推しカプ告白成功なるか!?
うるさい一人称視点・兄。
拝啓、天国の父母よ。
俺の妹・三坂唯は今絶賛、告白されているところです。
学校一の優男であるこの男、未来のマイブラザーこと藤堂昴に。
俺の、妹が、告白されています。そんな姿を俺は斜め後ろの校舎影から確認しているところです。
どっちも初々しくて、お兄ちゃんの心はほのぼのしています。
ひゅ~。お兄ちゃん幼馴染系恋愛カップルすごく好み侍なんでめっちゃ嬉しいです。
が、唯の様子がおかしいようです。
嬉しそうなのに、何処か辛そうで……まさか、この優男それなりにファンクラブなんてのもあるからすでにそういう系の女子たちに釘を刺されているのかもしれない!
――なんて嫉妬心からの行動力だ! おのれ、見知らぬ女子め! 俺の妹が最高にかわいいばっかりに! くそっ!
そんな感じで俺が勝手になんか色々と悔しがっていると、唯は昴に頭を下げていた。
えっ、両片思いなのに断るの?
お兄ちゃん知ってるんだよ、二人が思い合っていることお兄ちゃん知りまくっちゃってんだよ!
なのにお断りするの?
誰も幸せになれないし、お兄ちゃんも幸せになれないんですけど!!
ああっ! 唯が、マイシスターが走り去ってしまった! 追いかけろ未来のマイブラザー!
よし、いいぞ! そのまま追いかけて抱きしめてキッスするんだ! 父さんが許さなくてもお兄ちゃんが許す!!
ああ……! 妹の背負い投げが決まった!?
でも昴も負けじと受け身を取った!
えっ、何? なんでファイティングポーズを二人して取り始めてんの? 戦闘民族なの?
お兄ちゃん展開早くてよくわかんないんですけど!!?
「何やってんですか、先輩」
「うひょう! ……な~んだ、堺ちゃんかあ。話しかけられてびっくりしたやん?」
「似非関西弁は結構なんですけど」
「相変わらず辛辣……お兄ちゃん泣いちゃう!」
「あたしに兄はいないので結構です」
妹たちの頓珍漢な戦いの始まり? に困惑していると後ろから後輩である堺麗に話しかけられた。
こやついつも俺の背後を取ってくるからビビるんだよね。ちびったりはしないけど。
「何見て…………」
「堺ちゃんも絶句するよね!」
「……まあ柔道部の主将と副主将ですし、なんかスイッチでも入ったんじゃないんですか」
「雑な答えだね! いいと思うよ! わからなくもないし!」
でも告白のいい雰囲気からあんな戦闘民族みたいな雰囲気に変わっちゃうのは、さすがのお兄ちゃんも困惑しかないよ。
この状況誰が止めるの、ねえ?
「止めたらいいんじゃないんですか」
「堺ちゃん正気!? あんな二人の間に飛び込むなんて下手したら死ぬよ!!」
「声が大きい超うるさい。いや、先輩が行けばいいんじゃないんですか」
「俺とっくに幽霊人生歩んでてもう二年目なんですけど????」
よく見て堺ちゃん。
俺、足の下透けてるの。
ほら、足ないし、浮いてるでしょ?
「ああ。そうでしたね。あまりに人間臭いので生きているものだと思ってました」
人間臭いって何?
幽霊なのににおいでもあるの、俺。
「大丈夫? 眼科行く?」
「腹立つんで今すぐ祓ってもいいですか?」
「唯と昴のラブラブカポー大成功見るまでは勘弁して!!!!」
「すっごくうるさい」
堺ちゃん、相変わらず怖い。
お寺の子ってみんなこんな感じなの?(偏見)
それとも堺ちゃんが変なだけなの?
「先輩今何考えました?」
「どうしたらマイシスブラカップルが結ばれるか考えてました」
嘘じゃないです。
堺ちゃんの変人説は考えてたけど、真に考えたいのはあの推しカップルが結ばれる方法です。
「そんなの簡単ですよ」
「うっそ。堺ちゃん何か知ってるの?? なんでお兄ちゃんわかんないのに、堺ちゃんにはわかるの?」
「先輩が馬鹿だからじゃないんですか」
「トンでも辛辣!! 俺仮にも君の先輩なのに!!」
「先輩は馬鹿だから、あの二人が何でお付き合いしないのかわかってないんですよ」
「やだ……二回目も馬鹿って言った」
「原因は先輩にあるのに」
えっ、パードゥン? まじ?
堺ちゃんをじっと見るとなんか神妙に頷いてきた。え、マジで?
俺が原因って逆になんで? 俺なんか妹に言っちゃったっけ?
「先輩。自分よりも強い男と付き合えよって生前言ったらしいじゃないですか。柔道部主将である三坂さんに」
「あっ」
「だから三坂さんと藤堂さんが両片思いでもお付き合いしてないんですよ。告白後、藤堂さんが三坂さんに自分の強さを示すために、広い場所移動するのもこれで通算ニ十回目ですもん」
「うっそあの二人そんなに戦ってんの? あれが実はニ十回目の告白とかお兄ちゃん知らない……」
「だから責任取って先輩があの間に飛び込んできてくださいよ。この学校の名物勝負になりつつあるからか、野次とかが来るようになったって先生方心労で辛そうなんで」
名物勝負って何。先生方の心労は申し訳ないとは思うけど。
でもいや無理。ほら俺幽霊ですもん。すり抜けちゃうよ。
というか、あんなゴリラゴリラしている二人の間に入れなんて、人間だったころでも自殺行為よ?
