018
トントン、カンカンと木造建築が建てられていく音が響く。
魔物の氾濫を鎮圧してから数か月。開拓村で一つの村が飲まれ、一つの村で殲滅したという報告が領主の騎士様の下へ行くと、小隊が検分にやってきた。
ガチャガチャとブレストプレートを身に着けた一行が東門の広場へとやってくる。案内しているのは村長だ。そんな彼らを私とゴーレム兵、そしてブランママが出迎えている。
騎士とは言ったが、正確には従士隊だ。騎士の配下に当たる。領主様が騎士で彼らの主になるけれど、その領主様も上位貴族に仕えている事になっている。伯爵だったかな? 詳しい名前とかは忘れた。
「よぅ、あんたらがあの素材の山を倒したって言う連中かい。報告通りに子供なんだな・・・いや、見りゃわかるよ。すげぇ気力してるし」
ざっと見たけど従士隊の誰も闘気を扱えなかった。後でブランママに聞いたけど、闘気を扱える人間は冒険者と騎士を合わせても一握りなんだそうな。殆どは防具に頼って気力制御で筋力を上げて戦うのが一般的らしい。だから、私達はそんな一般人から見ると、一種の化け物という訳だ。
それは兎も角、報告したかったのは大量の素材でも、私達の実力でもない。白い奴だ。
「これが赤いオーガが纏っていた紐です」
コードとは言わなかった。一瞬、ブランママがこっちを見た気がしたけどスルーしておこう。
「これがねぇ・・・コイツ自体が生きてたって証拠は?」
「無いわね。寄生型の魔物だと思うけれど、初めて見るタイプだわ。核のない寄生魔物ってのは有り得ない筈なんだけどね」
従士の問いにブランママが答える。それを聞いた従士が頷いた。同じ意見らしい。
「どうやって動いていたかじゃなくて、それ自体がゴーレムだったらと考えたら辻褄が合うかもしれません」
「なんだって?」
私の言葉に従士が反応した。
「恐らくですが、戦闘中に被弾が多くなってバラバラになり始めた時、まるで周囲の生き物に乗り移ろうとしているかのような動きをしていました。危険な乗り物から別の乗り物に飛び移ろうとしているかのように。だとしたら、それ自体に意思があろうとなかろうと、条件反射で行動していただけかもしれません」
「・・・ぇーっとぉ、あー・・・? つまり、どういう事だ?」
私とブランママが溜息を吐く。ブランママは頭がいいから今の説明で納得していたらしく、しきりに頷いていた。
「すまん、でもよぉ、報告しなきゃならないんだよ。出来れば解り易くいってくれると助かる」
「えーっと、では、そうですね。お兄さんがあの馬車に乗ってる最中に馬車が燃え始めました。どうしますか?」
「え、いや、飛び降りるだろ」
「ですよね、それと同じです」
「・・・つまり、最初から、寄生してるオーガが死にそうになったら別の魔物に乗り移るつもりだった?」
「そういう事だと思います」
「なーるほどなぁ」
うんうんと従士隊が全員頷いてくれた。良かった。めでたし、めでたし。
「それでだな」
まだ続くんかい。
「どこから白いのが来たのか解るかい?」
「さぁ・・・東の村で痕跡を探さないと判らないと思いますけど、その白いのが抜け落ちてるのでも探してみてはどうでしょう。ただ、護衛を付けないと流石に危ないと思いますよ。ここ、大森林に近いですし」
「だよなぁ」
鳴きそうな声で従士が項垂れた。仕事って大変だね。
その後、領都以上に立派な外壁や、村内のレンガ道に驚いていたけれど、私が倒した魔物の素材数を見て眼を剥いていた。数万体はあるからね! 尚、全て解体済みである。
王国に報告すべきかと考えていたらしいけれど、それだと私が王都に連行される可能性があるので、褒美は要らないから騎士様(領主)が倒したことにして欲しいと依頼し、口裏を合わせてもらった。
その結果、拠点として優秀じゃん?という理由で、冒険者ギルドや商業ギルドが建設されることになった。
「はぁ~、めんどくさくなったなぁ・・・」
「何言ってんのよ英雄様」
朝食を作りながら愚痴を呟くと、隣でサリーを背負いながら鍋をかき回すブランママが笑っていた。笑い事ではないのだが。
「だって、他の冒険者が来たら氾濫を抑えたのが私ってバレちゃうじゃん。人の口に戸は立てられない物なのですよ?」
「あんたは段々と可愛げが無くなってくるねぇ・・・それより食べたら教会に行くのよ。教師役が増えるからって、あの爺さんが楽しみにしてたよ」
アレ以来、やけに老神官の扱いが雑になったブランママである。
「私は生徒なんですがー」
「商人と交渉できて、闘気と魔法を満足に操れる人は生徒にはなれないんじゃない?」
納得いかない。断固、講義する。いや抗議する。同い年の友達を作ってキャッキャウフフするフレンドリーライフが始まるかと思ったのに。
そんな事を考えながら朝食を食べ、春の畑にアルトを送り出し、革のバッグを背負って教会へやって来たのだった。楽しい学校生活を夢見ながら。
「みんな紹介しよう。新しい先生のユリアネージュ殿だ。分からない所は彼女と相談しなさい」
「「「はーい」」」
いやいやいや、まずは新しいお友達が来たよ!でしょうに、最初からそれはどうなの?
