032
あれからブラウを我が家に招いて、一緒に戦闘訓練したり、一緒に料理して見たり、一緒に洗濯して見たり、一緒に仕事して見たり、一緒に子供たちの世話をしてみたり、一緒に買い物に行ってみたり、一緒にギルドで注目されてみたり、一緒にお風呂に入って見たり、一緒に布団で寝てみたり、何をするにしても一緒に行動した。
「主、これが人間という物なのか?」
「そう、私達人間はこうやって生きてる。だからそれを壊そうとすると、大切なものを壊されたくない人間は怒る。守ろうとして育てようとすると、大切なものを共有出来て嬉しくなる。大切なものが亡くなってしまうと、一緒に悲しむ。大切な人が楽しいと、一緒に楽しくなれる。それが人間だよ」
「人間とは・・・面白いものなのだな」
膝の上に乗せたアドを見下ろしながら、私の話を耳にしたブラウは答えた。
2歳のアドに髪を掴まれたり、胸をパンパンされたり、口の中に手を入れてきたりするのを黙って受け入れているブラウ。
因みに仙気を使っていない時は普通に、私と同じように柔らかい体をしている。お風呂で自分より幼い自分を見て、何だかなぁと思った。
ブラウも自分の姿を鏡で見た時に「主が二人になった」と驚いていた。それは鏡だよと教えてあげると、私の体を触ったり、自分の体を触ったりして、色々研究し始めたものだ。
身長150センチ程度なので、今の私よりも若干小さい彼女の事を、この数か月の間で追い越してしまった。
「主は大きくなれるのだな」
「ブラウの体はオレイカルコスと骨だから。ゴーレムに近いせいで成長できないかもしれない」
レベルが上がったら分からんけど。
「主のような胸にはならないのか。それは柔らかくて面白い」
「・・・・・」
絶賛成長中の私は身長160を超え、胸は85を突破した。ママンは180の98なので、多分家出した頃のママンは今の私と変わらないくらいだと思う。面白いとか言ってるブラウも80はあるんですけどねぇ・・・。それで満足してもらえませんかねぇ・・・。
「確かに大きくなったねぇ、ユーリ」
「お母さんほどじゃないよ」
胸に視線を向けながら。
「胸の話じゃなくて身長だよ。格闘戦でも間合いが伸びてきてるじゃないか」
「もうちょっと伸びたいな」
「あと数年すれば伸び切るだろ、あたしもそうだった」
◇◇
ブラウの事は家族みんなが普通に受け入れてくれた。ブランママが反対していたら難しかったかもしれないが、ブラウが子供を大事に扱ってくれている事が、受け入れてくれた要因かな。
「主、お湯が沸いている」
「おっとぉ!?」
ピー!と湯気を上げているケトルを竈から外すと用意しておいたポットに流し込む。
カップに入れて放置。茶葉を二杯・・・三杯と。ガラスのポットに茶葉とお湯を入れて、フワフワと葉っぱが踊るのを見つつ、カップのお湯を捨てて、煮だしが終わった茶葉を救出。カップに注いで出来上がりと。
「はい、お待ちどうさま」
「ありがとう」
ブラウが礼を口にした。思わずニヤリとした。
「・・・どういたしまして」
これまで、お礼を言った事がないブラウがお礼を口にした。
ありがとうとは何だ、と聞いてきてから数か月が経ったが、これは意外と嬉しいものだなと、紅茶を飲みながら一人ほくそ笑んだ。
◇◇
建造の終わった竜船はドックと飛行発着場を作って、今もメンテナンス中だ。船を飛ばさないのは何故なのか、と言われても・・・飛ばせないのだ。
「む・・・感覚がおかしい。羽根が動かせないのがこんなに辛いとは」
「羽根で飛ぶのではなくて、浮かぶことを重点に置いて。浮かんだら別の物で前に進んだり、横と前後に動くの。あんまり自分の体のように考えたら、余計にやり辛いよ」
