036
また後日。暫く日が経った。
我が家の増築は終わり、竜船2号機は完成し、教会は新築となり、老神官一家も引っ越しが完了した。
領主の城も完成し、騎士団の鍛錬場からは今日も掛け声が響いている。敷地内には様々な研究棟が追加されたので、ジュリアンヌの錬金術研究所からは今日も怪しい煙が立ち上っている。
外壁の向こうには作物が実り、麦っぽいのから根菜、葉野菜、穀類全般と色々な作物が取れるようになった。外側の柵の向こうではもう一枚の柵を追加し、農地を開拓中だ。釣り堀もより安全になったので、利用者はこれまでよりも増えた。
「なんか大きな建物が増えたわね」
「結構頑張ったもん。それなりに見た目も変わりますよ~」
ハイネさんとブランママと一緒に冒険から帰ると、8階建ての高層住宅に帰っていく時間なのか、子供たちがビルの玄関に駆けこんでいく。
元村長、現町長の計画により、大幅な区画整理が行われ、その開発計画には私も加わっている。どういう建物を建てるかによって、人口密度や暮らしやすさも変わってくる。治安維持に割く人員も考えなければいけないし、今後も人口は増えていく。今の事と先の事を同時に考えながら、この街を育てていかなければならない。
急激に変化する街に良くついてきてくれているものだ。町長には感謝しなければならないと常々思う。お礼代わりに給湯ゴーレム付きのお風呂をプレゼントしたら恐縮されてしまった。あれで日々の疲れを癒してほしいものだ。
「一年も経っていないのに、これだけ急速に発展を遂げているとはな・・・急激な変化に住民が耐えているようにも見えないし、此処の者達は本当に優秀なのだな」
「色々と助けられてますから」
さて、周囲の状況が整った事もあり、我が婚約者殿も目出度くパーティインした。まぁ一人だけってわけが無いんだけどねぇ。
「左様ですな、ユリア様お一人だけではなく領主や騎士たちの努力もあるでしょう」
「誰も彼も表情が落ち着いているし、楽し気です。子供たちが元気な街は良い街と言いますからね。何よりの証拠です」
「これだけ安定した街はそうそう無いな・・・見本にして実家の者に学ばせたいほどだ」
当然ながら聖騎士の三人もご一緒。そして従者さんも。
「内政官として言わせていただくならば、この街一つではなく、領地全体で語るべきなのでしょうが、この街程、幸福度が高い街は無いですね」
「幸福度ってのは何だい?」
ブランママからすれば何のこっちゃだろう。
「幸せだと感じる人が多ければ高く、少なければ低い。数字で表す街のステータスのような物ですね」
「あぁ、なるほど。幸せの度合いなんて人それぞれ違うが、幸せだと感じる者が多いければ多いほど、物が溢れてるって考え方か。たしかにこの街はいろんなものが溢れてるからねぇ」
「・・・ブラン殿は本当に頭の回転が速いのですね。貴族でも中々居ませんよ」
従者ノールもびっくりだよ。ブランママは一般常識的な事や、学術的な知識は少ないけれど、魔物の知識や剣術に関しては研究者と言ってもいいくらいの知識量がある。
それらを使いこなす頭があるから、今日まで生き残ってこれたんだろう。
「剣を振り回してるとのんびり考えてたら死ぬからね。そうやって育ってきたから、自然とね」
「蛙の子は蛙という事ですね。ユリア殿が天才なのも納得です」
「それはあたしも同感だわ! アハハ!」
うーん恥ずかしい。そういうのは隠れて言って欲しい。