生徒の皆も10人くらいしかいないけど、何で恐怖の視線を向けてくるの? 私そんな怖くないよ?
「あの、神官様。私まだ6歳です・・・」
「魔物を皆殺しに出来る天才児は相応に扱わねばならんだろう」
ヒソヒソと話し始めると、爺さんが怪訝な顔をしはじめた。それ絶対演技でしょう。
「それとこれとはあんまり関係ないような気がします」
「関係大有りじゃ。みんなの視線を感じておるじゃろう? 恐怖から尊敬の目へ変えたいと思わないかね?」
ぐっ・・・確かにアレ以来、大人も子供も私を見る目が変わってしまった。話しかければ緊張し、子供たちは積み上げた魔物素材を解体する私たち親子を見て、逃げるように離れて行ってしまった。
私だって、やりたくてやったンじゃないわ!
「・・・お心遣い感謝します。誠心誠意努めさせていただきます」
「給料も出るから安心せい」
普通は喜ぶところなんだろうけれど、あんまり嬉しくないのは何故だろう。リハビリにしか感じないからか? 内心で溜息を一つ吐いて、生徒に向かって挨拶をするとしよう。笑顔笑顔。
「今日から教師役として通う事になりました、ユリアネージュです。魔法でも剣術でも勉強でも分からない所は聞いて下さい」
「「「・・・」」」
うわ、めっちゃ目を逸らされた。辛い。ママは英雄とか言ってくれるのに辛い。
「では授業を始めるぞい」
神官様の言葉と共に、パラパラとお爺ちゃんお手製の教科書が捲られていく。子供たちの人数分だけ、要約された歴史や地理、計算方法、文字の読み書き法などが載っているのだが、これらの紙は去年から私が提供しているので、私が貰った物よりも白くて見た目が良い。
子供達・・・というか生徒たちは良い意味でも悪い意味でも素直だった。言葉を交わせば目を合わせてくれるようになったし、ゴーレムの背中に乗せて走ったり飛んだりすれば、キャッキャウフフは割と簡単に叶った。
「ユリ! ゴーレム出して!」
「すらいむ出して!」
うーん、可愛い。年の近い子供はすぐ懐いてくれたんだけど・・・。あと私はユーリです。超能力を使えそうな名前じゃないです。
「おい、弟に危ない真似させんじゃねーぞ」
「そうよ、あんなのに乗せたら落ちて死んじゃうでしょ」
お兄さんお姉さん、特に成人前の12歳連合がお山の大将になっているので、毎回のように反発してくる。辛いわぁ。もっと仲良くしようよ。
「ごめんね。でも落ちないように固定はしてるから、みんなも乗ってみたら?」
「止めろって言ってんだろ!」
「もしもの事があるでしょ!」
聞く耳を持たないのぅ・・・ユリアさん困ってしまうわい・・・。
一部の子は教会に通う必要もなくなり、10歳くらいから殆どの子が家の手伝いに専念するのだが、この二人は物覚えが悪いのか、未だに神官様の卒業許可が下りないらしい。私に文句を言う前に学業を何とかしろよ。
「そもそも・・・あなたたちは休み時間毎に私に突っかかってくるよりも、いい加減に文字の読み書きと計算方法を覚えたらどうなの? あのゴーレムで遊ぶことは村長さんと神官さんから許可を貰っています。あの子たちのご両親からも許可を貰っています」
「そんなの知るかよ! 俺が弟と遊べないだろうが!」
「そうよ! 私が妹と遊べないじゃない!」
それこそ知るかよってんだチクショーめ。
「じゃあ、一緒にゴーレムに乗ってきたらいいじゃない・・・怖いの?」
ニヤリと笑うと、お兄さんお姉さんが一歩、後ずさった。
「べ、別に怖くねーし!」
「そうよ!こ、怖くなんて無いわ!」
「じゃあ乗れるよね? ゴーレム!」
ウォ?と子供たちを載せた運搬型ゴーレムの頭部がこちらに向き直った。
「この二人を載せてあげなさい」
ウォォンと返事をしたゴーレムは地面を踏みしめる四足とは別に、脇の下辺りから伸びている、二本の副腕で二人を捕らえた。
「うわっ、あ、わー!」
「きゃああああああ!?」
あっはっはっはっは。めっちゃ泣き叫んでる。これ、後で怒られないだろうか。
「全速前進!」
ウォォォォンと反応しながら、ゴーレムが教会裏の道をドシドシと駆け足で進んで行く。おお、時速30キロは出ているだろうか。結構早いんだよねアイツ。
悲鳴と歓声が敷地の端をぐるりと一周してくると、神官様が後ろから笑いながら出てきた。
「仲良くやっとるようじゃの」
「上級生の二人とは特にね」
「あの二人は昼飯目当てで来とるだけじゃ。読み書きの物覚えが悪いのも無意識の事じゃろうの。現に剣術と魔法はキッチリ覚えとるし」
