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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
32/97

031

 街に戻って開発計画に精を出してから一年。11歳となり、ハイネさんは出産し、お隣からは元気な泣き声が聞こえるようになった。人口も爆発的に増え、今や8千人を超えるほどの大きな都市になった。


 増える人口。増える仕事。増える問題。

 治安の問題はフィブリールからの騎士が派遣されるようになったので、見回りなどで功を奏している。騎士一人にゴーレム二体を付けて戦力的には問題ない状況なので、下手なB級冒険者程度なら、太刀打ち不可能な戦力である。


 ブランママも定期的にゴーレムたちと狩に出ているので、さらにレベルが上がった。どうやら特A級冒険者の昇格試験に挑戦するらしい。


「ユーリと冒険に行くなら最低でも特A級だろう?」


 これである。もはや出産は十分と言い切り、アルトパパが農作業で出ずっぱりという事が無くなったおかげで狩りの時間が増えたようだ。


「私もB級試験まで通ったから、A級受けようかな」


「いいね!」


 ちなみに特A級は竜種の討伐らしい。ハイネさんもいずれは受ける予定だが、遠隔からアイスドラゴンを焼き切る予定らしい。ギルマスは闘気鎧で殴り殺したのだろう。それしか考えられない。


 そんなブランのステータスはこちら。


 ---------------------------------------------------

 ブランネージュ(26歳)

 種族:素人

 レベル:79

 HP:4099

 MP:620

 状態:通常


 スキル:剣術LV10、闘気剣術LV7、格闘術LV6、弓術LV1、投擲術LV9、運搬術LV5、瞬歩LV10、縮地LV2、気配察知LV8、罠感知LV3、魔力制御LV1、気力制御LV10、闘気制御LV7、フリキア言語LV6


 称号:剣姫、A級冒険者、閃剣士


 ---------------------------------------------------


 なんと縮地と魔力制御が生えているのである。

 魔力制御は私が何日も魔力共有を行い、私がブランママの体内魔力を動かして覚えてもらったのだが、本当に覚えられるとは思わなかった。というのは本人の言である。


 それと縮地という瞬間移動じみた歩法を体得したようだ。横から見れば何てことない突進業なのだが、対戦者から見ると一瞬で目前に来たような錯覚を覚える業である。

 あとHPの伸びがヤバい。やはり気力・闘気を鍛えるとHPにも反映されるようだ。

 ギルマスのように闘気鎧を覆い始めたので、そのうちドラゴンを殴り殺せるかもしれない。


 私はと言うと気配察知の上位スキルが生えた。


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 ユリアネージュ(11歳)

 種族:素人

 レベル:126

 HP:12559

 MP:29082

 状態:通常


 スキル:剣術LV10、瞬歩LV7、格闘術LV6、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV6、刻印魔法LV7、付与魔法LV8、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV3、並列制御LV10、闘気制御LV7、気配察知LV10、高速反応LV1、HP自動回復LV3、MP自動回復LV9、真実の瞳、フリキア言語LV8


 称号:仙剣士、魔仙導士、大商人、特A級冒険者、A級商会員、王子様の恋人

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 これまでは30秒間隔のソナーという感じだったのだが、リアルタイムで全周囲の情報が入ってくる感じになった。しかもこれ、空間認識能力が異常に上昇するので立体的な戦闘が容易になる。


 オマケに称号に仙人関連の内容が上書きされた。親は閃剣士、娘は仙剣士と口にするとややこしい。


 刻印魔法はハイネさんに徹底的に教えてもらった、子守のお代という奴だ。


 相当寝不足らしく、快癒の水を飲みながら魔法陣を書いてもらったりした。

 息子のトルネーズが可愛すぎて仕方ないようだ。あと4人頑張ってくださいと言ったら、一年休ませてと言われた。

 ブランママに対抗心を燃やしている理由は教えてくれなかった。


「お姉ちゃん! 私も冒険者する!」


「サリーはまだまだ訓練しないと連れてけないよ」


「ん~ん~」


 シャツの裾を掴んで腰を振りながら引っ張らないでいただきたい。青麟蜘蛛の糸でも伸びるわ!しゃがんで目線を合わせてサリーの顔を両手で優しく挟む。


「あと6年待ちなさい」


「やぁ~」


 あらら、拗ねてアルトパパに突撃していった。因みに下の子達は私が叱ると全員アルトの所に突撃しに行く。ブランママは大抵赤ん坊を抱いているから。その辺は分別があるというか、優しいというか・・・。


