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死刑宣告-異世界不退転物語-  作者: 飯塚3号
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2 敗北者の異世界逃走

 春。それは変化の月。

 高校卒業式の教室でも卒業生たちは騒ぎまわっている。

 だが、全員がそうと言うわけではない。

 教室にいる学生は、未来に希望を見る人と未来に不安を見る人の二種類に分かれていた。


 #虚野京介__からのきょうすけ__#は後者だ。京介は三年間勉強に身をささげて受験に失敗していた。京介は今まで何をやっても失敗してきた。期待を寄せられてきたのに、何も成し遂げられていない。


「おい! 全員廊下に並べ!」

 式は特に何も起きず普通に行われた。

 足早に正門でたむろする元高校生の間をすり抜けて外を目指す。

 早くこの場を立ち去ろうと考えていたのだが、ある会話が耳に入って足を止めた。



「異世界に行く方法をまた見つけたんだよ」

「どんなの」

「紙に六芒星を書いてその中心に赤い文字で”飽きた”って書いて手に握って寝るんだ。そうすると迎えが来て異世界に行けるだと。ただ条件があって」


 そこまで聞いて京介は足を動かし始めた。

 家に帰ると靴を脱いで直ぐに自室に入る。

 京介はルーズリーフを半分に切って、インクがほとんどなくなった赤ペンで六芒星と飽きたの三文字を書いて手に握れるサイズに折る。


 机の引き出しを開けて市販の睡眠薬を取り出して、学校からの帰り道に自販機で買ったスポーツ飲料で流し込む。

 どこでもいいから、ここじゃないところに連れてってくれ。と捨て身な考えで異世界転移の儀式をした。しばらくして意識は闇に落ちていく。


 京介は真っ白な世界に立っていた。体の感覚は現実と変わりない。普通に動かせる。

『あーいたいた』

 突然どこからか声が聞こえてきた。

『もう君のところの神には話しとおしといたからねっと!』

 指がパチンとなる音がして視界が虹色の光の奔流に埋め尽くされる。あまりにも眩しくて手で光を隠す。


「風?」

 頬を冷たい空気が撫でた。湿っぽさもないし乾いてもいない、程よい湿度で心地のいい風速で全身を包み込んでくる。目を開くと自分は空に浮かんでいることが自覚できた。

 何もない真っ白な世界とは正反対の世界が広がっている。

 緑色の大地のところどころに見える街の煉瓦屋根と木材の屋根。

 草が剥げて作られた道の上を走る馬車。雄々しくそびえたつ峰の群れ。

 見たこともない巨大な生物。耳をつんざく鳴き声を上げる鳥。

 上には赤と青の巨大な天体が二つ浮かんでいる。


『■■■』

 遠くから鋼色の蛇が咆哮を挙げながら迫ってきて、京介の側を飛び去る。体を覆っている鋼の鱗から火花が散っていった。

『どう。私の世界は』

 真後ろから女性の声が聞こえてきて驚きながら振り返った。

 そこにいたのは珍妙な格好をした女性だ。

 テミス像のような純白の衣装に加えて羽衣を着ていて、純白の衣装が風に煽られて太ももが露出している。胸は豊満で全体的に母性を感じさせる雰囲気だ。


「あんたは?」

「この世界の女神、アイリス。ようこそ私の世界へ。あなたの転移を歓迎します」

(ってことは儀式は成功したのか?)

「この世界はあなたの世界程個人を守る社会をしていません。街から出ればモンスターはいるし、野盗にも襲われる。人権も確立していないし、公的機関もあなたの社会ほど機能をしていません。すべては自己責任の世界。どうしますか?」


 アイリスは人差し指を立てて忠告する。

「戻りたくない」

「わかりました。では次は特典を与えましょう」

「特典?」

「超能力。魔力適正。叡智。何が欲しい? さぁ! 何を望みますか?! あなたは欲するものをなんでも一つ授けましょう!」

「・・・何が欲しいのか」



 欲しい物。望むもの。決まっている。

「万能になりたい。なんでもできる。誰からの期待にも答えられる万能な人間に成りたい」

 それは今の自分とは正反対の内容だった。

 アイリスは京介の望みを聞いてニッコリと笑い。そして「いいでしょう」と答えた。



 そしてまた、視界が光の奔流に飲み込まれる。次に転移していたのは何処かの建造物の上だ。周りを見ると夜の街が広がっている。どうやら街の中心にある塔の上にいるらしい。

「さぁ。授けましょう! 万能の特典を!」

 女神が右手を上に掲げると夜空に一つの光球が出現した。その光球は光の粒子を振りまきながら落ちてくる。

「あれこそが女神の祝福。新たなる英雄に幸あらんことを!」

おお。と京介が感心して見上げているとあることに気が付いた。

(なんだアレ)


 夜空の遠くから赤い球体が迫ってくる。接近してきて分かった。火球だ。その火球は豪速で飛んできて女神が生み出した光球と激突大爆発。

 爆発して光球が砕け、欠片が夜空に飛び散った。女神の祝福は流星群のように飛んで消えていく。

「アイリス。これはいった……」

 京介がアイリスの方を見ると。アイリスはさっきの神様らしい態度はどこに行ったのか。顔面蒼白になっている。


「未来観測10年人類存在確立30%……20年0%……え、えらいこっちゃ」

『……ザ……ザザ……』

「ん?」

 空にアナログテレビの砂嵐のようなノイズが走る。そのノイズは次第に大きくなってきて、それが強くなるのに合わせて声が聞こえてきた。

『アイリス! 貴様これは何事か!』


 夜空に謎のビジョンが浮かび上がる。フードを深くかぶっていて顔は見えない。

『貴様世界に神の権能をばらまこうなどと! 始末書で許されると思うなよ!』

「申し訳ありません! 事故なんです! 温情を! 温情をください!」


『100万年の間給料50%カットだ!! 権能を回収し終わるまで家に帰れると思うな! それと・・・貴様の昇格の陳情を取り下げておく!』


 そういうとフードの何かは消えていった。


「……ハンカチ使うか?」

 女神の流星群はもう消えている。

「ん?」

 空から一つ光の玉が落ちてきて受け止めようと触れると体の内部に染み込んできた。

「おいアイリス……それどころじゃねぇか」

 給料カット。休日なし。出世コースからも外れたアイリスは地面に倒れこんでいる。

「まぁいいか。……くっ……っと」

 京介もその隣に寝転がり。上着を枕にして寝息を立て始めた。

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