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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
29/97

028

 フィビレリアの南門は出入りが激しい。何故なら王都との交易が盛んだから。逆に北門は交通量が減っていく。辺境に向かう商人は少ないから。


「という訳で入り待ちです」


「毎度の事だから平気よ」


「大店の商会が多いね・・・僕が見た事のある紋章ばかりだ」


 モンドさんが見ているのは馬車に取り付けられた商会マークで、これが○○商会の封蝋などにも使われている。ユリアブランはママンの横顔だ。本人は気付いておらず、私の顔だと思っているけど。


「・・・騎士団が多くない? 前に通った時はこんなにいなかった気がするけど」


「うわぁ・・・検問ついでに誰か探してる感じよ」


「会長を探してるのでしょうか・・・」


 モンドさん多分正解です。モンドさんの会長呼びは慣れないけど、正式な部下ってこの人が初めてだからしゃーない。ブランママは共同立ち上げ人というか・・・普通に家族扱いだし。


「馬車のマークだけ隠しとく?」


「中も見られてるみたいだからバレるわよ。というかゴーレム馬を使ってる時点で、此処に居るって宣伝してるような物じゃない?」


 そうかな? ゴーレムを使ってる姿は王都でも見せなかったけど・・・。


「高位魔導師はゴーレムを従えている事が多いですからね。仙人級を合格した人なら当然と思われている節はあります。私も同じことを考えると思いますし」


「そうかぁ、ダメかぁ。なんで探されてるんだろう?」


「ユリアか・・・私か、どちらかじゃないかな」


 ああ、北央騎士団団長がお兄さんだっけ。


「連れ戻される?」


「縁を切ったのは向こうからよ。私もそれを了承しただけ。今更、戻って来いなんて言われても知った事じゃないわ。強いて言うならお爺様の枠組みよ。家名も捨てたしね」


 そう言えばフィブリールと名乗ってるの見た事ないな。


「ん~、あとは私をどうにかしたい感じ?」


「どこぞの貴族が手を回して仕方なく捜索に協力してます、ってところかしら? 騎士団がユリアを探すメリットって無いのよね。あなたが直々に陛下の誘いを断っているし、それを無視して北央騎士団に入れようとしたら、今度は騎士団が陛下に睨まれるわ」


「叛意あり! と見なされるわけだ」


「そういうこと」


 へぇ~・・・とモンドさんが感心している。私も同レベルなので只々感心するばかりです。こういう、貴族のいざこざの裏を読むところとかは、私には足りてない部分だなぁ。


 等と考えていると私たちの馬車の番になった。


「身分証を見せろ」


「どうぞ」


 一人一人冒険者証を見せると、カードと私たちの顔を見比べる騎士。当たりですか、そうですか。何やら後方にサインを送ったのか、周囲を騎士たちが取り囲みはじめた。

 私はそれをみて風獣をモフっていた。


「あんた、緊張感無いわね」


「だって特に問題ない人しかいないし」


「まぁ・・・弱そうだしね」


 そうなのだ。人員が不足しているのか知らないが、この手の作戦行動に向かわせた騎士のレベルが20~30とは、これ如何に。やる気が感じられませんなあ! モンドさんはレベル21なので相当焦っているようだけど。


