035
冒険者ギルドと商業ギルドに素材を卸売に行くと、王都からニュースが届いていた。
どうやら正式に王太子様の婚約者発表があったらしく、来年の秋に王都で式を挙げるらしい。
「おめでとうございます。殿下と正式にご婚約をされたとか。しかもこの街に北央騎士団の分隊が設立されるそうで、領主様が昇爵されて男爵になられるそうです。そのまま分隊長就任という話ですから、いやはや、これで我らがご領主様も周囲に憚れる事無く貴族家の威光を示される事でしょうな!」
「おめでとうございます! ついに殿下と婚約ですか! で、どうなんです? もうやちゃったんですか? キスだけじゃないですよね! 成人したのですから我慢する事なんてなにもぶふぇ!?」
それぞれ、商業ギルド支部長と、冒険者ギルドのおねえさんでした。
私は正直に言って、そのニュースを甘く見ていた。国内に私が婚約者であり、領都ユリアの名前のもとになった事、特A冒険者である事、ドラゴンスレイヤーである事、今もこの町に住んでいる事が知れ渡ると、今まで以上に、いや、その数十倍もの貴族が大量に押し寄せてきたのである。
貴族は道を通るだけで金を落とす生き物なので、当然ながらこの町周辺の経済も活性化され、復興したばかりの周辺の村々も恩恵にあずかった。近隣の村に我先にと貴族家の別宅が建てられたり、その家に数十人の使用人が住み着き始めたり、領都ユリアにも貴族の子弟が住み始めるなど、彼らが居るだけで街の雰囲気が変わってしまった。
「また、不敬罪でゴーレムに八つ当たりですか。 これで今月何人の貴族が牢獄行きになったと思ってるんですか・・・世の中の貴族って殆どがアホなんですか? ジュリーみたいに優秀な貴族ばかりじゃないんですか?」
領主の館で紅茶を頂きつつ、今や親友となった領主の娘で錬金術師のジュリアンヌに愚痴を溢していた。何かある度に衛兵に呼び出され、ゴーレムに取り押さえられた貴族が顔を出した私に暴言を吐き、王太子殿下の「ユリアに無礼を働いたものは投獄」ルールが適用される。
今やこの街の牢獄は貴族の別荘地になりつつある。全て未来の旦那様の沙汰待ちなので、我が家には子供の開放を求める貴族が連日来ていて鬱陶しい事この上ない。
「まぁ・・・世の中が注目するときは、良い人間も悪い人間も集まると言いますし・・・現に、お仕事を手伝ってくれる人も増えたのでしょう?」
「そうなんですけれどぉ・・・」
人口はあり得ない程に増えた。現在1万5千人を突破している。
・王都が20万人。
・四方守護役の都市が10万人。
・地方の大都市が5万人。
・辺境の町の平均が3000人。
こう考えると、この街の人口の多さが際立つという物だ。
外の工事音を遠くに聞きながら、紅茶を一口含む。うまし。
「お陰様で騎士団の創設もされるし、我が家もお城を建ててもらえる。私としては良い事ですけれどね?」
「そうですね・・・私の家も5階建てになりますし。これで遠慮なく増築できるという物です」
「ふふふ」
だって王太子殿下が実家に住むって言うんだぜ!? 今みたいな小さい客室じゃ、狭い思いをさせちゃうでしょ!
