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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
17/97

017

 春頃になると、両親の寝室に加えて子供部屋も増設した。簡単に作れるなら欲しいじゃん、マイルーム。プライベートスペース。プライスレ~ス。


 こっそり地下空間も増設しているの。

 一つ目が台所の地下貯蔵庫と、二つ目が私の作業場だ。地上から見ても横に幅広くなった家は地下でも幅広くなった。


 建設用に造ったゴーレムは主に夜間に活動している。5体しか居ないけど、静かにレンガを組み立て、支柱を巨大な体で軽々と持ち上げる。手足の長い高所作業用の蜘蛛みたいなゴーレムを見てサリーが泣き出したのは少しショックだった。


「あー・・・ちょっと目立つかなウチの家」


 春の陽気に当てられながら外壁から村を見下ろすと、異質な石造りの屋敷があるんすよ。一階平屋だけどデカいのがあるんすよ。


 台所約20畳、リビングだいたい20畳、寝室二部屋で20畳くらい、風呂場とトイレで合わせると30畳あるかな? 玄関と廊下で20畳程度とすると、総面積110畳オーバー? デカいなー。領主の屋敷かな?


「木で隠すか」


 幸いな事に、それぞれの家は広大な敷地を確保しているので、我が家もそれに倣って家を建てている。今後の増築も考えると、300畳の家と、その倍近い庭を囲える範囲を木で覆うと・・・。


「ゴーレム、あの辺に木、指定個所に植え直してきて」


 ウォォォン・・・。


 建築用ゴーレムに命令し、家の付近の林から土ごと木々を抉りだすと、土魔法で家の周囲に堀を造り、そこに並べてもらう。後はゴーレムの体を少しずつ土に戻して完成だ。


「うん。これで完璧。我が家が目立つ事は無い」


 隠れるどころか逆に目立ってるよな、と気付いたのはもう少し先の事だった。


「さて、そろそろお昼の準備・・・? なんだ?」


 商人が東門から逃げてきている。既に何人かは東門の内側門前広場でゴーレムと門番役に言い合いをしているが・・・。


 剣呑な雰囲気を察知して、気力制御と風魔法で滑るように疾走すると、丁度村長が馬に乗って事情を聴きに現れたところだった。


「ですから! 東の開拓村が魔物の氾濫で消えたって言ってるんです! 村に着いた時には入り口に近付ける状態じゃなかった! 魔物除けの匂い玉で辛うじて逃げ切れましたが、あれじゃどんどん溢れだしてくる! 早いとこ逃げたほうが良い!」


 魔物が溢れた? また北の大森林? 前に聞いた東の開拓村は、もっとずっと東の方だって聞いた。でも、この人が言っているのは隣村だ。5キロも離れていない場所なら、こうして話している間にも接近してきている筈。


 この辺の開拓村は北の大森林沿いに東西に作られている。これはつまり、開拓村が滅んだ=森から魔物が溢れたという事になるので、国としてはある種の警報装置的な役割でも置いているに違いない。


 胸糞悪い話だが、国は「防げればラッキー」程度にしか考えていないのだろう。だからこそ、私はこの防壁を立てたんだ。同時に製紙工場やレンガ工場を悪徳商人から守れれば良いだろうと思っていたので、防壁の主目的は今のような状況に備えるつもりだったが・・・実際に使う時が来ると嫌なものだ。