「いやいや、普通に鍛えられた騎士じゃないか! 北央騎士団だぞ?」


「平均レベル25ってところですよ。ハイネさん一人で事足ります」


「始まる前からサボリ宣言しないでくれる?」


「馬車の床下に土魔を召喚してあるから、ある程度の不測の事態は問題ないですよぉ~・・・ふあぁぁ」


 ソファに座った状態で膝に乗せた風獣の後頭部に顔を埋めつつ欠伸を上げる。うーん、モフモフ。


「その、土魔ってどういうものなの? 元素魔法なんでしょう?」


 ハイネさんが懐から普段使いの小さなステッキを取り出す。魔法の発動媒体として有効なあれだ。私は素手なので、同レベルの魔法使いより若干威力に劣ると思っている。


「土の悪魔」


「・・・・・それって何が出来るの?」


「ギルマスと死合した時のような事が出来まぁす」


 風獣のうなじ辺りをクンカクンカしつつ適当に答える。


「周りの騎士、全滅するわよ? 死なせないように気を付けなさいよ」


「あい~」


 ふと、気配察知に強者の気配を感じた。

 モフモフから顔を上げ、その方向に顔を向けると、御者席側のガラス窓の向こうに、長身で筋肉が締まっているであろう、騎士のお偉いさんかもしれない人が近づいてくる。


「ハイネさんアレって、お兄さん?」


「ん・・・そうね。残念な事にね」


 レベル68って相当強いね。闘気制御LV7かママンより強いぞ。


「うん~・・・神官のお爺ちゃんの方が強いかな・・・」


 ふぁぁぁと再び欠伸をしてソファにもたれ掛かった。

 馬車のドア付近に立ち止まったハイネ兄は剣を抜き、そのまま、ちょいちょいちょい!


「ふんすっ!」


 土魔が金属の槍で剣を叩き折り、金属の触手で全身を縛り上げる。野郎馬車を破壊しようとしやがった! いや、それどころか、馬車ごと闘気剣で叩き切るつもりだった!


「野郎ぶっとばす」


「ちょ! 待ちなさいユリア!」


「え? え?」


 バァンと馬車の扉を蹴り開け、仰向けに縛り付けられている男の胴体付近に乗る。

 周囲の騎士も既に捕らえているので、土魔様有難うございますって感じだ。


「ふんっ」


 腰を落として鳩尾に拳を落とすと、着ていた鎧を凹ませて、衝撃が地面に貫通した。仙気やべぇ。白目を剥いて横たわるハイネ兄を放置して、ギルドカードを預けたままの騎士をひっ捕らえる。


「返して?」


「ひぃ!」


 自前の土魔法で触手を作り出し、カードを三枚引っ手繰ると、土魔さんに道を開けさせた。さて、これは多分、このハイネ兄の独断の可能性もあるな。副官的な奴はいないのかしら。


「この中に北央騎士団副団長は居るかしら?」


「副団長は、城に・・・」


「バカッ!喋るな!」


 おお、正直さは美徳ですよ。


「ありがとう。騎士団の詰め所かしら? それとも政務中?」


「・・・」


「言わないと剣を振れない体になるわよ」


「・・・詰め所で訓練の指揮を執っている筈だ」


「そう」


 土魔さんに馬車の天井へハイネ兄を縛り付けてもらい、そのまま私は御者席へと座る。だって、門が閉まっているんだもの。

 門は魔力を込めると動作する魔導機械で操作するのが一般的だ。ユリア町の門と同じなら同様の仕掛けがある筈だが・・・。


「土魔さん、あの辺の壁の中にスイッチが無いか調べてきて。あったらレバーを上にあげてきて」


 グニグニと足元の土魔さんから、了承の念が送られてきた。暫く待つと門が開き、悠々と門を潜る。後頭部の御者窓がカンカン煩い。振り返るとハイネさんが睨んでいた。

 ガラス窓を開けると溜息一つ。なんすかー?


