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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
25/97

024

「初めまして。ハイネリアと申します。本日より家庭教師としてお世話になります」


「ええっと・・はい。お名前だけは存じています・・・」


 ブランママが珍しく恐縮している。


「私もお名前だけは存じています。可愛いご子息ですね」


「末の息子のモルトです。モルト~ハイネおねえちゃんですよ~」


「・・・・・」


 おお・・・流石のハイネ先生もモルトの可愛さには何も言えなくなった。強制的に姉にされたハイネリアが黙っている! うちのママン強ぇ!


「お母さん、私の部屋で教えてもらうから。モルトが可愛いのは解ったから後にしよう?」


「しょうがないわね~、じゃあ後でお茶でもお持ちしますね~」


 ふんふん、ふ~んと鼻歌を歌いながら母は台所に向かった。


「・・・私の知ってる剣姫とは別人な気がするな」


「冒険者ギルドで聞く噂とは随分違いますからね」


 実際のところ、10代前半のブランは戦闘狂として有名だったらしい。王都のギルドマスターとなった人物に師事し、剣技と闘気を操る戦闘の天才だったらしいが、調子に乗って周囲に喧嘩を吹っ掛ける事も多い問題児だと言われている。


「今は立派な母親という訳か・・・」


 先生の顔が少し羨ましげに見えた。実は心優しいひとなのかと思ったのだが、しかし部屋について座学が始まるとそんな事は一切なかったでござる。


 初級魔法というのは基本魔法とも呼ばれ、火球や水流、土人形に風刃といった初歩的な単体を対象にした事しか出来ない。

 中級魔法になるとそこに魔力を残留させる方法が加わる。火球の周囲を一定の魔力だけをその場に残し、周囲の魔力を取り込みながら魔法効果を残留させるのだ。


「あれ・・・これって既に出来てます」


「だと思ったから、中級は飛ばすぞ」


 なんかハイネリアさんが先生モードになった気がする。威厳のようなナニカを感じる!


「はい」


 上級魔法はさらに広範囲に影響を及ぼすために、魔法の発動段階にひと手間を加えられている。最上級魔法は広く濃厚に魔法効果を及ぼす。大海嘯等がその典型だ。


「う~ん・・・結界を張ったり、大海嘯を発動する前の魔力浸透がその段階ですよね? 空気中に周囲の魔力と自分の魔力を入れ替えて、急激に広げていく感じの・・・」


「まさにそれだ。ただ、ユリアが使っている最上位魔法との違いは、継続効果が薄い点だな。これならば、風の衝撃波を与える魔法のような一瞬の効果を目的とした場合に非常に有効だ」


「なるほど・・・その分、発動も早いですね。この、ショックウェーブという魔法がそうですか?」


「そうだ。他にも火魔法のファイヤフラッドに、土魔法のレゾナンスウェーブも同様だな。素早く広範囲に。ま、主に雑兵狩りに使う魔法だ」


 魔物の氾濫に使える魔法だが、広範囲に魔力を拡げる分、魔力消費量が多い。うちのママンが使っても3・4発が限界だろう。魔法スキル持ってないけど。


「あ・・・この、一点集中型の魔法というのは何ですか?」


「これは熱線砲のような集中型の魔法よりも、更に魔力を凝縮した魔法だな。さっきユリアが使った火球のようなものが該当する」


 ああ、そういう事か。

 あの魔法は私の指先と同じくらいのサイズの火球に周囲の魔力を食い尽くすような威力を込めている。オークの腹に投げたら貫通して小さな穴が開くような、凶悪な殺傷力がある。


「・・・という事は、この魔力付与の魔法と併用すると凄い事になりそうですね」


「そうだな。あれだけの魔力を込めると、大抵の武器や防具は自壊するけどな」


 何それ怖い。ぶっこわれんの?


「魔力分解という言葉は聞いたことがあるか?」


「いえ・・・」


 ハイネ先生曰く、過剰に魔力を込めた物質はその形状を保つことが出来なくなり、塵となって分解されてしまうらしい。砂のようにサラサラと消えていく事から、物質の破壊方法としては他に類を見ない手段だと言われている。


「道端の小石を破壊するのに、数百人単位の魔法使いが必要だけどな」


「それって魔法とは言えないんじゃ・・・」


「ああ、魔法ではない。理論上可能で現実的では無いってだけで、魔方式も必要としていない。ただの魔力暴走だよ」


 ああ、そうか。人間の魔力暴走は手が粉砕したり、強烈な頭痛で目鼻口耳から大量に出血して死ぬとか教本には書いてあったけど、物質のように塵となる事は無いのか。


「想像している通り、人間の魔力暴走とは違う。そこまでの魔力を持ってる人間ならば・・・魔力暴走と同時に全身が塵になるかもしれないけどな。少なくとも私の知る限りではそんな膨大な魔力を持ってる奴はいない」


