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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
20/97

020

「はい、こちらが商業ギルドのギルドカードです。再発行には銀貨五枚が必要ですから、無くさないようにしてくださいね」


「ありがとうございます」


 うふふ、と嬉しそうに返してくれた受付のお姉さんと別れると、取引相談窓口に向かった。私は今、村内に作られた商業ギルドに来ている。


 冒険者ギルドと違って村で製造販売したレンガを使っているので、見た目も良いし何より静かだ。村の生産物の取引が主な業務になっているが、年々生産量が増えているから村が主体となって取り扱うよりも、ギルドに仲介してもらった方が量を捌けるので支部にお願いしている。


 季節は一度繰り返し、魔物の氾濫が発生してから二年が経とうとしていた。人も増え、仕事も増やし、村に賑わいが出てきたものである。


「すみません、新しい生産物の卸売りをしたいのですが、此処で相談させてもらってもいいですか?」


 7歳の子供が窓口に金属製のギルドカードを置いて声を掛けると、窓口にオジサンが近づきながら、受付のお姉さんに「マジ?」と目で確認をした。こっくりと受付のお姉さんが「マジです」と反応すると、ようやく私に笑顔を向けてきた。


「いらっしゃいませ、何をお売りいただけるのでしょうか?」


「こういう物を作って販売していきたいのですが・・・商品の説明用の資料を見てもらって良いですか?」


 用意してきた自家製の紙に、プレゼン用の絵と試算した金額が諸々、そして特許の申請等をするための必要事項を取りまとめた一式を受け付け台の上に置く。


「・・・・・ガラス? ですか。これは誰か大量生産が可能なのですか? このサイズで?」


「はい。家の窓や馬車の窓、それから水回りの製品に色々と使えますので、製法を含めて周知販売して頂きたいのです。ただ、製法を販売する場合は、ギルド共通の特許料金を頂きたいです」


 特別製造販売許可申請、特許は製法を教えて商売させてあげるから、売り上げの何割かは頂戴ねという、いわば利用料のようなものだ。30年くらいで権利期間が切れてしまうが、その頃には大陸中にガラスが出回っているので、それからはご自由にどうぞというスタイルに切り替わる。


「この、魔法ガラス?というのはどういったもので? 金属板のように硬質と書かれていますが、教会のガラスのように脆い物ではないのですか?」


「鋼鉄並みに硬い素材です。製法はそこに書いてある通り、精密な魔力制御が必要になりますので、製造者は限られると思いますが、作れない事はありませんので特許申請をしたいのです」


 ふむふむ、と脂汗をかきながら内容を見ているオジサンの後ろには遠目に人が集まってきている。どうやら、このおじさんはかなり偉い人のようだ。「支部長が動揺してるぞ・・・」「初めて見たわね・・・」とか色々と聞こえてきている。支部長さんでしたかーそうでしたかー。


 諸々の確認と不足分の申請を懇切丁寧に対応して頂き、私が何者なのかを知っている人が現れ、ボソッと「殲滅者!?」とか不名誉な呼ばれ方をされながらも、無事に申請は受理された。


 鞄に契約書などの書類を詰め込む頃には、昼過ぎに入ったギルドを出ると、夕日が差している頃だった。


「んん~・・・疲れたー」


 両手を上にあげて大きく伸びをすると、平らな胸元が目に入る。今は小さな平原だとしても、将来は立派な大山脈になる筈だ。とすると、サラシを巻くよりもブラが欲しい。絹製のブラとか無いのだろうか・・・貴族はコルセットか? それすらも無いかもしれないなぁ。コルセット文化は作りたくないな。アレ痛そうだし。


「生地の開発かぁ・・・」


 魔法で作れるかな? 合成繊維は・・・無いな、材料も不明だ。それなら自然界にある糸を探したほうが良さそうかな。


「ただいま~」


「お帰りユーリ」


 背中に小さな弟を背負ったブランママが夕飯の支度をしていた。


「休んでてよかったのに。私が作るよ」


「良いのよ。ジッとしてると夜に寝られないからね」


 ブランママの傍で立ち尽くしていたサリーが私の下にヨタヨタと走り寄って来た。ウチの妹、超可愛い。


「ねーね!」


「はい、ただいまサリー。ん~可愛いね~」


 抱き上げて頬っぺたに顔をスリスリすると、んぁ~と変な声をだすのも可愛い。


「サリー見ておいて~」


「はーい」


 ブランの背中でウトウトしている弟を見上げつつ、重くなった妹をスリスリしながらリビングで待っていた。


「ただいま」


「お帰りお父さん、ゴーレムはどうだった?」


 畑仕事から帰って来たアルトパパは、後ろからゾロゾロとついて来た軽量型ゴーレムを振り返りつつ苦笑いをしてみせた。なんか失敗だったかな?


