021
商人というのは私のような製造業以外にも、旅をして転売をし、物の流れを作るタイプや、量販店のようにモノを集めて自分の店頭で販売するタイプ、もしくはその全てを自分の商会ですべて賄う大商会等が存在している。
一番多いのがこの旅をして転売するタイプで、駆け出し商人に多い。営業上手で、誰かが作ったものを上手く売り込み、必要なところに適正な値段で売り、信用を得て商いを繰り返す。
そうしていつかは個人商店を持ち、店頭販売しつつ流通を行い、利益を増やして行くというのが一般的な流れだ。
なので、私のような売れ筋商品だけを開発し、大量に商業ギルドに卸売りを行い、僅かな仲介料を取られても良いから大量の利益を得る、といった大商人のような手法を最初からとる馬鹿者は居ない。少ないのではなく居ない。
「ですから、当商会はギルドにしか販売しておりませんので、お求めになる場合にはギルドに伺ってください。事務所に来ても誰も居ませんよ?」
「そんな訳がないでしょう。人が居るからこそ物が生み出され、物の流れが出来る。商人なら最初に倣う事だ。貴方もご存じだろうに」
いや8歳児にそんなこと言われても。
「作ってるのはゴーレムですから、人なんていませんよ?」
「・・・は?」
「ですから、ゴーレムが生産作業をしていますので、事務所や工場に行っても誰も居ませんよ。行っても結界で入れませんし、無理矢理結界を超えると死にますから、行くのならその点だけ、お気を付けくださいね」
ここは商業ギルドの打ち合わせ用個室。
やって来たのは王都の商人と冒険者ギルドで雇われた護衛。
そして私の隣にはユリア村支部の商業ギルドマスター。
「おいおい、嬢ちゃん脅し文句として死ぬだのは言わねえほうが良いぞ。真っ当な商人としてやっていきてえならな」
「事実をありのままに申し上げただけですし、そもそも金属の柵で敷地を囲っていますので、入り口のゴーレム兵に止められます。B級冒険者の母親が、絶対に戦いたくないといってくれた自慢のゴーレムですので、おやめになったほうが良いですよ」
突っかかって来たのは護衛の白髪交じりの冒険者だ。某潜入工作員のように頭にバンダナを巻いて、傷だらけの日焼けした顔で睨みを利かせている。いや、あなたの殺気よりブランの方が百倍怖いですけど。
「母親ってのは?」
「剣姫ブランネージュ」
「!・・・・・マジかよ。ギルマスの愛弟子じゃねえか」
ギルマスというのは、王都の冒険者ギルドのギルドマスターの事かな。どうやら私のお母さんは、このおじさんに嫌な顔をされるくらい警戒すべき相手として認識されているらしい。おじさんは商人の方に顔を向けて首を振っている。
「・・・どうしても小売りはして頂けないと?」
「小売りの手間を省くためにギルドに卸していますので、その手間を態々作るメリットが無いとお売りできません」
力押しではビジネスが成り立たないんじゃないかな。少なくとも私はそう思う。私のはビジネスとは言わない。ただの投げ売りしてる一般人です。
「・・・・・貴女は事業拡大を狙っている訳でも、利益の増加を狙っている訳でもない。そうですね?」
「ええ、ご理解いただけたようで嬉しいです」
「であれば、あなたの目的はこの村の“発展”。違いますか?」
「お察しの通り、この村の文明レベルを引き上げようというのは目的の一つです。しかし、生活の安定のためにお金を稼いでいるのも理由の一つです。更に言うと強くなるためにゴーレムで狩りをしているのも理由の一つです」
外のゴーレム大行進は既に村の名物となっている。しかも毎日だ。大量の楕円形のゴーレムが列をなしている事に気付いていない訳がない。
「あれも、あなたの仕業ですか。大魔法使いと聞いていましたが噂の通り、桁外れのお力をお持ちのようだ。素材は商業ギルドだけでなく、この街の各店舗にも流れていると聞きましたが?」
「冒険者ギルドは13歳(成人)にならないと登録できませんからね」
たったそれだけの理由で・・・と護衛の冒険者が苦い顔をしている。ああ、多分、この人はギルド側の人間なんだろう。だからギルマスがどうこうという言葉も出てきたという事か。
私が狩で得た素材はほぼ全ての素材を剥ぎ取っている為、その利益は凄まじいものになっている。さらにそれらを買い取っている商業ギルドは田舎支部としては考えられない桁の利益を叩きだしているので、王都や大領地のギルドからは嫉妬の声が上がっているらしい。これまでのわずかな期間で金貨数万枚に及ぶ謎の金額が王国の北部地方へ流れている。つまり私だ。
「買取はギルドカード不要という話なら卸したかもしれませんが・・・たぶんそう言うのって何割か余計に差っ引かれますよね。それなら買取可能だとしても結局商業ギルド行きになります。ここの“ど田舎の支部”にね」
そんなに渋い顔を見せたらダメだよ、自称自由商人のオジサン。あなたも他所の商業ギルドの人間でしょうに。自分で買い取って、持って帰るルートが構築できれば、他所のギルドでも利益が出るくらいに値を吊り上げられたかな?