「わかった、やってみる」
操縦席に在るのは私、ブラウ、そして竜核。結局のところ、ブラウにとっては竜機人の体も、竜船もどちらも自分という認識だった。その為、竜機人の体になじんでしまった彼女にとっては、元の竜船の方が動かしづらいという話だ。
元から「楔が・・・」とか言ってたので、最初から動かしづらかったと言った方が良いかもしれない。私が動かす事も出来るのだが、普段から数千体のゴーレムと繋がっている私と、ゴーレム初心者な彼女では練度が違う。操作感も大分違うだろう。
「浮いて・・・前後左右・・・そして加速!」
グラリと前に傾いて操縦席が地面とキスをした。
ゴォォォン!!と倉庫内に轟音が響く。
操縦席などに使われているガラス窓は、ブラウの骨粉を混ぜ込んだ曲がりやすく傷つき難く傷が勝手に直る不思議ガラスだ。バードストライクも安全だが、見た目はあまり考えたくない結果になるだろう。
「と、まぁ・・・姿勢を保てないとこうなるよ」
「むぅ・・・わかった」
前に進まないようにしてるとはいえ、姿勢制御までは自分でやる必要がある。そうなるように一本の安全ロープで繋いでいるだけだから。
「どれだけ繰り返しても壊れたりしないから、諦めるまでやってみなさい」
「ん、わかった」
私だけ竜船を降り、仕事に戻ると、再度叩きつけの音が聞こえてきた。やってるねぇ。
これから作る物は竜船の補助物品だ。アームだったり、ゴーレムだったり、武装だったり。これから大森林の中央に行こうとしているんだから、これくらいは用意しないと。
そう思わせるだけの場所だったからね。
12歳となった私は来年の誕生日を迎えれば、晴れて成人の儀だ。
かつて教会で教えていた子たちは半分以上が成人して結婚したりしてしまったが、私はあと一年、色々なものに備えていなければならない。
作業机の上に転がるゴーレムパーツを見ると、毎回、プラモデルのようだと感じる。男心をくすぐるとでも言うのだろうか。
以前の私が男だったのは確かだと思うが、今は心から女になっているし、それに対して拒絶感は無い。王子に抱きしめられて嬉しいと感じているのも本当だし、正直な話、プロポーズされたら妃になるつもりでもいる。ただそれ以前に、掲げた目標は叶えたい。
ブランママは特A級冒険者になって英雄になるという目標があったらしい。あの日にギルド証を見て微笑んでいたのは、本心からの笑顔だった。本当のブランママは静かに喜ぶ優しい女性だ。あの姿を見ていると、心底そう思う。
対して私は・・・恐らく野心家だ。掲げる目標が皆の幸せとか、大森林の中心を見るとか言っているが、誰も叶えたことのない夢を作って、世界にユリアネージュの名を知らしめたい野心家に過ぎない。
私は夢半ばで妊娠したら子を取るだろうか? 野心を取るだろうか? ママのように迷うことなく「これ以上ない宝だ」といって、自分の子供の頭を撫でて抱きしめられるだろうか・・・?
正直なところ自信が無い。
まぁ、結婚も性交渉の相手も近くに居ない私が悩んでも仕方のない事かな。今はやれることをやるとしましょうか。
ガキンッとパーツをはめ込み、金属精錬でパーツを接続していくと、背中の夕日が一日の終わりを教えてくれていた。
◇◇
ここ最近、大森林に向けての下準備に時間を費やしている事が多い。ブラウの件もそうだし、ゴーレムの改良もそうだ。頼もしい味方も頼もしい兵器も、あそこを攻略するのには必須となる。
「・・・・・はっ、いや、だからって兵器ばっかり作ってるのはなんか違う気がする!」
前はもっと豊かな生活を送る為の物を作っていた筈。いつからこうなった!