「今までやってきたことが3倍の速さで片付いていくのは、見てて気持ちが良いな」


「おっ、じゃあ役に立ったみたいだね」


「まぁな。有難うユリア」


「どういたしまして~」


 フフンと無い胸を張ると、アルトも笑顔で答えてくれる。取り敢えず沸かしておいた風呂に汚れた農夫を叩きこみ、サリーと至福の時間を過ごす。


「出でよ、ウォータースライムファミリー!」


「しゅらいむー!」


 うっわ可愛い。何あの天使。ぴょんぴょんと跳ね回るスライムと一緒に、サリーがリビングを跳ね回っている。鼻血が出そう。


「ねーね!しゅらいむつかまえた!」


「んー!えらいねー!サリーはお上手だね!」


「えへへ~」


 あー出そう。鼻血出そう。

 天井を仰ぎ首の後ろをトントンすると、下を見た時にサリーが首を傾げていた。


「・・・か、かわいい」


「ほぇ?」


「おいでサリー」


「うん!」


 後ろから抱き上げたサリーは、頭のてっぺんからミルクのような良い匂いがする。あったか~い。かわい~い。はぁ、天使。

 サリーの頭頂部に顔面を埋めて恍惚としていると、料理を運んできたブランママと目が合った。めっちゃ白い目で見られている。


「あんたってさ・・・シスコン?」


「ち、ちがうし! ちょっとサリーが可愛い盛りなだけだし!」


「はいはい、わかってるから。それより出来たわよ。運んで頂戴」


 言われてみれば、この先5歳、8歳、10歳、12歳、15歳とどの世代でもサリーを可愛がっている未来が見える。・・・私はシスコンなのだろうか・・・・・?


 風呂から上がったアルトと、ブランママが食事の支度を終えたのが同じくらい。毎日の風景である。この時間は家族で一日あったことを話すのだが、アルトは村の状況について。ブランは弟シルベルトとサリーについて。私は自分の仕事についてが家族の話題だ。