「本人としても自覚してきたのは最近ですけどね・・・昔は、周囲がどうしてわからないんだろうって、そんな事ばかりでした」
「・・・ユリアは今もそうなのか?」
レオンが心配げに語り掛けてきたが、そんな事は無いと頭を振った。
「そう思ってたのは、信頼出来てなかったからだと思う。お母さんに関して言えば、最初は魔法が使えたらなぁって思ってたけど、今は私より強い剣士で良かったって思ってるし信頼してる。家族の事もお母さんには敵わないし」
「そんなこと思ってたのかい? 馬鹿だねぇ」
「馬鹿だったねぇ」
アハハと二人で笑うとレオンも笑顔になってくれた。うん、やっぱり、段々と好きになってきている。私はこの人が笑顔なのが嬉しいと感じている。愛なのか恋なのか判らないけれど、体を重ねられる男性をそういう風に思うのはきっと良い事なんだろうな。
冒険者ギルドに到着すると、いつものように視線が集まる。此処のギルドも立て直して数倍は大きくなった。受付のお姉さんは結婚して引退してしまった。現在妊娠中らしい。先を越されたと町中で会った時に笑い合った。
「こちらの依頼達成により、B級冒険者試験の試験資格を得られました。受験をお望みになりますか?」
レオンたちはこれまでC級冒険者として活動していた。数年でC級になること自体が凄い事なのだが、この構成なら納得かな・・・。
レオンが近接戦闘と中間距離で叩ける指揮タイプ。
聖騎士三人が前衛と回復役を交互に行う盾役。
従者ノールが後方支援型の弓を使った遠距離攻撃タイプ。
凄まじくバランスが良い。おまけにこの街に引っ越してきた時に、全身ドラゴン装備に変更させたので、近接戦闘と魔法攻撃で死ぬようなことは無くなった。各部位を同じドラゴンから削り出したドラゴンボーン装備にすると、共鳴効果で闘気鎧並みの硬度が得られる上に、若干の闘気さえ扱えればブランママ級の闘気鎧を纏える。因みに私やブランママが同じ条件で使うと黄金闘士になる。
「ああ、ドレイク討伐に挑戦させてもらう」
レオンの言葉に周囲が騒然となる。
「マジかよ・・・」
「王子様が弱いなんて誰が言ったんだよ」
「スゲエな・・・」
「あれ、ドラゴンメイルだろう、突進を食らっても死なないんじゃないか」
「あの槍もドラゴンかぁ。金持ってんなぁ」
「美しい・・・」
最後のは何だろうか。全員男性なんですが。
ハイネさんはドラゴンレザーローブなので、ちょっと見た目が違う。私とブランママはお揃いの軽量鎧だ。体系がほぼ同じになって来たので揃えた。竜骨とオレイカルコスの合金製で、ブラウの意思が若干入っている。なのでブラウが仙気を纏うと鎧も少し青くなる。無くても硬いし、鎧が破損してもブラウの魔力で完全に修復するというチート性能なのです。
「試験期間はどうなさいますか?」
「明日から一か月間としておきたいが、問題ないか」
「問題御座いません。監督官として一名同行させますので、一週間前後お待ちいただけますか。人員を手配させていただきます」
「一週間後か、了解した。何かあれば、此処に連絡をくれ」
スッと出した紙には私の住所が書かれている。チラッと私を見るのを止めていただきたい! 羨まし気に見るのも止めて頂きたい!
「承知いたしました。人員到着次第、ご連絡させていただきます」
「よろしく頼む」
振り返ったレオンが真っ赤な顔の私を見て止まった。
「どうした?」
「ううん、ナンデモナイ」
ニヨニヨしながら出口に向かうと周囲から暖かい目線が刺さる。くぅ~! あのお姉さん覚えてろよ!
