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いつもの収納ゴーレムが列をなして進む姿を横目に、風獣に跨って領主様の館に来た。何でも相談事があるらしいので、我が家に使いが来たのだ。馬車で送りますと言われたけれど、面倒なので風獣で行きますと断った。だって朝早いし。馬車に乗ってる時間で準備したいし。
門番ゴーレムの顔パスはいつもの事なので勝手に門扉が開く。まるで我が家。
庭が手入れされて、いくつかの木が植樹されている。へぇ、あの花畑は長女さんの趣味かな、ハーブ園を作りたいって言ってたし、奥に見えるのがそうだろう。
玄関先に向かうと丁度、使いに来た執事さんが馬車に乗って玄関前のロータリーをぐるりと回っているところだった。その馬車に誰も乗ってないのは私のせいです。すみません。
「こんにちは~」
「ようこそいらっしゃいました。ご案内いたします」
執事のお兄さんに屋内に案内してもらいつつ、外の馬車を運ぶようにメイドに伝えていた。なんかメイドさん増えたな。
「少し人を雇いました?」
「ええ、ユリア様のお陰で大分助けられておりますので、我が家も財政に余裕が出てまいりました。感謝いたします」
ちなみに家人はみんなマインズオール貴族家の身内扱いになるので、実家が何処だろうともここで働く彼ら彼女たちは、マインズオール騎士爵家を我が家と呼ぶ。大家族だな。
「みんなの助けになっているのでしたら、私も嬉しいです」
「そうですか。ところで、王子殿下とは順調でしょうか」
うええええええ!? やっぱり知れ渡ってるぅぅぅ!
「ど、何処からそのような事を・・・」
「商人、貴族、ギルド関係なく、我が家にお越しになったお客様が皆噂しておりました。既に婚約されているとか?」
「してません。一方的なだけです・・・」
「おや、それは失礼いたしました」
ハハハと人の良い笑顔で静かに笑う執事のお兄さんは、若干目が笑っていなかった。その調子で噂を広めてもらいたいです。私はチョット納得がいかない顔をするに留めた。
「やぁ、お待たせした。来てくれてありがとう。実は少し相談したい事があってね・・・」
うん、大体は予想がつく。
「これまで滅ぼされてきた村なんだが、東の村は順調に復興、入植が完了しつつある。これほど早く終わるとは思っていなかったほどだ。こういった村は適当な場所に村を作った訳ではなく、人が過ごしやすい土地を探したうえで、その場所に住み着いているんだ」
なので、新しく村を別の場所に建てるより、滅んだ村を立て直したほうが土地的にも安定しやすい、という事らしい。
土壌や気候、魔物の生息域に他の村々との距離的関係。様々な条件で導き出した場所なので、そのまま放置するのも勿体ない話だという。
「滅んだ村の場所は神官殿に浄化して頂き、アンデッドが徘徊しないように手直しをして頂いている。それが済んだ場所から順次、今回同様の復興を推し進めていきたい。この間は試験的な復興計画だったが、今後は定期的に君の商会と協力して村を復興させたいのだ。そこで・・・」
横の執事さんから契約書が手渡された。
内容としては領主と商会の特殊契約で、私が他の商会を使ってもいいから一対一での契約をお願いしますという内容。特に下請けを用意する予定は無いので、実際も一対一になるだろう。
「この、食糧支援ですが、この街の壁の外側に畑を作ろうと考えています。現在、既存の作物だけでなく、当社で捜索・開発した新しい、この辺りの農耕に適した種類の作物を植える予定でいます。ですので、先にそちらを進めさせて頂いても宜しいですか?」
具体的には外壁の更に外側1キロに沿って、東の村同様の柵を造る予定だ。その一キロ幅の土地を完全な農地として利用し、順次その輪を大きくしていく。そうして作っていけば、この街は更なる拡がりを見せるだろう。
同様の案を他の村にも適用したい話をすると領主様は喜んでのってくれた。
「では、無理の無いように進めます・・・あと、そうですね、お嬢様はハーブを育てていらっしゃるとお聞きしましたので、宜しければ、そう言った薬草から新しい産業を考えても良いかもしれません。作物は食料のみならずですから。ご本人と領主様さえ良ければ、ハーブ研究者としてご協力いただけますと助かります」
「なるほど・・・なるほど! それは良いな! 早速娘を呼んで来よう」
おっと、隣に座る奥様の目が怖い~。別に悪い話じゃないでしょうに。ああでも、この領地ばかりが大きくなると、やっかみが増えたりするんだろうか? その辺は領主様とハイネさんに相談してみよう。
「領主様、それとこれはご相談というか懸念事項ですが・・・」
騎士爵である彼からしても、やはり不安視していたらしい。彼は騎士爵家を継いだだけの王都のはみ出し者のような扱いなので、やはり貴族家同士の権勢争いには弱いようだ。
「でしたら、私からフィブリール領主様にご相談させていだきますよ。それなりに貸しがありますので」
それなりどころか重い貸しがあるからな。王子様と国王陛下に口聞きして、なんとか取り潰しは思いとどまらせた。現団長の人間性の良さと、北方守護の役割があるので、そう簡単に変えてしまっては色々と損の方が大きいと思わせたのである。陛下は最初っからそのつもりだったけど、立場上は潰すことも考えるぞって姿勢だったんだろうね。だから、厳密にはそう思わせたのは王子様一人だけだったりする。
実際、北央騎士団が別の貴族に乗っ取られると、北の守りを放置して四方騎士団になったぜぇ、偉いんだぜぇと暴れ出す可能性もある。
そんな役立たずになるくらいなら副団長は血縁だし、彼で問題ないという話をハイネさんと二人でしたのだ。
「なんと・・・北央騎士団がですか・・・」
「この街に縁を切った血縁者が二人居ります」
「・・・神官殿とハイネリア殿ですな」
実際にはあなたも血縁者ですけどね。正式には認められていませんが。
「ええ。現フィブリール家当主様から、私にいつか必ずご恩返しをと、お言葉を頂いておりますので、それが善き事に使われれるのでしたら、私としても喜ばしい事です」
「・・・かたじけない」
頭を下げた領主様は少し涙声になっていた。実際、彼の寄り親・・・マインズオール家を守ってくれる上位貴族も居るのだが、彼らは王都に引っ込んだまま知らんふりをしているので、今回の件で寄り親を代わるように話もしておこう。
という訳で頼んだよハイネ弟君!
