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緑の雨  作者: 二笠
深紅の人柱
12/97

012

 白蛇の一件から暫く、あの子に変化はない。小さな変化は毎日のようにあるけれど、あのことに関しては今更だ。あっという間に成長して、昨日とは別人のようになる。親として嬉しくもあるけど、少しだけ寂しくもある。


 村長の所であの子は何か嘘を吐いた。意地を張ってでも通さなきゃいけない嘘を。


 あの子は白蛇を攻撃したと言っていたけれど、それらしい動きは何もなかった。


 仮に本当に攻撃していたとしたら何をした?


 スキル・・・? 何か、私も知らないスキルを使ったのか。


「分からないな」


 小さく呟くとサリーが顔を向けて来た。何でもないと頭を撫でつつ胸に抱く。


「トンテンカンカン、おおがまを~、トンテンカンカン、鳴り響く~」


 家の裏から何か聞こえてくる。あの声はユーリか。今度は何をやっているのか。少し広くなった我が家の勝手口を開け、いつも鍛錬に使っている裏庭に大きな巨釜が転がっていた。しかも沢山。


「ユーリ?」


「あ、おはようママ。お昼寝終わった?というか起こしちゃった?ごめん」


「いや、良いけど。それは?」


 どう見ても釜。というか鍋。凄く大きな鍋。土鍋だろうか。外側が土で、内側の表面が金属?やけに綺麗な金属だ。鋼鉄ともミスリルとも違う。普通の鍋に使う鉄でもない。鎧や武器に使う材質でもない・・・何だろうか?


「ハイブリッド土鍋!」


「はいぶりっどっていうのが、この金属の名前かい?」


 指先の爪で叩くとキンキンと硬い音が鳴った。土で音が吸収されて響かない。


「いんや、性質の違う二つを合わせる事をハイブリッドと言います!そしてこの鍋は内側の金属がステンレスなのです!その名は錆びない金属を意味する不思議な金属!ついに土魔法で錬成できるようになったんだよ、ママ!」


 いやっふーと叫びながら小躍りする娘を眺める。楽しそうで何よりだ。しかしまた、どこからそんな知識を手に入れてきたのか・・・。あの本にそんな事が書いてるんだろうか。既に「この本は封印する!」と宣言してユーリがどこかに埋めてしまったから解らない。


「錆びないって、それじゃ金属じゃないってこと?」


「金属だけど途轍もなく錆びにくいってこと」


 殆ど錆びない金属・・・? 何だいそれは? まるでミスリルじゃないか。


「えっ・・・と、材料は何処から持ってきたの?」


「その辺の土」


 そう言うと、私の娘は裏庭の地面に手を置いて、何やらジッとして居る。これはまさか、魔法を使っているのか?


 暫くすると、その手が盛り上がった土と共にユーリの腰辺りまでの高さになった。そこにあったのは鍋と同じ光の金属だった。


「土から金属が・・・!」


「これは土を金属に変えたんじゃないよ」


「じゃあ、どうやって?」


「ここの地下深くに元々あったのを混ぜた」


 そう言うと、今度はユーリの触れた地面から二つの山が出来た。


「クロム」


 一つ目を指してユーリが言う。


「鉄」


 二つ目を指してユーリが言う。


「そして炭。これらを混ぜる」


 ユーリが地面に集めたのは一掴み以下の小さな灰の塊。二つの金属がグニグニと動き出し、一つの塊になり、その上からユーリが灰を落とす。すると塊は先程見た鍋の光沢を見せるようになった。


「・・・錬金術!!」


「違うよー、ただの合金だって。金属そのものに魔力は加わっていないからね。これに魔力を加えてミスリル鋼にでもしたら立派な錬金術だね」


 それに限界もある、とユーリが続ける。


「この裏庭の地下からは、これ以上の材料が取れない。だから別の場所から材料を取り出さないといけない。魔法で村全域を調べて無いから解らないけど、村のいろんな場所から取っても産業として成立させるほど取れないと思うよ。」


「そうだとしても、これは凄いよ。穴を掘らなくても材料を取り出せるんだろう?ドワーフの炭鉱夫なんて廃業だよ」


「ドワーフかぁ・・・会ってみたいなぁ。とにかく、作れるのはこの村で使う分が限界って事だよ。それもあんまり多くない量だね」


 そういってユーリが懐から取り出したのは、銀色より綺麗なスプーンだった。


「まるで装飾品だな」


「綺麗でしょ。食器だよこれ。錆びないから銀みたいに手入れも要らないから、扱いも楽だし、私が気力を使わなくても軽く扱えるくらいの重さだし」


「妙なのに見つからないようにしないとね」


「もちろん。どこかの屋敷に閉じ込められたり、したくないもん」


 そう言うと、ユーリは再び大鍋をカンカンと叩き出した。どうやら細部をあれで調整しているらしい。


「で、この鍋?何に使うの」


 人が入れるくらい大きい鍋を何に使う気なのか。


「紙を作ろうかと思うの。植物の繊維を煮溶かして、それをあっちの板で整える感じね」


 言われてユーリが差した方向を見ると、何やら細かい網目模様を嵌めこんだ木枠があった。いつからあそこにあったんだろう。まさか午前中いっぱいでこれらを作ったのか? 魔法使いとして、ある程度以上の技量があるとは思っていたけど・・・。うちの娘は本当に天才だったようだ。


「動物の皮じゃなくて?」


「うん、植物」


 へぇ。学のない私の頭では分からないけど、どうしてか私の娘はしっているらしい。ステンレス鋼もそうだけれど、もはや魔法教本だけでは説明がつかない気がしてきた。やはり何かのスキルを持っているのか・・・?