「そういえば大森林にドラゴンっているの?」


「居るらしいわよ。アースとウッド」


 そういや前も聞いた気がする。


「デカいのと延々と再生するの?」


「らしいわね~」


 アースドラゴンはとにかくデカい。全長数キロとかそういうサイズらしい。生物としておかしくないかそれ。


 ウッドは100メートル程度らしいがそれでも十分デカい。しかも地に足を着けている限り永久に再生を続けるらしい。倒せるのかなそれ。


「師匠の話だと・・・アースドラゴンは首を切り落として、ウッドドラゴンは竜核を破壊すれば良いらしいわ」


「竜核ってなに?」


「強力な魔物が持っている魔石のようなモノって聞いたわね。それ自体が途轍もない魔力の塊だっていうから、錬金術師にとっては最高の材料になるんだったかな。あと魔剣の素材とか聞いたね」


「・・・あぁ、つまり触媒と動力部か」


 錬金術は物質から魔力を取り出すか、魔力を封入する技術と言って良い。取り出して変化させて封入する。そうすれば、変わった道具や薬が作れるという。


 魔剣やゴーレムの類は単純に莫大な魔力を必要とする。私の場合で言うと、金属精錬で作り組み立てたゴーレムに使えば、複雑で大量に魔力を必要とするゴーレムであっても、問題なく稼働できるようになる。


「私は良く分からんが、最終的にはそれなりの力になる素材って事で良いのかい?」


「うん・・・かなり問題の多い力になると思うけど」


「ふ~ん・・・」


 なるべくなら、狙いはアースドラゴンかな。


 でも、倒すときの注意点として、莫大な魔力というのはそれだけで兵器になりえる点に気を付けないといけない。竜核を砕いたとたんに周囲を塵に変えられたら、流石の私達でも死ぬ。ちょっとドラゴン舐めてたなぁ。


