013
魔法レンガの失敗から数か月。
季節は秋となり、私は再び沼の前に立っている。
いや、あれから普通のレンガを作る為に何度も訪れていますけどね。アレ以来、あの蛇も見ないし・・・。
あれからノーマルなレンガを作る為の炉を造り、それを村の大人たちに見せて、レンガの整形だけ手伝ってくれれば焼くよ!と広めたところ、木枠で整えた粘土が毎日少しずつ竈へ運ばれ、私は週一で通い焼成仕事をすれば良い事になりました。アリガトゴザマース!
煉瓦はまず、村内の建物に使われることになったので、商人に渡した煉瓦は営業用として幾つか売っただけに過ぎない。これで私の懐に小銭が入るようになった。
で、だ。今日はその要件で来たのではない。
此処は沼地、そして目の前にはイネ科と思しき植物。当然ながら全て収穫した。
ええ、収穫しましたとも。だってこれどうみても稲じゃん!米じゃん!
この季節に村内になっているイネ科の植物を、数十体のゴーレムを使って狩りつくし、土魔法で作った横に長い千歯扱きにゴーレムたちを並べてゲットセット!
「セット! 引け!」
ザリザリザリザリ
「セット! 引け!」
ザリザリザリザリ
すげー。一気に藁束の穂先から実が取れていく。
千歯扱きを挟んでゴーレムたちの反対側に設置した土箱には、落ちた成果物を斜面から落着させ、下り坂を滑って一つのツボに流し込まれていく。うむ。これを後で精米すればいい感じになる。
残った藁は紙の材料になるので、次々と煮立った巨大鍋の中に突っ込んでいく。
素晴らしい流れ作業を繰り返すゴーレムを眺めていると、サリーを抱えるブランママに白い目で見られてしまった。なんで?
煮立った鍋を別のゴーレムが棒でかき混ぜ、繊維を潰している。
次々と新しい鍋に規定と思しき材料を突っ込んでいくと、巨大鍋が10台とその後ろに大量のギャラリーが出来ていた。
「なんだこりゃ、またユリアが何かやってんのか?」
「すげー、あれってゴーレムだろ?」
「魔物じゃないよね・・・?」
「魔法生物って言うらしいぜ」
「うぅむ・・・あの巨体を10体も・・・末恐ろしいな」
めっちゃ見られてるぅぅぅぅ!?
完全に晒し物となっているので、最早諦めの境地で次の工程へと進める。
煮立って完全に繊維が解けている鍋から、水魔法の性質変化で薄い糊へと変えていく。
若干の粘度は残しつつ、紙透の作業に影響が出ない程度の・・・。
紙透用の作業プールに鍋の中身を移し、予め作っておいた目の細かい網で掬うように持ち上げる。
「・・・うん、良い感じ」
濃さを均一にそろえて、木製の器具に固定して挟んだら、網をひっくり返して水分を取る。
後は板で軽く潰しつつ乾燥させれば一応の紙としての形になる筈だ。
次々と紙透を行い、水分を取り乾燥台に乗せ、紙を乗せた板が積み上がっていく。
一枚一枚の間を開けているので、このまま乾燥させれば問題無いが、それだと時間が掛かる。それに板の数にも限りがあるので、さっさと開けたい。
「ということで、風魔法~!」
空気の流れを特定範囲で固定し、熱を加えずにゆっくりと乾燥させる。板からはみ出た部分がシワシワになっていくが、必要なのは挟んだ部分だ、気にしない!
10分ほど乾燥させると、端がボロボロになって来たので一枚を取り出させて状態を見る。ガパリと開けられた板、そしてこんにちは魔力紙!
そう、魔力紙!
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魔力紙(C級)
魔力を多分に含んだ紙。
切れにくく、劣化しにくい。
魔力に反応しやすい為、スクロールに向いている。
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これは売れる!しかもキレイ!
おそらく、私が使った微弱な水魔法と、微弱な風魔法の全魔力がそのまま紙に吸い込まれているのが原因だと思われる。魔力消費量が僅かだけれど、効率よく紙に吸い込まれているので、その結果がこの紙になったのだろう。
出来上がった紙をアルトパパと村の連中に見せると、大歓声が巻き起こった。
老神官も年甲斐もなくはしゃいでいる。
アルトパパは何故か泣いている。
「こうなると売り方を考えないといけませんね」
村長が言うように、商売となると私一人の力ではどうにもならない。馬車でくる行商人に売るにしても定期販売契約とか必要だろうし、そのルールも決めないといけない。その相手が4歳児では信用も無い・・・。
かと言って、目の前の村長が頼りになりそうには見えない。この人、肝心なところですぐに交渉事で折れそうなんだよな。粘ってくれないというか、商人に言いくるめられそうな気がする。ブランママに言い負かされてばっかりだし。
と、なるとブランママに頼るしか無いか?