「たしかに」
お兄さんは剣術を、お姉さんは魔法をある程度は扱えるようになっている。将来はこの村で冒険者として腕を磨いてから世界へ飛び出すんだ! とか言ってるけど、先輩冒険者のブランママには半笑いで聞き流されたらしい。私も同じ評価なので、あの二人には農業に専念して欲しいところである。
知ってる人間が死ぬって言うのは、隣村が消えてなくなるより精神衛生上、良くないからね。
「そういえば、隣村って再建されるんですか?」
「難しいじゃろうの。領主様が人を用意するまで暫くかかるじゃろう」
「この村のような壁があれば違ったんでしょうね・・・」
普通の村に在るのは自分たちで掘削した堀とそれの内側に立てる木製の柵。どちらも深さ一メートル、高さ一メートルと、水の無い堀から高さを計っても二メートルしかない。オーガがきたら柵の上から頭がコンニチワしちゃうだろ。
「過ぎた事で悩んでも仕方あるまい。お主が鍛え始めた子供たちが、開拓村で働いてくれれば、今後は同じ被害が無くなるかもしれん。少年よ、未来の事で悩めよ」
「少女です」
「これは失敬。ふぉっふぉっ」
笑いながら老神官が教会の中に戻っていった。
その後ろ姿を見つつ、美少女に向かって失礼ですよ! と思いながら、ムニムニと引き攣った頬を両手で揉む。
ブランに似てきたと思うんだけどなぁ・・・。アレくらい美人になれるんだろうか?
女としては期待してしまうけれど、ママは性格が男勝りだからなぁ。男が靡く女とはちょっと違うのよね。
悲鳴と歓声が一周して戻ってくるのを確認し、ゴーレムを土に戻しながら全員を下ろすと、お兄姉さんがぐったりしていた。大丈夫かな?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
教職を始めて数日後、家に領主様が来た。何でだ。
「やぁ」
「はぁ、どうも」
気さくなオジサンだった。この領地は騎士爵領なので、この人はどこかの貴族に仕える騎士爵という事になる。こんな広い土地を騎士が貰って良いのかと思うけど、なんも無い所だから騎士に渡されたとも言える。それに魔物が頻繁に出るからね。だから北の大森林沿いの村は全て騎士爵領だ。
「この間の戦いといい、村の発展といい色々と手を貸してくれて感謝している。此処までウチの領地が発展しているとは思って無くてね。去年はずっと王都に居たから、情報を掴むのに遅れてしまって申し訳ない」
随分と腰の低い人だな。騎士とはいえ、平民の、しかも農奴の娘に頭を下げて良いんだろうか。
「いえ、自分たちのためにやっている事ですから。それに報酬も貰ってますし、領主様が謝る事なんて何もないですよ」
良い鍛錬にもなってるし。
「そうは言うが、税収が上がって居たり、近辺の街への流通が増えて人が増えていたり、こちらとしては君が思っている以上に利益を得ているんだよ。特に魔法紙の税収が凄まじいね。あの商人がウチの領地に落とす税金だけで、過去5年間の数倍はいくよ」
「それはまた・・・おめでとうございます?」
「あはは!それもこっちのセリフだな。おめでとう、君の尽力を讃えて、この村は開拓村では無く一種の商業拠点としての活動を許可された。キミたちはもう農奴ではない、平民として扱われる事が決まったよ」
「ほぇ?」
そもそも農奴と平民の違いとは? 簡単に言うと、税金を納める額が変わる。権利が変わる。好きなところに住めるようになる。あと商業ギルドに登録して、商会を起こせる。そんなところだ。
「じゃあ・・・そうですね、広い土地も持ってますし、商会を作って新しい産業でも作りましょうか」
「それは良いね。何をするつもりだい?」
過度な期待をされてもなぁ・・・。やけに嬉しげじゃないか。関わってくるなら協力してもらうよ?
「あー・・・まずは北の大森林から獲物を取ってみます。何か使える素材があれば、それを使って工場で生産できる物があるでしょうから。数年以内には形になっていると思うので、今しばらくお待ちください」
「なるほど、色々と使える素材も多いと聞くからね。期待しておこう」
それだけ言うと、色々な許可証を置いて領主のオジサンは帰っていった。尚、ブランママとは顔見知りらしい。王都で喧嘩沙汰が起きると大抵がブランママだと昔の話をしてくれた。最終的にブランママに叩き出されていた。可哀そうに。