さすがのお兄ちゃんでもそれはご免こうむりたいです、はい。
「最近三坂さんと藤堂さん強くなりすぎて精神透き通っているからか、幽霊っぽいのも見えるようになってるんでイケると思います」
「なんて?」
「見えるようにレベルアップしてるんで、お二人の間にgo to hellしてください」
「堺ちゃん今ゴートゥーヘルって言わなかった!?」
「つべこべ言わずにとっとと行け」
俺先輩なのに!!
俺の先輩としての威厳は何処へ行ったのか、堺ちゃんに背中の辺りを思いっきりぶっ叩かれた。
幽霊だからそんな強い力で叩かれたら俺、紙みたいに吹っ飛んじゃう……!
「……おにいちゃん?」
「晶先輩……?」
二人の拳がクロスカウンター! する直前に、堺ちゃんに吹っ飛ばされた俺が間に滑り込まされた。
唯も昴も本当に俺が見えているのか、俺をすり抜けるはず(多分)の拳を寸でで止めて、俺を見ていた。
俺を、見ている。名前も読んで、俺を認識している。
そんなにまじまじと見られちゃうとお兄ちゃんでも照れちゃうんですけど!! きゃっ!!
「ひゅっ」
「唯ちゃん!」
あっ。
そういえばマイシスターは血垂れてるのも無理だったっけか。やっべ。お兄ちゃん忘れてたよ! てへぺろ!
堺ちゃんが当たり前のように接してくるから自分の体がどうなってるのか忘れるなんて、マジでお兄ちゃんったらお茶目さん☆
頭に突き刺さった電子辞書とそこから垂れ流れている血のおかげで、上半身血だらけのお兄ちゃんは唯には刺激が強かったな~。
「昴……」
「え、ひかるせんぱい……?」
「う……おにい、ちゃ……」
「唯も……」
なんだかんだで唯もすぐ目覚めた。顔は青いけど。昴に支えられながらやっとのことで立ってる感じするけど。
うーん。この空気。なんかそれっぽいこと言って、早めに立ち去った方がよさげな予感。
後ろから堺ちゃんの視線がビンビンに感じ取れているから……! きっと余計なこと言うんじゃねぞって思ってるはず!!
でも、きっと、今から俺が言う言葉は余計じゃないと思いたいんだ! 多分!!
「強さとは肉体的な強さだけじゃない。精神的な強さも大事だと思うんだ」
「おにいちゃん……」
「その点、昴は俺の子の姿見ても失神せず自分を保っていられた。俺は昴こそ唯に相応しいと思うよ」
「ひかる、せんぱい……!」
「お互いを補えるのっていいことだと思うんだ」
俺の事を呆然と見ている二人の前で、俺は風の力を借りてふわっと浮いてみた。
ここで大事なのは流れに身を任せすぎないこと。
全部任せちゃうと好き勝手飛ばされて、見知らぬ土地に飛ばされるなんてこともざらだから!!
前回はそれで俺知らない土地に飛んで、二年かけてようやく地元に帰ってこれたから……いやまじで。
俺を善意で払おうとする神社の事か教会の人とか、俺の事みえてる親切な人ってみんなそんな感じだったもん。
俺以外の幽霊さんなんて、俺の事を祓い屋ホイホイって呼んでくるくらいには……。
だから適度に浮いておくのが一番って俺知った。勉強した。だから大丈夫! たぶん!!
「ちょ、お、俺は二人を祝福するよ!」
「まって、おにいちゃん! いかないで……!」
「せんぱい! ひかるにい! まってください!!」
「うぉっ、お、いつかきっと俺二人の子供に生まれてくるから! ……じゃあ、またな!」
二人の縋るような手から逃れるように、風を使ってふわふわと浮いて空を飛ぶ。
ちょっとなんかこう二人の俺を捕らえようとする勢いがマジだったから、逃げるのに必死で今何言ったかわかんないんだけど変なことは言ってないはず!!
光の加減を使って透けちゃう感じで、俺はその場から脱出成功!!
堺ちゃんのところに戻って改めて二人の告白を見届けねば!
あれっ。堺ちゃんがなんでか頭抱えてしまったぞお?
「……なんちゅう呪いをぶつけちゃうんですか」
「のろい? えっただの祝福なんですけど!」
「結婚して子供産んだら兄に会えるよ、とか呪い以外の何でもないですよ」
「えっ俺そんなこと言ってたの?」
マジよりのマジ?
堺ちゃんの目が正気か? ってしてるからマジなんだあ……。
うそやん。
小さい頃からの推しカプの結婚が叶うなら、そりゃあ嬉しいけどさ!?
「ほら見てくださいよ。あの二人」
「手と手を取り合って……ゑ? 甘い雰囲気じゃないのに結婚してくださいって言ってる……?」
「オメデトウゴザイマス。告白大作戦成功ですね」
「いやこれ成功って言えるの!?」
それより俺マジでおぎゃばぶらないといけないのでは!!???
儂も幼馴染みカップル結ばれるの好き侍故、ゲームしてても幼馴染みカップル結ばれるシーン初めに選んじゃうやつ。