という訳で、現在我が家は一家揃って、ハイネさんの家に移住している。私は昼夜問わず実家の敷地で作業をしつつ寝ているので、ハイネさんの家には泊まっていない。
ハイネさんは現在妊娠が発覚してお腹が大きいので冒険は暫くブランママとブラウで行っている。主に植物採取と新しい魔物の素材が目的なのだが、同時建造している竜船2号機を作る為に場所を確保したかったというのもある。
ファイアドラゴンの竜核はアースドラゴンよりは小さいが、やはりステータス上は真竜となっていた。これまた同様に予め作っておいた竜船のパーツを組み上げて、翼膜を取り付けると、同じように自我が復活・・・・・はしなかった。
◇◇
「どういうこった・・・?」
同じ工法でファイアドラゴンの骨と翼膜を使い、同じパーツを作って同様の現象が起きるか確認中だ。帰って来たブラウが偶にファイアドラゴンの竜核を気にしているので、何をしているのか聞いてみた。
「主、まだ眠ってる」
らしい。つまり中に居るって事だ。次も大人しい子でありますように。家の第二次改築を地下と地上二階まで終えたところで家族を呼び戻す。
「やぁだぁ、ハイネおねえちゃんと一緒が良いぃ~」
次男のモルトがグズッておる。まだ5歳だからねと思ったが、私が5歳の時には既に気力制御を覚えていたなと、少し懐かしくなった。
「な~に黄昏てんのさ? モルトを連れてお出で~」
ブランママがアドを抱きかかえながらハイネ家から出てきた。
「いや、私が5歳の時って、なんか無茶してたな~って思ってさ」
「・・・・・・・・・・・・・・え? 変わって無くないか?」
そっすね。全く反論できない。
モルトの顔面を胸に沈めるように抱きかかえ、両足を脇に挟めさせる。
「じゃあ、ありがとねハイネさん。助かったよ」
「賑やかで面白かったわよ。あ、女の子が産まれたら、サリーかあんたの産着貸してよね」
「私のはボロボロだったから捨ててたような・・・サリーのがあったら貸すよ~」
またね、と扉を閉めて、建築途中の我が家に戻ると、ブラウが何処かの貴族と立ち話をしていた。また、解放してくれって話かな。
敷地の入り口にある門でゴーレムに捕らえられながら頼み込む貴族は、途中から怒り狂いだしたのでブラウに預けた催眠スプレーで大人しくなってもらっていた。錬金術最高ですね。
◇◇
翌日以降も、領主の城建設と騎士団宿舎と鍛錬場を併設、私の実家の増築、竜船2号機の製造と忙しく、更には教会の建て替えなどで、一時的に老神官が例の愛人と子供さんを連れてハイネさんの家に来ていた。あれ、良いのか? 良いか。
「お邪魔しま~す。はい、モルト。ご挨拶は?」
「おじゃまします! モルト! 5さいでしゅ!」
老神官一家とハイネさん一家にご挨拶出来ました。えらいでしゅねぇ。可愛すぎる。
その老神官の愛人だが、なんと30歳。50歳差である。12年前に息子と縁を切ったというので、当時68歳と18歳である。犯罪臭がやべぇ! いや、愛に年齢など関係ないと言い換えておこう。
「イリミアです。よろしくおねがいします」
イリミアと名乗った老神官の娘さんは、どことなくハイネさんに似ている。その横には優し気な老神官の奥様。
「妻の、エリーじゃ。難聴での。手信号で意思疎通できるように一家で覚えておるから、冒険者流のやり方でも構わんぞい」
あ・・・うん。なんか誤解してたかも。この老神官、とんでもない聖人かもしれん。
エリーさんは笑顔だった。娘のイリミアさんも笑顔だ。作り笑いではない、毎日を幸せに暮らしていないと出て来ない笑顔を見せていた。
元騎士団長の老神官は、現在の教会を娘のイリミアさん(12)に任せ、近い内に引退する予定だという。加齢とともにスキルレベルは下がり、能力も衰えていっている中では回復魔法の行使もままならない。せめて自分が生きている間にイリミアを立派な聖騎士にしてみせると意気込んでいた。
そこはシスターじゃないのかな・・・。
実際のところイリミアさんは優秀だ。気力魔力共に制御可能で剣術と魔法のスキル持ちな上に回復魔法も操れる。簡単に言うと勇者ステだ。万能型ってやつですね。
イリミアさんに得意だという水魔法の訓練方法を教えてハイネさんの息子をウォータースライムで遊ばせていると、どこぞの貴族が門で叫び始めた。
「ん? ハイネさんも貴族をぶっ飛ばしてきたの?」
「ちっがうわよ! あんたのゴーレムと一緒にしない! 大方、家を間違えたんじゃないかしら」
何と間抜けな・・・仕方ないのでモンドさんと老神官が相手になりに行った。
それが行けなかった。
「グァ!?」
今のはモンドさん・・・? 気配察知と高速反応を併用して状況を確認すると、モンドさんが貴族の連れていた槍兵によって腹部を刺されていた。
風獣、土魔、水精霊、いけ!!!