「理論上はどれくらいの魔力が必要なんですか?」


 うーん、とハイネリアが眉間に皺をよせ、鑑定石について教えてくれた。


「ステータスと呼ばれる能力値を教えてくれる、鑑定石という魔導具がある。その魔導具は教会の管理だから私は持っていないが、そいつを使うと、私のMPは7200ちょっとだったな。その辺のC級冒険者の魔法使いが800程度、宮廷魔導士が2000程度だから、彼らからすれば私も多い方だ」


「それでも先生が塵になったりはしない?」


「無理だな・・・」


 先生という言葉にピクッと反応したあと、少し顔が赤くなった。あれ、意外と可愛い。


「数百人の魔法使いだから・・・宮廷魔導士換算だと20万から100万くらい?」


「そんなMP持ってる奴なんて魔王とか異神とか言われるランク外だろう。ドラゴンですら最上位魔法を自己魔力で100発撃ったら魔力切れになると言われている。事実として記録されているから間違いない」


 そこまで戦える人が現実に居るって事が怖いね。冒険者って世界滅ぼせるんじゃないのかな。


「それくらい強くなれますかね・・・」


「ユリアは現時点でそれくらいだと思うよ。次は魔力付与だが・・・」


 これは喜んでいい事なのかな? 自分で思っているよりも、周囲から見た私の評価は上なんだろうか。授業の後でステータスを見るとそんな気分になってきていた。


 ---------------------------------------------------

 ユリアネージュ(9歳)

 種族:素人

 レベル:92

 HP:7460

 MP:21571

 状態:通常


 スキル:剣術LV10、瞬歩LV2、格闘術LV2、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV10、闇魔法LV10、元素魔法LV3、気力制御LV10、魔力制御LV10、並列制御LV9、闘気制御LV5、気配察知LV8、HP自動回復LV2、MP自動回復LV5、真実の瞳、フリキア言語LV8

 称号:魔闘剣士

 ---------------------------------------------------


 ◇◇


 ハイネリアが家庭教師として我が家に居候するようになって、朝から晩まで私に鍛錬と授業を繰り返す日々が続く。

 半年も過ぎる頃には一通りの事を修め、卒業試験として王都に行くことになった。


「その前に、気力・魔力・闘気の制御を見せてくれ。その状態で自分に付与魔法を掛けてもらう」


「はい!」


 呼気に合わせて吐くと気力が溢れだして魔力が体内を巡る。

 呼気に合わせて吸うと魔力が溢れだして気力が体内を巡る。


「・・・相変わらず恐ろしいほどの自然体ね。天才って嫌になるわね」


 何やらぶつぶつと呟く先生は一旦放置し、闘気を纏う。

 溢れる気力が練り上がり、練り上がった気力が全身に浸透していく。それが体表に噴出すると、肌の硬度が上がり、竜の鱗を身に纏うようにモヤモヤが明確な形状を作り始める。


「その状態で次は魔力を練って、練った魔力で付与魔法を使え」


「はい・・・」


 右を見ながら左を見ろと言われるような事だが、呼気に合わせて間断なく行えばいい話だ。ただ、一瞬でやる必要があるだけで。


 練った気力は闘気となって循環しつつ、魔力制御に集中して魔法を発動すると、様々な補助魔法が肉体に掛かる。自分の肉体を媒体として補助魔法を使い、魔法を「固定化」する。それが付与魔法だ。


