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第89話 凱旋パレード③「ケイル王子と風の四大精霊」

「ティフォーネ、しっかりしてるな……」

「宝石はまだまだたくさん残っていたので、私が持ってきたことは気付かれないと思いますよ」

「……」


 ガリオたちの馬車は特にトラブルもなく、城塞都市オルソを出発してから3日後には、王都ナイステイトに到着(とうちゃく)したのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 西の王国の王都ナイステイトは通称『風の(みやこ)』といわれ、中央山脈(ちゅうおうさんみゃく)からいつも強い風が吹き下ろしている。

 そのため、中央山脈を源流(げんりゅう)とするマジュリート川の周辺に広がるこの王都には、大小様々(さまざま)な風車が数多く設置されており、大昔から人々の生活を(ゆた)かにしてきた。


 そして、この王都が『風の都』と(うた)われる所以(ゆえん)がもうひとつ存在する。

 それは、ナイステイト王国の歴史の中で、初代ナイステイト国王をはじめとする歴代(れきだい)の国王のうち数名が、風の四大精霊(セラフィム)を契約精霊としていたことである。

 国のトップに立つ人物が、精霊界で最も位階(いかい)が高い四大精霊(セラフィム)とこれほど数多く契約している国は、世界中を見ても他にない。


 そんな王都ナイステイトは今、空前(くうぜん)の盛り上がりを見せていた。

 国王がいる王宮から公式な発表があり、今日ケイル王子が最悪の魔物(まもの)コエ=ガス討伐遠征(とうばつえんせい)から帰還(きかん)し、王都外周部(おうとがいしゅうぶ)から王城に向かうメインストリートで凱旋(がいせん)パレードを行うというのである。


 そのメインストリートは、勇者ケイル王子と契約精霊である風の四大精霊(セラフィム)ジャンナの姿を一目見ようと、大勢の人たちで()め尽くされていた。

 沿道(えんどう)の人々は手に風車をモチーフにした小さな国旗(こっき)やおもちゃの風車を持ち、ケイル王子たちを今か今かと待っていた。


「精霊の召喚(しょうかん)及び魔法の使用を禁止するッ! 違反(いはん)した者は厳罰(げんばつ)(しょ)すッ! いいか、精霊の召喚及び魔法の使用は禁止だッ!」


 道の両脇(りょうわき)警備(けいび)している兵士たちが、群衆(ぐんしゅう)に向かって繰り返し注意を行っていた。

 道沿いの兵士のほかにも、上空には飛竜(ワイバーン)に乗った竜騎兵(りゅうきへい)編隊(へんたい)を組んで飛行しており、地上の様子を監視(かんし)している。


「す、すごい数の人たちだ。国中の人が集まってるんじゃないか。この席を確保(かくほ)して正解だったな」

「ありがとうございます。ガリオ様の判断は正解でしたね」


 大きな交差点のそばにあるカフェのテラス席に、ガリオとティフォーネの姿があった。

 このテラス席を用意したのは、ガリオが彼女の体調をおもんぱかってのことだった。

 昨日ティフォーネと下見をしたとき、この道沿いを大勢の人達が歩いていたため、彼は(いや)な予感がしたのである。

 そして、パレードを見るにはちょうどいい場所にあったカフェの店長に結構(けっこう)なお金を渡して、この席を確保することができた。


 そのおかげで椅子に座ったままでも、群衆がいる道から一段高く作られているこのテラス席からは、道の反対側までよく見通すことができた。


 ───ワァァァァァァ! ワァァァァァァ!

 ───勇者ケイル! 勇者ケイル!


 遠くの街の入口の方向から、人々の大きな歓声(かんせい)がガリオたちのところまで(ひび)いてきた。

 ケイル王子が率いる討伐軍(とうばつぐん)が王都に到着し、凱旋パレードが始まったようだ。


「いよいよだな。準備はいいか?」

「はい。風の四大精霊(セラフィム)ジャンナにだけ分かるように魔法の風を送ります。多分、ジャンナからリアクションがあると思うので、何かあったらガリオ様、お願いします」

「ああ。任せろ」


 力強く(うなず)くガリオを見て、ティフォーネはホッとしたように小さく笑った。

 彼女は、何故(なぜ)かスッポリと頭を(かく)せるほどのローブに身を包んでいる。

 そんな彼女の笑顔にガリオは静かに気合いを入れ直すと、何か起きてもすぐ動けるように少し体を緊張(きんちょう)させた。


 ───ワァァァァァァ! ワァァァァァァ!


 しばらくすると、ガリオたちの視界(しかい)の中に凱旋パレードの隊列(たいれつ)が入ってきた。

 隊列の先頭集団は、この国の兵士たちによる音楽隊だった。太鼓(たいこ)やラッパを吹き鳴らし、(はな)やかな音楽でこの凱旋パレードを大いに()り上げている。


 音楽隊に続いて、白を基調(きちょう)とした(きら)びやかな(よろい)に身を包んだ王宮の近衛兵(このえへい)の集団が、身長の2倍ほどもある長槍(ながやり)を持って行進(こうしん)していた。


 ───ワァァァァァァ! ワァァァァァァ!

 ───勇者ケイル! 勇者ケイル!


 この辺りの群衆の歓声(かんせい)が、より一層高まった。

 2頭の白馬に引かれた馬車に乗り、凱旋パレードの主役であるケイル王子が姿を見せたのである。


 ケイル王子はキラキラと輝く銀色の甲冑(かっちゅう)と、金色の豪華(ごうか)刺繍(ししゅう)が施された真紅(しんく)のマントに身を包み、(さわ)やかな笑顔を沿道の群衆に振りまいている。そして───


 ───四大精霊(セラフィム)ジャンナ! 四大精霊(セラフィム)ジャンナ!


 ケイル王子の後ろ姿を見下ろすように、真っ白なドレス姿の風の四大精霊(セラフィム)ジャンナが空中に浮かんでいた。

 彼女の周りには、腰まで届くような長い銀色の髪と幾重(いくえ)もの羽衣(はごろも)がゆらゆらと優雅(ゆうが)に風に(ただよ)っており、そんな幻想的(げんそうてき)な光景が、ジャンナが人型の精霊であることを証明(しょうめい)していた。

 しかし、彼女は(うす)いベールで顔全体を(おお)っているため、どんな表情をしているのかうかがい知ることはできない。


「彼女が風の四大精霊(セラフィム)ジャンナか……」


 ケイル王子たちの馬車からまだ離れているにも関わらず、ガリオは四大精霊(セラフィム)ジャンナの体からあふれ出す精霊界最高位(さいこうい)の精霊たる圧倒的(あっとうてき)威圧感(いあつかん)に、全身がブルブルと(ふる)えていた。

 彼は精霊アレルギーの症状(しょうじょう)が出かかっており、歯を食いしばって遠くなりそうになる意識を必死に(つな)ぎ止めている。


 (さいわ)い、周りにいる人たちはケイル王子たちのほうに集中しているので、ガリオの様子が少しおかしいことに誰も気づいていなかった。


「やっぱり……」

「ん? どうした」


 フードの下から聞こえたティフォーネのつぶやきに、ガリオは彼女の顔を(のぞ)き込んだ。

 するとティフォーネは、空中に浮かぶ四大精霊(セラフィム)ジャンナを見て深刻(しんこく)な表情をしている。


「……彼女は四大精霊(セラフィム)ジャンナではありません」

「ええッ───!」

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