5 二人目の行き倒れ
六華が脇道に少女が転がっているのを発見した。この街には行き倒れが流行っているのだろうか。
「拾うぞ六華」
「はい」
拾おうと近づくと黒い羽の生えた小さいトカゲがとびかかってきた。
「うわ! なんだこのトカゲ!」
トカゲは口を大きく開けて。火を放ってくる。
「主!!」
京介は顔に向かってきた火を手で防ぐ。
「あっつ! ……くない」
「え?」
「……ぬるいぞこの火」
『ぴー!』
一生懸命火を噴いているが。熱くないし燃えない。ただぬるい風、ドライヤーを当てられている気分だ。
「……こっち持ってくれる?」
暴れるトカゲを掴み上げて六華に手渡す。京介は緋色の少女を背負う。
緋色の少女を背負ったままさっきの店に入った。店員に怪訝な顔をされたが通してもらえた。
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「ありがとう! 御馳走になっちゃって!」
少女は頬に刺青のある顔をほころばせた。
黒い羽の生えたトカゲも林檎を上手に両手でつかんで食べている。腹が膨れて細かった体が丸々として可愛らしい。
「私の名前はルイーズ。この子はバハムート」
バハムートと呼ばれたトカゲは頭を下げた。
「トカゲだろ? それで最強の竜の名前なんて」
「トカゲじゃないわよ! バハムートはれっきとした竜よ! そして私は竜騎士!」
長い棒を包んでいる布を勢いよく引きはがして出てきた槍を自慢げに頭上で三回転させた。
「すいません。武器は隠していただかないと」
「あ、ごめんなさい」
「竜騎士?」
「主。竜騎士と言うのは龍と契約した一族の人間で、龍の眷属である竜を与えられ騎士になった者が名乗る物です。恐らく彼女も家名を隠してはいますがその家かと。竜騎士は非常に強力です。強靭な牙。強固な鱗。一方的な空からの魔法攻撃が出来ます」
「……でも乗れそうもないよな」
バハムートの腹を触るとくすぐったそうに身をよじる。なかなか可愛らしい。
「小さいですね。先ほど主が言うには火もぬるかったようですし」
「実は、竜に乗れない竜騎士なのよ」
ルイーズは申し訳なさそうに頭をかきながら言った。
「でも私はいずれ世界一の竜騎士に成るわ!! そのために今いろんな街を転々としているの。冒険者をやりながらね」
「へー。なんで行き倒れてたんだ」
「竜に乗れない竜騎士なんて……どこのパーティも入れてくれないから……一人でやろうとしたんだけどね」
それもうまく行かなくて金もなくなり、仕事を探してこの街に来てすぐに倒れたらしい。
「世界中を回ってるのか?」
「ええそうよ」
「俺たちもこれから冒険者をやりながら世界を回るんだ。どうだパーティに入らないか?」
「え。でも邪魔にならない? 二人は」
ルイーズは小指を立てる。
「いや。そんな関係じゃない。今日初めて会った」
「私もあなたと同じで行き倒れを拾われたのです」
「へえ、そうなんだ。……ん? あれ貴方の恰好。それシノビよね? なんでここに? しかもその耳は」
ルイーズは少し考えこみ始めた。
(こいつ“シノビ”を知ってるのか)
「いいの? 私が入っても」
「おう。六華もいいか?」
「私は主の意に従います」
「と言うわけだ」
「ありがとう! これからよろしくね! キョウスケ、リッカ」
お互い握手を交した。
この日は女神に支給された金でギルドが経営している格安宿屋の一室を借りることにした。金の節約のために全員で一つの部屋だ。部屋はボロボロでベッドも固い。家具類はほとんどなくてさみしい内装だが三人にはこれで十分。
京介はあの後二人の協力もあり片手剣と基本的な冒険者装備を購入した。来ていた高校の制服は物好きな行商に売り渡すことにした。
過去を捨て去りたかった京介にとって大して未練はなく、それどころか高く売れたことを喜んだ。
「主。私が床で寝るので」
「いいよ。俺床を愛してるから」
「いいえ。譲れません、いや正確には譲られません」
「バハムート久しぶりの布団だよ!」
『ぴー! きゅー!』
ルイーズとバハムートは一つのベットに収まった。
六華と京介も一つのベッドに収まった。お互い最大限の譲歩をしたのだが正直京介は方向性を間違えたかと後悔している。
「……」
深夜。皆寝静まった時間帯、京介はまだ起きていた。
(睡眠剤がないと寝れないな)
極力音を立てずにベッドから出た。向かったのは宿屋の側にある広場の井戸だ。木桶を引き上げて水を飲んで喉を潤す。空を見上げると綺麗な夜空とアイリスが居た。何故かイラっとした京介は無視を決め込むことにする。
『ちょっと!』
「もう寝る。またこんどなアイリス」
女神の声を無視してあくびをしながら部屋に戻る。