010
サリーの夜泣きが気持ち少なくなった頃、私は村にある池のほとりに立っていた。
池というか沼に近いのだが、此処の岸沿いには良質な粘土が沢山埋まっている。それらを土魔法で作ったゴーレムに運ばせる。次に家の近くに作った穴倉の近くで粘土を長方形に整形して、同じく土魔法で作った釜に置き並べて、中心部に強力な火球を一つ作り出す。これで土窯の中に火が入った。
火球を維持したまま、大き目に切り出した岩でブランママに入り口を塞いでもらう。
「いいよー!」
「はーい!始めるよ!」
鍛え上げた魔力制御で密封した窯内部の温度を一気に上げる。この「炎の温度を上げる」という行為が、魔力の性質を変化させる行為なのだが、これを出来るようになるまでが長かった。熱湯魔法とは訳が違う。去年、老神官から魔力制御を見せてもらってから半年以上の時間をかけて、四六時中鍛え上げた結果がこれだ。
努力は裏切らない。誰が何といおうと、スキルで支配されているこの世界で鍛錬は無駄にならないという事がハッキリした。
「ねぇ、ユーリ。窯が崩れてきてるんだけど」
「大丈夫。内側に崩れるように魔法で作った。内側から崩れて、外側から次々と土を被せてるから、外に火が漏れるような事は無いよ」
「ほー、魔法って便利ねぇ」
3時間ほど窯の前で魔法を維持し、ゆっくりと温度を下げていくと、夕方頃には窯の中で真っ白になったレンガが出てきた。表面はツルツルで見た目だけは磨き上げた大理石だ。
・・・あれ?茶色くなったりしないのかな?
「白いね?」
「白いわね」
「ぁぶぅ」
三人でレンガを小突いてみたが、割れそうにない。サリーをブランから預かって、闘気を纏ったハンマーでレンガを砕いてもらった。強烈な打撃音が周囲に響き渡る。
「・・・うっそでしょ」
割れない。罅一つ入らない。
「ママ、これって何?」
半笑いで私が問う。
「いやぁ・・・何だろう?」
真面目な顔で首を傾げるブラン。いや知ってますけどね、見てますから。
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魔法レンガ(B級)
魔力を込め、魔力によって仕上げられたレンガ。
形成と焼成に魔力を利用する事で作成が可能。
鋼鉄以上の硬度を誇り、ミスリル以上の耐熱性を持つ。
魔導高炉の材料。
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これは・・・世に出して良いものなんだろうか?B級って何がB何だろう。魔法レンガの品質がB級? アイテムのレア度とかでB級? 込められた魔力がB級? 良く分からない。
「次は全力で闘気を込めてみるよ」
「あ、うん・・・」
ブランの全力、闘気制御LV3は鋼鉄の鎧を軽く切り裂いたと聞いた事がある。
「・・・はっ!!」
ドッギィィン!!
だよね、そうなるよね。魔法レンガだもんね。
「ユーリ、何を作ったの? 鋼鉄より硬いんだけど・・・」
「えっと・・・魔法レンガっていう、魔導高炉の材料・・・? 全部を魔法で作ると出来ちゃうみたいで・・・えへっ」
「あぁ・・・アレか・・・うん・・・」
後でブランママから聞いた話だと、この魔法レンガは高級品らしく、魔術師ギルドでは塩漬けクエストとして有名な納品物らしい。
それはつまり、作れる奴がいないという事に等しく、今ではドワーフの里でしか生産されていないらしい。このレンガは、家の竈の材料として利用する事になりました。
春は洋々、緑の原野がさんざめく。冬が終わり、サリーを抱いて庭で魔法教書を読み込む。この本、もう何回読んだだろうか。商人からインクを購入し、ブランママが持ってきた獲物の風切り羽で追記をすることが多くなった。
此処に掛かれている事は魔法の一般常識なのだとしたら、私が書いている事は魔法の色とか、普通に過ごしていたら恐らく気付かないであろう事が網羅して書き加えてある。
冬の間に何度か老神官に見せたが、公開する事については余り共感を得られなかった。むしろ否定的だったと言える。突飛すぎるんだそうだ。まず受け入れられないと。
仮に私が王宮に仕える筆頭魔導師だとしても、この内容は一般的にすべきではないという。どういうことなの・・・。
簡単に言うと、魔法とは女神キリシアがもたらしたものであり、それを否定するような内容が多いため、例え事実であろうと受け入れられる事は無いだろう、という事だった。つまり私は、いつのまにか宗教問題に片足突っ込んでいたんだよ!