「お父さん、お母さん。私、商会をつくりました」


 そう、商業ギルドに出向いた要件はガラスの特許取得だけではない。卸売専門の製造業者として、自分の商会を立ち上げに行ったのだ。


「えっ? ユリアが商会? えっ?」


「へぇー、何て名前の商会?」


 パパンに比べてママンが軽い。私の扱いが最近軽い。


「ユリアブラン」


「ぶっ」


 ママンが野菜サラダを吹いた。それを手でかき集め、台拭きで綺麗にしていると、ママンが正気に戻った。


「・・・なんて?」


「だから、ユリアブランっていう商会名だよ」


「何で私の名前が入ってんの?」


「語感が良かったから」


「そこ大事なの? 要らなくない?」


「副会長はお母さんだから要るよ?」


「・・・・・」


 諦めて受け入れてくれたらしい。ガラスの販売とブラの開発を考えている事を伝えると、イメージが湧かなかったのか、ママンは首を傾げていた。


「ブラって何さ?」


「その大きなものをしたから支えてくれる、巨乳女性の救世主です。肩が凝らなくなります」


「凝った事なんてないけど?」


「それは、お母さんが常に微弱な気力制御で身体強化しているせいです。普通の巨乳は重くて重くて肩が痛くなったり、そのせいで頭痛がしたり大変なんです」


「そうなんだ・・・」


 無自覚の強者はこれだから困る。


「それに、ブラを付けていると形が崩れにくくなります」


「くずれたからなんだってのさ?」


「形が崩れるとお父さんが悲しみます。揉めなくなるから」


「崩れても揉めるでしょ?」


 横で深く深く頷いている農夫が真剣な顔で私に視線を飛ばしてくる。オッパイ星人はそのまま黙っててください。


「揉みごたえが変わるし、スタイルを維持している女性は、同じ女性から見ても羨望の的になります。私のお母さんはそうであって欲しいという、私個人の願望でもあります」


「なんだい、そりゃ・・・?」


「というか私がお母さんと同じく巨乳になる可能性が高いので」


「ああ、そういう事」


 ご納得いただけたようで何よりでございます。


「という訳で、肌触りの良い糸とか布って知らない?」


「そうねぇ・・・・・・・・蜘蛛糸かな」


「え“っ・・・」


 蜘蛛って、あのクモ? ベトベトしてそうだけど・・・。


「青麟蜘蛛の糸っていうのがあってね。パンツの材料として王侯貴族には高く売れるんだわアレ。まぁ、C級魔獣だから、入手難度も相当高いけどね」


「スベスベなの?」


「あたしの勝負パンツがそうだよ」


 チラッとパパンを見ると、斜め上を見て何かを思い出しながらウンウンと頷いていた。嘘ではなさそうだな。しかし、この親子、夕飯を食べながらなんて話をしているのだろうか。


「間違いなさそうね。それって北の大森林で手に入るかな?」


「たしか、中層に居たね。もし行くんだったら・・・あんまり奥に行くと竜種が出てくるから気を付けなさい。あんたなら心配ないだろうけどね」


 娘の命を軽んじる母親! 可愛い娘をそんなところに行かせようとしないで!


「えー・・・っと竜種って、あのトカゲ?」


 外壁に突撃してきたドレイクを思い出す。


「あのトカゲがぼちぼちいるわね。A級冒険者並みのあんたなら問題ないでしょう」


「そのA級並みってどういう理由でランク付けされてるの?」


 ママンが言うにはそれなりの明確な基準があるらしい。


 ランク外 魔王、神獣、魔獣王、竜王等の文明滅亡レベル

 A級  常人が対応できないランク

 B級  常人が集団で対応できる限界

 C級  王都などの巨大都市を滅ぼせる戦力

 D級  街を滅ぼせる単体戦力、群体戦力

 E級  村を滅ぼせる単体戦力、群体戦力

 F級  レベルを上げた熟練者が対応

 G級  鍛錬した大人が一人で対応可能


 因みに、先ほどの青麟蜘蛛は隠密性、毒性、群体での活動が主な理由としてC級相当らしい。前回の氾濫時に居たドレイクは、私の造った壁だから耐えられたものの、普通のレンガを積んだ外壁は一発で崩壊し、10分もあればブレスで村を焼き尽くせるらしい。


「A級ってどんなのがいるの?」


「ドラゴンとか、ヴァンパイアとかの魔族に、妖精も含まれるね。出会ったら逃げるのは困難で、真面に戦っても生き残れる人間はほぼ居ない。あれらとやり合えるのは、A級冒険者と呼ばれる人外の人たちだけね」


 さっきそのA級扱いされた娘が目の前にいるんですが、人外ですかそうですか。


「・・・ランク外っていうのは?」


「人類の歴史が何千年続いているのかは分からないって言うのは知ってるかい?」


 質問に質問で返す!


「えーっと・・・知らない」


「何千年も続いてるらしいんだけど、大昔の魔物の記録がギルドだけ断片的に残ってる。なのに国の歴史は数百年前が最も古い。これっておかしいと思わないかい?」


「・・・文明が滅んだ?」


「ランク外って言うのは、大陸や世界の文明を滅ぼすほどの災害を齎せる存在らしいね。冒険者ギルドも何千年も続いているから、辛うじて世界のどこかにそう言った情報が残ってて、今も受け継がれているらしい」


 冒険者ギルドって、もしかして国家よりも凄いのでは?


