表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
16/97

016

 我が家の食卓はもうずっと豪勢だ。夕飯製造マシーンとなった私はズラリと並んだゴーレムたちによって次々と料理が完成していく。


「肉!汁物!漬物!葉物!粉物!さぁ運べ、シモベたちよ!」


 魔王様プレイでゴーレムを操ると、エプロンを着た細身のゴーレムが料理の乗ったお盆を次々と運んでいく。手の表面に細かい凹凸を作る事でアイアンゴーレムでも立派に給仕が出来るのだっ!


 我が家には最早土壁など何処にも無い。タイルが張られ、床は土魔法の性質変化で滑り止め加工した大理石に作り替えてあるし、商売で手に入れた布で藁布団から布製布団へと昇華してある。


 まぁ、相変わらずの1DKだけどね。


「ごっはん~ごっはん~、いただきま~す」


 箸の文化も取り入れたし、土の性質変化で金属も作れるようになった今、シルバー(ステンレスの食器)も全て揃えた。恐らくうちの文明レベルは、この領地の領主と同等、いや超えていると言って過言ではない。


「この麺?というのも美味いよなぁ。あの不味い種がこんなもんに化けるとはな・・・」


「これが料理という物よ、パパ」


「おみそれしやした、いつも美味しいご飯をありがとうごぜうますだ」


「どういたしまして」


 あの米っぽい何かは、見た目こそ稲科植物だが、実際は蕎麦の実に近かった。砕いて粉状にして水で練り上げた事で「あれ?これ蕎麦じゃね?」となってからは早かった。蕎麦打ちの腕は私よりママの方が上なので、そこは完全に任せている。だって力足りないし!


「美味しいご飯を作るので、次は弟が欲しいです。だからパパも頑張ってください」


「ぶっ!」


 きったな!蕎麦がスプラッシュした!


「・・・やっぱユリアは天才だわ。そういうのも、もう解るんだな」


「勉強したもん」


「べ、勉強? あの教科書か?」


「村のお姉さんに教えてもらった~」


 嘘です最初から全部知ってます。


「ぐっ・・・」


「・・・部屋、分ける?」


「頼むわ」


「はーい」


 横に待機していたゴーレムに指示を出すと、蔵の中からレンガを運び出し、部屋を増設し始めた。


「明日の朝には出来てると思うから、今晩は我慢してね」


「あたしは別にいいけど?」


 ブランママがエグイことを言っている。


「俺が嫌なの!」


「散々ユーリの前でしてたじゃん・・・」


「前は前!今は今!」


「はいはい・・・」


 首を傾げるママンに苦笑いで返しつつ、食器を片付けた。流石にそういうのを理解した娘の前で子作りは遠慮して欲しいっす・・・。


 我が家もそうだけれど、この村全体の生活レベルが上がってきている。食事事情、衣服の改善、住宅性能。どれも開拓村5年目とは思えない。普通は30年から50年経って初めてこのレベルになるらしい。村長が白髪になるくらいの時間が必要って事だ。


 教会も増築したらしい。作ったレンガを持ち寄って、泥石灰で固めて積み上げて。新しく学校が隣接されていた。あと数年したらサリーや私も通うだろう。


 ・・・私って学校に通う意味あるのか? 否、友達が居ない!ボッチじゃないけど、子供社会においてボッチだよ!それだけで通う意味はある筈だ。危うく自己否定し始めるところだった。ふー、あぶねー。


 とは言っても、みんな同じような物なんだけどね。学校に行くまでは家が世界の全てで、時々すれ違う大人達から可愛がられるのが、外の世界に触れる僅かな機会。私が異色なだけで、その触れ合う機会も少ない村民環境から、更に少なくなる。


 この村において、基本的に幼児は孤独な事が多い。製紙工場が出来るまでは。


 そう!製紙工場は奥様方の職場であると共に、既に託児所として完成しつつある!食堂も完備(自分たちで食事を作ってる)だし、幼子たちの遊び場としても優秀!


 私だけ乗り遅れてる現在!誰にも誘われてない存在!他は友達作ってる懺悔!