 補助魔法のように継続して魔力を失う事が無いが、この固定化が途轍もなく難しい。陶芸の初心者に、人間国宝の作品を目隠ししながら作れと言っているレベルで難しい。


 闘気を維持しながら魔法の固定化を行っていると、先生の視線が厳しくなっていた。順調に固定化を終えると、その目が閉じられる。


「・・・おめでとう。それで準備段階が完了だ」


「はい・・・え? 準備段階?」


「ああ。私はその段階にすら至っていないけど。私の師匠であるお爺様の教えでは、闘気と錬魔を合成する事で、仙気と呼ばれるものに変化するらしい」


「あの・・・あの方は何者なんですか?」


 普通じゃないよね、確実に。


「北央騎士団の元騎士団長で、私の祖父で、私の魔法の師匠よ。私は家を大嫌いな兄が継いだから縁を切ったけどね」


 どうでも良いという顔で手をヒラヒラさせて語る先生は、嫌そうな話は終わらせろと言わんばかりの顔をしていた。

 というか元騎士団長って、お貴族様じゃん。何でこんな辺境の神官をやってるんだろう。


「何でって顔をしてるわね。此処の領主とお爺様が肉親関係だからよ」


「え? 領主様が隠し子とか、そういう話ですか!?」


「なんで喜色満面なのよ・・・まぁ、その通りだけど」


 隠し子を見守るお爺ちゃんかっけえ。多分、後ろめたさからだろうけど。

 良いなぁ。きっと貴族の男と、町娘のラブロマンスとかあったんだろうなぁ。

 アレコレ根掘り葉掘り聞いてみたいなぁ。嵌めた仕返しに聞き出してやろうかなぁ。


「厭らしい顔してんじゃないわよ。ただの妾の孫って話よ」


「神官さんってもう80過ぎでは・・・?」


「貴族は60になっても子供を孕ませるのが多いわよ?」


「元気なんですね」


「変態と淫乱が多いだけよ」


 元も子もない事を言う。貴族は子供を残すことも仕事の内と聞くけど、多分自由恋愛を許されない中で、愛し合って生まれた子供ばかりが認められない・・・そんなラブロマーンスが、そこかしこであるわけね!


「愛ですよ!愛!」


「何に感化された訳? まぁ、義母は今も愛されてるらしいから、彼女を見れば少し納得できるけどね・・・」


「え? え? どういうあれですか? 本妻が亡くなったから、息子に家を任せて、隠してた愛人と辺境でハッスルですか!?」


「あんたどういう教育受けたらそうなんのよ! 普通に静かな生活を送ってるわよ!」


 そんなことないだろ!隠れてた罪悪感と贔屓目で、家を捨てて愛を取るなんて、そんなの、もう、たまんないだろ!


「愛の逃避行なんですよ!? そんなん新しい命が出来てて当然じゃないですか! 先生がお父さんとお母さんの情事を魔法で覗いてるのと同じくらい平気に起こりえる話ですよ!」


「なぁぁんで知ってんのよ、馬鹿弟子!!!! それとこんな所で大声で叫ばないでよ!! 家にいるブランに聞こえるじゃないの!!」


 おっと、少し興が乗ってしまいましたね。落ち着け私、ヒッヒッフー。


「ヒッヒッフー。良し落ち着いた。もう大丈夫ですよ」


「はぁ・・・もう良いわよ。というか、それだけ興奮して長時間その状態を維持できてるだけで充分変態よ」


 変態認定しないで!


「ちがうし! 先生が変態なだけだし!」


「ちがうわよ! 年寄りの愛の逃避行に興奮してる女と一緒にしないで!」


「私が変態なら、年下だからってお父さんの痴態に興奮してる先生も変態です」


 因みに先生は25歳です。


「ぐっ・・・んぬぬにぬぬぬぅ!」


 そこで魔力が付きかけたので下らない掛け合いは終わった。因みに家の中に戻ると顔が真っ赤なブランママが居て、ハイネリアさんは平謝りしていた。

 5人目を妊娠しているので、あんまり体調に変化が出るような事を言わないで欲しいですね!


 ◇◇


「で、何で王都に行くの?」


 ジト目のブランが夕飯時に私に聞いて来た。あ、そう言えばその話について昼のうちに話してもらうつもりだったのに、恥ずかしさのあまり部屋に引きこもった先生から聞けてなかった。


「あ、そう言えば聞いてない。先生何で?」


「あー・・・えーっと・・・魔導士認定試験を受けさせたくて・・・」


 先生は俯き加減でボソボソと言っているが、覗き魔なのは既にバレているのでフォローのしようが無い。大声で話してたからブランには聞こえていたようだ。


「魔導士認定試験なら聞いたことがあるわね・・・C級冒険者は磨いた腕を試験で証明し、魔法学院の奴らと同等以上だと証明するために受けに行く・・・だったかしら?」


「そう、その試験です」


 完全に上下関係が明確になっている。今までは若干ハイネ先生の方が上だったのだが、今やブランの方が上だ。首輪でもつけられたかのようだわ。


「試験には段階があったと思うけれど、何だったかしら?」


「魔術師級、魔法師級、魔導師級、魔賢師級、仙人級ですね」


 魔賢師とかなにそれ。スキルに当て嵌めるなら、初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法、仙気魔法級かな?