「私が知ってるのは、異神かな。ギルドの資料には“異なる世界の神”って書いてあったね。空に真っ黒な球が現れて、全てを飲み込んでいったって書いてあったけど・・・本当かどうかは解ってないらしい」


「それって、魔王ですら太刀打ちできないんじゃないかな」


「あたしもそう思う」


 ははっ、と冒険者らしい笑みを見せたブランは、そんな事より早く食べちゃいなと言いながら、愛する息子に母乳を与えていた。うーん、デカい。


 そんなものと戦う時は来ないだろうけれど、青麟蜘蛛は今でも十分倒せるだろう。


 ---------------------------------------------------

 ユリアネージュ(7歳)

 種族:素人

 レベル:76

 HP:5210

 MP:18090

 状態:通常


 スキル:剣術LV8、歩法LV9、火魔法LV10、水魔法LV10、風魔法LV10,土魔法LV10、光魔法LV9、闇魔法LV8、元素魔法LV1、気力制御LV10、魔力制御LV10、並列制御LV7、闘気制御LV3、気配察知LV6、真実の瞳、フリキア言語LV7

 称号:魔闘士

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 レベルは氾濫後の時から据え置き。

 剣術と闘気制御はちょっと上がったけど、近接戦闘はまだママンに勝てない。

 4属性魔法のマスターと同時に、新しく元素魔法が生えた。4属性も元素じゃんと思ったけど、これは大本の元素を操作できるらしく、既存の魔法を強化してくれる。


 火魔法:火龍召喚、火炎牢獄、熱線砲が使えるようになった

 水魔法:水精霊召喚、快癒の水生成、大海嘯が使えるようになった

 風魔法:風獣召喚、風の結界、空爆弾を使えるようになった

 土魔法:土魔召喚、金属精製、大震激を使えるようになった


 土の金属精製が素晴らしく、鋼鉄を作り出すのが限界だったけど、魔法金属ミスリルや流体金属オリハルコンを作れるようになっている。あとは風獣が意外と役立つ。緑色のモフモフで全身を羽毛で覆っているのだが、大人が数人乗れるほど大きい四足の獣だった。

 ママンが言うには、聖獣の類らしい。


 教会には快癒の水を作り置きして、魔法ガラスで魔力を閉じ込めて置けば保管が可能なため、販売用として渡している。


 風の結界は外壁沿いに張っているが、これが飛行型魔物にどれだけ有効なのかは分からない。とりあえずゴブリンの矢と、オークの槍は弾いたので良しとしよう。白い奴を防げなかった爆風とは別物である。


 火龍召喚はちょっと筆舌にしがたいというか・・・大空を覆うような巨大な炎の蛇が召喚されたので、ちょっとした事件になった。直ぐ消したけど、誰がやったのかは直ぐにバレた。


「じゃあ、明日とってくるね」


「・・・・・ちょっとお使いに行ってくるみたいに、C級魔獣を狩に行くのはA級の連中と同じだよ、ユーリ」


 えぇー・・・? なんか納得いかないんですけど? しかも何となく常識知らずみたいに言われているのが嫌なんですけど?


「じゃあ、何か必要な物ってあるの?」


「遭難に備えて食料の確保とか、狼煙とかの信号用道具とか、色々あんだろうに」


「全部持ってるし!」


「そうね、あたしが教えたからね」


「じゃあ問題ないじゃない」


 何が問題だと言うのか・・・?


「7歳の子供が一人で北の大森林に入る図を想像して御覧なさい」


「・・・・・家出?」


「というより、捨て子かな」


 外聞の問題って事ですね、分かります。


「えぇー・・・じゃあ商会として冒険者ギルドに依頼を出します」


「どんな依頼? 採取依頼してもC級を倒せるようなのは、あんたとあたし位しか居ないよ」


「名ばかりの護衛依頼を出します」


「なるほど、見た目の問題だけ解決って訳だ」


「流石ママ! わかってるぅー!」


「わかってるぅー! じゃないっての! それで冒険者が死んだらどうすんの!」


 そんなん自己責任です、っておおお、殺気が・・・。


「ちゃ、ちゃんとゴーレムに乗せて冒険者を守ります・・・」


「はぁ・・・依頼者が冒険者を守ったら、依頼を受けた奴のプライドがズタズタだろうに。立ち直れなくなるよ?」


 そっか。そうだね。7歳の子供に守られる30代の冒険者。うん、落ち込むね。


「その時は商会で雇うかな・・・」


「冒険者ギルドに睨まれるから止めなさい!」


 じゃあ、どないせえっちゅーんじゃ! 私が行けないなら誰が・・・。


「あ、そうか、ゴーレムにとって来てもらおう。そうしよう」


「まぁ、結局そこに落ち着くだろうね・・・」


 これまで以上に複雑な命令を、さらに遠く離れた場所のゴーレムに飛ばせるようになった私ならば、普通に狩に出せる筈だ。

 そうと決まれば話は早い。狩専用のゴーレムを造ろうじゃないか!