なんと言う事でしょう。というか話してる相手が神官なんですが!? まぁ、忠告してくるあたり、密告の心配はないと思う。このお爺ちゃんお人好しっぽいし。
ただ、いつの日か受け入れられる日が来たら良いなとは思う。この世界の魔法は元の世界の化学だろうし。発展していかないと、前に進んで行かないと、世の革新ってやつは訪れないでしょう。
私は活動家でも何でもないので、この本は近いうちに封印しますけどね。だって密告怖いし!
さて、色々と失敗が続いている私ですが、歩道を整える位なら失敗せんだろう。ということで土魔法の練習も兼ねて、村の中の道を整えているところです。
「左30度転換、その後前進」
「ピーポッ」
うん、R2D〇に音声機能を付けられないかと考えたんだ。風魔法でね。出来たよ!
いやぁ、魔法陣が完成した時は小躍りしたね!
「なんか魔物みたいに動いて気持ち悪いね」
「だっ」
後ろを付いて来る母と妹が酷いです。苦心して作ったというのに。4歳児を独り歩きさせるわけがないので、ついて来るのは当たり前ですが、村の為なので文句は言いっこなしですよ。
「ちゃんと地面を固められればいいのー」
「はいはい、頑張んなさい」
「だっ」
妹のサリーは最近、「だっ」が好きらしい。私の剣術鍛錬の様子を見て覚えたらしい。しかし、私は一言も「だっ」とは言っていない。断じて口にしていない。でも妹にはそう聞こえたんだと思う。だっ。
「2メートル往復前進」
「ピーポッ」
この似非R2は接地面に整地魔術の魔法陣を書き加えてある。本来は外輪で移動するだけだったのだが、空洞の中心部分にそれらを書き加えた。
湿った土と、砂利を多く含む地面を平らに整地し、土中の成分から鉱物を取り出して地表面で熱して成型する。砂利を含めて固めるので転ぶと痛いが、商人の馬車などで轍が出来たりはしなくなるだろう。今後、再整地する事もあるだろうから、その時は砂利と金属片でもう一度整えれば良い。レンガを並べるのもいいかもね。
「綺麗になるものなのね」
「この辺りの土が固めるのに向いてるから、かな」
「良く分からんねー」
「だっ」
そんな二人を連れつつ、数日にわたって村内の道を整備していった。多分、数年で植物が割り砕いていくと思う。植物の力って結構凄いし。樹木の根っこは岩を砕くっていうからね。
そんな作業をやっていると村の連中に妙な目で見られる事もしばしば。しかし、ブランママというこの村の守護神が同行しているせいか、妙な行動には出られなかったようだ。背中の剣、デカいし。
ブランママの主装備は両手剣だ。ツヴァイハンダーだったっけ、クレイモアか?なんかそんな感じの分類だった気がする。
「ママの剣って、何ていう名前なの?」
「ん?どしたの急に」
ギュゴゴゴゴとゴーレム君が道を整備していくのを横目に質問してみた。
「何となく」
「まぁ、いいけど。作った奴はバスタードソードって言ってたよ。私からしたら、体にあった剣なら何でも良いんだけどね。鍛冶屋からしたら全然違うんだってさ。どれも剣じゃないって思うけどね」
「あっははは、たしかにママが使うのは剣だよねぇ」
実際、家の中にはあと二本、予備の両手剣が置いてある。偶に油を落として磨いてるのを見た事がある。年に一回は手入れしてやらないと、刃先がダメになるんだとか。
「魔法があるのに手入れは必要なの?」