「どうする気?」


「副団長さんのところに行って色々と話を付けてくる」


「あの子のところに行っても、兄さんの言いなりになるだけよ」


「あの子?」


「弟なのよ。家族全員、騎士団の要職だから」


 うわぁ、フィブリール家の家族経営って感じだわ。それってどこの騎士団も同じなのかな。というか貴族全体がそうか。


「そのお兄さん、上で白眼剥いてるから、起こす気は無いよ」


「え?」


「気絶して運搬中」


 上を指さしてあげると、アホの後頭部が御者席側の屋根の端に見えていた。


「あ~・・・最終的にどうする気?」


「王都に戻って判断してもらうのが一番かなって考えてる。私も同行しないと、有耶無耶にされそうだし」


「闘気を纏って切りつけてきたのは間違いないわね」


「ハイネさんも見たでしょ。あれは馬車が前後で両断されてたよ」


「そうね・・・」


 闘気剣というのは、剣に闘気を纏って伸長させることが出来る。これで大きな魔物も一刀両断だぜ! という利点があるのだが、アホが使ったのは正にそれだ。


 そのままハイネさんの案内で城に向かい、彼女の名前で入城し、アホを縛り上げたまま鍛錬場に行くと副団長さんが出てきた。


「姉上!? それに・・・団長は何をしたのですか?」


 察知能力高いな。普段から問題のある団長だったらしい。問いかけにハイネさんがつらつらと答えた。


「王子殿下のお気に入りの女性殺害未遂。私の殺害未遂。彼の殺害未遂。暗殺示唆容疑。そんな所かしら」


「・・・・・詳しく聞かせてください」


 懇切丁寧に解説を入れながら説明し、王都に連行していくつもりであると伝えると副団長は青い顔になった。まぁ、陛下は許すかもしれないけど、王子殿下は許さないかもしれないからね。どうしようね。


「兄上・・・いや、団長閣下の弁も聞かせていただきたい。気絶したまま目覚めていないのですか?」


「ん・・・土魔さん、起こして良いよ」


 ウゴウゴと足元でうねりながらアホを縛り上げている触手を外していくと、呻きながらアホが目を覚ました。


「ここは・・・私は・・・ぐっぅ・・・」


 痛む腹を抑えるアホを見下ろし、念で土魔さんを操作して手足を縛り付ける。


「な!? 何だこれは! やめろ! 無礼者が!」


 無礼者はお前だと思いつつ、淡々と鎧を剥ぎ取って、罪人宜しくパンツ一丁にしていく。首のお守りみたいなのは・・・副団長に預けておこう。


「はい、これ、どうぞ。なんか大事な物っぽいので」


「あ、ああ・・・ありがとう」


「貴様ぁ! 返せ! それは家長に受け継がれるフィブリール家の証だぞ! 貴様が触れて良いものではない!」


 うっせ、口を閉じとこう。


「モヴッ!」


 うっわ土の触手が入っていった・・・土魔さん見た目がエグイです。


「さて、何をお聞きになりたいのでしょうか」


「・・・事実確認がしたい。兄上、あなたは闘気剣で彼女の乗っている馬車ごと、彼女を殺害しようとしましたね? 馬車には姉上と、その恋人が載っていた。検問でそれを確認した上で実行に移したと聞いています。事実ですか?」


「・・・・・」


「事実であれば頷いていただけますか。反応が無い場合は肯定と受け取ります。私は貴方の行動を見てきた者として、あなたならやりかねないと考えています」


 アホが副団長を睨みつけ、周囲の騎士たちは黙りつつもどうしていいか分からないと言った顔の者が多い。


「肯定と取らせていただきます。ユリアさん、姉上、モンド殿、婦女殺害容疑の罪人を王都まで連行します。ご同行をお願いできますか?」


「やっぱり、陛下の裁定は必要かしら?」


「これが只の平民なら、私が沙汰を告げる事が出来ますが・・・兄上はフィブリール家の家長であり、陛下に忠誠を誓う人間です。更に、話が本当ならばユリアさんは王子殿下の想い人だと言うではありませんか。これを知らぬ存ぜぬでは通せません。南門の検問所という、大勢が見ている事実ですからね。放置すればするほど、我が家は没落の憂き目に近付くでしょう・・・」


 ハイネさんは沈黙し、副団長は深く息を吐き、アホは私と副団長をしきりに見比べていた。アホの表情を見る限り、私が王子殿下とどう関わっているのかは知らなかったようである。


「彼は・・・ただ命令されただけのように思えますが、この人に命令できる人間は限られるのではないですか?」


 私の問いに副団長が頷く。


「四方守護の私たち騎士団は、王都の聖騎士団の直属となっています。命令できるのは陛下と聖騎士団の団長と副団長のみです。彼らが王子殿下の婚約に絡んでいるかは存じませんが、その辺りは調べたほうが良さそうですね」


