閑話
ほぼサリーの話
■サリーの楽しい学校生活
サリアネージュ。剣姫ブランネージュの第二子で長女ユリアネージュの妹。
年は8歳だが、この世界の子供は成長が速く、8歳にしては背が高い。背の高さと精神年齢は世帯ごとの窮状と反比例するように高くなりやすく、それは周囲の人間の行動から影響もされる。
幸いな事に有能な両親と姉に恵まれた彼女は、知育、体育に好ましい環境に育ち、家と学校を往復する生活だけでも相応の刺激を受けてスクスクと育っている。それもその筈で、最近では領都ユリアにやってきた、エステラード王国でも武力の象徴とも言える伯爵家の子息と仲が良い。
彼女が通う学校は、姉のユリアネージュが手ずから建てた4階建ての大型建築物で、これまでの教会の神官が手慰みで教える程度の内容とは隔絶している。
幼年学校でありながら魔導教育を行い、騎士教育まで行っている、これまでの貴族学校が占有していた内容を平民にも教えようと、国王肝煎りで多くの人材が派遣されている。当然ながら領都ユリアの噂を聞きつけた貴族の子弟が、特異な学校の話を聞き逃す事など無く、当家の子供を是非!と国王の名とユリアネージュの名を聞きつけ、多くの貴族の子供が入学する事になった。
さぁ、そこにこれまで通っている村の子供たちは困惑した。自分たちがユリアネージュから教わっていた事が、余りにも異常だったとは露知らず。初めて見る貴族と、彼らとの学力差に唖然とする事が多い事多い事。
凡そ全ての子供たちに魔力制御と気力制御を叩きこんでいたユリアネージュは、当然ながらサリアネージュにも教え込んでいた。スキルによって騎士コースと魔導師コースと商業コースに分けられた子供たちは、それが当たり前だと思い込んでいたのだ。当然ながら、彼女の妹は騎士コース。編入してきた貴族達を次々と薙ぎ倒し、普段の実技授業では元騎士の教師(LV40)でしか相手が出来なくなっていた。
「サリアネージュ!このバンクルーフ=トールダンが決闘を申し込む!」
「よし、来なさい!」
ブランネージュの娘らしく、彼女の気質を色濃く受け継ぐ彼女は、授業のたびに年上の編入生に挑まれ、それを綺麗に叩きのめす。サリアネージュはそんな毎日を送っていた。
◇◇
騎士も戦わなければ金食い虫。これはどこの騎士団でも同じことだ。まずサリアネージュたちが教えられたのは騎士の現実。甘い夢物語を願って騎士を目指されても困る。幼気な子供たちにそんな教育方針を撃ち出したのは、外ならぬ老神官。元北央騎士団騎士団長である。
「一人当たり、装具一式で金貨15枚。そして移動の為に必要な周辺の準備物、これらをまとめて三日間の行軍を行う場合、一人当たりの費用は幾らになるのか。皆で考えてみなさい」
しゃがれた声で老神官が言い放つと、周囲の元騎士(元部下)が騒ぎ出す子供に一喝した。もはや軍隊教育そのものである。
「周囲と相談しても構わぬ、一人で考え抜いても構わぬ。だが、間違った答えを出した場合、お前たちはその通りの装備で来月の行軍へ向かってもらう。間違えば辛いぞ、水も足らぬ、食料も足らぬ、真面に寝る事も出来ぬ、傷も癒せぬ、逃げる事も出来ぬ。そうなりたくなければ考える事だ」
基本的に10人一組、チームの内訳は三人が三組となって一人が小隊を指揮する。子供達もその形で遠足(行軍)に参加する事となっていた。
「おい、サリア。何が必要だ。それに魔導士組も参加するんだろ。それも考えれば軽装でも問題ないだろ」
いつもの決闘相手が席を移動してきた。
「ちょっと、いきなり馬鹿言わないでよ。魔導士組は大人の魔法使いじゃないのよ。最初から頼ってどうするの。水も食料も寝具も戦闘装備も全て自分たちで担ぐのよ。それに噂じゃ商人組たちを護衛するんじゃないかって話も出てるわ。草原行軍だけど、内容は足手纏いを伴った命掛けの行程よ?舐めたら死ぬわよ」
「普通そこまでやるか!?学校だろここは?護衛兵だってつく、命の危険まで考える事ないだろ」
サリアネージュの周りには人が集まる。何故ならクラス最強だから。彼女の率いる部隊に参加すれば間違いなく戦力を期待できる。そう考えた貴族の子供たちが寄ってくる。その後ろで平民の幼馴染たちが足踏みしていた。貴族に逆らえばどうなるか、街中の噂を聞いていれば学校内で不和を生み出すような行動は出来ないと様子見するしかないのだ。