「ところで、試験官は誰が来るの?」


「師匠がくるらしい」


「え!?」


 ◇◇


 田舎支部の狭いギルドに巨人が来た。狭い。本当に狭い。立ち上がると頭こすってるし。座ってるソファが可哀そう。中のバネがダメになりそうだから地面に座ってほしいわ。


「親子そろって特A級試験をうけるなんてのぁ、前代未聞だぜブラン」


「別に可笑しくは無いだろ。あんただって実の息子の監督官やってんじゃないか」


「チッ、アイツは何時まで経ってもA級から上を目指そうとしねぇ。結婚してガキ作って碌に鍛錬もしなくなりやがった! お前の爪の垢でも飲ませたいくらいだぜ」


「鍛錬に関してはそうだが、王都で狩なんて殆ど出来ないだろうに。レベルを上げさせたいならドレイクでも引っ張ってきてやりゃいいじゃん」


「んな面倒なことしてられるか馬鹿が! お前、子育てして丸くなりすぎじゃあねえのか? んなことでドラゴンと戦えんのかよ」


「あたしが今まで誰と鍛錬してたと思ってんだい? あんたが負けた相手だよ」


 そこまで言うと、巨人がガハハと笑い出した。おおお、窓ガラスがビリビリ言ってる。受付のお姉さんも耳を抑えている。騒音すみません。


「んで? 何でハイネまで来てんだ」


「私はタダの見送りよ。乳児抱えていける訳ないでしょ」


「旦那に預けりゃいいだろうが」


「爺みたいに育児放棄しないのさ私は」


「俺はちゃんと育てたぞ! キッチリ魔物の群れに放り込んで鍛えてやったさ!」


「そう言うのは育児とは言わないんだよクソ師匠!」


 うわぁ・・・ブランママの切れ具合からすると、息子さんと同じことをやられたな。


「けっ・・・それで当たりは付けてんのか?」


 ターゲットの居場所は既に捉えてあるから問題なしだ。質問には私が答える。


「北西122キロ、アースドラゴンが一匹。現在も活動中」


「・・・おい、ブラン。お前どういう育て方したんだ?」


「普通に育てたらこうなった」


「俺の孫も預けて良いか?」


「手前で育てろクソ爺」


 言いたい事は言ったとばかりにブランが立ち上がり、私も立ち上がる。


「んじゃ、出発しようか。此処からなら30分くらいで行けるでしょ」


「あ? 何言ってんだユリア」


「態々森の中突っ切るの面倒だし、上から行くよ」


「はぁ?」


 爺さん耳遠くなるにはまだ早いぜ。


 ◇◇


「んぬぉぉぉぉぉおおおおおおおお!?」


 爺さんの顔が凄い事になっている。


「風の結界が追い付いてないから、自分で闘気鎧着て!」


 全身に仙気を纏う私は普段通りの顔だ。


「こりゃ・・・凄い風圧だね・・・!」


 ブランママも闘気鎧を纏っている。

 ていうかさ、なんでこの10G以上の慣性重力加速が掛かる高速飛行中に顔が凄い事になる程度で済んでるのか、意味が解らない。この爺さん人間なの?


 三人で掴まっているのは、唯々早く飛ぶために作った、ロケットゴーレムだ。風魔法、火魔法、土魔法を仙気を込めて作った傑作である。


 姿勢制御に風魔法、推進力に火魔法、ゴーレムそのものに土魔法、といった具合だ。燃料は私の魔力も使うのだが、一時間も飛ぶと魔力が空になるので実質50分くらいが限界。あとはMP自動回復スキルの出番になる。


 予定地点の10キロ前に着陸し、空中で飛び降りると、ゴーレムが噴射を止めて墜落するように着地した。足みじかっ。


「はい、到着。ちょっと休憩する?」


「そうだね・・・いや、進みながら休むよ。もう“視えてる”し」


 その通り、既に視界に入っている。巨大な山脈がな!


「アレが生きてるとか意味分かんないね」


「はっ、伊達に最強種なんて呼ばれてねえよ。銀竜種なんてアレより強いらしいぜ」


 同じ竜でもアレより強いのが居るのか。この世界やっぱりやばいな。


「じゃあ、行きましょうか」


 ゴーレムに待機命令を出し、周囲を土で覆っておく。スリープモードで一旦休めておかないと、高熱のダメージが回復しないのだ。熱疲労で分解されても面倒だ。


 ブランママと手信号で合図を取り合いつつ、アースドラゴンに近付いていく。目的は首。尻尾を切り落としても意味ないからね。多分生えるし。


 こんなのが住んでるだけあって、周囲の木々は途轍もなく高く太い。薄く霧が漂い、水分に濃厚な魔力が込められている。アルトパパが此処に来たら数分で昏倒する濃度だ。


 あれからブランママの魔力が上がったとはいえ、この濃度は辛いので、定期的に私がブランママの体内魔力を操作して体外に押し出している。若干だけど闘気鎧に魔力を込められるようになった彼女も、恐らく天才と呼ばれる部類なのだろう。疑似的な仙気になりつつある。


 襲ってくる魔物を静かに殺して進むと、木と木の間に土色の壁が見えてきた。大きな鱗と小さな鱗が壁に埋まっている。鱗は上下に移動しているあたり、呼吸の証拠を見せてくれている。


 もう少し左手かな。高速反応で見える全体像は、左手側に頭部を、右手奥の方に尾を丸めて置いている姿を教えてくれる。手信号で開始の合図。行くか。


 素早く走り出し仙気を纏う。ブランも魔力鎧を纏って、後方の巨人はさらに巨大な黄色い巨人になる。


 頭部を視界に入れると同時に、ブランママに先制の指示を出して付与魔法で全力強化を行う。ブランママの両手剣に闘気剣が形成され、天高く飛びあがる。まっすぐ伸びた剣は20メートルくらいだろうか。首筋を傷つけるには十分な長さに見えた。