 ―ユリア専用地下研究施設―


 作業音を吸収するスポンジのような板が天井と壁に拡がる私の研究室へようこそ。ここは我が家の秘密地下空間。台所の地下と扉一つで繋がっているのは内緒だ。


「さて、狩りを目的としたゴーレムを作るのならば、都度都度精製した適当ボディじゃダメよね。獲物の運搬、近接特化、索敵特化、遠距離特化、最低でもこの4体は必要か」


 運搬ゴーレム:胴体部分に空洞を持たせて収納可能にし、転がって移動できるように手足を収納すれば、ラグビーボールのように横倒しになって転がれるようにした。


 近接特化:両椀ブレード装備の高速近接戦闘個体。ブレードが流体金属で出来ているので形状変化が可能。鞭のように使ったり、立体起動に利用したり出来る。


 索敵特化:風魔法を使った索敵と、風の結界魔法を操る、シールド持ちの重量級防御用個体。


 遠距離特化:指ロケット弾などの遠距離攻撃に加え、空爆弾を使用可能にした驚異の攻撃能力をもつ攻撃個体。


「あとは、この4体をどれだけ遠隔でも操作できるように、中継地点の役割を果たす連絡個体を空に浮かべて散布。これは数万体もあれば良いか。撒いたら全く操作なんてしないし、負担もほぼ無し、と」


 ゴーレムに手伝わせて製造した部品を運ばせ、プラモデルのように部品が置かれていく。出来上がった部品を組み合わせて、魔力を込めずに動作チェック。


「よし、起動テスト」


 試作品としては、まぁまぁな成果だった。


「・・・・・あれ? これ、私一人で戦争できるのでは?」


 危ない危ない。危険思想は止めよう。

 次は中継用の散布個体をパパッと作ってハイ終わり!


 夜の内に風獣の背に乗って、北の大森林地帯に向かうと、巨大樹木から上空100メートル辺りを目安に一キロ間隔で中継用散布個体をばら撒いていく。これは特定座標を指定してあげれば、その場所で滞空したまま静止するので、周囲の魔力を吸いながらその場に在り続ける事が出来る。


「なんかやってる事が錬金術師っぽいな・・・でも錬金術スキルは生えてこないし、なんでだろう?」


 まだまだ錬金の枠外という事だろうか。人造人間でも作ってやろうか、と馬鹿な事を考えつつ散布を終えると、夜が開けてしまった。


 仮眠して午後から再開しよう。


 ◇◇


 昼過ぎに起きて、元の持ち主であるアルトパパから、商会用としてユリアブランが購入した敷地に事務所と倉庫と工場を作る。どれもこれも行動するのはゴーレムなので、同時並行でレンガが組み立てられていく。魔法レンガと魔法コンクリは素晴らしいな!