門の周辺を遠隔で壁で覆いつつ。槍兵とモンドさんの間を金属精錬で作り出した幅広の剣で遮る。槍を切断し、水精霊に怪我を回復させて土間に捕らえさせ、風獣で付近を詳細に探らせる。
土魔は貴族と槍兵の状態を確認したが操られているような魔力の糸は無い。ハイネさんの息子を母親の胸に戻し、ゆっくりと玄関を開いて確認しに行く。
周囲にはなにも居ない。何だ? 何が狙いだ?
モンドさんは老神官の回復魔法で完治していたので、既に立ち上がっている。
肩に手を置いて安心させると、貴族と槍兵の状態を確認した。
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グッドマン=コーネル=ヨルデリーヒ(41歳)
種族:素人
レベル:19
HP:1020
MP:220
状態:洗脳(魔法)
スキル:剣術LV3、火魔法LV2、魔力制御LV1、精神耐性LV4、話術LV3、フリキア言語LV8
称号:騎士爵
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うん・・・洗脳状態にありますね。
下手な事される前に快癒の水で解除・・・と。
「状態異常か?」
眉間に皺を寄せる老神官が察しつつ質問してきた。
「うん、洗脳されてたみたい。自害される前に解除しておいた」
後は黒幕は誰かなという話なんだけど。ハイネさんを襲わせてこの貴族を悪役に仕立てる事で、誰が得をするんだろう。これ、多分だけど王太子案件だよね。
「この方はヨルデリーヒ騎士爵ですが、普段はどういう方かご存じですか?」
「いや、俺は知らないが・・・」
「ヨルデリーヒ家・・・あそこは先々代から知っておるが、こんなことをするような性格でもないし、しなければならない程、家の事情も苦しくは無い筈じゃ」
「そうですか・・・同じ辺境に住まう者同士ですから、領主様の家で見覚えはあったのですが、その時も特にすれ違った程度なのですけどね」
誰に洗脳されていたのか、どうやって洗脳していたのかという話になり、ハイネとブランも交えて、一旦領主様と相談する事になった。
その建設中の領主様の屋敷にて。
「申し訳ない事をしたっ、洗脳されていた事とは言え、危うく取り返しのつかない事をっ」
ハイネさんに対して土下座中のヨルデリーヒ卿(41)である。
「まぁ・・・助かったのですから、そこはユリアとお爺様に感謝していますが、あなたが謝るのとは少し違います。貴方も被害者のような物なのですから、調査に協力して頂けると助かります」
現在、被疑者として挙がっているのはヨルデリーヒ卿の奥様と、知り合いの魔導師だという。そもそも洗脳というのは薬品を使う場合は縛り付けて無理矢理飲ませて、数時間は真面に行動も出来ないというし、その間は本人も覚えている事が多いらしい。あとは闇魔法による洗脳魔法の行使か。
この辺りの知識は老神官が過去の事件などを経験していたために助けられた。
「では、動機は何故なのかというところですが、ハイネさんの家族を攻撃しろ、という命令だった場合、恐らく失敗しますよね。ハイネさんは私が預けた回復手段を持っていますし、A級冒険者ならそれ以外にも対処手段がある。槍兵の方もハイネさんに殺されていた可能性が高い。そうなるとハイネさんに反撃を受けて、ヨルデリーヒ卿を始末しようとしたか、もしくは王太子案件にからめて不利な立場に陥れたかったという目的が推察されます」
そうなると、段々と見えてくるものがある。
「では犯人はヨルデリーヒ卿を排除して利益を得られる人間という事になりますね。どなたかそのような人物であり、闇魔法を扱える方はご存じありませんか」
41歳男性が暫し黙考した後で、それは苦しそうに答えを導き出した。
