015
私たちの開拓村があるのは、南の山脈と北の大森林の間に拡がる平原地帯の北側。大森林沿いに存在する幾つかの村落、そのひとつだ。風は山側から吹くことが多く、山の上には雪が降り積もってもこの辺りに振る事は滅多にない。少なくとも、今の私の記憶には無い。
村は森沿いに造られているせいか、上空から見ると台形に近い敷地を持つ。森側は狭く平原側が広い。殆どが畑だ。壁を作る時はそれをさらに広げて8角形にした。南の山側に新たな領域を得た形になる。どうせなら星形にして五稜郭みたいにすれば良かったと作ってから発想を得てしまった。
こういうところに知識の取り出しにくさがある。この眼に風景を納めて経験してからじゃないと知識が掘り起こされない。前世持ちなのに、こういうところは不便だ。
土地が広がった事で村長さんは新しい区画整理を計画している。その内の何割かは私が貰う予定になっている。レンガ焼と製紙用の工場に加えて、今後も色々と必要だろうから。
様々な活動をしている内に私も少しは成長できたのだろうか。これも強さの内と捉えて人と人の関り合いを途絶えさせないようにしたい。人間って弱いからね。あっという間に死んでしまう。そう、私もあっという間に死んでしまう・・・。
目覚めが来て二年目だ。再び冬が近くなり、冷えた風が5歳となった私の頬を打つ。
そりゃそうだ。こんなに高いところに登ってたら、さ、さ、さぶい。
「ひぅぅぅぅ・・・さぶいぃぃ」
石の壁を作ったんだけれど、15メートルの高さの上に立つと、寒風がより冷たく感じます。キッツ。壁の上で黄昏ている場合じゃないな。
調子に乗って鉄の門を造ったり、物見櫓を造ったり、攻城戦仕様の外壁を造ったりするんじゃなかった。この村って人が少ない割に敷地が滅茶苦茶広い。守りが不安だったのもあるけれど、そこに例の製紙工場の件で、村ごと商売敵に潰されまいと外壁を立てた。
でもこれはやり過ぎた。外壁に魔法レンガを内蔵し、表面は普通のレンガに偽装してあるけど、魔法セメントとかいうので更に強度を増しているので、その辺の城より強固な防壁になっている。おまけに壁の上をゴーレムが武装して待ち構えられるようにしているので、魔獣カーニバルでも防げるレベルの筈だ。改造に改造を重ねたゴーレム兵も防衛に一役買っている。
「限界っ、かえろっ」
オォォォンと私を乗せたゴーレムが階段を降りていくと、外壁で遮られた風が収まった。あ、これ風を防ぐ効果もあるな。壁その物に魔法を掛けられるか後で試そう。風の結界!とかカッコいいかもしれない。持続できるか分からないけれど。
「そろそろ基本魔法だけじゃ物足りなく成って来たなぁ・・・」
ステータスを開くと、これまでの成果が表示された。
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ユリアネージュ(5歳)
種族:素人
レベル:2
HP:89
MP:210
状態:通常
スキル:剣術LV5、歩法LV4、火魔法LV7、水魔法LV8、風魔法LV6,土魔法LV9、光魔法LV6、闇魔法LV4、気力制御LV10、魔力制御LV10、並列制御LV4、闘気制御LV1、気配察知LV1、真実の瞳、フリキア言語LV6
称号:魔闘士
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闘気制御はブランママのようにオーラを全身から出しながら戦える。気力は筋力や瞬発力といった内部的な働きの方が強いけど、闘気は外部的な働きの方が強い。剣で切りつけられても切れません、そんな剣士が誕生するスキルです。
並列制御は魔力制御の上位版だ。主に魔法の並列発動や、ゴーレムの制御に使う。ゴーレムの台数が増えると、あっという間にLV4までスキルレベルが上がってしまった。時々頭痛がするくらい使っていたので、相応だろう。
気配察知は読んで字のごとく、周囲のヒトや魔物の気配を探れる。やろうと思えば虫の気配も探れるけれど、集中力がガリガリ削られてお勧めできない。精神的な消耗がヤバイ。覚えたのは時々、沼に行って白蛇を探していたせいだろうか。
これだけ強くなったのならば、そろそろ魔物狩に行っても良いのではないだろうか。
ブランママは何時になったら許可をしてくれるのだろうか。私は籠の鳥じゃないの!とか言ったら悲しまれるので言わないけど、5歳になったのだしそろそろ良いんじゃないんですかね! 魔闘士の名が泣くよ! 何で称号がついたのか判んないけど!
