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第91話 凱旋パレード⑤「突然の別れ」

 すぐ真横(まよこ)から向けられた殺気(さっき)に、ガリオは驚きのあまり体が硬直(こうちょく)した。

 ガリオとティフォーネは、いつの間にか6人の屈強(くっきょう)な兵士たちに囲まれていたのだ。


 その男性4人と女性2人の兵士たちは、近衛兵と似たような白い(よろい)の上にそれぞれ異なる色の豪華(ごうか)なマントを羽織(はお)っていた。

 そして、それぞれ剣を抜いて切っ先をガリオに向けている。


 ───6軍団の団長たちだ!


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ───あの真ん中の男、どんな悪党(あくとう)か知らないが、これで終わりだな!


 群衆(ぐんしゅう)の中に安心感が広がっていき、再び喧騒(けんそう)が戻ってきた。

 ナイステイト王国軍の6つの軍団の団長といえば、この国でトップクラスの強者揃(つわものぞろ)いだと皆が知っているからだ。


 その軍団長の中でもひと(きわ)大柄な男が、ニヤニヤしながらガリオのほうへ一歩前に進み出る。

 彼は青色のマントを身につけていた。


「おいおい。ケイル殿下がいきなり魔法をぶっ放すから急いで()けつけてみりゃ、なんだか()えねえ冒険者がいるだけじゃないか。一体こいつが何したっていうんですかね、殿下」


 大柄(おおがら)な団長は首だけ後ろに回して、ケイル王子に質問を投げかけた。ただ、ガリオにもしっかり注意を払っているようで、その手に持つ剣はピクリとも動かない。


 ケイル王子はつまらなそうにフンッと鼻息(はないき)を吐くと、剣を(さや)(おさ)める。そして左手をまっすぐに前に突き出し、ガリオたちにその手の平を向けた。


「その銀髪の娘が精霊アルキュオネを召喚(しょうかん)したから、一緒にいる男とともに(ばっ)しようとしただけだ。詳しい事情を聞く必要がある。その二人を()らえよ」


 ケイル王子の命令を聞いて沿道(えんどう)の兵士たちがすぐに動き始めたのを見て、ガリオはどうすべきか(まよ)っていた。

 当初の予定では、ティフォーネが四大精霊(セラフィム)ジャンナにだけ魔法でコンタクトを取るはずだったのだが、それがこんな大騒(おおさわ)ぎになっている。

 体内の魔力が()きかけているティフォーネが、これから下されるであろう(きび)しい処罰(しょばつ)に耐えられるとは思えなかった。


 ガリオは静かにひとつ大きく息を吐く。そして───


「おいおい、お前さん何をするつもりだ?」


 ガリオの異変(いへん)(さっ)した大柄な団長が、ガリオの肩を(つか)もうと手を伸ばす。

 だが、それよりも早く、ほっそりとした腕がガリオの服を引っ張った。


「……いいんですよ、ガリオ様」


 ガリオは驚いて後ろを振り向いたが、彼の服に手を伸ばすティフォーネがどんな表情を浮かべているのか、確認することは出来なかった。

 彼女は下を向いていて、前髪の(かげ)(かく)れて顔がちゃんと見えなかったからだ。

 そして、彼女は団長たちの間をすり抜けて、しっかりとした足取りでテラスの(はじ)まで移動する。


「私の名前はティフォーネ。自分の精霊にもケイル王子や四大精霊(セラフィム)ジャンナの凛々(りり)しいお姿を見せようと、我慢(がまん)できずに精霊を召喚してしまいました。本当に申し訳ありません」


 ティフォーネが深々(ふかぶか)と頭を下げると、まるで美しい芸術品のように、(なぞ)人型精霊(ひとがたせいれい)と同じ長い銀髪がサラサラと下に流れ落ちた。

 そして彼女は、ガリオのほうを指差(ゆびさ)す。


「あの人は、私をこの王都まで案内してくれたただの冒険者です。悪いのは全部私なので、どうかあの人を許してもらえませんか───」


 (けわ)しい表情をしているケイル王子に、ティフォーネはまっすぐに視線(しせん)を合わせる。


「───ケイル()


 ケイル王子の片方の(まゆ)がピクリと上がる。そして彼は、目を閉じてゆっくり息を吸い込んだ。


「いや、駄目(だめ)───」

「やあやあ、そこにいるのはガリオ君じゃないかッ!」


 場違いに明るく(はず)んだ声がこの一帯に(ひび)いた。

 ケイル王子の乗った馬車の後方から、一人の兵士が手を振りながらテラスのほうへ駆け寄ってくる。


「……ルシア」


 ガリオたちを取り囲んだ団長の中で、橙色(だいだいいろ)のマントを着た赤い髪の女性団長が、左手で頭を(かか)えてため息をついていた。

 ルシア隊長も彼女と同じ色のマントを羽織っており、全員から注目されているのも気にならない様子で、沿道(えんどう)からガリオたちのいるテラスの上へ一気にジャンプする。


「ケイル王子。彼はガリオ君といって、私の大切な友人なんですよ。彼が悪い人間でないことは、このローグライト子爵(ししゃく)ルシアが保証(ほしょう)します」


 テラスの下では、付き人のジョシュアがハラハラした様子でルシア隊長とケイル王子を見比(みくら)べていた。

 ルシア隊長の言葉を聞いて、大柄な団長がピューッと口笛(くちぶえ)を鳴らす。


「あの『戦闘卿(せんとうきょう)』に友人がいたとは、『始祖精霊様(しそせいれいさま)奇跡(きせき)』でも起きたか。こいつはそんなに強いのか? ルシアよ」


 剣を収めた大柄な団長がガリオの肩をバンバンと(たた)く。

 ルシア隊長はニヤリと笑みを浮かべて、右足を後ろに下げて半分だけ後ろを振り返る。


「第4軍団長、ご無沙汰(ぶさた)しています。そこのガリオ君は、私とまともに剣を打ち合える貴重(きちょう)な友人で、ローグライト家の大事なお客なんですよ」

「がっはっは。それはすごいな! ガリオと言ったか。今度第4軍団の本陣(ほんじん)に遊びに来い。(わし)とも手合わせしてくれよ」


 大柄な団長は大きな笑い声を上げながら、ガリオの肩を力強く叩いていた。

 そのあまりの力強さに、ガリオも痛みで顔を(ゆが)める。


「え、ええ。分かりました」


 目の前で()り広げられる場違いなやり取りに、ケイル王子はチッと舌打ちを()らすと、テラスの下で戸惑(とまど)っている兵士たちに、(あらた)めて命令を下す。


「その娘だけを拘束(こうそく)し、城に連行(れんこう)しろ」


 そしてケイル王子は側近(そっきん)近衛兵(このえへい)にも小さく指示を出すと、音楽隊の指揮者のほうを向いて大きく(うなず)いた。

 それを見た指揮者が、手に持った長い指揮杖(しきじょう)を大きく振ると、メインストリート一帯に再び(はな)やかな音楽が響き始める。


「ティフォーネッ!」


 兵士たちに連行されようとしているティフォーネに、ガリオは思わず声をかけた。

 彼女は首だけ振り返って、ガリオにいつもどおりの明るい笑顔を向ける。


「今までありがとうございました、ガリオ様。私の問題は、ケイル様と彼の契約精霊に助けてもらおうと思います。ブングラスの町まで気を付けて帰ってくださいね……さようなら」

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