんな感じで延々と興奮しっぱなしである。喜色満面とはこの事か。いや、全身が黄金で埋まってるから顔も良く見えないけどね。


「主、前方に回遊龍です。撃墜しますか」


「あー・・・コース直撃だね。やっちゃって」


 回遊龍とは空を及ぶ蛇龍である。小さなヒレが体中についていて、それを操って浮いているのだが、推進力が無いので風に乗ったり、体の動きで移動するちょっと可愛い竜種だ。全長200メートルはあるのだが、外敵が近づくと熱線砲を放ってくるので早期駆除が望ましい。因みに地上には手を出さない。降りられないから。


「冷凍弾セット」


「アイアイ、セット」


「照準。回遊龍」


 私がそう言うと、姫殿下がガシンガシンと歩きつつ操縦席に近付いて来た。その巨体が来ると狭くなるから後ろに居て欲しい。


「ターゲット、インサイト」


「発射」


「アイアイ、ファイア」


 ビシュンと船体から放たれた真っ白な光線が着弾すると、回遊龍は落下していった。落着と同時に砕けたそれは、地面の染みとなってしまった。


「今のは何ですの? まるで大魔法のような・・・」


「竜船の砲撃です」


「それは見れば解りますわ! 凍結魔法なんて、最高位の水魔法使いでも使えませんわよ!?」


 宮廷魔導士の事だろうか。


「あれは・・・元素魔法ですので、普通の水魔法使いには使えないかと・・・」


「・・・」


 呆けた姫殿下を放置して、浮遊収納ゴーレムを射出。地上に派遣して魔核と無事な素材を拾い集める。


 竜種なのは間違いないのだが、彼らに竜核は存在しない。ただの凝り固まった歪な魔核しか体内で生成されない為、ブラウたちのように巨大な真球の竜核は手に入らない。


 竜核とは真竜のみが持つ証のようなもので、竜によっては表皮に作り出されて半分ほど体外に押し出されるくらい強力な竜核を持つドラゴンも居るらしい。それくらいになると、一介のドラゴンでは敵わない程の存在なので、見つけても逃げろとブラウに言われている。


 それって多分、あの世界樹とかお姫様が呼んでた巨木に居るよなぁ。そう思うと遠くに見えてきた巨大樹の中に入る時を想像してワクワクしてきた。これは多分、ブランママの血かな。私も戦闘狂らしい。


 そうして少しずつ加速し続け、数時間も飛行した頃だろうか。目的の物が見えてきた。


「壁が見えてきましたわね・・・?」


「いいえ姫殿下、あれが姫殿下の言う“世界樹”ですよ。あの山脈を思わせる巨大樹こそが、大森林の中心。世界の中心です」


 そう言われているだけって話だが・・・実際のところはどうなのだろうね。


「雲を突き破って・・・上が見えませんわよ!? 本当にアレが世界樹・・・?」


「ご想像と違いましたか?」


「え・・・ええ。もう少し、その・・・」


「神聖な感じがしたものと?」


「・・・」


 残念でした。あそこから感じるのは莫大な仙気です。人ならざる存在の気配です。

 間違いなく「居る」。魔王だか異神だか知らないけど、私達じゃ及びもつかないような存在が居る。遥か上空、その先にこの巨大樹の葉が見える場所に、この仙気を垂れ流す存在が居る。


「震えが来ますわね・・・」


「まったくです」


 仙気を操れない姫殿下でもこれだ。私なんて、上空から溢れている仙気に押しつぶされそうだというのに・・・。


「ここに来るたびに私の小ささが身に染みます。私は弱い。卑小な存在だと」


「ユリアさんが弱いだなんてそんな事はないでしょう?」


 認めたくないけど、あれには勝てないなぁ。どれだけの高みに居るのか、想像すらできない。今はまだ、見上げる存在。しかしいつかは超えて見せる。待ってろよ巨大樹。いつかは天に昇ってやる。


 ◇◇


 大森林遊覧が終わった後、お姫様は王都に帰っていった。帰りがけにブラウがドレイクを狩っていたので、収納ゴーレムを一体まるごとプレゼントした。お好きに使ってくだせぇ。