「・・・・・妻が、昨今のマインズオール領の発展に嫉妬して、実家の権力を使って同じように富を得られないか画策していた。私にもアレコレと領内の施策に口を出すようになった。そのあたりから、怪しい魔法使いが目撃されている。その魔法使いは魔術師ギルドの人間だ。野良の魔導師ではない」
あぁ~・・・ついに魔術師ギルドが出てきましたか。多分、ドラゴン素材かな。錬金協会から外れた錬金術師も多く所属していると言うし、そういう事だろう。
「最終目的はドラゴン素材を魔術師ギルドが手に入れる事・・・ですかね。私を相手取る上で有利な立場になるように、刺客を放ったつもりだったのかな? 12歳でドラゴンを狩ったと聞いても信じないでしょうし、ハイネさんが倒したと思っている可能性が高いです」
そして、不意打ちであれば倒せるだろうという事かな。
「いや、そうなると奥方殿も騙されている可能性があるのう。何者かが貴族を洗脳し、ハイネリアの家を襲わせた、魔術師ギルドの者が洗脳されている事を見破り、手柄を立て、その手柄を恩着せがましくユリアちゃんとハイネリアに向けて、素材を欲する。というのはどうじゃ」
「あぁ~・・・そっちの方が有り得そうですね。分かりました、その怪しい魔導師というのを調べてみますね」
「どうするつもりじゃ」
「北の大森林を調査するよりも遥かに楽ですので」
そう、笑顔で断言すると、上空を漂うゴーレムたちに命令し、北の大森林側からヨルデリーヒ領に移動させていった。
「なんちゅう魔力じゃ・・・部屋に充満しておるぞ」
「ちょっと大量に動かしているので、集中させてください」
まるで私の匂いが充満してるみたいな言い方は止めて!隣領だけど距離はそれなりにある。途中経路と隣領の領都、そして町と村に存在するあらゆる魔術師ギルドにチェック。よし。
30分ほど魔力でモワモワしているとターゲットを見つけた。
「特徴通りの魔術師の男を見つけました。ヨルデリーヒ領都の魔術師ギルドに居ますね。寝ているところを捕らえても宜しいですか?」
私のすぐ傍に風獣を召喚して待機させる。隣領の領主様は睨みつけるように頷いてくれた。
「やってくれっ・・・!」
「いけっ」
開け放たれた窓から風獣が走り出すと、空に消えて一瞬で見えなくなった。
数分後、男の止まっている宿の壁を破壊しながら風獣が捕らえて風の魔法で昏睡状態になるまで眠らせる。
そのまま数分もすると私の所に戻って来た。
「はい、おかえり。ん~、いいこいいこ」
ベシャッと男を放り投げ、私が顎の下を撫でてあげるとグルルルと言いながら喜ばせつつ送還。さて、聞き取り調査開始ですね。
「手っ取り早く聞くのと、皆さんにお任せするの、どちらが良いですか?」
「頼んでも良いかの?」
「おまかせあれ~」
闇魔法LV10発動!!! その中から意志薄弱な状態にさせ、質問に答えやすくする状態に精神を操作する魔法を選択。この状態で気付けの一発・・・。
「ヨルデリーヒ卿。一発どうぞ」
「?・・・・ああ。助かる」
拳を握って見せると把握してくれた。助かる。ゴッ、と痛そうな音を立てて、呻きながら男が目覚めた。
その後は簡単だ。聞いた内容から出るわ出るわ欲望塗れの嘘塗れ。ヨルデリーヒ夫妻はまんまと騙されており、夫人の実家の子爵家も騙されていたらしい。
真相は老神官の予測通りで、穴だらけの計画を立てて私が善意で素材を渡すようにする形になるよう、状況を進めていたという事だ。
あぁ・・・なるほど、これは喧嘩を売られていますね? 私、全力で喧嘩を売られていますよね? 良いでしょう。そういう手で来るのなら、こちらにも考えがあります。前々から考えていましたが、魔術師ギルド側にご迷惑になるだろうと思って控えていたのですが、これで遠慮する必要はなくなりました。感謝しないといけませんね? ウフフフフフフフフフフフフフ。
そっちがその気なら全力でやってやるぜ畜生めえええええ!