「あーっと・・・レンガが足りないか。良いや、鉄骨で作っちゃおう」


 骨組みと壁の支柱を鉄とミスリルの合金で作って、それをボルトで組み立てて、壁は木の板に見せかけたダマスカス合金版で覆って・・・完璧。


「見た目は暖かな超合金ハウス!完・成!」


 ゴーレムと一緒になって諸手を上げて喜ぶ。傍から見れば寂しい子である。


「レンガは戻しちゃっていいよ。倉庫に仕舞っておいて」


 ウォォンとゴーレムたちが指示に従って運んでいく。良い子良い子。

 あとは事務所の家具を購入して、工場の設備を自作すれば、雇用促進にもなるかな。最近は移住者も増えてきたし、農業をやりたくないって子供も居るからね。


「そして、一番肝心なゴーレム置き場ですが・・・うん、機動戦士のドッグにしか見えないな」


 デカい。只々デカい。


「それじゃ、家の研究室からあれらを運び出すから手伝って!」


 ウォォンと反応し、商会の敷地と隣り合う我が家の敷地に移動する。アルト家の敷地は広大なので未開拓の農場予定地がまだまだ余っている。

 畑の方を見ると、数十体のゴーレムが畑を耕している。アルトパパの命令に従うようにしてあるので、昼夜を問わず仕事を続ける優秀な農奴だ。農奴より奴隷っぽいな。


「なんか凄い事になってるねぇ」


「あ、ゴメンお母さん。煩かった?」


 弟のシルバを抱きかかえながらブランママが裏口から出てきた。シルベルトは眠いのか怖いのか、ママの大山脈に顔面を埋めて呻いている。


「いや、静かなもんだよ。大量にゴーレムが来たから何かと思っただけさ」


「ねーねいっぱい!」


 それはねーねじゃないよサリー。ゴーレムって言うんだよ。

 よいしょとサリーを抱き上げ、粛々と部品を運び出すゴーレムたちを家族で見守る。


「あれは、何になるんだい?」


「大森林で狩りをするための独立機動分隊」


「・・・ゴーレムが分隊行動するのねぇ。怖い、怖い」


 至って真面な感想を有難うございます。


「あと二つ分隊を作って、小隊にして・・・その内、師団を作りたいな」


「そのまま森から帰ってこない方が平和な気がするわ」


 どういう意味だよ!


「優しいゴーレムだよ?」


「一つの部品が軽く一メートルを超えてるんだけど、気のせい? 人間ってのは自分より大きいものに、本能的な恐怖を感じるンだよ」


 言わんとしてる事は解るが、あんなん、魔力を失ったらただの金属ですぜ?


「大丈夫だよ、私より弱いし」


「そういう問題じゃない気がするけど・・・一応、運用するようになったら村長に許可を取っておきなよ」


「えぇー、めんどくさい」


「何か問題が起こってからじゃ遅いでしょ」


「はぁ・・・はーい」


 まぁ、言われてみればそうだなぁ。伝えておかないと不味いよなぁ。


 ◇◇


「という事で、これ使って良いですか?」


「え・・・ああ、うん。良いんじゃないかな」


 村長が天を仰ぎ見て、全長12メートル近いゴーレムを見ながら呟いている。


「狩りの獲物を北門から運び込みますが構いませんか?」


「あ、っと・・・どのように?」


「あの楕円体系の個体が、胴体内部に獲物を収納して運んできます」


「あぁ、うん。門を潜れるんだよね?」


 そこは同じ製作者ですから問題ありませんてば。


「全て計算の内です」


「そ、そうか、じゃあ・・・はい、許可証です」


「ありがとうございます!」


 良し、勝った。大勝利である。あとは北の大森林地帯に送り出すだけだ。


「では、早速。北門から出発させます」


「あ、うん。健闘を祈ります・・・」


 ビシッと右手を上げて宣誓すると、村長の頼りない激励の言葉を貰って出発させる。

 ズシ、ズシとなるべく音を出さないように歩けるように作ってあるので、それなりにゴーレムの歩行音は静かなものだ。


 北門のところに辿り着くと、当然というか何というか、誰が来たのかは察知されていた。そういえばこの人も私が直接雇ってたな。雇い主はそのまま私で良いのかな? まぁ良いか。


「お疲れ様です!ユリアネージュ殿!」


「はい、お疲れ様です。こちら、通行許可証なのですが、このゴーレム4体分も発行してあります。勝手に戻ってくるのですが、仮に知らないゴーレムだと困りますので、出ていくときに近づいて来たら胸の所にある“ユリアブラン商会”のマークを確認してから門を開けてもらえますか? あと、戻ってきた時はどうしましょう?」


「ええっと・・・」


 こっちから案を出すか。


「では、許可証を足元の此処に格納しておきますので、ここの・・・」


 魔力を送ると足元のメンテナンス用小窓が開いて、内部の通行許可証が見えるようにする。


「これをお見せすればよろしいでしょうか?」


「あっハイ。十分です」


「それではそのようにさせて頂きます。それでは・・・行け!」


 ウォォォォンと4体のゴーレムが北に向かって出ていった。


「お時間を頂きまして有難うございます。それでは失礼しますね」


「あっハイ・・・・・」


 後ろの方で、えっ7歳だよな?うそだろ?という声を拾いながら我が家へと戻った。


 正直なところ、遠隔操作については実験的な意味合いも強かったので、最悪の場合、北の大森林で4体とも放置するしかないかと思っていたのだが、問題なく帰還できたのでほっとしている。アレ作るの面倒だし。


