4 一人目の行き倒れ
空に向かってアイリスに呼びかけると。『お取込み中』と言うカンペが表示されたのであきらめて自力で行くことにした。
街でよく見る看板タイプの地図も何も見つからない。道路を何本も行き来して武器屋を探す。
「あー。見つからねぇ。もう昼だぞ」
もう真上に太陽が昇っている。お腹がすいてきた。どこかで食べられるものを頼もうか。
「……ぐ……ぅ……」
「ん?」
路地の方から声が聞こえてきた。すぐそばに人の多い通りもあるし大丈夫だろうと考え、踏み込む。T字路の右の方を顔だけ出してみてみると。
「……ぁ……」
黒い塊が転がっているのを見つけた。声を発していることから人間であることは理解できる。
周りを見渡して誰もいないことを確認してからとりあえず近寄る。
それは黒装束を身に包んだ少女だ。肌は褐色、顔は鼻の上までを黒いマスクで覆っている。長い髪は粉雪のように白く黒い服と対照的で映えている。顔を見て気づいたのだが耳が人間の耳と違ってとんがっている。
ゆすって起こそうと手を伸ばした時、側に忍者がよく使うイメージのあるクナイや手裏剣が落ちているのを見つけた。
「大丈夫か? おい!」
ゆすって起こそうとする。倒れている異性に触れるのは少し気が引けたが意を決して起こそうとする。
「ん……あ……」
少女が目を開ける。
「おい大丈夫か」
「え……ええ。大丈……」
良かった目が覚めた。死んでいたらどうしようかと思った。
「お前忍だろ。なんで倒れてたんだ?」
「……何故……”シノビ”を知っている!」
褐色の女はキョウスケの質問を聞いて豹変した。そばに落ちているクナイを拾い襲い掛かってきた。京介は褐色の女の鋭い一閃をしりもちをつく体勢で避けた。
「躱すか。貴様どこの里の者だ!」
褐色の女はそう叫んで覆いかぶさる形で迫る。
「何だってんだ!」
京介は思わず目を瞑りながら拳を突き出した。
そうすると何が起きたのか突風が突き抜けて空中に飛んでいた褐色の女は逆方向に吹きとばされ。石造りの壁に背中を打ち付けて地面に墜落した。
「な、なんだ今の。なんだあの女」
何故襲われたのかも何が起きたのかもさっぱりわからない。
「…………どうするあの女。このまま放置は心の平穏が保てないよなぁ、ほっといて死んだとかなったら俺が殺したようなものだし」
京介はどうすればいいのかをしばらく考える。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
とある食堂。
「ありがとうございました。敵と勘違いした愚かな私に食べ物を恵んでくださるだなんて。この御恩一生忘れません」
褐色の女はひとしきり食べ終えたのち礼と謝罪を述べた。
襲ってきたのは敵と勘違いしたらしい。この世界で“シノビ”は貴族が抗争に使うものらしく民間人が知っているはずがないそうだ。
「いいよ別に。怪我大丈夫なのか? 結構な勢いで吹っ飛んだけど」
「問題ありません。申し遅れました。私は六華と申します。シノビをしています」
「俺は虚野 京介だ」
「カラノ キョウスケ様ですね」
六華は突然立ち上がって地面に膝をつく。突然の行動に周りの客が「何事だ」と凝視してくる。京介も突然の行動に驚いた。
「私は貴方を襲ってしまったにも関わらず、私を助けた上食べ物まで恵んでくださった。貴方は徳の高いお方だ。是非私をあなたの従者として働かせてもらいたい!」
「おい。待って」
「この身も心も魂も全てをかけ貴方のために働きましょう! どの様に使ってくださってもかまいません。この恩に報いることが出来るのであればどんな命令も私は拒みませぬ!」
片膝をついたまま深く頭を下げて大きな声でそう言った。
「なんのプレイだ?」「何でもするって言ったよな」
ざわつきが大きくなってきた。
「店員さんお勘定!」
お金を支払い手を引いて急いで店を出た。道中なんだなんだと声が聞こえてきたが人気のないところまで走り抜けた。
「何? 従者?」
「はい。尽くさせてください」
「まず六華さん」
「六華とお呼びください。敬称は私には必要ありません」
「六華。なんで行き倒れていたんだ?」
「実は私は古い習慣に囚われている里を新しく変えたい、変革をしたいのです。そのために今は世界中を回ろうと旅をしています」
行き倒れていた割に自分の故郷を変えるという大きな目的を持っているようだ。
「ですが、外の世界でシノビが生きられることを証明するために金銭、丸薬、兵糧丸をすべておいてきた結果。最初の街に着いたものの行き倒れてしまいました。不覚です」
意外とポンコツかもしれないこの人。
「恩返しとか興味ないんだけど。俺は冒険者をやりながら世界を回るつもりだ。丁度いいしパーティに入るか? 俺しかいないけど」
世界を回るという部分は一致している。なら勧誘しない理由はないだろう。
「冒険者ですか? それは丁度いいです。私も冒険者になりたくてこの街に来たのです」
「ならパーティ結成と言うことで」
直ぐに六華の冒険者と登録を済ました。出身地の欄に堂々と隠れ里の名前を書いていたがいいのだろうか。
「武器を買うのですか?」
「そうなんだけど俺今まで武器を持ったことがない」
「なら私も選ぶのを手伝いましょう。これでも里の子供たちの面倒も見ていましたから」
「じゃぁ頼もうかな」
改めて武器屋を目指す。やはり二人ともよく道が分からないので捜し歩く。
「……」
何故だろうか。街の住民がこっちをじっと見てくる。
「申し訳ありません」
「何が」
「私ダークエルフのハーフなのです。魔族の血をひいていますから……主にも迷惑をかけてしまい申し訳ありません」
成程。道理で妙に耳がとがっているわけだ。
「気にするな。魔族がどうとか俺は気にするつもりはないよ。胸張ってお前は歩いてればいい」
「はい。ありがとうございます」
六華は言われた通り胸を張って歩き始めたのだが。
「見ろよ。すげぇ胸」
「スタイルもかなりの」
「高身長だし胸も多きい。ありゃ相当だぞ」
男たちがざわめきだす。
「主。別の視線が集まってきたのですが」
「もう。どうしようもない」
(高身長? 俺と同じくらいだよな(キョウスケの身長は170少し)。やっぱ栄養差が原因の身長差があるのか。よく見れば男たちも元の世界よりも小柄だ)
などと考えていると。
「主」
六華が路地裏に緋色の頭の人間が転がっているのを発見した。