◇◇
耕運機型ゴーレムが土地を耕している。
四つん這いになった大人のような形になり、両手で一本の棒のようなものを持ち、それを使って畑の畝の形になるように、真っすぐと後退していく。すると、畑がかなり深くまで彫り上げられ、土の中を水魔法で湿らしつつ形を整えてくれるという素敵な結果になる。
「あっという間だな」
アルトがゴーレムを眺めながら耕した土を口に入れている。プッと吐き出した土は、栄養価が高ければ高いほど芳醇な味がするらしい。私には解りそうもないので止めておいた。
「土も問題ない。これなら直ぐ始められるだろう」
「了解。じゃあ、壁際のお堀から水を引いているから、畑にまく時にそこから汲んで使ってね」
「おお、井戸から汲む必要が無いのは助かるなぁ」
手動型取水機を地下水から引いたお堀に繋げているので、各方角に8つの給水所を置いてある。内部に浄水の魔法を常時かけるようにゴーレムを突っ込んであるので、一応飲める。
「あと、作物の保管場所とか、加工場とか後々必要になるだろうから、建物だけ作っておいたよ。広げたいとか高さが足りないとかあったら言ってね」
「分かった。それじゃ、始めっか」
「「「おぅ!」」」
チームアルトが鍬と種袋を持って畑に入っていった。細かい畑の調整はプロにお任せだ。
「あのぅ・・・ユリア様、私はどうしたら・・・」
「あちらの方達とハーブ園を作りましたので、今からご案内しますね」
領主様の長女ジュリアンヌさん(16)だ。なんとこの方、錬金術スキルが生えている。しかもLV3とそこそこ使えるのだから、腕を振るってもらうしかない。
「ここが加工場です。というよりアトリエですね」
ジュリーのアトリエです。樽は置いていません。
「凄い・・・ガラスの瓶がいっぱい・・・これ、かなりお高いのでは・・・?」
「全部自作したものなので、割れたらあちらの予備から取ってください」
「は、はい」
恐る恐る取り出した丸形フラスコを見て、目を輝かせている。わぁ、調合したそう~。
「一応、ハーブの混合法などを教えて頂いた中から、私が思いついたものをこちらの本にまとめていますので、新しく判明した調合法を纏めていくのにでもお使いください」
「本まで・・・ありがとうございますぅ」
そんなに目をウルウルさせても私は女なので頭を撫でるくらいしか出来ませんよ。
男ならちょっと危なかったかもしれないけど。丸顔で可愛いんだよね、この人。
「表の畑にご指定通りの場所を確保していますので、何か不足している物があれば言って下さい。作業用のゴーレムもありますので、使い方はその本の中に書いてあります」
「えっと・・・あっハイ。ありがとうございます。魔力を・・・うん・・・出来そうです。ハーブに魔力を込めるのと同じ要領ですね」
さらっとスゲエこと言ったなこの人。錬金術師ってやっぱり才能が無いと慣れないっぽい。普通はモノに魔力を宿すのは付与魔法で一時的に「纏わせる」くらいしか出来ないんだけどね。付与魔法も錬金術みたいに沁み込ませるようなのとは違うし。
「では、他のみなさんも彼女に従って行動してください。よろしくお願いします」
「「「はいっ」」」
彼らは領主様が用意した家人だ。お嬢様のお手伝いをしに来たらしい。将来的には彼らの中からも錬金術師が出てくれば儲けものかな・・・。
ジュリーのアトリエを後にして、今度は外側の柵の様子を見に行く。今は外堀を掘って水を引いている段階だ。内側の壁は地下水を引いているので、こちらの水はチョット危ない。地上を流れる川の水は魔力を多分に含んでいるので、MPの最大値が低い人には毒だ。魔力酔いと呼ばれる状態になり、過剰に魔力を取り込むと昏睡状態になる。
「釣りが出来そうだなぁ・・・」
あれ、これって漁が出来るのでは? ふと上流の川と下流の沼に繋げた部分を思い出す。特に関を設けていないので、増水しても溢れないような深さにしているが・・・。
「作ってみよう」
パッとゴーレムを作ってお堀の外側に幾つかの建物を建てていく。門から少し放して、釣り堀用に少しお堀から水を引けるように掘って・・・。
かなり段差があるプールになったが、釣れない事も無い。周囲から魔物が襲ってこないように、外側の柵と同じもので囲いつつ、入場ゲートを用意して完成。
「後はこれを四方の入り口付近にも作っていくか」
再度ゴーレムを作り出して別の門付近にも、同じような形で釣り堀を作っていく。
「いいねいいね」
一か月後、釣り堀は街の皆の糧食を得る場となったので、北と西は養殖場に作り替えた。