 だとしたら魔賢師級を受験するのかな。


「この内、仙人級を受けてもらいます」


「先生!? まだ仙気は使えませんけど!?」


「明日、師匠に教えてもらうわ。理論上は可能よ、自分を信じなさい」


 いうだけ言ってモグモグタイムに戻りやがった。無茶苦茶言ってるなコイツ。覗き魔のくせに。覗き魔のくせに!

 目で訴えると先生の顔が赤くなってきたので、この辺にしておこう。


「それで? そのまま王宮魔導士に雇われるような事にはならないのよね?」


 あっ・・・これは本気の質問だ。特定の相手のみに殺気を当てるという、高等技術を食事中に使わないでいただきたい。


「う・・・はい。そこは問題ありません。A級冒険者として、異論を挟めるだけの権限がありますので・・・」


 気まずい空気が流れる中で、食器とシルバーの音だけが響く。


「そう、なら信じておくけど、私の娘を嵌めるような事をしたら、あなたのお爺様を使ってでも取り戻しに行きますから、そのつもりでいて下さい」


「はい・・・肝に銘じておきます」


 完全に罪人の弁である。まぁ、ここは少しフォローを入れておきますか。空気が重いし。


「大丈夫だよ。王都のギルマスさんに声は掛けて置くし、お母さんの紹介状を持っていけば会えるでしょ? 商人ギルドの中にも味方になってくれる人は何人かいるから、先生一人だけしか私の周りに居ない訳じゃないよ」


「そうね・・・師匠に手紙でも持たせるわ。ギルドの受付で渡しなさい」


「ありがとう、お母さん」


「いいのよ」


 やっぱブランママは笑顔じゃないとね。怒った顔のままだと、冒険者ギルドの噂通り銀髪鬼という言葉がしっくり来てしまうからね。


 ◇◇


 翌朝、神官さんの下を訪れると、呆れた顔をされた。


「まだ一年も経っておらんぞ?」


「出来てしまったのですから仕方ないでしょう」


 また長い溜息を付かれた。なんでですか!


「見せてみなさい。裏庭でやってみよう」


「はい!よろしくお願いします!」


「うんむ・・・」


 結論から言うと上手くいった。

 余り教えたくなさそうだったので、愛の逃避行について根掘り葉掘り聞いていると、質問を止める代わりに全部教えてもらう事になった。素晴らしいな!


「見事じゃ」


「ふしゅぅぅぅ・・・」


 呼気が熱い。体温も異常なほど上がってるし、汗が凄まじい勢いで蒸気に変わっていく。これ、汗臭くないよね?


 全身を闘気と練魔の混合気である、仙気が覆い、薄っすらと青い輝きを見せている。体内と体表を覆っているので、外の空気は入ってくるが、汗臭さは内部に残るようだ。

 吐いた息は体表で何かに分解されている気がする。閉鎖空間特有の息苦しさも無い。不思議フィールドとでも言うべき何かだ。


「どうじゃ? 気力と魔力の先に立った気分は」


 深刻な目で私を見る老神官、いや元騎士団長はそう問いかけてくる。


「・・・・・あの」


 私も真剣な顔で返答すべきだな。


「なんじゃ」


「私、汗臭くないですか」


「・・・・・・・・これで仙気の伝授は完了じゃ、もう行け」


 呆れた顔で元騎士団長は教会の中に入って、子供たちの下に向かっていった。

 え? あれ? 何かほかにコメントは?

 ハイネ先生に振り向くと、こちらも呆れた顔をしていた。


「お前、それはないだろう・・・」


「えぇ!?」


 重要なとこでしょ! 女の子が全身から蒸発するくらいに汗を流してるんだよ! 気にするでしょ!


「・・・まぁ、なんだ匂いは無いから安心しておけ」


「はぁ~~~良かった~~」


「まったく・・・」


 呆れつつ半笑いになった先生は何処か楽しげだった。一回帰ってお風呂に入るべきかどうか本気で悩んだんですけどね。まぁ、これで仙気も覚えられたし良いか・・・。


 ◇◇


「それじゃ、行ってきます」


「寄り道すんじゃないよ」


「うん」


 頭をぐりぐりと撫でられて風獣に跨ると、その後ろに先生が恐る恐る乗ってきた。


「こ、これは大丈夫なの? 落っこちたりしない?」


「もっとリラックスしないと落ちるかも?」


「え!? ちょ、ちょっとまって、まだ心の準備! ああああああああ!」


 問答無用! 風獣よ! 出発だ!