「そちらで調べる事は可能ですか?」


「・・・兄上を尋問して聞き出します。恐らく母上も絡んでいるでしょう。おい! 訓練はここまでだ、千人長は全員私と共に来い!」


「「「はっ!」」」


 10人ほどの千人長と呼ばれた者がアホを連行していった。副団長は歩き始めた足を止め、ハイネさんに振り返る。


「姉上、これから母上の下へ参ります。恐らくこれが最後でしょう。お会いになられますか?」


 ハイネさんは黙って首を横に振ると、「今日は城でゆっくりして行って下さい」とだけ告げられて、副団長は城内に入っていった。


 ◇◇


 後日、北央騎士団長、その母、王都の一部貴族が処罰された。

 北央騎士団長は免職となり、投獄。

 ハイネさんの母親は教会預かりとなって、幽閉。

 盗賊を使って私を襲わせた貴族は、暗殺容疑で処刑。お家断絶だそうだ。


 王子殿下は例の高級宿に泊まっていた私の所に現れ、ただただ謝っていた。彼が謝る必要など何処にも無いので、手を取って「怒ってないですし、許します」と言うと数分間抱きしめられてしまった。


 う~ん、これはこれで悪くない、かな?

 ただ・・・。


「どうして殿下が同行される必要があるのですか・・・」


「北央騎士団の任命式に出なければならない。王都では簡易的に副団長が父上から任命されたが、こういうものは本来、領民の前で行われるべきものだ。代替わりを明確に知らしめておかねばならないからな」


 彼は今、私の肩を抱いて私の馬車に乗っている。何これ完全に俺の女アピールじゃん。私の真向かいに座ってる従者の彼は、既に諦めてしまったのか、書類が入ったカバンを足元に置き、木製のボードの上で何かの書類に何かを記入している。見た目も女性っぽいのでキャリアウーマンな秘書のようだ。


「従者さんは書類の管理もされているのですか?」


「・・・ええ、殿下が仕事をしないので」


 なるほど、私の肩を揉んでいた彼の手が止まった。そんなに揉んでも何も出ませんよ。


「私は公使共にしっかりしている方が好きですね」


「奇遇ですね、私も従者としてそのような主が好ましいと思っておりました」


「気が合いますね」


「そうですね」


 カリカリカリと羽ペンを動かす彼は、書類に集中したまま作業を続けている。


「わ、私も、仕事をしたくなってきたかな? うん、ノール、私にも何か寄こせ」


「いえ、殆ど終わっていますので結構です。後はコレを書き上げて、本日分も明日分も未対応の書類は御座いません」


「・・・・・」


 王子様が私の肩から外した手は、従者ノールの前に出されたまま固まった。その隙に風獣を膝の上に呼び出し、顎を風獣の後頭部に乗せると、モフモフが口まで埋まる。


「そういえば、ハイネさんは新しい北央騎士団の団長さんから何を頼まれたんですか?」


「ああ・・・弟が魔法師団の訓練官をして欲しいと言っていてね、私とは縁を切ったのだから、正式に冒険者への依頼として出させてもらうって・・・これ、指名依頼書」


 依頼書を受け取ると、確かにそう書いてあった。


「何で私の名前も書いてあるんですか」


「パーティで依頼を受けたからね」


 ああ、そういう事・・・。

 私とハイネさんとモンドさんは同じパーティとして冒険者ギルドに登録してあるので、パーティ単位で依頼を受ける事が出来る。これはパーティメンバー指名の依頼でも同様だ。依頼料は分割されるけどね。


「ユリアたちのパーティ名は何というのだ?」


 復活した殿下が乗って来た。


「ユリアブランです。商会名と一緒にしたほうが宣伝になるかと思いまして」


「なるほど。どちらで活躍しても名が売れるという事だな」


「はい」


「実は私も冒険者登録をしていてな、良ければ私も「殿下、こちらの書類の確認だけお願いできますか」・・・ああ」


 従者ノールは優秀だった。

 渋々受け取った書類の束を、ぴらぴらと捲りながら殿下はフィブリールまでの道程をそうして過ごした。


 ◇◇


 城の客室から出て訓練場に向かう間、ハイネさんがふと思い出したように話し出した。


「そういえば、結局妨害した貴族達にとっては、王子殿下の後押しをした形になったわね。こうして旅程を共に出来ているし、言い寄ってくる似非婚約者も減った。ユリアを肩に抱いて恋人面出来る・・・最高の状況じゃない?」


「やめて」


 将来の王太子殿下、将来の国王陛下の恋人とか、玉座の横でジッとしてる人生になっちゃうじゃない。私の目指す夢の冒険者ライフを遠ざけるような事を言わないで!