「商人さん、魔物の種類は?飛行型?四足型?スライム?二足歩行?覚えてる限りで良いから教えて」


「え? あ、ユリアちゃんか、えっと、そうだな・・・四足と、二足は見たが、それ以外は私には見えなかった。それより、逃げないとダメじゃないか?」


「隣村ならもう間に合わない、此処で応戦するしかないよ」


 村長は・・・ダメか、完全にビビって混乱している。

 ママを指揮官にして、いや、東門を打ち破られた時の為に前線の戦力として残しておかないと危険だ。


 どうする? 誰を指揮に回す? 私か? いや、ダメだろ。5歳児の指示に従う訳がない。


「あ、そうだ」


 老神官が居た。彼にお願いすればいけるかも。あの人は私と同じように魔法と闘気を使える。それなりに戦闘経験もあるかもしれない。


「村長さん!神官のお爺さんに伝言!」


「え、あ、え?」


「村の指揮を執ってもらうようにお願いして! あの神官さんは多分、戦いの経験がある人だよ!」


 その証拠に私は見た。あの人のステータスを。ママ並みの戦力なのは既に確認済みだ。


「私はママを呼んでくる!他の人は弓を使える人を集めて!東門を防ぐよ!」


「お、おう!おめーら!急ぐぞ!」


 村の門番として雇われている人は外から来た人だけれど、積極的に皆を集めてくれているようだ。助かる。


「馬鹿な・・・そんな、無茶だ・・・」


「で、でもこの壁があれば耐えられるんじゃ?」


 商人さんや戦えない人たちは動けない。責める気はない。当然の事だから。


「イイから集めんだよ!行くぞ!」


 普段の私の仕事ぶりを知っているからか、昔馴染みの男たちは困惑しながらも話を聞いてくれた。


 オジサンたちの声を背中で聞きつつ、再び我が家に全力疾走した。


 まさか魔物の氾濫が初陣になるとは。神様は私をイージーモードでは生かしてくれないらしい。酷い話だ。


 裏手から台所に駆け込むとサリーを背負ったママを見つけた。そろそろ昼食だった。飛び込んできた私の顔をみて少しだけ緊張した顔を見せた。


「・・・何かあったの」


「東の隣村から魔物氾濫!こっちに来てる!村長さんに神官さんを呼びに行ってもらってる!サリーをパパに預けて、ママは東門に来て!」


「隣村って、すぐそこじゃないか!!」


 サリーを背負ってる紐を外しながら、サリーを受け取る。このままパパの畑まで行って、私が預けに行こう。


「準備しておいて!サリーは任せて!もうゴーレムが迎撃に向かってるから、外には出ないで!」


 それだけ言うと泣きだしたサリーを抱えて外に飛び出した。風魔法でパパの位置はつかめている。すぐそこだ。


「パパっ!魔物の氾濫がすぐそこに来てる!家に帰って地下で待ってて!」


「なっ・・・わかった。サリーを・・・地下に隠れてりゃいいんだな?」


 驚き困惑しつつも現実を何とか飲み込もうと考えてくれている。有難い。


「うん、ママは東門に行くように伝えてある。神官さんとみんなで戦うから、出来れば近くにいる人たちは、ウチの家に匿ってあげて!うちは、魔物が簡単に入れないようになってるから!」


 喋りながら走り出し、最後の言葉を伝える時にはサリーを預けて畑の柵を飛び越えていた。


「ユリア!待て!ユリア!くそっ!」


 ここまでで10分近く掛かってる。5キロの距離なんて四足魔獣はあっという間に移動できる!門はゴーレムに閉じさせたから問題ないと思うけど、あの魔法レンガを砕く相手じゃない事を祈るしかないかな。


 空を見ても飛行型の魔物は居ない。

 二足と四足であの壁を超えられるとは思えないけれど・・・、いや、居ると思ってたほうが良いのかもしれない。巨大な兎みたいな魔獣だっているかもしれないよね。ノミみたいにジャンプできると考えろ!最悪を想定しろ!