 ユーリが最後の鍋を作り、試しにと紙を作っている姿を眺める。


 相変わらず成長著しい。春からすでに数センチも背が伸びている。そろそろ丈の短くなった服も新調しないとダメかな。お古はサリーに着せて、また綿糸で作ろう。


 綿糸を紡ぐにもすべて手作業だったのに、今じゃあの子が作った繰り糸用の木組みのお陰で随分と時間が節約できている。まったく、あの子は何処へ行こうとしてるんだろう。


 額に汗を掻きながら鍋の周りをグルグルとユーリが廻っている。熱した大鍋に何かの雑草を投げ込み、それらがグズグズに溶けるまで煮るのだそうだ。途中で何度か、ユーリが魔法で作った液体を入れ、それが加わるとあっという間に草がドロドロになってしまった。


「ママー!手伝って!」


「こっち持ってれば良いの?」


「うん!」


 大鍋の中身を予め用意しておいた別の巨大水桶に流し込む。私が片腕で支えられるくらいだけれど、普通の人が持つと4人は必要な重さだろう。これ、村人に使わせるつもりなのか? 手作業じゃ無理だと思うが。


 ドポドポドポドポと粘性のある液体が巨大水桶に加わっていく。予め入っていた何かの液体と混ざり、白っぽくなっている。


「そしてこの木枠を使います!」


 元気にユーリが宣言し、木枠を巨大水桶の中に沈めていく・・・?この木枠も内側に目の細かい網が張ってあって、ユーリ独自の仕込みなのだろうと思う。これ・・・金属糸か?


 何でそんなもの持ってるんだ? しかも暗殺者が使うような細い糸だ。どうやって調達した。


 しばらくして周囲のゴーレムたちがゆっくりと木枠を持ち上げると、水面から上げて揺らす。そのまま揺らし続けていると、木枠の中に真っ白な膜が出来ていた。


「よし!ゴーレム君、次の木枠を持ってきなさい!」


「ピッポピー」


 あの笛の音みたいな鳴き声?も何を想って取り付けたんだろう。そのうち喋ったりしないよな?


 次々と木枠が埋められ、同じように白い膜が出来上がる。胸の中のサリーは最初の内だけ面白がって見ていたが、途中から谷間に顔を埋めて寝てしまった。器用に顔を横に向けて眠るから苦しくないようだ。


「一杯でこれだけ作れたら十分か・・・後はこれをプレスしたら放置だね」


「プレス?」


 木枠を何かの板の上に置き、それを重ねていたのだけれど、この作業の為だったのか。重ねた木枠の一番上に金属板が設置されると、重ねた木枠の横から白い水分が溢れだした。極めつけに風魔法で乾燥させ始めた。


「これは何?」


「潰して薄い紙にするの。そうすれば羊皮紙より薄くて、破れにくい紙になるからね」


 レンガの時みたいにならないと良いけど。どう見ても全工程で魔法を使ってるんだよねぇ。魔法紙か。たしか使い捨てスクロールの高級品だったな。高ランクの皮を使った羊皮紙よりは質が落ちるけれど、魔法陣の精度が高くて良いとか豪語してた魔法使いを思い出した。


「そしてアレが量産用の工場です!!」


「え・・・何アレ?」


「私が作りました!」


 我が家の敷地は私が開墾したエリアの内側って事になってるけど、まぁ広い。どれくらい広いかと言うと、1万人規模の軍隊が演習できるくらい広い。その一部に四角い土壁の建物が出来ていた。


「いやいや、昨日は何もなかったと思うけど」


「昨夜作りました!主にゴーレム君が」


「ゴーレム君って便利ねぇ。そう、ゴーレム君が、ねぇ・・・」


 ゴーレムってそんな事できたっけ?私の知ってるゴーレムって、戦闘中に盾にしかならない、使い捨てのスクロールからしか出てこない役立たずばかりなんだけど。目の前にいるゴーレム君たちはゴーレムという名の別物なのかもしれない。


「家の裏の蔵を作ったばかりじゃない」


「あれはあれ!これはこれ!」


愛娘の両手が何かを持つ姿勢のまま、言葉に合わせて右往左往する。


「まぁ何でも良いわ。あの工場は村の皆に使わせるの?」


「おばさん達を雇おうかと思ってるの。子供達も連れてきてもらえれば、お昼ご飯も纏めて食べられるからね!」


 村の栄養失調問題の解決策まで考えていたか。子供っぽくないねぇ。


「なら取ってくる獲物を増やすから、ママにゴーレム君を少し貸しなさい」


「いいよ~。荷運び用のゴーレム作るね!」


 後日、私の前には車輪の中央に胴体(収納スペース)があるという、私の背よりも大きなゴーレムだった。正直、気色悪いから断った。名前も良く解らないし・・・パンジャンドラム号ってなに?


 大人しく普通の荷台を引くゴーレム君を作ってもらった。幾ら愛娘の造ったものとはいえ、流石にアレと一緒に行動するのは勘弁してもらいたい。


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