7. 曖昧警戒態勢
誤字脱字、誤用などありましたら申し訳ありません。
宜しくお願い致します。
「俺が見聞きした内容はこれで全部です」
話し終えるやいなや、クロウ少年は地面に膝をつき額を土につける。
「お願いします! あいつらの会話からすると、今度は村が大量のアンデットに襲われます! いつ襲われるか、何体のアンデットが来るかも分からないけど、どうか村を助けてもらえませんか!? お礼なら必ずします! 俺で良ければ何でもします! だから……どうか…」
お願いします、とクロウ少年が続ける前に、私は少年の前にしゃがみ込み、肩に手を置いて話し出す。
「私で良ければ喜んで助力させてもらうよ。墓守としては、大量のアンデットというのは見過ごせないからね」
それに、今この少年には余裕がない。少しでも安心してもらえるようにクロウ少年の目を見て、笑顔を作る。
「大丈夫。一緒に村を守ろうか」
クロウ少年はその言葉に安心したのか、少し俯いて次の瞬間自らの頬を叩き気合を入れる。
少し叩く力が強かったのか、頬に赤みが差していた。
「よろしくお願いします」
「ああ。それで早速なんだが村には一人で向かってくれるかい? 私もすぐに向かう」
「? 分かりました、先に向かってみんなに状況を説明してきます。村はここから北の方向にまっすぐ行けばすぐ着きます。あと少しで日が完全に落ちますけど大丈夫ですか?」
「問題ないよ、ありがとう。くれぐれも怪我には気を付けて」
「ブラックドッグさんも、お気をつけて」
アンデットの気配が北の方角からしないことを確認し、クロウ少年を見送る。
まだ少年が走り去る様子が見えているが、私も急いでいるので森へ急行する。
先程聞いた話によると父親と野盗の男が戦い始めて三十分程経過している。
もし戦闘が続いているなら加勢し、野盗を捕らえて魔道具とやらを回収できる。
野盗が去っていたとしても、父親が生きているなら《回復魔法》で助けることができるかもしれない。
すでに父親が死亡している場合は亡骸を回収し、きちんと弔うことがクロウには必要だろう。また、野盗の男が死亡していた場合も浄化してやる必要がある。
「……いないか」
クロウ少年が言っていた森の奥地、開けた場所に到着したが人間はおろかアンデットすらも存在しなかった。
一瞬場所が違うのかと考えたが、地面の一部に大量の血痕が残っている。明らかに致死量だ。
状況的にクロウの父親は殺され、野盗の男はその死体を回収し“仲間”とやらが集まる拠点に持ち帰ったのだろう。
今すぐ野盗の男を追いかけたいところだが、入れ違いで村を襲いに向かわれたらクロウ少年が危ない。
私は広場での捜索を切り上げて急ぎハイテ村へ向かう。
既に日は完全に沈み、迷者が活発になる時間帯。
途中でアンデットと遭遇することもなく、ハイテ村に到着した。
ハイテ村は成人男性の腰の高さほどの木の柵に囲まれており、入り口には一人の男が立っていた。
「止まれ、君は……クロウが言っていたブラックドッグさん?で合ってるか」
「ええ、そのブラックドッグさんで合っていますよ。夜分遅くに申し訳ない」
「いや、こちらこそ君が村に訪れることが事前に伝えられていたのに、警戒しすぎた。赤い瞳が暗闇に浮いているとアンデットを連想してしまう」
ああ、確かに前世でも暗闇に赤の組み合わせは十中八九アンデットだった。
クロウ少年が野盗とアンデットについて伝えていたのならこの反応も妥当だろう。
現状、警戒するに越したことはない。
その後子供が一人で行動していることについて心配されたが、無事村に入ることができた。
クロウ少年は私の存在を村の人々に伝えておいてくれたらしい。
少し物珍しそうな視線を向けられてはいるが、敵意などは感じない。
村の中心部には人だかりができている。
これからの行動を議論しているのか、声を張り上げている者もいた。
そんな中、村の代表のような老人の傍で、考え事をしていたクロウ少年が此方に気づき、手を振って私を呼ぶ。
「ブラックドッグさん! ご無事でしたか!」
軽く手を振り、少年に近づく。
村人たちも議論を中断し此方に視線を向け始める。
先程の村人達とは違い、疑念を多分に含んだ眼差し。
「君も無事に村へ辿り着けて何よりだ。それで、この後の行動について何か決まったかい?」
「いえ、まだ何も……」
「私から話そう」
クロウ少年の傍にいた、村の代表らしき老人がはっきりとした声で状況を説明しだす。
「君のことはクロウから聞いている。一方的になってしまうが、自己紹介させてくれ。私はジン、この村の村長をやっている。まずは代表として、村民を救ってもらった件の礼を言わせてもらう」
「受け入れます。それで、今後の動きについて何か策や意見が決まりましたか?」
「そのことだが、正直なところまとまっていない。出ている案は二つ、村を捨て近隣の村を経由していき戦力が整い次第アンデットを倒していく、もしくは戦力の多い首都や港町まで逃げる、というものが一つ。二つ目の案は村に留まってアンデット及び賊の撃退だな」
難しい顔をして村長は続ける。
「決断を鈍らせている要因は相手の正確な数が分からないという点だ。クロウの話を信じるなら、斥候用のアンデットで五百体、そしてこの村に向けられる数はさらに多い。当然この村にそんな数のアンデットに対処できる戦力はいない。本来なら逃げの一手で決まりなのだ」
一度口を閉じ、息を吸う。
これはあなたを不快にさせる意見なのだが、と村長は申し訳なさそうに再度口を開く。
「クロウがアンデットの数を見間違えたのではないかという意見も出ている。周囲は既に暗く、更にはその状況下でアンデット五百体を倒せる者が偶然現れるというのは信じられないと。あなたを敵として疑っているわけでは無いが、それほどの猛者は都合よく現れたりしないとな」
……それはそうだ。普通に考えて子供がアンデット五百体を無傷で倒すなんて信じられないだろう。
「ではアンデットは討伐可能な数と想定し、アンデットと野盗の討伐、もしくは撃退が勝利条件ですか」
「……最悪、女子供を逃がした上で時間稼ぎだな」
その後、村長は集まっていた人々に指示を出し、戦闘準備や見張りの順番、逃げる場合の人員と物資をまとめる作業を進めていく。
今の私はアンデットであるからか、睡魔が襲ってこない。
見張り番を申し出て、今の自分にできることを考え続けるのであった。
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