 ゴゥッと鈍い風切り音が聞こえたと同時に、首が一瞬で持ち上がった。それと同時に上段から思いっきり叩きつけた闘気剣は跳ね上げられ、ブランを上空に吹き飛ばす。


 素早く風獣を呼び出しブランに向かわせると、その背に乗らせる。

 土魔を呼び出し、元素魔法で新しく覚えた重力増加を頭部に食らわせる。

 変化がない事を確認し水精霊を呼び出して大海嘯をコントロールして頭部を覆う。

 直後に火龍召喚で水球の外側を火球の膜で覆ったが、アースドラゴンの腹部が膨れ上がっているのを目にした。


 それはまるで火山の爆発のようなブレスで、覆っていた二つの球を一気に霧散させ、天高く熱線が伸びていった。


「くぁはっ・・・・!」


 爆音が耳の鼓膜を叩くと同時に、爆風に吹き飛ばされる。怪我は無いけど位置取りが悪い。上を向いていたドラゴンが下を向いて私を凝視していた。


 開く口、輝く閃光。


 叩きつけられる闘気剣。


 弾丸のように飛んできたブランは風獣の加速力を利用して、それを全て闘気剣に乗せて突きを放っていた。


 ドズンと重い音が空中で響き、弾かれるブランと剥がれ落ちる額の鱗が見える。

 既に飛び上がった私は閃光を足元に見て、熱線砲を鱗の欠けた額に放射した。


 音も何もない光の世界が周囲に広がり、青い魔力が拡散する。私の魔力ではない。


「仙気・・・!」


 このドラゴンのモヤモヤ、仙気だ!

 やはりドラゴンも使えた、私が使えるならば上位の魔物は当たり前のように使うと思っていたが、正直言って外れて欲しかった。


 土魔に仙気を渡し、金属に全身を覆わせる。これは消費MP一万越えの方法だ。土魔と私の合わせ技。魔法金属の巨人と自身の繋がりを密接にして、あたかも自分の手足かのように操る。仙気前提の元素魔法!


「おぅりゃああああああああ!」


 身長100メートル越えのアダマンタイトとオレイカルコスの合金パンチだ! 格闘術LV6を舐めんなよ!


 横っ面を叩きつけると、鬱陶しくなったのかアースドラゴンが上半身を上げて大きく翼を広げた。空が狭い。前足がそのまま上から下に爆風を纏いながら降りてくると、私は指の間をすり抜けて顔面目掛けて飛び上がる。


 岩盤と言ってもいいくらいの馬鹿げたサイズの手は、叩きつけられた大森林の100メートル以上ある木々を上空に飛び上がらせ、根っこから遥か彼方に飛ばしていった。周囲は土色一色になり、まだドラゴンの顔が見えないが、高速反応で何処に何があるかはつかめている。


 飛び上がりながら周囲の土を集めて精錬・成形すると、一瞬でアダマンタイトとオリハルコンの合金巨大剣が出来上がる。


 水精霊に自身の巨体を覆わせ、空中移動・・・いや水中移動を可能とさせる。水を空中移動させれば、内部に居る私ごと持ち上げてくれる訳だ。そのままドラゴンの頭部がある場所まで進み、目的の額へと一刀をくれてやる!


 意気込んで飛び掛かったその瞬間だった。アースドラゴンの咆哮が全身を叩きつけた。


「ぐぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 一瞬。


 その咆哮で土、水、そして私が、はるか後方へと吹き飛ばされてしまった。叩きつけられた衝撃波は壁となってアースドラゴンの周囲をクレーターへと変える。二人は・・・無事だ。ブランは遥か上空から再度の突入を仕掛けている。爺は自分で何とかしてくれ。


「ここはサポートするしかないでしょ!!!」


 熱線砲を複数放ちながら、鱗から煙が上がるのを確認する。熱に強いってわけじゃないんだね。良い情報だ!