 東門に到着すると気配察知スキルが大量の魔物の気配を感じさせる。もう来てる。門の向こう側に、大波のように! 男たちは壁の上に登って弓を撃っている。既に少数の魔物が近付いてきているのを迎撃しているらしい。私は風魔法を使って伝声の魔法を発動した。


「ゴーレム、北、西、南から2体ずつ東へ移動!迎撃に加わって!」


 察知できた魔物の数は想像以上に多い。大人たちの輪からブランが駆け寄ってきた。


「ユーリ!帰んなさい!」


 ブラン、そうは言うけどここで下がったらゴーレムが機能しなくなるよ。


「私が居ないとゴーレムが動けないの! 神官さんは?」


 後ろから馬の嘶きが聞こえると同時に神官さんを載せて村長が戻って来た。駆け馬に慣れていないのか村長さんはフラフラだ。


「ユ、ユリアちゃ・・・神官さん連れてきた!」


「ありがと!神官さん!」


「これは・・・!」


 颯爽と馬から飛び降りた老神官は颯爽と東門に近付き、鉄枠の向こうに見える魔獣たちに目を見開いた。身軽だな。


「私はゴーレムたちの操作に集中します! 神官さんは指揮を執ってください!」


「う、うむ、構わんが・・・」


「ユーリ! あんたは帰んなさい!」


「お母さんは神官さんを守って!」


「!・・・あぁ、分かった」


 悔し気に臍を噛む母親。


 助かる。頼むよブランママ。

 この時の為に用意した四方の門上部に取り付けた小型要塞。私が乗り込み、周囲を把握しつつ身を守れる鉄壁の箱。此処からならばゴーレムを十全に操れる。ついでに他の魔法も使える!


「さぁ、立ち並べ!アイアンゴーレムズ!」


 魔力レンガに身を隠していたゴーレムたちが壁の上に集まり、両腕を壁の向こうへと向ける。その数10体×2本の腕。小型要塞の視界確保用のスリットから見えるのは魔物の海。


「壁の上に居る人は退いて!弓持ちのオークとか杖持ちが居る!反撃されたら耐えられないよ!ゴーレムに任せなさい!」


 小型要塞の伝声管に向かって叫ぶと、こちらと魔物を何度か見て村の男たちは階段を降りて行った。素直で助かる。残っていたら迎撃に巻き込むところだった。


「照準合わせ!」


 東側の壁に立ち並ぶゴーレムは常備兵4体、北西南から2体ずつ回して現時点で10体。それらが大体10メートル間隔程度で立ち並ぶ。


 ゴーレムたちの腕に集まるモヤモヤの魔力が明確な形となって凝り固まっていく。それらがゴーレムたちの指先に集中していくと、土魔法を構成していく。ゴーレムを通して私が魔法を発動する事で威力を強化できるブースト機能だ。


「斉射!」


 ギュバッ!と妙な音を発しつつ発射された鋼鉄の弾丸は地上の魔獣たちの頭部を爆散させ、胴体を千切り、地面に突き当たって炎と共に土砂を巻き上げる。片手で5発の魔導加速ロケット弾だ。掌が直径50センチあるから指も太いけどね!


「次弾用意!」


 再び集まった魔力が解き放たれゴーレムたちの指を再生し、指の形をしたロケット弾が作り出された。連射性能に不安アリだ。


「斉射!」


 地響きと共に魔獣たちが吹き飛び、次々と倒れていくたびに感じるすさまじい疲労感。気を失いそうになる頭痛と凄まじい眠気。なんだこれは。


 ステータスを見るととんでもない事になっていた。


 ---------------------------------------------------

 ユリアネージュ(5歳)

 種族:素人

 レベル:53

 HP:89/4380

 MP:157/12981

 状態:通常


 スキル:剣術LV7、歩法LV6、火魔法LV9、水魔法LV8、風魔法LV9,土魔法LV10、光魔法LV7、闇魔法LV6、気力制御LV10、魔力制御LV10、並列制御LV5、闘気制御LV2、気配察知LV4、真実の瞳、フリキア言語LV6

 称号:魔闘士

 ---------------------------------------------------


「なに、これ・・・もしかしてレベルアップで瀕死に近い状態に・・・」


 怪我をしていないのに極度にHPが低いという事はまさか、過労死直前みたいな感じってこと!? そんなブラック企業サラリーマンみたいな死に方したくないんだけど!


