019
ある日、村長さんから呼び出しがかかった。また商売についての相談ですか? それとも村内工事の相談? 教職はちゃんと熟してますよ?
「いや、村の名前が決まったから伝えておこうと思ってね」
「はぁ・・・この村って名前なかったんですか?」
「うん。それで、領主様から正式に通達があって、ユリア村という事になったよ」
「はぁ・・・・・・はぁ!?」
騎士のオジサン(領主様)は私に碌な褒美を出せない事が心苦しいのか、私の名前を村の名前に使ったらしい。無いわー、私的には止めてもらいたいわー。
「英雄の名前が村の名前だからね、村の宣伝にもなると仰っていたよ」
「いやいやいや、隠してってお願いしておいたのに! 何で宣伝するの!?」
横でブランママが笑っている。ちくそう。
「既に完成した冒険者ギルドを通して、村の噂から王国中に広まっているらしいよ」
「黙っててって言ったのに!」
「あの兄妹が発端らしいけどね」
「あいつらぁぁぁぁ!ゴーレム載せて飛び回ってやる!」
ギルドで言いふらしやがったな! 絶許!!! 絶対、許さぬえぃ!
と、ここで村長さん相手に意気込んでも意味が無いので落ち着こう。ふぅ・・・。
「それで? 宣伝の効果はどうだったんだい?」
ブランママがお茶を飲みつつ、サリーを片手で揺らして寝かしつけている。
「今のところは半信半疑で、作り話だと思われているらしいね。領主様も貴族達から笑い話だ、とか作り話で名を上げたいか! とか言われているらしいよ。でもまぁ・・・大量の素材がギルドを通して流れているから、分かっている人には分かっていると思うよ」
「やっぱりか・・・二年後くらいには、何らかの反応があると思っていた方が良さそうだねぇ」
「えぇ~・・・」
どこにもいかないよ? まだ弟作ってもらってないからね? かわいい盛りを一緒に過ごすんだから!
「普通は喜ぶところなんだけどねぇ。ユーリには迷惑以外の何者でもないって感じね」
「だって、サリーは今が一番かわいいじゃない。これからお母さんも弟を産むかもしれないでしょ。現に今、妊娠してるし」
「どうして知ってるの・・・」
「家族の体調管理は私の仕事ですし?」
我が家の栄養管理士を舐めるなよ!
「はは・・・ユリアちゃんは本当に子供とは思えないね・・・」
何処からどう見ても子供だよ。見よこの丸いフォルムを!最近になってやっと首回りがすっきりしてきたんだぞ!
「それで・・・要件は何?」
ここまでは前座だろうと、ブランママが聞く。私は黙ってお茶を口にした。
「はい。お察しかもしれませんが、B級冒険者であるブランネージュ殿に、ギルドの試験官をやってほしいと通達があった事と、ユリアちゃんにギルドの手伝いをして欲しいという依頼がありました」
「私が非常勤で試験官をやるのは良いけど、ユリアの話は却下。子供をギルドの下らない勢力争いに巻き込ませるんじゃないと伝えて置いて下さい」
「・・・ですよね」
「当然」
どういうこった。
「ギルドの勢力争い?」
私が首を傾げつつ質問すると、若干嫌そうな顔でブランママが説明してくれた。
「冒険者ギルドってのは支部ごとに支配地域みたいなのがあってね。より多くの問題を解決できれば、沢山の街や村にギルドの影響力を及ぼせるんだよ。ユリアの場合、あんたが一人いれば、北の大森林だって格好の狩場に変わる。そこから得られる大量の素材で、村やギルド支部も懐が潤うって寸法さ」
「あぁ~・・・つまり、強い人が大勢いる支部は、沢山の狩場から、大量の獲物を得られるという訳で、それを卸しているギルド支部もお金が沢山入るし、村や町の人たちと仲良く出来ると」
「そういうこと」
「なるほど・・・却下だね」
「当然だね」
それってつまりギルドの尖兵になれって事じゃん。自由がなさそうで嫌だな。でも、その場合はブランママに迷惑が掛からないだろうか?この村に迷惑が掛からないだろうか?