「火炎牢獄刃!!!」


 囲わない、ただの壁の側面を叩きつける。しかしそれは格子状の超高温の青い刃で出来た壁だ。さぁそれをどうする!


「ゴゥ」


 ひと鳴きしたドラゴンは、腕を交差し、体を丸めて羽根で前面を覆う。一気に膨れ上がった仙気が羽根を覆うと、翼膜をズタズタに引き裂いていった。焼けた傷口から煙が上がり、開いた羽根の向こう側から眉間に皺を寄せた怪物が顔を見せる。


 だが、その時既に私は相手の足元に立っていた。100メートルの巨体である私が、頭部だけで私よりも大きい影に身を潜めていた。


 重力増加+金属精錬+高熱付与で巨大な剣を更に大きく作り上げ、炎の巨大剣が顎の下に刺さるようにドラゴンの頭部だけを重くする。


 飛び上がった金属の巨体は赤い剣を突き上げ、柔らかい下顎へと突き刺さる。そのまま口内へと届くほどに深く、傷口の奥へと入り込んでいった。


「ヒグ!!」


 剣によってかちあげられた頭部に上空から来たブランの巨大闘気剣が突き刺さる。狙いは鱗のはがれた一点だ。鱗の無いドラゴンなど、トカゲに等しい。


「グギャアアアアアアアアアアアアア!?」


 重く、咆哮にも似たその悲鳴が響き渡ると爆風が周囲を埋め尽くしていく。黄土色の巨大なドラゴンが、ゆっくりと体躯を下げて上半身が元居た位置に横たわった。災害とも思えるような地響きが轟き、周囲の木々が激しく揺れて戦闘で出来上がったクレーターから砂埃が天高く舞い上がった。


 ◇◇


 数時間後、証拠となる竜核だけを持って冒険者ギルドへと帰った私たちは、完全に英雄扱いとなっていた。倒したアースドラゴンの遺骸は現地でゴーレムが解体し、数百体の収納用ゴーレムでこちらに搬送する事になる。


 鱗、骨、血、肉、革、その他諸々の素材は此処数百年でも数えるくらいしか手に入らない物で、金があっても手に入らない物ばかりだ。


「特A級昇格! おめでとうございます! あなたはマインズオールの英雄ですよ、ブランさん!!」


「あはは・・・まぁ、一人だけじゃヤバかったけどね。素直に喜んでおくよ」


 頭を掻きながらオレカル合金のギルドカードを受け取ったブランママがこちらを見てはにかんでいた。その横では巨人が盛大に笑っている。


「ヤベ―なんてもんじゃねえ! 俺が倒した奴の10倍以上もデカい獲物だぜ!? もっと喜べや!!! ハッハッハッハ!」


 実際、ギルマスの爺さんが過去に首を切断して倒した相手は全長一キロ、首回りも今回の半分以下で鱗もあんなに硬くなかったらしい。


 ブランママが傷つけたこと自体が偉業なのだが、最後の一撃を食らわせたブランママは、力を使い果たして気を失ってしまった。HP消耗が激しすぎて衰弱死寸前だったのだ。暫く彼女を抱いて泣いていたのは内緒だ。


「じゃあ、約束通り竜核は貰っていきますよ」


「おう! もってけ! 殆どお前が倒したようなもんじゃねえか!」


「最後の一撃はお母さんなんですから。倒したのは紛れもなく、英雄ブランネージュですよ」


「そうだな! ハッハッハッハ!!!」


 直系220センチの超巨大竜核。コレが有ればジェット機が作れますなぁ。はっはっはっはっはっは!