「でも思いつく限りのモノは試作したからなぁ・・・ゴーレムが便利過ぎる。私が居ないと真面に動かないって言う欠点はあるけど」
改良した超小型探索ゴーレムが作業台の上に飛び上がった。無音、無風、しかも見た目は只のトンボ。この世界でも害虫となり難い成体の昆虫だ。むしろ、害虫を食べてくれる益虫扱いだからね。敢えて言うなら子供に掴まるくらいか。
こんな世界なら妖精の姿でも良いかと思ったのだけど、妖精はA級魔物扱いの超危険生物なので厳禁だ。見つかったら街を上げて排除される見た目には出来ない。可愛らしい姿だと思うだろ?肉食性で、しかも人間が好物なんだぜ!悪魔みたいなフォークを持って人間の肉を抉るのが好きらしい。魔法使えよ。
指先にトンボゴーレムを乗せてゴーレム視点で自分を見る。視界良好、集音に影響なし、魔力感知も可能、真実の瞳も発動可能、鍛錬用の魔法も発動・・・問題無し。テスト完了だ。
無事完成と相なって溜息が出た。
「台所のおやつ、あったっけ」
一人で居ると独り言が出てしまう。作業前に午前中の空いた時間で作ったクッキーがあったはず。伸びをしながら地下室の台所地下貯蔵庫に直通できる扉を開けると、ブラウがサリーと共にパン種を運んでいた。毎日捏ねて板に載せてラックに格納しているのだ。
「あ、お姉ちゃん。パン種作るの手伝ってよ」
「うんむ、やろうか妹よー」
「主、疲れてるのか?」
「これを完成させてたからちょっとね」
肩に乗ったトンボを3段重ねの板を持ったブラウが視る。至近距離で見る。
「主、ゴーレム?」
「正解~」
サリーから渡された小麦袋を抱えつつ、石階段を上って台所に移った。
「お姉ちゃん、それ虫にしか見えないよ」
「そうなるように作ったの」
夕ご飯用にパン種をオーブンに入れていく。空いた板に小麦粉を練ったパン種を乗せていった。水魔法で小麦粉を巻き込むようにしながらグルグルすると凄まじい勢いでパン種が出来上がるのは自分でやっていて面白い。
「これをモデルにして大森林の方に飛ばしてあげると、広く遠くにゴーレムの眼が届くようになる。すると、誰も知らなかった世界が私の眼に見えるようになる。凄い事だと思わない?」
「凄いけど、私じゃそんな魔力持たないよ」
サリーが出来上がったパン種の板を持って地下に降りていく。ブラウはゴーレムを面白そうに観察していた。
「ブラウ手伝って~」
「わかった」
夕飯をゴーレムたちと一緒に造ると、アドを抱いたブランママが摘まみ食いしていく。
「どう?」
「うまい」
うむ、と笑顔になりながら戻っていった。我が家の主のお褒めを頂いた所で配膳していこう。ゴーレムの多椀が皿を幾つも掴み、一台で8皿近く運ばれていく。私も一番大きい銀の皿をテーブルの真ん中に乗せて、白磁の小皿と各種シルバーを置いていく。箸も一応並べるが、まだ両親と私しか使わない。
そういえば、マインズオール家にも箸を薦めてみた。領主のオジサンには好評だったけれど、漆塗りの箸が黒光りしているのが気に食わないのか、婦人などは銀のナイフやフォークを使っていた。領主的には騎士として野営した時の事を考えると、切る掴む引っ張る等、なんにでも使える箸の方が好ましいようだ。
食卓を囲む場には当然、ブラウも参加している。
彼女は基本的に魔力さえあれば死なない。体がゴーレム基準だが、竜核の欠片を与えた影響だろうか?それとも元が生物であるが故なのか、美味しい物に目が無い。食べたものは全て魔力に変換され、食材によって増加する魔力量が異なる。試しにドレイク肉を与えてみたら大量の魔力が体から噴き出してきた。容量オーバーっぽい。
「ん、そうだ。ブラウにこれあげるよ」
「?」
彼女の目の前にトンボゴーレムが飛んできて肩に止まった。
「主、良いのか?」
「船の扱いとゴーレムの扱いって似てるからね。何なら他の形に作り直すけど、どうする?」
下の子たちが何やら騒ぎだしたが、ブラウは少し考えた後で「このままでいい」とトンボ君を受け取った。食後にブラウが目を閉じてゴーレムと接続しようとしていたが、無理だったようだ。どうやら視界を共有したり、音を共有したりと言った事は出来ないらしい。
「主、土魔法か元素魔法が必要」
「なるほど」
そりゃ駄目だ。竜魔法と他の魔法系統は両立しないらしい。つまりブラウは覚えられないのでゴーレムを満足に扱う事は出来ない。じゃあ、竜船は?と疑問に思ったが、あれは元々の自分の体なので例外っぽい。
「じゃあ、ゴーレムを操作できる人って、意外と少ないんだね」
「主、希少と思ってた方がいい」
「希少だったのか・・・」
最低でも土魔法使い。しかも高レベルの魔法制御力が必要。確かにレアだな。SRくらいにはレアだ。元素魔法なんてSSRだ。A級冒険者でも殆ど居ない。
「うん。良い情報だよ、これは。今後の汎用ゴーレム開発の指針になった。ありがと、ブラウ」
ちょっとだけブラウが嬉しそうにしてた。