 やめよう、考えると寂しくなってしまうけど、それどころじゃないし。サリーの面倒も見ないといけないし、鍛錬も疎かに出来ない。強くならねばならない。大きな目標があるというのに、友達作りに現を抜かしている場合じゃない。


 あー、でもー、かくれんぼとかー、おにごっことかー、誰ちゃんがあの子を好きとかー、じゃれあってみたいじゃない。そういう機会があっても良いと思う訳よ。


 自分の手でそういう場所を作っておきながら、そこに自分は加われないというジレンマ。なんという喜劇。まぁ、良いけどね。頭の中は大人だし。しゃーない。


 不貞腐れるように寝て、朝チュンを聞きながら屋上のタンクに水やり。寝ぼけて落ちてしまわないように、土魔法で発動するエレベータ方式で登っている。トロッコみたいなのに乗って魔法を使えば地面が盛り上がってタンクに手が届くところまで一直線よ。


 タンクの蓋を開け、手を突っ込んで水魔法を使う。水に手が触れたところで補給完了でございます。ここまで寝ぼけてても出来るレベルになって来たな。前は相当集中しないとダメだったのに。もう、寝てても魔法が発動できるんじゃないか、これは。・・・怖いからやらないけど。


 目も覚めて勝手口から台所に行くと朝食を作り始める。パン種をオーブンにセットしてサリーを起こす。パパッとオシメを取り換えて背中に背負うと、妹はぐずぐず泣きながら背中で寝始める。二度寝うらやま。


 首の後ろが寝息で暖かくなって汗ばむ頃にはスープが出来上がる。干した魚の身を崩してサラダに混ぜ混ぜ。潰したマッシュポテトと合わせると良い具合におかずになる。丁度その頃には後ろにアルトパパの気配がし始める。


「おはよーパパ。ママは?」


「おはよう。起きてたからすぐ来るよ」


 最近はサリーの夜泣きが殆ど無くなって、ブランママもぐっすり眠っている。やっとか、って感じだね。そろそろ、また二人で朝食を造れそうだ。


「顔洗ったらご飯だよー」


「わかった」


 少し寝ぼけた声のアルトパパを洗面所に送り出す。


 ゴーレムに料理皿を渡して、パンをオーブンから取り出すと良い匂いがしてきた。生憎とこの世界でのパン種を作る時に使う、天然酵母もイースト菌も見つかっていない。まだ硬いパンだ。神官さんの話だと王族や高位貴族はふっくらしたパンを食べているらしいから、どこかには有るんじゃないかな。


 朝ごはんを並べてる間にブランママも降りて来た。顔は洗ってきたらしい。


「おはよ~、ユーリ。サリーちょうだい」


 背中の暖房妹をブランママが回収し、抱っこして軽く揺らす。うんうん言いながらサリーが起きた。毎度のことながら私の妹は可愛い。


「じゃあ、今日も頑張っていきましょー。いただきます」


 何故か私が唱和して朝ごはんが始まる。いつからこうなったんだっけか。冬はやる事も少ないので朝ごはんはゆっくりしている。温かい部屋、熱いご飯、暖かな団欒。毎日ゆっくり一時間以上かけて済ませる。


 朝ごはんが終わり、みんなでお茶を啜っている所に老神官が来た。冬の間の巡回らしい。もう70過ぎのお爺ちゃんだというのに偉いよ。気力を使っているからある程度の外歩きは問題無いんだろう。その足腰は真っ直ぐで、歩く姿は凛々しい。


「あんなもんをポンポン作っとるくらいじゃから、そろそろ行き詰っとる頃かと思っての。良い物を持ってきてやったぞぃ」


「良い物?」


 テーブルの上に出されたのは魔法教書だった。それが二冊。


「高等魔導教本って書いてある!もしかして!」


「そうじゃ、高位魔法の教本じゃな。普通は騎士か魔導師じゃないと手に入らないものなんじゃが、お主にこそ必要じゃろうと思ってな。ちと、昔の伝手を頼って手に入れてきたわ」


 ニカッと悪戯が成功した男の子みたいな顔で老神官が笑う。私の驚いた顔が面白かったのかもしれない。してやったりって感じだ。


「買いますよ!お金あるし!」


「そうじゃのう・・・タダではやれんとは思うていたが・・・、商人にしていた工事を教会にもしてくれんかの。あれは金貨で解決できる類のものではないのでな。金よりよっぽど貴重じゃよ」


「お安い御用ですよ」


「取引成立じゃな」


 そういって本を手渡されると、その表紙を捲った。目次に掛かれているのは魔法陣学、最上位魔法、召喚魔法、並列制御の解説など、私に必要そうなものが多い。しかし、その一つで目が留まった。


「あの、神官様」


「何じゃ?」


 目次の一点を指さして茶を啜る神官のお爺ちゃんを見る。


「練魔と闘気ってあるんですが、何故、魔法教書に闘気について解説されているんですか?」


「ふむ・・・お主は既に闘気を操れると聞いた。それならば、残りは錬魔。つまり自然魔力と自己魔力の融合を果たすべきじゃの。闘気も同じじゃて。大気を漂う自然気力と自己気力を織り交ぜたものを纏うじゃろう」