「だから甘いって。この学校の修了過程を考えたのはお姉ちゃんよ。ゴブリンを雑草か何かとしか見ていない人の基準で決められたのよ!? 相当の死傷者が出ると考えていた方が良いわ。そもそも北の大森林が近い平原で子供が行軍なんて出来る訳ないのに、おかしいのよ、お姉ちゃんは・・・!」
5歳でB級魔物のドレイクを銃殺していた女の価値観は理解できない。未来の王妃が自分にとっての当たり前は、他人にとっての非常識であると知ることが出来るのは何時の事か。
「こ、ここらへんのゴブリンって、レベルが異常に高いって、パパの部下の魔物研究家が言ってた・・・!」
別の子がドモりながら口にした内容が正しい基準だ。
「だから、そう言ってるのよ。まず全員の認識を変えましょう。余りにも危険すぎるけれど、あの神官様の眼を見る限り予定の変更は効かないわ。あの人もお姉ちゃん側の人だし。三つの小隊を中隊として行動させる前提で予定を組むわよ。バンクルーフ手伝って。急いで小隊を編成して、力配分を精鋭1,遠距離特化1,盾の扱いが上手い集団1で作っていきましょう」
「よしっ、小隊を編成したら?」
「小隊長で集まって、小隊毎に必要な装備を特化。それを個人で用意させるように徹底させるわ。オードリー、あなた魔法も使えたわね。魔導師隊がどんな準備をしてくるか想定しつつ、追加装備が必要かどうか考えてもらえる?」
「えぇ、っとわ、私?」
サリアネージュが付近に集まってきていた貴族子弟の一人、オードリーに指示を飛ばした。それというのも彼女もサリアネージュに負けたからだ。こうして集まってきている内の殆どは、サリアネージュに従順になりつつある。本人もそれを知っている。
本来であれば貴族の子弟たちが咎める事だが、このクラス内にそんなものは既に居ない。何故なら全員ぶっとばされたから。それも幾度となくだ。サリアネージュは意図していないが、体で上下関係を教える当たり剣姫の娘であるとの証明でもある。伊達に陰で言われている仇名が剣鬼ではない。
「チョットみんな聞いて頂戴!小隊を三つ作る時に目的別に分けていくわ!」
サリアネージュが一声かけると、甲高い声に子供達も大人達も視線を集めた。そして護衛の必要が出てくる可能性。魔導士組との共同戦線になる可能性を上げてチラリと老神官を視た。特に否定の言葉は無い。やはりと内心納得したサリアネージュは言葉を続ける。
「ホラン!あなたが一番弓が上手いわね、遠距離小隊を率いて。エリン!あなたが一番盾の扱いが上手いし、足も速いわ。凡そ予想される事態にこの編成が最低限必要になる!この辺りの魔物が国内最強と言われているのは知っての通りよ。怪我をしたくなければ三小隊を中隊として行動させることに協力して頂戴!」
怪我どころではない。北部の魔物が強力な事は子供ですら知っている。事実西部と南部では殆ど魔物被害が無いのだ。自ら魔物の巣や遺跡に乗り込んだ物以外では襲撃してくる相手は盗賊が殆ど。そんな事情は親と周囲の大人、そしてこの学校の授業で教え込まれている。貴族の子弟に至ってはそれをユリア町に来る最中に目撃した者も多い。
普通の地域じゃない。
それが彼らを動かし、サリアネージュの意見に傾倒する理由になる。そこからは早かった。元々クラスの首領と言っても良い姉御の言葉だ。元からいる平民の子供は勿論、貴族子弟たちも次々と編成され、知識を惜しげもなく出して良く。
◇◇
その後ろで老神官がしきりに頷いていた。ちょっと無謀な話だったんじゃないかと思っていたが、ユリアネージュの言葉通りになった事に、少し感心していたのだ。
「大丈夫よ、サリーが居るんだし。軟な育て方してませんよ」
発案時10歳の彼女は既に仙気使いだった。だとしても身内を崖下に突き落とすような言葉には流石に異論を挟んだのだが、ダメで元々、やってみようという話に落ち着いた。
そもそも、老神官も仙気使いな時点で物事の基準値がズレている。ゴブリン如き素手で殴り殺せる年寄りの頭の中にはあまり危険度は高いとも思っていなかった。
「確かに妹さんは強いかもしれませんが、大人の騎士でも手古摺る場合があるんですよ?