 ただ、それ以来、姫殿下から頻繁に手紙が届くようになった。王都の近況だとか、どんな事件があったとか、珍しいものを手に入れたとか、親しい人が結婚したから自分も早く結婚したいとか・・・そんな感じである。


「また手紙を書いているのか?」


「ええ。アナスタシア殿下がいつものパーティの愚痴と、珍しいお菓子の話を大長編で綴ってくれました」


「あいつは親しい相手には入れ込む癖があるからな・・・ユリアも気に入られたという事か」


「それから、何故かこんな物が・・・」


 同封されていた封蝋止めの四角い便箋。招待状と書いてある。


「おいおい・・・これは私から断りを入れておく。ついでに叱っておこう。ユリアの自由を奪う権利などアイツにはない」


「あるとしたらレオンだけですか?」


「当然だ」


 そのままキスをされて胸を弄られる。うぅん、まだ夕方なんですが・・・。この部屋のせいだな。寝室に手紙を書くテーブルを置くのは失敗だったか。


 お姫様抱っこされてそのまま脱がされてしまった。


「一回だけだよ」


「まだ夕食まで時間はある」


「もう・・・」


「嫌か?」


「ううん、来て」


 求められるままに両腕を枕の方にあげて、仰向けに誘う。


 何度も何度も彼を受け入れ、快感に身を委ねる。愛おしむように彼の頭を抱きしめてやさしく撫でまわすと、たまらない幸福感が全身に広がる。彼の匂いを付けられたころには夕食の時間が近付いていた。


「えいっ」


「あたっ」


「もう時間切れ。名残惜しいけど続きはご飯を食べてからね」


「ああ・・・すまん」


「謝らないの」


「ああ」


 深くキスを交わしながら服を着る。ああ、最近はこうして肉欲に塗れる事が多い。この人とこの部屋に居るだけで止まらなくなりそう。うん・・・私専用の書斎を造ろう。


 お風呂場から出てきた私たちをブランが見つけニヤニヤされながら夕飯を食べる。サリーとシルバの学校話を聞きながら、サリーの初恋相手が誰かを当てる推理ゲームを行い、真っ赤になったサリーを置いてリビングから寝室に戻った。


 昨日の深夜と夕方と夜。何回やってるんだろう私。部屋に入るなり、示し合わせたかのようにお互いを貪り合う。彼の上に乗り、私の上に乗られ、何度も何度も彼が果てては繰り返す。お互いレベルが高いせいか、溢れてシーツが大変な事になるまで繰り返す。


 私の体は既に170センチを超えたけれど、まだまだ彼の190センチには届かない。彼からしてみれば小さな私だけれど、いくらでも彼を受け入れられる。


 寝室中に二人の匂いをばら撒いて、止め処なく愛し合う。


 気が付いたら朝になった頃、濡れたベッドの上に二人でひとつになったまま熟睡していた。目を覚ますと彼の視線と私の視線が重なり合う。


「やっと寝顔が見れた」


「・・・ぷふっ、そうね」


 クスクスと二人で笑い合うと、そのまま二人で眠ってしまった。背中が濡れて冷たい。でも幸せの極致なので、そんなものは微睡みの中にしまっちゃおう。


 その後、昼過ぎになっても起きて来ない私達を心配して、ブランママが叩き起こしに来た。朝は空気を読んで皆を抑えてくれていたらしい。助かる。


「お風呂入れておいたから入ってきなさい。・・・匂うわよ?」


 少しだけ空けたドアから言われて、流石に恥ずかしくなり二人で静かに入浴した。もう一回したけど。



 ◇◇



 新しく作った書斎には様々な書類が壁のガラス棚に仕舞ってある。商会の内情、街の開発、近隣町村の復興開発補助、ジュリアンヌ錬金術商会の関連資料、大森林の調査内容、姫殿下との熱い手紙、騎士団の協力に関する書類、学校に関する書類、そして結婚式準備の書類などなど・・・辞書や辞典も含めると壁一面を覆う数になって来た。この世界って本は超貴重なんじゃなかったっけ。


「おかしいなぁ、モンドさん達を雇ってから楽になったはずなんだけどなぁ・・・」


 空いていた客室を潰して書斎に作り替えたは良いが、どうにも仕事が減らない。むしろ増えている感まである。どうしてこうなった?


