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死刑宣告-異世界不退転物語-  作者: 飯塚3号
7/8

7 三人目の行き倒れ

「……け……スケ……キョウスケ!」

 呼ばれる声がして目を覚ました。かなり体がだるい。

「よかった」

 六華に手伝われ京介は体を起こす。

「さっきの女は?」

「ああ。あそこに」


 さっき襲い掛かってきた女は木に縛り付けられていた。そして何故か身ぐるみはがされている。

「何やってんだお前ら!」

「ばっか! あれサキュバスよ!? 貴方襲われたんだから!」

「そういや羽と角があった」

「ご、ごめんなさい。お腹すいてたんです。許してください、見逃してください!」

「だまされるわけないでしょ! おおかた《魔王領域》からのスパイってところかしら?」


「ち、違います! もしそうなら……あなた方を瞬殺してますよ! 殺してないことが証明になるでしょう!」

「ならないわよ!」

 ルイーズは滅茶苦茶言っているサキュバスに槍を向けて目を離さないようにしている。バハムートも臨戦態勢で火を口から漏らしている。


「よく捕まえられたな」

「私たちが来たころ主は首に吸い付かれていたのです。そこを慌てて殴って気絶させました」

「吸いつかれてた!? え!? 俺大丈夫!? 喰い破られてない!?」

 慌てて首を触って確認する。


「忍法【明鏡止水-めいきょうしすい-】」

 六華は掌の上に空気中の水を集めて鏡を作り出す。それで自分の首を見てみると立派なキスマークが刻まれていた。

「一応傷は応急手当ですが癒しておきました。治癒魔法も使えますので」


「何でもできるなお前。というか俺は何で吸いつかれたんだ」

「《人間領域》に入ってきて何も食べてなくて……つい吸っちゃったんです」

 申し訳なさそうに頭を下げながらサキュバスは言った。ほぼ全裸なので目のやりどころに困る。

 京介は目を少し背ける。サキュバスがほぼ裸と言う男なら燃える現実になんとか抗う。明らかにルイーズがこっちを睨みつけているからだ。


「どうする? 王国に突き出す?」

「突き出したらどうなるんだ?」

「まぁ、死刑じゃないかしら」

 それを聞いたサキュバスがバタバタ手足を動かして暴れる。

「私は運命の人を探さないといけないんです! ここで死ぬわけにはいかないんです!!」

「運命の人?」

「私の夢は人間みたいに運命の人と普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に子宝に恵まれて、普通に老後を過ごすことなんです」


「サキュバスのくせに? 普通に恋愛がしたいのか?」

「そうです。あの時餌を求めて《人類領域》に侵入した時……あの公園で見た仲睦しい老夫婦。あの二人のような人生を送りたい……そう思って運命の人を長年探し続けているんです。サキュバスだけど恋します!」

 サキュバスが言うには性的接触もなさそうなのに微笑みあう老夫婦の姿を見てあこがれを抱いたそうだ。


「長年? あんた何歳よ」

「えーと。前の魔王様が死んだのが100年前だから、えーと。だいたい200歳です」

「200!?」

「いや、そんな風には見えないけど。なんで行き倒れてたんだお前」

「……貨幣制度がわからない」

 まさかの言葉が出てきた。

「街にでても貨幣とか働き方とかが分からなくて飢えで倒れました。こっちだと向こうみたいに略奪するのはいけないということだけは聞いていたので」


「いやいや、馬鹿いうなよお前」

「貨幣制度は《魔王領域》では最近始まったばかりなんですよ。私はそれに慣れる前にこっちにきましたから。本当に何もわからないんです」


 しばらく押し問答を繰り返して三人は話し合う。

「どうする?」

「サキュバスは言葉、体を使い人をだまします。現にこうして脱がしているわけですがこれも彼女の能力かもしれない」

「そんな! 私は魅了なんて使ってませんよ! もし使ったら純粋な恋じゃないじゃないですか! 私は普通に恋をしたくてこっちに来たんです! お願いします見逃してください!」


「なぁ。可哀そうだよ」

「しかし危険ですよ主」

「お願いします。ただ、夢を叶えたいだけなんです。もうあの時……一族を裏切った時、一族に追放されたとき。私は絶対に叶えると決めたんです」


 京介が良心を痛め始めていると、ルイーズがサキュバスの目の前に歩み寄ってしゃがみこんだ。

「一族に追放された?」

「はい。サキュバスのくせに何を言っているんだって追い出されました」

「……そう」

 ルイーズが小さな声で呟いた。

「……まいったな……私とちょっと似てるじゃない」

「……」


 六華も思うところがあるのか少し目元を歪める。

 二人の反応を見たキョウスケは少しうなりながら右手で首をかいた。

「よし。お前」

「は、はい」

「目的は“この世界を回って運命の人を探す”でいいんだな?」

「はい。私は人間みたいに普通に相手を見つけたいんです」


 京介はしゃがみ込んでため息をついた。

「俺たちは第一発見者として責任がある。それなりの対処を取らないといけない」

「キョウスケ?」


「俺たちのパーティに加入しろ。そのうえで俺たち以外の誰にも正体をバレるな、ただし運命の相手は除く。この二つが守れるのであれば俺は見逃してやってもいい」

「で、でも。最初のは、そこのお二人が」

「……正直。貴方をここで斬るのは気が引けるわ。私はそれで構わない」


「私もです。同じ目的に命をかけている者同士、気が引けるというのが正直な心境です」

「全責任は俺がとる。あとはおまえ次第だ」

「あ、ありがとうございます!」

 サキュバスが深く頭を下げる。


 「よし、縄を解いて」と京介が言った瞬間、サキュバスは大木ごと立ち上がり、縄を腕力で引きちぎった。

 三人は思い出した。このサキュバスは行き倒れで死にかけているにもかかわらずあの巨大イノシシを簡単に吹きとばす力を持っているということを。


「全責任よろしく」

「あ、主は徳の深いお方だ」

「……まぁ。俺は種族なんて気にしない男よ……」

 キョウスケの胃がキリキリする。

「名前はダガーって言います。よろしくお願いします!」


 苦笑いをする三人とは反対にダガーは太陽のように明るい笑顔を浮かべる。それを見た三人は前途多難を予感したが、つられて笑みを浮かべた。

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