そう言うのは商売人じゃなくて、ただの守銭奴って言うんだと思うなぁ。
「では私は仕事がありますのでこの辺で。本日は色々とお勉強させていただきまして有難うございました。失礼いたします」
「まっ・・・!」
バタンと扉を閉めると、扉の向こうで「くそっ!」とテーブルを叩きつける音が響いた。
一緒に出てきた支部長さんも戦々恐々として怯えている。
「大丈夫ですよ。このギルド支部は一応ゴーレムで守っていますし、妙な輩は今のところ全て駆除できています」
「えっ? 出来てるって事はもう来てるのかい?」
「ええ。ここ一年で数人ほど。全員、北の森に連行しましたので、こちらに現れる事は二度とないでしょう」
アンデッドにでもならない限りは。
私自身のレベルも北の森の狩りで着実に上がっているし、体も順調に成長している。防犯設備も増やし続けているし、村の外もゴーレムに警備させている事は村の皆も、冒険者ギルドも知っている。
移住者も続々と増えて、今やユリア町となっているので村という呼び方はだめかな。領主もこっちに移住しようかと考えているらしく。東にあった滅んだ村の再建も始まっている。
商会として再建用の資材を領主に販売しているので、立て直された復興村の外壁がミスリル合金という超性能な鉄壁が出来上がってしまった。
領主には鉄製の柵としか言っていないので、5メートルの高さのミスリル合金フェンスはきっと再建された村を守り切ってくれることだろう。
小売販売はしないと言ったが、そう言った特例だけは対応しているので、地元教会の快癒の水や領主の要望には極力応えている。
こうして、徐々に北の大森林に対する防壁が出来ていければ良いのだが・・・完成は難しいのだろうと思う。
「生きてる間に完成すれば良いかな・・・」
帰路の途中でそう呟くと、商店街の喧騒に呟きは飲み込まれてしまった。
今日も適当に果物でも買って帰ろう。一から作り直した屋敷でブランたちが待っている。
「ただいまお母さん」
「お帰りユーリ。何だった?」
「んーこっちばかり素材を卸すなって言いたかったんだと思う。遠回しに交渉してきたから適当にあしらって帰ってきちゃった」
あはは・・・と乾いた笑いをするブランのお腹は大きい。第四子妊娠中である。楽しみ!
「ただいま~おねえちゃんですよ~」
「まだ生まれてないっての」
「もう少しで生まれそうでしょ?」
「あと3か月かな?」
そうか・・・じゃあ既に性別も決まってるかな。真実の瞳っ!なんて・・・?
---------------------------------------------------
―
種族:素人
レベル:1
HP:1
MP:0
状態:胎児(男)
スキル:―
称号:―
---------------------------------------------------
うっそ・・・見えた。
「どした?」
「え? あっ、ううん・・・元気に生まれてくるようにって心の中で祈ってました!」
「あはは、ありがと」
焦ったぜー!
しかし、前に試した時はステータスすら出て来なかったけど、これはどういう事でしょうかね?
私がスキルを使いこなせるようになっているという事なのだろうか?
だとしたら、LVの上がり切ったスキルもまだ成長できるのかもしれない。
要検討事項だなこれは。




