029
「番号!」
「いち!」
「に」
「さん・・・」
「しぃ」
「以上四名集まりました!」
元気に監督官二人に報告し、受付の前で並ぶ4人。そして頭を抱えるお姉さん。
「別に点呼は要らないわ。気を付けて行ってらっしゃい」
「はい!」
「うっす」
「あいよ」
「はあい」
男二人女二人の構成で出発だ。監督官も男女だが彼らは人数換算しない。出発から帰還まで、彼らは付近で観察するだけだから。
東門を出て草原に向かう。その辺りにオークがいるらしい。
「皆さんの名前は何ですか? 私はユリアです」
「知ってるわぁ。私はアンネ。よろしくね」
「名前なんてどうでもいいだろう・・・」
「俺はフランクだ」
男衆が非協力的な気がするんですけど! どうでもよくないわ! 連携し辛いだろ!
「アンネさんとフランクさんとドウデモイイという名前らしい人ね、よろしく」
「おい」
「じゃあラリルレロにしましょう。ラリさんで良いですか?」
「ちげーよ! なんでそうなる!」
「だって教えてくれないし」
サクサクと足元の短い草を踏み鳴らしながら行進を続ける。
「デボンだ」
「デボンさんね、よろしく」
「ちっ」
なーにが気に食わないんだデボンは。
「ちょっとぉ、これから命預ける仲間どうしなんだしぃ、もう少し大人な態度をとったらどうなのぉ? 子ども相手にみっともないわよぉ」
「うるせえ。見た目が子供だろうが、こいつは特A級じゃねえか。何で一人でやらせねえんだ」
「俺は頼るつもりは無いがな。それでは試験の意味が無い。嬢ちゃんも、同じような事を受付のねーちゃんに言われてるんじゃねえか?」
「そうだよ、基本的にチーフを狩る事以外では身を守ること以上の事はしないよ」
手元でグルグルと水魔法の蛇を弄りつつ、フランクの質問に回答した。
「それって何がどうなってるのぉ?」
「水魔法の水球を変形させて、指示通りに動かしてるだけだよ。蛇っぽく見せるだけで、魔力制御、消費魔力の逓減化、維持力を鍛えられる訓練法」
「ふぁ~・・・初めて見た」
「やってみる? どの属性でも出来るよ」
火水土風に加えて光と闇の球を変形させると、アンネが目を丸くした。
「え? え? え? すごい! 全部の属性っ! えぇ!?」
空中を行進する様々な属性の兵隊人形が私の周囲を埋め尽くす。数体じゃなく、次々に出していくと、いつしか七色の繭のような感じになった。
「どうなってんだこりゃぁ・・・」
「・・・ちっ」
魔法の音は出ないので、そのままサクサクと草を踏む音だけが続いた。
◇◇
「そっちいったぞ!」
「はーい、後ろ2、右3です。左2は放置」
「やぁ!」
「・・・くっ」
オークの集団を見つけると、気配察知からオークロードの配下の一つだと判明した。
周囲の分布状況は、火魔法の変形を利用して簡易的なマップを空中に作って説明する。
狙うべきは中心から離れたオークチーフの集団。それを付近の林の中で発見し、現在私の指示で襲撃中である。
「罠に左3体掛かったまま行動不能。後ろは片付いた。右はそのままフランクさん前衛、アンネさん魔法で支援」
「あいよっ」
「りょうかいぃ」
「デボンさんはチーフをもう少し抑えてて」
投石でチーフの持つ槍を破壊すると、チーフが唖然とする。デボンさんが追撃を入れて、足を負傷した大柄なチーフが膝を付く。
「ぅしっ!」
前衛二人に付与魔法を加えて補助効果を更新すると、フランクさんの剣が右手のオークの首を飛ばした。
「ヒュウ! すっげぇぜコリャ!」
「あたしもぉ、魔力がいつもよりすごぉい!」
「右、片付いたら、左にフランクさんとアンネさん」
「おぅ!」
「はぁい」
手早く片付けてきた二人は動きが良い。体の動かし方を知っている。アンネさんもナイフ使いなので、斥候も出来る風魔法使いらしい戦い方をする。のんびりした喋り方と違って、戦い方は一番激しい。
「デボンさん二歩下がって。チーフがそろそろバーサーク」
狂戦士スキルを持つオークは多い。体の脂肪が多いので防御力が高く、痛覚が鈍いのも種族特性だろう。おまけに巨体を生かした膂力も人間とは段違い。初心者殺しとしては良い壁である。
「うわっ!」
予想通り、デボンさんが今までいたところに大きな拳を叩きこまれた。しかも拳が土の地面に埋まっている。強烈な打撃音を響かせながら、デボンさんが大きなラウンドシールドで受け流し続けているが、そろそろキツいだろう。
「左、終わったぜ!」
「ん、アンネさん遠距離で支援。フランクさんは背後を取って攻撃」
「いいよぉ」
「あいよ!」
「はっ、早く頼む!」
ゴガァン、ゴギャ!と盾を斜めに叩く音が響いている。チーフの手には一掴みの石が握られていた。あれだな、人間もやる「手の内側に石を握り込んで、拳の威力を上げる」やつだ。
「デボンさん、そろそろキツい?」
「ぐっ・・・盾が持たねえ!」
「ほい、じゃあゴーレムと交代」
ロードも・・・まだ来ないか。気付いてさえいないな。風の結界は優秀だぜ!