無茶が過ぎますって!」
「だって気力制御出来てるじゃない。そもそも覚えさせる前提で授業をするんでしょ?じゃあゴブリン如きで足踏みしてられないんじゃないの? 学校としても実績が欲しいんだと思ってたけど、違うんですか?」
ユリアネージュに突っかかったのは老神官の元部下で騎士上がりの壮年男性だ。聖騎士を経て引退し、教職を志していたところ、老神官にヘッドハンティングされた。
「ぐ、それはそうですが、しかし、いや、可能なのか? だが・・・ううむ」
「判断は普段の授業の中で見極めてください。ゴブリンに勝てる、オークに勝てる、ドレイクに勝てる、ある程度のラインに達した強さを得たと思ったのなら、行軍も可能と考えれば良いでしょう?」
この女、無茶苦茶である。
「そうじゃの。普段の授業でどこまで伸ばせるか。それが重要だと思わぬか」
「それってつまり、われわれ教員の腕に掛かっていると仰りたいんですよね」
「「その通り!」」
こうして、少年少女たちの未来は決まったのである。
◇◇
3日間の中隊行軍当日。日程は以下の通り。
復興した東の村に向けて商人クラスの馬車三台を護衛。馬車には体調不良者を載せられるように、ある程度の空きを残して移動。同行する魔導士組も同様だ。
「騎士組の中隊長、サリアネージュです。そちらの中隊長は?いないのであれば直ぐに決めて欲しいのですけれど」
「いや、僕らは小隊毎に任務が異なるって聞いたんだけど」
困惑する魔導士組は各組から一人ずつ出ている引率の先生に目線を送った。だがその目線は無視され、三人の大人はいずれも行動しない。
「ハッキリ言うけど騙されているわよ。準備段階で必要な情報が全て出て来るとは限らない。そういう事を含めて偏った言葉で組ませたんでしょうね」
「そんな・・・!」
彼らの装備は軽装。あくまで小隊毎に行動する事を想定し、一日の往路行軍、一日の村滞在、一日の復路行軍を想定したものに過ぎない。
魔導士組に対して、騎士組は襲撃を想定して武装蜂起したかのような重装備で行軍に参加している。誰も彼も目つきが鋭く、魔導士組のような和気藹々とした空気は全くない。
「急いで話を纏めて。私も参加するわ」
「え?あ、ああ」
「騎士隊はそのまま配置について!先頭と後方に戦力を固めなさい!」
「「「「「おぅ!!!」」」」」
ズザザッと30人を超える騎士組が馬車を囲んで待機した。
「小隊長を集めて。急がないと到着が遅れて野営する事になるわよ。そうなったら100人規模に対して、戦力の少ないこの行軍は死人が出る。急ぎなさい!」
「は、はひ!」
二人のやり取りを見ている大人たちは少しだけ瞼を強く上げたが、何をかいわんやという態度だった。
◇◇
結局、サリアネージュが行軍を率いる事になり、先頭を歩いている。気配察知のレベルが一番高いのも理由だが、指示を出す人間が先頭の方が周りが動きやすいからだ。これも異常に質の高い軍隊学校、いやユリア町の学校のお陰か。
「次の一キロまで索敵範囲内に魔物は居ないわ。これまで通り、上空に注意しつつ前進して頂戴」
指示が盾小隊の者を通じて後方に伝わる。手信号で後方に伝える。
<上空警戒しつつ前進>
そのまた後ろも同じだ。
盾持ちに足の速いものを選んだのは、これが理由だ。ユリアネージュのように何をして情報連携しているのか分からない謎の意思疎通手段は持っていない以上、口語か手信号で伝えるしかない。
その手信号もサリアネージュが行えば最速だが、先頭に入った場合の最強戦力は剣も魔法も彼女が最強だ。口語で指示をだして、他の者に伝えてもらった方が良い。
「ま、これだけ居れば、余程の相手じゃないと前には出ないけどね・・・」
「えぇ!?姉御が前に出ないと死人が出るだろ!?」
「アネゴ呼び止めなさいよね」
東の村までおおよそ10キロメートルと言ったところだ。大人の足で走れば30分で到着できるが、今は子供の足で歩いて移動している。精々、陽が薄く(※)なった頃に到着できれば御の字と言った感じだ。だから少しだけサリアネージュは焦っている。
※この世界で陽は沈まない。
薄暗くなれば遠距離は役に立たない。魔導士組も10分も魔法で光源を維持できない。視界を確保できない戦いなど教わっていない。そして騎士組のように気力制御を駆使して全体が高速移動する事は出来ない。だから焦っている。
ユリアネージュの場合、視界の無い戦いなど皆無だ。目が特別性だから。魔力が途切れる事など無いから。その強さが圧倒的過ぎるから。
だが、今行軍しているのはサリアネージュより弱い子供達ばかり。ゴブリン3体ですら死傷者が出かねない戦力しかない。不安が募り、時間が経過するごとに焦りが強くなってくる。
戦闘馬車に乗せた砂時計が3時間を知らせる。砂が落ちきったそれを引っくり返すと、出発時刻の午前7時00分(ちょっと遅れた)から10時頃だと把握できた。これをあと二回引っくり返したら時間切れだと思った方が良い。大体15時くらいから走るべきだ。そう心に決めていた。
たかが10キロ、されど10キロ。同道する大人達にとっては散歩のようにゆっくりと進む。歩幅の違いが此処まで如実に出ると眠くもなってくる。眠気を噛みしめるように口を閉じたまま欠伸を嚙み殺した。