「本気で回復魔法を習っとくんだったぁ・・・」


 教わりたいなら神官学校に行きなさいとしか言わないんだよね、あの老神官。

 あ、ちょっとこれ、マジでヤバいかも。意識が、途切れ・・・。


 ◇◇


「ゴーレムが止まった?」


 あの子の気配はまだある。あの中でまだ生きてるけど、気を失った?どうしていきなり?人一倍魔力の使い方が上手いあの子が、魔力切れで失神なんて真似は・・・。


「恐らく、急激なレベルアップで気を失ったのじゃろう」


 老神官が言うそれは、冒険者の間でも確かに知られている、しかしそれは軽い疲労感ってだけで・・・。


「あ・・・そう言えば、あの子に狩の許可は出してなかった。まさかあの子、本当に一度も狩に行ってない・・・?」


 私が小さいときは隠れてゴブリン狩りとかしてたけど、あの子も同じだと思ってた。でも、よく考えたらそんな訳ないじゃないか。あの子は賢い。異常なまでにイイ子過ぎるのはこれまで育ててきた母親のあたしがよく知ってるじゃないか!


「大抵、ああいう天才児は親に隠れて狩に行くもんじゃがの、ブランネージュ殿のようなヤンチャさが、あの子には足りなかったんじゃろうな」


 そう言うと老神官は門の近くの階段を上り始めた。


「ばっ、危ないって!奴らの魔法と矢が飛んできてんだよ!」


「ブランネージュ殿、お主の娘がおらねば、我らは死ぬぞ」


 ニヤリと落ち着いて笑って見せた神官は、子供の悪戯でもしに行くかのような表情だった。何なんだこの爺さん。どれだけ肝が据わってるんだ。普通の神官じゃない。


「だったら護衛を置いてくんじゃないよ!」


 私の言葉を無視してトントンと身軽な数段飛ばしで壁際の階段を上っていく。ったく、ユーリが心配でどうにかなりそうだってのに!


 全力の闘気を纏い、壁をそのまま駆け上ると、壁の上に着いたのは老神官とほぼ同時だった。


「ほほっ、さすが剣姫ブランじゃの。凄まじい闘気じゃ。あそこの扉にむかうぞい」


「くっ・・・!」


 大量の魔法と矢が老神官に目掛けて飛んでくる。全部、叩き切ってやる!

 闘気剣ならば、魔力そのものを打ち消せる!


 飛来する礫と矢と魔法を防いでいると、その後ろで老神官がゴソゴソやっている。


「まだっ!?」


「もうちょいじゃ、耐えて下されよ」


 間断なく飛んでくるもンに必死で何やってるか分からないけれど、とりあえず進めてはいるらしい。


「こっちに・・・こうじゃ、スポットヒーリング」


 え? それって指先だけ直すとかいうやつでしょ? 今使う魔法なの?


「もう一発・・・スポットヒーリング・・・スポーットヒーリング・・・ふぅ、スポットヒーリング・・・まだかのぅ。この距離だと消耗量が多くてシンドイんじゃがのう・・・」


「なにしてんのさ!?」


 爆散する魔法と金属の入り混じった礫を叩き切り、後方にだけは行かないように爆散させ続ける。眼下の数千体いや、数万体の魔物の一部だけが攻撃してくる状況だが、一部だけでも百は超える遠距離攻撃の集中豪雨だ。それを防いでいる後ろからは余りに呑気な台詞が聞こえてきて怒鳴ってしまう。


「この扉は開けられん。その代わり隙間から内部を覗けるんじゃが、ワイドヒーリングだと扉と壁の素材で魔力を打ち消しおる! こんなもんを作り上げたユリアちゃんは天才じゃよ! まったく!」


「それで隙間からチマチマ回復してるってわけ!? あとどれくらい使えるの!」


 くっ、気力がそろそろきつい。もう20分以上経ってる。


「最後の一発じゃ、ぶっ倒れるから、下まで運んでくれると助かる。・・・スポーットヒーリング!」


 宣言通り気絶した老神官をわきに抱えて、そのまま壁の下に飛び降りた。ユーリ! 大丈夫なの!?