「・・・落ち着きなさいユリア、仙気で威嚇しないで」
ハイネさんに怒られてしまった。そうだ、落ち着け私。ただ経済戦争を仕掛けるだけじゃないか。ここで仙気を出しても何も意味が無い。
「・・・・・ふぅ~・・・そもそも、魔術師ギルドって何をしてるところなの?」
「魔力の利用法の研究じゃな。通常の魔法の習得方法。魔法陣の利用法。魔力を宿した素材の利用法。魔力と名の付くものなら何でも研究していて、発見できればそれで良い。そう言う理念の集団と思っておった方が良い。善意の集団ではあるまいよ」
魔法バカの集団って事か。気が合いそうだわ~。
「有難うございます。碌な集団じゃないのは良く分かりました。自分本位で威嚇して、利益を得る為なら手段を問わない。彼らの利益とは新たな発見と言ったところですか」
「そうね、此処数十年は何の役にも立っていないけれど、犠牲者は定期的に発見されるわね。尻尾を掴まれる事は殆ど無いし、捕まえても捨て駒だから魔術師ギルドは追及されない結果ばかりだって聞くけどね」
北央騎士団を始めとした領都の騎士は警察の役回りも担うので、実家が実家なだけにハイネさんも神官のお爺ちゃんもその辺りは大変詳しいそうな。
「つまり、隠し事が上手で尚且つ動物的本能で動く獣のようなものですね?」
「そうとも言うのう。そんな連中じゃが、ギルドとして家庭教師のような役割が重要視されておってな、金さえ払えば優秀な魔法使いを我が子に着けられる。そう考える貴族が多くての、魔法と一緒に詰まらん差別意識を覚える子弟が多いのなんの。役に立つ以上に世間に毒を振り撒いておるよ」
魔法を使わない洗脳もお好きなんですかね。でもそれが資金源ってとこか。
「ではエサで釣って方針転換させましょうか。私、これでも釣りは得意なんですよ」
両手で竿を振り上げるジェスチャーをすると、意図が解らないという顔でハイネさんが首を傾げ、老神官はニヤリと何やら楽しそうな顔をした。うちの領主様は釣竿を持ち上げる動作をしながら首を傾げている。何この人可愛い。
◇◇
後日、私はある情報をばら撒いた。元素魔法と空間魔法の関係性についてだ。
元素魔法とはそもそも世界の物理法則を利用して結果を捻じ曲げる魔法である。
対して空間魔法とは物理法則に沿って動いたりしない、理外の魔法だと思っている。
であるならば、この二つは同質か近似の魔法であると考えられる為、空間魔法とは元素魔法の上位スキルである可能性が高い。
「という訳で、それっぽいものを作ってみました」
「なにこれ? 竈?」
「はい。竈です。ただハイネさんが知っている竈と違ってちょっと特殊ですね」
「・・・なんか危険な感じがするんだけど? あんたが流した情報と関係あるの?」
「さぁ・・・何の事でしょうね」
試作したのは金属の箱でオーブンのような窓が付いている。内部は常に高温で物体を中に入れると面白い事になる。
「これを入れてみてください」
「ミスリルの延べ棒・・・?」
「ぽいっとして、さぁどうぞ!」
言われるがままに取っ手を掴み、釜を開けてみるが、内部は赤くなっているのに熱くない。不審に思ったハイネさんが延べ棒を投げ入れて釜の蓋を閉めた。
「どうなるの?」
「まぁ、ガラス窓から見て下さい」
首を傾げながら内部を見たハイネさんは驚愕していた。
「小さく・・・なってる?」
「はい。この中はマジックバッグと同様の事が起きているのです」
「何で?」
内部の延べ棒は熱の影響を受けずに、直径1センチ長さ10センチ程度の延べ棒が半分以下に小さくなっているだけだった。
「これは元素魔法の炎熱結界。前々から疑問だったんですよ。金属の塊のゴーレムを熔かして、結界で押しつぶすと、結界の中では潰す前よりも小さくなることが多い。でも、結界を解除すると元の体積に戻る。ね? これってマジックバッグでしょう?」
「・・・」
あんぐりと口を開けたハイネさんは釜の内部と私の顔を何度も見比べて、何と言って良いか分からずに言葉を探していた。