「あー・・・そういうのもあるよ。でもママには買えないなぁ、高いし」
あるんだ。おっと、ゴーレムに指示を出さねば。これ一々面倒だな。道順だけ指示して勝手にやってくれるように作れないかな?今後の課題にしとこう。
「そういうのって魔剣っていうの?」
「良く知ってるわね。ああ、あの本に書いてあった?」
「載ってた」
「魔剣はねー。刃こぼれしても放っておけば勝手に直ったり、切った部分を熱で焼いたり、突き刺した相手を凍らせたり、色々あるけれど、使い手の魔力が足りないと役に立たないどころか邪魔になるんだよね」
あぁ、そういうデメリットもあるのか。ブランママは問題なさそうだけどな。
「ママは魔力あるように見えるよ」
「前にギルドで測った事があるけど、そこそこ?だってさ。何年前に見てもらったのかは忘れたけど・・・いつだったかな?」
「た、多分、その時より増えてると思うよ」
確実に増えてると思うMP330もあるし。私よりも多いし!
「本当?じゃあ少しは成長したのかもね」
ブランママがサリーを顔の所に持ち上げて「ねー」といいながら遊んでいる。言われたサリーは「?」という感じだ。かわいい。
「おっ、と。今日は此処まで。村長さんちに繋がったし。挨拶して帰ろ」
「あいよ。村長さーん!いるー!?」
目の前の少し立派な屋敷から、ドタドタドタと走る音が聞こえてくる。屋敷といっても3DKくらいの平屋なんだけどね。ガラっと引き戸が動くと、やせこけたオジサンが現れた。まだ白髪ではない当たり30代だろうか。
「なんだ!?何かあったのかい!?」
「おお、あったあった。娘があんたんちに来た」
「・・・」
ジッと、目を私とサリーに交互に動かすおじさん。多分村長であろう人。そしてその目がゴーレム君に動くと首を傾げた。次に私たちの後ろの道を見ると目を瞠る。
「こんにちは村長さん。私はユリアネージュです。こっちの小さいのはサリアネージュです」
「あ、ああ。こんにちは。それでその」
何やら言いかけていたが、その言葉を遮って説明した。
「この辺なのはゴーレムです。魔法で動くので気にしないでください。ただ道を作るだけのゴーレムなので」
「道を作って?ゴーレム」
もう一度遮って説明を続けた。
「一応、4家の家と、村の出入り口から村長さんの家までは繋げましたから。商人さんには広場が欲しいかどうか聞いておいた方が良いですよ」
「あ、うん。えっと、君が作ったのかい?道を?」
「私じゃなくてゴーレム君です」
隣に立つR2モドキを指さすと「そう・・・」と村長らしき人は黙ってしまった。
「じゃあ、そういうわけだから村長。あ、うちの娘が作ったって言うのは外から来た人には黙っておいてね。一応みんなにも口止めしといたけど、破ったら・・・」
ガキリッ、とブランママがサリーを抱いていない方の右手で剣の柄を掴んだ。人はそれを脅しというんですよ。
「わ、わかった!言わないから!」
「んじゃあ、あ、道の補修代は鍋で良いよ。家族が増えたから大きいのが欲しいのよね」
「あー、うん。それくらいなら良いよ。あとで運ばせよう」
「やりぃっ、んじゃそれでお願いね!」
それじゃ、とブランママは振り返って戻っていった。一応私は村長さん?に一礼してブランママの後を追う。自動追尾モードのゴーレム君も私を追う。
「なんだったんだ、あの子は・・・」
後ろの方から微かにそんな声が聞こえた気がした。