レオンが来たからって訳じゃないけれど、我が家の食生活は若干変わった。連れてきたメイドさんが一緒に台所さんに立つようになったし、お風呂掃除もいつの間にか終わるようになった。家の掃除も埃が溜まる事は無くなったし、毎朝白いパンが出るようになった。パン酵母が秘匿アイテムって知らなかったぜ。
お父さんは農奴から研究者にジョブチェンジした事で私の商会に就職し、その後、領主様にヘッドハンティングされ、城の研究棟で働くようになった。研究所長である。随分と出世したものである。
お母さんは家事をする事が減り、子供たちの鍛錬に時間を費やすようになった。サリーが闘気を扱えるようになり、気力と魔力の制御が出来るようになった。強制的に覚醒させたのがマズかったらしく、私は随分とサリーに嫌われた。悲しい。
弟たちはブラウやシャルルが相手をしている事が多い。ハイネさんも二人目を産んでから託児していく事がある。どうも(見た目的に)年下の子を世話する事が嬉しいらしく子供の世話も積極的だ。
お供の聖騎士さん達は私の鍛錬時間に合わせてくれることが多い。早朝と夕方の二回だ。仙気魔法の並列多重魔法の訓練や、闘気鎧全開の予定打ちなどで尻込みされてしまったが、これが出来ないと多分ドラゴン戦で死ぬ。
従者さんは内政の仕事でうろうろしている事が多い。魔術師ギルドの事を相談してみたが、様子見したほうが良いという事になった。あの洗脳領主さんも釈放され、今は私のトラップに引っ掛かった魔術師が定期的に捕らえられる位になった。ばら撒いた情報に釣られる者がこれだけ多いとは・・・。
洗脳魔法に反応して捕縛するゴーレムを空中に待機させているので、使ったその場の使用者か、領都ユリアに洗脳された人間が入ってきたら捕らえるように組み込んである。
ゴーレムに真実の瞳を仕込めるのは本当に便利だ。まぁ、視界共有できるんだから出来ない方がおかしいのかもしれない。
「はぅ・・・」
うむ。今日も勝利である。
代わったのは日常だけではない。夜の生活も変わった。
「すぅ・・・すぅ・・・」
我が家の最上階に二人の部屋を作り、毎晩そこで戦っている。妊娠する前にあの巨大樹に挑戦してみたいな・・・。そう思いながらレオンの汗ばんだ額から前髪をかき分けてあげると、大きな胸板に抱きついて今日も眠る。
翌朝、悔しそうに起きた彼は「また寝顔を見れなかった」と呟く。フッフッフ、まだまだ負けませんよ。バスローブを着て、エレベータに乗って一階の風呂場に着くと背中を流し合う。軽く愛し合ってお風呂を出ると、ゴーレムたちが髪を乾かしてくれる。
レオンは「売れるんじゃないか?」と商売っ気を出していたが、多分これらは北央騎士団の魔導師たちが作れるようになると思うと言うと、権利をくれと言い出した。作れるんなら良いよと、王家に売り払った。城の魔導師たちが無理難題を言われてなければ良いけれど。
メイドさんたちがパタパタと外から入ってくると、台所に急いで向かっていった。彼ら彼女らは広大な裏庭に作った別館で暮らしてもらっている。4階建ての小さなマンションだが、設備は全て私のゴーレムなので、その辺の宿より余程快適だ。
私も台所に立って色々作り始めると「おやめください」「どうぞリビングでお待ちください」と言われるが知ったこっちゃない。此処は我が家で私の台所。文句ある?と言うと黙るので、一緒に手伝ってもらった。
途中でブラウが毎回来るので手伝わせると嫌嫌手を出し始める。料理という概念がまだよく理解できないらしい。まぁ、ドラゴンだし、主食は魔力だし・・・味分かんないもんね。と言うと「少しは解ります」と反応された。ホントカナー。
ブラウの横でシャルルが台所の上をじっと見て観察している。魚や野菜が刻まれて調理されていくのが面白いらしい。火は敵を滅ぼすもので、敵を痛めつけるものじゃないと熱弁されたが、そうか、そう言う解釈もあるのかと感心した。流石、レッドドラゴン。
