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第90話 凱旋パレード④「6軍団の団長たち」

「やっぱり……」

「ん? どうした」


 フードの下から聞こえたティフォーネのつぶやきに、ガリオは彼女の顔を(のぞ)き込んだ。

 するとティフォーネは、空中に浮かぶ四大精霊(セラフィム)ジャンナを見て深刻(しんこく)な表情をしている。


「……彼女は四大精霊(セラフィム)ジャンナではありません」

「ええッ───!」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 驚いたガリオは思わず大声を出してしまったが、すぐに両手で自分の口を(ふさ)いだ。

 そして周りの様子を確認したが、皆は手を振りながら大声を上げてケイル王子の凱旋(がいせん)パレードのほうに注目しているため、誰もガリオを見ていなかった。

 ホッと安堵(あんど)したガリオは、ティフォーネのほうへ顔を寄せる。


「……それは本当なのか?」

「はい。彼女は───」


 彼女が何かを言いかけたときに、凱旋パレードの隊列(たいれつ)が突然(みだ)れ、ケイル王子の馬車の周りに近衛兵(このえへい)たちがバラバラと集まり始めた。

 彼らは建物の屋根の1点を見つめて、長い(やり)を構えている。


「アルちゃんッ! どうしてッ!」

「な、なにッ!」


 ティフォーネが屋根のほうを見上げ、両手で口を(おお)って悲痛(ひつう)な声を上げる。

 近衛兵たちが槍の穂先(ほさき)を向ける屋根の上には、尾羽(おばね)の長い1匹の真っ白な小鳥が止まっていた。

 ティフォーネとともに人間界に実体化(じったいか)してしまった、アルキュオネである。


「誰の精霊かッ! 無礼者(ぶれいもの)がッ!」


 近衛兵の中の責任者らしき男が、アルキュオネに向けて精霊魔法を()とうとしていた。

 彼の持つ槍の先には、人の頭よりも大きな火球(かきゅう)(まぶ)しい光を放っている。しかし───


「───およしなさい」


 風の四大精霊(セラフィム)ジャンナの姿に偽装(ぎそう)する(なぞ)人型精霊(ひとがたせいれい)の右手がほのかに光ると、近衛兵の男が今にも放とうとしていた火球が、フッと空中に()き消えた。

 ザワザワと群衆(ぐんしゅう)が騒ぎ始めるなか、その謎の人型精霊は、光の消えた右手を今度はアルキュオネに向ける。


「来なさい」


 謎の人型精霊の行為(こうい)を見て、ケイル王子たちの馬車の周囲にいる近衛兵たちは動揺(どうよう)(かく)せなかったが、彼らはその精霊を地上最強(ちじょうさいきょう)の精霊である風の四大精霊(セラフィム)ジャンナだと信じているので、彼女の決定に反対する者はいなかった。


 アルキュオネは屋根の上から羽ばたくと、ゆっくりと謎の人型精霊のほうにパタパタと近づいていった。

 そして、群衆や近衛兵たち全員の視線(しせん)が集まるなか、彼女の右手の上に何事(なにごと)もなく白い鳥の精霊が止まると、この一帯(いったい)にホッとしたような空気が流れる。


 次の瞬間───ガリオの体を強烈(きょうれつ)悪寒(おかん)(おそ)った。


 ガリオは(あわ)てて周りを見渡すと、謎の人型精霊が(うす)いベール()しに自分のほうを見ているのが分かった。

 それと同時に、彼は護衛対象(ごえいたいしょう)であるティフォーネの前に出ると、不測(ふそく)事態(じたい)に備えて少し腰を落として身構(みがま)える。


 そんなガリオの様子を後ろから見ていたティフォーネは、おもむろにフードを取り去り、顔をあらわにした。

 謎の人型精霊の髪と同じく銀色の長い髪が、サラサラと風に揺れる。そして彼女の(あか)い大きな瞳がケイル王子たちを(とら)えた。


「───ッ!」


 謎の人型精霊の異変(いへん)に気付いたケイル王子が、ガリオたちがいるカフェのほうに目を向けると、これまで(さわ)やかな笑顔を浮かべていた彼の表情が一変(いっぺん)した。


 最悪の魔物コエ=ガスとの激闘(げきとう)が終わってから、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと探していた顔がそこにあったからだ。


 しかし、そんな彼女の目の前に、見ず知らずの男が立ちふさがっているのを見て、彼の頭の中は怒りに染まった。


「ジャンナアアアアアアアアア!」


 彼は愛剣(あいけん)(さや)から一気に抜くと、すぐにその剣の周りを白い風の(うず)が包み込む。

 そして、次第に(かがや)きを増すその剣を、ケイル王子はガリオ目がけて勢いよく()り下ろした。


 ゴオオオオオオオオオ!


 轟音(ごうおん)をたてて白い奔流(ほんりゅう)が、一気にガリオに(おそ)い掛かる。

 あまりの一瞬の出来事に、周りの兵士たちもケイル王子を止める(ひま)がなかった。


 ガシャアアアアアアアアア!


 ───キャアアアアアアアアア!


 白い奔流の余波(よは)で、ガリオたちの周辺にあったテーブルや椅子(いす)などが吹き飛ぶ。

 近くにいた群衆たちも、大きな悲鳴(ひめい)を上げながら逃げ(まど)っていた。そんな中───


「うおおおおおおおおお!」


 (おそ)い掛かってくる白い破壊(はかい)の波の中心に、ガリオは立っていた。

 背後(はいご)にいるティフォーネを守るために、両手でしっかりと『虹切(にじきり)』を構えて、破壊の波を真っ二つに切り()いていた。


 奔流の一部がガリオの体を傷つけていくが、彼は歯を食いしばってその場に()(とど)まっている。

 ガリオに守られているティフォーネは、風になびく長い銀髪をそのままに、逃げることなくケイル王子にまっすぐな視線を向けていた。


 そして次第(しだい)に白い奔流は細くなっていき、やがて消えてしまった。

 めちゃくちゃになった店内の中心に立つガリオだったが、(さいわ)重症(じゅうしょう)といえるような大きな傷はないものの、全身傷だらけの痛々(いたいた)しい姿になっていた。


 群衆が固唾(かたず)を飲んでガリオたちを見守る中、一瞬の静寂(せいじゃく)がこの一帯(いったい)を包み込む。

 少しだけ息をついたガリオは、ティフォーネの無事を確認しようと後ろを振り返ろうとしたが───


「おっと、動くなよ」

「───ッ!?」


 すぐ真横(まよこ)から向けられた殺気(さっき)に、ガリオは驚きのあまり体が硬直(こうちょく)した。

 ガリオとティフォーネは、いつの間にか6人の屈強(くっきょう)な兵士たちに囲まれていたのだ。


 その男性4人と女性2人の兵士たちは、近衛兵と似たような白い(よろい)の上にそれぞれ異なる色の豪華(ごうか)なマントを羽織(はお)っていた。

 そして、それぞれ剣を抜いて切っ先をガリオに向けている。


 ───6軍団の団長たちだ!

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