 巨人と一緒に笑っていると、ブランがギルドカードを見て微笑んでいた。やり遂げた戦士の顔って感じだね。お疲れさま、お母さん。


 ◇◇


 その後、数百体のゴーレムが列をなしてドラゴンの素材を届けた。

 必要な素材は船体と風を掴む翼膜。無事な部分だけ使っても余りあるサイズだ。

 肉は毒性が強いので、全部錬金術素材として凍らせて王都錬金術学会に売却。骨や鱗や革は加工して超軽量ドラゴン装備として利用する事にした。商会で販売するので、私の付与魔法で加工して剣やら槍やら鎧やらになっていく。


 ドラゴンの骨は金属精錬と同様に扱えた。つまりこのドラゴンはロボット。異論は認めない。素材としてはこのようになっている。


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 真竜の骨(特A級)

 龍族として純粋なる存在であり、真の意味で竜であるものの骨。

 硬く、しなやかで、魔力がある限り朽ちる事は無い。


 特性:不朽、魔力吸収、魔力強化、超硬質、柔軟

 品質:最高品質

 性能:魔力共鳴

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 色々とヤバい素材だ。


 まず、魔力を込めるとそれに呼応したかのように、その形状に沿った強化を齎す。

 剣や槍であれば鋭くなり、鎧や盾であれば硬くしなやかになるように加工する。

 魔法の触媒としても優秀で、使い手の魔力消費の肩代わりをしたり、放たれる魔法が数倍に強化される。おまけに同じ素材で作られた物体同士が共鳴を起こし、その全ての効果がさらに強化される。


「というわけで、竜船を作ります」


 大量の素材運搬ゴーレムが北門広場で蠢いている。その場には子供を抱いたハイネさんとブランママを呼び出した。ゴーグルをつけて白衣を纏った私は研究員になりきっている。


「まず前提の説明をしなさいよ」


「ハイネさんの突っ込みはごもっともですが、これに関しては先に進めさせてもらいます。結論から言うと、あのロケットゴーレムと組み合わせる事で、竜素材を使った巨大飛行機が製造可能となりました」


「・・・・・飛行機というのは何さ?」


 加工作業用のゴーグルをつけた私に突っ込まず、ユリアブランパーティの良心であるブランが問いかける。


「あのゴーレムのような飛ぶ機械です。しかし、今回は屋内で過ごせるように作るので、倒したアースドラゴン並みに巨大になるかもしれません」


「はぁ~・・・そんなもん飛ばせるのかい? あのドラゴンだって飛べなかったようだけど」


 実際アースドラゴン飛べない疑惑はある。巨人爺さんも、見た事ねえわ! と言っていたので、真竜だろうと飛べない可能性が高い。


「しかし、あの翼膜には重力操作の魔力がある事が解りました。私はまだ重力増加の魔法しか使えませんが、恐らくその上位版としてあの翼には力があったのでしょう」


 浮かすことが出来れば問題ない。後は移動させるためにゴーレムの噴射力を用いれば良いだけだ。


「という訳で、暫く壁の外で作業をしている事が増えますので、何かあれば北門から見える巨大倉庫に来てください」


「了解」


 何でもない事のように了解してくれるブランママ愛してる。


「また、理解不能な言葉が幾つか出てきた・・・ここに魔法都市の奴らが来たら発狂しそうだね」


 それだけは止めて頂きたい。その手のマニアが集まると発狂してとまらなくなるから。


 ◇◇


 此処は暖かい。外は冬だけど、常に熱気が籠もっている。何故かって?


「そりゃあ、超高熱じゃないと翼膜が加工できないからさ!!!」


 吹き出る汗。仙気を纏い続けないと焼け死ぬ熱量。そして慌ただしく動くゴーレムたち。

 竜船の加工は大詰めを迎えていた。全長320メートル。総重量が何と52トン。信じられない超軽量体である。


 船体のほぼ全てを骨を加工したものにした空洞壁にしたこともあるが、その強度はヤバイ。何でって、動力部である竜核から魔力を供給すると、超硬度に変質するのだから。ほぼ確実に仙気を使わないと傷がつかないだろう。試してないので知りませんが。


 因みに私が仙気を込めて竜核を作動させると、元々のドラゴンが仙気を纏っていたせいなのか、船体全てが青く輝く。この船やべえ。体当たりで王城潰せるんじゃないのか。やらないけど。


 現在は可変翼として動作可能な竜の翼そっくりな形で、翼膜を取り付けているところである。これは風を掴んで揚力を得ると言ったものではなく、竜核起動時に重力操作で船体が浮く。


 そう、浮くのだ52トンが。馬鹿じゃないかと思う。船体その物に推進装置(熱線砲)を取り付けてあるので、単純な推進力はこれである。あとは風の魔法で弱い推進力と姿勢制御を得ているだけなので、この船は基本的に乗り心地が良いと思われる。


 ま、こういうのは失敗してなんぼだから、乗り心地が悪くても良いやと半分諦めているけどね!