「神官殿!? まさか・・・」


「生きてます。村長、神官殿をお願いします」


 グッタリした老神官を、腰の引けた村長に渡すと、小さな要塞を見上げた。ユーリ・・・気配はある、けど、まだ目を覚ましていない。

 ・・・それなら。


「ブランネージュさん!無茶だ!一人で行く気か!」


「階段のとこまでだって!」


 むざむざ死ぬ気はない。ユーリもあそこにいる限りは安全だ。この外壁は、あの子の自信作だって言って・・・。


 ドゴォン!!


「なん!?」


 爆音と振動を感じつつ、東門の格子扉前の門番役から声が上がった。私が面接した元B級の男だ。金払いが良いって喜んでたな。ユーリが直接雇ったんだったっけ。


「ドレイクだ! ドレイクが壁に体当たりしてる!」


 うっそだろ! B級魔獣じゃないか! あんなの私が30人居ないと倒せない。

 私もドレイクと戦ったのは討伐隊の一員としてだ、単独で倒せるようなのはA級上位冒険者の化け物たちだけだ。


 それを薙ぎ払うように殺すあの子のゴーレムと魔法には意味が解らないけれど。しかし、幾らあの子の自信作の壁だって言っても、あんなのに何度も体当たりされたら穴が開いちまう! 万事休すか・・・。


「ユーーーーリーーーーー! 起きろーーーーー!」


 階段の一番上まで上がって身をかがめ、扉の向こうへ声が聞こえるように叫ぶ。残り少ない気力を使って、咆哮とでも呼ぶような大音量で叫んでやる!


「ユーーーーーーーーーーリーーーーーーーーーー!」


 頼むよ自慢の愛娘! あんたのゴーレムが居ないと戦えないんだ!


「おーーーーきーーーーーろーーーーーーーーーーーーーー!」


 さっさと起きないとこの間作った世界地図をアルトにバラすぞ!


 ◇◇


 ゾワリと冷たい何かを感じて目を覚ますと、ママの叫びが耳に入った。

 気絶してた? 何が? ここは外壁門の小型要塞?


「あっ! て、まだ戦闘中だってば!」


 ステータスは? ゴーレム・・・起動! 全部起動!


 ---------------------------------------------------

 ユリアネージュ(5歳)

 種族:素人

 レベル:59

 HP:690/4401

 MP:211/13443

 状態:通常


 スキル:剣術LV7、歩法LV6、火魔法LV9、水魔法LV8、風魔法LV9,土魔法LV10、光魔法LV7、闇魔法LV6、気力制御LV10、魔力制御LV10、並列制御LV5、闘気制御LV2、気配察知LV4、HP自動回復LV1、MP自動回復LV1、真実の瞳、フリキア言語LV6

 称号:魔闘士

 ---------------------------------------------------


 何か自動回復スキルが生えてる! いやそれどころじゃない。


「状態は・・・スリープしてただけか、直ぐ行ける!弾込めぇ!」


 膝立ちになっていた10体が一斉に立ち上がり、両腕を前に伸ばす。


「斉射ぁ!」


 轟音と地響き、そして直後に壁を揺らす音。


「何事?」


 何だあれ。デカいトカゲが壁に突撃してる!


「集中斉射!」


 一斉にターゲットを変え、ゴーレムの指がトカゲに向かう。


「撃てぇ!」


 鳴り響く轟音、そして空気を振動させるような悲鳴。暫らく後の地響きと小型要塞のスリットから見える粉塵。大型トカゲは倒せたっぽい。


「いえすっ!」


 後は繰り返し行動で良さそうだ。


「リピートアタック、パターンA2!」


 目に付く魔獣を手あたり次第ぶちのめせ命令を出し、他のゴーレムたちの状況を風魔法で探る。


「南、北、西、僅かに魔獣が来てるわね」


 同様の命令を囁きの風魔法で送り、遠方に居るゴーレムたちも動き出した。この魔法、便利だけど広範囲には出来ないから個別に囁かないといけないのが面倒。現地に音を拡げる仕組みを作っておけばいいのかなぁ。


 錬金術師とか居ないかなぁ。そういうの作るの得意そうだけどなぁ・・・。


「にしても、キリが無いなぁ」


 それに遠隔のゴーレムは、今の私じゃ長時間動かせない・・・筈なんだけど、魔力が足りてるわ。レベルが上がったお陰かな?