しかし、剣術が伸びないなぁ。才能無いのかな。
手足が伸びたら格闘術も教えてもらおうかな・・・。今、教わってるのは体の動かし方であって格闘術じゃない。剣を振るためには敵に近付かなければならないから、走り方、飛び方、着地の仕方、歩き方、転がり方とかその辺だね。
ドシン、ドシンと鈍重な足音を響かせながら、我が家の近くにある外壁の階段を降りていくと、ブランママが狩から戻ってきていた。サリーはアルトパパと家でお留守番だ。
「お帰りママ」
「ユーリもおかえり。また、とんでもない物を作ったねぇ」
私を担いでいるゴーレム兵を見上げてブランママが言う。背中には両手剣が、脇には獲物を抱えたゴーレム兵が数台、伴っている。
「頑張った」
「うん。偉い偉い」
ゴーレム兵の肩から飛び降りた私の頭を撫でられる。寒かったので一緒にお風呂に入った。相変わらずママパイは安心感の塊やでぇ・・・。
「ユーリ」
「ん~?」
「最近、頑張り過ぎてない?」
心配されるのも当然か、と一瞬だけ反省した。工事などは兎も角、最近の私の鍛錬の激しさをブランママは間近で見てきている。様子の違いに気付くのも当たり前だろう。
「そう? 前よりダラダラしてるけど・・・なんで?」
「なら良いけどね」
最近のブランママは前よりも私を一人前として扱ってくれている気がする。話し方が優しい母親って言う感じじゃなくて、信頼してくれてる家族とか仲間って感じになってる。
多分、こっちがブランの素なんだろう。冒険者ブランネージュの素顔なんだと思う。
それと、白蛇が言った事はまだ明かしていない。余命宣告、じゃないけど私の魂に罅が入っていると言っていた。どうにかするには「人の法」とやらで魂をどうにかしないといけないらしい。ある程度予測は付くけど、ステータスの種族が変わったりするほどの方法を私は知らない。魂魄と肉体は一つきり。人間にとってはそれがノーマルな話だ。
精神が肉体を凌駕するなんて知識もあるくらいだ。肉体の変化で精神も変わったりするんだろうか。そして、魂も・・・。
「魔法が前よりうまくなったから、ゴーレムに任せてる事が多いかな。離れた場所でも魔法を維持できるようになったし。焼き場の炉もずっと炎を維持できるから。そのまま家に帰ってきてるでしょ?」
「そういう事ね・・・あっちこっちで感謝されるから、何でもしょい込み過ぎだと思ってたよ」
いや、そんな事してたら雁字搦めになって何も出来なくなっちゃうから、断るべきものは断ってるよ。自由を愛する女なので!