 最近またドラゴンを狩り、フォレストドラゴンの竜核で竜船3号機を建造中である。書類に筆を走らせながら、ゴーレムを使って念で指示を飛ばす。建設計画は落ち着いたものの、私の商会に平穏は来ない。


「あの自動車のせいじゃないのかい?」


 紅茶を書斎机に置いたブランが苦笑いでそう言う。


「あれほど売れるとは思ってなかった・・・というのは嘘だけど、貴族の催促があれだけしつこいと面倒だっていうのは読みが甘かったわ」


 ハイネさんはまだ早いかもというが、舗装した道を馬糞が臭わせるのは私的に我慢が出来なくなった。四輪駆動の自動車ゴーレムを作り、追加で魔石を消費すれば重力軽減で数センチほど車体が浮遊できるようにしたものを販売し始めた。


 専用の敷地を確保し、巨大な工場を作って組み立てレーンを作る。ゴーレムが組み立てて最後に私が魔法で仕上げる。そんな感じで毎日100台は製造しているのだが、評判が良すぎて来客が多い。


 因みに魔術師ギルドは大いに自動車の件に釣られた。以前から彼らの利益を損ねると判断して手を出していなかったものだが、最早何も気配りしていない。自動車一つで様々なシェアを奪っているのだが、彼らの内の何割が自覚しているだろうか。魔石、馬車関連の様々な魔導具、各ギルドとの連携に伴う利益。自動車が走っている地域ではこれらを私が奪う事になる。


 購入者には色々と契約してもらうので、誰が買って誰が乗り回すのかは詳細を把握している。それを王国に提出して、事故や事件があった際には王国として裁可を下せるように国王陛下に法を定めてもらったのだ。


「買ったときにあれこれ教えているのは、安全の為だろう? 馬車を乗り回すより簡単なのに、どうしてあんなことしてるんだい」


 整備された真っ直ぐな道なら時速50キロは出せるんだぜ。殺人機械が走り回ってるのと同じだし、馬車よりパワーがあるから積載量も多い。質量兵器と言っても過言ではない。


「最高速で人を撥ねると、レベル30あっても即死するわよ」


「・・・こっわ」


 こくりと紅茶を飲みながらブランママは目を見開いた。

 現状は北央騎士団の守備地域にしか購入を許可していない。なぜなら、そこしか真面な道が無いから。王国中に整備された土の道路は30キロ~50キロなんて速度で走るには危険が多く。歩道と車道の区別をつけていない。


 以前から私が整備していた道は歩道がある似非コンクリの道なので、馬よりも自動車の方が走りやすいのだ。


 そんなやり取りを国王陛下と数か月も繰り返していると、ついに結婚式の準備が整いつつあると連絡がきた。各地方貴族の招待と、数日にわたる披露を行うらしく、ドレスの合わせと礼儀作法の教授もある事から王都に来いとの事だ。


「ノール君とジュリアンヌちゃんから習ってなかったか?」


「あれは王族の礼儀作法の全てでは無いらしいよ。本音は色々と言いたい事があるんだと思う。迷惑かけてる自覚あるし」


 ズズズと肘をついて紅茶を飲むとブランママが苦笑いをする。こういうのがイケないんだよねぇ・・・。肘を机から下ろしてクッキーを一つまみ。メイドさんのお菓子はおいし。


「あたしらも王城に来いってのはちょとなぁ・・・息が詰まりそう」


「あー・・・ギルマスのお爺ちゃんにお願いして見よっか?」


「いやぁ、多分ダメだろ。王命だし、逆らったら周囲の貴族が睨んでくるよ」


「そっか・・・ごめんね」


「いいさ、娘の晴れ姿と王城観光と洒落込もうじゃないか」


 ハハハと笑うブランママはまだまだ若い。30近いから目じりに皺が出来たと言っていた近所のお姉さんは、ブランママに嫉妬している。お母さんの性格だから嫉妬されてもどこ吹く風よ~って感じだけどね。


 しかし・・・これが29歳か・・・若いな。顔の傷などはここ数年でほぼ消えたし、筋肉質な体は女性的なラインをこれでもかと作り出している。腰細いんだよなぁ。私もだけど。二人で並んで鏡の前に立つと姉妹か! と思う。


「お母さん若返った?」


「んー? ・・・多分あの風呂の効果だろ? 昔作った傷が殆ど消えるか小さくなってるから、快癒の水、だっけ? あれの効果だと思うよ」


「まさか古傷まで癒す力があるとは・・・小皺もないし、肌を再生させる効果でもあるのかね?」


 アレで塗り薬とか作ったら売れるかな?