「でも、冒険者として大成するのも、王妃様になるのも、どちらでもやりたい事は出来る気がするけど・・・どちらにしてもユリアはジッとなんてしてられないでしょ」


「まぁ、そうだけど・・・」


 カツカツと城の廊下を歩くと、石造りの廊下は二人の履いているブーツの足音を響かせる。我が家とは違う石質の反響音は新鮮だ。この場所だからだろうか、ハイネさんの話し方が貴族ベースになっている。


「王妃になって、権力持ってた方が、あなたの言う文明の発展も叶いやすいんじゃないかしら? 一商会長じゃ限界があるでしょうに」


「私がそれをやると権力の乱用になりそうだから嫌なのよ。私の知らない所で必要のない不幸が起きそうだもの」


 今回のような貴族家お取り潰しのようなものはまだ良い。因果関係がハッキリしていて、誰が悪くて誰が裁かれたのかが明確になっている。でも・・・。


「何も悪い事をしていない人が犠牲になったうえでの発展なんて、私の努力目標である“みんなが幸せ”を叶えられないじゃない。それじゃ本末転倒だわ」


「そういうものかしら・・・ユリアって、年齢と環境の割に、王族みたいな考え方をするわね。本当はブランが何処かから攫ってきた他国の王女様とかじゃないわよね」


「どう見ても私の顔の造形はお母さん譲りだと思うけど?」


 銀髪! 青目! 9歳にしては大きな胸! 剣の才能! ほらブランの娘でしょう。


「分かったから無い胸を寄せるのを止めなさい。メイドさんに笑われるわよ」


「あるし! 手で包めるくらいは出てきたもん!」


「大声で言うな馬鹿!」


 また一つ、たん瘤が増えた。


 馬鹿なやり取りをしつつ訓練場に入ると、既に副団長・・・否、団長閣下と魔法師団の面々が整列して待機していた。


「やぁ、姉さん。ユリアネージュ殿も手数をかけて済まない」


「依頼として来ていますから、お気遣いは無用です」


「そうね」


 因みにモンドさんはまだ就寝中だ。ハイネさんのせいである。


「普段はどのような訓練を?」


 私が質問すると、魔法師団の隊長らしき人が一歩前に出た。


「はっ、魔力制御訓練と、小隊行動での移動戦闘を想定した訓練を行っております」


「なるほど、実践的な訓練ですね」


 という事はアレが出来るかな。ハイネさんを見上げると、ご自由にどうぞと言われているので頷き返されただけだった。


「それでは私と同じことを各自でやってみてもらえませんか? そうですね・・・横一列で、何列かに分かれてください」


 そう指示すると、中隊毎の列があっという間に出来上がった。軍隊すげぇ。

 見えやすいように足元に石の台を作って、彼らが見上げる形になるまで高さを上げる。因みにロングスカートなのでパンツは見せない。


「属性は何でも構いません。手元に作り出した魔法を変形させてください」


 手元に火、水、風、土の魔法を並列で発動し、それらをグニグニと変形させていく。

 火はトカゲに。水は蛇に。風は獣に。土は細身の人形に。


「作り出したらそれらを操作してみてください。歩かせる、飛び上がらせる、飛行させる、火を吐かせる、躍らせる、回転させる・・・何でも構いません」


 トカゲは飛び上がりながら火を噴き、蛇は空中を本物の蛇のように進んで私の周囲を歩き回り、獣はそれを追いかけるように走り回り、人形はその場で踊る様に回転を始める。


「これらを少ない魔力で、且つ長時間出来るように続けてください。最終目標は寝ながらやる事ですが、火魔法の方は火事を起こす可能性がありますので、硝子の箱などを用意したほうが良いですね」