「上位魔法が空間魔法である可能性は高いです。そして、違うというのであれば、結界魔法は空間魔法の一部である可能性が出てくる。さてハイネさん・・・」
「な、なに?」
「この情報、彼らは一体いくらで買ってくれるのでしょうね?」
「あっ・・・」
さぁ、エサは見せたぞ。とっとと食らいつけ魔術師ギルド。
実用化出来れば、この世界の物流は大幅に変わる。もう馬車なんていらない時代になる。個人で馬を乗り回し、腰に鞄を掛けているだけで大量輸送が可能になる。
これにどれだけの価値があるかなんて、洗脳大好き魔術師集団なら表と裏の両方で飛び掛かってくるはずだ。商人ギルドも食らいつきかねない話だが、彼らは情報を手に入れたところで、自力での開発は出来ない。何より元素魔法の話なんて魔法使いでないと理解できない部分が多い。魔法使いだからこそ利益の出る情報だ。
「いっぱい釣れると良いですね?」
「はぁ・・・ちゃんと対策してあるんだろうね?」
「当然。伊達に毎日魔法の研究はしていませんよ」
私のはゴーレム中心だけどね。釜形ゴーレムの魔法を解除して、ただの箱に戻すと内部の延べ棒は元のサイズに戻った。それをハイネさんにあげると、竜船のほうからブラウが走って来た。
「主、起きそう!」
「了解! すぐ行く!」
「あ、おい?」
「それはあげま~す! 実験の協力費ってことでー!」
◇◇
家の裏口から飛び出して隣の敷地に向かうと、内部で完成させた竜船2号機が動き出していた。
「おおっと早いね!」
「暴れてる」
ブラウの時はもっとすごかったけどね! まるでこの倉庫が子宮のような気がして来たよ。二人目が産まれそうだ。
急いで操縦席に辿り着き、竜核に仙気を纏わせると念話が響いて来た。
(暗い・・・狭い・・・聞こえない・・・戒め・・・解けない・・・)
「目が覚めた?」
(声・・・その声・・・痛い時の・・・痛い・・・嫌だ・・・死・・・・)
めっちゃ怖がられてますやん。
「もう痛くないよ。大丈夫だから。目を覚まして良いの」
(もういい・・・? ・・・懐かしい・・・我の・・・我が・・・起きる)
「そうだよ、思い出した?」
(忘れていた・・・自我が・・・無くなって・・・寂しい・・・暗い・・・嫌だ・・・)
「もうあなただけじゃないよ。だから名前を教えて。名前を呼ばせて」
(名前・・・シャルルゴール・メネ)
ブラウがピクリと反応した、知り合いかな。
「シャルルゴール・メネ。貴方を自由にしてあげる。だから少し待っていて」
(名前・・・名前・・・)
「私はユリアネージュ」
(ユリア・・・ネージュ・・・)
前回同様、ヤスリで少し削り、作成してあったオレイカルコス合金の体に含ませる。
竜核と合金体の間に魔力のパスが出来上がると、合金の体が縮んでいく。150センチ程度の身長から140,130,120と縮んでいく。
「ちょ、ちょ、ちょっと?」
「主、シャルルゴールは若い。人間で言うと、5歳くらい。だから縮んだ」
「そういう事ね。年相応に変化したと・・・」
「そう」
長かった髪の毛も縮んで、小さな女の子がそこに座っていた。
「ふぃ・・・」
「ふぃ?」
「・・・・・・」
じっと見つめらた。私とブラウと自分の竜核を見て、もう一度私を見る。
両手をにぎにぎしながら自分の体を隅々まで見て、全身を仙気で覆う。齧る。舐める。こする。叩く。嗅ぐ。
一通りの確認が終わったのか、私を凝視して、私が見に纏う仙気に鼻先を近づけて匂いを嗅いだ。
「すぅ~・・・はぁ、すぅ~・・・はぁ」
「ブラウ、この子は一体何を・・・?」
「仙気は個体によって匂いが違う。主の匂いは竜核の中からでも感じていた。だから確認している最中」
ほぉぉぉぉ。そういうものなんだ、初めて知ったわ。
「すぅ・・・主?」
「そう、シャルルの主。ブラウの主。主はユリア」
「主。ゆりあ。主。ゆりあ。」
あれ・・・この子、自我が戻っても変化が無いんだけど・・・元からこんな感じなのかしら。