 それにしても魔獣の大海原が一向に途絶えない。一体一体は弱いけれど、数が異常だ。数万では効かないのではなかろうか? 何ですこれは? 何が始まってるんです?


「どこの世界大戦だよ」


 お腹が減ったのでそろそろ大戦をゴーレムに任せて帰りたいんですけどね。私が離れるとゴーレムが動かないんですよね。でも私が飢餓状態で倒れるとゴーレムが動かないというね・・・どうしろと?


「おかーさーん! おなかすいたー! ごはんもってきてー!」


「・・・は?」


 扉の近くにある階段に伏せていたブランママがとぼけた声で答えてくれた。だからご飯だってば。


 ◇◇


 あの子は一体何を言っているのか、ママは理解に苦しむよ。


「ちょっともう一回言って!良く聞こえなかった!」


「お腹減ったからゴーレムを動かせないの!何か持ってきて!」


 あの子は天才なのか馬鹿なのか分からないな・・・なんで要塞として使う場所に備蓄食料が無いんだ。いや5歳児だった。そもそも騎士でも冒険者でもないんだった。


「あー、うん、わかったから、どれくらい持ちそう?」


「あと半日で倒れる自信がある」


 そんな自信は要らないけど。


「じゃあサンドイッチ持ってくるから待ってなさい」


「おねがい~」


「はいはい」


 矢と魔法が飛んでくる最前線で、何て呑気な会話をしてるんだろうと思って、思わず気が抜けて笑ってしまった。やれやれ、頑張ってる娘の為にママが差し入れを持って行ってやるとするか。


 ◇◇


 サンドイッチをモグモグしながら魔力制御が激しく巡る。気力が底をつきかけたブランママにも小型要塞の中に入ってもらい、今は細いスリットから外部を観察している。


「壁から離れた所に死体の山が出来てきたよ。あれも散らせるかい?死体で身を隠されると面倒だ」


「あいあいさー」


 次のサンドイッチをブランママと食べながら敵を駆逐していく。最早作業と言って良い。レベルは爆発的に上がっていくけれど、それこそ数万の魔物を倒しているが故だ。普通は此処まで上がらないだろうと思う。問い詰められるのが嫌だから、ブランママの前で言わないけど。どこかのタイミングで鑑定石とかいうので見てもらって、見てもらいました!っていうアリバイをつくろう。


 そんな事を遠い目で考えながら食事を済ませ、ゴーレム兵の腕が熱くなって壊れたりしつつ数十分。仲間が死んでも歩みを止める事の無かった魔物勢が足を止めた。


「何だろ・・・ママ、何か見える?いきなり向こうで列を作って止まったんだけど」


「まさか指揮役が居るのか・・・? だとすれば、これは氾濫じゃなくて計画された魔物の侵攻?」


 ブランママが恐ろしい事を言っている。


「そういうのって何度もあるものなの?」


「多分だけど、前例がないと思うよ。あたしもギルドの記録を全部覚えてる訳じゃないけど、故郷が氾濫で潰されてから少しは調べたからね。でも、その手の記録は見覚えが無い。氾濫ってのは増え過ぎた魔物が、住処に住めなくなった分を外に溢れさせるから氾濫って呼んでるんだ。さっきまでは氾濫と同じ動きをしていた。けど、これは・・・まるで軍隊だ」