「ユーリ」


 熱処理が終わった少し後でママンが入って来た。まだ少し熱いのか手団扇で顔を扇いでいる。


「はーい?」


「そろそろ夕飯だから戻ってきなさい」


「りょうか~い。流石に今日は少し疲れたわ~」


「あんたは相変わらず物を作り出すと止まらないねぇ」


 だって面白いじゃない。少しずつ出来上がっていって、最後のパーツを完成させた瞬間の達成感! そして「あ!忘れてた」というパーツが残っているときのお約束感。


 倉庫を出てゴーレムたちを警備に回し、仕上げは明日だと思いながら外にでる。

 今日のメニューは何かなぁ。


 ◇◇


 夜半過ぎ。北の方からの轟音とともに浮かび上がったそれは、倉庫を破壊し、浮かんでは沈みを繰り返す。天井を突き破った頃には青い仙気を纏いながら北門に接近していたという。


「ちょっとなによあれ!?」


 ハイネさんが寝間着姿にローブという、ちょいエロな格好でやってきた。


「ん~・・・ドラゴン?」


「何で動いてんのよ!」


「竜核があるから?」


 ゴッと杖で殴られた。それ私が作ったドラゴンロッド・・・いたぃ。


「止めて来なさい」


「はぁい」


 頭をさすりながら水精霊を呼び出し、土魔で竜船を縛り付ける。水で宙に浮かびながら羽根の魔力を奪っていくと、念話で何かが聞こえてくる。


(戒め・・・解け・・・解放・・・放せええええええ)


 会話は可能だろうか。取り敢えず竜核の部屋に行こう。

 ゴポポポと水で覆われた船内に入っていくと、建築資材が散乱して漂っていた。素材は壊れてないけど整理が面倒な・・・。


 深く溜息を付いて奥に進むと、運転席の竜核が怪しく輝いていた。

 精霊の魔力水で覆い仙気を通すと、チャンネルが合ったように語り掛けてきた。


「ここはどこだ・・・この鎖のようなものは何だ・・・我は死んだのか・・・?」


「真竜としてのあなたは死にました」


「真竜・・・そうだ。我は真竜ブラウバーン・ゴル、人間と戦って・・・敗れた?」


「私が倒しました」


「そうか・・・そうか・・・老いて自我も薄れて、最後には人間に敗れたか・・・」


 そういえば言葉もなく喚いていただけだったな。自我が殆ど無かったのか。

 噛みしめるように私の言葉を、自分の最後を確認したドラゴンは次第に大人しくなった。


「我は何故ここにいるのだ?」


「竜核・・・心臓を骨と羽根で覆ったら復活したようです」


「アンデッドとなったのか? しかしこの体は・・・?」


「アンデッドとは少し違います。四角い船のような形に加工させてもらったので、竜に近い羽を取り付けた事で、魔力共鳴効果で覚醒したのでしょう。恐らく私の仙気によって目が覚めた可能性が高いです」