続いてブランとサリーが現れ、台所が大勢になる。リビングより騒がしい台所は朝の市場並みにうるさい。これだけ多いと指示を出すのも大変で、ブラウとメイドとサリーがあっち行ったりこっち行ったりと忙しい。
私は鍋と焼き物の指示を、ブランママはそれ以外の指示をする。もう昔からの分担なので手慣れたものだ。こっちは4歳からやってるんだから年季が違う。そう言うとレオンが驚いていた。「4歳から料理をしていたのか」と。
いや、サリーの世話とか家の掃除とか魔法の練習を兼ねて色々とやってたと言うと、従者さんに特に感心された。普通の貴族家の子女はそんな事やらんらしい。私は農奴の娘ですから。
昔の家の構造と台所事情を教えると、小屋か? とレオンに不思議がられた。端的に言うと台所で寝て台所で飯食って外で用を足して風呂に入るんだよ、というブランの言が衝撃的だったらしい。
じゃあどうやってこの屋敷を立てたのかと言うと、私の土魔法の努力の結果だという話になった。従者さんは否定していたが、事実なのだからしょうがない。証拠にテーブルの上にミスリルとオリハルコンを使った合金で、ガラスのように透き通った小さい羽妖精を作り躍らせると固まっていた。
小さい頃からこんなことをして遊んでいたというと、従者ノールに普通じゃないという烙印を押されました。知っとるわ! 誰もやり方を知らなかったからね!
パタパタと飛ぶ妖精をシャルルの頭に留らせると、仙気を纏ってクシャリと砕いてしまった。魔力に戻ったゴーレムは光の粒となって消えていく。消えた手の中をグーパーしているが、無い物は無いのだ。
食べたら片付けを任せて早朝訓練を開始する。大体一時間かけてやるので、終わる頃には半数がヘバッて倒れている。最後に立っているのは大体ブランママと私だけだ。
訓練が終わるとサリーとシルバを学校に送り出し、私は商会の仕事と倉庫の作業を始める。横でシャルルが竜船の操作練習を行い、内部でブラウが指導をしている。ああして見ると完全に妹だなぁ。
必要分だけ作ってゴーレムで配達し、新しいゴーレムの開発とマジックバッグの開発を始める。自動車のような引馬の居ない車両や、重力操作でタイヤを不要にした馬車などを作り、遊びに来たハイネさんにコメントを貰う。
大抵が「凄いけど問題になる事が多すぎる」という内容なので、地下倉庫にエレベーターで搬入してお蔵入りになるオチが多い。この地下倉庫、既に20層近くある大倉庫と化しているんだが、問題無いだろうか?
余った時間で空間魔法の研究を行う。これは既存の魔法で実現可能かという研究で、元素魔法のレベル上げとは別問題だ。あっちは朝夕やってるし。
倉庫に引きこもっているときは適当に昼食を取り、そのまま夕方の訓練まで作業を続ける。終わる頃には倉庫内は私の魔力で充満しているので、その内、魔物とか湧きそうで若干心配だ。多分だけど大森林の瘴気より濃いぞ。毒は無いけど。
倉庫に居ない時は大抵ジュリーのアトリエのところに居る。一緒に新しい錬金術を考えたり、私の金属精錬の錬金術でやってみたり、まぁ色々だ。
それ以外は領主様から呼び出されたり、商業ギルドから呼び出されたり、そん、町長から呼び出されたり、老神官さんの所でお茶したり・・・基本的にレオンから放置されている。
別に飽きられている訳じゃなく、私の生活を崩さないように我慢しているらしい。別にいいよと言ってついて来たことがあったのだが、老神官ですら緊張してしまって、何処に行っても話がまとまらなかったので、やはり遠慮してもらった。
夕方の訓練を始めていると次第に人が集まり、ハイネさんも参加する。朝は自分でやってるらしい。別に低血圧を疑っている訳じゃない。
やっぱり闘気鎧全開の予定打ちに敗北し、汗だくになりながら風呂に入る。後は飯食ってサリーとシルバの学校話を聞いてベッドインだ。
そんな毎日が今はとても愛おしいです。