◇◇
凡そ14時頃。サリアネージュが馬車に乗る砂時計を視て察すると同時に、平原の向こう一キロ程離れた場所から気配を感じた。
素早く手を上げて、目線で盾部隊が注目するのを待つ。注目されると同時に、手信号で左手側、数8、と送った。
決められた通りにだが、若干マゴつきながら遠距離部隊と魔導師隊が隊列を作る。
「出たか」
同じく先頭に居たバンクルーフがサリアネージュに声を掛けて来た。
「多分、ゴブリン。まだ遠すぎてハッキリしない」
気配察知は凡そ30秒ごとにその対象をキャッチする。まるで遅いソナーのように、だが遠くまで確実に拾う事が出来た。まだスキルレベルの低いサリアネージュにとっては、ぼやけたような感覚でゴブリンらしきものをキャッチできただけに過ぎない。
それを聞いたバンクルーフは脇のバトルソードを引き抜く。サリアネージュも姉に造ってもらったレイピアを引き抜いた。バンクルーフは、且つてサリアネージュがそのレイピアで鋼鉄の鎧を切り裂いていたのを訓練場で見た事があるため、何も不安視していない。どう考えても折れるだろう一撃で、重鎧を真っ二つにして見せたのだ。ただの剣では無いだろうと予想している。
彼の予想通り、その剣は普通ではない。言ってみればレイピア型のゴーレムなのだが、ユリアネージュは詳細を説明していない。「魔力を通せば頑丈になるわよ」としか言っていないのだ。どう考えてもミスリルかオリハルコンの合金製である。
「距離500!」
遠距離小隊が弓を構える。
「距離300!詠唱始め!」
30秒の間に200メートルを進んでいる。つまりもう、射程圏内だ。
「弓、放て!!」
ヒュヒュヒュヒュ、と子供たちの弓が飛んで行き、それをジャンプして横っ飛びして躱すゴブリン達。そして、あっという間に魔法射程内へと入り込む。
「魔法、放て!」
拙い魔法が弓と同時に次々と突き刺さる。弓を回避する前提で魔法を放っているのが数名いたのが救いだった。これで3匹落ちて残り5匹。
「盾部隊は馬車から離れるな!残り前進!いくよ!」
掛け声と同時に隊員の間を縫って矢が飛んで行く。同時に遠距離部隊は幌馬車の支柱に掴まって乗り上がった。上から射かける算段だろう。チラリとサリアネージュがそれを視つつ前に出た。
気力制御を最大にして体を強化し、足に踏み込まれた土は深く沈みこむ。とても子供の脚力ではない速さで駆けだすと、着地しようとしていたゴブリンが驚いて両腕を体の前で交差した。
「ふゃぁっ!!」
可愛らしい掛け声と同時に剣に魔力を込めて振りぬく。すると彼女は空振りしたかのような気がしたが、「ガッ」と呻き声のような音が後ろに流れていくのを感じつつ、振り返ることなくサリアネージュは前に進んだ。
待っ正面から突っ込んでくる彼女を目掛けて二匹のゴブリンが爪を立てて飛び掛かる。その後ろに魔物が居ない事を察知したのか、スライディングで飛び上がったゴブリンの後ろに回ると、体を回しつつ横薙ぎで二体のゴブリンを両断した。
まるで力を必要としない一撃で目の前が真っ赤に染まると、残った二匹が少し後ろを振り返り、その後頭部に騎士組精鋭隊の一撃が差し込まれていった。
サリアネージュがヒュンっとレイピアを振ると一度剣を視て、そして鞘に納めた。だが、その右手が柄から離れない事に気付き、戻る脚を止める。左手で指を解こうと動かすが、なかなか離れない。
見かねたバンクルーフが血を浴びた彼女の顔にハンカチを押し付けた後、彼女の右手を柄から放してやった。
「無茶するなよ」
「ごめん。ありがと」
サリアネージュが顔を拭くと、そのハンカチからは少しだけ良い匂いがした。
◇◇
無事に東の村に着いたのが15時丁度くらい。あの戦闘の後、子供達は足が速くなった。それもそうだろう、自分たちが魔物と戦った興奮と、大きな怪我をすることなく切り抜けた興奮で大盛り上がりだったのだから。そして同時に、全員が恐怖を覚えていた。
始めて魔物と戦った恐怖、倒すまでに感じていた死の予感。遠距離組は一番深く感じていた事だろう。あれ程までにゴブリンが矢を避けるとは思っていなかったらしい。
近距離精鋭組も魔導師組も、あれほどまでに自分の攻撃を大量に浴びせないと殺せないとは思っていなかったらしい。実際、サリアネージュの一撃以外、複数人で攻撃しないとゴブリンは立ち上がる素振りを見せていた。慌てて全員で殴り殺したのだ。
「にしても、サリアの剣は魔剣か何かなのか?凄い一撃だったけどさ」
隣を歩くバンクルーフがサリアネージュに興味深げに聞いてきた。
「この鎧も、剣も、お姉ちゃんが作った物だから。ちょっと普通じゃないの」
「王太子殿下と婚約されたって言う、ユリアネージュ様が? 仙人って本当だったんだな。鍛冶師の真似事まで出来るなんてな」
何でも出来るのが仙人ではないし、正確には仙気使いである。それを聞いてサリアネージュが少し笑った。
「普通じゃないのは認めるけど、仙人ではないと思うよ。ただ、ハンマーで叩かなくても剣が出来たり鎧が出来たりするのは、私も良く分からないな」
「なぁ、僕のも作ってくれって言ったら受けてくれるのかな?」