 商会の倉庫に運び込まれた青麟蜘蛛を見て、ブランが溜息を付いている。


「はぁ・・・、本当に狩って来やがった・・・」


 呆れ果てたのか、ブランの口調が完全に冒険者モードに切り替わっている。


「うん、しかも獲物はゴーレムの胴体で隠されてるから、何を運んだのかはバレてないし、内容物も狩猟目的も事前に村に申請してる。綺麗な獲物です!」


「いや、まぁ。そうなんだけど」


「じゃあ解体の仕方教えて!」


 仕方ねえなぁと頭を掻きながら、ブランがシルバを卸してサリーに預けた。

 作業用の全身防護服を身に着け、二人とゴーレムが獲物に群がる。


「それじゃあ、まずは手足を剥ぐ。次に腹部を薄く裂いてくれ。表面をなぞるようにな。・・・ってそれミスリル合金ナイフか?」


 そうだよと答えながら、慎重に腹を割くと、内部から糸玉と呼ばれる物体が見えてきた。


「それが青麟蜘蛛の生糸玉だ。そのまま糸が伸びてる部分があるだろ。それを引き延ばして・・・たしか、伸ばした先から熱湯にくぐらせるんだ。それで硬質で柔らかい手触りの糸になる」


 胴体部分だけで3メートルはある青麟蜘蛛の体内から、直径1メートル近い糸玉が取れた。尻尾の先に続いて伸びている糸を切り離さずに、用意しておいた熱湯に次々と潜らせる。


 伸ばして、潜らせ、巻取りの三工程を一つの機械で出来るように準備しておいたので、糸玉を置いて糸を引き出す部分に固定すれば、機械をゴーレムが動かして自動で糸になっていく。


「便利なもん造ったな」


「ゴーレムがハンドルを回せば簡単に大量の糸を取り出せまーす」


 ゴロゴロゴロゴロと機械の音を聞きつつ、解体に戻る。


「こいつの青麟はドレイク並みに硬いからな、色も良いし、鎧や装飾品にも使われる。他の甲殻も優秀な防具になる。体液は使えないが、人によっては錬金術の材料になるらしいが、あたしは用途を知らん。普段は捨ててたな。歯の部分はナイフに加工できて、下手な鋼鉄製の武器より優秀だ」


 と、いう感じに優秀な冒険者のレクチャーを受けつつ、解体を進めていくと、金貨の山になりそうな素材が取れた。


「普通はB級冒険者が10人くらい集まって狩る物なんだが・・・これだけの素材を余すことなく手に入れると、金貨1000枚じゃ足りないな」


「でも、10人でも一人頭100枚でしょ? 収入としては凄いんじゃないの?」


 金貨100枚あれば安めの屋敷が買えるぞ。


「言ったろ? 普通はこんな大量の素材を余すことなく手に入れる事なんて無いんだ。あたしも今までは、一番金になる糸玉をそのまま運んできて、後は歯の部分を採取して他は捨てるのが普通だ。こんなデカい獲物を運んでたらいい的だからな」


「なるほど・・・」


 冒険者にとって、運搬手段てかなり重要なんだね。ああ、だからブランには運搬術のスキルが生えてるのか。


「明日も見てもらっていい? ゴーレムだけで解体できるか試してみたいの」


「明日も狩ってくるのか? まぁ、良いけど・・・」


「んじゃお願いしまーす」


「へいへい」


 私のママは優しい。こんなに娘のワガママを聞いてくれる母親は他には居ないな。少なくともC級魔獣の解体を教えてくれる母親は、知っている限りブラン以外に居ない。


「あぅー!」


「はいはいシルバもまた明日来ようね! ん~、お姉ちゃん好き? そうなの~」


 おでこにチュッチュしながら一人芝居をしている私を見ながら、ブランが白い眼で私を見ている。


「シスコンの上にブラコンか・・・とんでもねえな」


「母性の塊と言っていただきたい」


「まだ母性なんて無いだろうに・・・」


「あるもん!あふれ出る母性をシルバも感じ取ってるもん!」


「せめて母乳が出てから良いな」


「くっ!」


 あかん、これは勝てない。母は強し。

 そのままシルバを攫われ、事務所で授乳タイムを過ごしてから我が家に帰った。


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