 私の思念を読み取った風獣は家の敷地から一気に上昇し、南部へと駆ける。そのはるか先にある王都には4つの領地を跨がないといけない。


 馬車で数か月、風獣で数日。うん、どっちを選ぶかは考えるまでも無いよね!

 風の結界魔法を張り、空に爆風をまき散らしながら南へとひた走る。時々寄っていく大きな街で夜を明かし、大体三日間で走破可能なはずだ。


「ねぇ、先生。試験はいつ実施されるの?」


「半年に一回、年二回だな。毎回、直前に詳細な日程が出るから、早めに王都について宿で待機しておかないと、前日までの受験申請が間に合わない場合もある。商人ギルドのギルドカードがあれば問題ない。そもそもA級商会員のカードを持ってるんだ。何も心配いらないだろ」


 そう。この数年で私はG級商会員からA級商会員に爆速で上がってしまった。

 ブランママも私の狩って来た素材のせいでA級冒険者になってしまった。もう殆ど狩に出てないけど、腕は磨いているので以前よりも強くはなっている。


 B級上位というところだったが、ユリア町に来たA級試験の試験官に勝ててしまったのだ。流石剣姫というべきだろう。


「じゃあ少しは王都観光していい?」


「ああ、観光してる暇があれば良いぞ」


「なんで?」


 暇じゃないの?


「ギルドに行ってからのお楽しみだな。まだ予測でしかないが、何となくどうなるかは見えて来るよ」


「絡まれるって事?」


「行ってからのお楽しみだ」


 何それ不安。ギルマスが襲い掛かってきたりしないだろうね。熱線砲で灰にしちゃいそうだぞ。


「王都のお土産とかどうするかなぁ」


「あんまり買い込まないほうが良いぞ。マジックバッグを持っている訳でもないだろう」


 何それ気になる。


「まじっくばっぐって何ですか」


「小さい鞄に大量の荷物を入れられる不思議な鞄だ。古代遺跡の出土品でな、一説によると古代の空間魔法が使われてるんじゃないかと言われている。学園都市領都の魔法都市の噂話と、冒険者ギルドの古代文献の両方でそう言われてるから、ほぼ間違いないんだろうな」


 空間魔法ってことはワープとか出来たりしちゃんですかね。良いなぁ、そしたらいろんなところに行きたい放題じゃん。


「空間魔法って覚えられないんですか?」


「過去にそんな奴はいないって事だけは確かだな」


「実は何処かに居たりしません?」


「覚えたいのは解るが、少なくとも私は知らんぞ」


 むぅ・・・ダメか。この反応は本当に知らなそうだ。それに、空間魔法を使えるような人なら、文明を破壊できる存在からも逃げられそうだし、もしかしたら生き延びてる人間・・・いや別の生命体がいるかもしれない。


「リッチとか・・・」


「いやぁ・・・空間魔法を使うA級魔物とか会いたくないだろう」


 たしかにそうだった。即死させられそう・・・。


「それよりそろそろ今夜の宿場に着くぞ。見えてきた」


 先生が前方に指をさした先には、夕日の中でチラホラと明かりを灯し始めた街があった。


「あれがフォルタンだ。フォルテナード領の領都だな」


「狭くないですか?」


「ユリア町と一緒にするな。あれだけ巨大な外壁なんて王都にしかないぞ」


 そうなのか。それにしても急斜面だな。森林地帯の山の中に作られたせいで、森の中の山に逃れるように街があるように見える。


「山の上に作ったのは何でですかねぇ」


「鉱山街だからなー、鍛冶師と木工師の天国だというが、同時に森の魔物も多いから冒険者にとっても天国だな。狩がし易い」


「なるほど」


 モクモクと鍛冶場らしき煙が数十本も上がっているのを横目に、街の入り口目掛けて風獣を着陸させると、そのまま入り口までトコトコ歩かせた。


「止まれ! 何者だ!」


「A級冒険者のハイネリアだ。ギルドカードを確認してくれ」


「そのミスリル証は・・・確かに、こっちの子と魔獣は?」


「この子は商業ギルドの・・・ほら、出しな」


 ちょっとまってくださいねっと・・・首に掛けたカードの紐が・・・。

 胸が見えそうなんですけど!引っ掛かって取れない!