「ねぇ、ママ。商人さんと紙の販売について交渉をお願いしても良い?」
「私が?いや・・・、流石に商売の事は素材の取引くらいしか経験がないからねぇ・・・こういうのは大きい所と大きな取引をしたことがある人が良いよ。領主とか、いやあのオッサンはそういう経験無さそうだな。後は誰か・・・居たかな?」
二人で唸りながら考えていると、賑わいを聞きつけて老神官さんが子供達と共にやって来た。子供達に引っ張られての間違いか。
「これはどうされましたかな?」
「神官さん!魔法紙の取引って経験ありますか?」
「魔法紙?いや、ただ、食料の大きな取引は経験があるが。しかし、この村で?魔法紙があると?」
「作りました!」
子供達と共に老神官へ魔法紙を見せると、しきりに感心していた。魔法教書の紙よりもツルツルで真っ白だ。おまけに意外と破れにくい。羽ペンでインクべた書きするから、そこは耐久性を求められるのだ。
「これは・・・良いのぅ。こういった魔法紙は魔法陣に多用されるんじゃが、これだけの量を作れるのならば、一般的な本やメモなどに使えるほどに量産できるのか?」
「それはこちらの工場で量産予定です。作るのはおばさんたちだよ!」
鍋と木枠の周りにいる女性陣が腕まくりをして見せた。実際に造ってもらったし、その品質にも作業工程にも問題無かった。殆どゴーレムがやるから怪我しそうなところも無い。素晴らしい。
「これは道を作っていたゴーレムかの?大したもんじゃな。しかも20基と数が多い。よくこれだけの数を同時に動かせるものだ」
「魔法陣張り付けてあとは決まった動きを繰り返すだけなので・・・集中するのって魔法陣を作る時だけですよ?」
「普通はそれが出来んのじゃよ」
「ほぇ~」
そういうもんなのか。普通か。普通の魔法使いって見た事ないから解らないね!
「それはそうと、この村の特産品にでもするつもりか?となると商人との交渉、それから領主にも納得させなければならんの。そこは考えてあるのか?」
「領主を納得?」
え、なに。税金の話?
「この領地は領主の物じゃな。であればこの地で商売をするなら、領主に断りを入れねばならん。この村が農村として作物を作り、それを自分たちで売ろうとすれば立派な商売になる。しかし、今は自分たちで食べ、他は全て税として徴収されておろう。この国は基本的に領主か、国の許しが無ければ商売を行ってはならんのだよ」
「何でですか?」
「お金の流れが見えなくなるからじゃ。把握していないモノの流れがあれば、国は税金を集められなくなる。商売人だけ税金を掛けられないのは問題じゃろ」
「なるほど!闇市が出来ると困る訳ですね」
そう返すと老神官は半目でブランママを睨んだ。
「ブランネージュ殿、あまり小さい子供に後ろ暗い話をするのも、どうかと思うがの・・・」
「えぇ!?いや、あたしは、え、でも何でユーリが知ってんだ?」
ごめんなさいブランママ。妙なとばっちりが・・・。しかし闇市を心配するくらいには流通経済がしっかりしてるって事か。この世界の文化レベルなら、その辺で幾らでも発生しそうなものだけれど。意外と法律とかしっかりしてるのかな。
「あの、それじゃあ必要なのは領主様の営業許可と、王都とかの販売先に運んでくれる商人さんと色々と約束事を決めれば良いんですか?」
私の方に向き直った老神官が頷く。よかった、話は逸らせそうだ。
「領主の方は村長に許可を出してもらえば良いじゃろ。それも仕事の内じゃからの」
「そうですね。必要な書類を書いて送って、返答を待てば良いだけです。特に審査などもありませんが、毎年、どれだけの物を何処に売ったのかを纏めて申告すれば良いだけですよ。国が把握しているものと、申告がズレていなければ営業許可も取り下げられる事は無いでしょう」
なるほど、営業許可は楽に済みそうだ。
「次に商人だが、これは普段この村に来ている者で問題あるまい。あやつも新しい商売のタネが手に入って喜ぶじゃろうよ。ま、その辺りの交渉は任せると良いぞぃ。魔法紙なら王都で幾らするのか、どういう経路で入ってくるのかを熟知しておるからの。誤魔化しはさせん」
ニヤリと不敵に笑う老神官が頼もしい。ブランママもそこに乗って来た。
「なら魔法契約が必要ですか?」
「そうなるのぅ。紙はその魔法紙がそのまま使えるわぃ。ブランネージュ殿の名前で契約するかの?」
横に居るブランママが私を見下ろし、考えるそぶりを見せる。
「たしか、商業ギルドの登録資格に年齢制限は無かった・・・ですよね?」
「うむ」
「であればユーリを代表者として契約させましょう。多分、今後も同じような話が続くと思うし、その度に私が代表者として顔を出しても話が通じないと思う。実際、私は魔法紙がどうして作れるのか知らないし。って感じです、はい」
段々と粗雑な敬語になっていくブランママを見ながら、4歳児を代表者にして大丈夫なのかと疑問に思った。年齢制限が無いって、それって上限の話じゃないのか。商業ギルド・・・商売人は年齢問わずってことかな。
「大丈夫じゃよ。魔法紙の販売があれば、この村も大きくなれるからのぅ。村人全員に協力させるわぃ。そうじゃろう、村長」
「全員は流石に・・・でも、この村が飛躍的に発展する足掛かりになりますから、僕からもお願いしたいです。ユリアちゃんには村道も作ってもらったし、あれには商人も感謝しているんですよ。村の外にも作って欲しい位だって、喜んでいましたからね」
いや、村の外の事は知らないよ。でも、私が顔になったほうが色々とやり易い部分もあるかもしれない。第一今後、自分一人で動く時に身軽になれる。
「うん・・・今後の手間を考えても、その方が良い、かな。その話、お受けします」
「うむ」
「よっし」
「有難う、ユリアちゃん」
結局、この作業も工場を用意し、プールに大量の糊水を作っておくだけで私の懐にお金が入るようになった。村に来る商人も大喜びだったので、きっと売れるだろう。
取り決めの通り、老神官が間に立って色々と細かい魔法契約も結んだので、特に問題は無い。商業ギルドとかいうガメツイ連中を相手にするには老獪な老神官と、色々と見分を深めたブランママの助言が役に立った。
本当にあの老神官、何者なんだろうか。
その夜、脱穀した米らしきものを少量精米し、実際に食べてみたが・・・。
とても米とは程遠い何かだったので、今は新しく作った蔵の中に眠っている。
いずれ家畜か何かの飼料になるといいな。
はぁ。