「どうだろ、お金に困ってる人じゃないし。面白そうなら作るんじゃないかな? 私のも実験で作った試作品だって言ってたし、本番はレオン殿下の鎧とか剣だと思うよ。ほら、ドラゴン装備」
「あれなぁ、父上が欲しがってたんだよな。部隊に支給できれば最強の兵士が出来るって言ってた」
「どこも欲しがるよね」
サリアネージュは話に集中できていない。先ほどの戦いが頭の中で反芻して、繰り返し動きのチェックをしているせいだろう。歩きながら僅かに体がピクリと動いているのにバンクルーフは気付かなかった。
「ま、殿下が怒るから無理言えないってため息ついてたけどな」
「そうなの」
微笑んで答えているつもりのサリアネージュだが、バンクルーフから見たら少し不気味な笑顔に見えていた。目だけ笑っていないその姿に、何か狂気染みたものを感じたから。
◇◇
東の村に滞在したのは到着した夕方から三日目の朝までだ。その間、二日目を使って商人組がギルドに見学へ行ったり、実際に領都ユリアとの貿易が行われている商材や、大店の商会長に見学に行ってアドバイスなどを受けていたりしていた。
当然、騎士組と魔導士組も遊んでいられず、警備の仕方などを警備隊長から学び、村長のアリガタイ話を聞いて二日目を終えた。
そして三日目。
復路を行軍している子供たちに明らかな差が出始めている。ゴブリンと戦った者とそうで無い者。つまりレベル差だ。
「ちょっと早かった・・・?」
「大分早かったよ。俺たちもレベルが上がったようだけど、サリアは一番レベルが上がったんじゃないか?」
「それで同じ速さで歩いてると思い込んでたって事?」
「だろうな」
何が起こったのかは昼休憩で座り込んでいる子供たちが多い事を視れば一目瞭然だろう。かれらはレベルの上がった子供たちについていけなかった。午前7時から11時に掛けて、殆ど競歩と言えるくらいの速さで進んでいたのだ。疲労で立ち上がる事も儘ならない子供が多い。
「みんなゴメンナサイ。ペース配分を間違えてしまったわ。距離的には稼げているから、休憩時間を一時間増やそうと思うんだけれど、問題ない?小隊毎で判断して欲しいの」
「「「問題ない」」」
騎士隊は普段から走り込んでいるだけあって大丈夫そうだ。
「こっちは少し厳しい。豆が潰れて歩けないってやつも多い」
魔導士組は思った以上に難しそうに見えるのを感じて、サリアネージュが黙り込んだ。
彼女は悩んだ。馬車に載せていくか?それとも精鋭組で背負っていくか?どちらも往路以上に遅くなるかもしれない。なにより一時間程度の休憩時間を増やしたところで、潰れた豆は大して回復しない。回復用のポーションも、魔導士組は最低限しか持ってきていない。しかも安物が多いと聞いた。命に係わる場面でもないのに使うべきなのかと頭を悩ませる。
「・・・騎士隊で包帯を余分に持っている人は?」
「おいっ!歩かせる気かよ!」
食い気味に突っかかる魔導士組の小隊長に、サリアネージュは冷静に答えた。
「命の危険が無いのなら回復薬は使えない。確かに私のミスで歩かせ過ぎたけれど、同じ距離を歩いた騎士隊は豆を潰すほどの人は居ない。ならば騎士隊の包帯で歩けるようにするのが最善だわ」
「俺らが鍛錬してないのが悪いって言うのか!」
「なに?自覚があるなら帰ってから鍛えれば良いでしょ。私が話しているのは今、生き残る為に必要な事よ。訓練不足を攻める時間なんて私達には無いでしょ」
「お前・・・」
「休憩を延長して足の裏に薬草と包帯を巻いて歩かせる。誰か手伝って」
サリアネージュの眼を見てバンクルーフが名乗り出た。
「俺が手伝う。皆、悪いが包帯と薬草を分けてくれ、俺のも三人分しかない」
騎士隊数人で豆を潰して赤くなった足裏に練り薬草を着けて包帯を巻いていく。慣れていない手つきで子供が子供の足に包帯を巻いていく。仕上げに今まで履いていた靴ひもを解いて、大きくなった白い足を突っ込ませる。一瞬だけ痛そうな顔をサリアネージュたちに見せた魔導師見習いは、大丈夫だと言いながら休憩時間を座って過ごしていった。
「出発する!」
「「「「「「おぅ!」」」」」」
その様子を見ていた大人三人は鷹揚に頷いていた。とても8歳とは思えない思考力と行動力、そして凄まじい戦闘力。ブランネージュの世代である三人は、やはり蛙の子は蛙かと良い意味で感心していた。
◇◇
「おー、帰って来た!おーい!サリー!」
どこかの仙気使いが大手を振って迎えると、先頭を歩くサリアネージュが力なく手を振る。その背中には魔導士組の女の子が背負われている。
「あらら、苦戦したのかな」
仙気使いが赤子を抱いた女に話しかける。
「どうせゴーレムで見てたんだろ?」
「とーぜーん」
ンフフと満足げに語る仙気使いの後ろには老神官も出迎えに来ていた。
「満足できる内容だったかの?」
「まぁ、そこそこです。こっちで間引きもしてましたからね」
「そんな事だろうと思ったわい」
呆れた顔を老神官と母親が見せた。
「管理された狩場ってのもどうかと思うけどねぇ」
「提案した側としては、しっかり見ておかないとね。心配だったんだから」
「引率の三人は知ってたのかい?」
「それも当然、重々説明しましたとも!」
「呆れた」