「飲む方が良いんだろう?」


「うん、教会で販売してるくらいだし。神官さんも体が若くなった気がするって言ってたよ。80超えて子供が出来たってさ」


「はぁ~・・・・・奥さんも30過ぎだろうに? 産めるのかな・・・」


 真面目に心配し始めたブランママが「もう一人くらい・・・いやいや・・・でも直ぐにユーリが妊娠するだろうから合わせれば・・・」とか言い始めた。


「あ、そうだ。お母さん、私、妊娠しました」


 空になったカップを床のフカフカ絨毯に取り落としたブランママは慌てて拾い上げる。


「え!? 何ヶ月?」


「まだ・・・一週間かな。魔法で調べたら出来てた」


 えへへと笑うと、頭をこねくり回されて久しぶりのブランパイに顔を埋め尽くされた。う~ん、久々の至福タイム。


「おめでとうユーリ。あたしも同じくらいに妊娠したけど・・・それだけ体が大きければ心配ないよ。あたしが保証してあげる。元気な子供を産みなさい」


「うん・・・うん・・・! ありがとう、ママ」


 久々にママと呼んだせいか、目を真っ赤にはらしたブランママとリビングに戻ったらアルトパパに心配されてた。すまん、私のせいだ。


 レオンは妊娠の事を伝えると全身で喜んでいた。従者ノールが引くぐらい喜んでいた。ブランママはそれを見て爆笑していた。


 妹弟たちも祝福してくれていた。全員、新生児の頃から育ててきた自負もあるので、子育ては失敗しないと思う。サリーも一時期は嫌われたけど、前以上にお姉ちゃん子になったし、弟たちはいつも「ねーね好き!」と言ってくれる。あぁ、思い出したらニヤける。うひひ。


「それで? 王都には何時から行くんだ」


「お父さんの仕事次第かな。若しくは先に私とレオンが王城に戻って、ハイネさん達とお母さんと一緒に、サリーたちを連れて王都に来る・・・とかは、どうかな?」


「そうだな。お前はあっちで覚える事があるのだろうし、俺たちは後発でも良いだろう」


「んじゃそれで」


 王都まで馬車で1か月、自動車で1週間、風獣で最速2日。うん・・・風獣で行きたくなってきた。もしくは空間魔法で遠隔地を繋ぐゲートとか使えないかな。


 一応、暗殺対策などを考えて自作の前後に長い自動車を用意し、数台で列をなして移動する事にしてある。大統領とか乗ってそうな感じだけど、こういうのって「どうぞ狙ってください」と言ってるような物では? と感じてしまう。実際には道を通過する前に周囲を警備が掃除してしまうらしいけどね。


「では皆さんに良いものを渡しておきます」


「良い物?」


 レオンたちに手渡したのは腕輪。穴の開いた腕輪なのだが、その穴にこそ意味がある。

 未来の夫の腕に嵌めて、コップを穴に近付ける。するとコップが腕輪に吸い込まれて消えていく。


「まさかっ!? マジックバッグ?」


「はい。今のうちに使い慣れておいてくださいな。暗殺されかかって身一つで森に放り出された・・・なんて時にも生きて行けるような物を入れておいて下さい。わかりましたか?」


 驚くレオンたちが頷くと、ブランママとハイネさんにも渡しておく。


「とうとうやっちゃったね・・・ダメって言ったのに・・・」


 ハイネさんがブツブツ言っているが無視した。


「へぇ~・・・これは・・・人に言えないねぇ」


「いずれバレるだろうけれど、奪われなさそうな人や信じられる人にしか譲らないから、そのつもりでいてね。あと、一グループ一個あれば足りるだろうから、全員分を仕舞っておくとイイよ」


 3人で物を出し入れしているのをニヤニヤしながら見つつ、出発の準備を整える。お察しの通り私の手製なので、公開厳禁だ。自分で作ったとも認めていない。惚けているだけにした。


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