「ちょ、ちょっと・・・まって・・・取れた」


「う、うむ・・・A級商会員!? こんな子供がか!?」


 まぁ~、そういう反応になるよね。私もそう思うわ。


「それ、偽造不可能だから、そうとしか言えないぞ」


「しかし・・・この魔獣は?」


「この子は魔法使いでね、この子の召喚獣だ」


「風獣です! かわいいでしょ?」


 フンフンと門兵さんの胸を嗅ぐ狼に似た風獣は、間合いを取ろうとする門兵を追いかけたりはしない。尻尾を振って、くぁ~とあくびをするだけだ。可愛いアピール大事。


「そ、そうか・・・今、照会を掛けるから待っていてくれるか?」


「はーい」


 伏せの姿勢で待つ風獣の上にうつ伏せになり、モフモフを楽しんでいると照会が終わったのか門兵が門の横の待機所から出てきた。内側の小窓が外壁の中と繋がっているらしい。


「問題ない、門を開けるから入ってくれ」


「ありがとう」


 ギギギギギギと鋼鉄の大門が観音開きで開き、ギャリギャリギャリギャリと何かが巻き上げられる音がする。機械で動く感じかな。ウチの大門と違って大分使い込んでいる感じがする。


 どうやら時間帯によっては開放しているらしく。早朝だけ人通りが多いため、それ以外の時間は閉めっぱなしのようだ。まぁ、周辺が魔物だらけだもんね。しょうがないね。

 門兵のレベルが高いのも納得だわ。レベル43って相当高い方だよ。


「あの門番さん強そうだったね」


「ああ、どの街も門番は街の顔と言って良い、ベテランしか付く事の出来ない仕事だからな。新米を門番にする等、街の防衛をするつもりがありませんと言っているようなものだ」


 なるほど、そういえばキリシア教の神が、魔物絶対殺すマンの女神だったっけ。そりゃ教義に反する事は出来ないし、そもそも守るべき人々が中に居るのに、騎士団としても馬鹿な真似は出来ないか。


 風獣は送還しているので、私たちの見た目はほぼ親子。実際は覗き魔と商会長。え? 師匠と弟子? ははっ。


「凄いね、どこもかしこも鍛冶場だよ。一般の商店が少なすぎる・・・」


「その商店も殆どが武器防具の店だ。ここだけ戦争でもやってんのかって感じだな。客層も武装した奴しかいないしな」


 ほんとだ。男も女も斧と剣と弓を背負って、槍を試し用の藁束についている人もいる。店先でやるなよ。せめて裏で試してほしいわ。危ないなぁ。


「冒険者ギルドには顔を出さなくて良いの?」


「別に移動報告義務もないからな。何より私は今現在、ユリアの依頼対応中だ。報告しても指名依頼が来たところで動けん。報告する意味が無い」


「それはそうでした」


 よって冒険者ギルドはスルー。適当に食料店で果物と保存食を買って、そのまま宿に直行した。既に日は落ちてしまっている。


「ここがこの町で一番マシかな。割合静かで料理も美味く、遠くから温泉を引いてるから風呂にも入れる」


「オンセン! 良いね!」


「だろう、入るぞ」


「おー!」


 周囲から微笑ましい笑顔を向けられながら宿に入ると、その日は初めての温泉で至福の時を過ごした。残念ながら後頭部をオッパイ枕で幸せタイムを味わう事が出来なかった。

 次はブランママと来よう。


◇◇


「ふぁぁ・・・」


「はしゃいで飲み過ぎたな・・・」


 少し眠い状態のまま、上りかけた朝日を浴びながら南の空を駆ける。ハイネリアは昨晩の温泉でお風呂に入りながら一杯やっていたせいで、少し二日酔いらしい。酒に弱いくせに調子に乗るからである。


「朝のフルーツジュースは美味しかったよ?」


「次は自重するよ」


 あぁ・・・とボヤきながら、背中の先生が朝日を眺める。


「次は何て街かな?」


「昨日言った気がするが、トラーナだ。ハルトラーナ領の領都だな」


「あぁ、果樹園が有名で果物がいっぱいの」


「そこは覚えてるんなら名前くらい覚えてもらいたいな」


「いやぁ・・・」


 えへへと笑って誤魔化しつつ、割とすぐに街が見えてきた。


「かなり近いけど、フォルテナード領って狭いんだね」


「いや、あそこは森と山に囲まれてるから資源が多いんだ。移動もままならないし、普通はフォルタンからトラーナに南下するだけで一週間は掛かるぞ」


 あ・・・そうね。空飛べないもんね。またやっちまいました。


「じゃあ、今日はトラーナでお昼!」


「そうだな、少し遅いが、街に入ってから食べるとしよう」


「やった!」


 今日は干し肉食べずに済む! 塩分過多で口の中がうぇぇってならなくて済む!