そんな三人のやり取りを知ってか知らずか、サリアネージュはやり遂げた顔で自慢したとかなんとか。世の中には知らない方が良い事も有るというお話。
ただ、今回の行軍でサリアネージュに気を寄せる男が増えたのは姉の功名だろうか。当の妹本人は、未だその事に気付かずにいたとかなんとか。
■レオン 婚約者が婚約しても普段と変わらない事に不思議な思いを抱く話
フリューゲル=レオンハルド=バエス=エステラードがユリアネージュの改築した家の書斎で執筆していると不意に溜息を吐いた。それを聞いていた従者のノールがまたかと目を向けた。
「そんなに気になるのでしたら同行されればいいではないですか」
「同行したら皆が固まって話にならんと追い出された」
仕方のない事だと本人は割り切っているが、事婚約者の話になるとフリューゲルは見境が無くなる節がある事を従者ノールは知っている。
「また無茶な事をしないでください」
「普通の事ではないか?ただ、挨拶に行っただけなのだぞ?なぜ皆固まるのだ。別に悪行を咎めに行ったわけでもないのに」
それにだ、と王太子は続ける。
「なぜユリアは普段通りなのだ?まるで見えない力でそうあるべきだと守られているようだぞ。貴族達も随分と大人しい。商人たちもだ。この街特有の事なのか?」
「この街の方々はユリア様がお好きのようですからね。敬愛している、いえ尊崇していると言っても良いかもしれません。最近移住された方は別として、まだ村落だったころからユリア様を存じている方々は、大層恩義を感じているようです。そのような方が、王太子妃になろうという時に邪魔をさせると思いますか?急に有名になってしまった事で生活が変わるであろうことから、ユリア様を守ろうと働きかけていても可笑しくありません。むしろそっちの方が自然だと思いますよ」
長々と喋りながらカリカリと書類を書き綴る従者の鑑。その言葉を聞いた王太子は少しだけ不満そうだ。
「もっと持ち上げられて幸せそうにしてくれるかと思ったのだかな」
「それは殿下の役回りでしょうに、人に任せてどうなさる御積もりですか」
「そうではない。もっとこう・・・周囲から賛美されても良いだろという話だ」
「賛美って・・・恐らくですが、ユリア様は居心地悪くなるだけかと」
「ぐっ」
王太子は黙り込んでしまった。黙り込んだ時は落ち込んで何かを考えている時だと知っている従者ノール。それを見かねて幼馴染のノールが言葉を続ける。
「別にユリア様が婚約を喜んでいないわけではないでしょうに。即位されるまでは自由にさせるのでしょう?」
「そうなのだがな・・・もっとこう、嬉しそうにしてくれるかと思ってだな」
「していましたよ。目の前で殿下の手を握って喜んでいたではないですか」
「そう、だよな」
「ええ。どう見ても嘘が付けないタイプで、自分の気持ちにも嘘が付けないタイプです。人に迷惑が掛かるような事は自分から踏み込めない優しいお方に見えます。それに計算高くもある」
「計算高い?」
「ええ。殿下は反論なさるかもしれませんが、婚約したのは王家の庇護下にあれば、ある程度は自由に振舞っても許されるかもしれないと考えていると思いますよ。ほら、ユリア様は色々と特殊じゃないですか。常人に出来ない事を個人で出来過ぎてしまうんです。出来過ぎさんですね」
「できすぎさんは良く分からないが、そういう点はもっと頼って欲しいとも思っている!素直に甘えられたいのだ、俺は!」
「そうでしょうか。遠慮もしていないと思うのですが」
「そうか?」
「そうですよ。力は別として平民であるのは事実なのですが、彼女はそう言った部分で遠慮がない。身分は身分、力は力と割り切っていると思います。むしろその思い切りの良さに殿下は惚れたのではないですか?」
「そうだな。歯に衣着せぬとまでは言わぬが、思い切りの良さとその心に惹かれた。それは紛れもない事実だ。見た目もまぁ、大いに惹かれたが」
「それはごちそうさまです。であるならば、あるがままを受け入れれば良いではないですか。何も悩む事など無いと思いますよ。今のままで触れあっていれば十分かと思いますが」
「何というか、そうだな。何かこう、不安なんだ。もしかしたら俺の事はあまり好きではないのかもしれないかという」
「殿下の愛した方は好きでも無い方と寝るようには見えませんでしたが」
「それはそうだ!」
「なら受け入れれば良いではないですか。あるがままに」
「ぬぅ」
まるで従者ノールに言い負かされたかのように感じた王太子は、先程とは違う理由でまた黙ってしまった。そのダンマリ男にカリカリと筆を進める従者が言葉を告げる。
「それに他の男と一緒になれば、その男性を引きずり回す方だと思いますよ。殿下だから引きずられ無いのではないかと思います」
「なに?」
「ユリア様は殿下の御立場を考えて無茶な事も出来ない、でも王家の庇護は受けて行動したい。少なからずそういう思惑は有るかと思います。陛下は其処を利用してくるでしょうね。大きな権力を持たせて、上手くブレーキの掛かったユリア様に働いてもらおうとするでしょう。それでも、国家ごと振り回すでしょうけどね。私から見たユリア様はそういうお方です。何物をも振り回す力をお持ちですが、周りの迷惑も考えられるという奇跡的な平衡感覚をお持ちの方です。だから普通の男は隣に立ってはいけないんですよ」
