第93話 王都の夕闇②「黒マントの襲撃者」
ガリオは険しい目つきで、また悲しそうな表情をして、早足で黙々と歩いていた。一刻でも早く、後悔しか残っていないこの王都から離れたかったからだ。
───ヒュンッ!
「……ん?」
かすかな風切り音が聞こえて、ガリオはふと足を止めた。そして───彼の太い右腕が、ドサッと音を立てて地面に落ちた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぐああああああ!」
全身に激痛が走り、その場にひざまずくガリオ。彼の右腕は、肩の先から無くなっていた。
大量の血が、ボタボタと音を立てて地面に流れ落ちる。
「い、いったい何が───ッ!」
ヒュン、ヒュンッ!
痛みで混乱するガリオの耳に、再びあの風切り音が聞こえる。
音の正体は分からないものの悪い予感がした彼は、歯を食いしばって激痛に耐えながら横に飛んでゴロゴロと地面を転がった。
キラリと光る何かが、ガリオのいた場所を通り過ぎる。
光の軌跡を目で追うと、前方に全身を真っ黒なマントで覆った不審者が二人立っていた。
マントから伸びる右腕の人差し指に、ガリオを襲った光る何かが収まるのが見える。
それぞれの右腕が、ぼんやりと白い光に包まれているようだった。
(風の精霊魔法を使ったチャクラムの攻撃……か)
ガリオが目を凝らしてよく観察すると、真ん中に穴の開いた円盤状の投擲武器であるチャクラムが、彼らの人差し指の周りを高速で回転していることが分かった。
正体不明の黒マントたちは、風の精霊魔法を使ってチャクラムの軌道を自由自在に操作できるらしい。
すると、黒マントのうちの一人がチャクラムを懐にしまうと、その代わりに短剣を取り出して、その身をゆっくりと沈めた。
(ここにいたらヤバいッ!)
命の危険を感じたガリオは、荷物を放置してもと来た道を引き返そうとした。
しかし、その足はすぐに止まってしまう。後方の道にも、右手に短剣を持つ同じ黒マントがもう一人立っていたからだ。
(3人目! チッ! 挟まれたかッ!)
ガリオが舌打ちをしたと同時に、高速回転していたチャクラムが再びガリオ目がけて投じられた。だが───
ボンッ!
ガリオは腰に下げた小さなバッグからすばやい動作である物を取り出すと、自分の足下に叩きつけた。
すると爆発音がして、彼の姿はあっという間に灰色の煙に包まれる。
チャクラムが灰色の煙の中に突っ込んでいくが、そのまま煙の中を通り過ぎただけで、もとの黒マントのところに戻っていった。
「風よッ!」
後方にいた黒マントが、鈍く光る右腕を大きく横に振った。すると、急に吹いてきた風に目の前の灰色の煙が押し流されていく。
そしてそこには、今まさに回復ポーションを飲み終えたガリオの姿があった。
「ジョンさん……助かったよ」
まだ血が流れ出ていた彼の右肩の切り口から金色の光があふれ出し、輝く右腕を形作る。
パッと最後に光を放って消えると、ガリオの右腕が元通りになっていた。
ガリオは右手の握りこぶしを作ったり開いたりして、感覚もしっかり戻っていることを確認する。
「よしッ!」
「───ッ!」
黒マントたちの動きがピタリと止まり、動揺したような様子を初めて見せた。
失われた腕や足などの人体の一部を回復ポーションで復元するなど、普通はあり得ないからだ。
いや、ひとつだけ心当たりがあった。かつて『無色の虹』という伝説のパーティに『不死身』と言われた冒険者がいたことに。
「白魔法『身体強化』」
ガリオは黒マントたちの動きが止まった隙に、白魔法で自分の体を大幅に強化する。
そして綺麗に元通りになった右腕で、スラリと『虹切』を抜き放った。
「お前たちは何者だ。なぜ俺を襲う」
黒マントたちは我に返ると、ザッと音を立てて再び武器を構えた。だが、ガリオの問いには答えず、お互いに目配せをしている。
欠損した右腕の復元に、白魔法による驚異的な身体強化。
驚きの光景を2度も見せられ、彼らは、ただの低レベル冒険者だとしか認識していなかったガリオの警戒レベルを上げたのだった。
無言のままの黒マントたちを見ても、ガリオは落胆しなかった。もとより時間を稼ぐのが目的で、まともな答えが返ってくるとは思っていなかったからだ。
その間にガリオは、状況をすばやく整理する。
(もうすぐ暗くなる時間。人気のない場所。そして契約精霊も召喚せずに、目立たない行動……奴らは徹底して隠密行動をしている。つまり、俺はなんとかここを突破して、人通りの多いところに逃げきれればいいのか)
当面の目的がはっきりしたガリオは、少しだけ気分が軽くなった。
そして、前方の黒マントたちのほうに『虹切』の切っ先を向けて、ハッキリと宣言した。
「ひとつ、お相手願おう」
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