「ごっはん~ごっはん~」


「まずは街に入る所からだ」


「はーい」


 風獣を入り口付近に卸すと、トテトテと歩いて近づく。途中でハイネリアが降りるのは、やはり高所恐怖症もあるのだろう。地面に足を着けると毎回、安心したように溜息を付く。


「止まれ、その魔獣は何だ?」


「A級冒険者のハイネリアだ。あれは召喚獣だから街に入る前に送還する」


「・・・そっちの子は? 娘か?」


 おぉっ・・・なんかピキリと聞こえた気がする。


「違う、弟子だ。ユリア、ギルドカードを見せろ」


「あっハイ」


 おぉー。この人も強い。LV38だって。一般兵がLV22とかと比べるとかなり強いな。冒険者で言うとC級上位の強さは在りそうだ。

 前回と同じく少し待たされて街の中に入ると、色とりどりの果物商店街が顔を見せてくれた。


「すっごーい! 果物天国! ねぇ、アレ一個ずつ買ってくる! 良いよね! 買ってくるぅぅ!」


「あっおい!」


 ほぼ全種類買った結果、翌朝までに食べきれない量になったのは言うまでもない。


 シャクシャクと果物を齧りながら天を駆ける。今日も今日とて陽光を浴びながら風獣が駆ける。その背中でボタボタと甘い汁を溢しながら。


「おいひー!」


「よくこの状態で食べられるな・・・」


「だって悪くなっちゃうし!」


「あぁ・・・そうだな・・・」


 ハイネリアは甘いものが得意ではないらしく、水分多めのほんのり甘い果物しか食べられなかった。そしてこの辺りは熱い気候なので、出来上がる果物は大抵極甘である。

 余った果物は大物ばかりだが、昨日の昼から今日の昼にかけて、延々と果物を咀嚼する私を見て胃もたれを起こしているようだった。


「よく食べるなほんとに」


「育ち盛りですからー! ですからー!」


「二回言うな鬱陶しい!」


「ですからー!」


 んふふふふふとモグモグしながら食べる私と、甘い匂いにゲンナリしている先生が次の街に到着したのは夕方頃だった。


「もう幾つかの大きな街を過ぎてますけど、本当にアレで良いんですか?」


「ああ、あれが北央騎士団の街、フィビレリアだ」


「ふぃぶ・・・なんて?」


「フィビレリアだ」


「言い辛い」


「同感だ」


 いきなり辛辣な評価を受けた街の入り口に入ると、これまで以上に警戒された。


「貴様ぁ!止まれ!魔獣を近づけるとは良い度胸だ!叩き切ってくれる!」


「うわ、なにあれ」


「騎士の街に来たんだから当たり前だろう」


「とりあえず風の結界っと」


 ゴゥッと周囲を風塵結界が覆うと、騎士の剣を弾いた。


「なにっ!?」


 なにっ!?じゃないよ。いきなり切りつけて来やがって。

 スタスタとハイネリアが近づくと、ギルドカードを見せて淡々と話し始めた。普段通り過ぎてちょっと面白い。


「A級冒険者のハイネリアだ。あれは召喚獣だから入る前に消す。あの子は弟子だ。ユーリ、ギルドカードを」


「はーい」


 結界越しにカードを提示すると、後ろの風獣を消した。そこで漸く剣を仕舞った騎士はまじまじとカードを見て不満そうに一言。


「ふんっ・・・確認する」


 ありゃ新人だな。レベルも低いし。

 スタスタと待機所の窓から内部に確認を取っているが、仲間にも偉そうな態度で話が進んでいない。ダメだろアレ。


「あの人は弱そうだね」


「ああ、騎士の街ってのは名ばかりなのかもしれないな。あれならE級冒険者以下だぞ。王都周辺の守りを仰せつかっているというのに、あの兄の部下らしいといえばらしいけどな・・・」


 なるほど、此処は王都北の守りと言ったところか。その点について先生に聞くと、どうやら東西南北と異なる騎士団が守護役として配置されているらしい。それに、あの兄らしいという事は、お兄さんはアレと同じタイプなんですかね。


「じゃあ、王都の人からすれば、ここまでが王国の中心地みたいなものなのかな」


「殆どの王都民はそう思ってるだろうな。前に言ったように、ユリア町なんて辺境の果てにあるんだ、あそこが王国の領地である事も知らない者の方が多いだろうよ」


 ウチの実家どんだけ田舎なの!