「身が持たないとでも?」
「でしょうね。仮に私が結婚したとしたら三日で仮面夫婦になる自信がありますよ。私は女性に無理をして欲しくないですから、ユリア様が隣に居たら心配し過ぎて胃に穴が開きます。いずれ忘れようと努力するでしょうね。それくらい強烈なんです」
「まぁ、ノールがユリアと結婚する事は絶対に無いから良いとして、私もふりまわされると言いたいのか?」
「なんか地味に傷つきますね・・・その可能性が高いと申し上げているだけです。私は世界の中心にユリア様が立っていると言われても、ああ、言われてみればと納得してしまいそうですよ。根本的に人を導くタイプなんでしょうね」
「ほう。なら私の妻として最適だったという訳だ」
「気を付けて下さいよ。ユリア様は嫌がるでしょうけれど、城の中に入ったら無茶苦茶な事になりそうで若干心配していますからね」
はぁ、と何かを書き上げた従者が書類を纏めて、王太子の書斎を出ていく。
「町長と領主殿に面会してきます」
「ああ、任せた」
一礼して従者ノールが出ていくと、王太子が一つ呟く。
「それでも私はユリアを選ぶ」
そうしてまた、書類に目を向け始めたのだった。
■ノール 3騎士とノールの過去
カッポカッポと馬が進む。普段の王都ならば外歩きに護衛を付ける所だが、従者ノールが桁違いに強い事とゴーレムが見回る街でその必要性を感じない事から、彼は一人で馬に乗っていた。
彼は平民だが馬に乗れる。何故なら幼い頃に王太子に拾われて訓練したから。産まれも王都、育ちも王都だが、その住処はスラムの中にあった。
まだ5つの頃、親も死に、グループの纏め役で成人間近の兄貴的な人は殺され、子供達は人買いに連れ去られていく。彼が幸運だったのは逃げ込んだ先に王太子が護衛と居た事。そして後ろから人買いが襲い掛かってきていた事。更にその人買いを王太子の命令で護衛の大人が取り押さえた事。最後には、足を痛めてその場から逃げられなかった事。
全てが彼に味方した。
彼は賢かった。自分たちがやって来た窃盗は話さず、人買いに家族を殺されて自分も危ういところだったと話し、生き抜くための方策を考え続けていた。だが、その最中に王子がジッと自分の眼を見て来た。まるで、嘘を見透かされたかのような目だ。
「毎日、倉庫から食べ物を盗んだ。もう、こんな生き方は嫌だ。嫌だよ」
縋る訳でも呪う訳でもなく、ただ心の内を吐露した。
「そうか。なら来い。お前に教育を受けさせてやる。俺一人じゃつまらないと思ってたところだ」
周囲の大人たちは当然騒いだ。だが、王子は一言。
「従者にする」
それで黙らせてしまった。
そして日々の勉強を共に過ごし、同じ時間を過ごした。他の貴族に自分が馬鹿にされたときの従者は、殿下の心を馬鹿にするなと言って決闘を申し出た。相手は大人が代わりに出てきたのでナイフを思いっきり突き刺した。死にはしなかったが、王子は従者を視て嬉しそうだった。
また、ある日の外出時には二人そろって迷子になった。生まれ育った場所の感覚で裏路地から逃げ出して事なきを得た。二人そろって迷子になったのに、怒られるのは従者だけ。でもそれを王子が庇った。結局、一緒に来ていた陛下に二人揃ってたん瘤を作ってもらった。
二人は何時しか、主従では無く友達になっていた。しかし従者ノールは恩を忘れる事が出来ない。助けてもらった恩を捨てられない。だからずっと王子の友人であろうと努力をし、王子を助けられる人であろうと力を磨く。それが腕力であろうと魔力であろと政治力であろうと、何だっていい。ただ助けになれるのならば。
そう思って過ごしていると、同じような面子が他にも三人増えた。彼らは貴族の次男三男。つまり後継ぎのスペアだ。殆どの貴族家は余裕がない。長子を確実に育て切る事に腐心し、領地の発展に腐心し、金集めに腐心する。それが大抵の貴族だ。
彼らの家もその、良くある貴族だった。
王子と共に学園に入学し、同じく生徒として付き従う従者ノール。彼らの眼には不当な虐めを受ける貴族家の三人がかつてのノールに見えた。
仲間を得た従者ノールは貪欲に彼らからも教えを乞う。王子の力になるにはどうすればいいのかと、必死に力を磨いた。その姿に当てられたのか、三人の貴族子弟は同じように力を磨き始める。そうして、今の彼らが在る。
「おや、あなた達も来ていたんですね」
「ああ。騎士の練兵に協力してくれってな」
「ここの騎士は強いぞ。数合も打ちあえるとは思わなかった」
「トールダン騎士団に匹敵しそうだ」
ガハハと三人が笑う。彼らは政治に疎いが、そういう部分は従者ノールが努力すれば良い。代わりに彼らは腕力と魔力を磨く。そうして今のような自分たちがあるのだ。
「ユリア様の家で殿下が暇そうにしていますのでお相手してあげて下さい。多分、考えすぎて欲求不満でしょうから」
「良し来た」
「任されよ」
「行くか!」
うむ!と三人の聖騎士が向こう。あの三人なら考える暇も無いくらいに剣の相手をしてくれるだろうと予想した。
「私は私の戦いをしますか」