 なるほど、ブランママから魔物の方へ眼を向けると、魔物が隊列を整え始めている。前列にオーガやゴーレムにドレイクの群れ。中列に近接戦闘を行う魔物だが、その手には梯子替わりだろう長い樹木を持っている。後衛には杖持ちや弓持ちか。典型的な攻城戦の隊列だ。


「まっずいなぁ。大木を持ってる奴を優先的に狙う?」


 気力制御で視力を上げ、スリットから外を伺いつつブランママに聞く。


「最優先はそれだね。ただ、前列の背のデカい奴の背中を足場にしてくるかもしれない。余裕があればそっちもお願い」


 そう言うと、ブランママは剣を手に入り口に向かった。なるほど、壁の上で戦うしかないか。こうなると近接戦闘用のゴーレムを作っていなかった事を悔やまれる。


「ママ、邪魔かもしれないけど、護衛ゴーレム呼んでおいたから。下には降りないでね」


「ありがと」


 不敵に笑う母親が美しい。多少は気力も回復しているだろうから、上手くゴーレムを利用して立ち回ってくれることを祈ろう。最悪の場合は私も外に出るか・・・。くそ、武器が無いな。即席で作るか?


 そうこうしている内に敵勢が進軍を始めた。


「・・・想定通りか」


 伝声管を改造して急遽作った望遠鏡を目に当てる。これは昔の潜水艦のように両目に当てて外を観察するものだ。磨いたステンレスにガラス板を張り付けて観察できるようにゴーレム化してある。


 魔軍の前列が猛スピードで迫ってくるが、ゴーレム兵のロケット弾でその命を散らしていく。頭部が爆発し、足が爆発し、腹が爆発し、周囲は魔物の赤い血で泥沼のようになってきた。ばちゃばちゃと血しぶきを地面から飛び散らしながら後続が続いていく。


 前列が粗方消えると続いて中列の部隊に向けて貫通弾を大量にバラ撒いていく。余り角度をつけずに水平打ちをすると、先頭から一気に後衛まで弾丸が突き抜けていく。見た感じ、残りの軍勢は2万も居ないだろうか。


 冷静に血の海を観察して魔物を倒していく。相手が人じゃないからだろうか。それとも私の頭が狂っているのか。血の海や臓物を眺めても心が揺れない。まるでゲームでもしているかのようだ。前世の経験などすでに失っているというのに、私の魂が知識を呼び起こしてそう囁いて来る。


「ゴーストが囁く、だっけ」


 何が?と自問自答しながらゴーレムを操る。また知らない知識だけが口を突いて出てくる。だが今は目の前の敵勢に集中だと頭を振って忘れた。


 ふと、敵の右翼付近を視ると、白いオーガのような魔物が先頭を突っ切り、その後ろに後続が大勢続いている。さっきから何度もゴーレムの攻撃を弾き、いなし、躱している。白い奴は止まらない。凄まじい速度で壁に近付いていく。体長3メートル程度の白くて小さいオーガか。残り30秒もしない内に壁に辿り着く。


 急いで伝声管で外に伝えた。


「敵右翼!白いオーガに警戒!繰り返す!敵右翼!白いオーガに警戒!ゴーレムの攻撃が通じていない!」


 何だアイツは。更によく観察すると、白い奴の全身には紐のようなものが巻き付いていた。紐、縄、糸、触手、髭、髪。いや、まるでコード?


「は?コード?」


 ファンタジーに何を持ち込んでんだよと叫びそうになったが飲み込んだ。伝声管を使ってブランママに白い奴の様子を見るように頼む。


「ママ!アイツ何かおかしい!白蛇とは逆の意味で危険な気がする!迂闊に近づかないで!」


「なんでさ!?」


 そう言いながらブランママは腰から投げナイフを取り出す。同時に、ああ既に、白い奴が壁の上に飛び上がってきていた。この壁の高さは15メートル。それよりも高い。


「風魔法展開!」


 ギュンッと風の防壁が一瞬で作り出され、爆風が白い奴を襲った。だが、その爆風を白い奴が突き抜けてきた。


「散開!迎撃しろ!」


 ゴーレム兵に素早く指示を出し白い奴を観察する。防壁が効かないという事は魔法全般が効きにくい可能性が高い。それも高位魔法ですら跳ね返すだろう。あの防壁は高位魔法レベルの爆風を生み出しているのだから。