 南も東西も同じくらい遠いのかと聞いたところ、南はすぐそこが海で、東西は北の倍以上は支配地域が広く存在するらしい。


「前に言わなかったか? この大陸は中心地に大森林地帯があるんだ。人類は何百年かけても、その最深部に到達した事が無い。古代遺跡があるとか、魔王が居るとか色々噂されているけどな。実際に見たものは居ない。行っても帰ってこられないから」


「想定ではどれくらい先に中心地があるんですか?」


「確か概算では・・・ここからユリア町まで行く距離の10倍近く北に中心地があるんだったかな。それ以上だった気もするが、私は北の大森林に大した興味はないからな、詳しくは知らない」


「10倍以上・・・今まで狩に行ってたところが中層だと思ってました」


「浅瀬も浅瀬。まだまだ先は長いぞ」


「ですね」


 久々の先生モードのキリッとしたハイネリアさんを見つつ、ようやっと戻って来た低レベルで偉そうな門兵さんからカードを返してもらった。


「確認したが、街の中で召喚したら即刻捕えさせるからな、覚悟しておけ」


「はーい」


「どうも」


 ちっ、と舌打ちした門兵を見送りつつ門が開くのを待つ。


「あの人、私が大貴族だったらどうなるの?」


「良くて懲戒解雇、悪くて処刑だな」


「こわーい」


「王都に近付けばそう言った機会も増えるという事だ。何を理由に不敬罪にされるかわからん。気を付ける事だな」


「はーい」


 街の空気はこれまでと違って、穏やか・・・というより冷たい静けさだった。みんなお行儀よく、悪い事は絶対に許しませんという空気感。

 これがどうにも居心地が悪い。余裕のない人間の集まりとでもいえばいいのか、どこもかしこも伏し目がちな人ばかりで、幸福そうな町とは程遠い。


「なんかヤダねここ」


「人間らしさを極力省いていくように調教されると、それが街全体の空気になっていく。この街で育った人間はみんなそうやって教育されていくんだろうな。領主の性格がよく出ているよ」


 それってーと、つまり・・・。


「んー・・・もしかしてハイネさんのお兄さんって・・・」


「ああ、ここの領主だ」


 現役騎士団長兼領主!? ってことは、あの老神官は前領主!? まじかよ、やべーな! 人材の無駄使いにも程があるわ!


「それを聞いて尚更、お爺さんがユリア町へ来た事に納得したわ」


「同感だ。こんな町、さっさと離れるに限るだろ。前から酷かったが、お爺様の代ではかなり持ち直していたらしい。父上の代で悪化し、兄上の代でさらに悪化した。元々は明るい街だったんだがな。此処に立ち寄る度に、目に見えて悪化していっているよ」


 捕らえられた罪人が騎士団に物のように扱われて引きずられていく。切られた手足から流れた血が、ポタポタとレンガ道を濡らしていくが、石の道を引き摺られているので、すり切れた肌の血液が地面にズリズリと塗りたくられている。


 思わず顔をしかめてしまう光景だ。魔物の解体は何度も幾種類もしているが、人の血は見慣れない。最近になって自分の血は見たけどアレはタダの生理現象だしな。


「という訳で生理用品を買いに行きたいのですが」


「何だ藪から棒に。そもそもまだ来てないんじゃないのか」


「昨日きました」


「それはおめでとう。で、持ってないのか」


「持ってないから買いに行くんです」


「やれやれ・・・」


 生理用品って言っても、植物の綿みたいなのが付いたやわらかい棒を入れるヤツ。始めて使うのでちょっとワクワクしてるのは内緒です。


「ここ、かな」


 ハイネさんがそれっぽいところを見つけ入って見ると、店内にはお薬や治療具などが色々と置いてあった。色んな棚が置いてあって、どれがどれだか・・・んぁっ!?


「これだ!」


「声がでかい」


「す、すみません」


 ちょっと気合入れ過ぎましたすみません。

 一瞬店内の全員がこっちを見て、生暖かい目で見られた。特に女性客に。

 あの人たち絶対「あらあの子キタのね」「キタみたいね」「これであの子もキタさんね」とか言ってるんだよ! 何がキタさんだよ! ユリアさんだよ!


「ユリアだし!」


「うっさい!」


 せんせぇ・・・高レベルのガチ殴りは止めてください・・・頭に瘤どころか罅が入りそうですぅ・・・。


 粛々とタン〇ンを買い、宿に入ってゲットセットした。特に興奮はしなかった。


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