「はぁはぁ・・・助かる」
ゴォン!ドォン!とアダマンタイトゴーレムが拳と拳をぶつけ合っている。当然ながらそんな事をすればオークチーフの肉の拳などひとたまりもなく・・・。
「ぐぎゃあああああ!?」
ミンチとなった片腕の拳が手首からなくなっていた。
「今!」
「っしゃああ!」
「うん!」
背後からフランクの剣が首の後ろ、背骨を切断した。正面からはアンネのナイフが首の血管を切り裂く。
攻撃直後に飛び退いた二人の居た場所に、巨体が目の光を失って倒れ込んだ。見事、討伐完了である。
「・・・倒したか」
「うん、デボンさんが耐えてくれたおかげ。ありがとう」
「・・・普段からそういう感じならイイ女になるだろうによ」
「ああ、この喋り方? 指揮は解り易く、的確にね」
「・・・なるほどね、勉強させてもらった、礼を言う」
右手を握って前に出すと、彼もその手を握ってコツンを合わせてくれた。やっぱり、悪い奴じゃなかったな。
「よー、コイツはこの場で解体するのか?」
「うぅん~、見つかっちゃうんじゃないかしらぁ? ロードが居るんでしょうぅ?」
「討伐証明の耳だけ取って、埋めちゃいましょう」
「・・・もったいねぇ」
残してても、解体してても匂いでバレるからね。普段はそういう判断が必要になる。そう言って説明すると、3人も解っているらしく納得してくれる。
帰りは悠々自適だった。監督官の一人は先に戻っているらしく、気配察知には帰路の途中から街へ離れていく感覚を覚えた。
問題なく街に帰り、ギルドでカードの更新をしてもらう。3人はこれで晴れてE級冒険者だ。次のD級には1年掛かると言われる、依頼達成数100件を超えないと試験に挑戦すらできない。
「まぁ、一先ずお疲れさん。これで俺たちも一人前ってわけだ」
「そうねぇ、下っ端卒業かしらぁ?」
「・・・まだまだこれからだ」
そう言ってギルド直営の酒場で乾杯をして、彼らは宿に帰っていった。3人は今回の試験で知り合った仲だそうだが、構成も良いためパーティを組むらしい。私も誘われたが、構成が特A、A、Aであることを伝えた上でパーティを合わせる事を提案すると、遠慮された。何故ですか?
◇◇
「E試験突破おめでとう」
「ありがと、お母さん」
二人で夕食を作っていると、後ろからアドの泣き声が響いて来た。サリーがおむつを替えているのが目に入る。
「あれも、良いもんだねぇ。もっと早く作ってくれりゃよかったのに」
「何年も開発期間が掛かったから・・・ちょっと直ぐには難しかったかな」
吸水性を考えると青麟蜘蛛の糸では不足するし、この世界の資源について私は疎い。一から様々な魔物を狩って、素材に関して商業ギルドと冒険者ギルドで情報を集めて、次に北の大森林で目的の魔物が狩れるまでゴーレムを徘徊させて・・・とやっていたら今年まで掛かってしまった。
「ポポンのエラがおむつになるなんて考えたのはユーリだけだろうね」
「しかも洗えば再利用可能。アレは良いものだ~」
ポポンは陸を歩く魚だ。エラで皮膚呼吸する変な奴だった。
オムツを作ることに成功したけど、大は流石に吸収しない。おむつ用洗濯層を作って毎日のようにそこに放り込まれる大量のおしめは、既に我が家の風物詩である。二階のベランダはおむつ用洗濯物干し場と化しているのは想定外だった。優雅に食卓を囲めるくらいの広さを用意したのに。遠めに見たらただの乾物屋だな。
トントントンと使い慣れた包丁で野菜を千切りにしていく。もう足元に台は作っていない
。最近の私は身長150センチを超えて、完全に大人の仲間入りだ。もうすぐ11歳なのでママンと同じくらいの高身長になる可能性は高い。180センチだからね。
「そういえば、また王子様から手紙が来てるよ」
「えぇ・・・最近毎月だよ?」
「キスされたんだろう?」
ニヒヒと悪戯っぽく笑うブランを少し睨む。手にキスされたんです! マウストゥーマウスじゃありません!
「ああいう意味があるって知らなくて、素直に受け入れちゃったんだよ・・・」
「でも嫌いじゃないって顔してるよ。美形の王子様って噂じゃないか」
「私は冒険者になりたいのに・・・」
「振り回してやりゃいいのさ。妊娠してるわけじゃないだろう。ユーリが妊娠したら私は無理矢理にでも冒険者を止めさせるけどね」
それは解ってるけどねぇ・・・。私に子供かぁ。まだ私自身が子供だし!
「子供の内に子供を産むつもりはありません」
「あたしは別に反対しないけどね。あんたを作った時なんてアルトは私より身長が低かったんだから」
「え!? 意外・・・想像できない」
「可愛かったんだよ?」
「あんなマッチョなのに!?」
うわー、うわー、今は手足ツルツルマッチョなのに!? あ、ウチのパパは毛が薄いです。頭の毛はまだ無影響だけど、きっとハゲる。
あっはっはっは!と笑うブランママを放置しつつ、何とも言えない、親の子供時代を想像していた。
「あー、笑った。マッチョになったからねぇ。その王子様も細身なんだろう? でも国王陛下は体が大きいって事は、その王子様もシルバ達もマッチョになるかもしれないね」
「まぁ・・・そうなると思うよ。別に嫌ってわけじゃないけどさ」
むしろ細いガリガリよりマッチョの方が良いかな。頼りがいあるし、一緒に寝てて骨ばってるのはちょっと。
その後、家族からE級合格のおめでとうを貰って下の子たちとお風呂に入った。いやー、サリーがお姉ちゃんしてるぅぅぅ。可愛いぃぃぃ。