 まぁ、寝ながら出来るようになるまでが長いんですが。

 思った通りに行く人が少なく、出来る人は両手と上半身を動かしながら糸で操っているかのように必死で動かし、出来ない人は唸りながら魔力を過剰に放出している。


 足元のハイネさんを見ると、指先に火の蛇を作り出し、それを数匹操って舌をチロチロと出させていた。流石に魔力制御技術が高いだけある。


「これらを使って細かい仕草をさせたり、数多く作り出せるようになると、次第に普段使っている魔法の威力・精度・継続力が爆発的に上がります。このようにゴーレムを複数体操る事も苦ではなくなりますので、集団訓練ではなく各自の訓練として、朝晩続けてください。続ければ余裕で魔導師級になれますよ」


 出来た!おぉ!?すげぇ!と、歓声が次々と上がっている。お尻の下の台を下げて団長の元に戻ると、横のハイネさんは大量の火蛇に埋もれていた。


「ハイネさん・・・火魔法が得意なのは分かるけど・・・」


「え? あ、ああ、楽しくなっちゃって」


 へへへと蛇を消していくハイネさん。楽しそうで何よりです。


「団長さん、こんな感じで如何ですか」


「そうだな・・・あとは集団戦闘で何かアドバイスをもらえると嬉しい」


「そうですねぇ・・・じゃあゴーレムと戦わせてみましょうか」


 結論から言うと、これは失敗だった。

 私の作り出すゴーレムは、発動時に500近いMPを使って、アダマンタイト・オリハルコン・ミスリルの合金で出来ているので、指ロケット弾も何も使わずに、魔法師団を取り囲み、拳で全員ノックアウトしてしまった。


「すみません・・・」


「いや・・・いいんだが・・・もう一度、出来るかい?」


「はい・・・」


 団長が声を張り上げ、気絶者がゾンビのように起き上がる。手加減しないとパンチで体内から大爆発する程の腕力なので、魔力はかなり抑えて動かしている。

 魔力を抑えるとパワーもスピードも体表を覆う魔力のガードも弱くなるのだが・・・。


「ちっくしょう! 何で直撃してんのにビクともしない!」


「ゴーレムがダッシュで追いかけて格闘術を使いやがる! ありかよ!」


「何で出来てんのよアレ!」


 最終的には端から倒され、ゴーレムたちに囲まれる流れは変わらなかった。

 3回繰り返したけど、4度目で魔力切れを起こして逃げ回るだけの人が多くなったので、途中で団長さんに止められた。


「見てて痛々しかった・・・」


「操作してたのはあんただけどね」


 気絶者を起こす団長を見ながら本日の訓練は幕引きとなった。お疲れさまでした。

 翌日の訓練はハイネさんが一人一人と魔力の「押し合い」をして、威力計測をするというものだった。多数の魔獣を殺してきた彼女は、凡その魔力の強度を魔力越しに感じる事が出来るという。

 それによって、倒せる魔物、苦手な魔物、覚えるべき戦い方を一人一人伝授していく。

 ハッキリ言って私の訓練よりも身になった事だろう。あれ? ハイネさん此処に残ったほうが良くね?