「そうか・・・我は・・・なんだ?」


「あえて言うならば、機械の竜。機竜かと」


「機竜・・・機竜か。これは面白い。我はこれから機竜として存在するのか」


 何やら楽し気な御様子。しかし長生きすると自分の事を我って言うのはデフォルトなのかしら。


「創造主よ我に何を願う」


「移動手段になってほしい」


「そなたを運べばよいのか」


「私だけじゃない。色んな物をこれから沢山運んでほしい。出来れば、悪い事には使われないで欲しい。私があなたを使う目的は、皆の幸せの為だから」


「承知した。だが、“悪い事”と“幸せ”という物が何かを教えて欲しい。我は竜だった。他者を食らう事でしか喜びを感じられん竜だった。主が我に教えてくれ」


「うん。色々と教えるね。だから今はあそこの巣に戻ろう」


 私が指さした方に頭部と言える先端が向けられると、土魔の触手が消えてゆっくりと進み始めた。


 ◇◇


「主よ、名が欲しい」


「主よ、音楽とは何だ」


「主よ、育てるとは何だ」


「主よ、夫婦とは何だ」


「主よ、世界とは何だ」


「主よ、魔物とは何だ」


「主よ、人間とは何だ」


 主よ・・・この質問を一体幾つされただろうか。翌日から毎日のように作業中に質問されるようになったので、子機を作る事になった。


 彼?は命がある。であるならば、オレイカルコスは彼の器になりえる。竜核の表面を少し研磨して削り、粉末をぐにゃりと形を変えるオレイカルコスに加えて大量に余っている骨と翼膜で竜人と呼べるような、女性型の子供を作り出した。


 モデルそっくりのそれは、銀髪青目でアースドラゴンのような少しねじれた金色の角が、こめかみから後方に向かって細長く伸びている。ちょっとデモナイズ。肌は若干青白く、薄く仙気を放っているように見える。背中の翼は竜船と同じく重力操作の機能があり、表面を銀色の羽毛が覆っている。


 私を見た後、しきりに自分の体を無言で見る彼女は背中の翼を確かめてみたり、手足を齧って見たり、膨らんだ胸を弄って見たりとワサワサ動いていた。


「・・・・・・・主、私が居る」


 竜核を見てそう言った彼女は、どうやら意識が子機の方に移った事に驚いているようだ。

 どうやら成功っぽい。


「移したからね。そっちに戻ったり出来る?」


「・・・・・出来ない。この肉・・・硬い肉・・・? 体のせい?」


 私も彼女の体を触ると、確かに表面は滑らかだが、硬い。柔らかそうに動くが、膨大な魔力が内部に漲っていて、オレイカルコスが硬質化している。おそらく竜骨の効果がオレイカルコスにも移ったのだろう。真実の瞳で見ても彼女のステータスしか表示されないので原因不明だ。


 ---------------------------------------------------

 ブラウバーン・ゴル(0歳)

 種族:竜機人

 レベル:1

 HP:186580

 MP:1248211

 状態:通常


 スキル:竜魔法LV10、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV10、並列制御LV10、闘気制御LV10、無限再生、MP吸収、不滅の肉体、フリキア言語LV2


 称号:真竜人

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 竜機人・・・ドラゴンゴーレムって事かな。色々と突っ込みを入れたいところだが、とりあえず服を着せてあげよう。オッパイ丸見えだし。そもそも私がモデルだし。私が見られてるみたいで恥ずかしいし!


 羽根のモフモフ感を楽しみながら持ってきた服を着せると、想定通りになったので一安心。


「主、これはなんだ?」


「これは服といってね。ブラウの体を守るための物だよ」


 主に男の視線からね。


「・・・・・ヒクイドリの匂いがする」


 スーッスーッと何度も深く匂いを嗅いでいる。何となく背徳的な気分。


「良く分かるね。ヒクイドリの体毛を糸にして、金属繊維と編み込んだナイトドレスだよ。背中が開いていて羽根を動かしやすいのが特徴だね」


 本来は夜のパーティで着るような服ですけどね。


「ヒラヒラする」


 ひざ下まで伸びたそれを腰を回転させて遊ぶブラウ。ドレープが広がってヒラヒラと舞う。あれ? 可愛いぞ。暫くその様子を見ていると、じっと私を見てきた。


「まだ、体の動かし方が分からない」


「戦うのはまだ無理かな。でも、その体があれば、いつでも私に質問できるでしょ。人間がどうやって生活しているのか・・・一緒に見てみれば良いのよ」


「主に従う」


 頷いてそう言ったブラウは、一瞬竜核を振り返った後でその場を後にした。


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