第99話 王都の夕闇⑧「危機一髪の救いの手」
「やあ、初めまして、風の四大精霊ジャンナ……。いや、今はティフォーネと言うんだっけ。吾輩の名前はモルカナ。皆は『黒猫の飼い主』って呼んでいるけどね」
モルカナの姿に、ティフォーネは目を丸くする。
ガリオはハーッと大きなため息を吐いた。何故なら、その姿は───
「猫ちゃん?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
───時間はしばらく前に遡る。
「……貴様に始祖精霊様の救いあれ」
「おっと、そこまでにしてもらおうか」
「───ッ!」
突然聞こえてきた謎の声に、ガリオの首筋を狙っていた短剣がピタリと止まる。
そして、再び短剣を胸元の位置まで戻すと、彼らは姿勢を低くして防御の構えを取った。
キョロキョロと周辺を見回して、謎の声の出所を探す黒マントの三人。
「カッカッカ。どこを見ている。吾輩はここだよ」
「ハッ!」
その謎の声は、中年の男性のような低くて渋い声をしており、予想以上に高い位置から聞こえてくる。
彼らが見上げた樹上には、1匹のカラスが夕闇に溶け込むように止まっており、その黒い羽根をバサバサと鳴らしながら下界の諍いを嘲笑っていた。
ヒュンッ!
カラスの首筋に、銀色の軌跡が一瞬走る。
人間の言葉をしゃべる不吉な鳥の嘲笑が止み、樹木の中に小さな首が落ちて見えなくなった。次の瞬間───
ドカンッドカンッ!
「ぎゃあああああああああ!」
「ぐあああああああああ!」
突然、どこかからかオレンジ色の光が飛んできて、カラスのほうに気を取られていた二人の黒マントに直撃する。
燃え盛る炎が、一瞬で黒マントたちを包み込んだ。ジタバタと暴れ転げる黒マント二人。
「い、いったい何が……」
あまりの高熱に、ガリオは思わず左手を目の前にかざして、凄まじい炎の熱から顔を守っていた。
炎に包まれた黒マント二人が、地面に崩れ落ちる。
肉の焼ける嫌な匂いが漂う中、ガリオは呆然としてその光景を見ていた。
「お、おいッ───ぐほッ! な、何がッ! があああッ!」
ガウガウガウガウッ!
一人離れてチャクラムを操っていた最後の黒マントが、二人の仲間の所に駆け寄ろうとした時だった。
夕闇の濃くなった影の中から、2匹の灰色の大狼が飛び出して来て彼に襲いかかる。
成人男性ほどもある大きさの獰猛な狼2匹に急襲されては、いかな黒マントといえども、ひとたまりもなかった。
最後に残った黒マントも、鋭い牙で喉を噛み千切られ、あっさりと絶命する。
「……」
死ぬことを覚悟していたガリオだったが、謎の暗殺者集団があっと言う間に全滅したことに、しばらく言葉を失っていた。
彼の顔は、目が大きく見開いており、口もあんぐりと開いている。するとそこに───
パタパタパタパタ───ドンッ!
「うわッ!」
足音が近づいてきたかと思った瞬間、ガリオは何かに勢いよくぶつかられて、そのまま横に倒れてしまった。
彼は、どこかで嗅いだことのある甘くて良い香りに包まれて、目を白黒させる。
「……ガリオさんッ!」
「か、カルマちゃん? ぐぐッ!」
ガリオの首にギューッと抱き着いているのは、錬金術師のジョン夫妻の一人娘で、この王都で暮らすカルマだった。
だが、仰向けに倒れているガリオは、背中の傷が激しく痛み出して全身を硬直させている。
「……ッ!」
ガリオの異変に気付いたカルマは、腰に付けたポーチから回復ポーションを取り出すと、一息で自分の口の中にすべて含ませる。そして───
「……ッ!」
「んんんんんんッ!」
カルマの口から直接、ガリオの口の中に回復ポーションが流し込まれる。
全身を襲う痛みに半ば混乱していたガリオは、温かくて甘美な味のするその液体を夢中で飲み込んだ。
すると、背中が一瞬熱くなったかと思うと、激しかった痛みがスーッと溶けるように消えていったのである。
ガリオの体の硬さが解けていくのを感じたカルマは、ゆっくりと体を離して、彼の瞳を真っ直ぐ見つめた。
一方のガリオは、仰向けに倒れたままで虚ろな目をカルマに向けている。
「……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
しばらくボーッとカルマを見つめ返していたガリオは、先ほど自分が彼女にどんなことをされたのか理解すると、ハッと目を大きく見開く。
「か、カルマちゃん、今のって……」
「……ガリオさんを助けるのに、必要なことをしただけですよ」
「……そうか。すまない」
ポリポリと頭をかきながら、ガリオは上半身を起こして地面に座り込む。体の痛みは、嘘みたいにすっかり無くなっていた。
彼は周囲を見回して、謎の襲撃者たちの死体を見つける。
「カルマちゃんが助けてくれたのか?」
「……いいえ」
カルマはフルフルと小さく頭を横に振った。
そして、彼女は街の中心部に続く道のほうを指差す。
「……あの人たちが」
「あの人たち?」
カルマの指差した先には、精霊魔法で作られた光球に照らされて、3人の若者たちが立っていた。
彼らの顔を見て、ガリオの顔には信じられない物を見たような驚愕の表情が浮かぶ。
何故なら、ガリオは彼らはもうこの西の王国から消えたと聞いていたからだ。
「アーノルド……?」
「よお、ガリオのおっさん。良いご身分だな」
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