「私は自由が一番だから、そんなことしないよ~」
「あははっ、本当にあんたはあたし似だねぇ」
「ママの娘ですから」
「自慢の娘だよ本当に・・・」
あ~それ、ナデナデされながらママパイを枕にするの最高です。寝れる・・・。
「ふぁ~・・・」
「どしたの~眠いの~」
「寝ちゃいそうでしゅ~」
久々の赤ちゃんごっこで二人で大笑いしてしまった。あぁ、幸せでしゅ。
そういえば、このお風呂も随分と立派になったもんだ。最初は体を拭くだけだったのに、今は浴室まで作ってある。ステンレス製のお風呂場に、浴槽もステンレス。お湯を貯めるための栓は流石に木製だ。ステンレスの栓にコルクに似た木を削って嵌め込んで作ってある。
滑らないようにひし形の小さな出っ張り模様が、床と浴槽にびっしりと細工してある。ここで転んだら少し痛いな。プラスチックなんてこの世界には無いんだろうなぁ。バイオプラスチック・・・? よく分からないな。前世の私も詳しくなかったらしい。
お風呂から上がると扇風機が廻っていた。寒くて外気は取り込めないけど、モーターの仕組みは割と簡単に魔法で再現できる。あとは魔法陣を書いて扇風機の機構に組み込んでしまえば良い。何なら筒を作って間から風を流すのでも良い。魔力消費量が上がるけど。
「アぁ~」
ブランママが遊んでいるのを横目に、洗面台で歯磨き。歯ブラシは馬の毛だ。この世界の乗り物は馬が主流だった。黄色い鳥とか、緑の蜥蜴じゃないんだなと最初は意外に思ったけど、よく考えるとアイツらって飼い主側が強くないとダメじゃねって思い直した。
歯磨き粉は無い。塩だ。しょっぱい。
洗面台はあるけど鏡は無い。目の前にあるのは石を切り出したもので、蛇口を捻ると頭上に溜めた樽から水が流れ出すように出来ている。同様の物がトイレにもある。我が家は水洗トイレだ。
下水道も整備し直した。まだ我が家しか無いけど、ブランママにお願いしてステンレス容器にスライムを捕獲してきてもらった。容器に小動物の獲物を入れて誘い込み、テグスを離せば扉がガッチャンするやつ。
ゴーレム兵がずっと運んでいたし、ブランママは「絶対に触らないからな、頼まれても嫌だからな」と最後まで言い張っていた。私も嫌だけど、浄化槽にスライムを流し込むときに少し触ってしまった。ちょっとヒンヤリして気持ちよかった。
こうして、我が家の水回り事情が出来上がり、家の屋上にあるタンクに毎日私が水を作るのが日課となる。タンクからトイレや蛇口がある所までステンレスのパイプが繋がっていて、そこからそれぞれの樽に補水される。一定量に達するとそれぞれの樽にはそれ以上、水が溜まらない作りにするのが大変だった。知らない機構を考えるのって大変だわ・・・。
状水槽でスライムが浄化(捕食?)した水は沼に向かって流れていく。村の中に一本の側溝を作り、我が家の排水は綺麗になって自然へと帰っていくのだ。
これが意外と有名になってしまい、水をくむ手間と、スライムを用意する大変さ、そして「私の工事費(側溝、パイプ、タンクなど)を払えるなら作っても良いよ」と言ってしまった。
いる所には居るんだよねぇ、金持ちって。村に支店を出している元行商のおじさんが、今では結構な小金持ちになっており、これら一連の工事を引き受ける事になってしまった。因みに工事費は金貨が沢山です。我が家にはこれまで、精々数枚の金貨がある程度だったのだけれど・・・これを機に金貨の山が出来てしまった。
「はぁ・・・金庫作ろうか」
「あっはっは、そうだねー」
ブランママは金貨ごときで心を動かされないが、というか見慣れてる節がある。アルトパパはそうでもない。根っからの貧乏人だからね、相当動揺していた。
「こ、これってどうしたんだ!?どこからこんな大量の金貨が!?去年、始めて金貨を見たくらいだってのに、なんだってこんなに!?」
「あっだー!」
サリーも大はしゃぎである。あ、齧ったらばっちいよ。めっ。
金庫は地面埋め込み式にしました。そして扉はありません。土魔法で操作しないと開けられないようにしたからね。持ち去ろうとしても地下深くまで繋がってるから移動できないという罠付き。
「見てコレ。縦穴式金庫」
「ユーリ、面白いもん作るねぇ」
「でしょ」
前開きではない。上蓋の部分を変形させると上方向に棚が飛び出すという形態です。そのうち調子に乗って変形機構も作ると思う。戦う金庫、パトリオットバンクゴーレム。燃料は金貨。いや、ダメだな。金庫が金食い虫ってどういう事だ。
「このお金は、生活費とかサリーの進学費とか、そういうのに使いましょう」
「ま、良いんじゃない」
「金の使いかとか言われても俺たちは良く分からないしな」
「だっ」
じゃ、そういう事で。
この村でお金を使う場所? 行商オジサンの雑貨屋と、他の地主のお婆さんが始めた定食屋かな・・・殆ど無いな。クレープ屋とか欲しい。あと服屋も欲しい。行商のオジサンに相談して、隣町から引っ張ってきてもらおうかな?
新しく作ったフカフカな寝床に入って、そんな事を想いながら胸膨らませていると、いつの間にか瞼が落ちてしまっていた。