そう言って、従者ノールは領主館の門を潜った。
■ハイネリア 発明評論
ユリアネージュの立てた自宅の地下にはゴーレムなどを作る為の地下作業場がある。その地下作業場は台所の地下への扉に加えて、もう一つの扉があった。
「で?また奥の部屋に呼んで、今度は何を作ったのよ」
ハイネリア女史がドラゴンローブでは無く、普通のワンピース姿で広い作業場に現れたのはつい先程。ユリアの家に隣接するように建てられた倉庫の地下に位置する作業場だ。
この地下作業場はユリアの家の地下作業場と繋がっており、長い通路を通る事でも来訪することが出来る。許可された者であれば、こうしてドッカンバッタンと竜船が騒ぐ倉庫の中からでも入れるのだ。
「よく来てくれたハイネ君」
「誰が、君だ」
「まぁまぁ、そんな怒らない。取り敢えずこれを見て欲しい!」
白衣と作業手袋、顔にはゴーグルとガスマスクが付いたような怪しい見た目のユリアネージュが作業机の上を指さす。
「・・・どれよ」
その机の上はゴチャゴチャと工具やゴーレムパーツが乗っかっていた。まぁ、汚い。
「こ、これよ!」
わしっと何かの丸い球体を持ち上げてハイネリア女史に見せつける変態。否、ユリアネージュが自慢げに持ち上げた。
「なぁにこれ?」
「これをですな!こうするとですな!こうなるのですぞ!」
怪しい喋り方をしながら変態がゴーレムを操作すると、まるで華が開いたように球体がぱっくりと開き、中心のガラス玉のような物が光り出す。
「何も起きないけど」
「まだですぞ!もう少しですぞ!」
ゲンナリしてきたハイネリア女史に向かって「あれですぞ!」と変態が指さす。その方向は天井のとある光が当たった部分だった。そう思った直後に部屋の中の明かりが一斉に消えて、天井にはまばらに輝く星々が煌めく。
「これぞプラネタリウム!星の動きを疑似的に再現した素敵ゴーレムですぞ!」
一人興奮する変態と冷静な女魔導師。
「・・・で?」
「へ?」
「これからどうなるの?」
「いやだから、天体ショーが出来て素敵ですねっていう話であって・・・アレ?興味ない系?」
「ないわね」
チッと小さく変態が舌打ちして部屋が明るくなった。
「じゃあ、これはどうだ!?」
ドンっと作業机の引き出しから変態が取り出したるは何かの鉄箱。恐らくこれもゴーレムと思われる何かだった。
「だから説明を」
「スイッチおーん!」
スイッチでは無く魔力を遠隔で流し込んだ変態は、ゆっくりと箱の上に浮かび上がる何かの画像を視て指さした。
「どうよこれ!?」
「えっと・・・誰かの絵?が、宙に浮いているのかしら」
縦10センチ横20センチくらいの映像が宙に浮いている。
「そう!誰かの絵じゃなくて、ゴーレムが視たものをここに映し出して、しかも保存できる!写真機というものだよ!」
「でもこれ、小さすぎるし、何か透明で分かりにくいわね」
チッと小さく変態が舌打ちして画像が消えた。今回はまともにレビューしたはずなのにこの仕打ちである。
「ならばこれはどうだ!?」
「だから説明」
コツンと作業机の上に置かれたのはリップクリームのような見た目の何か。
「なにこれ」
ハイネリア女史が問い詰めると、不意に空中に金属板を作り出す変態。相変わらず無駄に高い能力を無駄遣いする天才である。
「これに明かりの魔法陣を書いてみそ。この道具を使ってな!」
「なんなのよ」
スティック状の頭の部分を親指でグイっと縦にズラすと、頭の部分から口紅のような赤い棒状の何かがニョキっと現れた。それを金属板に宛がってスラスラと書いていくハイネリア女史。普通は本を見ながら描くものをソラで描ける時点で偉人レベルだという事を理解していない。ここにも基準を見失った天才が居た。
「その道具を持って、離れてから道具に魔力を込めてみなさい」
スタスタと作業机から離れ、いくわよーと声をあげる偉人。すると離れた場所なのに魔法陣の上に光球が現れた。普通は魔法陣かそれを記載した魔導具に触れていないと発動しないものが発動したのだ。
「へぇ、遠隔操作が可能なのね」
「うむ!単純だけど便利。しかも道具の魔力が続く限りはどれだけ離れても遠隔操作可能!すごくない!?やばくない!?」
「凄いけど、この道具の魔力はどれくらい持つのよ?」
「一日くらい」
「みじかっ」
チッとまたしても小さく舌打ちをする変態。今のは完全なる不良品なだけであるのに理不尽である。
「チョット、あんたこんなものを作る為に毎日篭もってるんじゃないでしょうね!?」
「失敬な!ハイネさんがアレもダメこれもダメって言うから無難なモノにしたのに!」
「どれも役立たずじゃないのよ。もうちょっと案を練ってから作りなさいよね」
「失敗は成功の母という言葉を知らんのかね?」
「あんたの場合、まずは実母として子供の相手して来い」
「わからずやー!」と言って変態はエレベーターに乗って去っていった。向かう先は地下である。変態は引きこもりにクラスチェンジした。
「何なのよ全く・・・ま、これは面白いから貰っていきましょ」
そう言ってハイネリア女史は魔法陣を描いた道具をポケットに仕舞い込んだ。今日も地下研究所は平和である。
最期の地下研究所はかなり時間が経ってからのお話