「いやよ。騎士団所属の魔法師なんて堅苦しくて仕方が無いわ。毎日のように家族の上下関係と周囲の期待で押しつぶされそうになった場所なのに、戻りたいわけないでしょ」


「うわぁ・・・ストレスたまりそう」


 私も絶対御免である。


 ◇◇


 北央騎士団の城で歓待を受け、王子様に腰を抱かれながらパーティに出席し、離れたくないと抱きしめられ、あわやキスされそうになりつつ見送りしてもらった。


「あ、あぶなかったー!」


「もう少しだったわねぇ」


 クスクスと笑うハイネさんを睨みつつ風獣を抱きかかえる。


「でも手にはキスされていなかったかい?」


「え、うん・・・まぁ、されましたけど」


「あれはね、男性が女性に膝を付いてやる場合・・・この国ではあなたを愛していますという行動なんだよ。それを黙って受け入れた会長は、周りの目にはどう映ったかな?」


 モンドさんの言葉に一瞬思考が止まった。


「ちょ、え、あ、ええええええええ!?」


「うけいれちゃったわねぇ」


「しっかりと数秒間、手の甲にキスされてましたね」


「やったわねぇ」


「やったね」


 あはははと二人の笑いを聴きながら、あの場に居た面子を思い出す。

 フィブリール領は王都周辺の守護役だけあって、王子様の周りには貴族も集まる。

 そして王子が見送りというレアイベントに貴族が集まらない訳がない。

 場所は城の出口だったけれども、仕事で来ている貴族、野次馬で顔を出した貴族と十人以上が集まっていた。


「うわああああああああああ!? いっぱい見られてるうううう!?」


 それはもう大勢に認知されたものである。

 その成果のお陰か、以降の旅程は静かに消化できた。一人だけドンヨリしている私を他所に、新婚夫婦はイチャイチャし通しだった。爆発してしまえ。


 その後、ステータスを見て、再度落ち込んだ。


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 ユリアネージュ(10歳)

 種族:素人

 レベル:106

 HP:9657

 MP:24302

 状態:通常


 スキル:剣術LV10、瞬歩LV3、格闘術LV5、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV4、刻印魔法LV4、付与魔法LV7、気力制御LV10、魔力制御LV10、仙気制御LV2、並列制御LV10、闘気制御LV6、気配察知LV9、HP自動回復LV2、MP自動回復LV6、真実の瞳、フリキア言語LV8


 称号:魔闘剣士、大魔導士、大商人、特A級冒険者、A級商会員、王子様の恋人

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 王子様の恋人・・・王子様の恋人・・・。


 ◇◇


 そして、実家に帰って来た!


「ただいま~・・・」


「おかえり、ってどうしたんだい? 試験落ちた? 先に届いた手紙には、受かったって書いてたけど・・・」


 出発してから3ヶ月は経過しているだけあって、流石にお産も終わっているだろうという読み通り、ブランのお腹が引っ込んでいた。代わりに彼女の胸には元気な男の子がウトウトしている。私も10歳になったし、当然か。


「ううん、手紙を送った後で色々とね・・・とりあえず」


 両手を伸ばすとブランママが膝を付いて空いてる片手を拡げた。

 その胸に優しく包まれると、返ってきた実感をしっかりと得る。


「ただいまお母さん」


「お帰りユーリ」


 すぐ横に居る弟グレアドモスからミルクの匂いがする。やっと首が座ってきたころかな。そう思いつつ、足元に寄って来たサリーたちが抱き着いて来た。


「ねーねおかえり!」


「ねーねかえり!」


 モルトを抱いたサリーが私に抱き着きつつ、弟を押し付けてくる。う~ん温かい。子供体温に包まれるぅ~。


「あそこだけ幸せ空間ね」


「そうだな」


 ハイネさんとモンドさんは一先ず家で暮らしてもらう事にした。翌日には町役場で敷地の購入をして来たので、早速ゴーレムたちと家を建設。結婚プレゼントとして二階建てのお屋敷をプレゼントしておいた。場所はお隣さんである。


 それからは日常にゆるゆると戻っていき、家族にも私の目標を教えた。サリーが私も大森林いく!と言っていたが、ブランママは成人するまで許さない。彼女もこれから剣姫の訓練に参加するようだ。


 我が家の大黒柱はと言うと、ウチの商会で雇い入れて私の知識を利用した新しい作物の品種改良研究を始めてもらった。

 開拓村として農地の拡大を進めていたが、もはやこの街は住宅街と商業街で埋め尽くされる事が確定している。なので、今後の壁の向こう側に広げていく予定の農地に、品種改良した作物を植えられないかという計画を領主としている。