 次に伝声管でブランママに伝える。


「闘気を纏っている可能性が高いよ!魔法も使うかもしれない!用心して!」


「注文が多いね!」


 ブランママが闘気をナイフに込めて投擲する。さり気なくやってるけど、物に闘気を込めるって相当だぞ。私には出来ない。


 一発目が白い奴の動きを捕らえられず外れ、二発目、三発目が刺さった。腹と足。動きを止めたか?


「次。ブランママに合わせて撃つ。接触弾頭用意!」


 接触弾頭。言うなればバンカーストライクである。直径50センチのでっかい釘打ち機でぶっとばしてやる。


 白い奴の前後のゴーレムが攻撃姿勢を構え、壁の上の侵入者に方向転換する。それを警戒したのか、前門の釘打ち機と後門の釘打ち機に警戒し始めた。それを隙と捉えたブランママが残りのナイフを両手で撃ち放つ。


「ぐぎゃあああ!?」


 肩、腕、腿と三連発が綺麗に入った。


「今だ。かかれっ!」


 後背、そして前面の順で襲い掛かる。タイミングは完璧だ。巨大な隠し釘が白い奴に突き刺さる、かと思った。


「く、砕けた・・・?」


「おいおい・・・とんでもねえな」


 私とブランママの声が重なる。熱くなってるのか、ブランママの口調が荒い。それもそうだろう。撃ちこんだ鋼鉄の巨大釘は白い奴に叩きつけると同時に先から砕けてしまった。間違いない、強力な闘気の使い手だ。


「ママ!一時後退!奥の手を使う!」


「なんなのさっ!」


 緊急避難とばかりに高さ15メートルから村内に飛び込んだブランママの後ろで黒い煙が広がっていく。使ったのはゴーレムに内蔵された神経ガスだ。


 流石北の大森林近くにある村なだけはある。その手の毒はブランママでも容易に入手可能だった。コツコツと数か月かけて溜め込んであるのだよ! あの白い奴が生物であるならばこれで身動きできないか、もしくは鈍る筈だ。だが、もし・・・。


「うるるるるるがあああああ!」


 煙の中から姿を現した白い奴は、全身のコードがバラバラに解け、顔じゅうの穴という穴から液体を撒き散らしていた。あれじゃ視覚も嗅覚もまともじゃないだろう。問題はあのコードだ。


 ウネウネと動くその姿はまるで次の獲物を探しているかのようだ。今の状態ならいけるかもしれない。


 奴は村内の東門広場に飛び降りて膝を折っている。


「集中斉射!!!」


 外を向いていたゴーレム兵が一斉に村内に向けて腕を構えた。と同時にライフル弾が白い奴の全身を砕く。ついでにコードも砕く。よく見たらアイツ、白いのはコードだけで皮膚は赤かった。


 その赤い肌をさらに赤くし、コードはライフルを弾きながらボロボロになっていく。


「くぅっ、魔力が付きそうなんですけどぉぉぉぉ!」


 遠目から見ている村民たちとブランママが周囲に散らばっている。いつでも追撃できるように構えてくれているようだ。


「だぁっ!弾切れ!ママ―!!!やっちゃえーーー!」


 コードも残ってない。あとは再生を続ける赤いオーガだけだ。その再生も限界に近いらしい。千切れた腕が再生出来ずにいる。


「その言葉を待ってたよ!」


 ダァン!とレンガの地面を砕きながらブランママが飛び出す。凄まじい速度で近づき、全身を使って両手剣を振るう。一刀目でオーガの体は上下に分かたれ、通り過ぎたブランママは振り返って飛んできたオーガの頭に二刀目を叩きつけた。


 それが終戦の一撃となった。


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