 ブランママも話が気になりだしたのか、サリーを抱きながら目線だけこちらに向けている。


「言ってる事は解りますが、闘気と錬魔は両立しない・・・いや、可能?」


 私が自問自答し始めると、老神官は立ち上がりコートを着始める。


「考える事じゃ。もし、自力でその先に辿り着けたら、ご褒美を上げよう」


 精進なされよ、と言い捨てて老神官は我が家を出発した。一瞬、外気が扉から入り込み、それがすぐに止むと老神官の言葉を反芻する。その先・・・。


 その日は高等魔導教本にしがみ付くように読み込んだ。


 最上位魔法はいたってシンプルだ。魔法の発動に際して、考えうる全ての性能を最高まで引き上げれば良い。あとは魔力そのものが息吹を形に変えるという。魔法の性能は、込めた魔力の量、変化させた魔力の性質とその純度、魔力を維持するための正しい流れ、そして発動者と魔力の親和性が高ければ要件を満たす。


 召喚魔法は風の最上位魔法にも関わる。風獣を呼び出す事で風の魔力に一時的な命をもたらすという。普段は世界中の全ての空気の中に存在している風獣だが、所定の魔法で精神体から魔力で肉体を持つことが出来るらしい。改めて魔法って無茶苦茶だな。これは全ての召喚魔法で同じルール、という事らしい。


 魔法陣学は小さなものから大きなものまで、魔力制御だけではなく、発動、維持、性質変化といった、魔法使いが自力で行うべき魔法発動プロセスを肩代わりしてくれる。一部は既にゴーレムに搭載しているが、私が考えたモノとはだいぶ異なる。


 私がゴーレムに搭載しているのは、魔力のみで描いた魔法陣をゴーレムの体内に削って書き込み、その魔法陣へ自然魔力を取り込むようにして自立稼働するようにしてある。


 ところが、高等魔導教本によると魔導具やゴーレムに魔力で魔法陣を書き込むことは出来ないと書いてある。また、何かやっちゃいました系の事ですか? どうでも良いけど、出来る事を出来ないと書かれているのは納得いかない。


 何故、私はゴーレムに魔法陣を書き込めるのか。何故、他の人は出来ないのか。その答えはまたしても魔法の色だった。私が魔法陣を描く時は純色の魔力で風なら緑、火なら赤、水なら青、地なら黄と色分けして記入している。それら魔力を指先に集め、ゴーレムの体に入れ墨を彫っていくイメージが一番近い。


 一流かもしれない彫り師となった私は指先に一ミリ以下の太さの針のような魔力を集めて、それでゴーレムの体表を引っ掻くのだ。当然、ゴーレムに痛みは無いのでガリガリ書き込んでいく。純色の魔力は溝に沿ってゴーレムの体に定着するが、全てでは無い。いずれは魔力が霧散してしまうだろうけれど、モノによっては数日とか数か月では消えない事は確認済みだ。熟達すれば年単位で維持できるのかもしれない。


 そうしたことが一般的な魔法使いには出来ない。と言った事を新たに高等魔導教本に書き記していった。


「あっ」


 パキッと羽ペンの先が折れる。もう何本目だ。インクは行商オジサンの雑貨店で買えるようになったし、羽ペンもたくさんあるから良いんだけどね。


「まーた、沢山書き込んだわねー」


「ねー」


 頭の上からブランママとサリーが覗き込む。サリーは最近になって、語尾を真似るようになった。パパママと単語を言い出すのは近い。楽しみだ。絶対にネーネと先に言わせて見せる。あ、でも、ママ呼びされたら微妙な空気になりそうだな・・・。


「新しい事を知って、知識のすり合わせをしてるだけだよ。本が間違ってるところ、私が間違ってるところがあるのは当然だよ」


「ほー。んで、闘気についての話は何処に書いてある?」


 やっぱり気になるのか、ブランママが若干眼を鋭くして本を覗き込む。


「後ろの方の・・・このページだね」


「ふん・・・」


 少しだけ不機嫌なのは魔導教本に闘気の事が書いてあるからだろうと思う。あんまり魔法使いを好きじゃなさそうなんだよねウチのママは。


「・・・・・この、錬魔ってヤツと一緒に語られている内容はさ、闘気と錬魔ってヤツは似た性質を持ってるって事よね。だとしたら、この本を書いた魔法使いはなにをさせたいんだ?」


「さぁ・・・」


 ブランママと私が揃って首を傾げると、サリーも釣られて首を傾げた。それを見て二人で笑っているとアルトパパが俺も俺もと近付いて来るが、ドスドスとデカい足音を立てて近付いて来るのでサリーが泣き出した。あーあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