 やっぱり田舎なら農業の事も考えないとね。技術は上がってもご飯は土から採らねば人は飢えてしまう。どれだけ街に活気が出ても、農業従事者は大事にしていかなければならないと、懇切丁寧に説明した。


 それに感動したのか、私の商会と共同で開発する事となり、最初からいた4つの農奴家族は全員そこで農業研究開発者となった。農業のプロが開発するのだから間違いないだろう。間違いなく良いものが出来る筈だ。何故ならば全員の農業スキルレベルが高いから。


 この世界のスキルは嘘にならない。魔法スキルを覚えれば、高レベルで意のままに魔法を使えるように、高レベルの農業スキルは意のままに作物を作り出せるはずだ。


「という訳で、ハイネさんには私のゴーレムを操って、植物採取の依頼を受けてもらいます。私は13歳にならないとお母さんの許可が取れないので、パーティメンバーとして、商会長として依頼申請します!」


 因みにブランママも私のパーティに参加している。

 特A級、A級、A級、E級とかなり高レベルなPTだ。E級のモンドさんは冒険者廃業っぽいけどね。今後は商会員として仕事に専念するらしい。


「まぁ、良いけど。何で彼らも一緒なの?」


 私達は今、冒険者ギルド前に居る。そしてそこには、ハイネさんとE~C級の冒険者が10人ほど並んでいる。


「彼らは元農奴です。つまり、農業従事者でした。しかもそこそこ農業スキルが高いらしいので、彼らに扱える植物かどうかを見極めてもらいます」


「俺たちは見た感じで、それっぽいのを持って来るだけだぜ? そんなんで良いのかよ」


「はい。ただ、出来れば大量に、なるべく多くの種類を持ってきてください。解毒薬として神官見習の方も同行しますので、じゃんじゃん触ってください。あ、食人植物には気を付けてくださいね!」


「近づかねーよそんなもん!」


 ややあって、ハイネさん達は出発した。大量の収納ゴーレムと一緒に。

 そして私はと言うと、この冒険者ギルドでやる事がある。


「E級昇格試験の受験をお願いします」


「ユリアちゃん・・・ついに来たわね、この時が」


「来ましたよ」


 スッと受付に出したギルドカードについては、受付のお姉さんも既に知る所だ。最初は特A級と書かれ、オレイカルコス?という反応を見せながら、何かを諦めたのか淡々と裏面の説明書きについて納得してくれた。


 というのも予めギルド支部間の通信魔法で事情は伝わっていたらしい。ギルド総長直々の通達なので、連絡が来た時は支部長が大慌てだったとか。


「えぇ~と、E級の試験は監督官の付き添い付きでオークチーフの討伐ね。これを倒せることを証明できれば問題無いわ」


「何でオークチーフ?」


「魔物の危険度判定でE級は村単位の集落を一匹もしくは群れで滅ぼせる程度。つまり、

 元々群れを率いる性質のあるオークの中でも、最下級のチーフが適任ってわけ」


「それってオークロードとかも出て来るんじゃないの?」


「それを見極めて撤退も考慮できる腕前が必要って事よ」


 そういうものかな?


「倒してしまっても良いのだろう?」


「何そのセリフ・・・今回は複数の冒険者と一緒に行動してもらうわ。彼ら基準でものを考えて行動しなさい。つまり、レベルを落とした行動を心掛けなさい」


「・・・は~い」


「嫌なのは表情で分かるけど、しっかりね」


 面倒くさいって顔に書いてありましたか、申し訳ありません。


「他の受験者は?」


「明日の朝、此処に集合するわ。全部で・・・ユリアちゃん含めて4人ね。受験生4人と監督官二人。監督官は元C級冒険者のギルド職員だから、本来は彼らが危険な場合に助けてもらえるわ。今回はユリアちゃんが居るから、特に心配してないけど」


「ロードやキングが出たら、私は逃げ惑うだけにしておきます」


「それでいいわ。じゃあ明日ね」


「ありがとうございました」


 さて、明日の準備といきましょう。


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