「お母さんは私が協力しない事で迷惑が掛かったりしない?」
「まったく問題無いわね。B級冒険者なんて国内に数えるくらいしかいないし、この村に来てるやつらはG級からE級の雑魚しか居ないわ。B級以上になると、ギルドに対してある程度の発言権もあるから、村も私も迷惑なんて掛からないよ」
「ならよかった」
非協力的だ!とか言って権力を振りかざしてくるかと思ったけど、そんな事は無かったようです。ギルドが理性的というよりも、B級冒険者の希少性と、その権力が強いお陰かな。
「そうなると、村そのものよりも領主様にご迷惑が掛からないか心配ですね・・・」
村長が少しだけ不安気にこぼした。
「あー、その辺は私から知り合いに言っておくから大丈夫ですよ。特A級冒険者の師匠が居ますから、その人に手紙を書いておきます」
仕方なしとでも言わんばかりに表情の硬いブランママが言う。
「おぉ!特A級のお知り合いがいるんですね」
「弟子思いなムカつく師匠が一人いますね」
物凄く厭そうな顔で茶を啜るママンであった。
「冒険者ギルドのほうはそれで構いません。残念ですが、ギルドには私から返答して説得しておきます」
「よろしく」
短くブランママが答えた。多分、画策したのが村長だろうことに気付いて不満なのだろう。村長も苦い顔だ。
「嫌な話をした後で申し訳ありませんが、ユリアさんに仕事を一つお願いして良いでしょうか」
「なんでしょう」
ブランママが黙っているので私が返答する。今日はもう不機嫌モードだな。
「これから沢山の人がこの村に来るでしょう。領主様ももしかしたらこちらに領都移転をお考えになるかもしれません。そうすると予め区画整理をしたほうが良いという話になりまして。少なくとも村落の中心部分となる場所だけでも、道と下水路を作っておくべきだろうという話になりました」
「なるほど。発展の事前準備は必要ですね。王都も同じような作りなんですか? あの、スライム処理場を使った浄水設備とか」
「そのようですね。私は詳しくありませんが、かなり大規模なものを使っているようです。伊達に数万を超える人が集まってる訳じゃないですからね。流石の王都と言ったところでしょう。可能性の話ですが、この村も広さだけなら王都に匹敵します。であるならば、最低限の準備は必要です」
村長さんの眼鏡がキラリと光った気がした。
「高いですよ」
ぶっちゃけヤリタクナイ。他に出来る人が居るならやって欲しい。スライム探すの面倒なんだよ。
「相応の報酬はお出ししますよ。既に領主様からも資金は頂いていますし」
「そのお金って魔法紙の販売で降りて来た税収では・・・」
「お金というのは回りまわってこそ役に立つものですよ」
何か自分の利益が商人さんと村長さんから私に帰ってきているだけのような・・・まぁ、いいか。多くは語るまい。
その後、ゴリゴリと地下を掘り硬め、地上の排水管と繋げ、大量のスライムを投げ込んだ浄水施設を造り、村の水は沼へと流れ込んでいく。あの沼、増水したら広がったりするのかな。白蛇に怒られないか少し不安だ。
何だかんだで土魔法は大規模に使えるようになってきた。もしかして一番使い込んでるんじゃないか?ゴーレムと言い、工事と言い。その内、土のユリアとか呼ばれそうだな。なんかヤダ。
「ふぅ~」
作業を放棄して残りはゴーレムに任せた。特定の細かい作業をする為のゴーレムを作ったのはこうして楽をする為だ。微細な処理を何千回と繰り返すなら、こうした工作機械を作ってしまった方が効率も作業速度もベターというものだ。
ふと、考え込む。
あの白い奴は何だったのか。あの日、白いコードを持ち帰って調べた。アレは間違いなくビニールだった。但し私が知る塩化ビニールのような脆い奴ではない。炭素繊維のような強靭な繊維で出来た似非ビニールだった。
「科学・・・?まさか」
この世界は何なのだろう。魔法があるのに、化学技術が発達した地球産製品のような物がある。ある程度の文明が発達すれば、どこも似た世界になるものなんだろうか。或いは魔法だけに頼るような世界にはならない、かもしれない。
しかし良く分からない。状況から考えて、あのオーガの知恵で隊列を作って攻めてきたというよりも、あのオーガを白い紐で操って人類を攻撃していたと言った方が、何となく納得できる気がする。
今後もあんなのが来るんだろうか? 分からない。
分からないと言えば白蛇の存在も分からない。あれから何度か見かけたけれど、私をチラ見して興味を無くしたかのように直ぐ居なくなる。前に私を観察してきたのは何の為だろうか。色々と答えもしてくれたが・・・、何かを待っているのか?