椅子から降りたシャルルは全裸でたどたどしく歩いて、私の足にしがみ付く。上ってこようとするので脇に手を入れて持ち上げて抱っこすると、そのまま胸に顔を埋めて眠ってしまった。
「すぅ・・・すぅ・・・」
「ブラウ・・・この子ってレベル上げてもこのままかな・・・」
「多分・・・いや、上げれば変わる筈。我も少し変わった。自我がハッキリした」
「そうか・・・ちょっと森に行ってくるね」
「わかった。船は?」
ああ、シャルルの練習用か。あー・・・どうしよう。船の操作の前にシャルルの自我形成と教育の方が先な気がする。
「まだ良いわ」
「了解、気を付けて」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
そして、その日の内に全裸幼女を抱えてレベル上げに行ってきた。風獣で中層に移動し、ドレイクの巣に向かって竜魔法一発。一掃した。
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シャルルゴール・メネ(0歳)
種族:竜機人
レベル:127
HP:1209534
MP:2381149
状態:通常
スキル:竜魔法LV10、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV10、並列制御LV10、闘気制御LV10、無限再生、MP吸収、不滅の肉体、フリキア言語LV6
称号:真竜人
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我が家に帰るとブランママが夕飯の用意をしていた。
「ただいま~。お母さん、ブラウの姉妹が増えた。」
「おか・・・ミニユーリが増えたか」
ちっちゃい私だけど! レベル上げたのに8歳児くらいだけど!
「主、少し成長したみたいだ。目がハッキリしているし、仙気も落ち着いている」
「そうね。言葉もハッキリしてきたわ。ちょっと興味津々なとこが強いけどっ、こらっ、暴れないっ、のっ」
「ブラウ! いっぱいバーンてしてきた!」
「そうか、主にありがとうと言ったか?」
「ありがとう? わからない。何だそれ」
「お礼、というものだ。覚えておくとイイ」
シャルルが眼をパチパチさせて抱っこしてる私を見つめて来た。
「・・・主、ありがとう」
「どういたしまして。また行こうね」
「またいく」
ブラウにシャルルを任せて家族に紹介すると、サリーと仲良くなった。同じくらいの背丈だからなのか、シャルルは仙気を纏い、サリーは闘気を纏ってじゃれあっている。
ブラウがサリーに怪我をさせないように気を使っているのを見ると、お姉ちゃんになったなぁと感慨深くなった。
「ふっ・・・まさかドラゴンで子育て体験するとは・・・」
「あんたは4歳から子育てしてるじゃないか」
「そうでした」
サリーの下の世話をして、サリーを背負って家事をして、サリーをお風呂に入れて、サリーにご飯を食べさせて・・・。あれ、下の子全員に同じことしてないか私。
下手するとブランママ以上にやっている可能性もある。まぁ、ブランママはオッパイ上げる時が一番重要だし・・・。
晩御飯を食べたら睡魔が襲ってきた。
「ふぁぁ・・・今日は疲れたし先に寝ます・・・」
「お休みユーリ」
「ふぉやすみぃ」
シャルルを回収してブラウと一緒に寝る。私達はいつも同じベッドで寝る。何があるか分からない体だからね。
「あー・・・レオンが来たら別々で寝ないとダメなのか」
「主、一緒に寝られなくなるのか」
「主、いっしょにねないのか」
ブラウはもう一人で良くないか?
「ん~、あれだね・・・私も人間の女だから、子作りしないと・・・結婚する人と、夜は子作りしないとダメなの」
「そうか、ならシャルルは私が見ていよう」
「お願いしていい?」
「了解だ、主」
「うん・・・ありがと」
その日はやたらとブラウが抱き着いて来た。思った以上にブラウに愛されてて少し驚いた。