「分からないなぁ」
即席で作った石のベンチに横たわると、空を雲が流れていった。沈まない太陽。沈まない月。どこかへと消えていく雲。この世界の気象現象は元の世界と根本的に異なるようだ。
暫くそのまま空を眺めていると、作業用のゴーレムが戻って来た。細工を終えたらしい。
「帰るかー」
細工用ゴーレムの魔法陣部分だけ残して土へ還す。数台の護衛ゴーレムと移動用のゴーレムに乗り、家路を辿った。
あ、商会の名前どうしよう。商会員は私と・・・ブランママで良いか。なにやろうかなぁ。製造業かな。食品、服飾、家具、宝飾、武器防具、玩具、色々あるな。土建は副業みたいなもんだから今のままでいいや。
どこかに事務職を任せられる人が居ないかな。この世界の簿記とか登記情報とかどうなってるんだろうか。特許とかあるのかな。無ければ作れば良いのか? なんか面倒だな。
ブランママから聞いた話だと、この国は他国とのつながりが無いらしい。鎖国しているとか言う話じゃなく、物理的に接触できないらしい。どういう事だよって思ったら、この大陸は4つの山脈で4つの国に分け隔てられていると言っていた。
ただ、東の国とは小さい穴を通して文書のやり取りはしているらしく、相当厳しい審査を突破すれば接触も出来ると聞いた。前に護衛で付き添ったときは、細い管に手紙を入れて、それを風魔法で隣の国まで続く管を伝って送る、というアホみたいな事をしてたらしい。
最初は意味が解らなかったらしいけれど、そうしてお互いの国の状況を伝えあって、この大陸全土の情報をやり取りしているのだとか。簡単に偽情報を掴まされそうだけど、そうならないために面倒なルールを設けているとかいないとか。詳しい事はブランママも知らないそうだ。
ちなみに西の山脈は人間が超える事は不可能と言われるくらい高いのだが、過去数度は誰かが超えたらしい。その分、死人も大量に出ていたそうだが。
そんな状況なので、経済流通も国内だけに限定されるのは仕方のない話だ。どれだけ珍しいものがあっても、全て国内で完結してしまう。ちょっとだけ寂しい国だなと思った。
他の大陸の話も聞かないし、大航海時代があったような素振りも無い。そもそも航海技術が無いのかもしれない。海岸も魔物が多いと聞く。しかも大きくて強く、船で漕ぎ出せば潰されるのは目に見えているとか。ブランママも案外色んなところを冒険している。
となると、国内限定で地域に特化した商売・・・やっぱり魔物素材かなぁ。でもなぁ、森に入るとブランママに怒られるだろうしなぁ。私はブランママのような両手剣も無いし、ゴーレムに乗っても安全とは言えない。むしろ、ゴーレムより私が素手で戦った方が強い可能性がある。闘気というのはそれだけで武器になるのだから。
闘気か・・・錬魔・・・うーん。性質が似ている部分も多いな。闘気も自然界の気と自分の気を混ぜて使っているから、これだけの性能を発揮できるのは知っている。岩を砕き、水を裂き、大地を陥没させる。それが出来るほどの力を発揮するのは、混合気力のお陰だ。
魔法も同様だ。混合魔力で魔法を使えば同様の結果を得られる。今は殆ど自然魔力しか使って無いけど。しかしA(魔力)とB(結果)とC(気力)はイコールにはならない。魔力と気は反発し合う。平行線の恋人みたいなものだ。
私が求める力がその先に在るのなら・・・それが人の法なら・・・・・魔導教本・・・・・・・?
何だかモヤモヤした気持ちになって来た。商売も、鍛錬のついでと言っている工事も、あの戦いも、教本も、白蛇も、全て繋がっているような、そうでないような。答えはもう得ているのかもしれない。
そんな事をゴーレムに乗りながらボンヤリと考えていた。




